3.3 “ 多項式関数 ” 、有理関数は連続である
5.1 区間縮小法
極限が存在することを示すための、有名な区間縮小法を紹介する。まず図形的なイメージを 頭に浮かべやすい形で述べる。
定理 5.1 (区間縮小法の原理) {In}n∈N を縮小するR の閉区間列とする。すなわち任意の n∈N に対して In は R の閉区間で
I1 ⊃I2 ⊃ · · · ⊃In⊃In+1 ⊃ · · · を満たすとする。このとき ∩
n∈N
In̸=∅ が成り立つ。[an, bn] := In とおくとき、lim
n→∞(bn−an) = 0 が成り立つならば、
(∃c∈R) lim
n→∞an= lim
n→∞bn=c (そして ∩
n∈N
In ={c}).
言葉で表すと「縮小する閉区間の列の共通部分は空でない,幅が 0 に収束するならば共通 部分は1点のみからなる」。
念のため復習: ∩
n∈N
In ={x|(∀n ∈N)x∈In}.
∩∞ n=1
In とも書く。
実際に証明をするには、次のように述べた方がやりやすいと思われる。
26この講義ではRnの有界閉集合のこと。
命題 5.2 (書き直し) {an}n∈N は単調増加数列、{bn}n∈N は単調減少数列で (∀n∈N) an< bn
を満たすならば、次の(1), (2)が成り立つ。
(1) {an}n∈N と{bn}n∈N は収束列である。そして A:= lim
n→∞an, B := lim
n→∞bn とおくとき、
A≤B, (∀n ∈N) an ≤A≤B ≤bn. (2) lim
n→∞(bn−an) = 0 ならば、lim
n→∞an= lim
n→∞bn.
(証明に用いるのは、定理 2.15 と、命題 2.11 (の系) くらいである。) 証明
(1) ∀n ∈N に対して an ≤bn ≤b1 であるから、{an}n∈N は上界 b1 を持つので上に有界であ り、単調増加であるから、{an}n∈N は収束し、極限は上限に等しい: A= sup{an|n ∈N}. 同様に、∀n ∈ N に対して bn ≥ an ≥ a1 であるから、{bn}n∈N は下界 a1 を持つので 下に有界であり、単調減少であるから、{bn}n∈N は収束し、極限は下界に等しい: B = inf{bn |n∈N}.
任意のn ∈Nに対して an ≤bn であるから (極限でも順序は保たれ) A = lim
n→∞an≤ lim
n→∞bn =B.
また
an ≤sup{an |n∈N}=A, B = inf{bn|n ∈N} ≤bn. (2) lim
n→∞(bn−an) = 0 と仮定すると B−A= lim
n→∞bn− lim
n→∞an = lim
n→∞(bn−an) = 0 であるから A=B.
区間の記号 [A, B] は、普通 A < B の場合にのみ用いるが、次の証明では、A =B の場合 も [A, B] ={A} という意味で使うと約束する。
定理5.1の証明 In= [an, bn] で {an},{bn} を定めると、命題5.2 の仮定が満たされる。
A:= lim
n→∞an, B := lim
n→∞bn とおくと、∀n∈N に対して an≤A≤B ≤bn であるから、
[A, B]⊂[an, bn] =In. ゆえに [A, B]⊂ ∩
n∈N
In である。
一方、x ∈ ∩
n∈N
In とするとき、任意の n ∈N に対して、x ∈ In であるから、an ≤x ≤ bn. n → ∞として、A ≤x≤B. すなわち x∈[A, B]. ゆえに ∩
n∈N
In⊂[A, B].
ゆえに ∩
n∈N
In= [A, B]. 特に
∩∞ n=1
In̸=∅. A=B ならば c:=A=B とおくと、lim
n→∞an=A=c, lim
n→∞bn =B =c,
∩∞ n∈N
In={c}. 余談 5.1 上の証明では用いなかったが
(∀m, n∈N) an < bm
が成り立つ。実際 n ≥m のときは、an < bn ≤bm. n < m のときは an ≤am < bm であるか ら、いずれの場合も an< bm.
問 65. 定理5.1 から、In が閉区間という条件を除くと、結論が成り立たないことを示せ。
(次の例は、後で中間値の定理を証明すれば、もっと簡単に議論できるので、授業では飛ば すと思う。)
例 5.3 (正数 p の m 乗根 m√
p の存在) p >0, m∈ N とするとき、p の m 乗根が存在する、
すなわち
(∃x >0) xm =p が成り立つことを証明する27。
a1 := 0, b1 :=
{
1 (p≤1) p (p >1) とおくと、0< a1 < b1, am1 < p ≤bm1 .
n ∈N, 0< an< bn, amn < p < bmn とするとき、x:= an+bn
2 とおく。xm < p ならば
an+1 :=x, bn+1 :=bn, xm ≥p ならば
an+1 :=an, bn+1 :=p とおくと、
0< an≤an+1 < bn+1 ≤bn, amn+1 < p≤bmn+1, bn+1−an+1 = (bn−an)/2.
ゆえに数列 {an}, {bn}で、
0< a1 ≤a2 ≤ · · · , b1 ≥b2 ≥ · · · , (∀n ∈N) an < bn∧amn < p ≤bmn,
nlim→∞(bn−an) = lim
n→∞
b1−a1 2n−1 = 0
27後で、連続関数を定義して、中間値の定理を証明して、色々な方程式の解の存在を示すことになるが、f(x) =xm については、連続性に相当することが、命題2.7からすぐに導けるので、現時点で (連続性を定義することなし に)m乗根 m√pの存在証明が出来る。これは杉浦[2]に載っている例であるが、なかなか面白い。もちろん、中 間値の定理を知っていればその系になってしまうので、スキップしても問題はない。
を満たすものが作れる。区間縮小法の原理から (∃c∈R) lim
n→∞an = lim
n→∞bn=c.
このとき
cm = (
nlim→∞an )m
= lim
n→∞(amn)≤p, cm = (
nlim→∞bn )m
= lim
n→∞(bmn)≥p.
ゆえに
cm =p.
問 66. 自然数m と正数p, εを入力したとき、例5.3 のa1, b1,a2,b2, a3,b3,· · · をbn−an < ε となるまで計算するプログラムを作成せよ(ε は「要求精度」で、10−6 や 10−15 のような “小 さい”数を入力すると m√
p の近似値が高精度で求まる)。