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Fauconnier-Turner のブレンド理論との関係

この節では,論文の締めくくりに,ブレンド理論(Blending Theory) (Fauconnier 1997;

Fauconnier & Turner 1994; Fauconnier & Turner 1996; Fauconnier & Turner 1998)と の関係について,簡単に述べておきたい.

5.11.1 「ゴミ箱バスケット」のブレンド理論による分析

Coulson (Coulson 2001: 115–118) はゴミ箱バスケット(ボール)(Transhcan Basket-

ball)というアメリカの大学()生が考案した新奇な遊びをブレンド理論の観点から説明

している.図(Coulson 2001: 118, Fig. II.3)には,次のような解題がある: (97) a. BASKETBALL(Input1):

Elements ={Person, Bball, Basket};

Relations ={Shoot(Person, Bball, Basket)} Descriptions ={Leather-Sphere(b), Bball(b)} b. TRASHDISPOSAL(Input2):

Elements ={Person, Paper, Trashcan};

Relations ={Throw-out(Person, Paper, Trashcan)}; Descriptions ={Crumpled-Paper(b00), Trash(b00)} c. BLEND:

Elements (UNSPECIFIED);

Descriptions ={Crumpled-Paper(b0), TrashcanBball(b0)} d. GENERIC:

Elements (UNSPECIFIED);

Descriptions ={Vaguely-Spherical(b), Trashcan-Bball(b)}

5.11.2 意味役割の理論による分析の詳細化

一般意味役割理論は,ブレンドを成立させる背景知識の体系を次の(98)(99)にあるよ うに明示することで,Coulsonの分析を補う.Input1,Input2 は,おのおの次のような フレームF1, F2である:

62) 一般的な傾向として,認知意味論,認知言語学の研究は,たかだか言語現象の詳細とも言えない記述から 得られたに過ぎない高次認知レベルでの一般化を真に受け過ぎる.これ故,明らかに,低次認知レベルで の一般化と整合性が保証されていない.アフォーダンス理論との相性の悪さは,この一つの現われに過ぎ ない.

5 意味役割の理論の展開 62 (98) F1: hhhhバスケットボールii(Basketball)競技でのhh攻撃者iihh得点iiの試み

ii= hh

a. hh競技者攻撃者: xiiが b. hh場所: 試合会場ii

c. hh: 試合の最中ii d. hh競技ボール: zii

e. hh手段: hh 反則ii をしないでhh 競技者防御者: yiihh防御iihh 回避 iiして,hhゴール: バスケット(の中)ii に入るようにh投げるi ことでiihh シュート(をhh打つiiこと)iiが成立し,

f. hh目的: hh得点iiii g. hhGOVERNOR:試みるii ii

(99) F2: h h日常生活i でのh放棄者ih不要物ihh投げ捨てii(Trash disposal) の 試みi=

h

a. h放棄者iが,

b. h場所: h日常(生活)ihある場面ii, c. h: UNSPECi,

d. h不要物(secondary)):紙クズ玉iを,

e. h手段: h一時的不要物収容器: ゴミ箱i(の中)に入るようにh投げるiことi, f. h目的: ゴミ箱の近くに寄ってゴミを棄てることを避けるiことを,

g. hGOVERNOR:試みるi i

hh競技者iih行動者[+generic]iの特殊化,hhボールiih対象物[+generic]i 特殊化である.

ブレンドの結果は,次の(100)に規定されるような新奇なF3: h遊びiフレームである: (100) F3: hゴミ箱バスケットボールという遊びiでのhh攻撃者iihh得点iiの試み,

h

a. h競技者(primary)兼 放棄者(secondary)i, b. h場所: ゴミ箱がある日常的な場面i,

c. h時: UNSPECi,

d. h競技ボール(primary)兼 不要物(secondary)):紙クズ玉i,

e. h手段(primary): hゴール(primary)兼 ゴミ箱(secondary)i(の中)に入るよ うにh投げるiことiで,

f. h目的(primary): h(息抜きのための)遊びiでのh得点ii,

5 意味役割の理論の展開 63 f0 h目的(secondary):ゴミ箱の近くに寄ってゴミを棄てることを避けiつつ, g. hGOVERNOR:試みるi

i

モデルになっているのはバスケットのhh攻撃ii全体ではなく,hhフリースローiiの場 面であり,hh防御者iiによるhh防御 iiは成立していないので,F1のh hh反則 iiをしな いでhh防御者: yiihh防御iihh回避iiしてiという部分は,F3では抜け落ちる.ま た,遊びは独自にそれなりの労力を必要とするので,F2のhh余計な労力ih回避iを試 みるi部分は脱落する.

なお,この遊びフレームは,まだ公式な競技としては成立していないので,社会的フ レームというより状況的フレームである.もちろん,遊びとして成立するための,制度的 な側面,例えばh順番の交替iのような漠然としたルールは,当然ながら存在するはずで ある.

5.11.3 意味役割の理論はブレンド理論を補完する

ブレンド理論は,R(b,b0)が類推コネクター(analogical connector),R(b00,b0)がIDコ ネクター(ID connector)であると分析する.このことは,(100)でのh目的(primary)i h目的(secondary)i の区別に関係がある.h遊びi としての状況を構成するのは h目的 (primary)iである.

意味役割理論が示唆するのは,Genericに相当するのは(101)だということである.

(101) F0: h h投げ入れ手: xi, h時間: いつかi, h場所: どこかi,h目的: 何かiのため に,h対象: ボール(状のモノ)i,h標的: 容物(の中)i, . . . ,hGOV:投げ入れるii これは明らかにhヒトの活動iフレーム: hh活動者: 誰かがi, . . . ,h目的: 何かのためにi, hGOV:何かをするi iの特種例である.これはゴミ箱バスケットが新しいタイプの活動で あることを保証する63)

ところが,Coulsonの分析では,Genericの規定内容(97d)を見る限り,h丸めた紙く ずが“ボール”と呼ばれる/見なされるi ということしか表現されておらず,hモノをなか なか入らないゴールに投げ入れるiという特徴が重要であるという情報をコードしていな い.そのため,彼女の分析では,“ゴミ箱バスケットh(息抜きのための)遊びiである という部分が明示されていないが,意味役割の一般理論はそれを明示することができる だろう.これは創発的特徴(emergent properties)の一つである.従って,意味役割分析 は,ブレンド分析より効果的に創発的特徴を特定することができるかも知れない.

また,意味役割分析はブレンド理論が説明しづらいことを説明する可能性がある.それ は「そもそもブレンドはなぜ起こるのか?」という問題である.ブレンド理論は,ヒトの

63) ただし,この活動がh遊びiであることがどこにある情報から規定されるのかは,意味フレーム分析 でも必ずしも自明ではない.これがおそらくhバスケットiというh競技(遊び)i特殊(事例) (specialization)だという点からそうなるのだろうが,あまりハッキリしたことは言えない.

5 意味役割の理論の展開 64 発話解釈の創造性など,ブレンドの効果を数多く列挙するが,それはブレンドの存在意義 を構成しない.説明における原因と結果を混同してはならない.現象の存在意義は,その 効果=結果によっては説明できない.例えば,鳥類に翼が生じたのは,原始的な鳥がそれ を使って飛べるようになったからではない.

更に言うと,近(接要)(proximate factor)の説明と究極()(ultimate factor) 説明を混同してはならない.ブレンドは,ゴミ箱バスケットという新しい遊びの考案の近 因の説明にしかならない.トマトが赤い理由を「それが赤い色素をもつから」である説明 するのは近因の説明である.確かに,赤い色素をもたないものは,何であれ赤くはならな い.だが「トマトが赤い色素をもつのがなぜであるか」を説明しない限り,トマトが赤い という現象の究極因に説明を与えたことにはならない(三島1992: 12–13).

私たちの意味役割基盤の分析が示唆するのは,ゴミ箱バスケットという新奇な遊びの考 案のゴール指向性である.ゴミ箱バスケットの成立を動機づけているのは,おそらく行動 目的の読み替えであり,この場合であれば,h hモノih目標iに向って投げるiことの h目的ih不要物の放棄iからh競技での得点iへ読み替えである.この分析が正しけれ ば,少なくともこの場合,ブレンドを駆動しているのは,ヒトが自分の行動(e.g.,hゴミ を投げ捨てるi)に新たな目標(e.g.,hそれで遊ぶi)を見つける能力であることになる.

Gentnerの構造写像理論(Structural Mapping Theory: SMT) (Gentner 1983) (cf. (谷

口2003: 173–175))に始まる認知心理学での類推研究での議論に,属性レベルの特徴(at-

tributive property)が類推写像に寄与するかどうかにまつわる議論があった.Holyoak

とThagard (Holyoak & Thagard 1994)は彼らが用途の制約(pragmatic constraints)と 呼ぶ目標指向性によって意味をもつ属性の場合,それは類推写像に関わるばかりでなく,

重要な特性になりうるというを指摘している.子供がカーペットを丸めて筒にして,管の 代わりにするような類推思考が現れるのは(Holyoak,et al. 1984),このような条件がある ためであるとされる.従って,GentnerSMTの提案の当初に主張していたカーペット の属性のような一次属性が無関係という規定は妥当とは言えないと論じている.これは,

要するに,ある目標が存在する状況下でモノのアフォーダンス(Gibson 1979; Reed 1996;

三嶋2000;佐々木1994)にどう対処するかという問題であり,hゴミを,なかなか入らな

い,遠くに置いてある容器に努力して投げ入れるiという活動に,すでにバスケットとい う競技に部分的に具現化されている遊技性,競技性を発見的に認識することが,類推コネ クターの前提条件となると思われる.

推測になるが,この遊びを考案した人物(たち)はバスケットを日常的にやったことの ある人物である可能性が高いと思う.というのは,丸めた紙くずをゴミ箱に投げ入れる際 に,遠くにあるゴミ箱にうまく投げ入れるには,バスケットでシュートするかのように投 じるのが効果的であるのを発見するにはバスケットのスローのある程度の熟練を必要とす ると思われるからである.バスケットのスローとゴミの投げ入れが似ている動作,あるい は同じ動作であるという“気づき”が生じるためには,やはり何かが必要である.

身体を特別な形で使っている,あるいは協調させているという点で,これは身体性