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第 6 章 :日本語とペルシア語の「身」を含んだ慣用句の対照

6.3 まとめ

以上、第6章では、日本語の「身」とそれに対応するペルシア語の身体語彙の意味を、

「基本義」と「派生義」の2 種類に分け、それぞれの例を提示しながら考察を行った。

その結果、日本語の「身」が「全身」を指し示すのに対して、ペルシア語では、「ﻥﺪﺑ/badan/

身・体・肉体・身体」(「ﻦﺗ/tan/体・身体」「ﻢﺴﺟ/jesm/体・肉体」「ﻡﺍﺪﻧﺍ/andām/体」「ﻪﺜﺟ/jose/

体・体格」「ﺮﮑﻴﭘ/peykar/体・肉体」「ﺪﺒﻟﺎﮐ/kālbad/身体」「ﻪﻨﺗ/tane/体・身体」「ﺐﻟﺎﻗ/qāleb/肉体」)

は「ﺮﺳ/sar/頭」の頭部を含んでいなかった。つまり、「頭」と「体」が切り離され、考

えられていることになる。また、日本語の「身」が「体」を具体的な対象として捉える 以外に、抽象的な対象としても捉えている一方、ペルシア語においては、人間の体を指 す「ﻥﺪﺑ/badan/身・体・肉体・身体」(「ﻦﺗ/tan/体・身体」「ﻢﺴﺟ/jesm/体・肉体」「ﻡﺍﺪﻧﺍ/andām/

体」「ﻪﺜﺟ/jose/体・体格」「ﺮﮑﻴﭘ/peykar/体・肉体」「ﺪﺒﻟﺎﮐ/kālbad/身体」「ﻪﻨﺗ/tane/体・身体」「ﺐﻟﺎﻗ/qāleb/

肉体」)などといった言葉は、日本語の「身」とは大きく異なっており、身体的かつ肉 体的な意味のみを表し、抽象的な観点から捉えられていないことが明らかとなった。ま た、ペルシア語では、「身」の肉体的な側面と抽象的な側面は区別され、それぞれが独 立的に名づけられていた。ペルシア語において、この「身」の肉体的な側面を表す場合、

「ﻥﺪﺑ/badan/身・体・肉体・身体」(「ﻦﺗ/tan/体・身体」「ﻢﺴﺟ/jesm/体・肉体」「ﻡﺍﺪﻧﺍ/andām/

体」「ﻪﺜﺟ/jose/体・体格」「ﺮﮑﻴﭘ/peykar/体・肉体」「ﺪﺒﻟﺎﮐ/kālbad/身体」「ﻪﻨﺗ/tane/体・身体」「ﺐﻟﺎﻗ/qāleb/

肉体」)が用いられており、そして、抽象的な側面を表す場合は「ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・魂」

という言葉が使用されているが、両言語では基本義はほとんど同義であり、「人または、

動物の体・肉体」を表している。しかし、派生義の場合は両方においては、意味拡張が ほとんど異なっており、対応する場合がごく僅かとなっている。

前章と同様に、次に、両言語の「身」の意味拡張も「両言語における共通の意味拡張」、

「日本語の特有の意味拡張」と「ペルシア語の特有の意味拡張」に分けると次のように なる。

両言語における共通の意味拡張

両言語では、機器や品物の本体部分と人間の体の類似さに注目され、「身」の形など から、メタファーによってそれに類似した「容器の本体」や「衣服の胴」への意味拡張 されている。それぞれの例は次のようである。

「身」から「容器の本体」への例 日本語:身からでた錆

ペルシア語:ﻦﻴﺷﺎﻣ ﮥﻧﺪﺑ/badan-e-ye māšīn/車体

「身」から「衣服の本体」への例

日本語:日本語:本身、四つ身、三つ身、一つ身

ペルシア語:ペルシア語では「ﻥﺪﺑ/badan/身・体・肉体・身体」から「服」への意味拡張は 古典ペルシア語で使用されていたが、現代ペルシア語では使われなくなっているが、「身」

から「ﻥﺪﺑ/badan/身・体・肉体・身体」の同義である「ﻦﺗ/tan/体・身体」への意味拡張が使

用されている。その例は、「ﻪﻨﺗ ﻢﻴﻧ/nīm tane/半身キャミソール」である。

上記の類似さに基づく意味拡張以外の、両言語では「身」や「ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・魂」か ら、隣接性のメトニミーに基づいて「自分」への意味拡張は共通している。例として、

「身」から「自分」への例

日本語:黙っている方が身のためだぞ。

ペルシア語:.ﻦﮐ ﺹﻼﺧ ﺍﺭ ﺖﻧﺎﺟ،ﺮﻴﮕﺑ ﻕﻼﻁ ﺵﺯﺍ/azaš talāq begīr,jān-at rā xalās kon./彼と離婚して、

身を解き放って!

日本語の特有の意味拡張

身体語彙「身」に係る日本語における意味拡張の絶対数は、ペルシア語よりもはるか に多いものとなっている。その中で、次のような意味拡張はペルシア語の「ﻥﺎﺟ/jān/生命・

命・魂」の表現では存在しなく、日本語の特有の意味拡張であると言える。

・身から地位・身分・分際へ

・身から立場へ

・身から身持ちへ

・身から誠心へ

・身から身振りへ

・身から金銭へ

・身から自称へ

・身から対称へ

ペルシア語の特有の意味拡張

ペルシア語では「ﻥﺪﺑ/badan/身・体・肉体・身体」(「ﻦﺗ/tan/体・身体」「ﻢﺴﺟ/jesm/体・肉 体」「ﻡﺍﺪﻧﺍ/andām/体」「ﻪﺜﺟ/jose/体・体格」「ﺮﮑﻴﭘ/peykar/体・肉体」「ﺪﺒﻟﺎﮐ/kālbad/身体」「ﻪﻨﺗ/tane/

体・身体」「ﺐﻟﺎﻗ/qāleb/肉体」)の場合は、意味拡張はわずかで、基本義から「衣服の胴体 を覆う部分」「身丈と容器、機械やものの本体の部分」のみに拡張する。「ﻥﺪﺑ/badan/身・

体・肉体・身体」に比べて、「ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・魂」の意味拡張が多い。その中で次の ようなものがペルシア語の特有の意味拡張であり、日本語にの「身」の意味拡張では見 当たらないことである。

・ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・魂から体格、体力、力へ

・ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・魂から親愛な気持ち、親愛な者へ

・ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・魂から愛情のこもった返事へ

・ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・魂から疑問符へ

上記の「両言語における共通の意味拡張」、「日本語の特有の意味拡張」と「ペルシア 語の特有の意味拡張」を見れば、両言語の意味拡張は対応する場合が少ないことが分か る。

両言語における「身」に関する慣用表現の意味考察の結果

本章では、両言語における、「身」自体の「基本義」と「派生義」を提示し、その次 に、日本語の「身」に関する「慣用句」とそれと対応するペルシア語の慣用表現の意味 拡張について考察を行った。方法としては、林(2002)に従い、日本語の「身」の用法 を中心に、それに関する慣用句を「こころ」「身分・地位」「立場・境遇」「生活・生き 方」「自分」を表すものに分類した。そして、「こころ」に関する表現を「感銘」「苦労・

努力」「真剣」「恋慕や高ぶる感情」に分類し、メタファーやメトニミーによる意味拡張 の考察を行い、それぞれの表現に対応するペルシア語の表現を提示し、意味の分析を行 った。

その結果として、「こころ」の下位分類として挙げた「感銘を表す表現」以外に、ペ ルシア語でも、「苦労・努力・心配を表す表現」「真剣を表す表現」「恋慕や高ぶる感情 を表す表現」があり、日本語の「身」とペルシア語の「ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・魂」が精神的 な側面と結ぶついていることが分かった。

そして、林(2002)が挙げている「身」に関する慣用表現の五つの分類の中では「身 分・地位」や「立場・境遇」への意味拡張はペルシア語の「ﻥﺪﺑ/badan/身・体・肉体・身

体」(「ﻦﺗ/tan/体・身体」「ﻢﺴﺟ/jesm/体・肉体」「ﻡﺍﺪﻧﺍ/andām/体」「ﻪﺜﺟ/jose/体・体格」「ﺮﮑﻴﭘ/peykar/

体・肉体」「ﺪﺒﻟﺎﮐ/kālbad/身体」「ﻪﻨﺗ/tane/体・身体」「ﺐﻟﺎﻗ/qāleb/肉体」)や「ﻥﺎﺟ/jān/生命・命・

魂」の慣用表現では見当たらない。つまり、「身」から「身分・地位」や「立場・境遇」

への意味拡張は日本語の特有の意味拡張であることが明らかになった。

前章の「目」「手」「口」を含む慣用句では、日本語の場合はメトニミーによる意味拡 張が多くを占めたのに対し、ペルシア語では「ﻪﻳﺎﻨﮐ/kenāye/メタファー」の方が多く見ら れた。しかし、「身」を含む慣用句では、日本語でもペルシア語と同様に「メタファー」

と「メトニミー」の使用がほとんど同様であった。