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5.1chサラウンド番組の制作技術ガイドライン技術資料

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ARIB TR-B30 1.0版

平 成 2 2 年 4 月 2 6 日   策       定

5.1chサラウンド番組の制作

技 術 ガ イ ド ラ イ ン

社団法人 

電 波 産 業 会

Association of Radio Industries and Businesses

ARIB TECHNICAL REPORT

技   術   資   料

THE TECHNOLOGY GUIDELINE OF PRODUCTION

FOR SURROUND BROADCAST PROGRAM

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まえがき

社団法人電波産業会は、無線通信機器製造者、放送機器製造者、電気通信事業者、放送事業者及 び利用者の参加を得て、各種の電波利用システムに関する無線設備の標準的な仕様等の基本的な技 術条件を「標準規格」又は「技術資料」として策定している。 「技術資料」は、技術基準と民間の任意基準を取りまとめた標準規格に関連する資料を取りまと めたものである。 本技術資料は、5.1ch サラウンドサウンド番組制作についての技術要件を取りまとめたものである。 本技術資料が、無線機器製造者、電気通信事業者、放送機器製造者、放送事業者、利用者等に積 極的に活用されることを希望する。

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はじめに

2000 年の BS デジタル放送開始以来、5.1ch サラウンドサウンドを用いた臨場感の高い放送が可 能となっている。地上デジタル放送の開始、CS 放送の HD 映像化など、高精細度、高臨場感の番組 に対するニーズが高まるなか、サラウンド番組を制作する際に準拠すべきガイドラインの策定が望 まれていた。 本書は、サラウンドサウンドに関する各種規格・文献を参考に、デジタル放送におけるサラウン ド番組を制作する際に参考とすべき事柄をまとめたものである。第2 章から第 4 章ではスピーカ配 置など主にハードウエアに関連した記述を、第5 章、第 6 章ではミキシングに関連する記述を行っ ている。本ガイドラインに則りサラウンド番組が制作されることで、制作時に意図した音響表現が 視聴者の再生環境で可能なかぎり再現できること、制作現場での機器運用や素材交換が円滑に進め られることを目的としている。 本ガイドラインがサラウンド番組制作の一助となれば幸いである。

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目次

まえがき はじめに 第1 章 一般事項... 1 1.1 目的 ...1 1.2 参照文書 ...1 1.2.1 準拠文書...1 1.2.2 関連文書...1 1.3 用語の説明...2 第2 章 再生環境... 8 2.1 スピーカ配置 ...8 2.1.1 ダイレクトサラウンド方式 ...8 2.1.2 ディフューズサラウンド方式 ...10 2.2 再生レベル... 11 2.2.1 メインチャンネルの推奨再生レベル... 11

2.2.2 LFE(Low Frequency Effects)チャンネルの再生レベル ...12

2.3 ベースマネージメント...12 第3 章 録音 ... 13 3.1 録音時の処理 ...13 3.2 基準信号と基準レベル...13 3.3 トラックアサイン...13 第4 章 標準サラウンドテスト音源 ... 15 4.1 サラウンドテスト音源の構成...15 4.2 収録時のレベル調整用基準信号 ...15 4.3 モニター調整用信号 ...15 4.4 位相チェック用信号 ...15 第5 章 ダウンミックス ... 16 5.1 デジタル放送のダウンミックス ...16

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5.3 ダウンミックス係数 k について...16 5.4 ダウンミックス音声のモニター ...17 5.5 ダウンミックス音声のレベルバランス ...17 5.5.1 ダウンミックス式の問題点...17 5.5.2 サラウンド番組制作時のレベルバランスについての注意点...18 5.5.3 サラウンド番組制作時の基本事項 ...18 第6 章 サラウンド番組制作時の注意点... 21 6.1 ベースマネージメントを使用した検聴 ...21 6.2 ダウンミックス再生を考慮したミキシング ...21 6.3 部屋の大きさによる留意点 ...21 6.4 LFE チャンネルの扱い ...21 6.5 LFE チャンネルの周波数帯域...21 6.6 ダイバージェンス機能について ...22 解説1 ベースマネージメント ... 23 1.1 ベースマネージメント機器の構成例 ...23 1.2 クロスオーバーフィルタと位相 ...24 1.3 ベースマネージメントを使用した検聴 ...24 解説2 モニタースピーカの再生レベル調整... 26 2.1 室内の音響特性 ...26 2.2 使用する信号 ...26 2.3 ピンクノイズによるレベル調整 ...26 2.4 調整前の確認 ...27 2.5 バンドレベルと騒音レベル[dBC]の関係 ...27 2.6 調整手順 ...29 2.7 調整方法 ...30 2.7.1 RTA による測定...30 2.7.2 騒音計による測定 ...32 解説3 劇場用サラウンドと民生用サラウンド ... 33 3.1 サラウンドチャンネルの再生レベルの違い...33 3.2 周波数特性の違い...35

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参考資料1 5.1ch サラウンド番組の制作事例 ... 37 1.1 クラシック音楽番組の事例 ...37 1.1.1 事例 1...37 1.1.2 事例 2...37 1.2 軽音楽系の音楽番組の事例 ...38 1.2.1 事例 1...38 1.2.2 事例 2...38 1.3 スポーツ番組の事例 ...38 1.3.1 事例 1...38 1.3.2 事例 2...39 1.4 ドキュメンタリー番組の事例...39 1.5 お笑い演芸等番組の事例 ...40 1.6 ドラマの事例 ...40

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第1章 一般事項

1.1 目的 本書はデジタル放送におけるサラウンド番組を制作する際のガイドラインとして作成した。 1.2 参照文書 1.2.1 準拠文書 1) ARIB STD-B21 デジタル放送用受信装置 標準規格第4.7 版

2) ITU-R BS.775 Multichannel stereophonic sound system with and without

accompanying picture

3) ITU-R BS.1116 Methods for the subjective assessment of small impairments in audio

systems including multichannel sound systems

4) ITU-R BR.1384 Parameters for international exchange of multi-channel sound

recordings with or without accompanying picture

1.2.2 関連文書

1) SMPTE 320M for Television — Channel Assignments and Levels on Multichannel

Audio Media

2) SMPTE 323M for Film — Channel Assignments and Levels on Multichannel Audio

Media

3) SMPTE 202M Dubbing Theatres, Review Rooms and Indoor Theaters - B-Chain

4) SMPTE RP 200 Relative and Absolute Sound Pressure Levels for Motion-Picture Multichannel Sound Systems — Applicable for Analog Photographic Film Audio, Digital Photographic Film Audio and D-Cinema

5) EBU Tech 3276 s-1 Listening conditions for the assessment of sound programme material 6) EBU R91-2004 Track allocations and recording levels for the exchange of

multichannel audio signals

7) ISO/IEC 13818-7 Coding of Moving Pictures and Audio Electroacoustic Response 8) AES TD1001.1.01 Multichannel surround sound systems and operations

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1.3 用語の説明

Dolby Digital Dolby Lab が 1992 年に映画用として発表したサラウンドサウン

ドフォーマット。5.1ch ディスクリート方式である。業務用(映画)

と民生用があるが基本的には同じ技術を使用している。AC3 圧縮技

術で音響信号を符号化圧縮し、ビットストリームとしてメディアに 記録する。6.1ch に拡張したものが Dolby Digital Surround EX で

ある。米国のデジタルTV 放送では AC3 を採用している。 VU メータ VU メータは音声プログラムの音量を測定する計器で、単位は Volume-unit を使用する。時定数を持っているため“ピーク信号に 対し正確に応答しない”などの問題もあるが、人間の音量感に近い 応答を得られることから長年使用されている。0VU レベルは機器や システムの基準レベルとしても定着している。現在の一般的な VU メータは、1kHz/+4dBu の正弦波に対し 0VU を指示し、入力信 号に対する応答は0.3 秒以内に 99%の指示値になるように規定され ている。当初のVU メータの規格は「600Ω負荷に 1mW の電力供 給をした時(すなわち0dBm、このときの電圧は 0.775Vrms)0VU」 であったが、その後、使い勝手の問題などもあり0VU=+4dBm、更 に0VU=+4dBu(民生では-10dBV)として使用されてきた経緯が ある。 VU メータは正弦波信号に対しては比較的正確な値を指示する が、方形波・三角波・ノイズ信号(ピンクノイズ、ホワイトノイズ) などに対しては、測定誤差を生じるため正しい値を示さない。ピン クノイズのレベル調整をVU メータで行う場合は注意を要する。 オクターブバンド、1/3 オク ターブバンド 1オクターブとは音階のドから次のドまでを言う。1 オクターブ の下限周波数と上限周波数の範囲をオクターブバンドと言い、その 中心周波数がオクターブバンド中心周波数となる。オクターブバン ドを1/3 分割したものが 1/3 オクターブバンドである。 オクターブバンド分析器 (RTA) オクターブバンド実時間分析器のことで、リアルタイムに音響信 号を分析・表示する測定器である。略してRTA(リアルタイムアナ ライザ)と呼ぶことが多い。入力信号を1/1 又は 1/3 オクターブバ ンドフィルタで分割し、バンドごとのレベルをリアルタイムに測定 できる。同時にオールパス値、オーバーオール値の測定も可能であ

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る。再生レベルの精密調整には欠かせない測定器のひとつである。 オーバーオール値 マイクロフォンの入力信号をリアルタイムに1/1 又は 1/3 オクタ ーブ分析し、そのバンド値の総和をとった合成レベルである。 オールパス値 マイクロフォンからの全入力信号を検波・積分した値である。騒 音計の測定値はオールパス値である。 サブウーファ (Subwoofer:SW) 低域再生専用のスピーカのこと。LFE チャンネル用として単独で 使用する場合と、ベースマネージメントシステムによりメインチャ ンネルの低域成分も含めて再生する場合がある。以前は LFE チャ ンネルと同じ意味で使用することもあったが、現在では区別するの が一般的である。 サラウンド 視聴者が音に取り囲まれた自然な音場感をサラウンドと言う。メ ディアを通じて再現されるサラウンドはサラウンドサウンドと言 う。現在のサラウンドサウンドを大別するとマトリクスサラウンド とディスクリートサラウンドがあり、それぞれに複数のフォーマッ トが存在している。 サラウンドチャンネル サラウンドサウンドの後方チャンネルのこと。5.1ch では LS, RS チャンネルを指す。 スクリーンバックスピーカ スクリーンの後方に設置されているスピーカのこと。映画館のよ うに大型スクリーンではフロントチャンネル全体が該当するが、小 型スクリーンの場合はセンターチャンネルのみの場合もある。 ダイレクトサラウンド サラウンドチャンネルスピーカの設置方法のひとつで、各チャン ネルに1 本のスピーカを用い、音響軸をリスニングポイントに向け て配置する。スピーカはダイレクトラジエータ型を使用する。音像 定位は明確になるがリスニングポイントは狭い。ITU-R BS.775-2 はこの方式である。 ダウンミックス 3 チャンネル以上の音響信号を 2(又は 1)チャンネルに再構成す ることを言うが、一般には5.1ch サラウンドサウンドを 2 チャンネ ル(ステレオ)に変換する場合に使用している。 ARIB STD B-21 ではステレオ用にダウンミックスした 2 つのチ ャンネルをLt/Rt と呼ぶが、Dolby Lab が古くから使用しているマ トリクスサラウンド用のLt/Rt とは意味が異なる。ドルビーではス テレオ2ch 用のダウンミックスは Lo/Ro と呼び区別している。マト リクスサラウンド用ダウンミックスではLS, RS の位相制御が行わ れるので、ステレオ用と全く同じではない。

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ダビング 映画の製作現場で使用している。ミキシングと同義語であるが、 ダビングステージで行うファイナルミックスのことを言う。 ディスクリートサラウンド (ディスクリート方式) 信号をそれぞれ独立したチャンネルとして記録する方式で、劇場 映画、DVD Video、地上波デジタル放送などの 5.1ch サラウンドは この方式である。5.1ch サラウンドは独立した 6 つのチャンネルか ら構成され、帯域制限のない5 つのチャンネルと、LFE と呼ばれる 帯域制限(20Hz~120Hz 又は 20Hz~80Hz)のある1つのチャン ネルを持つ。帯域制限されたLFE チャンネルを「.1」と呼ぶことか ら6ch とは言わず「5.1ch」と呼んでいる。 現在のディスクリートサラウンドはデジタル放送など多くのメ ディアで音声圧縮技術を用いて帯域圧縮を行っているが、その方式 により各種のフォーマットが存在する。5.1ch には Dolby Digital, DTS, MPEG-2 BC, MPEG-2 AAC などがあり、6.1ch には Dolby Digital Surround EX, DTS-ES が、7.1ch には SDDS がある。

ディフューズサラウンド サラウンドチャンネルスピーカの設置方法のひとつで、各チャン ネルを複数本のスピーカで構成するのが一般的である。音響拡散構 造(di-pole や tri-pole 型)のスピーカを使用する方式と、映画館の ようにダイレクトラジエータ型のスピーカを複数本使用して音響 拡散を行う方式がある。音響を拡散させるため明確な音像定位は得 にくいが、比較的広いリスニングポイント(サラウンドエリア)が 得られる。また、サラウンドのパンニング処理ではダイレクト方式 より音のつながりが良いと言われている。ダイレクトラジエータ型 スピーカを複数本使用しITU-R BS.775-2 方式で配置すると、ファ ントム音像によるダイレクトサラウンドが構築され、本来のディフ ューズ効果が得られない場合もある。 バンドレベル 1/1 又は 1/3 オクターブのバンドパスフィルタを通して測定した レベルのこと。 ピンクノイズ 調整に使用する広帯域ノイズ信号。オクターブバンド毎のエネル ギーが同一になるように作られている。 フロントチャンネル (スクリーンチャンネル) サラウンドサウンドの前方チャンネルのこと。5.1ch では L/C/R チャンネルを指す。映画業界ではスクリーンチャンネルとも言う。 ベースマネージメント 音響再生システムの低域周波数を管理する方法。この考え方に基 づいた製品がベースマネージメントシステムでサブウーファと共 に使用する。小型スピーカシステムに使用した場合、低域周波数の

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再生帯域を改善することができる。LFE チャンネルに対し+10dB のゲインアップを行うが、メインチャンネルの低域成分に対しては 行わない。ベースマネージメントを使用すると、メインチャンネル の低域成分と LFE チャンネルを、ひとつの低域再生チャンネルと して再構築することができ、低域のコントロールが容易になると言 われている。 マトリクスサラウンド (マトリクス方式) 3 チャンネル以上の信号を 2 チャンネルの信号にエンコードして 記録する方式のことを言う。エンコードした信号は通常のステレオ 信号として再生可能である。この信号をデコードすることで元の信 号が得られる。劇場映画で使用しているDolby Stereo は 4 チャン ネル(L, C, R, S)の信号を 2 チャンネルにエンコードし、フィル ムに記録する方式である。これをシネマプロセッサでデコードし 4 チャンネルの信号として復元している。民生用では同様の方式とし てDolby ProLogic がある。また 5ch 以上に対応し、デコーダのみ で機能(エンコード処理不要)するProLogicⅡや ProLogicⅡx も開 発されているが、この方式で「.1」表記するサブウーファ信号は、 メインチャンネルの低域成分をローパスフィルタで分離したもの で、ディスクリートサラウンドのLFE とは意味が異なる。 メインチャンネル フロントチャンネルとサラウンドチャンネルを合わせてメイン チャンネルという。LFE チャンネルは含めない。 音圧レベル(Sound Pressure Level:SPL) 音圧計又は騒音計のフィルタ特性をFLAT(特性フィルタなし) に設定した時の測定レベルで物理量のひとつである。また、音圧レ ベル(SPL)と C 特性騒音レベルは測定特性が異なるので混同しな いよう注意する。 音響軸(スピーカの) スピーカ装置が出力する音響信号の中心となる位置。一般にドラ イバユニットが1 本の場合はそのユニットの中心位置が音響軸とな るが、複数本のドライバユニットで構成されたスピーカ装置では “装置”としての音響軸を求める必要がある。これらはメーカの資 料で確認できる。 音響特性(室内の) 室内の周波数特性、残響時間、暗騒音などの特性をまとめて音響 特性と言う。サラウンド用のスタジオはスピーカの本数が多いた め、適切な音響処理を行わなければ周波数特性に乱れが生じやす い。 基準信号 機器やシステムを調整する時に基準として用いる信号のこと。

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1kHz 正弦波は代表的な基準信号のひとつである。 基準レベル 機器やシステムを調整する時に基準となるレベルのこと。アナロ グ機器では一般に 0VU を基準レベルとしているが、絶対値として はプロ用の+4dBu、民生・業務用の-10dBV などが代表的なもので ある。デジタル機器では-20dBFS、-18dBFS がプロ用として多 く使用されており、民生用では DAT の-12dBFS がある。CD、 MD には基準レベルが規定されていない。DVD-Video の Dolby Digital では-20dBFS が基準レベルとなっている。 時間軸補正(スピーカの) スピーカからリスニングポイントまでの音響信号の到達時間を 制御すること。ディレイ機器やサウンドプロセッサを使用する。デ ィスクリートサラウンドの場合、リスニングポイントと各スピーカ の距離は等しくなるように配置するのが原則であるが、必ずしもこ れを満足できない場合もある。このような場合は、音響信号に遅延 を加え全チャンネルの音響信号が同時に到達するよう制御する。到 達時間が異なると定位感(ハース効果)や複数スピーカからの同相 信号に乱れ(コムフィルタリング現象)を生じやすくなる。 マトリクスサラウンドの場合は、ハース効果を得るためにフロン トチャンネルに対しサラウンドチャンネルの音響信号を15ms 前後 (10ms~20ms)遅延させている。 騒音計(サウンドレベルメー タ) 騒音レベルと音圧レベルを測定するための測定器で、計量法で特 定計測機器として指定されている。JIS 規格の改訂により現在は「サ ウンドレベルメータ」が正式名称となっている。ここでは現在一般 に使用されている旧「騒音計」について述べる。騒音計は普通騒音 計と精密騒音計に分類され、それぞれ規格が定められている。普通 騒音計の測定範囲は 20Hz~8kHz、精密騒音計は 20Hz~12.5kHz となっており、A 特性、C 特性、FLAT 特性のフィルタを内蔵して いる。再生レベルの測定を行う場合は、C 特性フィルタと動特性= SLOW を選択する。また、全入力信号の積分値を指示することから、 LFE チャンネルのような帯域制限のある信号の測定では値が小さ くなる。同じ理由で同一レベルのピンクノイズを測定しても、大型 スピーカと小型スピーカでは測定値が異なる場合がある。騒音計の 校正はJIS で規定された音響校正器を使用する。 騒音レベル(A-weighted Sound Pressure Level)

騒音計で測定した値のことで感覚量のひとつである。JIS、IEC

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使用した測定値のことを示す。C 特性フィルタを使用した測定値は 「C 特性騒音レベル」と言う。 低 域 効 果 (Low Frequency Effects:LFE)チャンネル ディスクリートサラウンドで使用されている帯域制限された低 域効果専用チャンネルのことで、LFE チャンネルと呼ばれる。帯域

が狭いため「.1」ch と呼ばれている。ITU-R BS.775 や Dolby Digital

は20Hz~120Hz、DTS は 20Hz~80Hz の帯域を持つ。初期の頃は フォーマットによる再生レベルの違いもあったが、現在は多くのフ ォーマットでメインチャンネルに対し10dB 大きく再生することで 統一されている。放送用途ではITU-R BS.775-2 で+10dB の再生レ ベルが推奨されている。ディスクリートサラウンドの開発当初、低 域効果用チャンネルの呼び方は定まっておらず、Subwoofer チャン

ネルやLow Frequency Enhancement(低域増強)チャンネル、Low

Frequency Extension チャンネル、Boom チャンネルなどと呼ばれ ていた。しかし、1990 年代後半からフォーマットメーカによる呼

称統一が始まり、現在はLow Frequency Effects(LFE)で定着し

ている。制作現場では現在でも慣例として「サブウーファチャンネ ル」と呼ぶことがある。

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第2章 再生環境

2.1 スピーカ配置 サラウンド側スピーカの設置方法の違いにより、ダイレクトサラウンド方式とディフューズサラ ウンド方式の二つがある。5.1ch サラウンド番組を制作する際のモニタースピーカ配置は、ダイレ クトサラウンド方式であるITU-R BS.775-2 に準拠する。 2.1.1 ダイレクトサラウンド方式 国際電気通信連合(ITU)の勧告 ITU-R BS.775-2 は、放送局や音楽制作現場などにおける再生 環境の標準として広く普及しているダイレクトサラウンド方式の配置である。再生用のスピーカは、

フロント3 チャンネル(Left、Center、Right)とサラウンド 2 チャンネル(Left Surround、Right

Surround)、及び低域効果チャンネル(Low Frequency Effects)から構成される。ITU-R BS.775-2

におけるスピーカ配置を図2-1 に示す。 図 2-1 ITU-R BS.775-2 におけるスピーカ配置 L, R のスピーカは開き角が 60 度で、従来の 2 チャンネルステレオにおけるモニター環境と互換 性がある。5 台のスピーカは同一円周上に配置し、LS, RS のスピーカは、センタースピーカに対し 左右に110 度±10 度の位置に設置する。 以下にITU-R BS.775-2 のスピーカ配置における留意点を示す。

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・ 5 台のスピーカの特性を揃える(可能であれば同じスピーカを使用)。 ・ スピーカ設置高は音響軸が 1.2m(耳の高さ)となるようにし、スピーカの傾斜は 0 度に する。 ・ 各スピーカの音響軸はリスニングポイントに合わせる(ダイレクトサラウンド方式)。 ・ モニター距離はリスニングポイントから2~3m とする(ITU-R BS.1116-1 のマルチチャ ンネル再生環境における推奨値)。 実際の設置ではITU-R BS.775-2 のスピーカ配置が困難な場合も多い。その場合は以下の方 法で対処する。 ・ 円周上でのスピーカ設置が困難な場合は、円周の内側に設置されるスピーカにディレイを 入れて時間軸を補正する。 ・ フロントスピーカの直接音がミキシングコンソールやメータブリッジでさえぎられる場合 は、これらの配置を工夫し、場合によってはスピーカ設置位置も検討する。フロントスピ ーカの設置高さ(音響軸)は1.2m となっているが、現実にはこれを守るのが困難な場合 も多い。このような場合は、スピーカの音響軸がミキシングコンソールやメータブリッジ などでさえぎられない高さに設置し、傾斜角をつけるのが現実的である。 ・ サラウンドスピーカの傾斜を0 度にすることが困難な場合は、設置位置を高くすることに なるが、その場合はリスニングポイントから見た仰角を15 度以内に収めること。 図2-2 サラウンドスピーカの配置例 (2) サブウーファの設置について ITU-R BS.775-2 では LFE はオプションとされており、サブウーファの設置位置までは記され ていない。サブウーファの設置方法については、 (a) 中央に設置し正面を向けると側面からの定在波により出力が相殺されやすい (b) コーナーに設置すると定在波により周波数特性が乱れやすい (c) 2 台のサブウーファを設置したほうが良い

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討することが重要である。また、以下の点にも注意する。 ・ LFE にて 120Hz 付近までの再生を行う場合は、サブウーファの位置が認識されることが あるため、設置位置に注意すること。 ・ メインチャンネルスピーカと位相を合わせること。特に後述するベースマネージメントを 使用する場合はクロスオーバー周波数近辺の位相に注意する(解説1 参照)。 (3) 映像装置の配置について ・ スクリーンを用いる場合は音響透過特性の優れたものを使用して、スクリーンバックスピ ーカの特性が変化しないように注意する。 ・ スクリーンを用いない場合は、映像再生装置の直上又は、直下にセンタースピーカを配置 し、スピーカ設置高や音響軸のばらつきが少なくなるようにする。 ・ 映像幅と音像幅のずれをなくすため、映像再生装置の大きさを考慮する。 図2-3 スクリーンを使用しない場合のフロントスピーカの配置例 (SP 内の X 印は音響軸を示す) 2.1.2 ディフューズサラウンド方式 MA ルームによってはクライアント席、ディレクタ席が設けられており、これらに対しても適切 な再生音場を提供しなければならない場合がある。一般的にこのような場合は、ダイレクトサラウ ンド方式よりもディフューズサラウンド方式が適している。この方式は、サラウンド成分を拡散さ せることで広いサラウンド音場(リスニングポイント)を得ることができるが、その分明確な定位 感は少なくなる。また、ダイレクトサラウンドよりもパンニング処理における音のつながりが良い と言われている。広範囲なリスニングポイントを必要とする映画館はこの方式の代表例であり、劇 場映画の制作スタジオ(ダビングステージと言う)もこの方式である。ディフューズサラウンド方 式の例を図2-4 及び解説 3 の図 3-1 に示す。

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図 2-4 ディフューズサラウンド方式の例 2.2 再生レベル サラウンド番組制作時のモニター再生レベルは、メインチャンネル(L, R, C, LS, RS)は同一レ ベル、LFE チャンネルは「メインチャンネルのバンドレベル+10dB」に設定する。 2.2.1 メインチャンネルの推奨再生レベル メインチャンネルの各々の再生レベルは79dBC を推奨値とする(注)。このレベルのモニターボリ ューム位置をマーキングするなどして、容易に再現できるように工夫することが望ましい。また、 絶対レベルの校正よりも各スピーカの再生音量差を小さくする事が重要で、±0.5dB 以内となるよ うに調整する事を推奨する。再生レベルの調整にはピンクノイズを使用する(再生レベルの調整方 法については、解説2 を参照)。 (注)この値はARIB スタジオ音声作業班が、放送関係音声技術者を対象に実施したミキシング作 業時の再生レベル調査の平均値である。 全米録音芸術科学院(NARAS)発行の「サラウンド音声制作ガイド」では、メインチャ ンネルのリファレンスリスニングレベルとして79~85dBC を推奨している。同時に小音量 (40dBC)から大音量(92dBC 以下)までの、異なるレベルでのバランス確認も大切であ るとしている。 EBU のマルチチャンネルサウンドに関する規格「Tech3276-s1 2004」では、78dBSPL を メインチャンネルの推奨レベルとしている。 劇場映画のリファレンスレベルは「SMPTE RP 200」で 85dBC となっている。また、ス クリーンチャンネルは±0.5dB 以内であるべきとしている。劇場映画のダビングは 85dBC の環境で行うことが基本となっている。

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2.2.2 LFE(Low Frequency Effects)チャンネルの再生レベル LFE チャンネルの再生レベルはメインチャンネルのバンドレベルに対し 10dB 高く設定する(再 生レベル調整方法については解説 2 を参照のこと)。周波数帯域は劇場映画や DVD-Video と同じ 20Hz~120Hz とする。 LFE チャンネル(モニター系、録音系とも)にはカットオフ周波数 120Hz、減衰特性 24dB/oct のローパスフィルタを使用することを原則とする。特にローパスフィルタを内蔵しないサブウーフ ァを使用する場合は必須となる。減衰特性を 24dB/oct にできない場合はカットオフ周波数を下げ る事で代替も可能であるが、推奨設定と異なることに十分配慮した運用が必要である(例えば 18dB/oct の場合はカットオフ周波数を 80Hz にする、などである)。 2.3 ベースマネージメント ベースマネージメント(専用機器又は回路)を用いることで、メインチャンネルの低域成分(通 常80Hz 以下)と LFE チャンネルを同時にサブウーファから再生することが可能となる(図 2-5)。 ベースマネージメントの目的は、 (1) メインチャンネルの低域再生特性を改善する(特に小型スピーカで有効) (2) メインチャンネルの低域再生特性を揃える (3) 室内音響の低域特性(定在波の発生)を改善する などであり、多くのコンシューマ機器が(1)を目的としてその機能を実装している。スタジオ再生 におけるベースマネージメントの採用は、機器の特性や環境によって判断されるべきだが、第6 章 に示すようにベースマネージメントによる検聴を行えるような環境整備が望ましい。 ベースマネージメントの詳細については解説1 を参照のこと。 図 2-5 ベースマネージメントの概要 HPF HPF HPF LPF HPF HPF L R C SW LS RS + ++ + + +10dB L R C LFE LS RS

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第3章 録音

3.1 録音時の処理 録音時に使用する磁気テープメディアやディスクメディア等の各トラックの冒頭に基準信号を入 れるものとする。また、放送局やプロダクションにおいて様々なメディアフォーマットが使用され ている現状では正確な情報を記入したデータシートを添付するよう配慮する。 3.2 基準信号と基準レベル 各トラックの冒頭に、レベル調整用基準信号を録音する(録音パターンについては第5 章を参照)。 基準レベルはシステムにより異なるので注意する。

・ メインチャンネル基準信号 :1kHz の sine wave。デジタルの場合 48kHz/16bit

又は24bit の量子化信号。

・ LFE チャンネル基準信号 :50Hz の sine wave。デジタルの場合 48kHz/16bit

又は24bit の量子化信号。 ・ 基準レベル(L, R, C, LS, RS, LFE) :デジタル機器では-20dBFS あるいは-18dBFS アナログ機器では 0VU 完成番組の冒頭には、すべてのトラックに30 秒~45 秒以上の基準信号を録音し、プログラ ム開始前3 秒間は無音とする。また以下のような情報を明記したデータシートを添付すること が望ましい。 ・ 制作年月日 ・ 制作スタジオ ・ ミキシングエンジニア ・ サンプリング周波数 ・ 量子化ビット数 ・ タイムコードフォーマット ・ サラウンドレベル(フロントと同じ、フロント-3dB など) ・ LFE チャンネル LPF(フィルタの有無、LPF の特性) ・ トラックアサイン(トラック7,8 の録音内容明記) ・ 録音メディアフォーマット 3.3 トラックアサイン 5.1ch サラウンドサウンドを録音する際、一般的には 8 トラックを使用することが多い。各トラ ックに録音するチャンネル(トラックアサイン)はITU-R BR.1384 に準拠する。推奨するトラッ クアサインを表3-1 に記す。

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表 3-1 推奨トラックアサイン トラック チャンネル 備 考 1 L 2 R 3 C 4 LFE 120Hz(24dB/oct)の LPF を通して録音することを推奨。 5 LS 6 RS 7 ユーザ定義 ステレオミックスの Lch あるいはダウンミックスの Lt を推奨。 8 ユーザ定義 ステレオミックスの Rch あるいはダウンミックスの Rt を推奨。 (1) 留意点 ・ LFE 信号を録音するトラックは再生時の信号確認を容易にするため、120Hz、24dB/oct のLPF を通して録音する(第 6 章 6.5 項も参照のこと)。 ・ 再生環境やステレオメディアへのダビングを考慮すると、トラック7, 8 にはステレオミッ クスのL, R あるいはダウンミックスの Lt, Rt を割り当てることを推奨する。 ・ 録音環境によっては、トラック 4 の LFE 信号に推奨のフィルタリングを行うことが難し い場合がある。また、トラック7, 8 はユーザ定義の為、その都度目的によって異なる信号 が録音される。したがって番組交換などでの混乱を避けるため、3.2 項で述べたようなデ ータシートの添付を推奨する。この中には、LFE フィルタリングの有無、LPF パラメー タ、トラック7, 8 の録音内容を明記する。 (2) トラック 7, 8 の使用例 ・ CM の場合は必ずステレオ信号を録音する。(民放連・サイマル放送時のテレビ CM 素材 搬入基準) ・ スポーツなどではトラック1~6 に 5.1ch 本線、トラック 7, 8 に 5.1ch のアイソレーション を収録するため、マトリクスエンコードされたサラウンド信号やマルチプレックスされた デジタル信号を録音することがある。

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第4章 標準サラウンドテスト音源

4.1 サラウンドテスト音源の構成

下図パターンのように「収録時のレベル調整用信号」と「モニター調整用信号」から構成する。

1k = OSC (1kHz,48kHz/16bit or 24bit) 50 = OSC (50Hz,48kHz/16bit or 24bit)

P = Pink Noise (Full Range,48kHz/16bit or 24bit)

図 4-1 テスト信号パターン 4.2 収録時のレベル調整用基準信号 本ガイドライン3.2 項に規定されている基準信号がトラックごとに記録されており、各トラック の収録レベルの調整、及び位相のチェックを行う。 4.3 モニター調整用信号 同相の広帯域ピンクノイズ(-21dBFSrms 若しくは-23dBFSrms)を各トラックに記録する(モ ニター環境の具体的な調整方法は解説2 を参照)。 (注)デジタル信号の実効値を示す単位として dBFSrms を用いる。0dBFSrms はピークレベル 0dBFS の 1kHz 方形波の実効値とする。デジタル信号のレベルを表す dBFS 単位は、ピンク ノイズのようにピークレベルが一定しない信号で使用するのは適当ではない。正弦波のピー クレベルと実効値の関係は「ピークレベル(dBFS)-3.01(dB)=実効値レベル(dBFSrms)」と なるので、基準レベル-18dBFS 及び-20dBFS の正弦波は、それぞれ-21.01dBFSrms 及 び-23.01dBFSrms となる。ピンクノイズもこれらと同じ実効値の信号を使用する。 4.4 位相チェック用信号 同相の広帯域ピンクノイズ(-21dBFSrms 若しくは-23dBFSrms)を各トラックに記録する。 TR 4 3 2 1 5 6 CH LFE C R L RS LS 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 1k 50 50 50 50 50 50 50 50 50 P P P P P P P P P P P P P P P P P P P P P P P P 1:00:00 1:00:30 1:01:00 1:01:30 1:02:00 1:02:30 1:03:00 1:03:30 1:04:00 1:04:30 1:05:00 時間

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第5章 ダウンミックス

5.1 デジタル放送のダウンミックス デジタル放送では、受信機が 5.1ch サラウンド音声をステレオ 2ch にダウンミックスしており、 放送局ではメタデータにダウンミックス情報を設定して送出している。サイマル放送中の現在は、 アナログTV 放送用のステレオミックスも同時に制作する必要があり、これをダウンミックスによ り行うことが多い。ここでは「ARIB STD B-21 デジタル放送用受信装置標準規格」を基に説明す る。 5.2 5.1ch サラウンドからステレオ 2ch へのダウンミックスアルゴリズム 日本のデジタル放送では、受信機が行う5.1ch サラウンドからステレオ 2ch へのダウンミックス アルゴリズムは、下記の式で表される。ダウンミックスされたステレオ 2ch のチャンネル名称は Lt/Rt(L total /R total)と呼ぶ。 Lt = a*(L+(1/√2)*C+kLS) Rt = a*(R+(1/√2)*C+kRS) k = 1/√2 , 1/2 , 1/2√2 , 0 a の値は、5.1ch サラウンドからダウンミックスされた Lt, Rt のビットオーバフローを防ぐため に挿入される係数で、ARIB STD B-21 では a=1/√2 となっている(詳細は同規格を参照)。上の 式からわかるように、係数a の影響でダウンミックスされた音声は 3dB 低くなる。 また、外部擬似サラウンドプロセッサ用のダウンミックス計算式として以下の処理がオプション として用意されている。 Lt = a* (L+(1/√2)*C-k(LS+RS)) Rt = a* (R+(1/√2)*C+k(LS+RS)) k = 1/√2 , 1/2 , 1/2√2 , 0 5.3 ダウンミックス係数 k について ダウンミックス計算式における係数k は、受信機に対するメタデータとして送出することができ る。メタデータを設定せずに送出した場合、受信機では、k の値を 1/√2 としダウンミックスを行

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注)平成15 年以前に発売の受信機には固定の k 値にてダウンミックス処理を行う受信機もある。 5.4 ダウンミックス音声のモニター 5.1ch サラウンド番組の場合、アナログ放送用のステレオ音声はダウンミックスにより制作する ことが多い。ここでは、ステレオ仕様のコンソールにおいてダウンミックスを行う場合の一例を挙 げる。 (1) a=1/√2、k=1/√2 の場合 図5-1 のようなコンソール設定にする。 図5-1 a=1/√2、k=1/√2 の場合のコンソール設定 (2) a=1/√2、k=1/2、1/2√2、0 の場合 図5-1 のコンソール設定において、各チャンネルのレベルを表 5-1 のように設定する。 表5-1 a=1/√2、k=1/√2 の場合のコンソール設定 チャンネル L R C LFE LS RS k=1/2 -3dB -3dB -6dB -∞ -9dB -9dB k=1/2√2 -3dB -3dB -6dB -∞ -12dB -12dB k=0 -3dB -3dB -6dB -∞ -∞ -∞ 5.5 ダウンミックス音声のレベルバランス 5.5.1 ダウンミックス式の問題点 視聴者の再生環境はモノ・ステレオ・5.1ch サラウンドサウンド(以下、サラウンド)など様々 である。デジタル放送の規格では、サラウンドで制作された番組は、再生がサラウンド環境でない 場合、受信機側でダウンミックス式に基づいてステレオあるいはモノ音声となって再生される。し かし、現行のダウンミックス方式では、サラウンド再生環境とダウンミックス再生環境で比較する

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と、原理的にダウンミックス再生環境のほうが音量は低くなる。(フロントチャンネルの音声ではそ の差が3dB になる) このため、サラウンド番組を制作する際に通常の 0VU を目標にしたミキシングを行うと、ダウ ンミックス再生環境においては、ステレオ番組に比べ全体の再生音量が低下するため、サラウンド 番組のコメント等フロント音声が小さくなったように聞こえる。これを避けるために、ダウンミッ クス再生環境で音量差を感じさせないようなミックスを行った場合、逆にサラウンド再生環境では、 他のステレオ番組よりサラウンド番組の音量が大きくなってしまう。 現行のダウンミックス方式においては、この両者を同時に満足させるミックスは原理的に困難で ある。これによって発生するダウンミックス再生環境での音量低下については、今後、放送側、受 信機側によって改善されることを期待する。 なお、実際の制作現場では、サラウンド環境、ダウンミックス環境どちらでも、レベル差をでき る限り小さく感じさせるための種々の試みが行われている。参考資料1 として、これらの事例を番 組のジャンル別にまとめた。 5.5.2 サラウンド番組制作時のレベルバランスについての注意点 レベルバランスの取り方は、チャンネルあたりのモニターレベルを規定に合わせ設定し(他のモ ード、例えばステレオと同等にして)、結果的に各チャンネルの音量レベルが0VU を目安にミック スできる環境を基本とする。これにより、サラウンド再生環境では、他のステレオ番組(L, R の各 チャンネルが0VU を目安にミックスされている)と音量の整合性が取れることになる。 現行のダウンミックス方式は、このレベル取りを前提とした上でピークレベルのオーバーが起こ りにくいよう全体を3dB 下げていることに注意したい。(ARIB STD-B21 では、この 3dB の低下 は許容できる範囲とされている。また、3dB 下げてもピークオーバーの可能性がゼロになるわけで はない。) これにより、ミックスをした場合、ダウンミックス音声を聞く環境(ステレオ再生、モノ再生) では他の音声モードの素材(ステレオCM 等)との切り替わりで、音量が小さく感じられることが あるので、そのつながりに十分注意する必要がある。 5.5.3 サラウンド番組制作時の基本事項 (1) モニター環境の構築とダウンミックス音声の確認 まず、2 章に書かれたようにスピーカを配置し、サラウンド環境におけるモニターレベルを決定 する。ミキシングエンジニアは自らの基準となる参照モニターレベルと参照素材(通常トークなど) を用いて他のプログラムとのコンパチビリティーに留意したミキシングを行う。すなわち、サラウ ンドモニター環境において他のプログラムとのコンパチビリティーに留意したレベルバランスを取 ることが重要である。

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り替え可能なモニターシステムを構築する。 ダウンミックス音声においてコメントなどが聞き取りにくくなっていないか、逆にサラウンドで コメントが突出しすぎていないか、ダウンミックスでバランスが破綻していないか、位相関係で音 がやせていないかなどを確認しながらミキシングを行う。 また、特に生放送の場合、本編のダウンミックス音声とCM などステレオモード音声のパートの 音声が音量的に違和感なくつながることを併せて確認する。 現行受信機でのダウンミックスにおいては全体係数a により音量が約 3dB 低くなることを十分認 識しておく必要がある。 (2) メータによる監視 サラウンドプログラムのメータリングは、ステレオと同様のVU メータやピークメータを各チャ ンネルの再生音量・ピーク管理に使用し、目視確認できるようにする。 また、ダウンミックスの管理を行うため、ダウンミックス音声をVU メータ、ピークメータ等に よって監視できるシステムを構築する。 また、ダウンミックス音声、サラウンド音声共に、オーバーフローには十分注意し、必要に応じ、 コンプレッサ等でサラウンド音声側のピーク管理を行う。 なお、サラウンド音声がVU メータ上適正範囲でミックスされていれば、ダウンミックス音声の VU メータの振れは小さめになることが予想されるため、ダウンミックスの VU メータ表示につら れてサラウンド音声全体のレベルが上がりすぎないように注意する必要がある。 (3) LFE チャンネルの確認 LFE チャンネルはダウンミックス音声に加算されないため、重要な音声情報は LFE チャンネル のみに入れるべきではない。あくまで味付け程度にとどめるべきであり、サラウンド音声とダウン ミックス音声で低域の印象が大きく違っている場合、サラウンドとダウンミックスの印象が異なる 場合、LFE レベルを確認したり、LFE チャンネルをミュートしてサラウンド音声をモニターした りしてダウンミックスとのバランスを調整する必要がある。 (4) ステレオ素材の利用 5.1ch サラウンド制作の番組中に、ステレオ素材の VTR や音楽などを出す場合について、ステレ オ素材を5.1ch サラウンドの Lch, Rch から出す場合と、ステレオ素材を擬似的に 5.1ch サラウンド 素材に変換して出す場合がある。 ・ ステレオ素材をサラウンドLch, Rch から出す場合は、VTR 機器などとのレベルセット時に 再生基準レベルをサラウンド音声Lch, Rch の VU メータで 0VU となるようにセットする。 ・ ステレオ素材を擬似的に5.1ch サラウンド素材に変換して出す場合は、変換後のプログラム

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ル、定位や位相など含め、問題がないかを確認する。特に音楽の場合は、この変換によって アーティストがもつ曲イメージをくずしてしまう恐れがあるので、事前に十分確認しなけれ ばならない。

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第6章 サラウンド番組制作時の注意点

6.1 ベースマネージメントを使用した検聴 制作時にはベースマネージメントによる検聴も併用する事が望ましい。各スピーカから再生され た低域成分が空間合成される場合と、ベースマネージメントによって電気的に合成されサブウーフ ァから再生される場合とでは、再生音場に違いを生じることがある。多くのコンシューマ機器がベ ースマネージメント機能を採用していることを考慮すると、これを使用した検聴でその違いをチェ ックすることが重要と考えられる。 6.2 ダウンミックス再生を考慮したミキシング 現時点では視聴者側の再生環境のほとんどがステレオ再生であることから、制作時にはダウンミ ックス再生における音声バランスを考慮したミキシングが求められる。詳細については第5 章を参 照のこと。 6.3 部屋の大きさによる留意点 中継車のような比較的小さな室内では、LS, RS の再生レベルを 2dB ないし 3dB 下げることでモ ニターバランスが良好となることがある。個々の条件により設定値は異なるので、普段使用する環 境でのモニター条件をチェックしておくとよい。平均サイズの部屋でミキシングした素材を中継車 など小さな室内環境に持ち込んでバランスチェックを行い、差があれば修正すると良い。 6.4 LFE チャンネルの扱い LFE チャンネルはミキシングエンジニアによって意図的に作られるが、ダウンミックスではミッ クスの対象にはならない。したがって、再生されないと演出意図が伝わらない音声素材や、著しく 表現が変化してしまう音声素材はLFE チャンネルにアサインすべきではない。 6.5 LFE チャンネルの周波数帯域 LFE チャンネルの周波数帯域は本ガイドラインでは 20Hz~120Hz としているが、制作において は二次利用、三次利用を考慮する必要がある。LFE チャンネルの周波数帯域は「ここまでの周波数 を使うことが可能である」と言う意味であって「この帯域をフルに使わなければならない」というこ とではない。例えば、映画やDVD で使用されている Dolby Digital は 20Hz~120Hz、DTS は 20Hz ~80Hz となっているが、米国映画の場合、1 本のプリントに複数のディスクリートサラウンドフォ ーマットを記録することが多く、LFE チャンネルで使用する周波数帯域を 20Hz~80Hz に統一す る場合もある。こうすることで、サラウンドフォーマットごとに LFE チャンネルを制作する必要 がなくなる。また、1 種類の LPF(通常 80Hz 前後)しか実装していない低価格民生機器でも制作

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6.6 ダイバージェンス機能について ダイバージェンスとは、トータル音量を変えずに複数のチャンネルから音を出すように制御する ことである。例えばパンポットをセンター位置にして、ダイバージェンスを 100%から徐々に小さ くして行くと、L, R チャンネルのレベルが大きくなるにしたがって C チャンネルのレベルが減少す る。劇場のように観客席が広い場合、左右両端の客席ではセンターチャンネルのダイアログが聞き 取りにくいことがある。ダイアログがよく聞き取れない映画は致命的な欠陥となるので、本来セン ターチャンネルのみのダイアログを左右のスピーカから少し洩らすことで聞き取りを容易にするこ とがある。この場合、ダイバージェンスを利用すると音声バランスを変えずに左右のチャンネルへ 音を分配できる。但しC チャンネルにダイバージェンスを使用すると、ダウンミックスによって音 量が大きくなるので、ダウンミックスステレオのバランス上注意が必要である。

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解説 1 ベースマネージメント

ベースマネージメントは、その名が示すようにモニターシステムの低域制御を目的としている。 メインチャンネルの低域成分と LFE チャンネルを、サブウーファを使用して再生することで低域 音響特性(再生帯域、定在波、低域位相特性など)の改善を可能としている。一般にベースマネー ジメントを行うには、専用機器やサブウーファに組み込まれている回路を使用する。 ベースマネージメントは、メインスピーカに十分な再生能力があれば使用する必要性は少ないが、 室内の低域音響特性改善のために採用する場合もある。また、比較的小さなスピーカシステムに使 用した場合は低域の再生帯域を改善することができる。 1.1 ベースマネージメント機器の構成例 図 1-1 にベースマネージメントの構成例を示す。ベースマネージメント機器に入力されたメイ ンチャンネル信号(L, R, C, LS, RS)は、メインスピーカ用とサブウーファ用に分岐される。メイ ンスピーカ用信号はハイパスフィルタ(通常80Hz 前後)で処理された後、新たなメインチャンネ ル信号として出力される。サブウーファ用信号はメインチャンネル用加算アンプに加えられ、ロー パスフィルタ(通常80Hz 前後)で処理された後、LFE チャンネル信号と加算されサブウーファ用 信号として出力される。専用機器ではフィルタ周波数(クロスオーバー周波数)を何種類か切り替 えて使用できるものがある。 図 1-1 ベースマネージメントコントローラの構成 コンシューマ製品ではフィルタを簡素化するためLFE チャンネルについても 80Hz カットオフと

している場合がある。LFE チャンネルの AMP ゲインは+10dB(DVD-Video、劇場映画、デジタル

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で再生する。 1.2 クロスオーバーフィルタと位相 ベースマネージメントのクロスオーバーフィルタ減衰特性は一般に24dB/oct が使用されている。 ただし、スピーカによってフィルタ特性を使い分ける場合もある。その場合、低域再生能力が80Hz 程度の小型スピーカでは12dB/oct を用い、重低域まで再生できる大型スピーカの場合は 24dB/oct とするのが一般的である。 適切なベースマネージメントを行う為にはサブウーファの設置位置を含め、メインスピーカとサ ブウーファのクロスオーバー周波数付近の位相合わせが大切である。位相が合っていないとディッ プを生じることになる。 図 1-2 にベースマネージメントによる総合周波数特性の例を示す。この例ではクロスオーバー 周波数付近の位相が合っていないため100Hz 付近にディップを生じている。 図 1-2 ベースマネージメントコントローラによる周波数特性の一例 1.3 ベースマネージメントを使用した検聴 制作時にベースマネージメントを併用して検聴する事が望まれる。制作スタジオのスピーカに十 分な低域再生能力があるとしても、各スピーカから再生された低域成分が空間合成される場合と、 ベースマネージメントによって電気的に合成され一つのスピーカから再生される場合とでは、再生 音場に違いを生じることがある。特に2 つのチャンネルに電気的に同一レベルで逆相の信号があっ た場合、空間合成では音が全く聴こえなくなると言うことは少ないが、電気的な合成ではこのよう

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なことが生じる。ベースマネージメントによる検聴でその違いをチェックし、必要であれば修正す ることが望ましい。多くのコンシューマ機器がベースマネージメント機能を採用していることを考 慮するとこのような検聴は重要と考えられる。

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解説 2 モニタースピーカの再生レベル調整

ここでは一般のスタジオ(フラット特性)における、モニタースピーカの再生レベル調整につい て述べる。サラウンドモニターシステムでは、絶対レベルの調整よりも各スピーカ間の相対レベル の調整がより重要である。バランスの悪いモニターシステムでは適切なサラウンドミキシングは望 めない。また、劇場映画を制作する環境では、これとは異なるレベル調整が必要となる。 2.1 室内の音響特性1 室内の基本的な音響特性は建築設計・施工時に決まるので、その条件下での調整となる。あらか じめその音響特性を理解していると調整もやりやすい。室内の状態によっては、吸音処理やオーデ ィオプロセッサによる補正が必要になる場合もある。可能なら実施するのが望ましい。 2.2 使用する信号 測定用信号には0VU(システムの基準レベル)の広帯域ピンクノイズを使用する。機器の基準レ ベルが-20dBFS の場合は-23dBFSrms、-18dBFS の場合は-21dBFSrms のピンクノイズを使 用する。ピンクノイズはレベルメータによる正確な監視は困難なので、実効値の明記された信号源 を使用する。デジタルファイル化(wav などの非圧縮ファイル)されたピンクノイズは、計算によ り正確な実効値を求めることが可能なので、実効値の明記されたデジタルファイルの使用を推奨す る。 (注)VU メータを使用してピンクノイズのレベル調整を行う場合は次の点に留意する。 ・ VU メータは正弦波に対しては正しいレベル(実効値)を指示する。 ・ 規格に準拠した VU メータでは正弦波と同じ実効値のピンクノイズに対して約 1dB 低い 値を示す。 ・ 規格に準拠したVU メータを使用してピンクノイズを基準レベルに調整する場合は-1VU に合わせる必要がある。 2.3 ピンクノイズによるレベル調整 文献等によっては、-20dBFSrms 又は-18dBFSrms のピンクノイズを使用するように記述して いることがあるが、これらの信号を使用した場合、実効値は基準レベル(0VU)より 3dB 大きくな るのでレベル調整が必要となる。-23dBFSrms 又は-21dBFSrms のピンクノイズを用いた場合は、 基準レベルの実効値が得られるので無調整で使用できる。 信号レベルが明確なピンクノイズを使用している場合は、以下のような方法でレベル調整すると よい。ここでは、機器の基準レベルが-20dBFS、ピンクノイズの信号レベルが-20dBFSrms の場

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合について説明する。 (1) 機器のゲイン設定を基準レベルにして 1kHz/-20dBFS の基準信号を再生する。モニター 出力が0VU(又はピークレベルメータが-20dBFS)になっていることを確認する(異なる 場合は調整する)。 (2) 次に、同信号でモニター出力が-3VU(又は-23dBFS)になるようにレベル調整する(- 3dB のゲインコントロールを行う)。 (3) この状態で-20dBFSrms のピンクノイズを再生すると、モニター出力に基準レベル(0VU) のピンクノイズが得られる(実際の指針は0VU にならないので注意)。このピンクノイズで スピーカ系の再生レベル調整を行う。 (4) 再生レベル調整後は、(1)の状態にもどす。 また、レベル調整を行わず、ピンクノイズのレベルが3dB 大きいことを前提に調整を行っても、 同様の結果を得ることができる。この場合は「必要な再生レベル+3dB」の値に調整する。例えば、 79dBC の再生レベルが必要な場合は 82dBC(79dBC+3dB)に調整するとよい。 2.4 調整前の確認 既設のモニターシステムのレベル調整を行う場合は、測定前に以下の項目について確認する。新 規の場合は音響測定、スピーカチューニング時に適切な設定を行う。 (1) グラフィックイコライザ、オーディオプロセッサなどで周波数特性を補正している場合は、 その設定値は正しいか。 (2) ディレイ、オーディオプロセッサなどで時間軸補正を行っている場合は、その設定値は正し いか。時間軸補正を行っていない場合は、測定マイクロフォンから各メインスピーカまでの 距離が等しいか。 (3) ベースマネージメント機器を使用している場合は、その設定・接続は正しいか。 2.5 バンドレベルと騒音レベル[dBC]の関係2 オクターブバンド分析器(RTA)では一般に図 2-1 のような測定画面が表示される。表示画面 上のオールパス値はマイクロフォンからの入力信号の全帯域を積分した値で、一般に騒音計ではこ の値が表示される。一方オーバーオール値はマイクロフォンからの入力信号をリアルタイムにオク ターブ分析し、そのオクターブバンド値から下式を使って求めた値である。 2) 厳密には、単に「騒音レベル」と言う場合は A 特性フィルタを使用した測定値のことを指す。C 特性フィルタを 使用した測定値[dBC]は「C 特性騒音レベル」と言う。FLAT 特性フィルタを使用した測定値は音圧レベル(SPL) である。騒音レベルはフィルタで聴感補正を行った「感覚量」のことであり、音圧レベルは聴感補正のない「物理

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L1~Ln:オクターブ分析値 この式からオーバーオール値はある測定範囲(例えばL1=31.5Hz~Ln=16kHz)のオクターブバ ンド毎の分析値を合計したものであることがわかる。このため測定条件によってはオールパス値と 同じ値にならない場合がある。 図 2-1 1/3 オクターブバンド RTA 測定画面表示例 モニターレベルの調整ではオールパス値とバンドレベルを用いて調整する。これらの測定値はマ イクロフォン入力信号に挿入するフィルタ(A 特性、C 特性、FLAT 特性)の影響を受け、それぞ れ異なる値を表示するので注意する(オーバーオール値も同様である)。 理想環境(20Hz~20kHz のフルバンド再生が可能)で、広帯域ピンクノイズを測定した場合の バンドレベルとオールパス値の関係は、 (1) C 特性フィルタを挿入した場合 [メインチャンネルバンドレベル]+14dB=メインチャンネルオールパス値[dBC] [LFE バンドレベル]+8dB=LFE オールパス値[dBC](20Hz~120Hz 帯域) (2) FLAT 特性フィルタを挿入した場合 [メインチャンネルバンドレベル]+15dB=メインチャンネルオールパス値[dBSPL] [LFE バンドレベル]+9dB=LFE オールパス値[dBSPL](20Hz~120Hz 帯域)3 となる。 LFE チャンネルの再生レベルはメインチャンネルに対し+10dB 高く調整するが、C 特性フィル

)

10

10

10

(

log

10

1/10 2/10 Ln/10 10

+

+

+

=

L L

・・・・

L

(39)

タを挿入した騒音計で測定した場合の値は、 [メインチャンネル測定値]+4dB=LFE チャンネル測定値 となる。 C 特性フィルタと FLAT 特性フィルタによる 1dB の違いは、入力信号が C 特性フィルタにより 補正されているためである(図2-2 参照)。 図 2-2 C 特性フィルタの影響 以上述べてきたことは理想環境での理論値である。実際の環境では使用するスピーカの再生帯域 幅、室内の音響特性などにより、必ずしも上式が成立するとは限らない。また、現実の測定ではバ ンドレベルそのものが平坦にはならない。 以下に理想環境における具体例を述べておく。 例1:再生モニターレベルを 85dBC に調整する場合 メインチャンネルのバンドレベル設定:85dB-14dB=71dB[バンドレベル] LFE チャンネルのバンドレベル設定:89dB-8dB=81dB[バンドレベル] 例2:再生モニターレベルを 79dBC に調整する場合 メインチャンネルのバンドレベル設定:79dB-14dB=65dB[バンドレベル] LFE チャンネルのバンドレベル設定:83dB-8dB=75dB[バンドレベル] 2.6 調整手順 新規にモニターシステムを導入する場合と、既設のモニターシステムを調整する場合があるが、 ここでは前者の場合について説明する。調整済みモニターシステムの日常の較正を行う場合は、以 前測定したRTA と騒音計データを基にこの手順の(3)以降を実施する。

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ーニングを行が、RTA では測定レンジが荒すぎるので専用の測定器を使用するのが望ましい。 音響特性測定では測定器にフィルタを挿入しない(又はFLAT)で使用する。音響特性分析 の結果、何らかの対策が必要であれば(可能な範囲で)適切な対策を行う。図 2-3 に音響 特性測定例を示す4 図 2-3 室内の音響特性測定例 (2) スピーカのチューニングが終われば再生レベルの調整を行う。測定器は RTA と騒音計を使 用する。RTA は 1/3 オクターブバンド分析の可能なものを、騒音計は C 特性フィルタを内蔵 しているものを使用する(可能であれば精密級が望ましい)。 (3) 最初に RTA を用いて調整し、次に騒音計でその再生レベルを確認する。騒音計はその原理 上、各スピーカを同じバンドレベルに調整してもスピーカの再生帯域幅が異なると測定値が 異なってくる5。したがってRTA による再生レベル調整を行う時は、日常使用する騒音計で も同時に測定を行い、バンドレベルと騒音レベルの値を記録しておくことが重要である。こ の騒音計の値は RTA のバンドレベルと相関が取れているので、日常のレベル較正でリファ レンスとして使用する。 2.7 調整方法 2.7.1 RTA による測定 最初にマイクロフォンの設置位置を決める。マイクロフォンはリスニングポイントに設置するが、 建築設計図面があればそれから位置を割り出すことができる。図面がなければスピーカとの距離を 計測し位置決めを行う。マイクロフォンが作業時のミキサ位置と異なる場合は時間軸補正が必要と 4) 本章は音響測定、スピーカチューニングが目的ではないので詳細は述べない。これらは専門業者に相談するのが 良い。 5) 業務用のスピーカであれば、基準とするバンドレベルに対して多少の“うねり”や再生帯域幅の違いがあっても、

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なる6。時間軸補正を行っている場合は補正時間とスピーカ距離の関係が正しいか確認する。 図 2-4 測定用マイクロフォンのセッティング例 (1) マイクロフォンをセンタースピーカに向け 45 度上向きにセッティングする。L, R, C, LFE, LS, RS の測定はすべてこの位置で行う7 (2) コンソールのフェーダやモニターボリュームを基準レベルに設定し、測定するスピーカに対 し規定の広帯域ピンクノイズを出力する。レベル調整が必要な場合は2.3 項を参考に行う。 VU メータは正しい実効値を指示しないので、0VU に合わせてはならない。他のスピーカは ミュートにする。 LFE チャンネルの場合、120Hz のフィルタ(24dB/oct)を通した信号を使用する。ただ し、サブウーファ側に規定のフィルタが入っている場合は広帯域ピンクノイズをそのまま使 用しても良い8 ベースマネージメントを行っている場合は、メインチャンネル測定時にサブウーファの位 置決めを行う9。このとき、サブウーファとメインスピーカのクロスオーバー周波数付近の位 相を合わせ、ディップを生じないよう注意する。 (3) RTA を見ながら必要なバンドレベルになるように再生アンプのゲインを調整する。パワー ドスピーカの場合は、内蔵アンプのゲインを調整する。現実の測定データは平坦ではないの 6) コンソールを移動してリスニングポイントを調整すると室内の音響特性も変化する。この場合は時間軸補正を行 う方が簡単であろう。 7) 測定方法は他にもある。例えばマイクロフォンをスピーカの音響軸に向ける方法や垂直に立てる方法がある。 8) これはモニター経路に関してのみである。録音機器に送る信号は規定のフィルタを使用する。 9) LFE チャンネルの調整でサブウーファの設置位置を変更すると、メインチャンネルの低域再生特性も変わるの C R L LS RS LF E 1.2m

(42)

で“中心値”を読み取ることになる。一般に、全周波数帯域のレベルは設定値±5dB の範囲 に収まればよいとされている。 (4) すべてのメインスピーカについて(2)、(3)の調整を行い RTA の測定データを保存する。 (5) LFE チャンネルは“メインチャンネルのバンドレベル+10dB”になるよう調整する。これ は“メインチャンネルの低域特性+10dB”にすることではない10 2.7.2 騒音計による測定 RTA 測定と同じピンクノイズ信号を用い、日常使用する騒音計で各スピーカのレベル測定を行う。 騒音計はC 特性/SLOW レンジで使用し、測定したレベル値を記録する。ここで測定した値は 2.6 -(3)項で述べたように、日常行うレベル較正のリファレンスとして使用する。 (1) 騒音計による測定は通常手持ちとなる。騒音計はセンタースピーカに向け内蔵マイクロフォ ンが45 度上向きになるように持つ。騒音計は RTA 測定時のマイクロフォンと同じ位置にす る。 (2) 測定時、測定者の身体の影響ができるだけ少なくなるように配慮する。例えば、騒音計を持 つ手は真すぐに伸ばす、LS, RS の測定では身体(背)を測定するスピーカの反対側の壁に向 ける(騒音計はセンタースピーカに向けたまま)などである。 サラウンドスピーカがフロントより小型の場合、再生レベルを適切に調整しても聴感上の相対レ ベルが小さく感じることがある。これはスピーカの再生帯域幅の違いによるものなので調整ミスで はない。 10) ベースマネージメントを使用した場合、結果的に“メインチャンネルの低域特性+10dB”が LFE チャンネルの

図  2-4  ディフューズサラウンド方式の例  2.2  再生レベル  サラウンド番組制作時のモニター再生レベルは、メインチャンネル(L, R, C, LS, RS)は同一レ ベル、LFE チャンネルは「メインチャンネルのバンドレベル+10dB」に設定する。  2.2.1  メインチャンネルの推奨再生レベル  メインチャンネルの各々の再生レベルは 79dBC を推奨値とする (注) 。このレベルのモニターボリ ューム位置をマーキングするなどして、容易に再現できるように工夫することが望ましい。また、 絶対レ
表  3-1  推奨トラックアサイン  トラック  チャンネル  備        考  1 L  2 R  3 C  4 LFE  120Hz(24dB/oct)の LPF を通して録音することを推奨。  5 LS  6 RS  7  ユーザ定義  ステレオミックスの Lch あるいはダウンミックスの Lt を推奨。  8  ユーザ定義  ステレオミックスの Rch あるいはダウンミックスの Rt を推奨。  (1)  留意点  ・  LFE 信号を録音するトラックは再生時の信号確認を容易にするため、12
図  4-1  テスト信号パターン  4.2  収録時のレベル調整用基準信号  本ガイドライン 3.2 項に規定されている基準信号がトラックごとに記録されており、各トラック の収録レベルの調整、及び位相のチェックを行う。  4.3  モニター調整用信号  同相の広帯域ピンクノイズ(-21dBFSrms 若しくは-23dBFSrms)を各トラックに記録する(モ ニター環境の具体的な調整方法は解説 2 を参照)。  (注)デジタル信号の実効値を示す単位として dBFSrms を用いる。0dBFSrms はピーク
図  3-1  劇場の 5.1ch サラウンド再生装置例  LFE チャンネルも再生レベルが“10dB 高く設定”されているので、メインチャンネルと比較す ると“録音レベルが 10dB 低く”なるが、これは劇場用、民生用に共通する仕様なので問題とはな らない。民生用と劇場用の再生・録音レベルの相対比較を表 3-2 に示す。  表  3-1  5.1ch サラウンドの相対レベル(録音・再生)     5.1ch サラウンド(網部はマトリクス方式)  民生(放送、DVD など)  劇場映画  TR CH 相対再
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参照

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