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化学と生物 Vol. 51, No. 7, 2013
巻頭言
Top Column
昔の話で恐縮ですが,私もコンピュータ のボードゲームに熱中した時代がありまし た.これらのゲームで,ターンと呼ばれる ゲーム進行の単位があり,各プレイヤーに 一定の順序でターンが訪れ,ターンが回っ てきたプレイヤーは,自分の取る手を選択 することになります.このターン制のゲー ム を 生 物 学 に 例 え る と,1990年 代 か ら 2000年 代 に お け る,バ イ オ イ ン フ ォ マ ティクスの勃興とゲノムプロジェクトの開 始は新しい生物学分野のターンでした.こ の両分野は相互に活性化し圧倒的な速度で 発展してきました.その起点が,1982年,
将来膨大に産生されるデータの爆発を見越 して,わずか606件,680,338塩基で創設 された塩基配列データベースGenBankで した.
私が,このGenBankのデータと出会っ たのが,1983年で,その当時の九州大学 遺伝情報実験施設長 榊 佳之先生(現 豊 橋技術科学大学学長)からデータが入った オープンリールのテープを渡され,情報を 読み出して使えるようにしましょうと言わ れたのです.使えるようにするには,デー タベースシステムを構築するしかありませ んでしたので,当時九州大学の大型計算機 センターにいらっしゃいました高木利久先 生(現 東京大学大学院新領域創成科学研 究科・教授)に助けていただいてデータ ベースGENASを構築したのが1984年,こ のころはレーザープリンタなどなく,タイ プライターに似たラインプリンターで出力 された壁一面の出力を見て,ホモロジー検 索を行った思い出があります.年に数回の データベース更新は,GenBankから郵送 されたオープンリールのテープをテープ リーダーで読み出し,データベース化した ものでした.当時すでに大学間ネットワー
クもありましたが,回線スピードも遅く,
学内のネットワークは電話回線を利用する もので,300 bpsの速度で,受けるほうも 8インチの256 KBのフロッピーディスク などに保存していたものです.現在の1テ ラバイトのハードディスク付きのマルチ CPUの パ ソ コ ン は100 Gbpsの 光 ネ ッ ト ワークに接続され,計算速度もひと昔前の 大型計算機より高速で,タンパク質の立体 構造からヒトゲノムの構造をとおして細胞 の状態までもが目の前で見ることができる 現状は,わずか20数年前には想像できま せんでした.同じように,塩基配列決定の スピードも1990年代は1 kbpの配列を決め るのにもゲル板でDNA断片を電気泳動 し,RI標識を目で測定していた時代から,
エマルジョンPCRあるいはブッリジ増幅 などの小容量での増幅など,サブマイクロ 環境での実験が可能になり,一気にヒト 30億塩基配列が10万円で数時間の間に読 める時代に変わってきました.すでにヒト を 含 め た 真 核 生 物180種,バ ク テ リ ア 3,900種,アーキア180種を超えるゲノム の配列が決定され,あるいは決定中であ り,蓄積された膨大なゲノム情報あるいは ゲノム関連の情報が解析を待っています.
この研究環境の急激な変化,特に膨大な ゲノムデータなどを生物学研究はあまり有 効活用してきていないと私は感じていま す.現在,研究のターンは生物学側に渡さ れています.大量のデータ,たとえば,
種,株ごとのゲノムデータ,ヒト個人のゲ ノムデータあるいはオミックスデータなど を基盤として,どんな研究が展開されるか は,今後10年間の生物学ターンの課題だ と思います.これらの研究を担うのは「化 学と生物」を読んでいるあなたなのです.
新しい生物学への挑戦を期待しています.
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