県内肉用鶏農場由来Campylobacter jejuniの分子疫学解析
中央家畜保健衛生所田中健介
羽入さち子
村山和範
篠川有理
本間裕一
金子周義
はじめに
新 潟 県 は 、 安 全 ・ 安 心 な 畜 産 物 供 給 体 制 と 生 産 性 向 上 の た め 、 生 産 農 場 へ の 飼 養 衛 生 管 理基準の遵守及びHACCP方式の考え方に基づく 衛生管理手法の導入・定着推進を図っている。 そ の う ち 肉 用 鶏 農 場 に 対 し て は 、 食 中 毒 原 因 菌 で あ る サ ル モ ネ ラ 及 び カ ン ピ ロ バ ク タ ー に つ い て 、 平 成 17年 度 か ら 年 1、 2回 の 検 査 に よ る 保 菌 状 況 調 査 と 対 策 検 討 を 実 施 し て い る 。 県 内 ブ ロ イ ラ ー 農 場 に お け る カ ン ピ ロ バ ク タ ー 分 離 陽 性 農 場 率 は 、 平 成 17~ 23年 度 ま で 高 い 値 で あ っ た が 、 平 成 24年 度 以 降 低 下 傾 向 が みられた(図1)。農場への浸潤要因の究明は、 効 果 的 な 侵 入 防 止 対 策 の 策 定 に 重 要 で あ る 。 そこで、過去に分離されたCampylobacter jej uniの分子疫学解析を行い、農場へのカンピロ バ ク タ ー 浸 潤 要 因 を 考 察 し た の で 、 そ の 概 要 を報告する。 図1 平成17~27年度における県内ブロイラー 農場のカンピロバクター分離陽性農場率対象農場の概要
本 研 究 の 対 象 は 県 内 ブ ロ イ ラ ー 農 場 13農 場 中12農場で、すべて同一事業体の系列であり、 直営農場7農場(A~G)及び契約農場5農場(H ~ L ) か ら な る ( 表 1)。 飼 養 プ ロ グ ラ ム 、 雛 の 導 入 元 、 飼 料 会 社 及 び 出 荷 食 鳥 処 理 場 等 の 基本的な飼養衛生管理は全て同一である。 0% 20% 40% 60% 80% 100% H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 平 成 24年 に 事 業 体 の 変 更 に よ り 経 営 方 針 や 出 荷 先 が 変 わ り 、 そ れ に 伴 い 飼 養 衛 生 管 理 も 変 更 さ れ た 。 主 な 変 更 点 は 、 約 35日 齢 で 一 部 を 出 荷 す る 若 齢 出 荷 方 式 の 廃 止 、 専 門 社 員 に よ る 出 荷 後 鶏 舎 の 除 糞 ・ 水 洗 の 実 施 ( 直 営 農 場 の み ) 及 び 取 引 飼 料 会 社 で 、 捕 鳥 作 業 、 鶏 糞 処 理 、 生 鳥 運 搬 業 者 及 び 種 鶏 場 等 に 変 更 は な か っ た 。 ま た 、 鶏 舎 前 室 で の 長 靴 履 き 替 え に よ る 交 差 汚 染 防 止 の 徹 底 、 入 場 の 際 シ ャ ワ ー イ ン の 励 行 、 鶏 舎 内 の ひ び 割 れ 等 を 補 修 、 ネズミの定期的駆除といった農場防疫強化が、 直 営 農 場 及 び 衛 生 意 識 の 高 い 契 約 農 場 で 進 め られた。 表1 農場概要一覧(平成27年度調査時点)材料及び方法
供 試 材 料 : 平 成 19~ 27年 度 に 、 農 場 で 採 取 さ れ た 出 荷 前 の 鶏 盲 腸 便 ま た は ク ロ ア カ ス ワ ブ 、 ド リ ン カ ー 内 給 与 水 及 び 食 鳥 処 理 場 で 採 取された出荷鶏盲腸を用いて、カンピロバク 農場 飼養規模 鶏舎数 鶏舎構造 導入回数 A 90,000 9 1階建・無窓 年6回 B 88,000 9 2階建・無窓 年6回 C 130,000 8 2階建・無窓 年6回 D 99,000 10 1階建・無窓 年5.5回 E 60,000 24 1階建・開放 年5.5回 F 43,000 16 1階建・開放 年5.5回 G 23,000 4 1階建・開放 年6回 H 108,000 9 2階建・無窓 年6回 I 9,600 2 1階建・開放 年5回 J 13,500 3 1階建・開放 年4回 K 21,000 3 1階建・開放 年5回 L 63,000 12 1階建・無窓 年5回図2 各RFLP型の泳動像(1~17:代表株、M:100bpマーカー) タ ー の 分 離 培 養 を 行 っ た 。 分 離 培 養 方 法 は 、 Preston培地で37℃、24時間微好気増菌培養後、 CCDA培地で37℃、42時間微好気培養を行った。 菌種の同定はPCR法により行った。カンピロバ クター保菌状況調査では、C. jejuni及びCamp ylobacter coliが分離されたが、C. coliは全 体の約7%であったため、今回はC.jejuniのみ について分子疫学解析を行った。 PCR-RFLP(RFLP)解析:分離されたC. jejuni について、1ロットあたり1~6株、計73ロット 158株を、Chumaらの方法に準拠し[2]、flagel lin A(flaA) 遺 伝 子 を 増 幅 後 、 PCR産 物を 制 限酵素DdeⅠを用いて、切断パターンを観察し た。 パ ル ス フ ィ ー ル ド ゲ ル 電 気 泳 動 (PFGE)解 析 :RFLP解析を行った158株のうち、RFLPパター ン 、 分 離 年 度 及 び 農 場 等 を 勘 案 し 選 抜 し た 40 株 に つ い て 、 Ribotら の 方 法 に 準 拠 し [3]、 制 限酵素SmaⅠを用いて、切断パターンを観察し た。 ま た 、BioNumerics ver.5.10を 用い て切 断パターンを比較した。
Multilocus Seqense Typing(MLST)解析:PF GE解析に用いた株と同じ40株について、MLST Home(http://www.mlst.net/) に記 載 されて いるプロトコルに従って、7種類のハウスキー ピング遺伝子(aspA、glnA、gltA、glyA、pgm、 tkt、uncA)をPCRで増幅後精製し、シークエン ス解析で解読した塩基配列をMLST Homeで照合 することにより、Sequence type(ST)及びCl onal complex(CC)を決定した。また、BioNu merics ver.5.10を用いて系統樹を作成した。
成
績
RFLP解析:RFLP型は17種類に分類された(図 2)。 また 、 農 場 別 及 び 年 度 別 の 分 離 株 の RFLP 型 を 表 に 示 し た ( 表 2)。 農 場 別 で み る と 、 多 くの農場で毎年異なるRFLP型のC. jejuniが分 離 さ れ て い た 。 年 度 別 で み る と 、 RFLP型 の バ リ エ ー シ ョ ン が 同 じ 年 度 は な く 、 年 度 毎 に 変 化していた。また、平成19年度の1型、平成21 及び22年度の6型、平成24及び25年度の11型の ように、同一年度に同じRFLP型のC. jejuniが、 多 く の 農 場 で 分 離 さ れ る 傾 向 が 認 め ら れ た 。 表2 農場別及び年度別分離株のRFLP型図3 PFGE解析結果 PFGE 解 析 : 解 析 結 果 を 図 に 示 す ( 図 3)。 同 一 PFGEパタ ー ン の組 み 合 わせ ( cj28及 び cj29 や、 cj15、 cj21、cj16及び cj22な ど ) が複 数 農 場 の 分 離 株 で 認 め ら れ た 。 同 一 PFGEパ タ ー ン分離株は同一年度の株で多く認められたが、 cj23、cj25,cj30及びcj39にように複数年度の 分離株でも認められた。 MLST解析:STは22種類に分類された(図3)。 新規のSTとして、ST-8109、ST-8110及びST-81 11が認められた。CCは10種類に分類された。S T結果から作成した系統樹のとおり、分離株の STに 偏 り は 見 ら れ ず 、 分 離 株 に 遺 伝 的 な 多 様 性が認められた(図4)。
考
察
カ ン ピ ロ バ ク タ ー の 感 染 源 は 、 衛 生 害 虫 、 空気感染、農場作業員、野生動物、水、飼料、 土 壌 な ど が 推 定 さ れ て お り 、 い ま だ 明 確 に な っていない[5]。今回実施したRFLP解析及びML ST解析により、多様な系統のC. jejuniが認め ら れ た こ と か ら 、 既 報 の と お り 、 肉 用 鶏 農 場 へ の 浸 潤 に お け る 様 々 な 感 染 源 ま た は 侵 入 経 路 の 存 在 が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 PFGE解 析 に よ り 同 一 PFGEパ タ ー ン の 分 離 株 が 複 数 農 場 で 認 め ら れ た 。 こ の こ と か ら 、 同 一 由 来 株 の 複 数 農場への伝播が判明した。 農 場 間 伝 播 に は 複 数 農 場 を 行 き 来 す る 人 や も の の 関 与 が 疑 わ れ る が 、 平 成 20年 度 に 家 畜図4 MLST解析結果から作成した系統樹 保 健 衛 生 所 ( 家 保 ) が 実 施 し た ア ン ケ ー ト に よ る と 、 出 荷 後 の 除 糞 作 業 や 水 洗 作 業 の た め に 近 隣 の 系 列 農 場 へ 応 援 に 行 く 場 合 、 専 用 の 長 靴 や 衣 服 が 用 意 さ れ て い な い 事 例 が あ り [7]、カンピロバクターの伝播が農場間で容易 に 起 こ る 環 境 で あ っ た と 推 察 さ れ た 。 そ の よ う な 環 境 に お い て は 、 平 成 24年 に 実 施 さ れ た 飼養衛生管理方法の変更や農場防疫の強化は、 農 場 内 及 び 鶏 舎 内 へ の カ ン ピ ロ バ ク タ ー 侵 入 リ ス ク 低 減 に 大 き く 貢 献 し 、 平 成 23年 度 か ら 平 成 24年 度 に か け て み ら れ た 、 カ ン ピ ロ バ ク タ ー 分 離 陽 性 農 場 率 の 低 下 に 大 き く 影 響 し た と 考 え ら れ た 。 し た が っ て 、 対 象 農 場 に お け るC. jejuni浸潤は、人やものによる農場間伝 播 が 主 経 路 で あ り 、 農 場 間 伝 播 リ ス ク の 低 減 に よ り カ ン ピ ロ バ ク タ ー 分 離 陽 性 農 場 率 が 低 下したと推察された。 過 去 に 家 保 が 取 り 組 ん だ カ ン ピ ロ バ ク タ ー 侵 入 防 止 対 策 と し て 、 消 毒 方 法 の 変 更 及 び 生 菌 剤 や 有 機 酸 等 の 混 合 給 餌 に よ る 対 策 は 農 場 や ロ ッ ト で 結 果 に ば ら つ き が あ り 著 効 が 認 め ら れ な か っ た こ と や 、 捕 鳥 者 や 鶏 輸 送 カ ゴ が 汚染の要因と推察されること[7]、鶏舎出入口 で の 長 靴 履 き 替 え な ど に よ り 、 外 部 か ら の 侵 入防止対策後に陰性化した事例[4,6]が報告さ れている。これらと今回の結果を踏まえると、 鶏 舎 前 室 に お け る 長 靴 や 衣 服 の 交 換 や 、 専 門 社 員 に よ る 出 荷 後 鶏 舎 の 除 糞 ・ 水 洗 の 実 施 に よ る 交 差 汚 染 防 止 と い っ た 、 カ ン ピ ロ バ ク タ ー に 汚 染 さ れ た ま ま の 人 や も の を 農 場 内 、 特 に 鶏 舎 内 に 入 れ な い 対 策 が 、 鶏 群 の カ ン ピ ロ バ ク タ ー 侵 入 防 止 対 策 と し て 有 効 で あ る と 推 察された。 本 研 究 の よ う に 、 長 期 間 に お け る 肉 用 鶏 農 場由来C. jejuniの遺伝子解析情報は国内で報 告がなく、農場に浸潤するC. jejuniの基礎デ ー タ と し て 貴 重 な 知 見 が 得 ら れ た 。 今 回 解 析 を 行 っ たC. jejuniの うち ST-4526に 分 類さ れ た 株 は 、 他 の 系 統 に 比 べ 腸 管 定 着 性 が 高 い と 言われており[1]、同一農場において複数年度 に 渡 り 連 続 し て 分 離 さ れ た こ と か ら 、 今 後 も 注視が必要と思われた。 カ ン ピ ロ バ ク タ ー は い つ 、 ど こ か ら 侵 入 す る か わ か ら な い 病 原 体 で あ り 、 継 続 的 な モ ニ
タリングが重要である。今後も研究を継続し、 安全・安心な畜産物生産に貢献していきたい。 稿 を 終 え る に あ た り 、 PFGE解 析 及 び MLST解 析 の 実 施 、 並 び に ご 助 言 を い た だ い た 、 国 立 研 究 開 発 法 人 農 業 ・ 食 品 産 業 技 術 総 合 研 究 機 構 動 物 衛 生 研 究 所 の 岩 田 剛 敏 先 生 に 深 謝 し ます。
引用文献
[1] Asakura et al.:PLoS ONE 7(11), e48394 (2012)
[2] Chuma et al.:The Journal of Veterinar
y Medical Science 59(11), 1011-1015(1997) [3] Efrain M. Ribot et al.:Journal of Cli nical Micorobiology 39(5),1889–1894 (200 1) [4] 野 村 文 恵 ら : 平 成 25年 度 新 潟 県 家 畜 保 健 衛生業績発表会集録, 20-22(2013) [5] 岡村雅史:鶏病研究会報第49巻増刊号, 9 -18(2013) [6] 曽 我 万 里 子 ら : 平 成 25年 度 新 潟 県 家 畜 保 健衛生業績発表会集録, 23-26(2013) [7] 渡 邊 章 子 ら : 平 成 20年 度 新 潟 県 家 畜 保 健 衛生業績発表会集録, 33-35(2008)