前節は数列(自然数の変数の関数)の極限を扱ったが、ここでは実変数の関数 f に関する極 限 lim
x→af(x)を扱いたい。簡単のため、f はRの区間 I で定義された関数 f: I →Rで、a ∈I とする。ここで I は、区間にその “端の点” を加えたものである。つまり
• I = (α, β),(α, β],[α, β),[α, β] (ここで α, β ∈R, α < β とする) の場合はI = [α, β]
• I = (α,∞),[α,∞) (ここで α∈R)の場合は I = [α,∞)
• I = (−∞, β),(−∞, β] (ここで β ∈R)の場合はI = (−∞, β]
• I = (−∞,∞) = R の場合はI = (−∞,∞) =R a∈I でなく、a∈I とする理由は、
xlim→0xlogx= 0
のような例を扱うためである。x7→xlogxの定義域は I = (0,∞) であり、0はその定義域に 属さないことに注意しよう。
微積分のテキストでは、関数f を定義するときに、定義域を明示せずに、f(x) の式だけを 与えるだけで済ませることが多い。その場合、f(x)という式が意味を持つような、なるべく 大きな (Rの)部分集合を定義域 I に選ぶ、という暗黙の了解がある (その辺りは、ある意味 で古めかしい16)。
例 3.1 (i) f(x) =√
x の定義域は I = [0,∞) (ii) f(x) = logx の定義域は I = (0,∞) (iii) f(x) = sinx
x の定義域は I =R\ {0} (iv) f(x) = 1
x2−3x+ 2 の定義域は I =R\ {1,2}
(細かい注意)後の二つではI が区間になっていないことに注意しよう(有限個の区間の合併 になっているので、そんなに困るわけではない)。本当は1次元でも、以下の注意3.4に書くよ うな (定義域を区間とは限らない)一般的な定義を採用する方が望ましいわけである。
問 43. f(x) = tanx の定義域を書け。
余談 3.1 (定義域は区間で十分?) 微積分の多くのテキストでの習慣を踏襲して、以下、関数
の定義域は R の区間とするのだが、有理関数などでは、Rから有限個の点を除いた集合が定 義域にするのが自然であり、それは区間ではないことに注意が必要である。多変数関数の場合 にそうするように、I は Rの空でない部分集合で、I はI の閉包とするべきかもしれない(閉 包については後述する)。
定義 3.2 (実関数の極限) I を R の区間、f: I →R, a ∈I, A ∈ R とする。x → a のと き f(x) が A に収束する (このことを f(x)→A (x→a) と表す) とは、
(∀ε >0)(∃δ >0)(∀x∈I :|x−a|< δ) |f(x)−A|< ε
が成り立つことをいう。(実はこれを満たすようなAは1つしかない。)A のことをx→a のときのf(x)の極限と呼び、lim
x→af(x) で表す。
またx→aのときf(x)が極限を持つ(あるいは「f(x)が収束する」)とは、あるA∈R が存在して、x→a のとき f(x) が A に収束することをいう。
せめて1行覚えるならば
xlim→af(x) =A def.⇔ (∀ε >0)(∃δ >0)(∀x∈I :|x−a|< δ) |f(x)−A|< ε.
16暗黙の了解のようなものは無くした方が良いと思うが、まだまだ色々残っていて、しばらくはそういうのに 付き合う必要がある。気づいたことは、なるべく文章化してしまう方針であるが…
命題 3.3 極限は一意である(極限は存在する場合、1個だけであり、2個以上は存在しない)。
証明 (数列の場合と同様なので省略する。) (以下の注は一度ボツにしたのだけど…)
注意 3.4 (多変数ベクトル値関数の極限) 実は Ω⊂ Rn, Ω ̸=∅, f: Ω →Rm, a ∈ Ω, A ∈ Rm の場合(つまり f が多変数ベクトル値関数ということ) に、ほとんど同様に極限 lim
x→af(x) が 定義できる。
xlim→af(x) = A def.⇔ (∀ε >0)(∃δ >0)(∀x∈Ω :|x−a|< δ) |f(x)−A|< ε.
ただし Ωは次式で定義される Ωの閉包 (the closure of Ω) である17: Ω :={x∈Rn|(∀ε >0)B(x;ε)∩Ω̸=∅}. ここで B(x;ε) は、x を中心とする半径 ε の開球である:
B(x;ε) := {y∈Rn| |y−x|< ε}.
なお、|·| はベクトルの長さを表す。つまりx= (x1,· · · , xn)∈Rn に対して、
|x|=
√
x21+x22+· · ·+x2n.
一度に一般的な議論をすると、ごちゃごちゃしていて分かりづらく感じる人が多いと思われ るのでそうしないが、このようにすると一般化できることは知っておいてもらいたい。後でこ こに戻ってくる時間はないかもしれない。
例 3.5 (簡単な、でも実は重要な例 — 後で使う) (1) f が定数関数のとき、つまり
(∃c∈R)(∀x∈I) f(x) =c が成り立つときは、任意の a ∈I に対して、lim
x→af(x) = c. (証明は数列の場合と同様で、
そのときは N = 1 としたけれど、こちらもδ = 1 で良い。) (2) f が恒等写像のとき、つまり
(∀x∈I) f(x) =x が成り立つときは、任意のa∈I に対して、lim
x→af(x) = a. 実際、任意の正数ε に対して、
δ:= とおくと、δ >0 で、かつ|x−a|< δ なる任意の x∈I に対して
|f(x)−a|=|x−a|< ε.
ゆえに lim
x→af(x) = a.
(授業では、これを証明するときはどう考えれば良いか、実演する。証明の書き出しはこう。
末尾はこう。穴を埋めていって、最後にはめるパズルのピースが δ= …) 問 44. 上の例の を埋めよ。
問 45. 絶対値は連続、すなわちf: R→R, f(x) =|x| (x ∈R) で定義される関数 f は R で 連続であることを示せ。
17授業では、イメージ図を描くこと。