構造不況法の成立⇔
高
瀬 雅 男
は 第第じ 小第第第第第第二一め目 括六五四三二一章章に 節節節節節節 次
特定不況産業安定臨時措置法の成立 特定不況業種離職者臨時措置法の成立︵以上︑課題特定不況産業の指定
安定基本計画の作成
共同行為の実施に関する指示
特定不況産業信用基金による債務保証
調整条項
︵以上︑本号︶ 五六巻二号︶
一構造不況法の成立
に〕
1 八七
1
砥11冊
文−1八八
第二章 特定不況産業安定臨時措置法の成立
第一節 課題
資本主義下の不況は生産と消費の不均衡から発生し︑過剰資本と過剰労働力の整理によって︑均衡を回復する︒すな
わち過剰資本は商品︑設備などの物理的な破壊及び手形︑債権︑株式︑商品︑設備などの価値減少によって整理され︑
また過剰労働力は労働市場への排除によって整理され︑均衡は回復し︑活況へと向う︒
さてこのような景気循環を通じて資本が集中し︑生産規模が拡大すると︑生産と消費の不均衡も一層拡大し︑不況
は慢性化し︑景気の自動回復機能を喪失した経済過程への国家の介入が開始される︒過剰資本の解消をめざす国家の
需要創出政策はプての一つであるが︑資本の有機的構成が高度化し︑固定資本の比重が増大し︑生一産の最低規模が拡大 へ レした今日では︑国家による過剰設備の廃棄や設備投資の制限など︑総じて国家による設備制限が不可避となる︒
さて戦後における設備廃棄は︑石炭鉱業や繊維産業において石炭鉱業合理化臨時措置法︵昭二︑一こ︑法五六︒以下︑
炭合法と略す︶︑繊維工業設備臨時措置法︵昭三一︑法ニチ﹄︒以下︑繊工法と略す︶︑特定繊維工業構造改善臨時措
置法︹昭四二︑法八二︑以ド︑特繊法と略す︶などによって実施されたが︑なおこれらの設備廃棄は限られた業種に
おいて実施されたのに過ぎない︒
しかし七五年不況は︑かつてみられなかった多数の業種に過剰設備を顕在化させ︑従来の不況対策の枠組みをもつ
てしては過剰設備を解消することが困難になってきた︒・てこで中長期的観点から構造不況業種企業の過剰設備を廃棄
し︑事業を再編するために特定不況産業安定臨時措償法︵昭五︑三︑法四四︒以下︑特安法と略す︶が制定されたので
さて本法の主な内容は︑①特定不況産業における﹁不況の克服と経営の安定﹂ ︵一条︶を図るために︑②本法及び あ.
政令で対象候補業種を指定し︵二条︑一項︶︑③対象候補業種に属する製造業者の申出に基づいて特定不況産業を政令
で指定し︵同条二項︑三項︶︑④主務大臣が安定基本計画を定め︵ゴ︑一条一項︶︑⑤安定基本計画の定めるところに従っ
て設備の処理その他の描髯を行う特定不況産一業事業者に対して︑特別措置を講じるというものである︒
特別措置の内容は︑問①設備の処理及び設備投資制限に係る共同行為の実施に関する指示︵五条︶︑②設備の処理そ
の他の措置に必要な資金の確保︵九条︶︑③特定不況産業信用基金による設備の処理のため必要な資金等の借入れに
係る債務保証︵三九条︶であるが︑①の指示に従ってする共同行為に対しては独占禁止法︵昭二二︑法五四︶の適用
が除外される︵︑一条.︑但し不公正な取引方法を用いる場合を除くし.︑
さて本法は特定不況産一業における不況の克服と経営の安定を図るために︑計画的な設備の処理等のための措置を講
ずる︑設備制限に係る経済立法の一つであるが︑一般に設備制限の種類と方法は次のように区分される︒
まず設備制限の種類には︑①現在の供給量を制限するために現有設備の休止︑格納︑封印︑稼動制限を行う設備使
用制限と︑②同じく現在の供給量一を制限するために現有設備の破砕や第三者への譲渡︵破砕︶を行う設備廃棄がある
︵以上︑①②を合せて現在の設備制限と言う︶︒なお個々の実定法では②の設備廃棄と①の設備使用制限を合せて﹁設 ヘヨロ備処理﹂という場合もある︒また③将来の供給量の増大を抑制するために設備の新増設を制限する設備投資制限もあ
−−構造不況法の成立 口: 八九
⁝論 文I− 九〇
る︵将来の設備制限と言う︶︒
次に設備制限の方法には︑④事業者の共同行為又は事業者団体の行為︵実質的には事業者の共同行為︶による方法
と︑⑤国家の直接規制︵登録︑許可︑下命など︶による方法とがある︒また②の譲渡によって設備廃棄を行う場合︑
設備を買上げる特別の法人が設立されることがある︒また④の共同行為による場合には独占禁止法との抵触が問題に
なる︒ さて戦後における設備制限に係る主要な経済立法には︑独占禁止法・不況カルテル︵独禁二四条の三︶︑炭合法︑
繊工法︑中小企業団体の組織に関する法律︵昭三二︑法一八五︒頁下︑中団法と略す︶︑特繊法などがあり︑また制
定には至らなかったが︑特定産業振興臨時措置法案︵昭三八︒以下︑特振法案と略す︶もあった︒フてこで戦後の設備
制限に係る経済立法における本法の位置づけについて︑あらかじめ検討しておきたい︒
まず独占禁止法は競争秩序の維持を目的とする経済立法の一般法であって︑同法は一定の取引分野における競争を
実質的に制限する事業者の共同行為︑及び一定の取引分野における競争を実質的に制限し︑又は構成事業者の機能又
は活動を制限する事業者団体の行為を禁止している︵独禁二条六項・三条後段︑八条一項︶︒ これによって﹁設備の
制限﹂に係る事業者の共同行為︵事業者団体の行為も含む︒以下同じ︶も規制されるが︑規制される設備制限の種類 ︵4︺には設備使用制限︑設備廃棄︑設備投資制限が含まれる︒それゆえ設備制限に係る共同行為を実施するためには︑独
占禁止法の適用を除外する必要があり︑これまでに同法の適用を除外したものには独占禁止法・不況カルテル︵独禁
二四条の三︶と特別法︵後述︶がある︒
さて独占禁止法・不況カルテルは不況克服のための緊急避難的措置として︑生産業者︵事業者団体を含む︶が公正
取引委員会の認可を受けて行う共同行為に対して独占粧ポ止法の適用を除外するものである︵不公正な取引方法を用い
るとき︑不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにするときを除く︒独禁二四条の三第一項︶︒許容される共
同行為の種類は生産数量︑販売数量又は設備の制限︵特別の場合は対価の制限︶であるが︑設備制限に係る共同行為
については︑許容される設備制限の種類が問題になる︒
まず現在の設備制限である設備使用制限であるが︑これが許容されることについては学説に異論はなく︑公正取引 らロ委員会の運用もそのようになっている︒その論拠は︑設備使用制限の場合︑共同行為が終了すれば生産能力がただち
に回復し︑元の競争状態に復帰することができ︑不況事態を克服するために﹁必要な程度﹂︵独禁二四条の三第四項一
号︶をこえないからである︒ ハ マ 次に現在の設備制限である設備廃棄であるが︑これについては学説が分かれている︒否定説︵利部︶の論拠は︑①
設備廃棄は︑それを実施してしまえば完結してしまう︑﹇時的なもの鴫︑あるが︑効果は永続し︑景気回復に応じて元の
競争状態に復帰させることが不可能であること︑②これは不況事態が解消したときは速かに本来の競争状態に復帰さ
せることを前提とする不況カルテルの趣旨に合致せず︑ ﹁必要な程度をこえないこと﹂とする認可要件に抵触するこ
と︑による︒ なこ 他方︑肯定説︵正田︶の論拠は︑①独占禁止法二四条の三は不況原因を限定しておらず︑構造的不況に対応する不
況カルテルも含まれること︑②当該業種の実状によっては絶対的な過剰設備の処理を生産制限とあわせて行うことに
よってはじめて不況事態に対応しうる場合があること︑③設備の処理によって恒久的な過剰設備を抱えながら不況に
対応するという負担を免れることになれば︑厳格な制約のもとに認められてもよいこと︑による︒
し ヨ 一構造不況法の成立 国:・ プ﹂
一論 文⁝ 九二
ところで公正取引委員会は一九七七年春から独占林.小止法二四条の三の﹁−設備の制限﹂に設備の共同廃棄が読みうる ︵8︶か否かの検討を始め︑同年秋に至り︑設備の共同廃棄は不況カルテルとして実施しうるとの運用方針を明らかにした︒ ︵9︶設備廃棄を認知した公正取引委員会の論拠は︑①設備処理カルテルの場合︑制限を解除しても制限前の状態に回復す
るのには時間を要するのは事実であるが︑原状回復は不可能ではないこと︑②設備処理カルテルの対象を長期間解消
ナる見込みのない絶対的過剰設備を抱える構造不況業種に限定し︑認可期間に懐妊期間を加えた需要動向を充分見極
めて処理量を絶対的な過剰設備に限定すれば︑弊害の発生を防止することができること︑③・ての需要動向の見極めは
それほど困難ではないこと︑による︒以上の論拠による運用方針の転換設備廃棄の認知は︑構造的不況に対する独
占禁止法運用の弾力化の現れと言う二とができる. ︵珀︶ 次に︑将来の設備制限である設備投資制限であるが︑これについても学説は分かれている︒否定説︵利部︑鮒尾︑
龍田︑坂本︶の論拠は︑①将来の需給均衡を目的とする投資調整は︑現在生じている不況事態に対処するために必要
な限度の共同行為を容認する不況カルテルと趣旨を異にしていること︑②投資調整は︑現在行われている共同行為の
効果が将来において発生するため︑仮に認可するにしても︑フての期間は長期化するから︑ユ︑の期間中常に子︑の共同行
為が二四条の三第四項に規定する認可要件に適合しているかどうか判断することが困難であること︑③本来︑投資す
るか否かは企業の自己責任にもとづきなされるべきものであり︑第三者の容喙介入すべきものでないこと︑による.︑
ハロレ 他方︑肯定説︵出雲井︑峯村H正旧︑正田︑伊従︑野木村︑実方︶の論拠は詳らかではない︒二四条の三第二項但
書で﹁設備の更新又は改良を妨げるものを除く﹂と規定している9.\その反対解釈として但書以外の設備投資制限 ︵毘︺は許容されると解するのであろうか︒なお公正取引委員会の運用方針もこれを肯定している.︑
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以上︑不況カルテルとして許容される設備制限の種類について検討してきたが︑設備廃棄及び設備投資制限につい
て学説は分かれている︒しかし公正取引委員会は両方とも肯定しており︑特に七七年に設備廃棄を認知したことは︑
!構造不況法の成立 ロ一 九二一
i−論 文一 九四
構造的不況によって過剰設備が顕在化した七C年代後半における独占禁止法運用の弾力化と言うことができる︒
ところで独占禁止法・不況カルテルの認可要件は厳格であり︑かつアウトサイダーの存在は不可避であるから︵特
にコスト割れ要件と参加・脱退の自由︶︑不況カルテルとは別に独占禁止法の適用を除外するさまざまな特別法が制
定されている︒以下︑ ︹表4︺によりながら設備制限に係る特別法の特徴を整理しておきたい︒
第一に特別法の適用業種であるが︑これには︑①単一の業種を対象とするものと︵炭合一条︑繊工一条︑特繊二条︶︑
②多数の業種を対象にするものと︵特振二条︶︑③緩やかに業種を限定しているものとがある︵生産業︑中団一七条
一項四号︒なお同法は中小企業者を対象としている︶︒そのうち②に属する特撮法案は︑まず複数の業種を対象候補
業種に法定し︑かつ指定要件を法定して政令で対象候補業種を追加しうることとし︑次に対象候補業種に属する事業
者団体の申出に基づき政令で特定産業を指定するという二段階業種指定方式を採用している︒ ︵13︶ 第二に特別法には設備制限に関する事項を含む計画を作成するものと︵炭合法︑特繊法︑特振法案︶︑そうでない
ものとがある︵中団法︑繊工法︶︒前者には基本計画と実施計画を作成するものと︵炭合三条︑四条︑特繊三条︑四
条︶︑単一の計画を作成するものとがあり︵特繊一六条︑特撮三条︶︑また主務大臣が計画作成主体になるものと︵炭
合法︑特繊法︑特振法案︶︑商工組合が計画作成主体になるものとがある︵特繊一六条︒通産大臣の計画承認を要す
る︶︒なお計画事項には設備制限のほか︑生一座又は経営の規模の適正化など企業集中︵グループ化︶に関する事項を
含むものがある︵特繊法︑特振法案︶︒
第三に設備制限の種類と方法であるが︑まず設備使用制限には商工組合・安定事業によるものと︵中団一七条一項
四号︶︑共同行為の実施に関する指示によるものとがある︵織工二四条︶︒前者には安定事業の実効性を担保するため
に加入命令︑事業活動制限命令が設けられ︵中団五五条︑五六条︶︑また後者には共同行為の実施に関する指示の実
効性を担保するため処理命令が設けられている︵繊工二二条︶︒
次に設備廃棄であるが︑これには共同行為によるものと︵特振九条︶︑共同行為の実施に関する指示によるものと
があり︵織工二四条︑特繊八条︶︑後者にはその実効性を担保するために処理命令が設けられている︵織工三条︑ ︵14︶特繊一二条︶︒また設備の買上げ廃棄を行うため特別の法人が設立され︵炭合七条︑特繊二一条︶︑又は商工組合が設
備処理事業を行う場合がある︵織工三〇条︑特繊︻九条︶︒なお設備廃棄の費用に充てるため残存者から納付金︵炭
合一︑一一一六条︑特繊四四条︶又は負担金︵特繊二〇条︶を徴収する場合もある︒
さらに設備投資制限であるが︑これには商工組合・安定事業によるものと︵中団一・七条一項四号︶︑許可︵腹合五
六条︶又は登録︵繊工二条︶によるものとがあり︑前者にはその実効性を担保するために加入命令︑設備新設制限命
令︵中団五五条︑五へ条︶が設けられている.︑
第四に共同行為によって設備制限を行う場合︑独占禁止法との抵触及び認可手続が問題となる︒これには公正取引
委員会が主務大臣と協議して共同行為を認可するものと︵特振九条︶︑主務大臣が公正取引委員会と協議して調整規
程を認可するものと︵中団一八条︑九〇条︶︑主務大臣が公正取引委員会と協議し工共同行為の実施を指示するもの
とがあり︵織工二四条︑二九条︑特繊八条︑一五条︶︑認可又は指示に基づく共同行為の実施に対しては独占禁止法
の適用が除外される︵中団八九条︑織工二八条︑特繊一四条︑特振九条︶︒
さて以上の検討から設備制限に係る戦後経済立法における本法の位置づけを整理すれば︑第一に戦後経済立法の一
般法は独占禁止法であって︑同法は設備制限を含む共同行為を原則として禁止していたが︑一九五三年改正によつで︑
一−構造不況法の成立 国! 九五
−・論 文1− 一 九六
不況カルテルが設けられ︑同法の共同行為禁止原則は後退することになった︒第二に不況カルテルとして許容される
設備制限の種類について学説は分かれているが︑公正取引委員会は七七年に設備廃棄を認知し︑不況カルテルは運用
上後退することになった︒第三に不況カルテルとは別に五〇年代後半から設備制限に係る特別法が制定され︑独占禁
止法の適用が除外されることになった︒第四に本法も設備制限に係る特別法の一種であるが︑本法は計画に基づいて
設備制限を行う点で山灰合法︑特繊法に類似し︑共同行為の実施に関する指示によって設備使用制限︑設備廃棄︑設備投
資制限を行う点で繊工法︑特繊法に類似するが︑他方︑規制命令を持たない点で中団法︑繊工法︑特繊法と異なり︑ま ︵蔦︶た設備買上機関を設立しない点で炭合法︑特繊法とは異なる︒総じて本法の政策手段は他の特別法のそれに比べて貧
弱ではあるが︑暖合法︑繊工法︑特繊法が単一の業種を適用対象にしているのに対して︑本法は特振法案と同様︑二
段階業種指定方式によって多数の業種を適用対象としており︑本法は設備制限に係る特別法の一般化︑七一.年代版と
言うことができる︒
さて本法は特定不況産業の指定︑安定某一本計画の作成を前提として︑安定基本計画に定めるところに従って設置の
処理その他の措置を行う特定不況産業事業者に対して特別措置を講じるものであるが︑本章では安定基本計画の内容
と性格︑同計画と特別措置との関係︑特別措置の機能︑総じて過剰設備処理の法構造について検討することを課題と
する︒ ︵1︶ 岡崎守男﹁過剰資本整理の現代的構造﹂企業法研究二八C輯一四頁︵一九七八年︶︒
︵2︶ 本法は昭和五八年六月三∩︶日までに廃止すべき廃止法である︵附則二条︶一︑
︵3︶ 繊工法では﹁廃棄︑格納その他の方法一︵織工二四条一項︶冷︑設楠処理と言い︑ま忙特繊法では﹁協会への売渡しその他
の方法﹂及び協会の﹁買取り廃棄﹂ ︵特繊八条︶を設備処理と言う︒また特安法では﹁廃棄若しくは長期の格納若しくは休
止﹂ ︵二条一項五号︶を設備処理と言う︒
︵4︶たとえば実方謙二﹃独占禁止法﹄ ︵一七二〜一七三頁︑有斐閣︑一九八七年︶によれば︑設備使用制限や設備廃棄に係る
共同行為は数量制限の補完として行われるので︑その競争制限効果は直接的であり︑市場での総供給量が制限されれば市場
の価格メカニズムが直接的に阻害されるから︑己れらの共同行為は価格協定を伴わなくても違法となる︒また設備投資制限
に係る共同行為は︑その数量制限効果が将来発生し間接的であるが︑投資政策は経営判断として重要であり︑事業者の命運
を決する事項であるから︑設備投資を協定で制限することは競争行動の直接的制限であって︑違法となる︒なお現在及び近
い将来の需給関係を実質的に制限する設備投資制限に係る共同行為を違法とするものに︑菊地元一﹁不当な取引制限の禁
止﹂︵﹃カルテルと法律﹄四三頁︑東洋経済新報社︑一九六八年︶がある︒
審決では︑操業短縮による熱量跡険を違法としたものに横浜ゴム事件︵四条一項二号︑三条後段違反︑昭和二七年九月三
〇日︑審決集四巻六〇頁︶︑日本製紙連合会事件︵八条一項一号違反︑昭和四八年二月一八日︑審決集一九巻一一二頁︶︑及
び設備の新増設制限を違法としたものに日本ポリオレフィンフィルム工業組合事件︵八条一項四号違反︑昭和五〇年三月七
日︑審決集二一巻二五五頁︶がある︒なお明治冷蔵事件︵昭和三二年一一月七日︑審決集九巻一一二頁︶では工場の新増設禁
止が協定されてい仁が︑独立の違法行為としては認定されていない︒
︵5︶ 公正取引委員会は不況カルテル創設当初︵一九五三年︶︑.設備の制限﹂として︑ .過剰生産の原因である過剰設備への投
資﹂︑すなわち﹁設備の新設もしくは拡張﹂の制限は考えていたが︑ ﹁過剰設備の処理﹂までは考えていなかったようであ
る︒しかし実際の運用は生産数量制限の補完的措置として︑生産設備の休止︑格納︑稼動日数の制限など設備使用制限に限
定されていた︒鈴木満﹁不況カルテル■﹂﹃独占禁止法講座皿﹄二五八頁︑二六〇頁︑商事法務研究会︵一九八一年︶︒
︵6︶ 利部脩二﹁不況とカルテル法﹂ ﹃カルテルと法律﹄一〇九頁︑東洋経済新報社︵一九六八年︶︒なお否定説には次のもの
!構造不況法の成立 口− 九七
一論 文t 九八
がある︒龍田節﹁不況カルテル﹂﹃独占禁止法を学ぶ﹄二五七頁︑有斐閣︵一九七六年︶︑坂本延夫﹃コンメンタール独占
禁止法﹄九三三頁︑勁草書房︵一九八一年︶︒なお龍田教授は後に肯定説に改説された︒注︵7︶の文献参照︒
︵7︶ 正田彬﹃全訂独占禁止法H﹄三一四頁︑日本評論社︵一九八一年︶︒なお肯定説には次のものがある︒伊従寛﹁カルテル﹂
﹃経営法学全集﹄一二巻二五三頁︑ダイヤモンド社︵一九六五年︶︑龍田節﹁不況対策と競争政策﹂経済法学会年報四号一
二頁︑有斐閣︵一九八三年︶︑金子晃﹁不況対策と独占禁止法﹂同書︑一二六頁︑野木村忠邦﹁独占禁止法の適用除外﹂ ﹃独占
禁止法入門﹄一九八頁︑有斐閣︵一九八三年︶︒
︵8︶ 公正取引委員会が従来︑独占禁止法二四条の三の﹁設備の制限﹂に﹁設備の処理﹂を含めるとの運用をし丁︑こなかった理
由は︑第一に不況カルテル制度は緊急避難的措置であり︑一時的にしか認められないのではないかとの考えがあったこと︑
第二に設備の処理をしてしまうと︑その効果は永久に残り原状回復ができないので︑認可後需要が増大した場合︑不況ヵル
テルの消極要件との関係で問題があるのではないかとの考えがあったことによる︒それにもかかわらず今般︑運用方針を変
更しだのは︑①構造的不況産業に対する抜本的な対策を用意することが今後の経済政策の大・一︐・な課題になってきたこと︑②
七七年の独占禁止法改正により対価に影響のあるカルテルにも課徴金が課せられるようになったこと︵独禁七条の二︑八条
2︑一︶により︑構造不況対策としての設備処理を不況カルテル制度上明確に﹁認知﹂する必要があったからである︒鈴木
満﹁独禁法の不況カルテル制度と設備の処理﹂公正取引三三八号三二〜︑一.一三貞︵一九七八年︶︒
︵9︶ 前掲・鈴木﹁不況カルテル﹂ご︑=六一頁︒
︵10︶ 前掲・利部﹁不況とカルテル法﹂一〇九頁︑姉尾明﹁不況カルテル及び合理化カルテル﹂﹃独占禁止法実務講座﹄一九七
頁︑商事法務研究会︵一九六五年︶︑前掲・龍田﹁不況カルテル﹂一︑五八頁︑前掲・坂本﹃コンメンタール独占禁止法﹄九
三ゴー一.頁︒
︵n︶ 出雲井正雄﹃新独占禁止法の解説﹄一八一一一頁︑時事通信社︵一九五一︑一年︶︑峯村光郎H正田彬﹃私的独占禁止法﹄一︑一九九
︵12︶︵13︶
14
)
︵15︶ 頁︑日本評論社︵一九五六年︶︑前掲・伊従﹁カルテル﹂一︑一五三頁︑前掲・正田﹃全訂独占禁止法n﹄三一四貞︑前掲.野木村﹁独占禁止法の適用除外﹂一九八頁︑前掲・実方﹃独占禁止法﹄一.一六八頁︒ 公正取引委員会は不況カルテル創設当初︑ ﹁設備の制限﹂を設備の新増設制限と解していたようであるが︑実際の運用は生産数量制限の補完的措置として︑生産設備の封印︑格納︑稼動日数の縮減な一〜︑設備使用制限に恨定ふ︒れていた︒前掲.鈴木﹁不況カルテル﹂二五八頁︒なお公正取引委員会事務局﹃独占禁止法不況カルテルの現状﹄五頁︵公正取引協会︑一九七二年︶も設備投資制限に係る共同行為を肯定している︒ たとえば特定紡績業構造改善基本計画の計画事項は︑①昭和四十六年度における生産数量︑生産能率︑特定精紡機の錘の数︑その他構造改善の目標︑②新たに設置すべき設備の種類︑資金の額その他設備の近代化に関する事項︑③生産又は経営の規模の適正化に関する事項︑④処理すべき特定精紡機の錘の数︑処理の方法その他過剰設備の処理に関する事項︑⑤その他構造改善に関する重要事項である︵特繊三条一﹂一項︶︒ 北とえば繊維工業構造改善事業協会の業務は︑①特定精紡機の買取り及び廃棄︑②特定紡績業に属する事業を廃止する者の所有する特定精紡機及びこれに関連する紡績設備の買取り及び廃棄︑③納付金の徴収︑④特定織布業構造改善事業に必要な資金の貸付け及びその借入れに係る債務保証︑⑤設備の近代化に伴う設備の処理の事業に必要な資金にあてるための助成金の交付︑⑥特定織布業に属する事業を廃止する者の所有する織機の買取り及び廃棄︑⑦特定繊維工業に関する計画の実施に関する調査︑⑧前各号の業務に附帯する業務︑⑨その他目的を達成するため必要な業務である︵特繊四〇条一項︶︒ 本法では設備買上機関の設立に代わって︑特定不況産業信用基金が設立される︵一三条︶︒なお本法とは別に︑設備買上
機関を設立するだめに特定船舶製造業安定事業協会法︵昭五三︑法一〇三︶が制定された︒
一構造不況法の成立二1九九
1論
第二節 文−
特定不況産業の指定 一〇〇
特定不況産業の指定は︑本法の人的適用範囲︵特定不況産業に属する事業者︶を確定するための前提条件である︒
本法の業種指定方法は①対象候補業種の指定︑②特定不況産業の指定という二段階業種指定方式を採用しており︑特
振法案︵昭三八︶とほぼ同一である︒
第一に対象候補業種は︑①二条一項一号ないし四号に規定する法定業種に属する製造業︑及び②同五号に規定する
実体要件に該当し︑政令で指定される業種に属する製造業である︒②は主務大臣が関係審議会の意見を聴いて政令指
定手続をとるが︵二条四項︶︑政令の制定は本法施行後一年間に限定されている︵同六号︶︒従来の設備制限に係る特
別法は︑業種ごとの単独立法という立法形式をとっていたが︑本法は多数の構造不況業種の発生に対処するため︑対 ︵1︶象候補業種を四業種法定し︑さらに﹁経済の実態に応じて機動的な運用﹂を行うために政令−.︑追加する途を設けたも
のであって︑これは設備制限に係る特別法の一般化と言うことができる.︒
第二に特定不況産業は対象候補業種に属する製造業を営む者の申出に基づいて︑政令で指定される︵二条二項︑三
項︶︒申出の要件は︑申出をした者の数及び事業活動が当該製造業を営む者のすべての数及びすべての事業活動の大
︵2︶部分︵おおむね一︑一一分の二︶を占めている場合である︒
このような多数事業者の申出方式は特振法案の事業者団体の申出方式とほぼ同一であって︑業界の大部分の者の申 ︵34出を指定要件にすることによって︑構造不況対策を﹁民間の発意﹂にかかわらしめることを意図したものである︒従 ︵4︶って多数事業者の﹁共同﹂申出を前提とする特定不況産業の指定︵産業政策の発動︶は︑事業者間の利害を事前に調
塾し︑安定基本計画に基づく特定不況産業事業者の過剰設備の自主的処理︵四条︶や︑共同行為の実施に関する指示
︵五条︶の実効性を事実上︑担保するものである︒なお申出要件は事業者の数︵員数︶及び事業活動︵数量︶の大部 ︵5一分であるから︑大企業の﹁発意﹂が決定的となる︒
︵1︶ 通商産業省﹃構叫一迫不況法の解説﹄二一頁︑通商産業調査会︵一九七八年︶︒
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ︵2︶ なお通商産業省原案の申出要件は﹁申出を行っ仁者の数が当該製造業布︑営む者の数の相当比率・甲︑占め︑又は.−::.....申出
を行っ暑の峯活動の合計が当董造業輩急募慰漂を占碧場合﹂︵傍点筆者︶となっており︑数ω相当柴
︵おおりね二分の一︶又は数量の相当部分︵同上︶と︑現行法に比べて緩かであった︒目木経済新聞一九七八年一月二〇日
号.
︵3︶ 前掲・通商産業省﹃構造不況法の解説﹄二五頁︑黒田直樹.特定不況産業安定臨時措置法について﹂ジュリスト六六九号
四一頁︵一九七八年︶︒
︵4︶ 本法施行規則︵昭五二︑通商産業省・運輸省令二号︶一一条で定める様式﹁特定不況産業の指定の申出書﹂は.申出者の連
名﹂を認めている.︑
︵5︶ 本法二条一項に基づき特定不況産業に指定されたのは次の一四業種である︒
一 平炉又は電気炉を使用する普通鋼の圧延用鋼塊叉 五 ポリエステル長繊維製造業
は鋼材の半製品の製造業 六 ポリエステル短繊維製造業
一︑ アルミニウム製錬業 七 総トン数五︑○○○トン以上の船舶の製造をする
三 ナイロン長繊維製造業 ことがで︑︑る造船台叉はドックを使用する船舶製造
︐四 ボリアクリルニトリル短繊維製造業 業
1構造不況法の成立 ロー 一〇一
r
十十九 八 亟
口冊
第三節
特定不況産業が指定されると︑
べき計画口安定基本計画を作成しなければならない
が問題となる.︑
第一に安定基本計画の作成主体は主務大臣であり︑
る計画内容を定めるのかは主務大臣の行政裁量に委ねられている︒
第二に本計画の計画事項であるが︑
① 設備の処理を行うべき設備の種類及びその生産能力の合計︑
他設備の処理に関する事項︵以下︑ 文− 一〇ニ
アンモニア製造業 十一︑一 硫毛等紡績業
尿素製造業 十三 フェロシリコン製造業
湿式法によるりん酸製造業 十四 段ボール原紙製造業
綿等紡績業
一〜六︵昭五三︑令二七五︶︑七︵昭五三︑令三一九︶︑十三︵昭五三︑令三七〇︶
十一︑十二︵昭五三︑令一︑一八六︶︑八〜卜︵昭五四︑令九︶︑十四︵昭五四︑令一四︶
安定基本計画の作成
主務大臣は特定不況産業における不況の克服と経営の安定を図るための基本となる
︵一.一一条一項︶︒そこで本計画の内容と性格及び特別措置との関係
本計画の計画事項は法定されているが︑その計画事項にいかな
︵1︶ 次の事項が法定されている︵三条二項一号〜三号︶︒
当該設備についての設備の処理の方法及び期間その
計画事項1という︶︒
② 設備の処理と併せて行うべき当該設備の新設︑増設及び改造の制限又は禁止︵当該設備の更新又は改良を妨げる
ものを除く︶に関する事項︵以下︑計画事項Hという︶︒
③ 設備の処理と併せて行うべき事業の転換その他の措置︵雇用の安定を図るための措置を含む︶に関する事項︵以
下︑計画事項皿という︶︒
まず計画事項1の﹁設備の処理﹂であるが︑本法において設備の処理とは次の三つを指す︵二条一項五号︶︒
③②①
譲渡︵譲渡された設備が廃棄されることが明らかな場合に限る︶︒ 長期の格納若しくは休止︵廃棄に代わるべき設備の生産能力の縮少の態様として妥当なものに限る︶︒ 廃棄︒このうち①は設備の自己破砕であり︑また③は第三者への譲渡による破砕︵買上げ廃棄︶であるから︑設備制限の
種類としては現在の設備制限である設備廃棄に該当する︒
また②は︑格納又は休止が長期にわたって行われるもので︑かつ︑相当の期間と費用をかけなければ生産能力化さ ハ レせることが困難であるような態様で行われるものであるが︑将来における生産能力化︵再稼働︶は不可能ではないか
ら︑設備制限の種類としては現在の設備制限である設備使用制限に該当する︒
次に計画事項1の﹁設備の処理を行うべき設備の生産能力の合計﹂の算定方法であるが︑これは通常︑目標年度
一構造不況法の成立 口t 一〇三
r−論 文− 一〇四
︵おおむね=︑一〜五年後︶における需給の見通しに見合った生産能力を想定し︑目標年度においてその生産能力が実現 ︵3︶されるよう処理すべき設備の生産能力の合計が算定される︒これによって現在の生産能力が必要生産能力と過剰生産
能力とに区分される︒
さらに計画事項1の﹁その他設備の処理に関する事項﹂であるが︑ここでは処理に際して事業者別に如何なる配分
方式︵プロラタ方式によるか︑グループごとにやるか等︶で行うのか︑個別の設備については︑如何なる優先順位に ︵4︶より行うのか等の指針が示される︒ここでは過剰設備のグループ処理が認められており︑グループ処理を通じて企業
集中︵グループ化︶が促進されることになる︵計画事項皿へ︶︒
次に計画事項Hでは︑将来の設備制限である設備投資制限に関する事項が定められる︒計画事項1︵設備処理︶と
併せて計画事項H︵設備投資制限︶を定めるのは︑設備処理が行われても︑一方で設備の新増設が自由に行われれば︑ ハ ロ再び生産能力が拡大して︑設備を処理することが無意味になるからである・
最後に計画事項皿では︑①事業転換その他の措置及び②雇用の安定に関する措置が定められる︒①では事業の転換︑
生産の受委託︑共同販売会社の設立︑品種の専門化︑合併その他の垂直的連携︑取引の改善︑総じて企業集中︵グル ︵6︶ープ化︶に関する事項が定められる︒計画事項1︵設備処理︶と併せて計画事項皿︵企業集中︶を定めるのは︑事業
者が一律に設備を処理しても︑そのまま全員が生き残ることは困難であり︑特定不況産業における﹁不況の克服と経
営の安定﹂ ︵一条︑三条︶を図るためには︑設備処理と併せて企業集中︵グループ化︶も促進する必要があると考え ︵7︶られたためである︒ ︵8︶ また②では︑配置転換︑関連会社への出向︑新たな職業に必要な技術等を修得するための教育訓練など︑設備処理
に伴って発生する過剰労働力に対する雇用安定措置が定められる︒
以上の点から安定基本計画の性格は︑特定不況産業における﹁不況の克服と経営の安定﹂ ︵一条︑一︑一一条︶に枠づけ
られた過剰設備処理計画であるとともに︑設備投資制限︑企業集中︑雇用安定計画であると言うことができる︒
第三に安定基本計画と特別措置との関係であるが︑まず特定不況産業事業者は安定基本計画に定めるところに従っ
て設備の処理その他の措置を自主的に行うよう努めなければならない叫︵四条︶︒事業者の自主的努力の対象は計画事
項1ないし皿の全てであって︑本計画の実現は第一義的には事業者の自主的努力に委ねられている︒したがって本計
画は事業者が設備の処理その他の措置を行う場合のガイドラインとして機能することになる︒
さらに特定不況産業事業者が安定基本計画に定めるところに従って設備の処理その他の措置を行う場合︑資金の確
保︵九条︶︑特定不況産業信用基金による債務保証︵三九条︶などの特別措置が講じられ︑また事業者の自主的努力
をもってしては安定基本計画に定めるところに従って設備処理︑設備投資制限が実施されないときは︑主務大臣は特
定不況産業事業者に対して共同行為の実施に関する指示︵五条︶を行うことができる︒したがって安定基本計画と特
別措置とは計画と実施手段の関係に立ち︑本計画は各種特別措置︵行政措置︶を発動する場合の基準として機能する
ことになる..
以上の点から議会から合法的に計画内容作成の自由を獲得した主務大臣が作成する安定基本計画は︑ ﹁不況の克服
と経営の安定﹂ ︵一条︑三条︶に枠付けられた過剰設備処理計画であるとともに︑設備投資制限︑企業集中︑雇用安
定計画であって︑それは特定不況産業事業者の行う自主的努力のガイドラインとして機能するとともに︑各種特別措
置︵行政措置︶を発動する場合の基準として機能することになる︒
:構造不況法の成立 口・ ズ一︶五
−論 文! ズ一︶六
︵1︶ 通商産業省原案では安定基一本計画の計画事項は次のようになコ︑いた︵ゴ︑一条一︑項︶︑
① 設備の処理を行うべき主要設備及びその生産能力の合計︑設備の処理の方法及び期間その他設備の処理に関する事項
︵設備の処理と併叶︑て行う設備の新設︑増設及バ︶改造︵生産能力の増加を伴うものに限る︶の制限叉は林.小止に関する事項
を含益.︶
②一生産その他事業の共同化︑経営の規模の適正化︑事業の転換その他設備の処理と併せて行うべき措置に関する事項
以上の原案のうち︑①で一緒に規定されていた設備処理に関する事項と設備一の新増設制限に関する事項が︑現行法では計
画事項1とHに分離されと︒ま北原案②の企業集中︵グルー︒一ノ化︶に関する事項は合併等の認定︵一一条︶及びこれに対す
る独占禁止法の適用除外︵二一条︶と結合していたが︑一一条︑一二条が削除されたため現行法では計画事項皿で事業転換
が例示されるにとどまり・ま北雇用の安定に関する暫置が挿入されることになった︒日本経済新聞一九七八年一月二〇日
号︒︵2︶ 前掲・通商産業省﹃構造不況法の解説﹄一︑一四頁︒
︵3︶同書一﹄一頁︒
︵4︶ 同書三二頁︒なお告示された安定基本計画によれば︑事業者別配分方式は次のように規定されている︵ナイロン長繊維の
場合︑昭廷三︑通商産業省告示四八六号︶︒
㈲事業者は︑その事業者の生産量︑生産能力を基準として設備の処理を行うものとする︒︑
㈲設備の休止に入っ此後に合併又は生産の受委託等生産に係る業務提携を行う場合にあっては︑当該合併等に係る事業者が
処理した設備の生産能力の合計を減少さ崎︑ない限りにおいて処理に係る設備を変更できるものとする︒
∂はコ・ラタ方式について規定したもの唱\個別事業者は安定基本計画に定める設備処理量と自己の生産量︑生産能力を
比較して︑自己の設備処理量を算定することになる︒また㈲はグループ方式について規定したもので︑㈲によって算定した
個別事業者の設備処理量の合計額︵グルーブ全体での設備処理量︶を減少させない限度で︑処理に係る設備の変更を認める
ものである︒したがってグルーフ処理によれば︑合併等の企業集中も促進されることになる︒
また個々の設備の優先順位については︑次のように規定斗・︑れている︵フェ・シリコンの場合︑昭五一︑一︑通商産業省告示六
五一号︶︒
励事業者ぽ︑設備の処理に当忙っては︑原則として現に稼動−・一︑いない設備を優先して処理するものとする︒
これは現に稼動していない非能率的な設備から優先的に処理するもの弓︑ある・
︵5︶ 前掲・通商産業省﹃構造不況法の解説﹄ゴ︑三頁︒
︵6︶ 同書三四頁︒
︵7︶ 同書︑一.一︑一二頁︑一.︑七頁︒︑
︵8︶ 同書一︑左頁.︑なお雇用安定措置は衆議院での修正により追加きれ九ものである︒
第四節 共同行為の実施に関する指示
I−構造不況法の成立
1
一〇七
一論 文− 一〇八
安定基本計画の実現は第一義的には特定不況産業事業者の自主的努力に委ねられ︵四条︶︑これを支援するために
︵1︶資金の確保︑特定不況産業信用基金による債務保証︵三九条︶などの特別措置が定められているが︑事業者の自主的
努力をもってしても本計︑画に定める設備処理及び設備投資制限の実現が困難な場合もあるので︑ ﹁安定基本計画完遂 ︵2︶の担保手段﹂として共同行為の実施に関する指示︵五条以下︶が定められている︒
設備制限に係る共同行為の実施に関する指示は既に繊工法や特繊法にもみられ︑さらにその実効性を担保するため ハヨロに処理命令も定められているが︑本法では共同行為の実施に関する指示に限定されている︒
ところで公正取引委員会は︑本法の制定に先立って︑独占禁止法・不況カルテルによって設備廃棄は可能であると
する見解を明らかにしている︵七七年︶︒そこで不況カルテルとは別に共同行為の実施に関する指示を設けた理由が
問題となるの叫\本節では不況カルテルと対比しつつ共同行為の実施に関する指示の機能について検討することにす
る.. さて共同行為の実施に関する指示は︑①主務大臣が特定不況産業事業者に対して共同行為の実施を指示する過程
︵指示過程︶と︑②指示を受けた者が指示に従って共同行為を実施する過程︵実施過程︶とに区分される︒
まず指示過程であるが︑主務大原は五条一項に規定する指示の発動要件に該当する場合︑特定不況産業事業者に対
して設備処理及び設備投資制限に係る共同行為を実施すべきことを︑共同行為をすべき期間及び共同行為の内容を定
めて︵五条二項︶指示することができるが︑その共同行為の内容は六条に規定する内容適合要件に適合するものでな
ければならない.︑
第︑に指示の発動要件であるが︑これは不況カルテルの認可要件︵積極要件︑独禁二四条の三第一項︶に相当する︒
不況カルテルの積極要件の一つは﹁当該商品の価格がその平均生産費を下り︑旦つ︑当該事業者の相当部分の事業の
継続が閑難になるに至るおそれがあること﹂ ︵独禁二四条の三第一項言︑乃︶であって︑コスト割れ状態と事業の継続
園難性の二つを要件にしているが︑本法の発動要件の一つは﹁当該特定不況産業に属する事業者の相当部分の事業の
継続が園難となるに至るおそれ﹂ ︵五条一一項︶であって︑コスト割れ状態の要件がなく︑事業の継続困難性のみを要 ハ り件としている︒したがって指示の発動要件は不況カルテルの積極要件よりも明らかに緩和されており︑一一時的にコス
ト割れ状態が解消しても指示を取り消す必要がなくなり︑比較的長期間を要する設備処理や設備投資制限に係る共同 ロ行為の実施に﹁法的安定性﹂を付与することになる︒
第二に指示は︑すべての特定不況産業事業者を対象として共同行為をすべき期間及び共同行為の内容を定めて行わ
れる︒共同行為の実施に関する指示は︑安定基本計画に定める計画内容を実現するために行われるのであるから︑指 パ レ示で定める共同行為の内容は安定基本計画の計画内容が基準となり︑それに規定されることになる︒
第三に指示で定める共同行為の内容は︑内容適合要件に適合するものでなければならない︵六条︶.︑この内容適合
要件は不況カルテルの認可要件︵消極要件︑独粧︑小二四条の三第四項︶に相当するが︑不況カルテルの場合は﹁第一項
に規定する事態を克服するために必要な程度をこえないこと﹂ ︵独禁二四条の三第四項一号︶と規定され︑コスト割
れ状態を含む不況事態の克服が必要性の基準とされているが︑内容適合要件の場合は﹁安定基本計画に定めるところ
に従って設備処理等を実施するために必要な程度を超えない二と﹂ ︵六条一号︶と規定され︑安定基本計画に定める
設備処理等が必要性の基準とされている︒したがって不況カルテルでは設備廃棄が不況事態を克服するために﹁必要
な程度﹂を超えているのか否かが問題となるのに対して︑共同行為の実施に関する指示では設備処理等は所与の前提
:構造不況法の成立 ロー ﹈〇九
−−論 文⁝ 一一〇
とされ︑ただそれが安定基本計画に定めるところに従って設備処理等を実施するうえで﹁必要な程度﹂を超えている
のか否かが問題になるに過ぎない︒従って内容適合要件は主務大臣が安定基本計画に定める設備処理量を超えて指示
することを制限するための基準になるに過ぎない.︑
第四に指示の手続であるが︑主務大臣が指示をしょうとするときは︑公正取引委員会の事前の同意を得ることを要
する︵一二条︶︒ この場合も内容適合要件︵六条一号ないし三号︶が同意の基準になり︑独占禁止政策との調整が行
われる︒なお繊工法︑特繊法では協議条項となっていたが︑本法では同意条項となっており︑公正取引委員会の権限
が強化されている︑︑
次に共同行為の実施過程であるが︑指示を受けた者は指示に従って共同行為を実施すべきこと︑すなわちその指示 ︵7︶内容に従った共同行為の協定書︵カルテル契約︶を作成し︑それぞれこれを履行すべきことになる︒指示を受けた者 ︵8︶が指示に従ってする共同行為に対しては独占禁止法の適用が除外される︵ゴ条︶︒なお指示に係る共同行為の内容
が内容適合要件に適合するものでなくなった場合︑主務大臣はその指示を変︑更し︑又は取り消さなければならず︵七
条︶︑また上記の場合︵六条石σないし三号︶︑公正取引委員会は主務大臣に対して指示の変更又は取消を求めること
ができる︵二一条三項︶︒
さて以上の実施過程を不況カルテルのそれと比較してみると︑不況カルテルでは事業者の自主性を前提とし︑相手
方の選択︑契約の締結︑契約の内容は認可要件の範囲で自由であるのに対して︑共同行為の実施に関する指示では主
務大臣がすべての特定不況産業事業者を名宛人として︑共同行為の内容を定めて︑共同行為の実施を指示する︒後者
の場合︑指示を受けた者が指示に従わなくても制裁はなく︑したがって安定基本計画が実現される最終的な保証はな
いが︑主務大臣の指示によって相手方の選択︑契約の締結︑契約の内容は事実上制約され︑また特定不況産業の指定
に際しての﹁共同﹂申出要件︵事業者数及び事業活動の大部分︶の存在も共同行為の実効性を事実上担保することに
なろう︒ その結果︑安定基本計画の計画内容は指示する共同行為の内容となり︑また共同行為の内容を定めた指示が指示に ︵9︶従ってする共同行為の内容を事実上制約することによって︑安定基本計画の計画内容が実現されることになる︒した
がって共同行為の実施に関する指示は︑国家意思︵安定基本計画の計画内容及びそれに基づく指示の内容︶が相手方
の選択︑契約の締結︑契約の内容を事実上制約するものであって︑不況カルテルより高次のカルテルと言うことがで
きる︒ ︵1︶ 一九七八年度から︑安定基本計画に基づいて設備の処理を行う事業者が事業の転換を行う場合︑転換先の事業に必要な設
備資金につき日本開発銀行が低利融資する制度が設けられている︵七八年度︑金利七・五%︑融資比率五〇%︑資金規模そ
の他枠五八五億円の内数︶︒前掲・通商産業省﹃構造不況法の解説﹄五一頁.︑
︵2︶ 同書四二頁︒
︵3︶ 通商産業省原案では共同行為の実施に関する指示の実効性を担保するため︑設備の新設等の制限命令︵九条︶が定められ
てい仁が︑削除された︒
︵4︶ 丹宗昭信﹁特定不況産業安定臨時措置法と独占禁止法﹂公正取引三三三号七頁︵一九七八年︶︒
︵5︶ 前掲・黒田﹁特定不況産業安定臨時措置法について﹂四三︑頁︒
︵6︶ ナイロン長繊維︑ホリァクリルニトリル短繊維︑ポリエステル長繊維︑不リェスチル短繊維︑尿素︑アンモニア︑梳毛
糸︑段ボール原紙の八業種に対して共同行為の実施が指示←︑・れだが︑指示きれた共同行為の内容と安定基本計画の計画内容
i構造不況法の成立 の−− 一一一
−論 文− 一一二
とはすべて一致している︒通商産業省告示参照︒
︵7︶ 前掲・通商産業省﹃構造不況法の解説﹄四四頁︒
︵8︶ 指示を受けた者が指示と異なる共同行為を実施し北場合︑独占禁止法の適用はドこうなるのか︒設備処理量︑処理期間︑設
備投資制限の期間などが指示よりも過大な場合及び過少な場合が問題になる︒過大な場合は指示が取り消され︑独占禁止法
が適用される︒それゆえ事業者は独占禁止法の適用を回避するために︑共同行為の内容浄︑指示の範囲に抑制することにな
る︒他方︑過少な場合は安定基本計画の実現は困難になるが︑過少な共同行為が独占禁止法上問題にされることはないと思
われる︒
︵9︶ 安定基本計画で定めた設備処理目標に対する設備処理実績の達成率をみると︑共同行為の実施に関する指示があったもの
の達成率は︑ナイ・ン長繊維九八弘︑ポリエステル長繊維八二%︑ポリニステル短繊維九〇%︑ポリアクリルニトリル短繊
維一一三%︑アンモニア一〇〇%︑尿素九三%︑梳毛糸九六%︑段ボール原紙九四拓であるのに対して︑指示のなかったも
のの達成率は平電炉九五狂︑アルミ精練九七%︑湿式りん酸九二%︑綿紡七八%︑フェロシリコン一〇◎%︑造船一〇五%
イ.﹂あり︑指示がなくても達成率は高い︒競争政策研究委員会﹃基礎素材産業における望ましい産業体制のあり方について﹄
七五頁︑財団法人産業研究所︵一九八二年︶︒
第五節 特定不況産業安定基金による債務保証
特定不況産業信用基金による債務保証︵三九条︑以下︑基金保証と路す︶は︑資金の確保︵九条︶︑共同行為の実
施に関する指示︵五条︶と並んで安定基本計画を実現するための特別措置の一つである︒基金保証は︑設備に担保権
を設定して資金を借入れた特定不況産業事業者が安定基本計画に定めるところに従って設備の処理を行うために必要
となる担保解除資金︵休止︑格納の場合は担保評価額の減少に伴う繰上弁済資金︶の借入れについて債務保証を行う
ものである︒基金保証は信用補完制度の一種であって︑中小企業が資金を借入れる場合に債務保証を行う信用保証協
会保証の一般化と言うことができる︵但し基金保証には信用保険が付されていない︶︒
従来︑特別法によって設備廃棄を行う場合︑設備買上機関へ石炭鉱業合理化事業団︑繊維工業構造改善事業協会な
ど︶が設立され︑あるいは商工組合が設備処理事業を行っていたが︑本法では設備買上機関を設立せず︑基金が設備
処理に必要な資金の借入れに係る債務保証を行うことによって︑安定基本計画に定める設備処理を実現しようとする ︵1︶ものである︒なお基金は日本開発銀行及びその他の者が出資者︵一六条︶となって設立された認可法人であって︑政
府が設立する特殊法人とは異なる︒以下︑基金保証の機能について検討することにする︒
基金保証は設備処理の種類によって次のように区分されている︵三九条二項︶︒
① 特定不況産業事業者︵設備処理を行う事業者︶が安定基本計画に従って行う設備の処理のため必要な資金及び当
該設備の処理に伴って必要となる資金の借入れに係る債務保証︵保証1︑図1参照︶︒
② 当該設備の処理が譲渡によって行われる場合において︑譲渡を受ける者︵設備買上機関︶が設備処理を行う事業
者に支払う補償金の支払に必要な資金の借入れに係る債務保証︵保証H︑図2参照︶︑又は補償金の支払に必要な
資金を負担する者︵残存事業者︶がある場合における当該負担金の拠出に必要な資金の借入れに係る債務保証︵保
証皿︑図3参照︶︒
1構造不況法の成立 口I− 一コニ
−論文1
匹團 騒一画
まず保証1において
指し︑また
〔図2〕保証II
匝麗扁匡ヨ
〔図3〕■保証III
負担金 貸出
翠 灘
圏 團求響匡ヨ
(出典)清水猛「特定不況産業安定基金の事業」 _、
造船界120号7頁。 四
﹁設備の処理のため必要な資金﹂とは担保解除資金︵廃棄︶︑繰上弁済資金︵休止︑格納︶を
﹁当該設備の処理に伴って必要となる資金﹂とは附属設備の担保解除資金及び設備処理に伴って離職者が ︹2︶発生する場合における退職金の支払いに必要な資金を指す︒基金は設備処理を行う事業者からの委託を受けて貸付機
関と債務保証契約を締結し︑貸付機関は担保解除資金を設備処理を行う事業者に貸付ける︒設備処理を行う事業者は
担保権者︵債権者︶に借入金を返済して担保権を解除し︑設備を処理一する︒なお同様の手続によって附帯設備の担保
解除資金︑退職金の支払いに必要な資金の借入れに係る債務保証も行われる︒
次に保証Hであるが︑基金は設備買上機関からの委託を受けて貸付機関と債務保証契約を締結し︑貸付機関は補償
金の支払いに必要な資金を設備買上機関に貸付ける︒設備買上機関は設備処理を行う事業者に補償金を支払い︑設備
処理を行う事業者は担保権者に借入金を返済して担保権を解除し︑設備買上機関に設備を譲渡する︒ところで設備買
上機関が取得した設備を換価して貸付機関に対して返済資金を捻出することは事実上困難であるから︵廃棄11破砕さ
れることが明らかな場合に限る︒二条一項五号︶︑誰が借入金を返済するのかが問題となるが︑この場合︑残存事業 ︵3︶者がこれを返済することが予定されている︒
そこで保証皿は保証nに残存事業者を組み込んだもので︑基金が残存事業者からの委託を受けて貸付機関と債務保
証契約を締結し︑貸付機関が負担金の拠出に必要な資金を残存事業者に貸付け︑残存事業者が負担金を設備買上機関
に支払い︑以下︑保証Hと同様な手続を経て︑設備処理を行う事業者が担保権者に借入金を返済して担保権を解除し︑
設備を設備買上機関に譲渡する︒
なお基金の保証対象金額は︑保証1ないし皿のいずれの場合においても︑原則として安定基本計画に従って行う処 ハ ソ理一設備の土地を除く残存簿価である︒
さて以上を前提として基金保証の機能について整理すれば︑第一に基金は貸付機関に対して債務保証を行うことに
よって︑原資の一〇倍程度の信用を創造することが可能となり︑他方︑貸付機関も基金が債務保証︵人的担保︶した
回収確実な債権を確保することができる︒
これによって第二に保証1ないし皿のいずれの場合においても︑設備処理を行う事業者は担保権者に対して借入金
を返済して担保権を解除し︑安定基本計画に定めるところに従って設備処理を行うことが可能になる︒
ところで設備処理を行う事業者はこの返済資金を①貸付機関からの借入金︵保証1︶又は②設備買上機関からの補
一構造不況法の成立 口⁝ 二五