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第13章

実証的会計理論

― 総括と評価および展望

2012年 7月 24日 財務会計論A

経済学研究科博士後期課程3年 藤井ゼミ 姜 周亨(カン・チュヒョン)

本章の内容

本章の目的

実証的会計理論(PAT)に,現象の説明力と予測力の側面か ら,どの程度の価値があるのかについて評価する。

i.

PATの発展とその主な実証結果を総括する。

ii.

PATの価値とその限界を評価する。

iii.

PATに基づく将来の研究の内,比較的有望と思われる領域 について意見を述べる。

総括①

本書の目的

実証研究を研究者として実施し,それを経営者の立場で評価できるよう,

学生を教育すること。→ 年代順に編成。

年代順に検討するアプローチの利点

研究の発展過程の明確化。

→ どのようにして「不完全」な研究から,相対的に「洗練された」研究 に発展したのかを浮き彫りにする。

初期の研究では,単純化のためにいくつかの仮定が設定される。

研究過程の進展することによって,ある仮定を除外した時に新たな研究の道 ができ,内容豊富な理論をもたらす。

初期の実証研究では,会計手続きがキャッシュ・フローに影響を与えないと 仮定→ 同仮定を取り除き,検証→ 契約費用仮説と政治費用仮説の導出。

調査方法の問題点を論ずる機会の提供。

初期の研究における調査方法の問題を比較的によく理解できる。

3

総括②

第1章 実証理論の性質と役割,その方法

第 2 章 効率的市場仮説( EMH )と資本資産評価モデル

( CAPM )を説明。

会計学文献に実証理論の登場契機。

第 3 章第 4 章 EMH と CAPM の導入により発展した実証的会 計研究の系譜について叙述。

EMHの所与→ 会計の役割は資本市場への情報提供であると前提。

情報提供の視点に基づく研究の重要な調査結果

利益報告は,資本市場に情報を提供する(第3章)。

利益以外の会計数値がCAPMの変数(リスク)を反映する。→ 証券市場で 取引されない有価証券に関する情報は会計数値から得られる(原著第5章)。

年次利益額がランダムウォーク説でよく説明されること,四半期利益額が季 節別の過程で説明されること(原著第6章)。

EMHと機械的反応仮説を差別化するために,会計手続き変更に対する株価

反応を調べた研究(第4章)は,税金と無関係の会計手続きでもキャッシュ・フ ローに影響を及ぼすという可能性を示唆。

4

•第5章 ディスクロージャー規制を正当化する伝統的理論に,EMH の適用→ 税金と無関係の会計手続きが政治過程を経てキャッ シュ・フローに影響を与える。

•第6章 会社の経済理論: 会社≒契約の集合体。

契約の集合体は,エイジェンシー費用を減少させるように機能する。公式・

非公式契約は,モニタリングの執行を必要とするため,会計と監査の需要 が生ずる。

•第7章 経営者報酬制度と債務契約に関する詳細な検討。

契約における会計数値の利用→ 会計数値の算定に適用される手続きに より,エイジェンシー費用が変化するため,会計手続きはキャッシュ・フロー 効果を持つ。

キャッシュ・フロー効果の存在 → 会社間および産業間における会計 実務の相違を説明し予測する経済学的会計理論の成立を可能にした。

総括③

5

総括④

第 8 章 規制の経済理論: 政治過程=利己的な人々が富の 移転を求めて行う競争。

会計数値(とりわけ,利益)は,会社規制の正当化および会社規制の実 行のために,政治過程で利用される。→ 費用を伴う規制を受ける可能 性があれば,経営者は利益を縮小する会計手続きを選択する。→ 会 計手続きは会社のキャッシュ・フローに影響を及ぼす。

第9章: 会計実務の実証理論からのインプリケーションを調 査した実証研究によって観察された会計手続き選択の一般的 規則性。

6

仮説 会社の特徴 当期利益額 証拠

ボーナス制度仮説 利益連動型報酬

制度がある。 増やす手続き Healy [1985]

負債比率仮説 負債比率が大きい 増やす手続き

相対的に少ない 規模仮説 規模が大きい 減らす手続き

(2)

総括⑤

•第10章:会計手続き変更の株価効果に関する研究。

強制的変更(会計基準)が株価変動と関連しているという調査結果。

しかし,研究によって債務変数および統計的優位性が異なる。

→ 共線性またはその他の計量経済学的問題により生じた可能性がある。

任意変更に関する研究では,株価効果がないという調査結果。

→ 市場が,その会計手続き変更を予期するに違いないから(あと知恵)。

•第11章 監査の決定と債務契約変数との関連。

提案された基準に関する監査人の立場と,非監査会社/経営者の立場との 間には有意な関係があり,その関係は契約変数によって変化する。

監査人の変更は,会計基準に関する監査人の立場と非監査会社/経営者 の立場の相違に関連していた。

•実証研究によって確認されたこと。

会計手続き選択と,経営者報酬・資本構成・会社規模とが,クロスセクション で関連している。

監査の決定と契約変数とが,クロスセクションで関連している。

評価 (1)理論の価値①

•理論の価値は,世の中の動向を説明することと,理論に基づいた予 測が利用者の厚生に与える影響にある(第1章)。

•①説明力

PATは,説明力の点において会計および監査の両方で有効である。

PATは,会計と監査の解釈フレームワークを提供する。→全体像の把握。

•②予測力

現状の予測が,会計利用者にとって有用である例は多くない。しかし,容認さ れた会計手続きが予測可能なら,PATに基づく予測能力は拡大される。

【現状の予測と将来可能な予測,およびそれらによる利用者の厚生への影響】

投資家とアナリスト: PATは,財務諸表作成の基礎となる会計手続きを予測 する有用なモデルの提供。

貸借対照表と利益の数値に対する契約過程と政治過程による影響を認識する。

キャッシュ・フローを推定する際,経営者の操作を想定し利益数値を修正する。

評価 (1)理論の価値②

PATは,会計手続き変更を利益予測に利用できることをも示唆(政治理論)。

→ 高収益の会社が,報酬制度と債務条項とは無関係に,利益を減らす会計 手続きに変更した場合,経営者は将来の利益増加と政府の締め付け強化を予 期しているということを暗示している。

監査人: PATの予測能力(報告利益と契約上の限度枠の比較)を利用

することによって,会計(および取引の)操作に関して予測し,監査の内 容を強化することができる。

経営者: PATに基づいて,報告利益額およびその他の会計数値が有

する政治費用への影響を予測できれば,利益の時系列を管理すること ができ,その結果,経営者の厚生が増加する。

FASB: 提案する基準によって会社が負担する費用を,PATに基づいて

予測できる。草案公開以前に反応の予想が可能。

9

評価 (2)理論の限界

•1 契約費用と政治費用を実際に反映した代理変数の開発

•2 クロスセクションのモデルの定式化

→ 優れた契約理論および政治過程理論の構築が必要。

会計に基づく債務条項の使用に関する説明。

認められた会計手続きにおける差異の説明。

規模以外のより洗練された政治費用尺度。など。

•3 契約変数間の共線性

•PATの発展は,関連経済理論の発展により促進される。

•特定の優れた経済理論がなければ,会社の個別の契約に基づい て代理変数を開発し続けるべきである(Healy [1985])。

•PATが,さらに発展すれば,会計学者は,経済学や財務論における

仮説を検証し,同領域に貢献することもできる(相乗効果)。

10

有望な研究領域①

•会計実務を契約と政治の観点から説明するアプローチ。

•会計手続きによって契約費用と政治費用にどのような差異が生ず るを説明できる契約理論と政治過程理論は経済学にはない。

(1) 契約費用の調査

•第7章では,①契約目的上認められる手続きの組合せの決定と,② その中から経営者が選択する手続きと,を区別した。

•PATの検証は,②の経営者の機会主義的行動に焦点。

•しかし,①を説明し予測する方が,より優れた契約の締結を可能に する側面から,②を予測し説明することより,生産的であろう。

•しかし,認められた手続きの総合モデルを開発することは困難

→ 現段階においてより生産的なアプローチは,財務論の示唆する 経済変数によって債務契約と報酬制度が(会社間で)どのように異な るのかを調査することである。

11

有望な研究領域②

•Smith and Watt [1984]は,会社の資本構成,重役の報酬水準,報 酬制度の類型,および投資機会の関係を調査した(第9章)

•利益増加をもたらす会計手続きの適用と負債比率との関係につい て,認められた手続きの差異に基づいて別の説明をすることが可能。

規模が一定であれば,収益性の高い投資機会を多数持ち,それに必要な 資産を備えている割合が相対的に小さい成長会社は,経営者の自由裁量 を多く必要とする。

成長会社の資産は将来に対する投資を表すので,即座に価値判断ができ ない。そのような価値に基づいて契約を締結すると,経営者は相対的に多く の弾力性を得て機会主義的行動をとる。

12

仮説: 会社の負債比率と重役の報酬水準との間に強い負の相関が あるのは,会社の投資機会に起因する。

(3)

有望な研究領域③

→ 利益の水増し手続きを経営者が選択する可能性を制限するようなも のが,成長会社における認められた会計手続きとなる。

→ 負債比率と会計手続き選択の関係が観察され,その関係を経営者 の事後的な機会主義的行動に依拠せず,富の移転に関する事前的制限 に基づいた説明が可能。

•認められた会計手続きの組合せと,契約変数の関係の検証方法

① 異業種で使用されている会計手続きと契約内容を調査する方法。

会計手続き選択を制限する契約内容に業種ごとの差異があれば,それがク ロスセクションでの契約費用の相違を示している。

② 国ごとに契約と会計手続きを調べ,そのクロスセクションでの相違を 検証する方法。

税務,規制,契約法,および契約費用の国際的相違は,認められた会計手 続きの組合せにシステマティックな影響を与えるはずである。

有望な研究領域④

(2) 政治費用の調査

•会社規模は,政治費用の写像として最も頻繁に用いられた(第9章 と第10章)。しかし,Zimmerma [(1983] が示しているように,規模 以外の様々な要素(例えば産業)が政治費用に影響を与える。

→ 政治費用に影響を及ぼす可能性のある別の様々な要素も調査さ れるべきである(例えば,有権者が価格上昇を直接観察できる消費 者用製品の製造会社において,報告利益額を減少させる会計手続き へ変更する可能性が高いなど)。

•理論は研究者の競争を通じて発展し,その競争が現行の会計実務 と監査実務をよりよく理解することに結びつく。

•第1章で概略が述べられ,本書全体を通して用いられた調査方法が,

有用なPATを生み出すことを確信している。

結語

S.P.Kothari, Karthik Ramanna, Douglas J. Skinner [2010]

Journal of Accounting and Economics, No.50, pp.246-286.

15

Implications for GAAP from an analysis of positive research in accounting.

報告の内容

1. イントロダクション

1.1. GAAPの目的

1.2. 実証的vs. 規範的分析

1.3. GAAPの経済的理論

1.4. GAAPの構造に対するインプリケーション

1.5. GAAPの将来発展に対するインプリケーション

2. GAAPの経済的理論―期待(予想)される特性

2.1. All-equity 企業

2.2. GAAPに対する債務の影響

2.3. 異なる利用者グループの要求

2.4. GAAPに対するインプリケーション

3. GAAP下における財務諸表の構造に関する理論のインプリケーション

3.1. 貸借対照表

3.2. 損益計算書

3.3. 要約

16

1. イントロダクション ①

•本研究の背景

【財務報告基準の設定を巡る主要なイニシアチブ】

これらは,財務報告の形式・実質に対して広範なインプリケーションを有する。

2008-2009年金融危機によって,会計実務の慣習の変更への政治的意思お

よびその緊急性が示唆された。

17

財務報告 基準の設定 公正価値評価の 適用範囲の拡大

IASBとFASB の協調 原則主義に基づく

基準設定

1. イントロダクション ②

本研究の意義

財務報告の変化に直面→ 財務報告基準に対するインプリケーションが 濃縮されている学術文献のクリティカルなレビューの必要性・適時性。

本稿のオリジナリティー

GAAPの特性に関する経済的分析に関連付けたレビュー。

GAAPの集団特性を,経済的GAAPまたはGAAPの経済観として,PAT 研究のレビューから導く。

18

資本市場における 財務情報の需要 供給に関する研究

GAAP 経済的理論

会計実務の特性と実務を 管理する基準設定の役 割へのインプリケーション

(4)

1.1. GAAP の目的 ①

•規制者(SEC)・基準設定主体(FASB)の表明目的,財務報告・開 示に関する経済学ベースの分析(研究)

=> GAAPの目的 : 経済における効率的資本配分の促進。

•狭義の解釈: 企業の「直接な価値評価」を提供できる財務諸表を 生成する会計ルールの提供。→ 価値評価・情報に焦点。

•経済学ベース研究に関する本稿の分析

財務報告の目的は,価値評価目的でもなく,効率的契約目的でもない。

監査済み財務報告の第1目的: 企業(および経済)の統制システム

(業績評価および受託責任)へ有用な情報の提供。

市場における会計情報の需要と供給の機能

1.1. GAAP の目的 ②

業績評価情報 受託責任情報

GAAPにおいて長年続けてきた実務

(一定期間の利益を明確にする)を 通じて生成される。

確立されたGAAPの実務(企業の資 産・負債の詳細な会計を通じて使用 された資金の状態を捉える)から生 成される。

エイジェンシー問題に対処するインセンティブとモニターリングとしての機能

• 株式会社を特徴づけるエイジェンシー関係は,以下の属性を有す る財務諸表を利用者が要求し企業が提供することを意味する。

① 保守主義

② 企業が支配する分離可能で売却可能な資産のみを含む貸借対照表

③ 経営業績の信頼可能な測定値を提供する損益計算書

1.1. GAAP の目的 ③

•当該特徴は,経済的GAAPに基づいて作成される財務諸表が直接 な資本価値評価特性を必ずしも有していないことを意味する

(Holthausen and Watts [2001])。

•財務諸表の特性の進化は,効率的契約(業績測定および受託責 任)と首尾一貫している。

•但し,Ball and Brown [1968] まで遡る圧倒的な証拠が示すように,

業績測定および受託責任は,価値評価の側面からも有用である。

•GAAPの目的に関する前提条件(注意点)

規制者は,表明目的である効率的資源配分の促進のために努めている。

不完全不完備契約の前提 → 取引費用・情報費用が莫大であるため,い くつかのGAAPの重要な特性は進化してきた。

価値評価パースペクティブがGAAPの目的を最大化できる可能性を明示的 に認めている。

21

1.2. 実証的 vs. 規範的分析

本稿は, GAAP に関する現存研究のインプリケーションを要約 することを通じて,規範的規程を提示しているように解釈され るリスクを負っている。

本稿は,Friedman [1953] の見解に基づいている。

「経済学者の事業は,規範的なものでなく,実証的なものである。すなわ ち,社会の目的は所与であり,経済学者とは,問題を分析でき,望まし い結論を獲得するための最も効率的な手段を提示できる人である」

(Gould and Ferguson [1980] p.3)。

政策問題は「実証的理論の広範な知識」をもって最適に答え られる (Jensen [1983] p.320) 。=>著者の希望

22

1.3 . 文献に基づくGAAPの経済的理論

概念の定義および前提

GAAPとは,監査済み財務諸表の作成を規定する,1組の会計原則を

意味する(監査の存在・性質を,外生的に存在するものと仮定する)。

GAAPは,公的に規制される基準設定を,必ずしも必要としない。

→ 経済的GAAPは,競争的な市場におけるbest practices を通じて 形成され得る。

GAAPの経済観は,米国の制度的特徴(契約の執行を保証する司法制

度,私的金融取引に関する法律,財務報告と税務報告の分離など)を 前提にしている。したがって,国際的に適用される場合は,localの非 GAAP制度の文脈において解釈されるべきである。

第2節のall-equity事例においては,経営者が特定されたGAAPに基づ いて業績を誠実に報告すると仮定する。

23

1.4. GAAP の構造に対するインプリケーション

•第3節の議論:GAAP財務諸表の構造に対する,GAAPの実証的 理論のインプリケーション。

→ 貸借対照表および損益計算書における認識・測定問題に焦点。

「様々な契約主体間における情報の非対称性,エイジェンシー問題」

•内部生成無形資産,取得のれんのような資産の認識ルールに対す るインプリケーションに関する議論。

•資産の測定および再測定に関する問題に関する議論。

24

監査済み財務諸表の機能

①経営者の業績(損益計算書)

②経営者の受託責任(貸借対照表),の評価に有用な情報の提供。

(5)

1.5. GAAPの将来発展へのインプリケーション ①

•第4節の議論

GAAPの将来発展に対する理論のインプリケーション

GAAPを決定する規制の役割

GAAP内における選択の役割

市場の効率性の利点

•GAAPの規制に関する研究の意義

FASBによって生産される会計基準の性質の説明。

基準設定に関する代替案が,将来のGAAPの形成に及ぼす影響の予測。

•なぜGAAPは規制されるのか。

•経済的GAAPが生成可能な最も望ましい規制構造とは何か。

→ 公共利益理論,捕囚説,イデオロギー理論に基づいて議論。

1.5. GAAPの将来発展へのインプリケーション ②

公共利益理論

•規制 : 「自然な」市場失敗に対する善意で全知である政策策定者の対処。

•しかし,善意で全知の政策策定者のモデルを支援する経験的証拠が少ないた め,実用的でない。

捕囚説

•規制 : 基準生産の予測費用(評判の失墜,法的責任など)を社会化させようと する会計士および監査人の試みの結果。

•結果としての基準は,効率的資本配分をもたらさない。

イデオロギー理論

•規制:特定利害関係者のロビーイングと,基準設定主体の会計原則に対するイ デオロギーの結合物。

•効率的資源配分を促進することに,必ずしも最適でない。

1.5. GAAPの将来発展へのインプリケーション ③

規制理論に基づく議論の結論

グローバル的に支配する単一の基準設定主体は,政治的およびイデオ ロギー的に捕囚される可能性が高い。

基準設定主体間における競争が,規制されたGAAPに関する懸念に対 処する最も効果的な手段である。

基準設定主体間における競争が,効率的な資本配分を促進するGAAP を生成する可能性が高い。

27

協力

IASB

競争

FASB

1.5. GAAPの将来発展へのインプリケーション ④

会計選択の役割

会計実務のイノベーションおよび効率性を促す。

役員会・経営者・会計士・監査人が,会計におけるベスト・プラクティスを 決定できるように,権限を与える重要な要素である。

Principles vs. Rules に関する議論

会計原則の日々の適用は,働いているルールを通じて形成される。

働いているルールが,コモン・プラクティスを表し,代替的な実務を除外 しないため,会計におけるイノベーションを生み出す可能性が高い。

(効率的なGAAPの重要な特質)

原則主義体制は望ましいが,実務において持続する可能性は低い (Benston et al [2006])。

28

2. GAAPの経済理論:期待される特性 ①

•第2節の内容

•Gonedes and Dopuch [1974] からShleifer [2005] などまでの大 規模な先行研究に基づく,GAAPの経済理論の構築。

•資本市場のおける財務情報の需要および供給は,多様な利害関係 者間における資源の交換と契約の執行を促進する。

•経済における効率的な資本配分を促進する目的を満たし得る GAAPの特性は,何であるのかについて追及する。

•本節の構成

•あ

•あ

•あ

29

All-equity

企業の設定 Debtを 有する企業 の設定

GAAP性質 に関するイ ンプリケー ション

2.1. All-equity 企業

現在および潜在的投資家は,企業の価値評価目的のため,

企業の現在および期待業績に関する財務情報を求める。

しかし, GAAP は,主として当期業績に関する情報を含む財務 報告を生産する。

先行研究に基づいて,なぜ GAAP が当期財務業績の報告に 限定し,財務諸表に将来情報を含まないように進化してきた のかに関して,以下の2つに区分して説明を行う。

①経営者が財務情報を生産する際にGAAPを忠実に適用していることを 前提にした分析。

②財務情報の信ぴょう性(credibility)への懸念による影響に関する分析。

30

結論

(6)

2.1.1 株主と経営者間のプリンシパル・エイジェント関係

投資家による財務情報利用目的

企業の価値評価目的

現在キャッシュ・フローおよび将来キャッシュ・フローの金額・時期・不確実性 を査定するに役立つ情報。

これらのキャッシュ・フローを生成するために取ったまたは取られる予定の経 営者の行動,またはその有無に関する情報。

経営者の業績評価目的

当期における経営者行動の結果による業績に関する情報。

両目的による情報の性質が異なるため,調整(alignment)が必要。

しかし,①完璧に現在業績を捉えるのは困難である。

②当期業績は将来に関する情報を全て織り込めない。

③企業価値に関するある変化は,経営者の業績と関連しない。

→ 両目的の完全な調整は不可能である。

2.1.2. 信ぴょう性のある財務情報への需要の影響①

「検証可能性・条件的保守主義・監査」

【財務情報の属性( GAAP ルール)】

GAAPは,検証可能な情報に基づく財務報告を要求するように進化(報

告業績の歪曲の抑制)。例えば,収益認識における「稼得された」条件。

実務における無条件保守主義および条件的保守主義は,検証可能性 に関する懸念に起因。

経営者が報告業績を 粉飾するインセンティブ

①報奨契約へ業績測定値 の利用。

②企業内の将来経歴および 労働市場に対する業績測 定値の影響。

経営者が業績報告の作成に 責任を有する限り,財務情報 の信ぴょう性に関する疑問は 消えない。

株主と経営者間におけるエイジェンシー問題 影響

2.1.2. 信ぴょう性のある財務情報への需要の影響②

「検証可能性・条件的保守主義・監査」

無条件的保守主義とは,企業の純資産の報告額を縮小する傾向があ る会計実務を意味する(研究開発支出の即時費用処理)。

条件的保守主義とは,稼得利益においてグッドニュースよりバッドニュー スをより適時に認識する会計実務である(減損会計)(Ryan [2006] )。

グッドニュースよりバッドニュースの影響を認識する経営者のインセンティブ がより低い→ GAAPが,バッドニュースの認識を要求すれば,バッドニュー スの開示は信頼できる(believable)→ 検証可能性の条件は相対的に低い。

条件的保守主義によるバッドニュース認識に対する筆者の警告

①GAAPが,稼得利益を引き下げるニュースの早期認識を要求したとしても,

GAAP稼得利益の測定値は依然として上向きに偏られる可能性がある(2008 年金融危機,金融機関のAdverse 経済ニュース認識の著しい遅延)。

②経営者が,より低い検証可能性の条件を乱用して,過多のバッドニュースを 認識する可能性がある。Cookie-jar reservesの生成に会計裁量権利用へ基 準設定主体の懸念(DeAngelo at el. [1994]; Myers et al. [2007] など)。

33

2.1.2. 信ぴょう性のある財務情報への需要の影響③

「検証可能性・条件的保守主義・監査」

•条件的保守主義に対する株主の要求の理由(Watts [2003a])

経営者が認識したがらないバッドニュースの認識を強要する。

経営者の株主のbest interest に反する投資決定(資産代替)を抑制できる。

経営者に対して事後制裁する法的基盤を提供する。

→条件的保守主義が,会計規制時代の以前からGAAPの中心的信 条(central tenet)であり続けた理由を説明(Basu [1997]; Watts [2006])。

•条件的保守主義および無条件的保守主義は,より慎重で信頼でき る業績測定値を提供するために,価値関連的な情報にあまり重き を置かない状況を表す(trade-off)。

•財務報告の外部監査は当該トレード・オフを緩和する。

財務報告の信ぴょう性の強化,発生主義会計への依存度を高める。

→ 投資家がより保守的なGAAPを要求する可能性を低下させる。

→ 業績測定値の価値関連性を強化させる。

34

2.2. GAAP に対する債務の影響

債務契約の主要特性

株主の請求権≒債務額面価値に等しい行使価格 →call option に類似

債権者の請求権≒請求権の価値上昇は額面を上限 →written put option に類似。

債権者の請求権は,債務の契約額(額面)を上限にし,企業価値が額面 以下へ下落する場合,債務の額面と企業価値との差額分が減少する。

債務契約条項が履行される限り,株主と経営者が企業運営権を有する。

債務は株主と債権者間でエイジェンシー関係を生じさせる(経営者は株 主の最善利益のために働くと見なされる)。

債権者が要求する財務諸表の情報

(Ross et al. [2002] p.856)

利益生成能力を表す,企業の定期業績に関する情報

清算時の企業の資産価値に関する情報

これらの要求がGAAPに与える影響を以下で論ずる。

35

2.2.1. エイジェンシー関係における資産代替および 過少投資問題の帰結

株主のインセンティブ

•資産代替を通じて債権者から富の移転を図る。

【企業価値の低下と共に,同傾向はより深刻化】

とりわけ,out of the moneyの場合,事業統制権の保全のため,バッド ニュース認識を延期する(資産の報告価値>公正価値,報告業績の水増)。

•債権者は,資産代替および過少投資問題を緩和するため,

清算時の企業の純資産価値に関する情報を要求し,

無条件的・条件的保守主義を含む会計原則を用いて貸借対照表を作成す ることを要求(Ball et al. [2000]; Watts [2003a, b, 2006])。

36

Well in the money at or close to the money out of money

(7)

2.2.2. 検証可能性および監査に対する債権者の要求

債権者は,清算を通じて元本を回収する可能性を有するため,

企業の(経済的義務を除く)分離可能で売却可能な資産の価 値に関する情報を要求する (Holthausen and Watts [2001]) 。

与信の意思決定を行う際に,一般にのれんの価値を無視する。

のれん:清算価値をほとんど有しない。市場価値が検証不可能。

無条件的保守主義は,貸借対照表に hard な純資産のみを反 映することを求める,債権者の要求に由来した可能性が高い。

この議論は,企業取得後,直ちにのれんを減損処理したSEC以前の歴 史的実務と一致する(Ely and Waymire [1999])。

監査の需要

財務諸表が無条件的・条件的保守主義を含むGAAPに従っているのか について独立的認証を求める債権者の存在によって自然に生じる。

2.4. GAAP に対するインプリケーション①

①株主は,企業の定期業績情報を要求し,経営者を評価する。

→ 収益認識原則は,定期業績に対して信頼可能でアウトプットに基づく測定 の要求の直接的な帰結である。

②債権者と持分保有者は,経営者が,都合よく財務情報を歪めるイ ンセンティブを有すると認識。→ 検証可能な情報を要求する。

持分保有者は,企業価値評価に価値関連的な情報にも関心がある。 → 検証可能性(信頼性)と価値関連性・適時性とのトレード・オフ関係。

③債権者と持分保有者は,バッドニュースの認識の検証可能性の条 件が,グッドニュースのそれより低いような,条件的保守主義財務情 報を求める。

④債権者は,清算時の資産価値,すなわちのれんおよび一定の無形 資産を除く,分離可能で売却可能な資産に関する情報を求める。

2.4. GAAPに対するインプリケーション②

⑤定期業績に関する情報への需要と,検証可能な情報の需要 との組み合わせは,財務諸表の重要な属性の決定に関して,

価値評価に対する業績測定・受託責任の優位性に繋がる。

貸借対照表は,主として受託責任の役割を果たしている一方,損益計 算書は主として業績測定を指向している。

⑥監査の需要と供給は,経営者が供給する情報の信ぴょう性 を強化する側面から発生する。

監査済み財務諸表の要求は,GAAPの特性である検証可能性と条件 的保守主義に貢献する。

本研究におけるGAAPの特性に関する分析・予測は,経済において正 しく機能している監査法人の存在を仮定にして行われている。

39

3. GAAP下の財務諸表の構造に対する経済理論 のインプリケーション

GAAP の経済理論から導出される監査済み財務諸表の性質

損益計算書の第1役割:経営者の業績評価に有用な情報の提供。

貸借対照表の第1役割:債務契約および経営者モニタリング目的のため,

企業の処分可能資産・負債の価値に関する情報の提供。

GAAPの経済モデルから必然的に生じるdirty-surplus関係

損益計算書と貸借対照表の目的の相違により,クリーン・サープラスは 財務報告の必須属性として生存しそうにない(Holthausen and Watts [2001], Section 4.3)。

U.S.GAAP下のその他包括利益項目

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業績評価目的 非金融的な企業の営業業績に

ついて情報を提供しない。

→ 利益計算から除外され得る。

債務契約目的 企業純資産価値の決定に関連

→ 貸借対照表に含まれるの が最適である。

3.1. 貸借対照表

効率的契約パースペクティブに基づいて議論する。

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貸借対照表主要目的

企業の債権者(株主)の利害に役立つこと

債権者は,企業清算時に,

内部生成の無形資産から ほんの少ししか取り戻せない。

貸借対照表は,

経営者が支配する純資産の 測定値を提供。

経営者の受託責任の価値評価に 有用である可能性が高い

(ROE・ROAの計算目的など)

貸借対照表は,

企業の売却可能な資産,

負債の価値を集計

3.1.1. 貸借対照表の認識基準 ①

現行の GAAP 下における資産認識基準

①期待将来経済便益の提供

②過去の取引・事象の結果

③企業の支配下にある。

債権者による貸借対照表の利用は,彼らの請求権を満たさな い経済的資源の排除を要求する。例,内部生成の無形資産。

•無形資産の重大な経済的価値を認識すべき(Lev and Zarowin [1999])。

しかし,無形資産は,検証可能性・確実性(将来経済的便益・法的財産 権)の側面から問題があるため,債権者請求権の条件を満たさない。

貸借対照表の役割は,企業の経済的価値の測定でない。債 務契約・モニタリング目的に役立てることである。

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・効率的契約観に整合。

(債務契約における貸借対照表の役割)

・株主の受託責任への要求をも満たす。

(8)

3.1.1. 貸借対照表の認識基準 ②

契約目的に基づく資産認識の属性:単独基準で経済的価値を 有する(分離可能・売却可能)。

私的に交渉する与信契約からの証拠は,貸借対照表の効率 契約観を支持する( Leftwich [1983]; Beatty et al. [2008] )。

与信契約当事者間によるGAAPのシステマチックな修正

①貸借対照表から無形資産のような一定資産の除去。

②GAAP下で負債に該当しない一定義務の包含。

資産認識基準のもう1つの重要属性:資産の認識・測定にお ける経営者判断に依存する程度(検証可能性)。

R&Dコスト:検証が困難であり,将来便益の可能性を経営者判断に依 存するため,将来経済便益の有無に関わらず,発生時費用計上。

金融規制ルール(BIS規制):金融機関の自己資本比率の算定時,無形 資産と大半の繰延税金資産などを除外。

3.1.1. 貸借対照表の認識基準 ③

認識基準適用の例外としての取得のれん

単独で売却可能な資産でない。

経済的価値が,外部者からは観測不可能である。

経済的価値が,将来行われる経営者の努力に依存する。

にもかかわらず,取得のれんは,パーチェス法会計の下,数十 年間貸借対照表に含まれてきた(米国証券法以前からの実務)。

効率契約におけるのれん認識の役割(著者らの主張)

経営者は株主価値を最大化しない買収をするインセンティブを有する。

のれんを企業の純資産に含めることによって,経営者の買収支出のモ ニタリングが可能(業績測定値(ROA・ROE)の分母に含めるなど)。

のれんの 問題

のれんの認識は,貸借対照表の役割を強化する。

3.1.2. 貸借対照表の測定ルール

•現行の会計モデル「混合属性モデル」

U.S.GAAP下で,簿価切り上げの再評価はできない。

→保守主義というU.S.GAAPの長きにわたる傾向の反映。

•FASB ASC 825(金融商品の公正価値オプション)に基づく検討

貸借対照表における企業の資産・負債を公正価値で測定可能。

負債の公正価値=将来キャッシュ・アウトフローの現在価値/負債コスト

企業の信用悪化 → 負債コストの増加 → 負債の公正価値測定値の減 少 → 義務が正しく測定されていない。損益計算書における利益の報告。

→ 損益計算書の役割(業績測定)はもとより貸借対照表の能力

(債権者などに有用な情報の提供)をも低下させる(効率的契約観)。

•J

•ん

45

• 公正価値のアドバンテージとディスアドバンテージの考量の必要。

効率的契約観の下,公正価値適用の拡大は,

財務報告の情報価値を強化しない。

3.2. 損益計算書 ①

効率的契約観における損益計算書の第 1 役割

「経営者の定期業績の測定」

収益認識を制御するGAAPルールは,多様な契約主体のイン センティブを反映するように進化してきた(とりわけ,経営者の 報酬契約関連インセンティブおよび保身インセンティブ)。

GAAPの収益認識条件

①企業が顧客に財・サービスを提供し,契約条件の下でその権利の実 行に関する重要な不確実性が残存しない(稼得された),および②代金 の支払いが合理的に保証されるまで,収益認識を遅らせる。

利益測定ルールにおける条件的保守主義

損失の認識に対してより低い検証可能性を要求する一方,利得の認識 に対してより高い検証可能性を要求する。

ディスアドバンテージ:株価関連情報提供の遅延(適時性の欠如)

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3.2. 損益計算書 ②

•適時な収益認識アプローチは可能なのか。

Boeing の契約 収益認識

•製品生産の進捗に伴う収益認識アプローチ

完成前にプロジェクトの価値認識の容認。

プロジェクト価値の過大評価の場合は,減損の認識を要求。

減損の時期・規模は裁量的であり,経営者は戦略的に裁量権を利用。

•収益認識対する貸借対照表アプローチ(IASBとFASBが推進)

顧客との契約に関する資産・負債の公正価値の変動を測定し収益を認識。

株主と経営者間のエイジェンシー問題とインセンティブ問題に対処できない。

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実践的でない

• 顧客による契約破棄可能性,旅客機の提供を失敗する可能性。

• 実際に発生する前に収益を見積る必要。

• 関連費用の決定に関する問題。など。

3.3. 要約

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効率的契約パースペクティブ

貸借対照表 受託責任目的

損益計算書 業績測定目的

収益認識原則 自然に発生 一定資産(無形資産

など)の認識除外 要求

目的の相違

Dirty-surplus 会計の必要性

GAAPの経済観のインプリケーション

限定された一定の資産への適用以外では支持されないであろう。

公正価値会計は, 会計保守主義に対するfundamental needを反映できない。

検証可能性の欠如により経営者の操作を可能にする。

参照

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