信州大学医学部小児医学講座,信州大学医学研究科移 植免疫感染症学講座
特集Autoin‰ammatory syndrome の新たなる展開と治療法の確立
総 説自己炎症疾患の臨床象
上 松 一 永Clinical observation of autoin‰ammatory diseases
Kazunaga AGEMATSU
Department of Infectious Immunology and Pediatrics, Graduate School of Medicine, Shinshu University (Received February 6, 2007)
summary
A disease, which repeats in‰ammations but is not based on infections or autoimmunity, was recently deˆned as au-toin‰ammatory diseases. The auau-toin‰ammatory diseases are a new and expanding classiˆcation of in‰ammatory dis-eases characterized by recurrent episodes of systemic in‰ammation in the absence of pathogens, autoantibodies or anti-gen speciˆc T cells. This disease is developed by the abnormality of molecules which regulate in‰ammation, innate im-munity and apoptosis, and patients have been suŠered with treatment by the di‹culty of making a diagnosis. However, a diagnosis is comparatively easy by their presenting the characteristic clinical observation. In addition, genetic analysis can put the diagnosis on a ˆrm basis. Giving that therapies for individual disorder of autoin‰ammatory diseases are diŠerent, we always put these disorders in mind when we saw patients who have unknown persistent in‰ammation.
Key words―In‰ammation; Neutrophil; innate immunity; cytokine
抄 録 感染や自己免疫に基づかない炎症を反復する疾患群,自己炎症疾患(autoin‰ammatory diseases)の存在が明ら かになった.自己炎症疾患は,炎症を繰り返すものの,病原体,自己抗体,自己反応性 T 細胞は見出されない. 炎症,自然免疫,細胞死の制御に関わる分子群の異常であり,確定診断がなされず治療に難渋することも多い.自 己炎症疾患における個々の疾患は治療法が異なるため確定診断が重要である.自己炎症疾患は特徴的な臨床所見を 呈するため,比較的診断は容易であり,さらに遺伝子解析による確定診断が可能である.原因不明の炎症があり改 善しない場合は,本疾患群を常に念頭に入れて,炎症性疾患を鑑別する必要がある. は じ め に 免疫疾患の代表的な疾患として,免疫不全症,ア レルギー,自己免疫疾患があるが,最近炎症を主体 とした疾患群が免疫病の一疾患として確立されて きた(図 1).この Autoin‰ammatory diseases は, autoin‰ammatory disorders, autoin‰ammatory
syn-drome などとも呼ばれ1),本邦においても一定した 呼び名の統一はない.自己免疫疾患と対比させて本 稿では自己炎症疾患とする.炎症が持続反復する多 種多様な疾患群で,感染症,悪性腫瘍,自己免疫疾 患などは除外される.このグループの中には,周期 性に発熱がみられる家族性地中海熱(FMF),高 IgD 症候群(HID),TNF 受容体関連周期性症候群 (TRAPS),周期性発熱 ,ア フタ性口内炎,咽頭 炎,リンパ節炎症候群(PFAPA)や,慢性乳児期 発症,神経,皮膚,関節症候群(CINCA)/Muckle Wells 症候群(MWS)/家族性寒冷蕁麻疹(FCU), ぶどう膜炎を主徴とする炎症性疾患,Blau 症候群 (Blau)/若年性サルコイドーシス(EOS),そして 化膿性無菌性関節炎,壊疽性膿皮症,アクネ症候群 ( PAPA ) が 含 ま れ る ( 表 1 , 図 2 )1,2). CINCA, MWS, FCU は同一の遺伝子異常によって発症し, 遺伝子変異部位の違いによって重症度や表現型が異 なる.Blau と EOS も同一の遺伝子異常によって生 じる同一の疾患である.唯一異なる点は,EOS は 散発例が多いが,Blau では家族内発生を認める.
図 1
図 2
表 1 自己炎症疾患(Autoin‰ammatory diseases)の分類と 略語
1. 家族性地中海熱(FMF: Familial Mediterranean fever) 2. 高 IgD 症候群(HID: HyperIgD and periodic fever
syndrome)
3. TNF 受容体関連周期性症候群(TRAPS: TNFrecep-torassociated periodic syndrome)
4. 周期性発熱,アフタ性口内炎,咽頭炎,リンパ節炎症 候(PFAPA: Periodi fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and cervical adenitis)
5. 慢性乳児期発症,神経,皮膚,関節症候群(CINCA syndrome: Chronic, infantile, neurological, cutaneous and articular syndrome)
MuckleWells 症候群(MWS: MuckleWells syndrome) 家族性寒冷蕁麻疹(FCU: Familial cold urticaria) 6. Blau 症候群(Blau: Blau syndrome)
若年性サルコイドーシス(EOS: Earlyonset sarcoidosis) 7. 化膿性無菌性関節炎,壊疽性膿皮症,アクネ症候群
(PAPA syndrome: pyogenic sterile arthritis, pyoderma gangrenosum and acne syndrome)
また,クローン病とベーチェット病3)も自己抗体や 自己反応性 T 細胞は認めないため,自己炎症疾患 である可能性があるが,現時点では自己炎症疾患に は含めない.自己炎症疾患の原因として,炎症,ア ポトーシス,自然免疫に関わる NOD ファミリー分 子群などの遺伝子変異が見出されている4).NOD ファミリーには,責任遺伝子として同定された分子 以外にも多くの分子群が含まれ,これらは,炎症を 反復する原因不明の疾患の責任遺伝子である可能性 がある. 自己炎症疾患は,明らかな性差はないものの,そ の発症年齢は疾患毎に異なり,発熱のパターンなど 特徴的な臨床所見を呈する.確定診断として遺伝子 診断が有用であるが,必ずしも遺伝子変異がみられ ないこともあるため,臨床的な評価が最も大切であ る.持続あるいは繰り返す発熱性疾患を鑑別する上 で,自己炎症性疾患の鑑別診断は不可欠であり,こ れまでリウマチ性疾患と誤られていた本症を的確に 診断することによって適切な治療を行うことができ る.さらに,次章で述べられるように,自己炎症疾 患の病態を分子レベルで明らかにすることは,複雑 な炎症過程の解明ならびに自己炎症疾患の把握に役 立つものと思われる5).本稿では,主に自己炎症疾 患全体の臨床象について概説し,これまで明確に定 義されなかったこの疾患群の診断に役立てたい. I. 自己炎症疾患の病態 自己免疫疾患に関わる主な免疫担当細胞は,T 細 胞と B 細胞であるのに対し,自己炎症疾患の主役 は,食細胞である好中球と単球である.本症では食 細胞の活性化が起きている.なぜ食細胞の活性化が おこるのであうか.図 3 に示すとおり,病原微生物 を構成する膜成分蛋白や糖脂質,DNA, RNA など は,自然免疫に重要な役割を担う Tolllike 受容体 などを刺激する.そして,炎症の主な経路でもある NFkB が活性化されて免疫応答が惹起される.こ うした反応によって,直接的に病原微生物に対する 抗体などが産生される.また,この経路を介する細 胞死の誘導が生体の維持に関わっている.最近,病 原微生物の成分は,細胞表面などに存在する Toll like 受容体のみならず,細胞内のセンサーにも反応 することがわかってきた.この細胞内センサーは, Nod ファミリーに属する蛋白で,NFkB 活性や炎 症性サイトカインである IL1/IL18 のプロセシン グを制御している(次章参照).自己炎症疾患の多 くがこのセンサーを構成する蛋白の遺伝子異常によ って発症することが判明した. 漿膜(serous membrane)は,胸腔,心膜腔,腹 腔などの体腔の壁の内面,並びに肺,心臓,腸など
図 3 病原体微生物の構成要素は,Tolllike 受容体や細胞内センサーを刺激して,NFkB の活性化などを促す.細胞内センサー に遺伝子異常が生ずると,NFkB 活性や IL1/IL18 調整の制御に異常が生じ,食細胞の異常や炎症性サイトカインの産生異常 が生ずる.
表 2 自己炎症疾患の特徴
疾患名 FMF HID TRAPS PFAPA CINCA/MWS Blau/EOS PAPA
遺伝形式 常劣 常劣 常優 不明 常優 常優 常優 発症年齢 520 歳 1 歳以下 2 週53 歳 34 歳 1 歳以下 6 ヶ月12 歳 3 歳 発熱期間 半日3 日 46 日 1 週間以上 27 日 不定 なし なし 発熱間隔 1 ヶ月 46 週 2 ヶ月数ヶ月 24 週 随伴症状 漿膜炎 (腹痛,胸痛) 関節腫脹 頚部リンパ節腫脹 腹部症状(下痢) 皮疹 関節炎 漿膜炎 (腹痛,胸痛) 関節痛,筋痛 結膜炎,皮疹 アフタ性口内炎 咽頭,扁桃炎 リンパ節炎 蕁麻疹 感音性難聴 関節症状 中枢神経症状 ぶどう膜炎 関節炎 皮疹 無菌性関節炎 壊疸性膿皮症 嚢胞性アクネ 検査所見 発作時 CRP 陽性 血清 IgD 高値 血清 IgA 高値(80%) CRP 陽性 尿中メバロン酸増加 発作時 白血球増多 CRP 陽性 可溶性 TNFR 軽度低下(間期) 発作時 CRP 陽性 血清 IgD 軽度上昇(60%) 持続的に CRP 陽性 末梢血 検査で異常を 認めないこと が多い 末梢血 検査で異常を 認めない 責任遺伝子 MEFV 不明 NOD2/ CARD15 責任蛋白 パイリン nevalonate kinase TNF 受容体
type I クライオパイリン Nod2/Card15 CD2BP1 治療 コルヒチン ステロイド スタチン ステロイド エンブレル ステロイド 扁桃摘出 H2 ブロッカー アナキンラ ステロイド レミケード ステロイド レミケード 体腔内に収納されている器官をおおっている薄い膜 である.FMF などの自己炎症疾患において,好中 球の漿膜への浸潤が発作時に認められる.CINCA/ MWS/FCU などでみられる蕁麻疹様皮疹内にも, 好中球が多数浸潤している.単球・好中球の活性化 とそれに伴う好中球などの局所組織への浸潤によっ て,自己炎症疾患の全身症状である発熱と種々の局 所症状が生ずるものと考えられる(図 3). II. 臨床象(表 2) 1. 性差・発症年齢・本邦での頻度 責任遺伝子が判明している自己炎症疾患は,いず れも常染色体劣性・優性のためはっきりした性差は ないように思われる.しかし,PAPA は男児に多
いとされる.責任遺伝子が判明していない PFAPA も性差はないように思われる.FMF では,発症年 齢は 5 歳から 20 歳が多いが,幼児期に徴候がみら れることがある.FMF は成人で発症することがあ り,本邦においても 50 歳代での発症の報告もあ る.長野県内で軽症例を含め 12 患者を認めること から,全国には 500 人ほど存在すると推定している. HID は,生後数ヵ月以内に症状の発現を認めるこ とが多い.本邦では遺伝子変異が同定されている古 典的 HID 患児はきわめて希である. TRAPS は,乳児期から成人に至るまで幅広い発 症時期の報告があり,国内では 10 例ほどみいださ れている.PFAPA の発症年齢は 34 歳である.長 野県内で 10 患者を認めることから,国内では 500 人ほどは存在すると考えられる.CINCA は 1 歳以 下で発症し,国内に約 20 人みられる.MWS は国 内に 5 例認 められる.FCU は 1 例のみであ る. EOS の発症は 4 歳以下であり,20 例近い患児で遺 伝子異常がみいだされている.Blau は,本邦では 数家系のみである.PAPA の関節炎は幼児期でみ られ,その後に,にきび,壊疸性膿皮症が発症す る.国内で疑いのある 1 例が知られている. 2. 発熱(表 2) 自己炎症疾患の症状としては,発熱を伴うことが 多く疾患によって特徴的なパターンを呈する.特に 周期性発熱においてはその発熱持続期間が診断に重 要である.FMF では,突然高熱を認め,半日から 3 日間持続する.発熱期間が短いことが特徴であ る.発熱間隔は,26 週間で 4 週間毎が多い.なぜ 周期性に発熱するのかは不明だが,女性患者では約 半数が生理時に一致する.HID では,46 週毎に 46 日の発熱が持続する.TRAPS では,発熱は 1 週間以上持続し 1 ヶ月間続くこともある.発熱間隔 は数ヶ月である.PFAPA では,27 日間の発熱を 約 1 ヵ月の周期で反復する.発熱時も比較的元気が 良い.MWS では,炎症所見は持続するが周期的に 発熱を認めることがある.Blau/EOS と PAPA で は一般的に発熱はない. 3. 局所所見と検査所見(表 2) 全身症状としての発熱に加え,発熱時などに局所 炎症所見を呈する.自己炎症疾患の炎症部位は疾患 毎に特異性があり,漿膜(腹膜,胸膜),皮膚,ぶ どう膜,関節,口腔粘膜,扁桃,リンパ節などに認 められる.FMF では,漿膜炎による激しい腹痛や 胸痛が特徴的だが,腹痛か胸痛のどちらかを伴い併 発はしない.腹痛は激痛で虫垂炎と誤診されやす く,背中の痛みを訴えることもある.腹部 CT で腹 膜炎所見がみられることがある.胸痛時には呼吸が 浅くなり,全身倦怠感を生じる.稀に関節炎を伴う ことがある.検査所見は,IL6, CRP,血清アミロ イド A の上昇を伴うことが多く,間歇期にこれら は陰性化する.CRP は 1020 mg/ml ほどの著明高 値になる. HID では,紅斑や丘疹,下痢などの腹部症状, リンパ節腫脹,関節炎などを伴う.HID では,血 清 IgD 高値と IgA 値の上昇が特徴的であり,発熱 時には CRP も高値である.古典的 HID では尿中 メバロン酸の増加を認める.TRAPS においては, 漿膜炎,皮疹,結膜炎,関節痛,筋肉痛などを併発 しやすい.CRP が上昇する.PFAPA では発熱時 に,アフタ性口内炎,白苔を伴う扁桃炎,頚部リン パ節腫脹を高頻度に合併する.血清 IgD 値が軽度 上昇することがある.CRP もかなり上昇して,発 作間欠期には陰性化する.CINCA, MWS, FCU で は,いずれも軽度のかゆみを伴う持続性の蕁麻疹を 確実に認める.前頭部突出や鞍鼻などの願貌異常が ある.さらに,うずまき管などの障害による感音性 難聴,脳軟膜の炎症や無菌性髄膜炎などの中枢神経 病変,結膜炎を伴いやすい.高度の炎症が持続する ため,無治療だと低身長になる.血清 IL1b 値の 軽度上昇や CRP,血清アミロイド A の持続的な高 値を認める. 眼球全体を包み込むブドウ膜は,脈絡膜,毛様 体,虹彩をまとめて呼ぶ総称である.Blau/EOS は,これらの組織に炎症が生じブドウ膜炎,特に虹 彩に強い炎症がおこる.虹彩が癒着し前房水の流れ が阻害されると,眼圧が上昇し緑内障となり,放置 すると視神経が障害され失明する.かさかさした粟 粒上の発疹(肉芽腫)と関節炎を併発する.血液検 査 で も CRP 上 昇 な ど を 認 め な い こ と が 多 い . PAPA の臨床症状は,壊疸性膿皮症,化膿性無菌 性関節炎,重い嚢胞性アクネである.血液検査では 異常を認めないことが多い. III. 自己炎症疾患の治療の概要(表 2) 治療は,第一に副腎皮質ステロイド薬の反応性に つ い て 把 握 す る こ と が 重 要 で あ る . 一 般 的 に , TRAPS, PFAPA, Blau/EOS, PAPA は副腎皮質ス テロイド薬が有効である.しかし,減量によって再 燃するため,TNF 阻害薬などの併用が試みられて
いる.PFAPA は発熱時の副腎皮質ステロイド薬の 少量短期投与が著効する.FMF は,副腎皮質ステ ロイド薬は無効であるが,コルヒチンが約 90%の 症例で著効する.FMF の難治例における TNF 阻害 薬の有効例が報告されている.HID ではスタチン が 有 効 で あ る . IL 1b 産 生 が 亢 進 す る MWS や CINCA などには,IL1 アンタゴニストであるアナ キンラの連日皮下投与が著効する. お わ り に 自己炎症疾患の病態,臨床症状,検査所見,治療 について概説した.感染症との鑑別が第一に重要で ある.自己炎症疾患では,炎症の持続・反復によっ て障害が生じてくるため,急激には重篤な症状は呈 さない.そのため,早期診断よりも確実な診断をす ることが大切である.注意深い長期的な観察と検査 によって感染症との鑑別は容易と思われる.自己炎 症疾患を疑った場合には,次に自己炎症疾患の中の どの疾患かを考える.これまで述べてきたように個 々の自己炎症疾患は特徴的な臨床象を呈するため, 臨床症状からかなり疾患を絞り込むことができる. 安易に遺伝子解析を行うのではなく,しっかりと臨 床診断をして,専門医と相談してから,可能性の高 い責任遺伝子の解析を行っていくことが肝要であ る.本邦においては,自己炎症疾患の概念はいろい ろな分野で浸透していない.そのため,誤った治療 が行われることも多い.多彩な症状によってさまざ まな診療科をおとずれるため,各分野の医師の協力 が必要である.本症の理解に努め,情報の交換を行 い,自己炎症疾患患者に対してより良い医療を行う ことが望まれる. 文 献
1) Galeazzi M, Gasbarrini G, Doria A. : Autoin-‰ammatory syndromes. Clin Exp Rheumatol. 40 : S7985, 2006.
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