6 Weierstrass の最大値定理 (1 次元版 )
7.3 凸関数と 2 階導関数
(授業では、この小節を説明する余裕はないと思われる。簡単であるから必要が生じてから 読めば良いであろう。)
定義 7.14 (凸関数) I を R の区間、f: I →R とするとき、
f がとつかんすう凸関数(convex function)def.⇔ {
(∀a∈I)(∀b∈I)(∀t∈(0,1))
f(ta+ (1−t)b)≤tf(a) + (1−t)f(b).
直観的には、グラフが下に凸であるような関数のことを凸関数というわけである。
定理 7.15 (2階導関数の符号と凸性) R の区間I で f′′ が存在して、f′′ ≥0 on I である とき、以下のことが成立する。
(1) 任意のa, x∈I に対して, f(x)≥f(a) + (x−a)f′(a).
(2) f は I で凸。
(3) f′(α) = 0 となるα ∈I が存在すれば、α は f の最少点である。
証明
(1) Taylor の定理をn = 2 として用いると、f′′≥0 から f(x) = f(a) +f′(a)(x−a) + f′′(c)
2 (x−a)2 ≥f(a) +f′(a)(x−a).
35Taylor展開の中心が 0であるものをMaclaurin展開と呼ぶ、というのはすっかり普及している用語である
が、歴史的には正しくないのだそうである(このことも良く知られているが、今さら変えられないらしい)。
(2) x=ta+ (1−t)b とすると、前項より
f(a)≥f(x) + (a−x)f′(x), f(b)≥f(x) + (b−x)f′(x) となる。両式にそれぞれt, 1−t (≥0)を乗じて、辺々加えると、
tf(a) + (1−t)f(b)≥[t+ (1−t)]f(x) + [t(a−x) + (1−t)(b−x)]f′(x).
整理すると36
tf(a) + (1−t)f(b)≥f(x) = f(ta+ (1−t)b).
(3) Taylor の定理をn = 2 として使うと、α と x の間に cが取れて、
f(x) =f(α) +f′(α)(x−α) + f′′(c)
2 (x−α)2. f′(α) = 0, f′(c)≥0, (x−α)2 ≥0であるから、
f(x)≥f(α).
ゆえにf(x)は x=α で最小となる。
8 開集合 , 閉集合
(開集合、閉集合について、微積分で良く必要になる、最小限のことを説明する。「トポロ ジー」を履修すれば詳しく学ぶことが出来る。)
多変数関数の微分法のテキスト37に出て来る定理・命題の8割以上で、関数の定義域は開集 合であると仮定するのが普通である。そうする理由を一つ説明しておく。f が n 変数ベクト ル値関数であるとは、Rnの部分集合 Ωを定義域とする写像f: Ω→Rm であることを意味す るが、a∈Ω においてf の微分を考える場合に、“a に十分近い任意の” 点 a+h での値に意 味がないと、微分を定義すること自体が困難である。Ω が次で定義する開集合というもので あれば、この問題が解決される38。
定義 8.1 (Rn の開集合) Ω⊂Rnとする。ΩがRnのかい開集合(開部分集合, an open (sub)set of Rn) とは、
(♡) (∀a∈Ω)(∃ε >0) B(a;ε)⊂Ω を満たすことをいう。
B(a;ε) とは、a を中心とする半径 ε の開球である:
B(a;ε) = {x∈Rn| |x−a|< ε} (a からの距離が ε より小さい点の全体).
従って (♡)は
(∀a∈Ω)(∃ε >0)(∀x∈Rn:|x−a|< ε) x∈Ω と同値である。
36t(a−x) + (1−t)(b−x) =ta+ (1−t)b−[t+ (1−t)]x=ta+ (1−t)b−x= 0.
37参考までに、多変数の微分法の講義ノート桂田[14], [15]を紹介しておく。
38実はここに書いた理由がかすんでしまうくらい、開集合や閉集合が重要である理由は他にある。それはおい おい明らかになる。
例 8.2 (開区間は開集合) R の開区間I はR=R1 の開集合である。例えばα, β ∈R, α < β, I = (α, β) の場合、a∈I に対して、
ε:=a と I の端点までの距離= min{a−α, β−a}
とおくと、ε >0で、B(a;ε) = (a−ε, a+ε)⊂I となるので(確認せよ)、I は開集合である。
I = (−∞, β),I = (α,∞)の場合も同様である。
例 8.3 (開球は開集合) c ∈ Rn, r > 0 とするとき、Ω := B(c;r) = {x∈Rn;|x−c|< r} は Rn の開集合である。
(証明) a ∈ Ω とするとき、|a−c| < r であるから、ε := r− |a−c| とおくと、ε > 0 で、
B(a;ε)⊂Ω である。実際y ∈B(a;ε)とすると、|y−a|< ε であるから、
|y−c|=|y−a+a−c| ≤ |y−a|+|a−c|< ε+|a−c|=r となり、y ∈B(c;r) = Ω である。
余談 8.1 (証明のヒント) 与えられた Ω(⊂Rn) が Rn の開集合であることを、定義に従って 証明する場合、ε をどう選ぶか問題になるが、ε:= inf{|x−a| |x∈Ωc} とおいて、ε >0 と なるかどうかチェックすれば良い。(それさえ言えれば、B(a;ε)⊂Ωが一般に成り立つことが 容易に示せる。) 上の二つの例のε の取り方は実はそうなっている。
問 75. a ∈ R, r ≥ 0 に対して、V(a;r) := {x∈Rn| |x−a|< r} とおく。A ⊂Rn, A ̸=Rn, a∈A に対して、ε:= inf{|x−a| |x∈Ac} とおくとき、V(a;ε)⊂A であることを示せ。
問 76. 一般に ε:= inf{|x−a| |x∈Ωc} とおくとき、ε ≥0 であるが、Ω が開集合 ⇔ ε >0 であることを示せ。
開集合については、次の命題が基本的である。
命題 8.4 (位相(開集合系)の公理) (1) ∅ と Rn は Rn の開集合である。
(2) 集合族 {Uλ}λ∈Λ の各集合 Uλ が Rn の開集合であるならば、合併 ∪
λ∈Λ
Uλ = {x∈Rn|(∃λ∈Λ) x∈Uλ} はRn の開集合である。
(3) U1 と U2 が Rn の開集合ならば、U1∩U2 は Rn の開集合である。
問 77. 命題8.4 を証明せよ。
問 78. 集合族{Uλ}λ∈Λ の各集合Uλ がRn の開集合であっても、共通部分 ∩
λ∈Λ
Uλ は Rn の開 集合とは限らない。例をあげよ。
微積分に現れる開集合の多くは、次の命題によって開集合であることを証明できる。(かな り便利である。また、等号抜きの不等式で定義できるものは開集合ということで、「開集合と は、自分自身の「ふち縁」をまったく含まない集合である。」という感覚が持てるようになる。)
命題 8.5 (開集合であるための、ある十分条件 — 真不等号の不等式は開集合を定める)
f: Rn→R が連続関数、α, β, γ ∈Rとするとき、
{x∈Rn |f(x)> α},{x∈Rn |f(x)< β},{x∈Rn |α < f(x)< β},{x∈Rn|f(x)̸=γ} は Rn の開集合である。
(利用上の注意: f の定義域が Rn であることが重要である。)
証明 Ω := {x∈Rn|f(x)> α} とおく。a ∈Ωならば、f(a)> α. ゆえに ε:=f(a)−α と おくと ε >0. f は a で連続だから、
(∃δ >0)(∀x∈Rn :|x−a|< δ) |f(x)−f(a)|< ε.
ゆえに ∀x ∈B(a;δ) に対して |f(x)−f(a)| < ε であるから、−ε < f(x)−f(a) < ε. ゆえに f(x)> f(a)−ε =f(a)−(f(a)−α) = α. ゆえに x ∈ Ω. これは B(a;δ) ⊂ Ω を意味してい る。ゆえに Ω は Rn の開集合である。
{x∈Rn |f(x)< β} が開集合であることも同様に証明できる (あるいは F(x) := β−f(x) とおくと、F は連続で、Ω ={x∈Rn|F(x)>0} となることからも分かる)。
{x∈Rn|α < f(x)< β}={x∈Rn |f(x)> α} ∩ {x∈Rn|f(x)< β}, {x∈Rn|f(x)̸=γ}={x∈Rn|f(x)< γ} ∪ {x∈Rn|f(x)> γ} であるから、命題8.4によって、これらの集合も Rn の開集合である。
余談 8.2 (f の定義域が Rn でない場合) 位相空間の一般論を学ぶと、「位相空間 X から Y への写像 f: X → Y が連続であるためには、Y の任意の開集合 V に対して、f−1(V) が X の開集合であることが必要十分である」という定理が基本的であることが分かる。上の命題の 最初の3つの集合はf−1((α,∞)),f−1((−∞, β)),f−1((α, β)) であるので、開区間の連続関数 による逆像になっていることに注意しよう。
なお、f の定義域が Rn でない場合は、注意が必要である。簡単に言うと、f: A → R が 連続であるとき、f−1((α,∞)),f−1((−∞, β)),f−1((α, β)) はいずれも“Aの開集合”となる。
「A の開集合」を理解するには、部分位相 (相対位相) という概念を学ぶ必要がある。大して 難しい話ではないが、説明に割く時間が残っていないので、これ以上の説明は省略する。
これまで、単に「開集合」と言わずに「Rn の開集合」と言ってきたのは、それなりの理由 があるわけである。
なお、問82 も参照せよ。
問 79. 命題8.5を用いて以下のことを示せ。
(1) Rの開区間は R の開集合である。
(2) Rn の開球は Rn の開集合である。
(3) R2 の第1象限{(x, y)∈R2 |x >0∧y >0} は R2の開集合である。
問 80. R2 における次の各集合について、(a) 図示できる場合は図示せよ, (b)開集合である場 合は証明せよ。
(1) ∅ (2) R2 (3) {(0,0)} (4) {(0,0),(1,1)} (5) (1,2)×(3,4) (6) [1,2]×(3,4)
(7) [1,2]×[3,4] (8){(x, y)|5< x2+y2 <6} (9) (0,∞)×(0,∞) (10){(x, y)|x3 ≤y≤x2} (11) R2\ {(0,0)}.
問 81. 前問の各集合が、開集合でない場合、閉集合でない場合に、そのことを証明せよ。
問 82. (命題8.5 の一般化) U, V をそれぞれ Rn, Rm の開集合、f: U → V を連続関数とす る。このとき W ⊂V なる任意のRn の開集合W に対して、f−1(W) :={x∈U |f(x)∈W} は Rn の開集合となることを証明するため、以下の空欄を埋めよ。「任意の a∈ ア
をとると、a ∈ U かつ f(a) ∈ イ . イ は ウ であるから、
∃ε > 0 s.t. B(f(a);ε)⊂ イ (ここで B(α;r) は中心α, 半径r の開球を表す記号).
f の連続性から エ δ >0 (∀x∈Rn) [|x−a|< δ =⇒x∈Uかつ|f(x)−f(a)|< ε].
ゆえに f(B(a;δ)) ⊂ B(f(a);ε) ⊂ W となるが、これから B(a;δ) ⊂ オ . ゆえに f−1(W)は Rn の開集合である。」
開集合と対になる概念として、閉集合がある39。
定義 8.6 (Rn の閉集合) F ⊂Rnとする。F がRnのへい閉集合(閉部分集合, a closed (sub)set of Rn) であるとは、Fc=Rn\F が Rn の開集合であることをいう。
この講義の中でも、有界閉集合に関するいかにも重要そうな定理が後からたくさん出て来る ので、閉集合と言う概念の重要さは学習者にとって特に分かりにくい、ということはないと思 われるが、近いところで、命題 9.1 を強調しておくと良いかも。
命題8.4 に対応する、以下の命題が得られる。
命題 8.7 (閉集合系の公理) (1) ∅ と Rn は Rn の閉集合である。
(2) 集合族 {Uλ}λ∈Λ の各集合Uλ が Rn の閉集合であるならば、共通部分 ∩
λ∈Λ
Uλ = {x∈Rn|(∀λ∈Λ) x∈Uλ} はRn の閉集合である。
(3) F1 と F2 が Rn の閉集合ならば、U1∪U2 は Rn の閉集合である。
問 83. 命題8.7 を証明せよ。(ヒント: ド・モルガンの法則 (∩
λ∈Λ
Uλ )c
= ∪
λ∈Λ
Uλc を用いると、
命題 8.4 に帰着される。)
例 8.8 (Rn の単元集合は閉集合) a∈Rn とするとき、F :={a} は Rn の閉集合である。
例 8.9 (閉区間は閉集合) Rの閉区間I は、R=R1 の閉集合である。例えばα, β ∈R,α < β, I = [α, β] の場合
Ic=R\I =R\[α, β] = (−∞, α)∪(β,∞)
39閉集合は、次の定義8.6のように定義するのがスタンダードであるが、「分かりにくい」という学生が少なく ない。杉浦[2]のようにF =F が成り立つことと定義するのもありかもしれない。そして命題8.12を前に出し て、命題8.7を後に続けるわけである。一度試してみる価値はあるかもしれない。
であり、これは二つの開集合 (開区間であるから) の合併であるので、Ic は R の開集合であ る。ゆえに I は Rの閉集合である。
開集合の場合の命題 8.5 の、閉集合バージョンは次のようになる。
命題 8.10 (閉集合であるための、ある十分条件 — 等号付きの不等式は閉集合を定める)
f: Rn→R が連続関数、α, β, γ ∈Rとするとき、
{x∈Rn |f(x)≥α},{x∈Rn|f(x)≤β},{x∈Rn|α≤f(x)≤β},{x∈Rn |f(x) =γ} は Rn の閉集合である。
証明 補集合が Rn の開集合であることを確認すれば良い。
{x∈Rn|f(x)≥α}c ={x∈Rn |f(x)< α}, {x∈Rn|f(x)≤β}c={x∈Rn|f(x)> β},
{x∈Rn|α≤f(x)≤β}c={x∈Rn|f(x)< α} ∪ {x∈Rn |f(x)> β}, {x∈Rn|f(x) = γ}c={x∈Rn|f(x)< γ} ∪ {x∈Rn|f(x)> γ} は命題 8.5 と、命題 8.4によって、Rn の開集合である。
例 8.11 (Rn の閉球は閉集合) a ∈ Rn, r > 0 とするとき、B :={x∈Rn| |x−a| ≤r} とお くと、B は Rn の閉集合である。
問 84. 命題8.7 を用いて以下のことを示せ。
(1) Rの閉区間 [α, β] (ここでα, β ∈R, α < β)は Rの閉集合である。
(2) Rn の閉球は Rn の閉集合である。
(3) Rn の単元集合 {a} は Rn の閉集合である。
問 85. R2 における次の各集合について、閉集合である場合はそのことを証明せよ。
(1) ∅ (2) R2 (3) {(0,0)} (4) {(0,0),(1,1)} (5) (1,2)×(3,4) (6) [1,2]×(3,4) (7) [1,2]×[3,4] (8) {(x, y) | 5 < x2+y2 < 6} (9) (0,∞)×(0,∞) (10) {(x, y) | x3 ≤ y≤x2} (11) R2\ {(0,0)}.
問 86. F ⊂ Rn で f: F →R が連続とする。(1) {x∈ F |f(x)≥ 0} は Rn の閉集合とは限 らないことを示せ。(2) F がRn の閉集合であるとき、{x∈F |f(x)≥0} は Rn の閉集合で あることを示せ。
集合の閉包40 を紹介した際に、直観的には A に A の「縁」を付け加えた集合が A である と説明した。この節で A が閉集合であるとは、直観的には自分の縁をすべて含む集合だと説 明したので、次の命題は自然に感じられるだろう。
命題 8.12 (閉集合である ⇔ 自分自身の閉包と一致) Rn の任意の部分集合A に対して
A が閉集合 ⇔ A=A.
証明の前に簡単な注意をしておく。(i) 一般にA ⊂A であるから41、A =A は、A ⊂A と同 値である。(ii) X ⊂Y ⇔Yc⊂Xc. (iii) X∩Y =∅ ⇔X ⊂Yc.
40A⊂Rn に対してAdef.= {x∈Rn|(∀ε >0)B(x;ε)∩A̸=∅}.
41x∈Aならば、∀ε >0に対してx∈B(x;ε)∩Aであるから、B(x;ε)∩A̸=∅. ゆえにx∈A. ゆえにA⊂A.