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琵琶湖の近況 - 公益財団法人海洋化学研究所

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(1)

琵琶湖の近況

中西 正 己 "

鏡味麻衣子 *

3 .

神松 幸弘*

3

1. はじめに 一般に水中の全窒素と全リン濃度を指

近年、琵琶湖は、その湖水を水源とす 標として湖沼の富栄養化の程度は評価さ る水道水のカビ臭(1970‑)、淡水赤潮の発 れる。琵琶湖の北湖盆と南湖盆の表層水 生(1977‑)、アオコ の発生(1983‑)、更に漁獲 中の全窒素 (TN) 、全リン (TP)及びTN/TP 量の減少など社会的に大きな話題となっ 比の経時的変化を図 lに示した (1980 ‑ ている (Nakanishi&  Sekino, 1996; 中西 ・ 1992年は近畿地方建設局琵琶湖工事事務

関野、 1997)。また鮎を中心に冷水病の蔓 所 ・滋賀県生活環境部 ・滋賀県立衛生環境

延も心配されている。これら社会的問題 センターの調査による北湖28測点、南湖 の発生の背景には、世界的に共通する水 19測点の平均値、 1993‑2000年は滋賀県立 環境問題として、富栄養化、有害化学物質 衛生環境センターによる湖中局での水質 汚染、外来種の移入、沿岸域の物理的形状 常時測定データ)。琵琶湖北湖盆の T N は 変更などが挙げられる。 水温躍層形成時の夏に低く、水の鉛直混 琵琶湖は高度成長期を迎えた1960年代 合の始まる秋から増大し完全に混合する から富栄養化が急速に進行したと 言われ 冬にピークを示すパターンで規則的な季 ている。事実、この頃を境に滋賀県の人口 節変動をする。南湖盆においても基本的 増加率は高まり、琵琶湖北湖盆の水の鉛 には同様なパターンであるが北湖盆ほど 直混合直前の底層水中の硝酸態窒素濃度 明瞭ではない。特に 1994年の渇水年以降 も増加する傾向を示している(山田・中西、

1999)

今回は、琵琶湖の富栄養化の現状と富 栄養化と密接な関係にある植物プランク

はそのパターンが乱れる傾向にある。冬 期にT Nが高くなるのは水の鉛直混合によ り夏の成層期に深水層に蓄積された硝酸 態窒素の表水層への回帰による。南湖に トンの現存量の指標としてのクロロフィ おいても同様なパターンが見られるのは

a量、日基礎生産速度および主要構成種 北湖盆 の水の流入を強く反映しているこ の変遷やその季節的消長パターンの経年 とを示唆している。北湖盆の T N 濃度の年 変化に 着目し、今琵琶湖で何が問題なの 変動は小さく、 1980‑1991年の平均濃度は か提起する。 19 μM 、1992‑2000年で22 μMである。南 湖盆のそれは、 1980‑1991年では25 μM、 2 . 富栄養化の現状 1992‑2000年で49μM と約2倍に増加して

*I総合地球環境学研究所 〒606‑8502京都市左京区北白川追分町 2滋賀県立大学湖沼環境実験 施 設 〒522‑0056彦根市八坂町3165 *3京都大学生態学研究センタ ー 〒502‑2113大津市上田上平 野町字大塚509‑3

{104)  海 洋 化 学 研 究 第14巻第2号 平 成1312

(2)

いる(水質常時測定データによらない琵琶 湖水質調査報告書に基づいた滋賀県の環 境白書から求めた1992‑2000年の南湖盆の 平均T N濃度は27 μMである)。濃度に差 はあるがT N濃度は両湖盆ともやや増加傾

(Stelzer&  Lamberi, 2001) と言われて いるT NP 比を計算すると 、1980‑1992年 の平均TN/TP比は北湖盆で77、南湖盆で 41、1993‑2000年ではそれぞれ134、99で ある(滋賀県の環境白書のデータから計算 向にある 。T P濃度の季節変動にはT N濃度 すると1993‑2000年のTN/TP比は北湖盆で のような規則性は殆どない。北湖盆の平 91、南湖盆で43)。いずれにせ よ、 琵琶湖 均T P濃度は1980‑1992年で0.24 μM、1993‑ のT N /TP比は他の湖沼と比べ非常に高い 2000年で0.18μM、南湖盆のそれはそれぞ 値であることと、 北湖盆の方が南湖盆よ

れ0.58 μM、0.52 μMである。この20年間、 り高いこと は琵琶湖の化学的特性で ある

両湖盆のT P濃度はT N とは逆に滅少傾向 ように思われる。

にある 。湖中局の常時測定データを基に

した1993年以後の南湖盆の平均T N猥度 3 . 植物プランクトンのクロロフィルa は北湖盆の2.2倍、平均T P濃度は2.9倍高 量と日基礎生産速度

い状態にある。 琵琶湖両湖盆 の沖帯の有光層内の植物 植物プランクトンの組成変化と関係す

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図1 琵琶湖北湖盆・南湖盆の表層水中の全窒素、全リン濃度及び全窒素:全リ ン比の経年変化(近畿建設局琵琶湖工事事務所・滋賀県生活環境部・滋賀県立衛 生環境センターの琵琶湖水質調査報告書及び滋賀県立衛生環境センターの水質常 時測定データ集より作図)

Transaclions  of T h e  R eseach lnslilule  of 

O ceanoch em islry V ol.14 ,  No.2, D ec.,  2001  (105} 

(3)

プランクトンの現存量の指標としてのク ロロフィルa量と日基礎生産速度の経年変 化から琵琶湖の近況をみる(図2)。有光層 内のクロロフィルa量から見る限り両湖盆 とも 1970年以降植物プランクトン量が増 加傾向にあるとは言えない。また光合成

による有機物生産速度も年変動は見られ るものの大きな変化はない(但し、南湖盆 の日基礎生産速度に関する情報は1985年 以後ない)。京都大学生態学研究センター の定期観測による 北湖盆と南湖盆の有光 層内のクロロフィルa濃度の経時的変化を

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図2 琵琶湖北湖盆(A)、南 湖 盆(B)の沖帯における有光層内のクロロフィル

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量及び日基礎生産速度の経年変化

(106)  海 洋 化 学 研 究 第14巻第2号 平 成1312

(4)

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図 3 琵 琶 湖 北 湖 盆 と 南 湖 盆 の 有 光 層 内 の ク ロ ロ フ ィ ルa濃 度 の 経 時 的 変 化

(上田ほか、1998

より作図)

3 に示した(上田 ・川端 ・小板橋 ・成田、

1998)。年によるピークの大きさに違いは

見られるが1984年から1997年にかけて4‑

5月と9‑10月にクロロフ ィルaが極大を示 す、いわゆるバイモダルの季節変動が両 湖盆 とも維持さ れて いるように思われる。

有光層内のクロロフィルa濃度は 1980年 代で北湖盆3.0 m g/I、南湖盆6.6 m g/I、1990 年代でそれぞれ3.9 m g/I、7.1 m g/Iである。

1990年代でやや高くなる傾向にある。ま た、南湖盆の植物プランクトン密度は北 湖盆 の約2倍程度と見積もられる。

4.

植 物 プ ラ ン ク ト ン 群 集 の 主 要 構 成 種 の 変 動

1980‑1990年代の植物プランクトンの現 存量は、年による差はあるが、平均して大 きく変動していない。また、その季節的変 動 も春と 秋に極大を 示すパターンを 概ね 維持してい る。 ここでは植物 プランクト ンの質 的側面の一つと して、 主要構成種 の経時的変化 と季節的カレンダーについ

Tra nsactions or  Th e  R esearch  lnslil u le  or   O cea noch ernislry V ol.  14 ,  N o.2,  D e c.,  200 1  

て検討する。

4.  1  北 湖 盆

図4 に1969、1978、1985及び1993年の 北湖盆に お ける植物プランクトンの主要 構成種の季節的消長パターンを示す。珪 藻群集は1978年頃までは秋 一冬一春に発 達する傾向にあったが、 1985年になると Stephanodiscus carconensis、F ragilaria crotonensisは夏にも 観察されるようになる

(図4‑A)。1993年では、 5. carconensisは1 年を通して高い密度で存在する ようにな る一方、A ulacoseira solida (現在では世界 で琵琶湖にしか出現しない貴璽種)が激減 し、珪藻群集の単純化 に加えて典型的な 消長パターンが見られなくなっている。

緑藻群集では琵琶湖を代表する接合藻の C losterium aciculare、 Staurastrum dorsidentiferumは現在も主要構成種として 残るが 、1985年頃 まで夏から秋にか けて 主要構成種であっ たPediastrum biw aeは、 その後急激に減少し 主要構成種か らマ イ (107) 

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▲Closterium aciculare,△Coelastrum cambricum, 

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Planktosphaeria gelationsa,  X  Staurastrum dorsidentiferum 

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▲Cryptomonas spp.,  

△Uroglena americana 

4 琵琶湖北湖盆の植物プランクトン群集の主要構成種 (A) Bacillariophyceae, (B) Chlorophyceae, (C) その他、の季節的

消長パターンの経年変化[滋賀県立衛生環境センターのプランクトンデータ集

(1984, 1986, 1985)及びMori

1971

より作図]

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▲Asterionella formosa, △Aulacoseira granulata, 

●Aulacoseira italica、口Fragilaria crotonensis, 

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Aukacoseria solida,  X  Stephanodiscus carconesis 

▲Closterium acicu/are,△Coe/astrum cambricum, 

●Pediastrum biwae, 

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Planktosphaeria gelationsa,  X  Staurastrum dorsidentiferum 

▲Cryptomonas spp.,△Uroglena  americana, 

0  

Phormidium spp. 

5 琵琶湖南湖盆の植物プランクトン群集の主要構成種 (A) Bacillariophyceae, 

(B) 

Chlorophyceae, 

(C)

その他、の季節的

消長パターンの経年変化(図

4

と同じ資料より作図)

(7)

ナ一種になる(図4‑B)。緑藻も珪渓群集と 同様に 1993 年頃から C. aciculare とS.

dorsidentiferumを除いた主要構成種 の季節 的消長パターンは不規則な傾向を示す 。 珪藻、緑藻以外では、 1977年以後琵琶湖で 淡水赤潮が発生するようになったが、そ の原因生物、 Uroglena americanaが4‑6月 の主要構成種になる。また 1970年代まで は断片的に出現していたCryptomonas spp. 

が1980年代になると 1年を通して出現し 経年的にその細胞数の増加が見られる。

4.  2  

南湖盆

南湖盆における珪藻群集の季節的消長

言える。しかし、群集を構成する主要種の 交代や季節的消 長パターンに大きな変化 が見られる。 一瀬ら(1999)は1990年代に入 り優占種の交代や季節性が明確で無くな り、季節毎の優占種を予測することが困 難になってきていることを報告している。

滋賀県の発行した環境白書(2001) の1980 年から2000年に至る両湖盆の T N とT P 濃 度の経年変化を見る限り過去20年間に起 こった主要構成種の交代や季節的消長パ ターンの変化に T N とT P 濃度が関係して いるとは言い難い。但し、環境白書に掲載 されている T N とT P 濃度を湖中局で得ら れた水質常時測定データと比べるとかな パタ ー ンは 北湖盆にく らべ明瞭ではない り異なる。今後これら2つのデータの整合

(図5‑A)。北湖盆で1985年まで主要構成種 性を検討する必要があるだろう。同様に であったAulacoseira solida は南湖盆では

主 要 種 と し て 出 現 せ ず 、 代 わ っ て A  ulacoseira granulata、A italicaが出現す る。これら珪藻の出現期間が北湖盆に比 べ長い 傾向を示すことも季節的消長パ ターンを不明瞭にしている原因 の一つで あ ろ う 。 緑 藻 群 集 は 北 湖 盆 同 様 、 C .aciculareとS.dorsidentiferum、P .biwaeが 主要な種である(図 5‑8) 。南湖盆において も1985年以降P. biwaeの個体群密度の激 減が見られる。珪藻、緑藻以外では、北湖 盆同様 U. americana、C1yptomonas spp.が 主要種でありそれらの季節的消長パター ンの経年変化も共通する(図5‑C)。南湖盆 では上記2種に加え、藍藻のPhormidium spp.やA nabaena spp.が1978年以後主要種

として現れる。

5. まとめ

琵琶湖の植物プランクトン群集は過去

15‑20年、両湖盆ともその現存量や日基礎

生産速度は大きな変化を示していないと

環境白書の T N とT P 濃度を用いて TN/fP 比を1980年代と1990年代で比較すると北 湖盆では77か ら91と高くなる傾向にある が、南湖盆では41から 43と殆ど変化して いない。しかし、この比を水質常時測定 データから計算すると 1990年代の北湖盆 134、南湖盆で99と異常に 高くなる。 TN/

T P比と植物プランクトンの構成種の交代 との関係については今後の研究の結果に 待たねばならない。

植物プランクトンの消長には気象(水温、

日射など)、微量生元素 (CaイオンとK イ オンの比の変化など)も複雑に関係する。

また近年問題となっている環境ホルモン に代表される有害化学物質の影秤も無視 できない。有害化学物質の環境基準は人 間を対象にした値である 。マイクロン メーターのサイズの植物プランクトンに 対する基準ではない。生物多様性や生態 系の保全が求められている今日、人間だ けではなく生態系の維持に寄与している 全ての生物を視野にいれた有害化学物質

(110)  海 洋 化 学 研 究 第14巻第2号 平 成1312

(8)

の取り扱いが必要であろう。

引用文献

野村潔 (1999) 琵琶湖における植物プラ

ンクトン優占種の経年変化と水質.用 水と廃水,41, 582‑591. 

近畿地方建設局琵琶湖工事事務所・滋賀 県生活環境部・滋賀県立衛生環境セン ター「琵琶湖水質調査報告書」 1981 ‑ 1992. 

Mori, S.  (1971) Fourth report of the regular  limnological survey of Lake Biwa (1968‑

1970), III. Phytoplankton. M e m.  Fae. Sci. 

Kyoto Univ. Ser. Biol., 5, 35‑56. 

Nakanishi, M .  &  Sekino, T. (1996) Recent  drastic changes in Lake Biwa bio‑c o m m u‑

Transactions of T h e  Research Institute of 

Oceanochemistry Vol.14, No.2, Dec.,  2001  (I I  I) 

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滋賀県 (2001) 「環境白書」.

滋賀県立衛生環境センター「水質常時測 定データ集」 1981 ‑2001.

滋賀県立衛生環境センター「琵琶湖のプ ランクトンデータ集」 1984, 1986, 1995.  

上田孝明・川端秋夫・小板橋忠俊・成田哲 也 1998 「琵琶湖定期観測データ(1988‑

1997)」京都大学生態学研究センターテ

クニカルリポート 1号.

山田佳裕・中西正己1999「地域開発・都市 化と水・物質循環の変化」岩波講座地球 環境学 4 (和田英太郎・安成哲三編)

pp.  229‑265. 

参照

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