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② 情報の加工処理

 情報の処理は、何らかの目的に合わせて行われる。その目的(課題状況〉が、短期記憶での情報の 処理を規定する。まず、感覚情報貯蔵庫にとどめられた情報の中から、課題の目的に必要な情報だけ が抽出され、それに対してのみ符号が割り付けられる。また、長期記憶に貯蔵されている知識のうち、

課題の解決に関連するものが活性化されて、符号化に使われる準備段階に入る。

 この情報の加工処理も、容量が制限された中でおこなわれなければならない。この容量をはみでる 処理が必要な場合は、紙に書いたり、口に出したりといった外在化によって、この制約を克服するこ

とになる。

③長期記憶貯蔵庫

 ここには、短期記憶で処理された情報ぶ、知識として長期曲に貯蔵される。ただし、倉庫にしまっ ておくのとは異なり、貯蔵されている知識の構造は絶えず変容する。その変容は、短期記憶で、どの

ような符号化がおかなわれるかによって決まる。符号化によって、入力された情報と既にある知識、

あるいは既にある知識どうしの薪しい関係が構築されるからである。

 以上3つの情報処理の箱での処理を、短期記憶を通して全体としてコントロール しているのが、管理系である。この管理系には、2つの機能がある。1つは、メタ 認知、すなわち認知過程を認知するという機能である。もう1つは、注意資源の配 分機能である。たとえば、処理の難しい課題が与えられれば、注意資源をたくさん 配分して、処理効率を高めるといったことがなされる。

 なお、この管理系は、感情系と密接に連携している。恐怖や不安によって、情報 処理の効率や質が左右されるのは、こうした経路を経ると考えられている。

2.利用者の不安

 人間の情報処理において、管理系が感情系と密接に連携していることを紹介した。

「密接な連携」には、管理系を通しての短期討憶での処理を促進するというプラスの 意味と、逆に阻害するというマイナスの意味との2つがある。そして感情系と情報 処理系との問には、感情系の働きが強すぎても弱すぎても、情報処理系での処理は

阻害されるという関係がある。

 この最適レベルは、課題の難しさによっても異なることが知られている。感情系 の働きが強すぎると、いわゆる認知パニックが発生する。また、感情系の働きが弱 すぎたときの認知系の働きは、一般的な処理効果の低下をもたらす。例えば動機づ けの不足した事態での勉強などである。

 こうした認知系と感情系との一般的な背景を踏まえて、利用者の美術館の手だて 利用と作品理解ということとの関係について考えてみる。

 美術館で絵をみる場面において「わからない」ことへの不安、つまり認知不安が あるとする。この認知不安は、絵画が包有する情報の不明確さ、たえず変化してい

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る美術そのものの不確立性などに由来し、とりわけ知識をあまりもたない利用者に とっては、新奇さ、複雑さは格別であるだけに、強い認知不安にさらされることに

なる。

 塚本25)によると、現在の美衛界の盛i況を支えているのは一市民であるにもかかわ らず、美術とのつきあいは、未だよそよそしい関係ではないだろうかとの現状把握 をしており、その原因として後述するような認知不安の具体的ケースをいくつかあ

げている。

①ピカソのキュビズムの作品など常識から食い違ったと思われる作品に対し、美術の専門家(作 家・評論家・美術史学家〉は賞賛するが、どこがいいのかわからず、よさがわかちないのは自分の美 術に対する無知、無能のせいだと思う。

②抽象作晶に対し、画函に表されている形が具体的な物と結びつかないため、物理的な事実をその まま口にしたようなことしか言えず、感想もまとめられないどいデみじめ な思いをする。

③ クールベの「画家のアトリエ」のように、何が描かれているかわかり、すぐれた技術で描かれて いているが、実際にはありえない状況の作品に対し、何か意味があるのだろうとは思ってみても、意 味がつかめないか、つかんだと思っても確信がもてない。

④天井から吊された一枚のシーツ、壁土の中を人間が転げ回るなど「癸籍とは絵画や彫刻のような ものだ」との考え方からはなれた作晶に対し、物心ついた時から、美衛といえば絵画や彫刻のような ものとして受け止めてきているので、どうしても納得できない。

 認知不安が引き起こされる結果として、利用者のとる4つの反応を美術館の利用 者にあてはめると次のことが考えられる。

①攻撃一わからない状況を発生させた原因に対して攻撃をする。例えば、美衛館や その設立機関に苦情を行ったり、新聞などに悪評を投書する。

②状況志向一一不安を発生させている状況に目を向けて、わからない原因をさぐろう とする。例えば、人に尋ねたり、入門書を読んだりといろいろ試行錯誤する。

③認知志向一わからないのは自分の頭がわるいからと考えてしまう。例えば、そう いうものだとあきらめてしまう。

④逃避一わからない状況からにげてしまう。例えば美術館に足を運ばなくなる。

いずれの反応をとるかは、不安の内容や強さ、その人の人格、そのときの状況、国 民性などによって異なるとされている。しかし、利用者主体の美術館を掻指すとい う観点からみた場合、特に③・④をとる利用者への配慮が必要である。また日本に おいては多数をしめているようにも考えられる。

 それでは1利用者の不安を適度なレベルに保つためにはどのような配慮が考えら れるであろうか。

①不安をコントロールする情報を表示する。

・高すぎる不安を下げる「ここは難しい」「ここはとりあえず見ておくだけ」など

・低すぎる不安を高める「こんなにおもしろい」「がんばって挑戦しよう」

②美術館での取り組みを解説する

・利用者がすることの意味をはっきりさせる

・とくに大切なものを強調する。

③知識のないことに対する不安をとりのぞく

・美術的知識がなくても同等に参加できることを実感させる。

3.問題解決過程としての認知過程

 次に人がどのような問題をどのような方法で解決しているのかとの視点から考え

ていく。

 目標とする状態と現在の状態(初期状態〉とのギャップが「問題:」であり、現在の状態に対して 何らかの操作を施すことによってそのギャップを埋め、目標と同じ状態を得る過程が聞題解決である

とする。一回の操作で目標状態に達するような問題は少なく、多くは目標一手段分析(羅eans−ends analysis)により、問題を下位問題に分解し、個々の下位問題を順次解決していくことによって全体の 画題を解決する。例えば、空腹を解決するための下位問題として「パンを入手する」が目標となり、

さらにヂパン屋さんに行く」「パンを買う」という下位問題へと分解されていく。この枠組みにより、

人の認知過程を「問題をどうとらえたか」と「どんな操作をどの順に実行して問題を解決したか」と いう形で記述することができる。

 これにより、「絵をみる」上の認知的トラブル(利用者が感じる理解不能、利用者

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がみせる絵との接し方における戸惑い〉を分析し、美衛館の事業が利用者に差し出 すシステムの認知的適合性を評価・改善することが可能になる。

 そして、問題解決の枠組みからみた認知的トラブルの原因として、次が考えられ

る。

 利用者が理解した問題状況が美衛館側の状況、もしくは直示の企画者が想定して いる問題状況と一致していない場合である。この場合、農示作品の及ぼす効果が利 用者の予測と異なるといったコミュニケーション上の問題が生じる。

 また、利用者がもっている解決方法のレパートリーにかかわるトラブルが挙げら れる。例えば現代美術における作品などは、もし本物とそっくりに描くことがいい 絵だと教育された経験のある人にとっては、存在しなかった美術のレパートリーで ある。現代を生きている我々にとって、芸術の在り方そのもの変化を知っていく権 利もあり、美術館がそれを伝えていく使命があるとしたら、そのような今までレパ ートリーになかった作品に対する解決方法を新しく提供する場合も多くあるといえ る。このため、美術館としてはその新しい解決方法をいかにして利用者のレパート リーに加えるかが一つの課題となる。

 また、美術館の働きかけに乗るために問題を解決するのではなくて、問題を解決 するための手段として美術館の働きかけがあることこそのぞましい在り方だと考え

る。

4.わかりたいと願う利用者への具体的手だてを考える

 絵にふくまれる要素は実に多大である。そしてたちまち「わからない」不安にさ らされることにもなろう。そうなると、先に述べた感情系と情報処理系との関連性 からみれば、短期記憶の処理効率が低下してくるため、同じ情報環境であっても、

適度のレベルの不安状況のときとくらべると、処理しなければならない情報がたく さんありすぎるように見える。

 このような状態に陥りやすいのは、主に既存の知識に自信がもてないでいる人に 多いと思われ、そのような人は符号化できにくい、つまり見えにくいと考えられる。

そうなれば、悪循環である。そうならないための手だてを考えていく。

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