A Study on the Asia Business
研究グループ代表者
木下 和也(KINOSHITA KAZUYA)流通科学部・教授
共同研究者
甲斐 諭(KAI SATOSHI)流通科学部・教授
片山 富弘(KATAYAMA TOMIHIRO)流通科学部・教授
浅岡 由美(ASAOKA YUMI)流通科学部・教授
山田 啓一(YAMADA KEIICHI)流通科学部・教授
吉川 卓也(KIKKAWA TAKUYA)流通科学部・准教授
前田 卓男(MAEDA TAKAO)流通科学部・准教授
朴 晟材(PAK SUNGJAE)流通科学部・准教授
徐 涛(XU TAO)流通科学部・准教授
後藤 恵美(GOTO EMI)流通科学部・准教授
中村 芳生(NAKAMURA YOSHIO)流通科学部・准教授
研究成果の概要
日本を起点に、アジアでのビジネスに関してそれぞれの視点から調査研究を行い、全体としてアジアビジネスの現状 を把握し整理するに至った。プロジェクトチームに所属する流通科学部教員は、それぞれの専門分野において各論とし てのアジアビジネス研究を行いながら学会等で発表し、さらには学内においてチームメンバーによる研究会を開催し活 発な意見交換を行った。また、2 年間のまとめとして、統一した論題を設定して流通科学研究へ投稿した。下記に示す 具体的な研究成果は、流通科学研究に統一論題である「アジアビジネス研究」として発表されたものである。これらの 活動を通じて、プロジェクトとしての当初の目的は達成されている。
研究分野:流通、物流、マーケティング、経営、貿易、商品開発、国際経営、経済
キーワード:⑴ 対日関係 ⑵ 東アジア ⑶ 東南アジア ⑷ オフショア ⑸ 相互依存 ⑹ アジア共同体構想 ⑺ 商品開発とビジネス ⑻ 貿易と自由化 ⑼ 人的交流
1.研究開始当初の背景
グローバリゼーションの進展とともにわが国経済、と りわけビジネスの世界では、成熟した欧米諸国から急成 長を続ける東アジア・東南アジア地域へと活動の中心を 転換する動きが進んでいる。中村学園大学流通科学部で は、平成 25 年度より、こうした動きに呼応してアジア ビジネスコースを含む新コース制を採用するべく準備を 進める状況にあった。
2.研究目的
本プロジェクトでは、総論としてアジアビジネスを進 めるうえでの全体としての課題と解決策およびさらに各 論として各分野におけるバックグラウンドを含めたビジ
ネス上の諸問題とその解決策について研究を行い、その 研究成果を、世に問うことを目的とする。
3.研究実施計画・方法
(1年目)アジアビジネスの本質とポイントを掴むため に、予備研究・予備調査を中心に研究を行う。研究方法 は予備研究においては文献調査による先行研究および理 論研究を進め、現地実態調査である予備調査を行うに当 たっての理論的枠組みおよび仮説・モデルの設定と、予 備調査の準備を進める。総論の枠組みが固まった後、各 論についても同様の手順で研究を行う。全体としての整 合性を保つために、年に2~3回研究会を行う。予備研 究および予備調査の成果は、流通科学部で発行する「流 通科学研究」および学会報告、学会論文誌等への投稿を
プロジェクト研究 研究成果報告書 第4号
行うほか、中間報告書として期末にまとめを行う。
(2年目)予備研究・予備調査によって明らかにされた 主要な問題について、本研究・本調査を実施する。文献 調査による先行研究と理論研究をさらに進め、本研究に おける総論のフレームワークと諸問題の明確化を行い、
各論における主要課題の論究を進める。全体としての整 合性を確認するために、定期的な研究会・打ち合わせを 行うとともに、研究成果の報告、論文の執筆、学会での 報告、学会誌への投稿等を行う。これらの活動の成果を、
流通科学研究等で発表するとともに、最終報告書をまと めてできれば出版につなげるようにする。
4.研究成果
前述の研究成果の概要で説明したように、総論として のアジアビジネス研究の中で得られた専門的視点からの 各論を以下に示す。
(1)相対的リスク回避度による中国家計の金融資産 選択行動の分析:2004 年- 2011 年
中国家計の相対的リスク回避度を計測して、中国家計 の近年の金融資産選択行動の変化を分析した結果、現状 では金融資産の選択肢が狭いので、安全資産である銀行 預金の収益率と、リスク資産である株式の収益率の影響 を強く反映したものになっていた。しかし、中国では金 融資産の多様化をもたらす動きが進んできており、直接 的、間接的に相対的リスク回避度を変化させる新たな要 因となることが考えられる。とくに、保険・年金や理財 商品は金融資産選択行動を多様化させるとともに、安全 資産、リスク資産(収益性の高い資産)以外の特性を備 えた新たな金融資産として、中国家計の金融資産選択行 動を変化させると考えられる。(吉川卓也)
(2)地域資源を活用した商品開発における大学の役割 本研究は、世界的規模での流通の巨大化・複雑化や輸 入の増加など我が国の農林水産業に多大な影響を与える 食品流通の変化に対し、現在は規格外・余剰等を理由に 有効活用されていない農林水産物に加工等を加え “ 商品 化 ” することで保存性・輸送性や付加価値を高めること ができるのではないかという考えのもと、リサーチ力や 企画力、技術や資金等の面で十分とは言い難い農林水産 業従事者や協同組合等がいかにして商品開発に取り組む べきかについて、特に「大学の役割」という視点から考 察を行ったものである。(後藤恵美)
(3)韓国の農産物輸出戦略と日本への示唆
研究の目的は韓国の輸出戦略が日本に与える示唆を得 ることである。研究方法として輸出支援体制の中心的な 役割を担う農水産食品流通公社、韓国農産物の輸出統一
ブランドである「フィモリ」について調査を実施した。
研究結果は次の通りである。第1は統一ブランド策定の 重要性である。①フィモリにみられるように栽培マニュ アルの策定、②トレーサビリティ・システムへの対応が 不可欠である。第2は現地化推進の重要性である。①日 本、中国、米国などで現地語による情報提供を行ってい る。② AgraFood のような輸出情報提供が重要である。
(甲斐諭)
(4)フィリピンマニラ首都圏カロオカン市における BOP層の生活実態に関する現地調査結果について 日本企業の東南アジア進出の動きが活発になってきて いるが、東南アジアを市場としてみた場合、総人口約 6 億人の 80%すなわち約 4.8 億人がいわゆる BOP(Base of Economic Pyramid)すなわち貧困層に属している。
日本企業がこの BOP 層を市場ターゲットとする場合に はこの層に属する人々の生活実態およびニーズとウォン ツを掴む必要がある。本研究では、そのための実態調査 をフィリピンのマニラ首都圏カロオカン市で実施した結 果を報告した。(山田啓一)
(5)中国の食品関連産業の現状と将来―生産、流通及 び法整備の諸問題に関する考察
近年、急速な経済成長、都市化の進行及び都市形態の 変化は、中国の食品関連産業が急速に発展する要因と なっている。農産物の生産では、飛躍的な増産を実現し たものが多く、国民の食生活が豊かになっている。食料 品のサプライチェーンにおける消費構造の合理化とレベ ル・アップを図るために、標準化・情報化・追跡可能な 農産物市場流通システムが必要である。他方、食料品の 国際貿易は、成長を続けたものの、貿易赤字は常態化と なり、徐々に拡大する傾向にある。また、食品工業にお ける生産・加工分野も大きな発展を遂げている同時に、
様々な課題が現れている。なお近年一連の食品安全事件 の発生により、食の流通に関する行政改革・新法規制定 への期待がさらに高まっている。(徐涛)
(6)日系美容室で働く中国人美容師のコミットメント に関する事例研究
本研究では、中国に進出した日系美容室を対象に、そ こで働く現地スタッフの課題や問題点について、どのよ うな特徴があるのかを探索的に明らかにすることを目的 として、日系美容室のマネジャーにインタビュー調査を 行った。
その結果、以下の示唆が得られた。①中国の美容師は 情緒的要因による組織コミットメントが低い傾向にある のではないだろうか。②功利的要因、特に経済的要因が 組織コミットメントを高めている傾向にあるのではない だろうか。③日本の美容師との比較では、プロフェッショ
ナル・コミットメントの意識は低いのではないだろうか。
(前田卓雄)
(7)イスラム市場開拓のキーワード:ハラル
日本企業の未開拓市場として、今後、イスラム圏が注 目されよう。その場合、イスラム・ビジネスの要諦とし て、ハラル(シャリア=イスラム法に基づき許されるも のまたは行為)の理解は不可欠となる。イスラム圏諸国 には、食品や身の回り製品を中心に当該製品がハラルか 否かを自国民が判断できるようハラル製品を認証する制 度がある。
東南アジアのイスラム圏として、マレーシアとインド ネシアを取り上げ、両国におけるハラル認証の概要、並 びに日本企業の最近の対応等をとりまとめて紹介し、最 後にハラル認証に対する中小企業への提言を行った。(中 村芳生)
(8)理論と実践を伴ったマーケティングにおける地域 研究
①マーケットセグメンテーションにおける差異を考える マーケテイングにおけるマーケットセグメンテー ションに関する差異について論じた。事例として、商 品としての特徴があまりみられないマンゴー、ゴーヤ、
ミネラルウオーターの 3 つを取り上げながら、差異 の概念からの考察を試みていくとともに、マーケテイ ング戦略へのインサイトを論じている。マーケットセ グメンテーションは消費者の認識的差異であり、空間 的差異である。それに対応したマーケテイング戦略が 望まれる。
②ミネラルウオーターにおける脱コモデイテイ戦略 ミネラルウオーターといった大きな差異のない類似 性の高い商品では、差異の観点から、認識的差異と空 間的差異がみられることがわかった。美ウオーターに おける脱コモデイテイ化の方向として、感性的価値の 強化とサブカテゴリーの創造に向けての 2 つのマー ケテイング展開が考えられる。
③マーケテイング診断の再検討
マーケテイング診断の先行研究を顧みて、また、ド メインの先行研究を論じた上で、佐賀県小川島の事例 を取り上げ、ドメイン診断への提案を論じている。ド メインの位置付け、構造化、ドメインの諸相について 述べている。
④マーケテイング・ミックスの正体を探る
マーケテイング・ミックスの先行研究や事例を通じ て、考察を行い、マーケテイング・ミックスの正体に ついて論じている。マーケテイング・ミックスはバ リュー・プロポジション(価値提案)であると結論付 けている。
⑤沖縄県農産物のブランド化への考察~マンゴーとゴー
ヤを対象に~
沖縄県産のマンゴーとゴーヤに関するアンケート調 査を通じての分析を実施し、マーケテイング戦略への インサイトとして、消費者行動の視点と脱コモデイテ イからの視点から考察を行っている。因子分析結果か らのセグメントに対応したマーケテイング戦略がブラ ンド化には望まれる。(片山富弘)
(9)日本のソフトウェア産業におけるオフショア開発 の現状と問題点について
日本のソフトウェア産業は受託開発が多く、IT ゼネ コンといわれる大手元請け企業を頂点とする多重的下請 け構造である。下請け SIer は元請けと比較して低い人 件費によって開発を行っている現状にある。ところが近 年、元請け企業は安価な人件費と人材確保を目的に、中 国を中心とした海外オフショア開発を進めてきており、
結果として中国のオフフォア開発が日本のソフトウェア 開発の多重的下請け構造による人材確保を補完してい る。さらに最近になり、日本企業は単なる安価な人材と してではなく新たな市場でのビジネス展開やより優秀な 人材確保を求めており、委託ソフトウェア開発の構造そ のものが転換期にあることを指摘し整理した。(木下和 也)
(10)東アジア地域におけるロジスティクスの展開 本研究は、急速に構築が進められてきた東アジア地域 におけるロジスティクス・システムの具体的結合の状況 とその構成要因を理論的かつ実証的に解明したうえで、
既存のロジスティクス・システムの限界を導出し、日本 企業を含む東アジア地域内の企業間で展開されるサプラ イチェーン・マネジメントの最適化を達成するために必 要なロジスティクス・システムの構築プロセスモデルを 組み立てようとするものである。なお、プロジェクト研 究期間中に行ったインドネシアとマレーシアでの現地調 査の結果を中心に、研究背景となる同地域のロジスティ クス展開状況を研究ノートとしてまとめた。(朴晟材)
(11)外食産業のアジア展開におけるオペレーション・
マネジメント-サービスの特性やマーケティン グ・ミックスからの考察―
外食産業がアジア展開を行う際に直面する課題につい て、サービスの特性とマーケティング・ミックスの視点 から探索し、その対応について考察を行った。インタ ビュー調査によれば、概ね、柔軟に現地適応を行うこと で課題を解決していたが、経済成長に伴い、店舗と人材 確保に苦慮する姿が見られた。また、展開の時期が後発 となると適応の度合いが低下すること、日本国内とは異 なるフォーマットで営業する企業が見られ、それらでは 高級化を志向している知見を得た。(浅岡柚美(由美))