6 Pre-Sierpi´ nski gasket 上の self-avoiding walk .
6.4 歩数分布の極限定理.
(iv) xc と違ってβc の値や領域D の具体形は軌道の大局的な振舞に依存するため,求めにくい.そのた め,通常これらの量の詳細研究は「後回し」になっている.
✸
6.4.2 固定点以外からの平均歩数行列の収束.
(77)の Wn と (79)の Wn,1 の上にMx= (x1, x2)∈R2+\ {(0,0)} をパラメータとする確率測度 µn(Mx)と µn,1(Mx)を以下で定義する.
µn(Mx)[w] = 1
Xn,1(Mx) +Xn,2(Mx) 2 i=1
xsii(w), w∈ Wn, µn,1(Mx)[w] = 1
Xn,1(Mx) 2 i=1
xsii(w), w∈ Wn,1.
ここで,si(w),Xn,i(Mx)は§6.3のとおり.この µn(Mx),µn,1(Mx)の下でのL の分布のn→ ∞での漸近形 を求める.
n∈Z+ に対して2×2行列∂Xn を
∂Xn(Mz) = ( ∂
∂x1
tXMn(Mz), ∂
∂x2
tXMn(Mz)), Mz∈C2, で定義し,∂Φ =∂X1とおく.くりこみ群(命題36)から,
∂Xn+1(Mz) =∂Φ(XMn(Mz))∂Φ(XMn−1(Mz))· · · ∂Φ(Mz), n∈Z+, Mz∈C2. (93) (84)のD と (92)のΞ1 を用いてΓ =∂D∩Ξ1とおく.
命題 45 Mx= (x1, x2)∈Γ ならばΛ(Mx) = lim
n→∞λ−n∂Xn(Mx)が存在し,i, j= 1,2 に対してΛij(Mx)0,か つ,Λ11(Mx)>0 である.ここでλは (91) で与えられている.
証明. Mx∈Γ をとる.平均値の定理から,0< θ <1 が存在して,Mu=Ma+θ(Mx−Ma)とおくとき,
(∂Φ)ij(Mx)−(∂Φ)ij(Ma) = 2 k=1
( ∂
∂xk∂Φij)(Mu) (xk−ak). (94) Γ⊂R2 は有界で ∂
∂xk
∂Φij(Mx)は Mxの多項式なので,M >0 がとれて,
| ∂
∂xk
∂Φij(Mu)|M, Mu=Ma+θ(Mx−Ma), 0< θ <1, Mx∈Γ, i, j, k= 1,2. (95) 他方, 命題44から,各 Mx∈∂D∩Ξ1 に対してC >0と 0< ρ <1がとれて,
|Xn,i(Mx)−ai|Cρn, i= 1,2, n∈Z+. (96) (94), (95), (96)からC1>0 が存在して,
%%%∂Φ(XMn(Mx))−∂Φ(Ma)%%%C1ρn, n∈Z+. (97) これと 補題71から lim
n→∞ λ−n∂Xn(Mx)の存在を得る.補題71のQはΛ(Ma)なので,(136)から,mが十 分大きければ
nlim→∞ λ−n ∂Φ(XMn+m(Mx))· · ·∂Φ(XMm+1(Mx))
11>0.他方,命題36からΦ1(Mx)は x21 とい う項を持つので,
∂Φ(XMk(Mx))
11>0, k= 1,· · ·, m, Mx∈∂D∩Ξ1. よってΛ11(Mx)>0.
✷
6.4.3 特性関数と歩数分布のスケーリング極限.
M
x∈Γ,Mt∈C2, i= 1,2,n∈Z+に対して,
Xn,i(Mxeλ−n=t) =Xn,i(x1eλ−nt1, x2eλ−nt2), という略記法を用いる.
命題 46 (i) Mx∈Γ に対して,Xn,i(Mxeλ−n=t), i= 1,2,は n→ ∞でMt= (t1, t2)∈C2 に関して広義一様 にある整関数 Xi∗: C2→Cに収束する.さらに, X2∗ は恒等的に0 である.(XM∗ は Mx依存性を持 つが,表記を略す.)
(ii) XM∗= (X1∗,0)とおくとき,
XM∗(λMt) =MΦ(XM∗(Mt)), Mt∈C2. (98) さらに,
∂
∂tj
Xi∗(M0) =xjΛij(Mx).
証明. 命題43 から B = ∂Φ(Ma) の最大固有値 pに対応する左固有ベクトルの各成分 αi は正なので,Mz = (z1, z2)∈C2に対して
|Mz|∗=α1|z1|+α2|z2| とおくと,| · |∗ はノルムである.定義から,
|(∂Φ)(Ma)tMz|∗λ|Mz|∗. (99) M
x∈Γを固定し,wM ∈R2 とする.Mvn=XMn(Mx)−Ma,および,Mwn=XMn(Mx+w)M −XMn(Mx)とおくと,
XMn(Mx+w) =M Ma+Mvn+wMn, (100) 平均値の定理と(99)からC1>0 がとれて,
|MΦ(Ma+Mvn+w)M −Φ(MaM +Mvn)|∗λ(1 +C1|Mvn|∗)(1 +C1|wM|∗)|wM|∗, |wM|∗1, n∈Z+. (101) 他方, 命題44からC2>0 と0< ρ <1 が存在して,
|Mvn|∗C2ρn, n∈Z+. (102)
C3=C1C2 とおいて,b ∞ k=0
(1 +C3ρk)(1 +C1λ−k)1を満たすb >0をとると,(101)と帰納法によって,
|wMk|∗λk|wM|∗ k−1 j=0
(1 +C3ρj)(1 +C1λ−(n−j))1 bλk|wM|∗, n=k, k+ 1,· · ·, k∈Z+, Mw∈R2; |wM|bλ−n.
(103)
(100), (102), (103)から,δ >0と C4>0が存在して,
|Xn,i(Mx eλ−n=t)|∗C4, Mt∈R2; |Mt|∗< δ. (104) Xn,i は正係数の多項式なので,必要ならばC4を少し大きくすることで,(104)は原点の複素近傍Ω ={Mt∈ C2| |Mt|∗< δ}でも成り立つ.よって,{{Xn,i(Mx eλ−n=t)|i= 1,2, n= 1,2,· · ·}はΩ上の正則関数の正規族 をなす.従って,任意の部分列に対して広義一様収束部分列がとれるので,あとは,例えばテーラー係数が 収束することを言えば,極限が部分列によらないことが言えて,極限Xi∗ のΩにおける存在が言える.そ こで次にこれを証明する.
Xn,i(Mx eλ−n=t) =
=k=(k1,k2)∈Z2+
an,i(Mk)tk11tk22 (105) とおく.定理41から
nlim→∞an,i(M0) =ai, i= 1,2. (106)
i, j = 1,2, に対して e(i)j = δij (Kronecker のデルタ)とおいてMe(i) = (e(i)1 , e(i)2 ) ∈ Z2 を定義する.
命題45から,
nlim→∞an,i(Me(j)) =xjΛij(Mx), i, j= 1,2. (107) (105)をくりこみ群(命題36)に代入してn→ ∞を考える.(106)と(107) から帰納的に,極限
a∗i(Mk) = lim
n→∞an,i(Mk), i= 1,2, k∈Z+, の存在が分かる.
以上から,整関数Xi∗ : Ω →Cが存在して,Xn,i(Mx eλ−n=t)はMt∈Ω に関して広義一様に n→ ∞で Xi∗(Mt)に収束する.(98)はくりこみ群でn→ ∞とすれば(Ωでは)得られ,命題の主張の最後の微分に関
する式は(107)から得られる.
あとは,収束範囲を全複素平面に拡張できればよいが,R >0とし,λ−mR < δ/2を満たす m∈Nを 選ぶと,
Xn+m,i(Mx eλ−(n+m)=t) =Xm,i(XMn(Mx eλ−n(λ−m=t))) → Xm,i(XM∗(λ−mMt)), n→ ∞, が{Mt∈C2| |Mt|∗R}で一様に成り立つので,問題ない.
最後にX2∗ が恒等的に0であることを言う.Xn,2 は正係数多項式なので,(t1, t2)∈R2に対して,
|Xn,2(Mx e√−1λ−n=t)||Xn,2(Mx)| となるので,定理41から,
nlim→∞Xn,2(Mx eλ−n(√−1=t)) = 0
を得る.このことと,X2∗が整関数であることから,恒等的にC2上で0 であることが分かる. ✷ 特性関数のスケーリング極限が分かったので,これを測度の極限に翻訳する.µn(Mx)と µn,1(Mx)の下で の,λ−nL(w)の分布をそれぞれpn(Mx)と p∗n(Mx)とおき,その母関数を,
g(n)(t) = ∞
0
etξpn(dξ), t∈C, (108)
および,
g1(n)(t) = ∞
0
etξp∗n(dξ), t∈C, (109)
とおく.(以下,混乱がなければ,確率測度や母関数のMx依存性は書かない.)
t∈Cに対して,Mxn,t = (x1eλ−nt, x2e2λ−nt)とおくと,(78)と母関数の定義(§6.3)から,
g(n)(t) =Xn,1(Mxn,t) +Xn,2(Mxn,t) Xn,1(Mx) +Xn,2(Mx) , g(n)1 (t) =Xn,1(Mxn,t)
Xn,1(Mx) .
命題 47 Mx= (x1, x2)∈∂D∩Ξ1 とすると,整関数g: C→Cが存在して,t∈Cに関して広義一様に,
lim
n→∞g(n)(t) = lim
n→∞g(n)1 (t) =g(t).
g は以下の条件で一意的に決まる.(88) のφ に対して,
xcg(λt) =φ(xcg(t)), t∈C, (110)
および,
∂g
∂t(0) = 1 xc
(x1Λ11(Mx) +x2Λ12(Mx)). (111) 証明. 定理41と 命題46から,Mx∈∂D∩Ξ1 ならば,t∈Cに関して広義一様に,
nlim→∞g(n)(t) = 1 xc
X1∗(t,2t),
nlim→∞g(n)1 (t) = 1
xcX1∗(t,2t).
これより主張を得る.
✷
命題47と 命題45から,最終的に次を得る.
系 48 (i) Mx= (x1, x2)∈∂D∩Ξ1 に対して,R上の確率測度p(Mx)が存在して,n→ ∞のとき,pn(Mx) および p∗n(Mx)はともにp(Mx)に弱収束する.
その母関数は,g(t) =
R
etξp(Mx)(dξ)で与えられる.
(ii)
R
ξ p(Mx)(dξ)>0.
(iii) p(Mx)は単位分布ではない(分散正である).
6.4.4 極限分布の密度の存在.
極限分布の性質を調べること自体も,SAWの漸近的な振る舞いを調べる上で意味があるが,特に以下の事 実はmean square displacementの指数の存在を証明する際に必要になる.
(91)のλを用いて
ν = log 2
logλ (112)
とおく.
命題 49 Ci>0,i= 1,2,が存在して,
|g(√
−1t)|C2e−C1|t|ν, t∈R. 証明. 命題47から
g(√
−1λt) = 1 xc
φ(xcg(√
−1t)), t∈R, (113)
なので,G(t) =−|t|−νlog|g(√
−1t)|とおいて|g(√
−1t)|1に注意すると,(88)から
G(λt)G(t), t∈R. (114)
他方,系48から,δ >0 と0< C <1 が存在して,
0<|g(√
−1t)|< C , t∈R; λ−1δ|t|< δ.
よって,C1=−δ−νlogC(>0)とおけば,(114)から,G(t)C1, tδ.従って,
|g(√
−1t)|e−C1|t|ν, tδ.
C2> eC1δν にとれば主張を得る.
✷
命題 50 pは C∞ 密度関数ρ を持ち,ρ(ξ) = 0,ξ0,と ρ(ξ)>0,ξ >0,を満たす.
証明. g がC∞密度関数を持つことは 命題49から得られる(定理65参照).よって(110)と (88)から,
λ−1ρ(λ−1ξ) =xcρ∗ρ(ξ) + 2x2cρ∗ρ∗ρ(ξ) + 2x3cρ∗ρ∗ρ∗ρ(ξ), ξ∈R. (115) ここで∗は convolution.ρの supportをAとすると,A∈[0,∞)であることは明らか.さらに,(115) から,x,y,z∈Aならばλ−1(x+y),λ−1(x+y+z)∈A.系48から0=x0∈Aなるx0がある.よって,
(2λ−1)nx0∈A,n∈Z+.2< λ <3かつAが閉集合であることから0∈A.よって,0,λ−1x0, 2λ−1x0, 3λ−1x0∈A.帰納法とAが閉集合であることによって,主張を得る.
✷ (89)の総歩数L の母関数 Zn,i(β)に対応する測度µ∗n はMxc = (exp(−βc), exp(−2βc))としたときの µn(Mxc)に等しい.(βc の定義からMxc∈Γ.)系48 and命題50をこれに即して述べることも容易である.
問 16 µ∗n のスケーリング極限に対する主張を書き下せ.
✸ 注 18 総歩数に対する母関数は,くりこみ群のパラメータ空間で曲線x2=x21 に対応する.この部分空間 はくりこみ群の物理学でいうcanonical surface のアナロジーになっている. ✸