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PDF 電流分光法を用いた トンネル接合に関する研究 - Keio

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(1)

電流分光法を用いた

トンネル接合に関する研究

平成 20 年度

堀切康平

(2)

第1章 序論... 4

1.1 本研究の背景... 4

1.1.1 トンネル接合... 4

1.1.2 トンネル接合の評価方法... 7

1.1.3 電流分光法... 9

1.1.4 変調法による微分特性の測定...11

1.1.5 電流分光法によるAlOxの解析... 13

1.1.6 金属の酸化... 16

1.1.7 Al薄膜の酸化過程... 17

1.1.8 トンネル接合の絶縁破壊... 18

1.2 本研究の目的... 21

1.3 本論文の構成... 23

第2章 実験方法... 24

2.1 試料の作製方法... 24

2.1.1 トンネル接合の構造及び形状... 24

2.1.2 X線光電子分光法測定用試料の構造及び形状... 24

2.1.3 トンネル接合の作製方法... 26

2.2 絶縁層の評価方法... 30

2.2.1 電気特性の測定... 30

2.2.2 2層モデルシミュレーションを用いた評価... 35

2.2.3 X線光電子分光法による評価... 37

2.2.4 透過型電子顕微鏡による評価... 42

第3章 Al薄膜の熱酸化過程... 43

3.1 Co/AlOx/Coトンネル接合の電気特性... 43

3.1.1 8 h熱酸化接合... 43

3.1.2 24 h熱酸化接合... 46

3.1.3 48 h熱酸化接合... 49

3.1.4 168 h熱酸化接合... 52

3.2 Al薄膜の酸化状態... 55

3.2.1 X線光電子分光法によるCo/AlOx接合の酸化状態の評価... 55

3.2.2 比誘電率によるAlOxの酸化状態の評価... 65

3.2.3 透過型電子顕微鏡によるAlOxの酸化状態の評価... 66

(3)

3

4.1.1 トンネル抵抗の変化... 71

4.1.2 電流分光スペクトルの変化... 77

4.1.3 定電圧を印加しない場合の電流分光スペクトルの変化... 80

4.1.4 電流分光スペクトルによるエージング現象の解析... 83

4.2 Co/AlOx/Co 接合の絶縁破壊... 85

第5章 結論... 95

参考文献... 97

謝辞... 100

付録... 101

(4)

第 1 章 序論

1.1 本研究の背景

1.1.1 トンネル接合

トンネル接合は金属(metal)/絶縁体(insulator)/金属(metal)と 3 層構造をしている。

Fig.1-1(a)にトンネル接合の模式図を示す。通常、絶縁層には電流は流れないが、そ の絶縁層が数 nm と薄くなると電子が絶縁層をトンネルし、トンネル電流が流れる。ト ン ネ ル 接 合 は 金 属 層 に 用 い る 物 質 を 変 え る こ と で 異 な る 性 質 を 示 す 。 特 に 、

Fig.1-1(b)のように金属層に強磁性体を用いたものはトンネル磁気抵抗(TMR :

Tunneling Magneto-Resistance)接合、Fig.1-1(c)のように金属層に超伝導体を用いた ものはジョセフソン接合と呼ばれ、広く応用されている。その他にも、トンネルダイオー ドなどトンネル接合を用いた素子は多い。

Fig.1-2はTMR 接合の模式図である。2つの強磁性体に絶縁層が挟まれた構造を

している。この2 つ強磁性体の磁化の方向が平行な場合のトンネル抵抗を Rpと反平 行な場合のトンネル抵抗をRap とすると、TMR接合はRap>Rpという性質を持つ。片側 の強磁性層の磁化方向を固定すれば、磁場の向きによって固定していない強磁性層 の磁化方向が変わり抵抗の大きさが変わるので、磁場の方向を抵抗の大きさの変化 として検出できる。この性質を利用し、磁気ヘッドのセンサーとして使われている。ま た、RapRp の抵抗の大きさの違いを 0 と 1 に対応させることで、MRAM(Magnetic Random Access Memory)の記録ビットとして応用されている。

Fig.1-3はジョセフソン接合の応用例を示している。図のように超伝導体でできたリン

グの一部にジョセフソン接合を付けて利用する。この超伝導リングに磁場が印加され るとその磁場を打ち消す方向に超伝導リング内に超伝導電流が流れる。ジョセフソン 接合は超伝導電流がトンネルするが、他の超伝導体のリングの部分に比較すると超 伝導状態が弱い。そのために、ジョセフソン接合に超伝導電流が流れると電位差が 発生する。したがって、超伝導リングに印加された磁場の大きさによって、流れる超伝 導電流の大きさは変化し、接合に発生する電圧も変化するので、接合に発生した電 位 差 に よ っ て 磁 場 の 大 き さ を 測 定 す る こ と が 出 来 る 。 こ の 性 質 を 利 用 し て 、 SQUID(Superconducting Quantum Interference Device)磁束計などに応用され ている。

(5)

5

Fig.1-1 Schematic diagrams of tunneling junctions.

Fig.1-2 Schematic diagram of TMR junction.

antiparallel configuration

R

p

< R

ap

insulator ferromagnet

magnetization

parallel configuration

(6)

Fig.1-3 Schematic diagram of SQUID.

(7)

7

1.1.2 トンネル接合の評価方法

TMR 接合やジョセフソン接合の特性は絶縁層の状態と関係しており、特性を良くす るためには絶縁層の状態を詳しく評価する必要がある。トンネル接合の評価方法とし

て、Simmons の理論[1]による電流-電圧(I–V)特性のフィッティングがある。この理論

は電子を自由電子近似し、絶縁障壁を矩形と仮定し、WKB近似を用いて透過率を計 算しているのが特徴である。この理論によると、トンネル電流は、以下のように計算さ れる。

Fig.1-4の様な金属1と金属2の間に絶縁層(insulator)が挟まれている構造を考え

る。金属1と金属2の両端に電圧を印加すると、絶縁層の膜厚が薄ければトンネル効 果により、金属1 のフェルミ準位近傍の電子が金属 2にトンネルする。絶縁障壁を大 きさがφ 0の矩形と仮定した。トンネル透過率T (Ex)はWKB近似より、

= 2

1

2 1

)]

) ( ( 2 4 [

{ exp )

( s

s x

x mV x E dx

E h

T π

} (1-1)

で与えられる。

金属1から金属2にトンネルする単位時間当たりの電子数N1は、

x v

x x

xn v T E dv

v

N1 =

0m ( ) ( ) (1-2)

で表される。vxx方向の群速度、vmx方向の群速度の最大値、n(vx)はvxをもっ た単位体積当たりの電子数である。n(vx)はフェルミディラック分布関数f(E)を用いて表 され、

z y x z

y

x f E dv dv dv

h dv m dv dv v

n 2 ( )

)

( 3

= 4 (1-3)

となる。ここでvyvzは各方向の群速度である。(1-3)式をyz方向で積分すると、

∫∫

=

= 3 0

2 3

4

) 4 (

) 2 (

)

( x y z f E dEr

h dv m dv E h f

v m

n π

(1-4)

となる。(1-4)式は y-z 平面(膜面に平行方向)内で極座標化されている。(1-2)式は

(8)

(1-4)式を用いて最終的に、

E T Ex dEx f E dEr h

N 4 m m ( ) ( )

0 3 0

2

1= π

∫ ∫

(1-5)

となる。ここで、

z y r z y x z

y

r v v E E E E E E E

v 2 = 2+ 2, = + + ,  = + (1-6)

である。vy及びvzは,y方向及び z 方向の群速度である。同様に、金属 2から金属 1 にトンネルする単位時間当たりの電子数N2は、

E T Ex dEx f E eV dEr h

N 4 m m ( ) ( )

0 3 0

2

2 = π

∫ ∫

+ (1-7)

となる。(1-5)式及び(1-7)式の差が正味のトンネルする単位時間当たりの電子数とな

る。以上より、トンネル電流密度は、

⎪⎭

⎪⎩

+

+

= 2

1 2 0

1 2 0

1 2 0

1

2 0 )

( 2 ) 2 4 ( exp 2 ) ( 2) ( ) 2 4 ( exp 2 ) 2 (

m eV h

d eV

m eV h

d eV

hd

J e φ π φ φ π φ

π (1-8)

となる。ここで、dは膜厚である。

この式を実際に測定した IV 特性の結果にフィッティングすることによって、φ 0d を算出し、トンネル接合の絶縁層を評価することが出来る。しかし、Simmons の理論 は弾性的なトンネル電流の理論であり、金属フォノンの励起による電流のような非弾 性トンネル電流は含まれていない。また、絶縁層にピンホールなどの導電パスが存在 し、オーミックな電流が支配的なトンネル接合には適用することは出来ない。本来なら オーミックな電流も流れるトンネル接合ではフィッティングできないはずであるが、その ような接合の IV 特性にもみかけ上フィッティングできたとの報告[2]もあり、IV 特性 のみではトンネル接合の絶縁層の状態を評価することが出来ない。

(9)

9

1.1.3 電流分光法

電流分光法は絶縁層中の電子の流れを調べる方法で、特にトンネル接合について 研究されたので一般にトンネル分光法といわれることが多い。この電流分光法は金 属/絶縁層/金属等の接合に流れるトンネル電流の 2 階微分特性を測定し解析するこ とによって、接合に存在する電子励起スペクトルを検出する方法である。

電流分光法の原理について簡単に説明する。Fig. 1-4 はトンネル接合のエネルギ ー状態の模式図であり、Fig. 1-5 (a)にI–V特性、(b)に1階微分特性、(c)に2階微分 特性の模式図を示す。トンネル接合は金属1/絶縁層/金属 2の 3 層構造をしており、

絶縁層が薄いためにトンネル電流が流れる。Fig. 1-4 のように金属 1 のフェルミ準位 近傍の電子が絶縁層を介して、金属2へ弾性的にトンネルする。この時、絶縁層もしく は金属/絶縁層界面においてエネルギーeV0 を失って電子が非弾性的にトンネルした とすると、Fig. 1-5 (a)のI–V特性において、電圧V0で非弾性トンネル電流が流れ始 め、電流値が変化する。その変化が微小であったとしても、(b)の1階微分特性ではス テップ状の変化として現れ、(c)の2階微分特性ではピークとして検出することができる。

このように、電流分光法は微少な電流の変化を検出でき、その 2 階微分特性から非 弾性的に流れる電流について評価することができる。この方法による研究は高分子 の構造解析等に多く用いられており、高分子の C–H 振動や C=O 振動などの情報を 得る事ができる[3-7]。そのほかにも、トンネル接合のバンド構造 [8, 9]やマグノンによ

る励起[10, 11]、トンネル磁気抵抗接合[12-14] の解析などに用いられている。

(10)

Fermi Level

Fermi Level Elastic

Tunneling

Inelastic Tunneling

eV0

metal 1 insulator metal 2

Voltage Voltage

Current dI/dV

d2 I/dV2

V0 V0

(a) Current characteristics. (b) dI/dV characteristics.

Fig.1-4 Schematic figure of tunneling junction.

d φ0

(11)

11

1.1.4 変調法による微分特性の測定

一般に数値微分は微小な差の割り算になるので、精度が悪い。そこで、高精度に I–V 特性の微分特性を測定する方法として、変調法が開発されている[15, 16]。変調 法による測定理論について説明する。変調法とは直流の電流に重畳した微小な交流 電流を流すことによりI–V 特性の 2階微分特性を測定する方法である。素子に直流 電流 I0と微小な交流電流 Iwが流れており、電圧を電流の関数として表すと電圧は以 下の式で表される。

(1-9) この式をI0の周りでテーラー展開すると、

(1-10) のようになる。

coswtの係数C1Iwを用いて1階微分特性は、

/C1

dV I dI

= w (1-11) と計算することができる。また、cos2wtの係数Cより、

2 2 2

2

/ 4C Iw dI

V

d = (1-12)

の値を得ることができる。この値と 1階微分特性の値を用いて I–V 特性の 2階微分 特性の値は数学的な関係式、

3 2

2 2

2

⎟⎠

⎜ ⎞

⋅⎛

= dV

dI dI

V d dV

I

d (1-13) )

0 cos ( )

(I V I Iw wt

V = +

"

+ +

+

= wt

Iw dI

V wt d

Iw dI I dV V I

V 2cos2

2 2 2 cos 1 0)

( ) (

"

+ +

+ +

= 2(1 cos2 )

2 2 4 cos 1 0)

( Iw wt

dI V wt d

Iw dI I dV V

(12)

を用いて計算することで得られる。

したがって、2階微分特性はIwとcoswtの係数とcos2wtの係数の値が得られれば、

(1-11)式、(1-12)式と(1-13)式を用いて求めることができる。交流電流を測定することで

Iwを求めることができ、同じ周波数の交流電圧成分を測定することで coswt の係数が 求められる。そして、2倍の周波数の交流電圧成分を測定することでcos2wtの係数で

ある 1/4·(d2V/dI2Iw2の値が求められるので変調法によって高精度に微分を求めるこ

とができる。

(13)

13

1.1.5 電流分光法による AlO

x

の解析

電流分光法はR. C. Jacklevic and J. Lambe [3] により1966年に始めて報告された。

トンネルした電子が絶縁層/金属界面で分子の振動モードと相互作用することが発見 されたので、R. C. Jacklevic and J. LambeはAl/AlOx/Pb接合において、AlOx/Pb界面 に高分子を導入し電流分光を行い高分子の振動モードを検出することを試みた。Al 上にAlOx膜を作製後、CH3(CH2)COOH やCH3COOH 等の酸に曝すことで AlOx/Pb 界面に高分子を導入した。そして、O–HとC–H結合のベンディングモードとストレッチ ングモ–ドを検出した。Fig.1-6がその結果である。図中Aは酸に曝さなかった接合、B はCH3(CH2)COOHに曝した接合、CはCH3COOH に曝した接合である。酸に曝した 接合では、酸に曝していな接合では観察されなかったC–Hベンディングモ–ドのピーク

が 0.18 V に、C–H ストレッチングモードのピークが 0.37 V に観察された。R. C.

Jacklevic and J. LambeはAl/AlOx/Pb接合の他に、Ta/TaOx/Pb接合、Al/AlOx/Sn接合、

Al/AlOx/Al 接合で測定を行い同様の結果を得たが、Al/AlOx/Pb 接合がもっとも精度

が良いと報告している。上部電極としてPbは試料の分子に悪影響を与えないこと、比 較的大きな原子であり絶縁層への拡散による短絡が起こりにくいこと、4.2 K で超伝 導状態になり感度と分解能の向上をもたらすという報告[17]がある。

以後、電流分光法で高分子の振動モ–ドの研究が行われるようになった。薄膜形成 が容易で、安定でよい絶縁特性を持つことから[17]、AlOxが絶縁層として一般的に用 いられたが、研究の中心はAlOx界面に導入した高分子等である。

Fig1-6において、どの接合でも0.03V付近にピ–クが観察されている。J. Klein and

A. Leger [18]は Al/AlOx/Al 接合を用いて電流分光スペクトルの研究を行い、この

0.03 Vのピークが Al フォノンピークであると最初に報告した。その後、同様のピーク

が観察されたとの報告がしばしあるが[5-7, 19]、0.03 VのピークがAlフォノンに由来 するピークであることの明確な根拠は示されていない。

これらの研究ではピークの出現する電圧が興味の中心であった。異なる金属を電 極に用いているために、状態密度関数が異なる。トンネル電流は電極金属の状態密 度に依存するので分光スペクトルも非対称になる。そのため、電圧の印加方向の違 いによる変化など他の情報は考慮されなかった。R. C. Jacklevic and J. Lambe の結 果もプラス側の電圧のみであり、以後の研究も同様にプラス側の結果のみ提示され ることが多かった。

(14)

Fig.1-6 Inelastic electron tunneling (IET) spectrum Al/AlOx/Pb junctions[2].

Al phonon

(15)

15

Fig.1-7 は我々が測定した Al/AlOx/Al 接合の電流分光スペクトルである[20]。0.03 V付近にAlフォノンピークが観察されている。電圧に関して非対称なスペクトルをして いる。両電極ともにおなじ金属なので、この非対称なスペクトルはAlOxの酸化状態を 反映した結果であると考えられる。しかし、何が原因でこのような非対称なスペクトル になるのかは明らかではない。この原因を解明できれば、電流分光法を用いて、AlOx

絶縁層の酸化状態を評価できるようになるはずである。

-0.2 0 0.2

0 100 200 300 400

Voltage (V) d

2

I/ dV

2

(a rb. uni ts )

Fig.1-7 IET spectrum of Al/AlOx/Al junction.

Al phonon peak

(16)

1.1.6 金属の酸化

金属の酸化機構は以下のように考えられている[21]。金属を酸素に曝すと表面が 酸化され酸化物が形成され、酸素と金属が酸化物により分離される。さらに酸化が進 むためには、金属が酸化物を通って移動し、酸化物/酸素界面で酸素と反応するか、

酸素が酸化物内を通って、金属/酸化物界面に移動し、そこで酸素と金属が反応する 必要がある。すべての金属酸化物は本質的にイオン性であるので、中性の金属や非 金属の原子が酸化物内を移動するのではなく、イオンが移動していると考えられる。

イオン性固体をイオンが移動するのは欠陥を利用しての拡散である。イオン性固体 内の支配的な欠陥の種類によって拡散するイオンが固定される。例えば、Shottky 欠 陥の場合は両イオンが移動できるが、Frenkel 欠陥の場合は陽イオンのみ移動でき る。

実際の金属について見てみると、Si の場合、酸化の機構は以下のように考えられ ている[22]。まず、金属表面で酸素と反応するもしくは酸素を吸収し SiO2 が形成され る。続いて、酸素がSiO2を通ってSiO2/Si界面に到達し、Siと反応しSiO2が形成され る。

(17)

17

1.1.7 Al 薄膜の酸化過程

酸化 Al 薄膜はその高い比誘電率、熱的な安定性などの性質のためさまざまな研 究がなされている。特に、AlOxをトンネル障壁として用いたTMR素子において、室温 での高い磁気抵抗(MR)比が発見されて以来[23, 24]、さらに注目を集めている。AlOx

は Al 薄膜を酸化させることによって作製されることが多い。その方法として、自然酸 化、熱酸化、プラズマ酸化などがある。

自然酸化は成膜したAl薄膜を酸素雰囲気に曝すことで酸化させる方法である。熱 酸化はAl薄膜を高温の酸素雰囲中にさらすことにより酸化させる方法である。プラズ マ酸化は酸素雰囲気中にプラズマを発生させ、そのプラズマにより酸素を励起するこ とで酸化を促進する方法である。自然酸化法では Al 薄膜の表面から酸化が進行し

[25, 26]、酸化時間に関係なく AlO2 が生成される[27]ことが報告されている。熱酸化

法に関しては、酸化温度によってAl薄膜の酸化過程が異なり、400 ℃以上では結晶 のAl2O3が生成することが知られている[28, 29]。

先行研究では Al 薄膜の酸化過程における組成の変化に関しては議論されている が、Al薄膜内の金属 Al の量の変化については詳しく調べられていない。Bae, et al.

[25]はTEM像からアモルファスな AlOxが生成し、未酸化のAl はなくなったと判断し ているが、生成した酸化 Al 薄膜の内部の金属 Al が完全に酸化されているかどうか はTEM像からは判断することは出来ない。金属のAlが均一に含まれているもしくは AlOx下部に多く存在しているかもしれない。また、Snijders, et al. [28]とJeurgers, et al.

[29]は XPS により組成分析をし、酸化時間による組成の変化を調べているが、酸化 過程で金属のAlの量や分布がどのように変化していったのかは明らかになっていな い。また、これらはバルクのAl膜の表面の酸化の研究であり、薄膜のAlの熱酸化過 程は明らかになっていない。

このように、Al薄膜の酸化過程、特に酸化Al薄膜内に存在する金属Alの量は明 らかでない。Al 薄膜の酸化過程を明らかにし、その過程に電流分光法を適用すれば、

Al 薄膜の酸化状態と電流分光スペクトルの対応がつき、Al 薄膜の酸化過程を明ら かに出来るようになるはずである。そして、電流分光スペクトルから Al薄膜中の金属 Alの量の変化を明らかにすることが可能なはずである。

(18)

1.1.8 トンネル接合の絶縁破壊

絶縁体の絶縁破壊の研究は半導体のゲート酸化物に用いられるSiO2について広く 行われてきた[30-34]。電圧の印加によって絶縁層内に電荷トラップが作られ、その密 度が高くなり破壊にいたる[30, 32-34]、また、電圧印加によりリ–ク電流が増えて破壊 に至る[31]などの絶縁破壊のメカニズムに関する報告がなされている。

1995年に室温での巨大トンネル磁気抵抗効果が発見されると[23, 24]、AlOxを絶縁

層に用いたトンネル接合の絶縁破壊に関する研究が盛んに行われるようになった。

絶縁破壊の研究には、トンネル接合の絶縁層の破壊方法として以下の2つの方法が 用いられる。トンネル接合に印加する電圧を徐々に上げていく方法とトンネル接合に 一定の電圧を印加し続ける方法である。トンネル接合にかかる電圧を徐々に増加さ せていくと、ある電圧になったところで、トンネル抵抗が減少し絶縁破壊が起こる。こ の破壊現象には徐々に抵抗が減少していくパターン(gradual breakdown)と急激に抵 抗が減少するパターン(abrupt breakdown)の 2 種類がある[35-38]。Fig.1-8 に我々が 行った実験で得られた2種類の破壊過程を示す[39]。(a)はgradual breakdownであり、

印加電圧が0.55 Vになったあたりから徐々に抵抗が減少し始めている。(b)はabrupt

breakdownであり、印加電圧が1.2 Vになったあたりで急激に抵抗が減少している。ど

ちらの破壊過程も破壊後は破壊前と異なった IV 曲線を示しており、絶縁破壊が不 可逆変化であることを示している。gradual breakdown はピンホール等の外的な要因 に起因し、abrupt breakdownは内的な要因に起因するといわれている[35, 40–42]。例 えば、T. Morozumi, et al. [37] は電圧を増加していくと、トンネル電流に加えてAlOx

の価電子帯からも電流が流れるようになりツェナー降伏が起こり、絶縁層が破壊され ると報告している。しかし、そのメカニズムはよくわかっていない。

また、C. Shang, et al. [36] とW. Oepts, et al. [43] は破壊後のトンネル接合のIV 特性が金属的なことから、絶縁破壊によってトンネル接合はオーミックな伝導特性に 変化したと報告している。D. Kim, et al. [44] はトンネル抵抗の温度依存性が低温に なるほど抵抗が増加する絶縁体的であったものが、絶縁破壊によって低温になるほ ど抵抗が減少する金属的な特性に変化したことを根拠にして、絶縁破壊によってトン ネル接合がオーミックな伝導特性になったと報告している。単純に IV特性や電気抵 抗を測定する方法では詳細はわからない。電流分光法はIV特性の2階微分特性を 測定する方法である。線形的な成分の2階微分特性は0であるので検出されず、トン ネル電流のような非線形な電流は検出される。また、新しい伝導チャンネルが開いた

(19)

19

[45, 46]。この破壊までにかかる時間の分布から統計的に寿命を予測した報告はしば

しあるが[47, 48]、定電圧の印加により絶縁層の内部が物理的にどのように変化した

のか明らかにした研究はなされていない。定電圧の印加によるトンネル抵抗の減少 は何らかの絶縁体内の変化の現れである。そこで、電流分光法を適用すれば定電圧 の印加による絶縁体の変化を評価でき、絶縁破壊のメカニズムの解明につながると 考えられる。

(20)

0 0.2 0.4 0.6 0

0.01 0.02

Voltage (V)

Curre nt (A ) before breakdown

after breakdown

(a) Gradual breakdown.

0 0.5 1

0 0.01 0.02

Voltage (V)

Curre nt (A )

before breakdown

after breakdown

(21)

21

1.2 本研究の目的

本研究ではトンネル接合を解析する方法として電流分光法に注目し、トンネル接 合などの素子に応用して研究を行った。すなわち、本研究の目的は電流分光法を応 用して次の3点を明らかにすることである。(1) 絶縁層の状態を明らかにする、(2) Al 薄膜の酸化過程を明らかにする、(3) トンネル接合の破壊メカニズムを明らかにする ことである。

従来の電流分光法を用いた研究では、絶縁層に AlOx が用いられているが、その 興味の中心は絶縁層/電極界面に導入された高分子であり、AlOx の評価には用いら れてこなかった。そのため、下部電極に Al が用いられており、分光スペクトルが非対 称であったとしても、電極が原因なのか、絶縁層の非対称性が原因なのか区別する ことが出来なかった。そこで、本研究では電流分光スペクトルにAlOxの酸化状態を反 映させるために電極としてAl以外の金属を用いること考えた。TMR接合の特性の評 価への応用を考え、TMR 接合に用いられる強磁性金属の Co を電極に用いた

Co/AlOx/Co接合を用いることを考えた。また、接合の構造等が電流分光スペクトルの

対称性に影響を与えないように Co(10 nm)/AlOx/Co(10 nm)と対称な構造にすること にした。電極部分にAlが存在しなければ、Alフォノンピークは絶縁層中の金属Alに 由来するはずである。また、素子の構造が対称であるならば、電流分光スペクトルの 対称性は絶縁層の酸化状態のみに依存するはずである。

Al薄膜の酸化過程については薄膜内の金属Alがどのように酸化していくのか、つ まり、金属Alの量がどのように変化していくのか明らかになっていない。そこで、酸化 時間の異なる酸化Al薄膜を作製することを考えた。酸化時間が異なれば、Al薄膜内 の金属 Al の量も変化し、金属 Al の量の変遷が明らかになるはずである。酸化時間 の異なる絶縁層を持つトンネル接合の電流分光スペクトルは、0.03 V のピークが Al フォノンピークであると考えられているので、Al薄膜の酸化状態を反映して大きく変化 するはずである。実際に、Al薄膜中の金属Alの量に応じて0.03 Vのピークが変化 すれば、このピークがAlフォノンに由来するピ–クであることの根拠になるはずである。

そして、電流分光スペクトルと Al 薄膜の酸化状態の対応がつけば、電流分光スペク トルによりAlOxの酸化状態を評価できるようになるはずである。

トンネル接合に定電圧を印加していると、抵抗が変化するエージング現象が起こる。

このエージング現象の解析に上記の結果を用い、電流分光法を適用することを考え た。たとえば、トンネル抵抗が増加した場合、AlOx の酸化が進行した可能性が考えら れ、その変化が電流分光スペクトルにも現れるはずである。そこで、電流分光法を適 用すれば定電圧の印加による絶縁体の変化を評価でき、絶縁破壊のメカニズムの解 明につながるはずである。

破壊後の絶縁層はオーミックショートしたと考えられているので、Simmonsモデルに

(22)

よるフィッティングではその状態を評価することが出来ない。そこで、電流分光法を微 小な電流を検出できる方法として、絶縁破壊後の接合にも拡張することを考えた。電 流分光法は微小な電流の変化を検出できるので、電流が流れていなくとも新しい伝 導チャンネルが開くなどの電流の変化があれば検出できるはずである。このように、

破壊後のトンネル接合に電流分光法を適用すれば、破壊後のトンネル接合の状態が 明らかになるはずである。

そこで、本研究では Al 薄膜の酸化過程に電流分光法を適用し、電流分光スペクト ルとAlOxの酸化状態を対応付け、電流分光法によって AlOxの酸化状態を評価でき るようにすることを目的とした。さらに、電流分光法をトンネル接合の絶縁破壊現象に 適用し、定電圧印加によるエージング現象や絶縁破壊後の絶縁層の状態を解明する こと目的とした。このように、電流分光法を拡張し、トンネル接合を解析することが本 研究の目的である。

(23)

23

1.3 本論文の構成

第1章では、電流分光法の原理、現状、Al薄膜の酸化過程、AlOx絶縁層の絶縁破 壊に関する研究の現状について述べた。そして、これらの現象に電流分光法を適用 するために本研究で行った事について述べた。

第2章では Co/AlOx/Co接合の作製方法、酸化Al 薄膜の作製方法、電流分光法

の方法、Al 薄膜の酸化過程解明のための酸化 Al 薄膜の評価方法、定電圧印加実 験の方法について述べる。

第 3 章では電流分光法により Al 薄膜の酸化状態を評価できるようにしたことを述 べる。酸化時間の異なるAl薄膜を有するトンネル接合を作製し、Al薄膜の酸化過程 を明らかにしている。その酸化過程に電流分光法を適用し、電流分光スペクトルとそ のAl薄膜の酸化状態の対応を調べ、また、±0.03 VのピークがAl由来のピ–クであ ることの根拠を示し、電流分光法によりAl薄膜の酸化状態を評価できるようにしてい る。

第 4 章では、本研究で開発した評価方法を用いてトンネル接合の絶縁破壊現象を 解析したことについて述べる。トンネル素子のエージング現象と破壊後のトンネル接 合の状態について電流分光法を適用する。定電圧印加前後の電流分光スペクトルを 測定し、エージング現象を明らかにし、トンネル接合の寿命のバイアス方向による違 いの原因を明らかにしている。

また、絶縁破壊後のトンネル接合において、電流分光スペクトルを測定し、破壊後 の絶縁層の状態を明らかにしている。

第5章では本研究の結論を述べる。

(24)

第 2 章 実験方法

2.1 試料の作製方法

2.1.1 トンネル接合の構造及び形状

本研究に用いたトンネル接合はイオンビームスパッタ装置を用いてガラス基板上に 作製された Co(10 nm)/AlOx(2.5 nm)/Co(10 nm)と Co(10 nm)/MgOx(2.0 nm)/Co(10 nm)及びAl(100 nm)/AlOx (2.5 nm)/Al(100 nm)である。CoとAlを電極として、AlOx

及びMgOxを絶縁層として用いた。その形状をFig. 2-1 (a)に示す。メタルマスクを用い ることによりこのような形状に成膜した。1層目と3層目の電極が絶縁層をはさんで互 いに交差している。絶縁層は直径 2 mm 円形をしている。特に Co(10 nm)/AlOx(2.5

nm)/Co(10 nm)には電極抵抗を低減するために、上部と下部にそれぞれ 100 nm の

Alの電極層が積層しAl(100 nm)/Co(10 nm)/AlOx(2.5 nm)/Co(10 nm)/Al(100 nm)の5 層構造にした。その断面図をFig. 2-1 (c)に示す。2.1.3にCo/AlOx/Co 接合の作製方 法を述べる。

2.1.2 X 線光電子分光法測定用試料の構造及び形状

X線光電子分光法(XPS : X-ray Photoelectron Spectroscopy)の測定に用いた試料 はCo(10 nm)/AlOx (2.5 nm)と2層構造をしている。Fig. 2-1 (b)にその形状を(d)にその 断面図を示す。イオンビームスパッタ装置を用いてガラス基板上に直径8 mmの円形 状に成膜した。トンネル接合試料と同時に作製した。

(25)

25

(a) Shape of tunneling junction. (b) Sample shape for XPS measurement.

(c) Cross section of tunneling junction. (d) Cross section of sample for XPS measurement.

Fig. 2-1 Illustrations of tunneling junction.

(26)

2.1.3 トンネル接合の作製方法

① 基板の洗浄

使用したガラス基板は、植木工作所から購入したコーニング社製両面光学研磨ガ ラス基板(#1053 : SiO2・Al2O3 : 9.9 mm×9.9 mm×0.5 mm)である。

ガラス基板の表面を脱脂するために 10 分間超音波洗浄した。洗剤として、横浜油 脂工業社製無機アルカリ性洗浄剤L・G・Lを約1 %に希釈して使用した。洗浄後、流 水にて洗剤を洗い流したあと、浄水された水で5分間超音波洗浄した。

洗浄後、十分に流水にさらし、スピンドライヤーを用いて基板を乾燥させた。基板 が自然乾燥しないうちに、スピンドライヤーに乗せ、1200 rpm、140 s回転させてガラス 基板表面の水滴を飛ばした。

最後に、ガラス基板を試料ホルダにセットし、メタルマスクを装着して、イオンビーム スパッタ装置の準備室に入れて真空にした。準備室内のヒーターによりガラス基板を 250 ℃で1時間加熱し、その後、室温に冷却して、成膜を開始した。

② 下部電極の成膜

成膜には日本真空技術社製のイオンビームスパッタ装置を使用した。スパッタ装置

はFig. 2-2にあるように準備室と成膜室に分かれている。試料ホルダを準備室から成

膜室に移動し、真空度が~10–8 Torr になるまで待った。ターゲットの表面を清浄にす るため、試料ホルダの前のシャッターを閉じて5分間プレスパッタした。その後、シャッ ターを開けAlを100 nm成膜した。スパッタガスはArガスであり、純度が99.99995 % の純Ar ガスを用いた。膜厚は事前に測定したスパッタレートを用いて制御した。放電 には高周波放電に磁場を重畳した磁場中放電(ECR : Electron Cyclotron Resonance) を用いた。成膜中は、基板ホルダーを 7 rpm で回転させることにより、膜の均一化を はかった。スパッタ時の成膜条件はTable2-1の通りである。基板温度は室温、加速電 圧は1.25 kV 、A/D電圧は2.5 kV、Ar流量は20 SCCM、Anode Moni.は130 mAマ イクロ波発振電力0.3~0.33 kWとした。A/D電圧はイオンを引き出し、電子を追い出 すために印加する電圧で、Anode Moni.はマイクロ波発振管へ流す電流値のことであ る。

Alを成膜後、ターゲットをCoにかえて、真空度が~10–8 Torrになった後、5分間プ レスパッタした。その後、Coを10 nm成膜した。成膜条件はAlと同様である。真空度

が~10–8 Torrになった後、試料ホルダを準備室に移し、準備室を大気に戻した。

(27)

27

から成膜室に試料ホルダを移動し、真空度が~10–8 Torrになるまで待った。プレスパ ッタを 10分した後、2.5 nmの Alを成膜した。スパッタ条件などは下部電極成膜時と 同様である。

成膜後、試料ホルダを取り出し恒温槽にいれた。恒温槽内に1 atmの純酸素(純度

99.9999 %)を充満させ、200 ℃に加熱してAlを酸化させることで、絶縁層を作製した。

酸化時間は8 h~168 hと変化させた。

MgOx 絶縁層は反応性スパッタ法により作製した。下部電極を成膜後、メタルマス クを円形のスリットの絶縁層用に交換をし、再び準備室にいれた。準備室から成膜室 に試料ホルダを移動し、真空度が~10–8 Torrになるまで待った。ターゲットをMgOに 変更し、プレスパッタを10 分間行い、純度が99.99995 %の O2ガスをアシストガンか ら流量1 SCCMで流しながらMgOxを2 nm成膜した。

④ 上部電極の作製

絶縁層の作製後、下部電極と上部電極が互いに交差するように、メタルマスクを下 部電極の時から90 °回転させて装着し、試料ホルダをスパッタ装置に入れた。試料ホ ルダを成膜室に移し真空度が~10–8 Torrになった後、プレスパッタを5分間行ってか

らCoを10 nm成膜した。その後、ターゲットをAl に変えて、プレスパッタを5分間行

いAlを100 nm成膜した。成膜条件は下部電極成膜時と同様でTable2-1の通りであ

る。その後、試料を取り出せば完成である。

⑤ スパッタレートの決定方法

ガラス基板を洗浄し試料ホルダにセットした後、ガラス基板の半分をアルミホイルで 覆い、マスクした。その後、Al 又はCoを1 h成膜する。成膜後、アルミホイルをはが すと中央部分にシャープな段差ができる。その段差を DekTak-3030 型触針式段差計 で計測することで膜厚を測定した。その膜厚を成膜した時間で割り、スパッタレートを 計算した。Table 2-2にスパッタレートを示す。

(28)

Fig. 2-2 Schematic illustration of the ion beam spattering system.

rotary pump turbo molecular

pump

rotary pump

Sputtering chamber

Preparation chamber

heater

valve

turbo molecular pump target gate

sample holder

sample holder Rotation

Magnet

Al

Co Ar

ion gun

assist gun

MgO

oscillater microwave

microwave oscillater

(29)

29

Table 2-1 Spattering condition.

parameter Vacuum before sputtering ~ 10–8 Torr

Sputtering vacuum 4.9 ×10–4 Torr Temperature of substrate R.T.

Substrate rotation 7 rpm

Acceleration voltage 1.25 kV

A/D Voltage 2.5 kV

Ion current 17~21mA

Anode Moni. 130 mA

Microwave oscillation power 0.3~0.33 kW

Discharge gas Ar

Gas flow 20 sccm

Table 2-2 Spattering ratio.

Spattering Ratio (nm/s)

Al 0.0510

Co 0.0356

(30)

2.2 絶縁層の評価方法

2.2.1 電気特性の測定

2.2.1–1 電流–電圧特性の測定

電流–電圧(I–V)特性はFig. 2-3 の回路を用いて直流4端子法で測定した。バイポ

ーラ直流電圧源(高砂製作所製 BWA25-1)により、回路に電圧を印加し、接合部の電 圧・電流はKEITHLEY社製デジタルマルチメータKEITHLEY 2000 MULTIMETER で測定した。回路の電流は1 Ω抵抗の電圧を測定し、その値を電流値とした。接合部

の電圧を0.015 V刻みで変化させ、0 Vから+0.3 Vまで上昇させていき、そこから–0.3

Vまで減少させていき、再び0 Vまで電圧を上昇させた。測定プログラムは付録に付 した。

Fig. 2-3 Measurement circuit for IV characteristics.

Multimeter

Multimeter 1 Ω

Tunnel Junction

(31)

31

2.2.1–2 定電圧の印加による抵抗変化の測定

トンネル接合の定電圧印加による特性変化を調べるために、トンネル接合に一定の 電圧を印加し、その抵抗変化を測定した。抵抗値は接合部の電圧と回路の電流を 4 端子法で測定し、その値から抵抗値を算出した。接合の印加電圧を一定にするため に、接合部の電圧を測定する毎に電源電圧を比例制御している。測定回路の構成は IV特性を測定するのに用いた回路Fig.2-3 と同じである。

接合部の電圧が設定電圧になった時に回路に印加されている電圧を調べ、その電 圧を初期電圧とした。回路に初期電圧を印加 15 s 待った。接合部の電圧と電流を測 定し、その電圧と設定電圧の差分を印加電圧に足した値を回路に印加し15 s 待った。

この過程を240回繰り返した後、電圧の印加をとめて、I–V特性を±0.3 Vの範囲で測 定した。再び、回路に初期電圧を印加し、同様の過程を繰り返した。バイポーラ直流 電圧源(高砂製作所製 BWA25-1)により、回路に電圧を印加し、接合部の電圧・電流 はアドバンテスト社製デジタルマルチメータ TR6846で測定した。測定プログラムは付 録に付した。

(32)

2.2.1–3 電流分光スペクトルの測定方法

Fig.2-4 の回路を用いて測定を行った。直流電流に微少な交流電流を重畳するため

に、バイポーラ直流電圧源(高砂製作所製 BWA25-1)と交流電圧源(ロックインアンプ 内蔵の発振器)を並列に接続した。直流電圧源に交流電流が流れ込まないように抵 抗とコンデンサによりローパスフィルタを、交流電圧源に直流電流が流れ込まないよ うに4.7 μF のコンデンサを直列に挿入した。このローパスフィルタのカットオフ周波数 の計算値は0.34 Hzである。交流の周波数は、直流電圧源への流れ込みを考慮する と高い方がよいが、高周波数では素子のキャパシタンス効果等の影響が現れる可能 性がある。ここでは12.5 kHzとした。印加交流電圧の周波数が12.5 kHzのみになる ように、さらに交流電源に含まれる25 kHz成分を減らすために12.5 k Hzのバンドパ スフィルタ及び25 kHzのノッチフィルタを挿入した。

電流分光測定は主に液体窒素温度で行った。直流電圧・電流は KEITHLEY 社製 デジタルマルチメータ(KEITHLEY 2000 MULTIMETER)で測定した。直流電圧は0 V から接合部の電圧を0.05 V刻みで上昇させていき、0.2 Vで反転させ–0.2 Vまで同様 に減少させた。この時、上部電極から下部電極に電流が流れる場合を正の電圧とし た。交流電圧・電流はエヌエフ回路設計ブロック製2位相ロックインアンプ5610Bで測 定した。なお、交流電圧は直流電圧を変化させ、ロックインアンプの出力が定常にな るのを待った後(28 s後)に測定した。交流の変調電圧値は2 mVとした。時定数は1 s に設定した。(1-13)式より、2階微分特性を計算するためには12.5 kHzの交流電圧値 (基本波)、交流電流値、及び、25 kHzの交流電圧値(第2高調波)を測定する必要が ある。第 2 高調波の値は特に小さくノイズの影響を受けやすいので、ロックインアンプ についているバンドパスフィルタのQ値を30に設定し測定した。電圧値は直流、交流 ともに 4 端子法により素子の両電極の電位差を測定した。電流値は回路中の標準抵

抗(1 Ω)にかかる電圧を測定することで求めた。測定プログラムは付録に付した。

(33)

33

Fig. 2-4 Measurement circuit for current spectroscopy.

Multimeter Lock-in amp 600Ω

470Ω 10kΩ 4.7μF

1mF 470Ω

1Ω 10nF

28.8nF 3.9mH

3.9mH 12.5kHz

12.5 kHz path

LPF

Multimeter Lock-in amp

Tunnel junction 25 kHz cut

(34)

2.2.1–4 比誘電率による評価

作製した Co/AlOx/Co の比誘電率を測定し、バルクのアルミナの値と比較すること

で、絶縁層の状態を評価した。比誘電率はトンネル接合のキャパシタンス C を測定し てC0εS/dより求めた。εは誘電率、Sは接合面積、dは膜厚である。 εを求める際の 膜厚dは2層ポテンシャルモデル(次節参照)によるフィッティング結果を用いた。キャ パシタンスCの測定には、ヒューレット・パッカード社製のLCRメータ4284Aを用いて 交流4端子法により測定した。測定条件は100 kHz、10 mVとした。接合面積Sの測 定にはレーザーテック社の走査型レーザー顕微鏡(1LM21WH)を用いた。接合部の 外周の長さを測定し計算した。

(35)

35

2.2.2 2 層モデルシミュレーションを用いた評価

トンネル接合に用いる絶縁層AlOxはAl薄膜を純酸素雰囲気中で酸化させて作製 する。その為形成される絶縁層は膜厚方向に均一ではなく、酸素が外部から供給さ れる表面付近とCo側の深い領域では環境が異なり、いくつかの相に分かれている可 能性が考えられる。

そこで、膜厚方向に不均一さの考慮したポテンシャルモデルとしてArakawa, et al.

[49]により考案された 2 層ポテンシャルモデルを用いてI–V特性を計算して、測定した I–V曲線にフィッティングすることで絶縁層を評価した。2層ポテンシャルモデルは、Fig.

2-5のように2つの絶縁障壁があると仮定して、トンネル電流を計算するモデルである。

フィッティングパラメーターはそれぞれの絶縁障壁の障壁高さφaφb、膜厚d、絶縁障 壁の割合βである。

Simmonsの理論はトンネル電流を計算するに当たって、透過率T (Ex)をWKB近似

を用いて計算しているが、2層モデルでは電子を自由電子近似し、シュレディンガー 方程式を解析的に解くことで透過率T (Ex)を計算している。

2層ポテンシャルモデルでは、ポテンシャル関数U(x)を

⎪⎪

⎪⎪⎨

<

<

− +

<

<

− +

=

) (

) 0

( )

(

d x d d x

eV

d x d x

eV x

U

b F

a F

β φ

ε

β φ

ε

     

(2-1)

とおき、シュレディンガー方程式

) ( )

( ) 2 2 (

2 2

x E x x x U

m ψ = xψ

⎭⎬

⎩⎨

⎧ +

− = ∂

(2-2) を解いて、波動関数を解析的に算出する。

その波動関数を用いて、透過率T (Ex)を

2

) 4

( δ

δ

= − ik E ik

T x ただし、

) (

) (

d d

cal cal

ψ

δ =ψ (2-3)

と計算している。

この透過率を電流Iを表す式

( )

{ }

( )

{

F F x x B B

}

x

E x

B dE

T k V E

T k E E

h T TA J mek

A I

m

⎥⎦

⎢ ⎤

− +

= +

×

= 4π

( )ln 11expexpε ε

0

3 (2-4)

に代入してトンネル電流を計算する。Aは接合面積である。

フィッティングパラメーターはパラメーターを順次変えてトンネル電流を計算し、

(36)

(2-5)式で計算される誤差がもっとも小さくなった時のパラメーターに決定する。

=

= N

i MAX

i i cal

I I Q I

1

exp (2-5) I iexpは実験値、I MAXは電流の最大値、I icalは計算値、Nは実験データの総数である。

後述するように、素子の断面TEM像から、フィッティングにより膜厚dが正しく求めら れることを確認した。したがって、障壁高さ等のパラメーターはフィッティングで一義的 に求められると考えられる。なおこの研究ではφaφb < 0.1 eVまたはβ < 0.1またはβ >

0.9と評価された素子は膜厚方向に均一な絶縁層を有する接合と考えた。

Fig. 2-5 Schematic illustration of the two-potential model.

(37)

37

2.2.3 X 線光電子分光法による評価

X線光電子分光法(XPS)を用い、絶縁層の組成比及び絶縁層内の金属Alの分析 を行った。本研究で利用した装置は、日本電子(株)社製のJPS-9000MC型X線光電 子分光装置である。イオンエッチングと測定を繰り返し、深さ方向分析(デプスプロファ イル)を行った。測定条件はTable 2-3、2-4、エッチングの条件はTable 2-5の通りであ る。

未酸化Alの割合は波形分離したAl–AlピークとAl–Oピークの強度比より求めた。

ガラス基板上にAlを100 nm成膜した試料を用い金属Alのピークを測定した。その ピークを分析対象の試料のAl–Alピークの最大値と強度が同じになるようにかんざん し、実際の測定結果のピーク強度から引くことで、測定結果からAl–Oピーク波形を分 離した。実際に測定したAl 2pピークの積分強度から波形分離したAl–Oピークの積 分強度を引いた値をAl–Alピークの積分強度とした。Fig.2-6が金属AlのAl 2pピー クである。

また、Al2O3標準試料(サファイア)のAl 2p(Al–O)ピーク波形とO 1sピーク波形の 積分強度の割合を1.5として、実際に測定した試料から得られたAl–OピークとO 1s ピークの波形の積分強度の割合から絶縁層の組成比O–Alレシオを求めた。O–Alレ シオとは、形成された絶縁層に関して、Al 1原子にどれだけのO原子が結合している かを示す値である。例えばAl2O3の場合は、1.5である。Fig.2-7、2-8は標準試料のO

1sピークとAl 2pピークである。その積分強度はTable 2-6の通りであり、強度比O/Al

は6.3である。

O–Alレシオ及び未酸化Alの割合の酸化時間依存性は6 sエッチングした後に測定 された値を用いて調べた。これは、大気暴露された試料表面の影響を除去するため である。

(38)

Table 2-3 Parameters of X-ray.

X-ray Current (mA)

Voltage (kV)

Vacuum (Torr)

Analyze area (mm2) AlKα 10 10 3.8×10–8 28

Table 2-4 Conditions of measurement.

Peak Scan range (eV)

Pass energy (eV)

Voltage step (eV)

Nomber of scans

Dwelll time (ms)

Co 1s 790~760 10 0.1 5 100

O 1s 545~515 10 0.1 5 100

Al 2p 85~63 10 0.1 5 100

Table 2-5 Etching conditions.

Gas Voltage (V) Current (ms) Time (s) Vacuum (Torr)

Ar 500 78 6 3.8×10–4

Tabele 2-6 Standard Al2O3 sample.

Peak Area Al 2p 4579.6

O 1s 29206.8

(39)

39

70 72

74 0 76

200 400 600 800 1000

Int ens it y (a rb. uni ts )

Binding energy (eV)

Fig.2-6 Al 2p peak for metallic Al.

525 530

535 540 0

2000 4000 6000

In ten sity ( ar b. u nits )

Binding energy (eV)

Fig.2-7 O 1s peak for standard Al2O3 sample.

(40)

70 72

74 76

78 0 80

200 400 600 800 1000

In ten sity ( ar b. u nits )

Binding energy (eV)

Fig.2-8 Al 2p peak for standard Al2O3 sample.

また、XPS により深さ方向の濃度分布を調べた。まず、エッチングをしないで試料

のAl 2pピーク、O 1sピーク、Co 2pピークの強度を測定した。その後、6 sエッチング

をし、再びそれぞれのピーク強度を測定した。このように、エッチングと測定を繰り返 すことにより、深さ方向の濃度分布を調べた。

XPS の深さ方向のエッチング時間が実際の AlOxの膜厚ではどの程度の厚さを分 析しているのかを定量化を行った。以下にその定量化の方法を示す。

XPSの絶縁層評価で用いた200 ℃で24時間酸化して作製したAlOx/Co 2層膜試 料の半分にアピエゾンワックスを塗りマスクした。その試料をXPSのエッチングユニッ トを用いて120 s エッチングを行った。エッチング後、トリクロロエチレンでワックスを溶 かし、島津製作所製の走査型プローブ顕微鏡(SPM : Scanning Probe Microscopy)の 原子間力顕微鏡(AFM : Atomic Force Microscopy)モードを用いて、エッチングを行っ た面とマスクしてあった面の中心部の段差を測定した。走査領域は20 μm×20 μmとし た。測定された段差は12 nm程度であった。

(41)

41 程度である。

AlOxの膜厚は上部の2.5 nm程度であるとすると、残りの9.5 nmがCoと考えられ る。よってCo/AlOx膜のCoをエッチングするのにかかる時間は31.7 sである。残りの 88.3 sでAlOxをエッチングしたとすると、AlOxのエッチングレートは0.03 nm/sと見積も られる。40 s程度エッチングした場合、XPSでは表面から1.2 nm程度までの組成比を 分析していることになる。

(42)

2.2.4 透過型電子顕微鏡による評価

AlOxの結晶構造をFEI社TECNAI 12型Transmission Electron Microscope (TEM) を用いて観察した。電子の加速電圧は200 kVとした。

観 察 用 の 試 料 の 作 製 方 法 を 以 下 に 示 す 。 試 料 に は ガ ラ ス 基 板 上 に Al(100 nm)/Co(10 nm)/AlOx(2.5 nm)/Co(10 nm)/Al(100 nm)と5層に成膜されたものを用いた。

これはトンネル接合と同時に作製され、直径8 mmの円形に成膜されている。エポキ シ樹脂を用いて成膜されたガラス基板を2枚張り合わせ、切断面にAlOxの断面が出 るように、ダイアモンドカッターで1 mm幅に切り取った。切断面を厚さが約80 μmにな るまで研磨し、バイコウスキージャパン社製アルミナ研磨剤バイカロックスで鏡面にな るまで研磨した。研磨した面に深さ約40 μmのくぼみをディンプラーを用いて作った。

ディンプラーで開けたくぼみをアルミナ研磨剤で研磨し、そのくぼみによって薄くなった 部分にイオンミリングで小さな穴を開けた。その穴の周辺部に電子が透過できるぐら い薄い部分ができるので、その部分にあるAlOxの断面をTEMで観察した。

(43)

43

第 3 章 Al 薄膜の熱酸化過程

3.1 Co/AlO

x

/Co トンネル接合の電気特性

3.1.1 8 h 熱酸化接合

Fig. 3-1は8 h熱酸化したCo/AlOx/Co接合の室温での IV特性の測定結果と、2 層モデルによるフィッティング結果である。白丸が測定結果で、曲線はフィッティング によって推定された計算結果である。電圧の増加にともない抵抗が低下しており、ト ンネル伝導的な伝導特性をしていることがわかる。Table 3-1にフィッティングによって 求められたパラメーターと比誘電率をまとめた。均一性(Uniformity)は深さ方向の均 一性を表しており、|φa φb|の値が0.05 eV以下の接合もしくはβ > 0.9またはβ < 0.1 の接合を均一である(○)として示した。φaの平均値は0.95±0.10 eVでありφbの平均値 は0.85±0.12 eVであった。8 h酸化ではφaφbの差が大きく不均一な絶縁層と判断さ れた接合が多い。平均の膜厚は1.82±0.08 nmであった。また、比誘電率は16前後の 値である。

Fig. 3-2は8 h熱酸化したCo/AlOx/Co接合の電流分光スペクトルである。どの試料

でも±0.03 V 付近にピークが観察され、プラス側のピークがマイナス側のピークよりも 大きいという結果になった。非対称なスペクトルをしている。±0.2 V までの範囲ではこ のピーク以外のピークは観察されなかった。

Table 3-1 Uniformity and relative permittivity of Co/AlOx/Co junctions with 8 h thermal oxidation.

Sample

No. φa (eV) φb (eV) d (nm) β

relative

permittivity Uniformity

1 0.87 0.58 1.89 0.75 19 ×

2 0.76 0.68 2.01 0.62 16 ×

3 1.37 1.11 1.58 0.72 14 ×

4 0.74 0.70 1.95 0.50 17 ○

5 0.82 0.73 1.93 0.48 16 ×

6 1.16 1.30 1.54 0.04 14 ○

(44)

-0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 -0.01

0 0.01

Voltage (V)

Current (A)

experiment calculation

-0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 -0.01

0 0.01

Voltage (V)

Current (A)

experiment calculation

(a) No. 1 sample. (b) No.2 sample.

-0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 -0.005

0 0.005

Voltage (V) Current (A) experiment

calculation

-0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 -0.005

0 0.005

Voltage (V) Current (A) experiment

calculation

(c) No.3 sample. (d) No.4 sample.

-0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 -0.01

0 0.01

Voltage (V)

Current (A)

experiment calculation

-0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 -0.004

-0.002 0 0.002 0.004

Voltage (V) Current (A) experiment

参照

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