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トピックス 新進気鋭 シリーズ
第55回 日本生物物理学会年会 若手招待講演
1.
はじめに原核生物,真核生物問わず生物は細胞外に細胞膜と 同様の構造をした小胞を分泌している.真核生物で は,細胞外小胞としてエクソソームやマイクロベシク ルが良く知られている.一方,原核生物も細胞表層か ら膜小胞を分泌しており,Membrane vesicle(MV)と 呼ばれている.リン脂質二重層と膜タンパク質で構成 される
MV
の内部には,DNAや細胞間情報伝達物質 などが存在しており(図1),遺伝子水平伝播や細菌
間コミュニケーションに重要な役割を担うことが近年 明らかになってきた1).しかし,環境中で放たれたMV
の受け取り側の理解は進んでおらず,標的性を有 するのかは謎に包まれている.本稿では細菌の選択的 な小胞輸送について,筆者らの最近の成果を含めて紹 介したい.2.
微生物が分泌する膜小胞の性質と機能グラム陰性菌による
MV
分泌の現象自体は既に50
年以上も前に発見されており2),その後グラム陽性菌 やアーキアでもその現象は確認されている.そのためMV
の分泌は原核生物に普遍的に存在する現象と捉え られている.MVのサイズは由来の細菌により異なる が概ね20
〜250 nm
であり,真核生物のエクソソー ム(50-150 nm)に非常に似通ったサイズである.細菌が
MV
を分泌する目的は様々であり,その機能は多岐にわたっている.生物学的機能の一つとして 挙げられるのが,ストレスの緩和作用である.特にグ ラム陰性菌はペリプラズム内にペプチドグリカンの破 片やミスフォールドなタンパク質が蓄積する.MVが 分泌されることでペリプラズム内に蓄積した不要物質 が細胞外に排出される3).病原細菌においては
MV
内 に病原因子を濃縮させ,目的となる細胞に接着してそ の毒素を送り込む感染システムとしてMV
を利用し ている4).MV内にはDNA
などの核酸も含まれてお り,他の細菌に取り込まれることから,遺伝子水平伝 播としての機能も有している5).細菌は細胞外にシグ ナル物質を分泌しその濃度により同種の菌体密度を感 知し遺伝子発現を調節するクォラムセンシング機構を 有しているが,疎水性を示すシグナル物質はMV
に より細菌間を伝達することも知られている6).このよ うに,MVは広い環境中においてメンブレントラ フィックのような機能を有している.3.
選択的な膜小胞―細菌相互作用真核細胞内におけるメンブレントラフィックは,オ ルガネラから分泌された小胞が特定の内容物を標的の オルガネラに運ぶ輸送システムである.一方,原核生 物間で
MV
は細胞間輸送システムとして機能してい るものの,MVの行き先が限定されるか否かについて は明らかではない.その疑問を明らかにするために,Japan Collection of Microorganisms(JCM)のカルチャー
コレクションからMV
分泌能が高い細菌を選抜し,各細菌における
MV
を蛍光標識し,MV取り込み量を 蛍光強度により評価した7).その結果,MV研究のモ デル微生物である緑膿菌Pseudomonas aeruginosa
の分泌 するMV
は,様々な細菌に作用することが示された.P. aeruginosa
が分泌するMV
は溶菌酵素を含有し他の様々な細菌に侵入して溶菌を引き起こすことが報告さ れており8),当菌の
MV
は普遍的に様々な細菌種に作 用すると考えられる.一方,腸内細菌科細菌Buttiaux-
ella agrestis
が分泌するMV
は他属の細菌には作用しないものの,同属の細菌に取り込まれることが示され 生物物理
58( 4
),214-215
(2018
)DOI: 10.2142/biophys.58.214
受理日:2018
年3
月14
日細菌の膜小胞を介した選択的相互作用
田代陽介
静岡大学学術院工学領域化学バイオ工学系列Bacterial Selective Interaction Using Membrane Vesicles Yosuke TASHIRO
Division of Applied Chemistry and Biochemical Engineering, College of Engineering, Shizuoka University 図1
(A)緑膿菌のMV高生産株(opr86発現低下株)の走査電子顕微 鏡写真.矢印はMVを示す.(B)グラム陰性菌が分泌するMVの 模式図.
細菌の膜小胞を介した選択的相互作用
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田代陽介(たしろ ようすけ)
静岡大学学術院工学領域講師
2009年筑波大学大学院生命環境科学研究科博士 課程修了,博士(農学).学振研究員PD(筑波大 学),北海道大学博士研究員,学振研究員PD(北 海道大学,ケンブリッジ大学)を経て,13年か ら静岡大学助教.18年から現職.
研究内容:微生物における小胞の形成機構解明と その応用
連絡先:〒432-8561 静岡県浜松市中区城北3-5-1 E-mail: [email protected]
URL: http://cheme.eng.shizuoka.ac.jp/wordpress/
tashiro/
田代陽介
する環境中の複雑な細菌間ネットワークのシステム構 築に大きく寄与していると考えられる.
MV
は内包する物質を安定的に輸送することから,標的細胞に薬剤を輸送するドラッグデリバリーシステ ムなどの応用が期待されている10).実際に筆者らは
B.
agrestis
由来のMV
に抗生物質を保持させることで,MV
結合性の高いButtiauxella
属細菌を限定的に殺菌可 能であることを見出している7).特に微生物細胞は遺 伝子操作が簡便であるため,内包するDNA
やsmall RNA
分子の制御,さらには表層を自由に改変するこ とも将来的に可能であり,MVはバイオテクノロジー 技術としても有望なツールになるであろう.謝 辞
本研究は,静岡大学の二又裕之教授,金原和秀教 授,新谷政己准教授,さらには理化学研究所の大熊盛 也室長との共同研究により遂行したものであり,御礼 を申し上げます.また,本研究成果は静岡大学大学院 生諸氏の努力により得られたものであり,感謝の意を 表します.
文 献
1) Tashiro, Y. et al. (2011) Environ. Microbiol. 14, 1349-1362. DOI:
10.1111/j.1462-2920.2011.02632.x.
2) Bladen, H. A. et al. (1963) J. Bacteriol. 86, 1339-1344.
3) Tashiro, Y. et al. (2009) J. Bacteriol. 191, 7509-7519. DOI:
10.1128/jb.00722-09.
4) Bomberger, J. M. et al. (2009) PLoS Pathog. 5, e1000382. DOI:
10.1371/journal.ppat.1000382.
5) Hasegawa, Y. et al. (2015) Front. Microbiol. 6, 633. DOI: 10.3389/
fmicb.2015.00633.
6) Mashburn, L. M. et al. (2005) Nature 437, 422-425. DOI:
10.1038/nature03925.
7) Tashiro, Y. et al. (2017) Front. Microbiol. 8, 571. DOI: 10.3389/
fmicb.2017.00571.
8) Kadurugamuwa, J. L., Beveridge, T. J. (1996) J. Bacteriol. 178, 2767-2774. DOI: 10.1128/jb.178.10.2767-2774.1996.
9) Hermansson, M. (1999) Colloids Surf. B Biointerfaces 14, 105-119.
DOI: 10.1016/S0927-7765(99)00029-6.
10) Gujrati, V. et al. (2014) ACS Nano 8, 1525-1537. DOI: 10.1021/
nn405724x.
た.この結果は,MVはランダムに細菌に取り込まれ ると考えられていた従来の概念を覆すものである.
4.
細菌―膜小胞間の物理化学的相互作用細菌と
MVの結合・分散を評価する際に重要な因子
として,物理化学的な相互作用が挙げられる.細菌と
MV
をコロイド粒子と例えた場合,二粒子間の相互作 用は,表面電荷に基づくクーロン斥力とファンデル ワールス力の和で評価される.この理論はDerjaguin,
Landau,Verwey,Overbeek
らの科学者により提案され たことから,DLVO理論と称される9).筆者らはMV
と細菌のそれぞれのゼータ電位・粒子径を測定し,DLVO
理論により二粒子間の物理化学的相互作用を評 価した7).その結果,Buttiauxella属細菌のゼータ電位 は他の細菌より負電荷が小さく,MVの選択的輸送の 要因として二粒子間のエネルギー障壁の低下が示され た(図2).一方,B. agrestis
由来のMV
あるいは受容 細菌をプロテアーゼ処理するとゼータ電位は変化しな いものの細菌のMV
取り込み量が低下することから,表面電位と粒子径だけではなく,細胞膜に局在するタ ンパク質同士の特異的相互作用が
MV
輸送の特異性 を制御している可能性も考えられた.5.
おわりにこれまで細菌における
MV
の研究はその特性や分 泌機構が主であったが,本研究によりMV
の標的選 択性情報伝達の例が初めて示された.しかしMV
が 細菌細胞膜に融合する機構やMV
により伝達される 物質については未解明な点が多く,細菌間メンブレン トラフィックの全貌を理解するためには,その一連の 機構の解明が今後の課題である.また,MVはバイオ フィルム中など菌体密度が高い環境条件で分泌されや すいことも知られている1).このようなMV
を介した 選択的情報伝達は,離れた細菌に目的の物質を効率良 く運搬することを可能にし,多種多様な細菌種が混在図2
DLVO理論に基づくB. agrestis MVsの細菌との相互作用モデル.
(A)Buttiauxella属細菌との相互作用,(B)他の細菌との相互作用.