乳幼児健診とその周辺
国立研究開発法人国立成育医療研究センター理事 日本小児保健協会副会長
Rabbit Developmental Research 平岩 幹男
年間に延べ400万人以上が
健診を受診
しかしそれを職業にする医師も
そのための教育システムもない
乳幼児健診
• 時期を決めて法制化している国はまれ →多くの国では母子健康手帳はない →予防接種ノートはある • 保健サービスとしての乳幼児健診 →焦点となる疾患や障害も時代とともに変化 →子育て支援としての視点が加わってきた • 行政の健診は歴年齢で修正月齢ではない • 1歳6か月健診までは修正月齢で判断する乳幼児健診の法的根拠
• 母子保健法第12条に基づき市町村が行う 1歳6か月児健診(1歳6か月―2歳未満) 3歳児健診(3歳―4歳未満) • 母性・乳幼児に対する健康診査及び保健指導 (H8)1歳まで2回、1-3歳2回、4歳以上1回 • 妊産婦及び乳幼児に対する健康診査(H9) 乳児一般健康診査:3-4か月と9-11か月 健診の内容や項目についても細かく列挙乳幼児健診はスクリーニング
• 乳幼児健診はスクリーニングの一つである • スクリーニングでは一定の割合で見落とし
→false positive もfalse negativeもある • 実施者はそれを知っているが・・
→どんなスクリーニングも完ぺきではない
• 受ける側の住民は100%だと思っている →見落としなどないと信じている
乳幼児健診は
基本的に
SCREENING
診断や障害の
「乳幼児健診」は何のため?
• 行う側の論理 法制度 疾患・障害を早期発見し、早期対 応 スクリーニングと全体傾向の把握 医療コストの削減 • 受ける側の論理 健康である、疾患・障害がない保証を受ける 育児をする際の安心感を得る 友達づくり 保健・福祉の社会的権利を行使する乳幼児健診での課題が変化
• 1950~60年代 →栄養の改善、先天性股関節脱臼 • 1970年代 →脳性まひの早期発見 • 1980年代 →知的障害を含む早期発見・対応、肥満、う歯 • 1990年代 →育児不安、産後うつ病、若年出産、児童虐待 • 2000年代 →発達障害(自閉症を含む)、子育て・家族支援乳幼児健診では
• 子どもにばかり目が行きがち →それは子どもの健診だから →でも子どもは一人では生きられない • でも養育者にも目を向けよう →保護者の精神保健状況の把握は重要 →そこでEPDSが始まった →しかし適切に行われているとは限らない • 母親をケアすることで育児はもっと楽になる →それが育児不安や虐待の軽減・解消にもなる保護者の精神疾患の増加
• 乳幼児健診の場でもしばしば気づかれる • 産後うつ病、マタニティーブルーズだけではな い • 妊娠中からのうつ病、パニック障害なども • 発達障害がしばしば背景に存在する • 児童虐待のリスクの増加 • 家族対応の精神医療の不足 • キーパーソンを誰にするのか家族の支援における問題点
• 子どもたちにとっての生活基盤の揺らぎ →家庭は生活基盤のはずだが・・ • 社会経済的な問題の増加 →経済的困窮、外国籍の問題 • 想定された家族形態の破綻 →家族形態が多様、複雑化 • 増加する児童虐待 →悪い「保護者」の虐待とは限らない若年妊娠・出産の増加
• 性行動の低年齢化 →不十分な性教育、望まない妊娠と出産 • 10代の母親たち →法律の不備(結婚年齢の性差) →17歳が分かれ目の基準、社会支援の不足 →飲酒・喫煙の増加 →児童虐待の問題 • 社会としての認識と対応の欠如 →出産後の学業など社会復帰が困難子育て支援としての健診
• 健診も子育て支援の一環である →気軽な相談、友達づくり、遊びを覚える →ブックスタートや様々な子育て交流 • 子育ての専門家(保育士)が健診に参加 →健診の幅が広がり、相談が多様に • グループミーティングの活用 →自主的な子育てサークルが育つ • ピア・サポートへの展開 • 会場やスタッフに考慮が必要1か月児健診(1)
• 産婦人科で行う?小児科で行う? • 今後の育児環境とは限らない(里帰り) • Debate →K2シロップはこれで終わり? →スキンケアは? →臍処置、臍ヘルニアは?1か月児健診(2)
• 第1子の場合にはやっと慣れてきたかどう か・・ • いきなり診察に取り掛からない →緊張している母親のice breakingを • 保護者の顔を見てはっきりと話す →子どもを診ながら下を向いて話さない • 健康のチェックだけではない →アタッチメント形成のお手伝いも • どうやって笑顔を引き出すか???姿勢を観察する
• まずは全体像を見る →何か変だと思えるアンテナを • 四肢が床から離れない →筋緊張低下 • 皮膚を見る →皮膚色、黄疸、母斑、ただれなど • 左右差に注意 →頑固な向き癖は股関節も要注意1か月見落としたくない:正期産児
• 体重増加不良(1日20g以下) →プロットする、実際に母乳を飲ませてみる • 強い黄疸 →疑ったらチェック • 姿勢の異常や左右差(原始反射も)、筋緊張 • 外表奇形:体幹、四肢、頭頸部、外陰部 • 眼球運動異常、色調の異常 先天性股関節脱臼1か月児健診と超音波検査
• 行っている国や地区もある →腹部エコーで腫瘤や奇形を発見 →股関節エコーで臼蓋形成不全を発見 • そのほかにも →心雑音などでの心エコー →大泉門からの脳エコー →頸部のう胞などの内部構造4か月児健診(1)
• 母親は、しばしば(10-20%)気分障害・・・ だから問診には「ゆとり」が必要 • 身体測定値や発達状況は出生体重や出生 状況に大きく左右される(特に未熟児では) • 第1子の場合、少なからず不安がある →「もう慣れましたか」のひとことが大切 • 友達づくりの場としても活用したい →誘い合って来られるような雰囲気づくりも4か月児健診(2)
• 問題がない時には笑顔で送り出す →心配な時には相談することも忘れずに • 紹介するときには十分な説明を! →場合によっては同行する • 経過観察には期限と条件が必要 →「様子を見ましょう」は禁句 • 不安そうな時にはフォローを! →訪問、電話だけでも役に立つ4か月では発達が見えてくる
• 頚が坐ってくる • 目を見合わせる、じっと見つめる • 1日のリズムが出来てくる • 理解できる表情が出てくる • 理解できる要求が出てくる • 自分の子が一番かわいいと思っている診察を急ぐより姿勢を見る
• 腹臥位と背臥位の両方を見る • 皮膚所見、重力に抗しての動き • 左右差 • 頭と体幹のバランス • 表情 • 「何か変」を一番感じるところでもある腹部を触ってみる
• 臓器を触知しようとするのではなく全体の感 覚 • 腫瘤や肝脾も触ってみる • 保護者に触り方を教えることもある →柔らかく掌で包むように触る →毎日触ってみよう →触って機嫌が悪くなるときには要注意 • こうしたこともattachment形成には役立つ頭部と頸部
• 大泉門をはじめとして一通り触ってみる →母斑や皮膚のただれ、吸引の痕など・・ • 斜頸や腫瘤(のう胞)などもチェック →左右差もみておくこと • 上顎、下顎のバランス、声の出し方 • 口の中を見るときは吸綴や硬口蓋も →私は指で触ることが多い →集団健診などでは舌圧子で外陰部のチェック
• 男子では →生理的に包茎 →尿道口を確認、尿滴は? →停留精巣、そけいヘルニアの陰嚢内脱出 →無理な剥離は真性包茎を作る • 女子では →膣分泌物 →大陰唇周囲の汚れ頚定の確認
• 引き起こしによって頚定を見る
→起こすときに頚をもちあげてくるか
→戻すときに45度まで耐えられるか
• 怪しいとき、判断に迷った時には
かならず時期を変えて確認を!
• 頚定はその後の運動発達の基本
• 出生後満4か月での頚定は90%未満
頚定不良
• 生後3-4か月ですわる • 6か月を過ぎてもダメな場合は医療機関 • 体重増加不良を伴う場合は要注意 →疾患の可能性が高い • 運動器疾患、神経疾患(脳性まひなど) • 精神遅滞、自閉症でもLCCからDDHへ
• 先天性股関節脱臼から →発育性股関節形成不全へ • 先天性股関節脱臼の50%以上は →臼蓋形成不全ではないか • したがってクリックサインは必ずしも出ない • クリックサインを何度もするのは関節唇を痛める • 従って過伸展も含めて開排制限を診るLCC/DDH
• 開排制限 • 家族歴 • 女児(4~8倍?) • 骨盤位 • 向き癖の対側に多い(右>左) • これらの危険因子があれば要注意 • 両側性もまれだがある!体重増加不良
• 摂取しているエネルギーの不足 →母乳不足、ミルク不足、離乳の遅れ、疾患 • 摂取しているエネルギーの利用の問題 →消化、吸収の障害、代謝異常 • 過剰にエネルギーを消費している場合 →消耗性疾患、運動過多 • 1日に20g増加し、発達、状態に問題なけれ ば安易に母乳を止めたり、ミルクを追加しな い見落としたくない症状
生後4-6か月
• 体重増加不良(1日10g以下) • 心音の異常、皮膚色不良 • 頚定不良、筋緊張低下 • 股関節脱臼(硬さ、足長差、過伸展) • 頭囲の拡大(胸囲を5cm以上超える) • 視線が合わない、音に反応しない • 背臥位でのHip up (体が硬い) • 理解しがたい外傷、皮膚や着衣の汚れ1歳6か月ころの健診
• ひとり歩きはほぼ100% →歩行するかどうかよりも「歩き方」 • 単語が出ない(無発語)は要注意 →理解の遅れがあるかどうか慎重にチェック • 95%の児で3回食が確立している →8%では卒乳が終わっていない • 「う歯」保有率は約10% →この時期からの指導が大切1歳6か月では発達が質的変化
• 歩行の獲得 • 目の位置が高くなる • 腹式呼吸から胸式呼吸へ • 言葉を媒介としたコミュニケーションの芽生え • 非言語的なコミュニケーションの習得 • 微細運動が可能になる(積み木を積むなど) • 道具を使う • 乳臼歯が生えてくる歩行の状態を確認する
• 歩きはじめはhigh guard(手を上に上げている) →徐々にmiddle guard、low guardに
すぐに転ぶ・歩容の異常
• 神経筋疾患 →脳性麻痺、筋緊張低下、ジストロフィーなど • 平衡機能の問題(小脳失調など) • 骨系統疾患 →低フォスファターゼ症、骨形成不全症など • 股関節脱臼の存在 • 形態の問題(内反、脚長差など) • 自閉性疾患1歳6か月児の言葉
• 1歳6か月で単語5個以上 →女児では90%以上 →男児では85%程度 • コミュニケーションは「言語」と「非言語」 →この年齢では非言語的部分が重要 →非言語部分は評価しにくい →したがって言語的な部分での評価が多い1歳6か月児健診での頻出語
1. ワンワン 477人(59.5%) 2. パパ 444人(55.4%) 3. ママ 436人(54.4%) 4. バイバイ 302人(37.5%) 5. マンマ 297人(37.0%) 6. ブーブー 226人(28.2%) 7. ニャンニャン 194人(24.2%) 8. ネンネ 167人(20.8%) 9. イタイ 146人(18.2%) 10.チョウダイ 76人( 9.5%) *あんぱんまん自発語が出ない・・
• まず聴力の確認 →呼びかけへの反応、携帯電話、ABR • 動作の理解と対人興味 →これがあれば軽度の知的障害、ELD • 模倣と言語(指示)理解 →これがあれば軽度の知的障害、ELD • 残ったのは →中等度以上の知的障害と自閉症言葉が出ない:対応
• 知的障害(精神発達遅滞) →通所施設での療育(生活習慣の獲得) →集団での療育、自閉症も多くはここに入る • 難聴 →補聴器、人工内耳、教育的支援 • 自閉症 →従来は知的障害と同様に扱われていた →個別療育が有効であることがわかってきたM-CHAT
Modified Checklist for Autism in Toddlers
• http://www.ncnp.go.jp/nimh/jidou/research/mchat.pdf • 定型発達の部分と自閉症特性の23問 • 保護者がチェックする • 1歳6か月~3歳で使用可能 • 1歳6か月で行う場合には2か月後にフォロー • 1回だけなら2歳時に • 2,7,9,13,14,15が重要項目