坐 5Y 階
② Φ ㈲今回(3 )
図3 −63「窓」のアクセントの
個人ごとに見た変化
︳2 ①㎝ ?
回
今
Q②g
図3−64「寿司」のアクセントの
個人ごとに見た変化
図は,縦に前回調査,横に今回のパネル調査をとってある。②は○○,①は
50の意味である。全部で4つの枠があるが,図3−61〜63の場合,枠aは前
回調査で方言アクセントでパネル調査でもそのままという変化のなかった枠で ある。それに対して枠bは,前回調査では方言アクセントであったがパネル調 査では共通語アクセントという変化のあった(共通語化した)枠である。また 枠cは,前回調査では共通語アクセントであったがパネル調査では方言アクセ
ントという変化のあった(方言化した)枠である。それに対して枠dは,前回 調査でもパネル調査でも共通語のまま変化のなかった枠である。「寿司」につ
いては,従来の共通語アクセントと新しい共通語アクセントについて同様に示
してある。
これら4つの枠のうち,もし太枠a・dに全員入ればこの間個人レベルで変 化は全くなかったことになり,逆にもしb・cに全員入れば個人レベルで全員 変化したことになるのであるが,これらの図(図3−61〜63)によると,変化 のなかったa・dおよび変化のあったbに人数の多いことがわかる。このうち bについて言えば,例えば図3−61の「主人」の場合,67人のうち最多の29人 までがここに入り,かなりの人がこの間変化している。そしてこの29人という 人数は,前回調査で方言アクセントであった50人を母数にとると半数を越えて おり,ここから考えると,この27年間に非常に著しい変化があったと言える。
同じような傾向は「火箸」「窓」にっいても見られる。
このように,個人レベルで見た場合でも確かに変化していることが確認され た。ただし変化と言っても,「方言から共通語へ」の変化がほとんどであり,
「共通語から方言へ」の変化(すなわち枠dに入るもの)は皆無に近い。なお
「寿司」については,新しい共通語アクセントへの変化がやはり多く見られる
(前回調査で従来の共通語アクセントであった20人のうちの12人までが変化し ている)。ただしこの項目については,その逆の変化も多少見られる。
かつて国語研究所では,今回の北海道調査と類似したテーマで1950年と1971 年の2度にわたり山形県鶴岡市で言語調査をおこなったことがある(国立国語 研究所1974)。それによると,アクセントは個人の中で非常に変化しにくい要 素であり,21年経た1971年においても,共通語アクセントは依然として変化な く10数%のままであった。この点,今回の富良野調査での結果と大きくくい違 っている。この違いは,音声面での共通語化に大きな影響をもたらしたことが 実証されているテレビの普及の時期と調査時期との関係から説明できよう。
テレビの普及は1960年代に始まるのであるが,鶴岡市で第2回目の調査がお こなわれた1971年という時期は,ようやく普及が本格化しはじめた時期であっ た。それに対し富良野市で第2回目の調査がおこなわれた1986年という時期は,
テレビの普及からすでに20〜30年経過し普及率は100%近くに達している時期 であった。この社会状況の違いが,調査結果の違いに反映されているものと思 われる。さいわい数年前に第3回目の鶴岡調査がおこなわれ,アクセントにつ いてもパネル調査がおこなわれた。パネル調査はまだ報告が出ていないが,富 良野調査での結果が一般化できるかどうか,興味深いところである。
3.4.まとめ
北海道における方言の共通語化というテーマのうち,ここでは音声的な側面 について,「発音」と「アクセント」に分けて見てきた。
このうち「発音」については,すでに前回富良野調査の時点から,北海道方 言の重要な基盤の一つであったと考えられる東北方言的な音声がほとんど使わ れておらず共通語化が著しく進行していたため,今回の調査では,結果的に,
27年後もほとんど変化なく共通語音が非常によく使われていることを確認する にとどまった。一言で言えば「発音」は,少なくとも富良野においては,共通 語化を測定する尺度として十分機能していなかったと言える。この点,類似し たテーマでかつて国語研究所が1950年と1971年の2度にわたり調査をおこない,
発音面でも共通語化が認められることを実証した山形県鶴岡市における調査と 状況がかなり異なっている(国立国語研究所1974参照)。もっとも,可能性と しては,方言音への変化が逆に進行するということも全くありえないことでは ないので(実際鶴岡調査の文法項目にそれが認められた),それがなかったこ とを確認できた点は意義があったと言えよう。
唯一例外であった項目は,語中のガ行子音の鼻音/非鼻音の対立である(も っともこれは方言音/共通語音の対立とは言い難い)。ただし結果としては,
富良野のパネル調査で見ると,この27年間ほとんど変化がなかったことがわか った。コーホート別に,あるいは個人別にこの27年間の動きを見た場合もほと んど変化がなかったことからすると,語中のガ行子音の鼻音/非鼻音は,一度 獲得すると個人の内で固定されその後変化しにくい特徴のようである(ただし
[η]→[g]という方向へは多少変化しうる)。パネル調査でこの27年間ほ とんど変化がなかったのもそのためである。
なお,個人の内で変化しにくく,しかも若年層ほど[η]が少なく[g]が 多いということは,この年齢差は,加齢に伴う[η]の習得ではなく,時の経 過に伴う[η]の衰退という社会における言語変化が反映されているものと見 るのが妥当であろう。
そうすると,富良野全体としては[η]が衰退に向かっていることになるわ けであるが,それにもかかわらず,前回富良野調査と富良野継続調査との間に
[η]の衰退が見られないのは不審に思われるかもしれない(図3−21−1参 照)。しかしこれは,そもそもサンプルの取り方が異なっていたことが関与し
ている可能性が高い(前回はランダムサンプリングではなかった)。もし前回 調査の対象者もランダムサンプリングで選んでいたら,27年間に比較的明確に 変化([η]の衰退)が認められた可能性が高い。
他方「アクセント」にっいては,前回調査の報告書では,アクセント型の
「安定度」という観点から分析されており各語のアクセント型の使用率がどう であったかは明示されていないのであるが,3.3.でパネル調査的な分析を試 みた際に前回調査の調査票にもどってアクセント型を確認したところによれば,
当時は共通語アクセントよりもむしろ方言アクセントの方が使用率が高かった らしいことがわかった(図3−52〜54)。つまりアクセントは,音声と異なり,
共通語化を測定する尺度としてまだ十分機能していたと言える。ただし, rH.
調査の概要」で述べたように,アクセント項目は前回調査のデータが録音され ていないため比較が困難なことから,パネル調査では調査項目としなかった。
そこでアクセントについては前回調査との比較はおこなわず,①現時点でのア クセント型の対立の状況,②年齢差から見た変化の動向,③富良野と札幌の地 域差,という観点から分析をおこなった。前回調査で録音をとらなかったのが 惜しまれる。
今回の調査の結果によると,本来共通語アクセントとは異なるアクセント型 を有していたと考えられる語の多くの場合,富良野・札幌いずれにおいても,
現在でも両者が拮抗していることが明らかになった。27年前ばかりでなく現在 も対立が続いている点,先の「発音」と状況が随分異なっている。北海道にお ける音声面での共通語化は,過去においても現在においても,アクセントより も発音で大幅に進んでいる。
共通語アクセントの普及には地域差も認められ,多くの場合札幌の方が富良 野よりも先行していることがわかった。
また多くの場合,富良野・札幌ともに,若年層ほど共通語アクセントの使用 率が高く逆に方言アクセントの使用率が低いという年齢差が,かなり明確に認 められた。語によっては,10代の共通語アクセントの使用率が100%に近いも のもある。こうした年齢差をどのようなものと読み取るかについては,3.3.
で試みたパネル調査的な分析結果が参考になろう。
それによれば,語中のガ行子音の場合と異なりアクセントは,この27年間に 個人の中で,共通語アクセントには変化しうるものの(2回目調査時で40歳以 上のいずれの年齢層でも40%程度の上昇),方言アクセントにはほとんど変化