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c.加害者生徒の調査、指導

  5月8日、これまでの調査をもとに、特にこの間4月28日に3人が 留年生ともう1人のおとなしい生徒にお互いに殴り合いをしろと強制  した件、30日に傘でこずいた件を取り上げて、加害者6人に対する調

査を始める。家庭訪問のなかで父母から訴えがあったということにし て調査する。1年のときにも事実を認めさせるのが難しかったという

こともあり、いろいろな方策もとり、調査順、場所など細かいことま で考えて、万全の態勢で臨む。決め手は教師の話をする態度であった。

中山教師と橘教諭は、調査に当たり、どうしても事実を認めさせると いう気迫を込めてやること、被害者の父母の気持ちになり代わってや ることなどを常に心掛けたという。具体的には、グループの中心生徒 から1人ずつ順に呼んで、担任2人で調査した(8日1人、9日3人、

12日2人の計6人)。その結果、細かい点2、3を除いてこれまでの 事実をほとんど全面的に認めさせることができた。しかし、この時点

では、特に中心生徒ともう1人の生徒にまだ反省の色は見られなかっ

た。

 調査の結果をもとに、職員会議では、これらの生徒に対し相当重い 処分を決定した。寮生である中心生徒は寮で謹慎、1人は校長訓戒、

他の生徒は家庭謹慎であった。中山教師と橘教諭は、謹慎中にもう2 度と弱い者いじめなどしない人間に変えるために、これらの生徒にで きる限り接触し、指導した。具体的には、電話を毎日かける、反省文 の書き方などの相談に乗る、自宅または勤務先を訪ね直接話す、など である。その結果、生徒に反省の色が徐々に見えてくるようになった。

 また、特に長期の(約3週間)謹慎になった中心生徒には、自宅に 1回、会社や寮に9回訪ねて行って話をした。自宅で帰省中の本人の 様子は学校とは全く違って素直であり、会社でも真面目で評判がよく、

大いに見直すことができたという。会社側も処分申し渡しの日、保護 者といっしょに付き添う、この間の寮生活について数点の約束をさせ て指導するなど誠意を持って当たってくれ、当初驚くほど反省の色が 見えなかったこの生徒は、人間がまるで変わったようになり、顔も明

るくなったという。

 中山教師と橘教諭は、どの生徒に対しても、反省の色が認められる までは優しさをみせず徹底して厳しく対処し、それが認められた時点

 からは優しさを全面に出して指導した。中山教師の自宅に5人を集め、

 早く解除になるためにどうするか相談し合った時には、被害者と親に  会って謝ろうというところまで話が進んだこともある。また、教室に  帰ってから授業中の態度を含め、どう行動すればいいかなども話し合

 つた。

d.この間のクラス全体に対する指導

  5人が謹慎中に、授業の状況をこれまでと違うものに変えて、5人  が復帰後、前のような授業態度が取れないようにするために、HRと  物理(橘教諭の授業)は出席順に着席させる、教師の説明の間は黙っ  て聞く、などを徹底させる努力をした。また、廊下にいた生徒には教  室に入るように指導した。

  清掃面にも力を入れ、教室を学校一きれいにするように努あた。

  さらに、HRは愉快な時間にと、5人全員が登校するようになった  最初のHRで茶話会をし、歌を歌ったりした。

③結果

  これらの指導の結果、何人かの生徒に尋ねてみても、その後弱い者  いじめはなくなり、クラスの雰囲気は以前に比べ格段に明るくなった。

 イ、取り組みに対する考察

 この取り組みの特徴をいくつか挙げるとすれば、次のようになろう。

①いじめをなくする取り組みを始める決意をしている。

②調査を徹底して行っている。

③謹慎期間中の指導(=事後の指導)を徹底して行っている。

④いじめを解決するだけでなく、クラス正常化の契機としてとらえてい

 る。

⑤調査・指導の内容をすべて文書にして全職員に配布し、全体の問題と  して取り組んでいる。

 まず、①の取り組みへの決意であるが、いじめは生死にかかわる重大 問題であるととらえれば、その解決にも決死の覚悟がいるということで ある。いじめによる自殺は今日も後を断たないが、自殺してしまったの では元も子もない。その前にいかに解決するかであるが、そのためには まず、何が何でも解決してみせるという固い決意が必要である。それな くしては、いじめの克服など望むべくもない。この場合、クラスの生徒 への調査等1番カギを握る担任がその決意をしていることが、完全解決

した大きな要因となっている。

 次に②の徹底した調査であるが、そのために細心の注意を払い、莫大 なエネルギーを費やしている。まず、秘密裡に、しかも校外での事情聴 取をし、そこで状況をほぼ把握してから、さらに情報提供者を特定させ ないため、全員に家庭訪問をして細かく調査をしている。そうして証拠 を固めておいてから、次にいじめグループを1人ひとり調べているので ある。その際も、情報源をぼかすため、父母から訴えがあったというこ とにして行う、調査順、場所など細かいことまで考えをめぐらせるなど、

万全の態勢で臨んでいる。まさに、有能な刑事さながらである。そして、

そのときの決め手は、先にも述べたように、教師の話をする態度、気迫 であった(4)。これらのことはよほどしっかりした教師でなければで きることではないだろう。

 ③の謹慎期間中の指導を徹底して行っている点であるが、前項の投球 事件のところで述べたように、いじめ問題の場合、 加害者の人権擁護 すなわち加害者をして2度といじめをしない人間に変えることが、解決 のために何よりも必要である。そのため中山教師らは、家庭や勤務先で

会う、教師の自宅に呼ぶ、毎日電話をかけるなど、できる限りの接触を している。そのときの留意点は、繰り返し述べるが、反省が認められな い殺階では優しさを出さず、徹底して厳しく(絶対に許さないという気 迫を込めて)対処する、認められた時点からは一転して優しさを全面に 出して指導する、というものであった。その理由は、何事も徹底すると いうことである。反省させる時は徹底して反省させる、中途半端はしな いということである(そのかわり優しくする時も徹底してしている)。

叱ったかとおもえばなだめる、なだめたかとおもえば叱るの繰り返しで は、元に戻ってしまうからである。

 ④のいじめを解決するだけでなく、クラス正常化の契機としてとらえ るという発想も、あるいは中山教師であったからこそできた発想かもし れない。ふつうはいじめ問題の解決だけに汲々としてしまうのが現状で あろうし、それができるだけでも実は大変なことである。中山教師らは、

いじめ問題の完全解決とは、いじめた者といじめられた者とが仲直りす ることである、との明快な考えを持ち、その実現に全力を尽くした。そ ればかりか、とかく知育偏重といわれる学校教育にあって、いじめ問題 は徳育の絶好の機会である、とさえとらえていたのである。中山教師と 橘教諭という2人の担任の、このような基本的考え、このような熱心な 取り組みの結果、同校のこのクラスは次第に正常化へと向かい、雰囲気 も以前に比べ格段に明るくなったのである。これも後日談であるが、卒 業後、いじめグループのリーダー格の生徒は立派に更生し、中山教師ら

はその結婚式にも招待されたそうである。

 最後に⑤であるが、まず、調査・指導の内容をすべて文書にし、記録 に残すという点である。これはいじめ問題に限ったことではなく、あら ゆる問題において大事なことであろう。

 次に、それを全職員に配布し、全体の問題として取り組んでいる点で ある。この点については、平成6年12月に文部省が開催した「いじめ対 策緊急会議」の報告においても、「いたずらに学級内のみでの問題解決

に固執し、適切な対応の機会を逸したり」することのないよう、「学校 を挙げた対応」がいかに重要かが強調されているところでもある(5)。

 S高校では、担任の中山教師と橘教諭が、取り組みの決意をしたすぐ 翌日に教頭にこれまでの状況を報告し、指導の方法についての意見を聞 く、担任として動き始めることの了承を取るなど、当初から非常に迅速 に動いている。さらにその翌日校長に電話し、取り組みの指導を依頼す る、次の日には校長との話し合いを持つなど、個人プレーをせず、全体 の問題として取り組むために、まず管理職との連携を重視している。そ の上で、取り組みの内容をすべて文書にして全職員に徹底をはかり、学 校として総力を挙げて取り組む態勢を整えているのである。まさに文部 省の報告の出されるはるか以前から、それを地で行った取り組みといえ よう。したがって、この取り組みは、今日いじめ問題で悩む多くの学校 に、大いなる示唆を与えてくれるものとなるのではないだろうか。

 ウ、いじめ克服考

 思えば、人類の歴史はいじめの歴史である、ともいえよう。戦争、内 乱、差別、自由経済競争……、その例は枚挙に逞がない。したがって教 育現場といえども、そこから無縁であることはありえない。今も昔も学 校におけるいじめは存在したし、これからもそうであろう。

 ところで、教育基本法第1条には、「教育は、人格の完成をめざし、

……^理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、……心身ともに健康な 国民の育成を期して行われなければならない」と、教育の目的として高

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