9 . 完備距離空間
科目: 数学演習IIB( d組)
担当: 相木
距離空間
前期でも扱ったが,まず距離空間を復習する.
距離関数
Sを空でない集合とする.関数dをS ×S上で定義された実数値関数(つまり,d : S×S→R)で以下の4つを満たすとする.
(D1) ∀x, y ∈S, d(x, y)≥0.
(D2) x, y ∈Sに対して以下の同値性が成り立つ.
d(x, y) = 0 ⇔ x=y
(D3) ∀x, y ∈Sに対してd(x, y) =d(y, x).
(D4) dは以下の三角不等式を満たす.
∀x, y, z∈S, d(x, z)≤d(x, y) +d(y, z).
このとき,dをS上の距離関数という.
距離空間
Sを空でない集合とし,dをS上の距離関数とする.このとき,2つを合わせた組,
(S, d)を距離空間という.
また,距離空間(S, d)において,x, y ∈Sに対して実数d(x, y)を2点x, yの間の距離 という.
距離空間の典型例はユークリッド距離を定めたユークリッド空間(Rn, d(n))である.
注意:同じ集合Sに対して複数の距離関数を定義することが出来るときもある.例えば R2に対してユークリッド距離d(2)以外にも,x∈R2をx= (x1, x2)と表したとき,
d(2)∞(x,y) = max{|xi−yi| | i= 1,2}
ある(つまり,x,y∈R2に対して一般にはd(2)(x,y)̸=d(2)∞(x,y)である).
したがって,距離空間の議論をする際には,台集合と共に距離関数を明確にする必要 がある.
距離空間(S, d)が与えられたとき,M ⊂Sに対して,自然とMに距離関数を定義し,
距離空間を作ることができる.
部分距離空間
(S, d)を距離空間とし,M ⊂Sとする.M ×M上の関数dM をx, y ∈Mに対して dM(x, y) =d(x, y)
によって定めるとdM はM上の距離関数となり,(M, dM)は距離空間になる.このよ うにして構成された距離空間(M, dM)を(S, d)の部分距離空間という.
つまり,元の距離関数dの定義域を縮小すれば部分集合M 上の距離関数が定まるのであ る.感覚的にも当然そうなるであろうと感じると思う.また,特に区別する必要がないと きはdM といちいち書かず,元の距離関数の記号dをそのまま使うことも多い.
距離位相
距離空間(S, d) においては距離関数を用いて距離位相O(d)が導入されたことを思い
出そう.それは
O(d) ={O ⊂S | ∀x∈O, ∃ε >0 s.t. Bd(x;ε)⊂O} ∪ {∅}
で定義されるものであった.ただし,Bd(x;ε)は距離dを用いて定まる開球で Bd(x;ε) ={y ∈S | d(x, y)< ε}
である.
距離空間における閉集合の特徴付け
(S, d)を距離空間とし,M ⊂SはM ̸=∅とする.位相空間(S,O(d))において以下の 2つは同値である.
(i) M は閉集合である.
(ii) ∀ε >0, Bd(x;ε)∩M ̸=∅.
距離空間上の連続写像
(S1, d1)と(S2, d2)を距離空間とする.写像f :S1 →S2に対して以下は同値である.
(i) fは位相空間(S1,O(d1))から(S2,O(d2))への連続写像である.
(ii) ∀a ∈S1, ∀ε >0, ∃δ >0 s.t.∀x∈S1 (
d1(a, x)< δ ⇒ d2(f(a), f(x))< ε)
距離関数の同値性
Sを空でない集合とし,d1とd2を共にS上の距離関数とする.
O(d1) = O(d2)
が成り立つとき,d1とd2は同値な距離関数であるという.
注意:d1とd2が異なる距離関数(つまり,x, y ∈ Sでd1(x, y)̸=d2(x, y)となるもの がある)であってもO(d1) =O(d2)となることはある(演習問題).つまり,距離位 相が一致することと距離関数が一致することは同値ではない.
完備距離空間
ここから本題に入る.距離空間に対して「完備性」という概念を導入する.そのため にいくつか復習をする.
距離空間における点列の収束
(S, d)を距離空間とし,{an}∞n=1 をS内の点列とする(つまり,∀n ∈N, an∈S).こ のとき,点列{an}∞n=1がα∈Sに収束するとは
∀ε >0, ∃N0 ∈N s.t.∀n≥N0, d(an, α)< ε
が成り立つことである.このとき,αを点列{an}∞n=1の極限といい,{an}∞n=1がαに 収束することを
nlim→∞an =α
などと書く.極限を持つような点列を収束点列という.
距離空間におけるコーシー点列
(S, d)を距離空間とし,{an}∞n=1をS内の点列とする.点列{an}∞n=1が以下を満たす とき,{an}∞n=1はコーシー点列(あるいは基本点列)であるという.
∀ε >0, ∃N0 ∈N s.t.∀n, m≥N0, d(an, am)< ε
これらはいずれも1年生のときに学んだRにおける収束列・コーシー列を一般の距離空 間の場合に言い換えたものになっている.ここで,Rにおいては数列がコーシー列である ことと収束列であることが同値であったことを思い出そう.実は,これがまさに完備性な のである.
距離空間の完備性
(S, d)を距離空間とする.S内の任意のコーシー点列がS内に極限を持つとき,(S, d)
は完備距離空間である,あるいは距離空間(S, d)は完備であるなどと言う.
一般には距離空間(S, d)のコーシー点列がS内に極限を持つとは限らない.実際,開区間
S = (0,2)はユークリッド距離d(1)を距離関数として距離空間になる.しかし,an = n1 に
よって定まる点列はS内のコーシー点列であるが,その極限である0は0̸∈Sなのでこの 距離空間は完備ではない.
例えば(R, d(1))は完備距離空間である.更に言えば(Rn, d(n))も完備距離空間である.
以下の問題においては特に断らない限り,距離空間(S, d)に対してO(d)は距離関数dか ら定まる距離位相を表すものとする.
予約制問題
♣ (S, d)を完備距離空間とし,M ⊂Sとする.以下の2つは同値である.
(i) 部分距離空間(M, dM)は完備である.
(ii) M は位相空間(S,O(d))の閉集合である.
(9-1) ♣の (i)⇒ (ii) を示せ.
(9-2) ♣の (ii) ⇒ (i)を示せ.
(9-3) R2においてユークリッド距離d(2)と解説部分で定義した距離関数d(2)∞ は同値な距 離関数であることを示せ.
(9-4) 「距離空間上の連続写像」の (i) ⇒ (ii) を示せ.
早いもの勝ち制問題
♠ 空でない集合SとS上の距離関数d1, d2に対して以下は同値である.
(i) d1とd2は同値な距離関数である.
(ii) S内の任意の点列{an}∞n=1とa∈Sに対して
nlim→∞d1(an, a) = 0 ⇔ lim
n→∞d2(an, a) = 0 が成り立つ.
(9-5) ♠の (i)⇒ (ii) を示せ.
(9-6) ♠の (ii) ⇒ (i)を示せ.
(9-7) 「距離空間上の連続写像」の (ii) ⇒ (i)を示せ.