[改訂版]分離工学演習5「蒸発装置」
1.沸騰現象1-4) 水を入れたビーカーに電熱線を張り、電流を流して線を加熱する。はじめのうちは、加熱された水が 周囲との密度差を生じて自然対流を起こす。さらに加熱すると、電熱線の表面から微小気泡が生じる。 この気泡は、線から離れた後、急速に消滅する(サブクール沸騰または表面沸騰)。さらに加熱すると、 水は飽和温度に達する。このときに発生した気泡は、線から離れても消滅せず、ビーカー内を激しく攪 乱しながら水面に達する(飽和沸騰または核沸騰)。さらに加熱すると、気泡の発生点が増大するととも に、発生気泡が合体して巨大化し、線の全体を覆う(高熱流束核沸騰)。さらに電流を増加すると、電熱 線が焼き切れる(バーンアウト)。電熱線の材質が白金やカーボンの場合は、焼き切れず、線の周りに蒸 気の膜ができる。膜の一部から規則正しく気泡が発生する(膜沸騰)。反対に電熱線の電流を下げていく と、膜沸騰の一部が核沸騰に移行し、ついに全体が核沸騰となる(核沸騰と膜沸騰の共存)。 東北大の抜山四郎(ぬきやま・しろう)博士は、電熱線表面の熱流束q と表面過熱度 Tsat(電熱線の表 面温度Twと水の飽和温度TSの差)の関係を沸騰曲線として整理した。バーンアウト点近傍で直線が曲が り出す点 E を D.N.B.点(Departure from Nucleate Boiling)という。また、伝熱係数 h(=q/ Tsat)が極大となる点 F を抜山点といい、熱流束 q が極大を示す点 B をバーンアウト点という。一方、熱流束 q が極小となる 点 D をライデンフロスト点という。 図1 水の沸騰過程3) (a)自然対流 (b)サブクール沸騰(表面沸騰) (c 左)飽和沸騰(核沸騰) (c 右)高熱流束核沸騰 (d)バーンアウト (e)膜沸騰 (f)核沸騰と膜沸騰の共存図2 沸騰曲線の概略図4) (抜山点とバーンアウト点は同一でないことに注意) 2.蒸発装置5-7) (ア∼ウ)自然循環式 外部供給された原料液は、カランドリア(加熱部)で加熱され、密度が小さく なる。一方、液面近傍やダウンテーク(降液管)では、蒸発による気化熱や給液の加温によって熱を奪 われる為、加熱部よりも液温は低く、密度は大きい。すなわち、密度の小さい加熱部の液は浮力を得て 装置内を上昇し、密度の大きい加熱部以外の液は装置内を降下することから自然循環流が形成され、装 置内の液が撹拌される。(自然対流∼温度差が生じると密度差が生じて自然に流れが生じる。)その他、 液の飛沫が蒸気に乗って装置の外へ飛び出さない様(飛沫同伴)、装置上部を高くしている。(ア)垂直 管型は、標準型と呼ばれ、最も広く利用されている。液は、密度差によってダウンテークを降下し、カ ランドリア内の加熱管内側を上昇する。液は加熱管内で沸騰して蒸気と液の混相流となり、みかけの密 度は小さくなる。加熱管の外側はスチームが流れており、自身が凝縮する際に生じる熱(蒸発潜熱)を 液に与える。(イ)水平管型は、液深(えきしん)を低く取れる為、水圧上昇に伴う沸点上昇を小さくで きる。加熱管の取り外しが容易。構造上、加熱管の外側(洗浄が厄介)が液に直接触れる為、スケーリ ングや結晶化が起こり易い液は不適。(ウ)バスケット型は、加熱部の取り外しが可能であり、伝熱面の 洗浄が容易である。 (エ)強制循環式 ポンプを設置して液の流動を良好にしており、伝熱係数が大きい(強制対流)。スケ ーリングや結晶化が起こりやすい液、粘性の高い液に適用される。(蒸発が進むと、次第に溶質が濃縮さ れ、液の粘度は高くなる。そうなると、液の流動が悪くなるので、伝熱係数が小さくなる。強制循環式 であれば、その心配が少ない。)熱交換器を横にした水平管型もある。 (オ)液膜式 加熱管の中で液が蒸発する。液の上昇に伴って沸騰が進み、蒸気量が増大する為、液は 管壁に押し潰されて液膜の状態で上昇する。伝熱係数大。液は加熱管と短時間しか接触しない為、熱に 弱い有機物に適する。スケールや結晶が析出しやすい物質には適さない(管の中が詰まる)。液膜を降下 させる型式や、液膜を撹拌する型式もある。
図3 工業蒸発装置(蒸発缶) 3.沸点上昇 液体の表面では、分子の蒸発と凝縮が起こっており、一定温度で一定の蒸気圧を示す。蒸気圧の温度 依存性は、蒸気圧曲線で整理される。純水に溶質(不揮発性物質)を溶存させると、蒸気圧が降下する ため、水の沸点が上昇する。いま、純水の沸点がTW [K]であるとき、溶質溶存下における水溶液の沸点
TB [K]は、沸点上昇 TBPR [K]を用いて次式で表される。(B.P.E.は、Boiling Pressure Rising の略。) B W BPR T T T …(3.1) 純水の沸点と水溶液の沸点の間には比例関係が成り立つ。これを溶質濃度ごとに整理した Dühring(デュ ーリング)線図を用いることで、沸点上昇 TBPRを求めることができる。すなわち、所定の圧力における 純水の沸点TWを蒸気圧曲線より読み取る。次に、読み取ったTWをもとに水溶液の沸点TBをデューリン グ線図より読み取る。最後に、TBPR=TB−TWを計算する。ここで、沸点上昇 TBPRは、液深(えきしん) の影響を受ける。すなわち、伝熱面が液面よりも距離h だけ離れているとき、液面上の操作圧 p1よりも 水圧Δp=ρgh だけ圧力が増大する。したがって、操作圧と水圧の和 p1+Δp における純水の沸点 TWを蒸気 圧曲線より読み取る。
図4 Dühring 線図(水酸化ナトリウム水溶液) 4.蒸発水量(ベーパー) 単一蒸発缶における原液の供給量F [kg/s](溶質の質量分率 xF)、水の蒸発量V [kg/s]、濃縮液の排出量 L [kg/s] (溶質の質量分率 xL)、過熱水蒸気量S [kg/s]、凝縮水量 C [kg/s]のとき、蒸発缶周りの全物質収 支および成分物質収支は、それぞれ次式で表される。 (全物質収支) F S V L C [S C] …(4.1) (成分物質収支) FxF Lx …(4.2) L 過熱水蒸気量S と凝縮水量 C が等しいとき、上式より濃縮液量 L を消去すると、蒸発水量 V が導かれる。 L F 1 x x F V …(4.3) 図5 蒸発缶周りの物質収支と熱収支 原液 F [kg/h] iF[kJ/kg] TF[℃] xF[−] 蒸発水 V [kg/h], iV[kJ/kg], TV[℃](=TB) 過熱水蒸気 S [kg/h] iS[kJ/kg] 凝縮水 D [kg/h] (=S) iD[kJ/kg] 濃縮液(製品) L [kg/h], iL[kJ/kg] (=iB), TL[℃] (=TB), xL[−] 沸点 TB[℃]
5.過熱水蒸気量(スチーム)8-9) 単一蒸発缶における原液、蒸発水、濃縮液、過熱水蒸気、凝縮水の比エンタルピーをそれぞれ iF、iV、 iL、iS、iD [J/kg]と置くとき、蒸発缶周りの熱収支式は、次式で表される。 L V D F S Fi Si Vi Li Si …(5.1) 物質収支式(3.1)を用いて L を消去すると、上式は次式のように変換される。 S D F V L ( ) ( ) S i i Fi Vi F V i …(5.2) S D L F V L ( ) ( ) ( ) S i i F i i V i i …(5.3) 濃縮液の温度TL [K]は、内部液の沸点 TB [K]に等しく、ともに同一の液体であることから、上式の iLを内 部液の比エンタルピーiB [J/kg]に置き換える。 S D B F V B ( ) ( ) ( ) S i i F i i V i i …(5.4) 過熱水蒸気が内部液に与える凝縮熱(iS−iD)は、顕熱分と潜熱分の両方を含むが、顕熱に比して潜熱が十 分に大きい為、過熱水蒸気の蒸発潜熱λS [J/kg]にほぼ等しいと見なせる。 S D S i i λ …(5.5) 相変化を伴わない場合の比エンタルピー差(iB−iF)は、原液の保有する顕熱に等しい。 B F p( B F) i i C T T …(5.6) ただし、Cpは比熱容量[J/(kg・K)]、TFは原液の温度[K]。 気液間の相変化過程における水の比エンタルピー差(iV−iB)は、顕熱分と潜熱分の両方を含むが、顕熱に 比して潜熱が十分に大きい為、水の蒸発潜熱λV [J/kg]にほぼ等しいと見なせる。 V B V i i …(5.7) 式(5.5)∼(5.7)を式(5.4)に代入して整理すると、過熱水蒸気量 S を得る。 S p( B F) V S FC T T V …(5.8) p B F V S ( ) FC T T V S …(5.9) 6.伝熱面積および総括伝熱係数 カランドリア内の伝熱管における伝熱量Q [J/s]は、各部位の温度差を考慮して次のように表される。 (外側境膜) To−Tro=Q/hoAo …(6.1) (外側スケール) Tro−Two=Q/hsoAso …(6.2) (管壁) Two−Twi=Q/{(k/ℓ)Aav} …(6.3) (内側スケール) Twi−Tsi=Q/hsiAsi …(6.4) (内側境膜) Tsi−Ti=Q/hiAi …(6.5) ただし、h は境膜伝熱係数[W/(m2・K)]、h sは汚れ係数[W/(m2・K)]、k は熱伝導度[W/(m・K)]、ℓ は管壁の厚 み[m]、A は伝熱面積[m2 ]、添え字 i は内側、添え字 o は外側、添え字 s はスケール、添え字 w は管壁。 式(6.1)∼(6.5)を辺々加えると、伝熱管内側基準の伝熱面積 Ai [m2]を得る。 o i o o so so av si si i i 1 1 1 1 T T Q h A h A kA h A h A …(6.6)
図6 円管内の対流伝熱 (加熱管の内側を低温の液が流れ、外側を高温の水蒸気が流れる。) o i i i i i i i i i si si av so so o o Δ 1 1 1 1 1 T T Q U A T A A A A A h h A k A h A h A …(6.7) i o i S B i [Δ ] Δ Q A T T T T T U T …(6.8) i i i i i i si si av so so o o 1 1 1 A A 1 A 1 A U h h A k A h A h A …(6.9) スケール面積AsiおよびAsoが伝熱面積AiおよびAoに等しいと仮定するとき、上式は次式のようになる。 i i i si i so o i i si av so o o o 1 1 1 1 1 , A A A A A A A U h h k A h A h A …(6.10) 伝熱管を直円管とみなすと、次式が成り立つ。 Ai=2πri=πDi …(6.11) および Ao=2πro=πDo …(6.12) および Aav=2πrav=πDav …(6.13) ただし、r は伝熱管半径[m]、D は直径[m]。 上式を式(6.10)に代入すると、伝熱管内側基準の総括伝熱係数 Ui [W/(m2・K)]を得る。 i o i i i av i i si av so o o o 1 1 1 1 1 2 D D D D D D U h h k D h D h D …(6.14) 同様にして、伝熱管外側基準の伝熱面積Ao [m2]および総括伝熱係数 Uo [W/(m2・K)]を得る。 o i o o so so av si si i i 1 1 1 1 T T Q h A h A kA h A h A …(6.6) o i o o o o o o o o so so av si si i i Δ 1 1 1 1 1 T T Q U A T A A A A A h h A k A h A h A …(6.15) To 境 膜 (外) 境 膜 (内) k Aav Tso Two Ti ℓ ho Ao ︵過 熱 水 蒸 気 ︶ ︵内 部 液 ︶ Twi Tsi hi Ai ス ケ | ル (外) hso Aso ス ケ | ル (内) hsi Asi 管 壁 ri ro カランドリア (中央の太い管はダウンテーク)
o o i S B o [Δ ] Δ Q A T T T T T U T …(6.16) o o o si i so o o o so av si i i i 1 1 1 1 1 , A A A A A A A U h h k A h A h A …(6.17) o o o i o av o o so av si i i i 1 1 1 1 1 2 D D D D D D U h h k D h D h D …(6.18) 伝熱量Q は、式(5.9)を用いて次式で表される。 S p( B F) V Q S FC T T V …(6.19) ただし、λS は過熱水蒸気の蒸発潜熱[J/kg]、S は過熱水蒸気量[kg/s]。 上式は、加熱水蒸気の凝縮熱λSS が液の加熱(顕熱)FCp(TB−TF)と蒸発によって奪われる熱(潜熱)VλV に消費されることを表している。 7.境膜伝熱係数3, 10-14) 伝熱面積A を求めるには総括伝熱係数 U を知る必要がある。代表的な値は、化学工学便覧等に記載さ れている。総括伝熱係数U を計算で求めるには、式中の境膜伝熱係数と汚れ係数を知る必要がある。 ①内側境膜伝熱係数hiの計算3, 10-13) 伝熱管内側の伝熱機構は、円管内流れの対流伝熱とみなすことがで きる。乱流の場合(Re>10000)は、伝熱管長 L が十分に長く(L/D>60)、プラントル数 Pr=0.7∼120 の範囲に おいて、次の Dittus-Boelter(ディッタス・ベルタ―)式が有名である。 (流体加熱時) 0.4 0.8 p 0.0241 C hD DG k k あるいは 0.8 0.4 0.0241 Nu Re Pr …(7.1) (流体冷却時) 0.3 0.8 p 0.0264 C hD DG k k あるいは 0.8 0.3 0.0264 Nu Re Pr …(7.2) ただし、Cpは比熱容量[J/(kg・K)]、D は管径[m]、G は質量流束[kg/(m2・s)]、hiは内側基準境膜伝熱係数[W/(m2・ K)]、k は熱伝導度[W/(m・K)]、n は定数[−]、μ は粘度[Pa・s]。各物性値は、境膜温度(流体温度と壁面温 度との平均温度)における値を用いる。 McAdams(マックアダムス)は、流体の加熱・冷却に関わらず次式が成り立つことを報告している。 0.4 0.8 p 0.023 C hD DG k k あるいは 0.8 0.4 0.023 Nu Re Pr …(7.3) ただし、Nu はヌッセルト数[−]、Re はレイノルズ数[−]、Pr はプラントル数[−]。 Colburn(コルバーン)は、境膜伝熱係数 h をスタントン数 St に含めた次式を報告している。 2 3 0.2 p H p 0.023 C h DG j C u k あるいは 2/3 0.2 H 0.023 j StPr Re …(7.4) ただし、jHは伝熱のj-因子[−]、u は流速[m/s]。
境膜伝熱係数h をヌッセルト数 Nu に含めた式に変換する場合は、上式を(Re)(Pr)で乗じる。 1 3 0.8 p 0.023 C hD DG k k あるいは 0.8 1/3 0.023 Nu Re Pr …(7.5)
Sieder & Tate(シーダー&テート)は、壁面と流体の温度差が大きい場合は粘度変化が無視できないこ とから、相関式に粘性項を含める必要があることを示唆している。しかし、彼らはとくに修正式を報告 しなかった。McAdams は、Sieder & Tate の実験データを整理し、次式を導いている。(Sieder-Tate の式)
1/3 0.14 0.8 p w 0.023 C hD DG k k あるいは 0.14 0.8 1/3 w 0.023 Nu Re Pr …(7.6) ただし、μwは壁面温度における粘度[Pa・s]。それ以外の各物性値は、境膜温度における値を用いる。 Sieder-Tate 式の指数 0.023 は、原報では 0.027 であったが、McAdams の著書では 0.023 に改められた3)。 層流の場合(Re<2100)は、次の修正 Sieder-Tate 式を用いる。 1/3 0.14 1/3 1/3 p w 1.86 C hD DG D k k L …(7.7) 遷移流(2100<Re<10000)の場合は、Colburn の j-因子をもとに整理された次の相関図を用いる。 図7 円管内流れの伝熱係数に関する相関図(図中のN は、管長 L に同じ)13) ②外側境膜伝熱係数hoの計算14) 伝熱管外側の伝熱機構は、飽和水蒸気の凝縮伝熱とみなすことができ る。凝縮伝熱機構には、低温面が凝縮液膜で覆われて流下する膜状凝縮と、低温面に多数発生した液滴 が流下する滴状凝縮がある。膜状凝縮におけるレイノルズ数は、次式で与えられる。 4 Re …(7.8) ただし、Γ(ガンマ)は単位浸辺長あたりの質量流量[kg/(m・s)]。 凝縮液膜が層流の場合(Re<2100)は、次式が実用的である。 (垂直管) 1/3 2 0.925 g W h k D …(7.9) あるいは 1/3 2 1/3 3 2 1.47 h Re k g …(7.10)
(水平管) 1/3 2 0.76 2 g W h k L …(7.11) ただし、D は管径[m]、g は重力加速度[m/s2 ]、hoは外側基準境膜伝熱係数[W/(m2・K)]、k は熱伝導度[W/(m・ K)]、L は管長[m]、W は質量流量[kg/s]、ρ は密度[kg/m3]、μ は粘度[Pa・s]。各物性値は、境膜温度におけ る値を用いる。 凝縮液膜が乱流の場合(Re>2100)は、次式が知られている。 (垂直管) 1/3 2 0.4 3 2 0.0077 h Re k g …(7.12) ③汚れ係数hs 蒸発操作を続けていると、溶液中の難溶性成分である硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、 水酸化マグネシウム等のスケール(缶石)が伝熱面上に析出し、伝熱効率が低下する。この異常現象を スケーリングという。装置の運転を定期的に停止して、物理的に削り落とすか、酸や有機溶媒でスケー ルを洗浄する。スケール部位の伝熱係数や関係式についてはよく分かっていない。実測値、または経験 的な値を用いる。 8.缶径15) 蒸発缶の直径DE [m]は、次式より求めることができる。 E V 4V D G …(8.1) ただし、GVは許容蒸気速度[kg/(m2・s)]、V は蒸発量 [kg/s]。 9.運転時間16-17) 蒸発操作時間の経過に伴い、スケーリングによる伝熱面の汚れが進むと、総括伝熱係数U が小さくな り、蒸発能力は低下する。したがって、ある時間で蒸発缶の運転を停止し、洗缶を行う必要がある。洗 缶までの所要熱量Qc [J]の時間微分を用いると、伝熱速度は次式で表される。 c d Δ d Q UA T …(9.1) ただし、 T は過熱水蒸気と溶液沸点の温度差(TS−TB)[K]、θ は時間[s]。 伝熱抵抗 1/U が所要熱量Q に比例すると仮定すると、次式が成り立つ。 c c 0 1 1 Q U U …(9.2) ただし、U0は操作開始時の総括伝熱係数[W/(m2・K)]、α は定数。 総括伝熱係数U と所要熱量 Qcを時間の関数とみなし、上式を時間θ で微分して整理すると次式を得る。 c 2 d d U Q U …(9.3) 式(9.1)を用いて dQcの項を消去すると、伝熱抵抗の時間依存式を得る。
a b U2 1 2 0 2 Δ , 1 a A T b U …(9.4) 式(9.1)に上式を代入して U の項を消去すると、洗缶までの所要熱量 Qcと運転時間τ の関係式を得る。 c 2 Δ b a b Q A T a …(9.5) 1 日 n 回の運転を計画する場合、1 日あたりの所要熱量 Qd [J/day]は、次式で表される。 d c Q nQ …(9.6) 1 回の洗缶に要する時間が θw [h]であるとき、1 日あたりの運転回数 n [1/day]は、次式で表される。 w 24 n …(9.7) 式(9.6)に式(9.5)と式(9.7)を代入すると、1 日あたりの所要熱量 Qd [J/day]と運転時間 τ [h]の関係式を得る。 d w 48 ΔA T b a b Q a …(9.8) 10.多重効用蒸発6, 17-18) 数基の蒸発缶を直列に連結し、蒸発缶ごとの操作圧を順次下げると、沸点も順次下がる。前の缶の発 生蒸気をスチームの代わりとし、その潜熱で次の缶の液を加熱する。そうすることで、スチーム製造に 用いるボイラーを蒸発缶ごとに設置する必要が無くなる。蒸発缶の数を増やす程熱を有効利用できるが、 増設にかかる費用も考慮する必要がある。多重効用蒸発法における給液操作には、順流、逆流、並流、 錯流の 4 種がある。(ア)順流操作は、原液の温度が高い場合に有利である。第1缶の温度が高い為、原 液の予熱にかかるエネルギーが少なくて済む。また、第1缶から第2缶へは、発生蒸気が高圧側から低 圧側へ自然に流れる為、第2缶へ送るポンプの設置が不要となる。(イ)逆流操作は、原液の温度が低い 場合に有利である。第3缶の温度が低く、かつ低圧であること、また第3、第2、第1缶の順に温度が 高くなる為、比較的低温である原液の蒸発に適している。(ウ)並流操作は、原液に含まれる溶質の初期 濃度が高い場合に有利である。減圧や加熱を徹底しなくても濃縮しやすい状態なので、原液を各缶に分 割して送液することで、生産性を高めることができる。(エ)錯流操作は、液の流れが複雑であり、あま り用いられない。順流操作と逆流操作を組み合わせることで、それぞれの長所を利用することができる。 図8 多重効用蒸発缶(写真は、製塩プラント)
図9 多重効用蒸発缶の給液操作17) 多重効用蒸発缶の設計計算については、各缶における物質収支、熱収支、伝熱速度を立式して連立方 程式を解く。例えば、3 重効用缶の場合は、次の通りとなる。 ●物質収支 全 体:V V V1 2 3 F(1 x xF L3) …(10.1) 第 1 缶:V1 F(1 x xF L1) …(10.2) 第 2 缶:V2 (F V1)(1 xL1 xL2) …(10.3) 第 3 缶:V3 (F V1 V2)(1 xL2 xL3) …(10.4) ●熱収支 第 1 缶:Q1 S S FCpF(TB1 TF) V1 1 …(10.5) 第 2 缶:Q2 V1 1 (F V1)Cp1(TB2 TB1) V2 2 …(10.6) 第 3 缶:Q3 V2 2 (F V1 V2)Cp2(TB3 TB2) V3 3 …(10.7) ただし、CpF Cp1 Cp2 Cp および λS λ1 λ2 λ をそれぞれ仮定する。 ●伝熱速度 第 1 缶:Q1 U1A1(TS TB1) …(10.8) 第 2 缶:Q2 U2A2(TB1 TB2) …(10.9) 第 3 缶:Q3 U3A3(TB2 TB3) …(10.10) ただし、A1 A2 A3 A を仮定する。 いま、求めるべき未知数は 7 つ(A, TB1, TB2, V1, V2, V3, S)であることから、式(10.1)および式(10.5)∼(10.10) の 7 元 1 次連立方程式を解く。既知の数値を与式に代入し、計算機を用いて未知数の数値解を求める18)。
図 10 7元1次連立方程式の数値解(λ∼Tsの値は既知) 参考文献 1)水科篤郎, 荻野文丸; 輸送現象, 産業図書(1981), 3.9 章 2)藤田重文; 化学工学Ⅰ(第 2 版), 岩波書店(1967), 4.3.4 章 3)北山直方; 図解 伝熱工学の学び方, オーム社(1982), 5.1 章 4)竹山斌郎; 化学工学会誌, 45(3), 191-197 (1981) (化学工学の原典シリーズ) 5)化学工学協会編; 化学工学便覧(改訂四版), 丸善(1978), 4.3 章 6)亀井三郎編; 化学機械の理論と計算(第 2 版), 産業図書(1975), 5 章 7)吉田文武, 森 芳郎編; 詳論 化学工学Ⅱ「単位操作Ⅱ」, 朝倉書店(1967), 20・2∼20・7 章 8)藤田重文, 田原浩一, 吉田五一編; 化学装置・機械ハンドブック, 朝倉書店(1967), 2.1 章 9)化学工学会編; 化学工学−解説と演習−(第 3 版), 槇書店(2006), 3.7 章
10)J.M. Coulson and J.F. Richardson; Chemical Engineering Vol.1 (6ed.), Butter-worth Heinemann(2002), 9.4.3 章 11)頼実正弘, 河村祐治, 藤縄勝彦, 中井資; 化学工学, 培風館(1972), 7.2.4 章 12)竹内雍, 松岡正邦, 越智健二, 茅原和之; 解説 化学工学(改訂版), 培風館(2001), 4.3.1 章 13)亀井三郎編; 化学機械の理論と計算(第 2 版), 産業図書(1975), pp.94-96 14)大野光之; 初歩から学ぶ化学装置設計, 工業調査会(2009), 2-3 章 15)尾方昇編; 製塩の工学(第 3 巻 せんごう編), 日本塩工業会(1998), 4.2 章 16)化学工学協会編; 化学工学便覧(改訂四版), 丸善(1978), 4.6.2 章
17)J.W. Mullin; Crystallization 4th ed., Butterworth-Heinemann (2001), pp.379-382 18)伊東章, 上江洲一也; Excel で気軽に化学工学, 丸善(2006), pp.120-121 V1 V2 V3 L1, xL1 L2, xL2 L3, xL3 TB1, CpF 原液F (質量組成xF) 加熱用水蒸気S U1, A1 U2, A2 U3, A3 蒸気 濃縮液 TB2, Cp1 TB3, Cp2 λ= 2200000 A= 22.8 式(1)の残差の平方= 49 Cp= 4200 TB1= 100.5 式(5)の残差の平方= 0 U1= 2300 TB2= 84.9 式(6)の残差の平方= 0 U2= 1700 V1= 0.276 式(7)の残差の平方= 17 U3= 1200 V2= 0.309 式(8)の残差の平方= 7 F= 1.40 V3= 0.348 式(9)の残差の平方= 2 xF= 0.100 Vs= 0.464 式(10)の残差の平方= 23 xL3= 0.300 残差の合計= 98 TF= 30.0 TB3= 60.0 Ts= 120
設計問題1 30℃の 5 wt%水酸化ナトリウム水溶液の原液 240 t/day を単一蒸発缶により 30 wt%まで濃縮する。加熱に は 270 kPa の飽和水蒸気を用い、蒸発室の操作圧は 20 kPa に維持される。以下の問いに答えよ。伝熱管 径D は、内径と外径の算術平均 Davを用いよ。計算に必要な情報を下記に整理する。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 伝熱管内を流れる液の密度 990 kg/m3 伝熱管内を流れる液の粘度 0.60 mPa・s 伝熱管内を流れる液の比熱容量 3.9 kJ/(kg・K) 伝熱管内を流れる液の熱伝導度 0.60 W/(m・K) 伝熱管外側を覆う凝縮水の密度 934 kg/m3 伝熱管外側を覆う凝縮水の粘度 0.215 mPa・s 伝熱管外側を覆う凝縮水の熱伝導度 0.58 W/(m・K) 伝熱管内側の液流速 1.8 m/s 伝熱管の熱伝導度 16.7 W/(m・K) 伝熱管内径 29 mm 伝熱管厚み 1 mm (※両端 2 箇所分の厚みがあるので注意) 伝熱管長さ 2.3 m 内側汚れ係数(hsi)5000 W/(m2・K) 外側汚れ係数(hso)10000 W/(m2・K) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (1-1)沸点上昇 TBPR [℃]を求めよ。液深の影響は無視できるものとする。 (1-2)蒸発水量 V [t/day]を求めよ。 (1-3)過熱水蒸気量 S [t/day]を求めよ。 (1-4)伝熱管の内側境膜伝熱係数 hi [W/(m2・K)]を求めよ。ただし、粘度変化の影響は無視できるものとす る。乱流(Re>10000)の場合は、Colburn の式を用いよ。 (1-5)伝熱管の外側境膜伝熱係数 ho [W/(m2・K)]を求めよ。カランドリア内の伝熱管は、垂直に配列されて いるものとする。計算にあたっては、膜状凝縮を仮定し、伝熱管の外側を覆う凝縮水の物性値を用 いること。また、質量流量W [kg/s]は、凝縮水量 C [kg/s]に相当し、凝縮水量 C は過熱水蒸気量 S [kg/s] に等しいものとする。 (1-6)伝熱管内側基準の総括伝熱係数 Ui [W/(m2・K)]を求めよ。 (1-7)伝熱面積 A [m2]を求めよ。 (1-8)伝熱管の必要本数 N [−]を求めよ。小数第一位を切り上げること。 設計問題2 下記の条件で単一蒸発缶を運転している。以下の問いに答えよ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 操作開始時の総括伝熱係数 8000 kJ/(m2・h・℃) 50 時間運転後の総括伝熱係数 2500 kJ/(m2・h・℃) 1 日あたりの所要熱量 5.00×108 kJ/day 伝熱面積 100 m2 過熱水蒸気温度 130℃ 蒸発缶内部液の沸点 70℃ 洗缶 1 回あたりの所要時間 5 h −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (2-1)式(9.3)を導出せよ。 (2-2)式(9.4)における定数 a および b をそれぞれ求めよ。 (2-3)洗缶までの運転時間 τ [h]を求めよ。解析解または数値解(エクセル・ソルバー)のいずれでもよい。
図 11 水の蒸気圧線図 図 12 水の蒸発潜熱(縦軸の値は、×106) 答(1-1)14℃, (1-2)200 t/day, (1-3)233 t/day, (1-4)6602 W/(m2・K), (1-5)49664 W/(m2・K), (1-6)1917 W/(m2・K), (1-7)54.5 m2, (1-8)253 本, (2-1)略, (2-2)a=2.89×10−9, b=1.56×10−8, (2-3)5.54 h(数値解の場合) ●自分の力で解くこと。どうしても分からなければ、途中まででよい。 (真面目に解いていることが伝われば、極端に低い点数にはならない。) ●過去の解答やクラスメートが作成したレポートを書き写さないこと。 (採点する側の気持ちを考えること。ズルをするような自分に満足か?) ●書き写しが疑われる場合は、レポート点を保留の上、当人を呼び出して事情を聴取する。 −−−−−不正が明らかとなった場合の例年の対応(ほぼ毎年、発覚している。)−−−−− ①担当教員が指定する休日の早朝に登校。(遅刻または欠席は、その時点で不合格。) ②担当教員の目の前で再度同じレポートを解く。 ③その後、授業態度(出席状況、レポート点等)が明らかに向上した場合は、当該レポートを 0 点とし て受理する。横ばいか大した向上が認められなかった場合は、当該レポートを受理しない。(不合格)