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食品系未利用バイオマスの 高度利用化の現状と可能性 - J-Stage

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【解説】

バイオマス利用による資源循環型社会の構築はバイオサイエ ンスに与えられた重要な課題である.木質系ハードバイオマ スと比べ,ソフトバイオマスである食品加工残渣は結晶性が 低く,比較的再利用しやすい利点をもつ.また,植物種によ り細胞壁多糖成分や二次代謝産物が異なることから,有用物 質生産の出発素材として高いポテンシャルがある.一方で,

細胞壁構造が多様であるため,各加工残渣の分解条件の最適 化は煩雑であり,汎用性の高いプロセス開発が求められてい る.本稿では加工残渣の利用における現状と可能性を解説す るとともに,最近注目を集めているマイクロ波処理による植 物組織の分解法についても紹介する.

はじめに

食品リサイクル法においては,食品製造業や小売業,

卸売業,外食産業から発生する加工残渣や売れ残り,調 理くず,食べ残しなどを「食品廃棄物」と規定してい る.食品廃棄物の発生量は年間約2,100万トン(平成22 年度)に達し,その約8割が食品製造業から排出されて

いる.一方,「バイオマス・ニッポン総合戦略」では,

バイオマスとは「再生可能な,生物由来の有機性資源で 化石資源を除いたもの」と定義していることから,本稿 においては「食品廃棄物」を有用資源と捉え,「食品系 未利用バイオマス」と呼ぶ.食品加工残渣は,ほかの食 品系未利用バイオマスと比べて,性状が均一であり,ま た1カ所に集積されていることから,再利用しやすく,

食品製造業による再生利用率等実施率は94%と高い

(平成22年度)

.現在の主な使用用途は肥料と飼料であ

るが,これらのバイオマス中には豊富な糖質をはじめ 種々の用途が期待される植物二次代謝産物が含有されて いることから,体系化された開発システムを構築するこ とができれば,より付加価値の高い物質を複合的に生産 することが期待できる.本稿では食品系未利用バイオマ スの中で発生量の多い植物由来の食品加工残渣に焦点を 絞り,糖質および植物二次代謝産物の高度利用化の現状 と可能性について紹介する.

植物細胞壁多糖の構造

植物バイオマスの主成分である細胞壁は,自然界で最

食品系未利用バイオマスの 高度利用化の現状と可能性

阪本龍司 * 1 ,尾﨑嘉彦 * 2

Utilization of Food Waste Biomass : Current State and Perspectives Tatsuji SAKAMOTO, Yoshihiko OZAKI, *1大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科,*2近畿大学生物理工学部

(2)

も豊富な有機化合物であり,セルロース,ヘミセルロー ス,ペクチンおよびリグニンなどから構成される.これ らの構成比は植物種や生育段階により異なるが,一般に 食品製造時に発生する非可食部は,木質系バイオマスと 比べてリグニン含量が低く,ヘミセルロースおよびペク チン含量が比較的高い.表

1

に代表的な食品系未利用バ イオマスの主要中性糖組成をまとめた(1)

.ここではヘミ

セルロースとペクチンに焦点を絞り,解説する.

ヘミセルロースとはセルロースとペクチン以外の細胞 壁多糖の総称であり,アルカリ溶液で容易に抽出するこ とができる.主要なヘミセルロースであるキシラン,マ ンナン,キシログルカンの構造模式図を図

1

に示すが,

これらは分岐へテロ多糖である場合が多く,その含有成 分および構造は植物種により異なる.キシランはセル ロースに次いで多量に存在する細胞壁成分である.主鎖 の 

β

-1,4-キシランはアラビノフラノースや4- -メチルグ ルクロン酸,フェルラ酸,酢酸などで修飾されており,

修飾基の異なるグルクロノキシランやアラビノグルクロ ノキシラン,アラビノキシランなどが知られている(2)

食品系未利用バイオマスであるコーン種皮や小麦フスマ などではアラビノキシランとして存在している.マンナ ンは 

β

-1,4-マンナンを主鎖にもつ多糖であり,構造の違 いによりマンナン,ガラクトマンナン,グルコマンナ ン,ガラクトグルコマンナンなどが知られている(3, 4)

ココナッツ由来の脱脂コプラでは側鎖ガラクトース修飾 の少ない不溶性マンナンが主要ヘミセルロースである.

グルコマンナンは主鎖中にグルコースが介在した構造を もち,木質系バイオマスに多く存在する.キシログルカ ンは一次細胞壁中の主要なヘミセルロース成分であり,

細胞壁伸長の制御に重要な役割を果たす.主鎖の 

β

-1,4- グルカンは高頻度で側鎖キシロースを有し,側鎖はさら に部分的にフコースやガラクトース,アラビノースで修 飾される(5)

ペクチンは自然界において最も複雑な構造を有する生 体高分子多糖の一つであり,ホモガラクチュロナン 

(HG) やキシロガラクチュロナン (XGA), ラムノガラク チュロナン I (RG-I), ラムノガラクチュロナン II (RG- II), アラビナン (ABN), アラビノガラクタン I (AG-I),  アラビノガラクタン II (AG-II) などの異なる7つの糖鎖 領域から構成される(6)

.各糖鎖の構造解析は進んでいる

が,各糖鎖間の結合様式については不明な点が多い.提 唱されているペクチンモデルの一つを図

2

に示すが,本 モデルではHGとRG-Iの繰返し構造をもち,RG-I近傍 には多量の中性糖鎖が結合する(図

3

.ペクチンの分

子量や各糖鎖成分の存在比などは植物種により大きく異 なる.たとえば,甜菜ペクチンは低分子量でABNに富 み,大豆ペクチンはAG-IやXGAに富む.ペクチンは代 表的な水溶性食物繊維であり,工業的にはカンキツ類や リンゴ搾汁粕を原料として酸抽出されている.

機能性糖質素材としての利用

このように植物種により細胞壁成分は多様であり,

表1食品系未利用バイオマスの主要中性糖組成(g/100 g乾燥バイオマス)

バイオマス グルコース マンノース ガラクトース キシロース アラビノース

コーン(種皮) 38.5 (21.3)* ― ― 22.0 10.9

コムギ(フスマ) 33 (20)*   0   1 16   9

サトウキビ(バガス) 40.2   0.5   1.4 22.5   2.0

ココナッツ(脱脂コプラ) 12.0 34.6   1.4 ― ―

コーヒー(抽出粕)   8.6 21.2 13.8 ―   1.7

甜菜(ビートパルプ) 21.1   1.1   5.1   1.7 20.9

*カッコ内はデンプン由来のグルコース量を表す.

図1キシラン 1マンナン 2キシログルカン 3 の構造 Xyl : キシロース,Ara : アラビノース,4- -MeGlcA : 4- -メチル グルクロン酸,Fer : フェルラ酸,Ac : 酢酸,Glc : グルコース,

Man : マンノース,Gal : ガラクトース.側鎖の存在比は植物種に より異なる.

(3)

種々の植物由来バイオマスからさまざまなタイプの多糖 が調製されており,ゲル化剤,増粘剤,安定化剤,乳化 剤,デンプン改質剤などとして食品,化粧品,医薬品の 分野で利用されている.それらの物性は分子構造により 変化し,主鎖構造だけではなく,分子量や修飾基により 大きく影響を受ける.たとえば,ペクチンはHG中の主 要構成成分であるガラクチュロン酸残基のカルボキシ基 のメトキシ化度が高い場合は酸性下で糖を添加するとゲ ル化し,低い場合にはカルシウムイオンなどの存在下で ゲル化する.また,甜菜ペクチンは分子量が低く,ガラ クチュロン酸残基の水酸基のアセチル化度が高いために ゲル化能が弱い.タマリンド種子由来のキシログルカン ガムについてはガラクトース側鎖の量がゲル化能に影響 することが知られている(7)

.一般的に側鎖含量が高くな

ると水溶性が向上し,ローカストビーンガムやグアーガ ムなどのガラクトース側鎖の多いガラクトマンナンは増 粘剤として利用されている.一方,近年では糖鎖分析技 術の進歩に伴い,各種糖質に対してさまざまな分解様式 を有する酵素が発見されている.アラビノキシラン分解 酵素を例に挙げると,一般的なエンド型キシラナーゼや キシロシダーゼのほか,アラビノース側鎖をもつ主鎖部 分を特異的に分解するアラビノキシラナーゼや側鎖修飾 基を切断するアラビノキシラン特異的アラビノフラノシ ダーゼ,アセチルキシランエステラーゼ,フェルラ酸エ ステラーゼなどがある(8)

.このような基質特異性の異な

る酵素を使用することにより,多糖の分子量や側鎖構造

(量および分布)を限定的に変化させ,その物性を改変 することは可能であることから,さまざまな食品系未利 用バイオマス由来の多糖類を原料とした新規な機能性素 材の開発が期待できる.たとえば,オカラから調製され

る大豆多糖は乳化活性を有するが,これをRG-I分解酵 素で処理した場合には,その活性が大幅に向上すること が見いだされている(9)

.また,上記のように甜菜ペクチ

ンのゲル形成能は低いが,本ペクチン中のフェルラ酸含 量が高いことを利用して,ラッカーゼなどによりフェル ラ酸架橋を形成させることにより,ゲル強度を高めるこ とができる.酵素反応時にアラビノフラノシダーゼを添 加するとフェルラ酸付近の立体障害がなくなり,ゲル強 度をさらに高めることができる(10)

.現在のペクチン製

造は酸抽出法により行われており,本条件では大部分の 中性糖は分解し,HGを主成分としたペクチンが得られ るが,切断領域が異なる酵素を用いて植物組織を限定分 解することにより,物性の異なるペクチンの調製が可能 になるかもしれない.そのためにはペクチンの詳細構造 を明らかにし,物性との相関を解析することが課題とな るであろう.

オリゴ糖は食品産業において広く利用されており,構 造的には単糖が2 〜 10個結合した糖質である.特性と しては,抗う蝕性,低カロリー性,ビフィズス菌選択増 殖活性,味質改善,退色抑制効果,病原性細菌の腸管細 胞付着阻害,静菌作用,免疫調節活性,抗酸化作用,抗 がん活性,抗アレルギー活性,脂肪吸収抑制効果,内 臓・皮下脂肪低減効果,皮膚症状改善効果など多くの機 能が認められている(11)

.トレハロースやパラチノース,

ガラクトオリゴ糖などの機能性オリゴ糖はデンプンや砂 糖,乳糖などの安価な天然糖質を原料に,糖質加水分解 酵素の糖転移能や縮合能を利用して生産されることが多 い.一方,より安価な食品系未利用バイオマスを原料と したオリゴ糖生産としては,甜菜由来の廃糖蜜からのラ フィノース,脱脂大豆由来の大豆ホエーからの大豆オリ ゴ糖,コーンコブやコーヒー粕などの分解により得られ るキシロオリゴ糖やマンノオリゴ糖が知られているが,

開発例は意外に少ない.しかしながら,上記のようにヘ ミセルロースやペクチンは多様な構造を有するヘテロ分 岐多糖であることから,特異な酵素を単独あるいは組み 合わせて作用させることにより,アラビノキシロオリゴ 糖やアラビノガラクトオリゴ糖などの,これまでにない さまざまなタイプのヘテロ分岐オリゴ糖を調製できるポ テンシャルを秘めている.筆者らの研究室ではペクチン 分解酵素の機能解析を行っており,基質特異性や分解様

図2ペクチンの構造模式図 それぞれの糖鎖の略称は文中に示し た.

図3RG-Iの構造模式図

GalA : ガラクチュロン酸,Rha : ラムノース,Ara : アラビノース,

Gal : ガラクトース,Fer : フェルラ酸,Ac : 酢酸.

(4)

式の異なるさまざまな酵素を獲得し,実験室レベルでは あるが,ペクチン構成成分のうち,RG-II以外の6領域 に由来するオリゴ糖を得ることが可能となっている.

植物由来食品系未利用バイオマスの主要構成糖はグル コース,キシロース,アラビノース,マンノース,ガラ クトース,ガラクチュロン酸である.このうち,アラビ ノースとマンノースは機能性糖質として大量生産されて いる.アラビノースは小腸スクラーゼ阻害活性を有し,

ショ糖の消化吸収を抑制できることから,糖尿病予防食 品素材として有用である(12)

.現在はコーンファイバー

中のアラビノキシランや甜菜パルプ中のアラビナンを酸 あるいは酵素分解することで生産されている.マンノー スにはサルモネラ菌定着抑制効果があり,マンノース添 加飼料を家畜に与えると,腸内のサルモネラ菌数を減少 させることができる(13)

.工業的にはヤシ油抽出粕中に

含まれるマンナンを酵素処理することにより製造されて いる.

ヘミセルロース由来の糖アルコールであるキシリトー ルやマンニトールは,甘味料や浸透圧調整剤,利尿剤な どとして利用されている.また,近年ではキシリトール とアラビニトールはバイオリファイナリーにおける重要 なビルディングブロックとして米国エネルギー省により 選定されており,今後の大きな有効利用法の一つになる ものと考えられるため,純度の高いキシロースやアラビ ノースの安価な生産系の開発が重要となるであろう.

二次代謝産物の利用技術の変遷

食品加工残渣は一般に水分含量が高く,保存性は低 い.また,発生量の季節的な変動が大きいことも特徴で ある.さらに,食品加工残渣に含まれる二次代謝産物 は,多くの場合,低濃度であるため,何らかの抽出を 行った後にも依然として抽出残渣が発生する.これらの 理由から,食品加工残渣を対象とする植物二次代謝産物 の回収利用が実用化されているものは必ずしも多くな い.このようなハードルをクリアするためには,対象物 の種類にとらわれない,より汎用的なプロセスを処理工 程に選択することが重要であろう.また,そのプロセス

により,ほかの成分が対象物中に残存することがなけれ ば,その後の抽出残渣の利用も,より容易になると考え られる.ここでは,比較的古くから利用技術の開発が進 められ,多くの研究例があるカンキツ加工残渣の利用技 術を取り上げ,その変遷と利用されている技術について 考えたい.

4

にカンキツ系の未利用バイオマスを例に,利用技 術開発の変遷を示した.カンキツ類の加工は果汁加工が 大部分を占めているため,ほとんどが果汁加工残渣(搾 汁残渣)を対象としたものである.カンキツ搾汁残渣の 利用技術は当初,主として米国で開発が進められた.米 国で果汁加工が産業化された20世紀の初めには,搾汁 残渣は,何の処理も行われずに近隣の牧場に運ばれ,飼 料として利用されていた.ところが,未処理の搾汁残渣 は保存性が低いために,乾燥して一定期間貯蔵可能な乾 燥飼料へと加工されるようになってきた.これがカンキ ツ搾汁残渣の積極的な利用の始まりであり,今日でもな お残渣の利用の大部分を占める形態である.

果汁の精製過程から得られるパルプ質を乾燥させ,食 品添加物として利用することは,1930年代から行われ ている.それ以降,搾汁残渣をさらに圧搾して得られる 糖液を濃縮し,廃糖蜜と同様の利用ができるようにした

「シトラスモラセス」や,搾汁残渣に加水して再度圧搾 し,その圧搾液を遠心分離して得られる「コールドプレ スオイル」の回収が実用化されている.これらの初期の 利用の形態は,いずれも物理的手段によるものであり,

特定の化合物の回収を目指したものではなかった(14)

一般に,植物の二次代謝産物の多くは,液胞を中心に 細胞内に分布しており,効率的な抽出のためには,細胞 を破壊する必要がある.このため,酸やアルカリなどを 用いた植物組織構成多糖の加水分解に基づく抽出が行わ れてきた.たとえば,アルカリ処理によるヘスペリジン の抽出がよく知られている.これは,アルカリ処理によ る細胞の破壊とヘスペリジンの溶解性の変化を組み合わ せて利用したものである.ヘスペリジンはアルカリ領域 では,フラバノン体からカルコン体に変換され,水溶性 が向上することが知られている(15)

.ところが,この方

法では強アルカリを含む抽出残渣が大量に発生すること 図4カンキツ系未利用バイオマス利用技術開発の変遷

(5)

になる.酸を加えて中和をしたとしても,抽出残渣中に は多量の塩を含むことになり,これをコンポストや飼料 として利用することは困難となる.このため,日本国内 では,カンキツ加工残渣を対象とするヘスペリジンの抽 出はほとんど行われてきていない.抽出に有機溶媒を使 用した場合にも同様に抽出残渣の処理の問題が生じるこ ととなる.

抽出残渣の利用を視野に入れた場合には,酵素剤を利 用した植物組織の分解が選択肢の一つとなる.たとえ ば,カンキツ加工残渣の場合には,プロトペクチナーゼ の利用によるペクチンの酵素的生産技術が提案されてい る.このプロセスを植物組織の分解の過程と捉え,二次 代謝産物の抽出回収を組み合わせることで,多段階の物 質回収を設計することが可能となる.ペクチナーゼ以外 にセルラーゼやヘミセルラーゼ活性を含む酵素剤を用い ることで,組織分解を促進させることも可能である.カ ンキツ加工残渣については,一定の条件のもとで組織を 酵素分解し,フラボノイドやリモノイド配糖体などの二 次代謝産物を可溶化した後に,合成吸着樹脂にこれらの 化合物を吸着させて回収するプロセスが提案されてい

(16, 17)

.また,この際に合成吸着樹脂に吸着されない

ものは,糖液などとしての利用も期待される.このよう な多段階の成分抽出の例としては,最近,リンゴの加工 残渣を原料に,酵素法でペクチン抽出を行い,エタノー ル沈殿により生じるエタノール廃液からセラミドを回収 するプロセスの実用化に向けた研究が進められてい る(18)

食品系未利用バイオマスのマイクロ波処理

酵素を利用した食品加工残渣の分解は,抽出残渣の二 次利用の可能性を広げるものであるが,上記のように植 物種により細胞壁多糖構造が異なるため,対象物に応じ た酵素の選択と反応条件の設定が必要になる.また,

pHや塩濃度,あるいはほかの夾雑物など,対象物の特 性により適用できない場合もある.より汎用性の高いプ ロセスとして最近注目を集めているのはマイクロ波加熱 による植物組織の分解である.これは,木質系バイオマ スの糖化の目的で研究が進められていたもので,対象物 にマイクロ波(周波数300 MHz 〜 300 GHz)を照射し,

構成多糖の加水分解により液状化させるものである.実 際には,工業用,科学用および医療用無線周波数とし て,国際的に規定されている2,450

±

50 MHzの波長が 最も多く使用されている.食品加工残渣にマイクロ波を 照射した場合には,主に水分子がエネルギーを吸収し,

分子運動により発熱が起きる.ほかの加熱方法に比べる と,内部加熱であるため,均一な加熱が可能であり,温 度コントロールも容易である.このため,目的とする二 次代謝産物を破壊しない範囲で,組織を分解することが 可能となる(19)

東らは,スラリー状にした食品加工残渣を連続的に処 理し,1時間あたり10 〜 150 kgの処理が可能な連続式 マイクロ波高温高圧処理装置を開発している(20)

.これ

までに,茶飲料の抽出残渣やオカラ,あるいは梅干の製 造工程から発生する梅の種子などを対象に有用成分の回 収が試みられている.茶飲料抽出残渣を対象とした場合 には,200 〜 230℃で2分間の加熱により,約50%の中 性多糖と60 〜 70%のフェノール性化合物を可溶化する ことができた.多糖類の分解効率の点では,170℃以上 の加熱が必要であったが,カテキン類は110℃の加熱で 可溶化できることが示されている(21)

.一方,この方法

をオカラに適用した場合には,200℃で7分間の加熱に より,70%以上の可溶化が可能であった.イソフラボン 類は140℃を超える加熱で減少した.特にマロニルエス テル類は140℃以上では,ほとんど分解されていた(22)

梅の種子を加熱した場合には,200 〜 230℃で2分間の 加熱により50 〜 60%の多糖類と大部分のフェノール類 を可溶化することができた.梅干加工では,ウメ果実に 果実重量の20%の食塩を添加して漬け込みを行うため,

種子には高濃度の食塩と果肉から移行したクエン酸を中 心とする有機酸も含まれている.ここで示された可溶化 率は,生の果実から調製した梅の種子を同じ条件で処理 した場合の,1.4 〜1.5倍に相当することから,これらの 化合物がマイクロ波を吸収し,分解率の向上に寄与して いることが示唆されている(23)

.分解のプロセスに酵素

処理を選択した場合には,これらの化合物の存在は,酵 素反応を阻害する要因となりうるものであるが,マイク ロ波加熱の場合には,分解を促進する方向に作用してい る点が興味深い.

農作業から発生するバイオマスの利用

マイクロ波加熱の応用は,食品加工残渣のみを対象と するものではなく,果樹の栽培において,必須の作業で ある「摘果」により発生する未熟果実を対象としたヘス ペリジンの抽出も検討されている.カンキツ果実でのヘ スペリジンの蓄積は果実成熟の早い時期に起こり,果実 の肥大に伴い,その濃度が低下することが知られてい る.このため,ヘスペリジンの抽出原料としては,摘果 果実が優れている.ウンシュウミカンの摘果果実の果皮

(6)

を70%エタノール中でマイクロ波を照射して100℃以上 で保持した場合に,ヘスペリジンの分析試料調製のため に用いられている溶媒系 (DMSO : MeOH

=1 : 1) に匹

敵する回収率が得られ,抽出液を5℃で24時間保持する ことでヘスペリジンの結晶を取得することに成功してい る(24)

同様に直接の食品加工残渣ではないが,果樹の栽培過 程で「せん定」によって切り取られた「せん定枝」も未 利用バイオマスと位置づけられるであろう.これらは,

かつては,果樹農家において燃料として利用されていた ものである.エネルギー源としての利用価値が低下した 後は,発生した園地内で廃棄物として焼却されるように なっていたが,昨今では,野外焼却が困難な場合も多く なり,新たな利用技術の開発が求められているところで ある.海老名らは熱水抽出と合成吸着樹脂によるポリ フェノール類の吸着除去を組み合わせて,植物体から効 率的に高純度のアルブチンを回収する技術を開発してい る(25)

.アルブチンは山形県を中心に生産されているセ

イヨウナシ(ラフランス)のせん定枝に比較的高い濃度 で含まれていることが見いだされており,この技術を適 用し,せん定枝からのアルブチンの抽出が実用化されて いる.

需要の先行で開発された回収技術

カンキツ成分のなかで,現在その新たな用途が最も注 目されているのが,カロテノイドの一つである 

β

-クリ プトキサンチン (

β

-CRP) である.わが国ではウンシュ ウミカンが 

β

-CRPの最も重要な摂取源となっている.

ウンシュウミカンの摂取と生活習慣病のリスクを調査す る栄養疫学研究(三ヶ日研究)により,ヒトの血清中の 

β

-CRP濃度と骨密度低下などのリスク低減との関連性が 明らかにされている(26)

.これらの知見を背景に,今後

本格的な介入研究が実施されることが期待されている が,

β

-CRPの高純度標品は,非常に高価であり,研究用 試料の確保が急務となっていた.ウンシュウミカンの果 汁製造工程から副生するパルプが 

β

-CRPに富むことは すでに明らかにされており,それを抽出原料として,酵 素分解と溶媒分画を組み合わせて,高純度の 

β

-CRPを 比較的安価に調製する技術が確立されている(27)

おわりに

食品加工残渣を有効に再資源化し,廃棄物処理のコス トを低減しようとする試みは,古くから行われてきてい

る.コンポストやサイレージ,あるいは最近注目を集め ているエコフィードのように,残渣全体を改質してほか の用途に利用しようとするもの,あるいは加工残渣から 糖質や植物二次代謝産物などの特定の成分を抽出・回収 してほかの用途に利用しようとするものに大別できる.

現状では前者については肥料や飼料への利用に限られた ものとなっているが,人口増加に伴う食糧不足が深刻化 する将来においては,栄養価を豊富に含む食品系未利用 バイオマスをわれわれの食糧として利用する取り組みが 望まれる.その方法の一つとして植物組織の単細胞化が ある.単細胞化は物理的に破砕した植物組織にペクチ ナーゼを作用させ,細胞壁の中葉組織中のペクチンを限 定分解することにより行われる.このとき,一次細胞壁 の分解は少ないため,細胞は強度を保っており,細胞内 成分の保存性を保つことができる.現在はネクターやベ ビーフードの製造などに利用されている技術であるが,

物性や味質などの問題から非可食部とされている食品加 工残渣を原料とすることで,新規食品素材を開発するこ とができれば,そのインパクトは大きいであろう.

食品加工残渣の排出量は,時の食品産業の動向を色濃 く反映したものとなる.たとえば,わが国では昭和40 年代以前には,大規模なカンキツ類の加工は行われてい なかったが,農林水産省の補助事業により,大型の果汁 工場が各地に設置され,最盛期には年間100万トンを超 えるウンシュウミカンが果汁加工されていた.また,近 年では,茶飲料や焼酎の消費の拡大に伴い,これらの製 造工程から発生する加工残渣の量は急激に増加してい る.このような背景から,今後も食品系未利用バイオマ スの発生量および種類は変動することが予想されるが,

それらの高度利用化を早期に実現させるためには,各加 工残渣中の成分およびそれらの機能性に関する情報を共 有できるデータベース化が必要であると考える.

バイオマス資源の高度利用化を実現させるためには,

有用成分を段階的に回収し,最終的に飼料や肥料,バイ オリファイナリーのための微生物発酵原料,燃焼による エネルギーの回収などに利用するといった体系化された 開発システムの構築が重要となる.食品加工残渣の種類 は多く,細胞壁成分や含有機能性成分が異なることか ら,それぞれに応じた最適な可溶化・抽出のための条件 設定が課題となるが,物理化学的処理(マイクロ波な ど)や酵素学的処理を併用することで,このハードルを 克服することができれば,有用物質生産の出発素材とし ての食品系未利用バイオマスのポテンシャルは非常に高 いと考えられる.これまでに開発された高度利用化技術 として最も大きな成功を収めているものの一つに米ぬか

(7)

が挙げられるが,コメ油の製造過程で得られる副産物か ら

γ

-オリザノールやフェルラ酸,セラミド,イノシトー ル,フィチン酸など種々の機能性成分の分別回収に成功 している(28)

本稿では植物性バイオマス中に含まれるヘミセルロー スやペクチンなどの糖質および二次代謝産物に焦点を 絞って解説したが,動物性バイオマスも大量に発生する 重要な食品系未利用バイオマス資源である.カニなどの 甲殻由来のキチン・キトサンおよびそれらの分解物や魚 類由来のEPA,DHA,フィッシュコラーゲンなどの高 付加価値物質が生産されており,医療,化粧品,健康食 品など幅広い分野で利用されている.

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68, 121 (1955).

  16)  稲葉伸也,綾野 茂,尾﨑嘉彦,三宅正起,前田久夫,

伊福 靖:日本食品工業学会誌,40, 833 (1993).

  17)  前田久夫,三宅正起,稲葉伸也,綾野 茂,尾﨑嘉彦,伊 福 靖:特開平06-113871, 1994.

  18)  市田淳治:果樹試験研究推進協議会会報,17, 25 (2011).

  19)  S. Tsubaki & J. Azuma :“Advances in Induction and Mi- crowave Heating of Mineral and Organic Materials,” ed. 

by S. Grundas, InTech, 2011, p. 697.

  20)  都宮孝彦,東 順一: マイクロ波加熱技術集成 ,越島

哲夫編集幹事,NTS, 1994, p. 252.

  21)  S. Tsubaki, H. Iida, M. Sakamoto & J. Azuma : , 56, 11293 (2008).

  22)  S.  Tsubaki,  M.  Nakauchi,  Y.  Ozaki  &  J.  Azuma : , 15, 307 (2009).

  23)  S. Tsubaki, Y. Ozaki & J. Azuma : , 75, C152 

(2010).

  24)  T.  Inoue,  S.  Tsubaki,  K.  Ogawa,  K.  Ohnishi  &  J. 

Azuma : , 123, 542 (2010).

  25)  海老名 太,滝田 潤,森井直也,松田企一:特許第

4738788号 (2011).

  26)  M.  Sugiura,  M.  Nakamura.  K.  Ogawa.  Y.  Ikoma  &  M. 

Yano : , 7, e52643 (2012).

  27)  小川一紀,尾﨑嘉彦,杉浦 実:日本食品科学工学会誌,

60, 498 (2013).

  28)  谷口久次,橋本博之,細田朝夫,米谷 俊,築野卓夫,

安達修二:日本食品科学工学会誌,59, 301 (2012).

プロフィル

阪本 龍司(Tatsuji SAKAMOTO)    

<略歴>1994年大阪府立大学大学院農学 研究科農芸化学専攻博士後期課程修了,同 年同大学農学部助手/2001年同大学院農 学生命科学研究科講師/2007年同大学院 生命環境科学研究科准教授/2013年同研 究科教授,現在に至る/2000 〜 2001年フ ランス国立農学研究所 (INRA, Nantes) 在 外研究員<研究テーマと抱負>植物細胞壁 多糖分解酵素の機能解析.酵素法による新 規機能性糖質の開発<趣味>スポーツ,旅 行

尾﨑 嘉彦(Yoshihiko OZAKI)    

<略歴>1987年大阪府立大学農学部農芸 化学科卒業,同年和歌山県農産物加工研 究所研究員/1996年和歌山県工業技術セ ンター研究員/2007年農研機構果樹研究 所主任研究員/2012年近畿大学生物理工 学 部 教 授,現 在 に 至 る/1989 〜 1990年  USDA, ARS, Fruit & Vegetable Chemis- try Lab. Foreign Research Associate<研 究テーマと抱負>機能性情報とリンクした 加工技術の開発で果実類の消費に変革をも たらしたいと考えている<趣味>旅行,写 真

参照

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