6 Pre-Sierpi´ nski gasket 上の self-avoiding walk .
6.3 くりこみ群の軌道解析.
以下,Lを Wn上でL=Ln と定義する.Wn のpathを分類するために次の事実に注目する.
T をF の単位正三角形(F 上に辺を持つ一辺1 の上向き正三角形)全てからなる集合とする.各正三 角形) ∈ T を 各w∈ Wn が通る通り方は(通るとすれば),
(1): 1辺だけ通って通り抜けるか,
(2): 続けざまに2辺を(三角形内で折れ曲がって)通るか,(Self-avoiding なので,pre-Sierpi´nski gasket の構造上,一度三角形を出たら戻れない50 .)
2通りである.対応して,Si(w),i= 1,2を
Si(w) ={) ∈ T |wは)を(1)型で通る} で定義し,si(w)をSi(w)の元の数とする.
s1+ 2s2=L (78)
である.
単位三角形のpathの通り方を上のように2種類に分類したことに対応して,Wn,i,i= 1,2,n∈Z,を,
Fn の頂点O,an,bnの通り方で2種類に分類して次を定義する.
Wn,1={w∈ Wn|bn∈w(Z)},
Wn,2={w∈ Wn|bn∈w(Z)}}. (79) Wn の部分集合W の generating functionX(W) : R2→R2 を
X(W)(Mx) =
w∈W
2 i=1
xsii(w), Mx= (x1, x2)∈R2, で定義し,
Xn,i=X(Wn,i), i= 1,2 n∈Z+, (80) とおく.
50この点は高次元pre-gasketでは複雑になる.
注 14 §4.2や§5.2では1種類のpathの集合しか用意しなかったのに対して,ここでは2種類のpathの集 合を用意していることに注意.一般に,最終的にほしいpathの集合を包含し,かつ,くりこみ群(recursion) が閉じるだけの集合を用意しなければならない.閉じるための集合は,上でやったように,単位要素図形の pathの通り方の種類で決まる51 .
特に,dSG (d3)上のSAWでは,最終的に原点から出発する1本のpath しか考えなくても,くり
こみ群は2本以上のpathの列を考える(必然的に原点以外から出発するものも考える)必要がある. ✸ 命題 36 (くりこみ群) XMn= (Xn,1, Xn,2)は次の漸化式で決まる.
XM0(Mx) =Mx, x∈R2,
XMn+1(Mx) =MΦ(XMn(Mx)), x∈R2, n∈Z, ここでΦ = (ΦM 1,Φ2) =XM1 は次を満たす.
(i) 各 Φi,i= 1,2,は3次の正係数多項式で,各項はそれぞれ2次,3次以上.
(ii)
Φ1(x,0) =x2+x3, (81)
(iii)
Φ1(Mx) = Φ1,0(Mx)x1+ Φ1,1(Mx),
Φ2(Mx) = Φ1,0(Mx)x2 (82)
となる 0 でない正係数多項式 Φ1,0,Φ1,1 がある.
(iv) Φ1,1(Mx)は x21 という項を含む.
証明. 主張の前半は,Gn+1 のうち2Gn だけを見ることでGn+1 に値を取るpathw∈ Wn+1 から2Gn に 値を取るpathを得て,図形を半分に縮小することで Wn の要素Qnw(decimation) を§4.2 の (58)と同 様に定義できる.対応させることができる(decimation).この対応に応じて,命題31の証明と同様にW1
のpathで分類することで,主張の前半(くりこみ群)を得る.
もちろんΦ =M XM1 をあらわに求めるのも難しくはない.
Φ1(Mx) =x21+ 2x1x2+x22+x31+ 2x21x2,
Φ2(Mx) = (x21+ 2x1x2)x2, (83)
主張の後半はこれから明らか.
✷
注 15 d3 のときdSG の MΦを求めるのは手ではできない.d4 ではパソコンでも完全に求めるのは 楽ではない.
✸ 問 11 (i) (83)を導け.
(ii) 命題36の証明で「命題31 の証明と同様に」となっている部分を遂行せよ.
(iii) XMn(Mx),n∈Z+,をいろいろな Mxに対して計算機で計算して求め,flow の様子の概形を描け.
✸ D={Mx∈R2+| sup
n∈Z+
max
i∈{1,2}Xn,i(Mx)<∞} (84) とおく.
51§5.4.2で考えた非等方的なrandom walkの場合も,実は2つ以上の集合を考える必要があるが,この講義録の初期版ではその
説明を省略しており,講義録としては不完全である.
命題 37 D⊂R2+ は閉部分集合で,そのR2+ の中での外部,境界,内部をそれぞれDc=R2+\D (D はD の閉包),∂D=D∩Dc,Do=D\∂D とおくとき,
D={Mx∈R2+| sup
n∈Z+
max
i∈{1,2}Xn,i(Mx)1}, (85) および,
Do={Mx∈R2+ | lim
n→∞ max
i∈{1,2}Xn,i(Mx) = 0}. (86) さらに,
MΦ(Do)⊂Do, Φ(∂D)M ⊂∂D, MΦ(Dc)⊂Dc. 即ち,これらの集合はinvariant setsになっている.
証明. (85)の右辺の集合をD と書くとき,D ⊂D は(条件が厳しくなるだけだから)当然.Dc ⊂Dc (R2+
の中での補集合の意味)はΦ1 が項x21,x22 を含む係数1以上の多項式だから当然.
(86)の右辺の集合をD˜ と書く.先ず, ( >0に対して D,={Mx∈R2+|max
i=1,2xi< (}
とおくと,命題36 の Φi の形から定数M > 0 を選んで, 0 < ( < 1 ならばΦi(Mx) M ((x1+x2)/2, i= 1,2,Mx∈D,,とできることに注意して,(= 1
2M ∧1
2 とおけば,Xn,1+Xn,22−n(x1+x2),n∈Z+, M
x∈D,,となるので,D,⊂D˜ を得る.一方D˜ の定義からMx∈D˜ ならば十分大きいnに対してXMn(Mx)∈D,
となる.XMn は連続関数で,D, は開集合なので,このときMxの近傍U でXMn(U)⊂D,となるものがとれ る.これはD˜ ⊂Do を意味する.
逆の包含関係を言うのに,単調性,
M
x∈D, Mx∈R2+, xi< xi またはxi=xi= 0, i= 1,2, ⇒ Mx∈D˜ にまず注意する.これは r = max
i;xi=0
xi xi
とおくとき,命題36 の Φi の形からMx =M0 ならばXn,i(Mx) r2nXn,i(Mx)となることから分かる.そこでMx ∈Do とする.開集合なのでxi< xi,i= 1,2,なるMx∈Do が存在する.単調性からMx∈D.˜ これはD˜ ⊃Do を意味する.
問題になっている集合たちがinvariant setsになっていることは,定義と(86)から分かる.
✷
問 12 Do,∂D,Dc が invariant setsになっていることを証明せよ. ✸
関数R:R2>0→Rを
R(Mx) =x2
x1 で定義し,
Rn(Mx) =R(XMn(Mx)), Mx∈R2>0, でRn: R2>0→Rを定義する.
命題 38 各 Mx∈R2>0 に対し,Rn(Mx)は n について非増加.特に,
R∞(Mx) = lim
n→∞Rn(Mx) が存在して非負.さらに,Mx∈D∩R2>0 ならば,R∞(Mx) = 0. 証明.
Rn+1(Mx) =Rn(Mx)
1−Φ1,0
Φ1 (XMn(Mx))
と 命題36のMΦの性質から,前半は明らか.
Mx∈D∩R2>0 とすると,(85)からXn,1(Mx)1,n∈Z+, なので,
Φ1(XMn(Mx))Xn,1(Mx)2P(Rn(Mx))
となる正係数多項式 P がある.命題36のΦ1,0の性質から,
Rn+1(Mx)Rn(Mx)
1− 1
P(Rn(Mx))
, n∈Z+. Rn はnについて減少するから
1− 1
P(Rn(Mx)) M <1
なるnによらない定数M が(Mxを固定する毎に)ある.よってRn は悪くとも指数関数的に減少する.よっ て後半も成り立つ.
✷
命題 39 Mx∈Do∩Ξ1 ならば
nlim→∞ 2−nlogXn,1(Mx)<0.
証明. 命題36から定数項のない(P3(0,0) = 0) 2変数正係数多項式P3 がとれて,
Φ1(Mx)x21(1 +P3(x1, R(Mx))). これと 命題36から,
logXn+1,12 logXn,1+ log(1 +P3(Xn,1, Rn)). (87) これと 命題37と 命題38から
lim
n→∞(logXn+1,1−3
2logXn,1) =−∞. これと 命題37から,
nlim→∞((2
3)nlogXn,1)<0. これと(87)と 命題38を再度 命題37に使えば
nlim→∞(logXn+1,1−(2−(2
3)n) logXn,1)<0. よって十分大きなN に対して,
n k=1
(1−1 2(2
3)k+N−1)−12−n logXn+N,1(Mx)logXN,1(Mx).
これと 命題37から主張を得る.
✷ 命題36のΦM の性質から,ΦM はx1軸を自分自身へ移すことが分かる.また命題38は,Mx∈D∩R2>0か ら出発すると,n→ ∞でx1 軸に近づくことを意味する.よってx1軸上のくりこみ群の軌道を調べる.
φ(x) =x2+x3, x0, (88)
とおく.Φ1(x,0) =φ(x)である.
命題 40 (i) x0 におけるφの固定点は0 と xc =1 2(√
5−1)である.
(ii)
0x < xc ⇒ φ(x)∈[0, xc), φ(xc) =xc,
x > xc ⇒ φ(x)∈(xc,∞).
問 13 命題40 を証明せよ. ✸
注 16 統計力学とよばれる理論物理の一分野のアナロジーで言うと,(0, xc), xc, (xc,∞)はそれぞれ低温
相,臨界点,高温相に対応する(と思う). ✸
2次元空間のくりこみ群に戻る.母関数の漸近的振る舞いがD の内部か外部かで変わる.特に,∂Dの 近傍が歩数Lの分布の決定に重要になる.
定理 41
nlim→∞XMn(Mx) = (0,0), Mx∈Do∩R2>0,
nlim→∞XMn(Mx) = (∞,∞), Mx∈Dc∩R2>0,
nlim→∞XMn(Mx) = (xc,0), Mx∈∂D∩R2>0. ここでxc は 命題1のとおり.
証明. 最初の二つの場合は 命題37からほとんど明らか.最後の場合について,∂Dは閉集合なので,無限列 {XMn(Mx)} は∂D に集積点(x, y)を持つ.命題38と (85)から lim
n→∞Xn,2= 0 を得るのでy= 0.∂D の 点でy = 0となるのは(xc,0)だけである.よって,集積点は(xc,0)のみとなるので,この点に収束する.
✷
これまで,くりこみ群が閉じるようにs1,s2という2種類の「拡張された歩数」の母関数を考えてきた が,総歩数Lの母関数
Zn,i(β) =
w∈Wn,i
exp(−β L(w)), β∈R, i= 1,2, n∈Z. (89) については(78)より,
ZMn(β) =XMn(exp(−β),exp(−2β)) となるので, 定理41をZM に関する結果に翻訳するのは容易である.
系 42 あるβc ∈Rがあって,以下が成り立つ.
nlim→∞ZMn(β) = (0,0), β > βc,
nlim→∞ZMn(β) = (xc,0), β=βc,
nlim→∞ZMn(β) = (∞,∞), β < βc.
注 17 (i) 物理のくりこみ群の描像の一般論では ∂D が critical surfaceに相当する.
(ii)
dSGにおいて dについての一般論を構築するとき,最大の困難は固定点の決定と軌道の収束 の証明である.その意味で,d= 2 では極めて簡単であった以上の部分(くりこみ群の軌道解 析)が一般論では本質となる.
最大の本質的困難は,d= 2 ではφ がR上の写像だったのに対してd3 では高次元空間になるた め,仮に期待通りに φがΦの定める力学系の軌道の漸近形の本質的部分を与えるとしても,可能な 行き先が高次元で,一点だけではないから,定理41 のときのように収束を自明とできない.
(iii) SRWをくりこみ群で解析したときは軌道の収束を議論する必要がなかった.これは最初から固定点
直上 (xc) が SRWであったからである.伝統的な立場に則った研究はこのような固定点直上の解析 になっている.逆にこのために,くりこみ群の難しさが今日まで数学において意識されにくかったの かもしれない52 .
実際,等方性の回復においては軌道の解析を行っている.Sierpi´nski carpet上のrandom walk では固 定点への収束が完全には証明されていない,というのが弱い意味の等方性の回復の意味である.
SAWはここでの解析が示すとおり,一本をrelative weight1で定義する本来の自然な weight (micro canonical ensemble)と,くりこみ群の解析に乗りやすい母関数 (canonical ensemble) が,自明でな い.SRW は母関数の weight xL が固定点で xLc となって,L が一定なら weight が共通だったが,
SAW ではxL で始めても,くりこみ群はxs11xs22 でないと閉じず,固定点は(xc,0) なので zL の形 にはまとまらない.
52先に考察する空間を定めて,そこで解の存在を言うという戦略は,固定点の存在範囲が最初から見えている面はあるのかもしれ ない.
もちろん,折れ線近似などは解への漸近ということを意識しているから,単純にくりこみ群の思想がこれまでなかったというのは 論外である.むしろ,スケーリングは極限定理として,解析学の主要な題材である.
くりこみ群が数学としてどう新しいものでありうるのか,ということはまだ完全には分からない.当面は現に解かれていない典型 的な問題を解いていくことで,一般論が見えてくるのを待つしかない.
(iv) xc と違ってβc の値や領域D の具体形は軌道の大局的な振舞に依存するため,求めにくい.そのた め,通常これらの量の詳細研究は「後回し」になっている.
✸