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Title

地域医療における人的資源および画像診断機器の配置と需給評価に関する研究

Author(s)

石川, 智基

Citation

北海道大学. 博士(保健科学) 乙第7101号

Issue Date

2020-06-30

DOI

10.14943/doctoral.r7101

Doc URL

http://hdl.handle.net/2115/78903

Type

theses (doctoral)

File Information

Tomoki̲ISHIKAWA.pdf

(2)

学 位 論 文

地域医療における人的資源および画像診断機器の配置と需給評価に 関する研究

石 川 智 基

北海道大学大学院保健科学院

2020年度

(3)

目次

要旨 ... 1

第 1 章 序論 ... 3

1.1 医療制度の変遷と人口構造の変化 ... 3

1.2 医療資源の配分に関する施策と、その形成過程における課題 ... 7

1.3 本論文の目的 ... 9

1.4 本論文の構成 ... 9

参考文献 ... 11

第 2 章 System Dynamics Modeling と地理情報システムを組み合わせた医師不足と偏在の 将来予測に関する分析... 12

2.1 背景 ... 12

2.1.1 日本における医師不足と課題 ... 12

2.1.2 北海道における医師不足と課題 ... 14

2.1.3 本章の目的 ... 15

2.2 理論 ... 15

2.2.1 医師数の予測モデル ... 15

2.2.2 System Dynamics を用いたモデリング ... 19

2.2.3 保健医療における不平等性評価 ... 20

2.3 方法 ... 21

2.3.1 対象・使用データ ... 21

2.3.2 System Dynamics によるモデルの構築 ... 23

2.3.3 構築したモデルの妥当性の評価 ... 23

2.3.4 予測変数の充足評価 ... 24

2.3.5 感度分析による医学部定員の診療科偏在に与える効果予測 ... 24

2.3.6 Gini 係数による地理的偏在の予測評価 ... 25

2.4 結果 ... 26

2.4.1 構築したモデルと妥当性の評価 ... 26

2.4.2 全国医師数における予測結果 ... 26

2.4.3 北海道の全医師数における予測結果 ... 27

2.4.4 充足度の予測結果 ... 27

2.4.5 全国医師数における感度分析の結果 ... 27

(4)

2.5.3 北海道の医師数の充足及び Gini 係数の結果について ... 36

2.5.4 感度分析の結果について ... 37

2.6 本章の総括 ... 38

参考文献 ... 39

第 3 章 人口構造の変化が地域の疾患別需要に与える影響についての分析 ... 41

3.1 背景 ... 41

3.1.1 日本の人口動態変化の特徴 ... 41

3.1.2 医療計画の立案における課題 ... 45

3.1.3 医療需要予測に関する先行研究 ... 45

3.1.3 本研究における医療ニーズと医療需要の定義 ... 47

3.1.4 本章の目的 ... 48

3.2 方法 ... 48

3.2.1 分析対象 ... 48

3.2.2 使用データ ... 49

3.2.3 研究デザイン:分析の流れ ... 51

3.2.4 Demand-based モデリングによる需要予測 ... 51

3.2.5 将来医師数および専門医師数の予測 ... 52

3.2.6 患者の地理的集中度の評価:HHI の算出 ... 52

3.2.7 医師・専門医偏在の評価:Gini 係数の算出 ... 53

3.2.8 受療率の不確実性評価:感度分析 ... 53

3.3 結果 ... 54

3.3.1 医師数と患者数の予測結果 ... 54

3.3.2 HHI と Gini 係数の予測結果および感度分析結果 ... 54

3.4 考察 ... 59

3.5 本章の総括 ... 61

参考文献 ... 62

第 4 章 脳卒中診療に関する医療資源とアクセシビリティの関連についての分析... 64

4.1 背景 ... 64

4.1.1 北海道の救急医療提供体制と医療計画 ... 64

4.1.2 本章の目的 ... 65

4.2 方法 ... 66

4.2.1 救急搬送における搬送時間の定義 ... 66

4.2.2 分析対象とデータ収集 ... 66

4.2.3 アクセシビリティの格差についての評価 ... 67

4.3 結果 ... 68

4.4 考察 ... 70

(5)

4.5 本章の総括 ... 72

参考文献 ... 73

第 5 章 画像診断機器に関する配置と利用の関連についての分析 ... 75

5.1 背景 ... 75

5.1.1 画像診断機器の配置と利用状況の国際比較 ... 75

5.1.2 国内における画像診断機器の適正配置に関する議論 ... 78

5.1.3 画像診断の配置と利用に関する公的データの現状 ... 81

5.1.4 行政の分析事例における課題および先行研究 ... 84

5.1.5 本章の目的 ... 84

5.2 方法 ... 84

5.2.1 対象とデータ ... 84

5.2.2 CT・MRI 検査回数の抽出 ... 85

5.2.3 配置と利用の関連および偏在の評価 ... 85

5.3 結果 ... 88

5.3.1 抽出の妥当性検証と全国実施件数 ... 88

5.3.2 二次医療圏別の集計結果 ... 88

5.3.3 配置と利用の偏在の算出結果 ... 90

5.4 考察 ... 91

5.5 本章の総括 ... 96

5.6 本章の分析結果に関する補記 ... 96

参考文献 ... 97

第 6 章 本論文の総括 ... 99

謝辞 ... 101

業績一覧 ... 102

(6)

要旨

人口の高齢化が進む国際社会において、国民が医療にかかる機会を継続的に担保するた めに、医療資源の確保およびその配分の適正化は各国共通の課題である。特に、人口減少と 過疎化を伴う少子高齢化が進行している診断における医療需要の変化は、地域によって多 様な形で発生することが予測されている。医療需給バランスの均衡を維持する観点から、政 府のマクロな医療政策に加えて、地域が作成する医療計画の中で、根拠に基づく政策立案を 通じて将来的な需要変化への対策を講じることが求められている。こうした対策の立案を 支援するために、基幹統計や行政管理のビッグデータの分析環境が整備され、データに基づ いた政策エビデンスの創出が期待されているが、そのための分析手法について提案する研 究は少なく、医療需給バランスの現状把握、および将来予測を行うことは困難である。都道 府県における医療計画は、需要にあった資源配分の最適化・均てん化を通して、地域住民に 受診機会を担保することを目的のひとつとしているが、前述の通り分析手法が確立されて いないため、「医師等の不足資源の充足に関する分析」や「疾患別の医療需要推計」、「資源 配置とアクセスの関係についての分析」、「余剰可能性のある医療資源の配置と利用に関す る分析」といった、既に課題として挙げられていながら、データに基づいた議論が困難な事 柄が存在する。先行研究においても、地域における医療需要と医療供給およびそのバランス 評価という視点から報告された事例は少なく、分析手法と、分析によって得られる知見につ いての考察が乏しい。本論文は、課題として指摘されている「医師の不足と偏在」「疾患別 需要推計」「資源配置とアクセスにおける関係の評価」「画像診断機器の配置と利用における 関係の評価」といった各課題について、経営管理学や医療情報学の知見を応用した分析を通 じて、医療需給評価に関する一体的な分析手法の提案を目的とする。

第1章では医療需要に影響を与える人口構造の変化と需給評価における課題をまとめた。

医療需給や医療提供体制上の背景について、医療政策・経済的な観点から俯瞰し課題を指摘 する。同時に、医療政策における中⾧期計画の重要性および分析手法の必要性について述べ る。

第2章では供給サイドの推計をテーマとして「医師の不足と偏在の将来予測に関する研 究」についてまとめた。本章では、経営学やオペレーションズリサーチ分野で活用される System Dynamics の概念を日本の医師不足問題に応用し、医師養成キャリアパスに基づく 医師数予測モデルを構築した。この予測モデルを用いて、医師養成施策を考慮した全国医師 数と診療科別医師数の予測を行った。さらに、地理情報システムの活用により、北海道をケ ースとした偏在評価の分析を行った結果、日本全体および北海道全体では医師絶対数は充 足するが、診療科偏在と地域偏在の双方とも課題として解消されない可能性が示され、医師 の診療地域に対する制度介入の余地があることが指摘された。

第3章では需要サイドの推計をテーマとして「人口構造の変化が地域の疾患別需要に与 える影響に関する研究」についてまとめた。患者調査を用いて、疾患別の需要推計モデルを 構築した。先行研究では、疾患別の受療率をパラメータとした将来需要の推計が推奨されて いたが、診断では人口あたりの供給量が指標として活用されてきた。本章では、脳卒中・急

(7)

性心筋梗塞、および全患者数を対象とし、将来受療数および受療数対医師数を算出した後に 市場の集中度を表すハーフィンダール・ハーシュマン指数および Gini 係数を算出し、資源 の偏在を評価した。結果として、脳卒中・急性心筋梗塞の治療に従事する医師数の偏在は改 善されていくが、全患者数との比較から改善の余地があることが示された。また、従来使用 されてきた人口当たり医師数等に代替する指標として患者の受療数に基づく資源配置の提 案が可能であった。

第4章では医療需給評価をテーマとして、「急性期疾患における資源配置と治療へのアク セスの関連についての研究」についてまとめた。需給バランスを、治療や機器へのアクセシ ビリティという観点から評価を行うために、地理情報システムを使用した分析を行った。対 象地域は前章と同様で、対象疾患を脳卒中と急性心筋梗塞とした。また、評価対象となる医 療資源を「治療可能施設」「CT 装置」「アンギオグラフィ装置」「専門医師」とし、10 分以 内で搬送可能な人口カバー率をアクセシビリティの評価指標として算出した結果、「治療可 能施設」へのアクセスは「専門医師」へのアクセスと読み換えられ、専門医師へのアクセス を担保することが治療可能施設へのアクセスを高める可能性があることが分かった。

第5章では、医療需給評価をテーマとして「画像診断機器の配置と利用の関連についての 研究」についてまとめた。医療の需給バランスについて、機器の配置と利用に関する実態把 握という観点から、厚生労働省が管理している我が国の全レセプトデータを格納している レセプト情報・特定健診等情報データベースと医療施設調査を活用し、画像診断機器の配置 と利用状況の分析を行った。前章で高水準にアクセス可能なことが示された CT に加えて、

MRI および PET の各二次医療圏別の保有台数、総検査数および1台あたりの検査数を算出 し、地域別の比較を行った。その結果、配置と利用には非線形関係があることが示唆され、

外部変数によって規定される非線形のトレードオフ関係があることが明らかとなった。

第2章、第3章では医療の供給と需要を各々評価するためのモデル構築と推計によって、

需給推計には地域と疾患を同時に考慮した分析が重要であることを示唆した。第4章、第 5 章では需給バランスを総合的に評価する視点から分析を行い、資源配置の多寡のみではな くアクセスや利用実態に基づいた分析によって、急性期の専門医の確保に課題があること や、診断機器の高水準配置が必ずしも高水準の利用に繋がっていないことを示唆した。さら に、本稿では、制度形成において、モデルの構築、分析、評価を行うまでのプロセスとして、

一体的な方法論として提案を行っている。使用しているデータは基幹統計や公的なデータ ベースを活用しており、我が国の医療政策を担当する各省庁や、自治体の担当者の分析手法 として提案可能である。本稿で提示したモデルや方法論が、医療政策や地域の中⾧期医療計 画の立案等に利活用される過程を通じて新たな視点として提供されることを期待する。

(8)

第 1 章 序論

1.1 医療制度の変遷と人口構造の変化

近年、我が国の医療制度を取り巻く環境は新たな転換期を迎えていると言える。医療環境 の変遷を、医療法改正という観点から見ると、これまでは少子高齢化や医療費膨張、日常生 活圏における人的資源の確保、在宅医療や地域包括ケアの構築といった変遷をたどってき た(表 1) [1]。これまでの対応は地域で不足している資源の確保、提供量や質の地域差低 減、高齢化や医療費高騰を背景とした病床機能や連携の明確化などを主眼としている。換言 すれば、医療需要の増大や高度化に対応するための医療資源をいかに確保するかが当面の 課題であったと考えられる。しかし、近年では人口減少の影響が徐々に可視化される中で、

医療需要を生み出す地域住民だけではなく、提供主体である労働人口の減少の可能性が指 摘されており、縮小していく医療提供のあり方を検討する必要性が生じている [2]。こうし た環境では医療需要の量だけではなく、必要とするサービス内容とその時系列変化を把握 し、有限な医療資源をいかに配分するかが重要な命題である。このように医療提供体制のあ り方を考えるときに、少子高齢化と人口減少、さらに労働量減少の混合といった国際的にも 未経験の転換期を迎えている [3]。

OECD の報告によると、出生率低下と人口減少という両事象は、将来的に多くの先進 国が共通して直面する課題である [4]。同時に、ほとんどの先進国は、すでに顕在化してい る高齢化による社会保障費用の増大や労働人口減少などの課題と並行して対策を講じる必 要性が指摘されている。図 1 に OECD 加盟国(人口規模:1000 万人以上)における 2020 年から 2040 年までの人口変化率の比較を示す。この比較において、日本の人口減少率は - 24%にも及んでおり、国際的にも人口が大幅に減少する国であることが示されている。

(9)

表 1:医療法改正の内容と趣旨

改正年 改正の趣旨 主な改正内容

昭和 23 年 制定

・終戦後の医療機関の量的整備

・医療水準の確保を図るための施設基準整備 ・施設基準創設 昭和 60 年

第一次改正

・医療資源の地域偏在是正

・医療施設の連携推進

・医療計画の導入

二次医療圏ごとの必要病床数設定 平成 4 年

第二次改正

・高齢化に対応した症状に応じた医療施設機能 の体系化

・患者サービス向上のために必要な情報提供

・特定機能病院、療養型病床群の制 度化

平成 9 年 第三次改正

・要介護者の増大に対応した介護体制の整備

・日常生活圏の医療需要に対する医療提供

・医療機関の役割分担の明確化および連携促進

・地域医療支援病院制度の創設

・医療計画の充実(整備目標、機能 分担、業務連携)

平成 12 年 第四次改正

・高齢化による疾病構造の変化を踏まえた効率 的な入院医療提供体制の整備

・療養病床、一般病床の創設

・医療計画制度の見直し 基準病床数の設定

平成 18 年 第五次改正

・医療計画制度の見直しを通じた医療機能の分 化や連携促進

・地域や診療科による医師不足問題への対応

・都道府県の医療対策協議会制度化

・医療計画制度の見直し

4 疾病・5 事業の医療連携体制の位 置づけ

平成 23 年

・急性期をはじめとする医療機能の強化

・病院機能、病床機能の役割分担と連携の推進

・在宅医療の充実等を内容とする医療サービス 提供体制の制度改革

・疾病や事業ごとの PDCA サイクル

・精神疾患を既存の4疾病に追加 し、5疾病へ

平成 26 年 第六次改正

・効率的かつ質の高い医療提供体制の構築

・地域包括ケアシステムの構築を通じた地域に おける医療と介護の総合的確保のための所要の 整備

・病床機能報告制度の創設

・地域医療構想の策定

・地域医療構想調整会議の設置

(10)

図 1:OECD 加盟国における 2020 年から 2040 にかけての人口増減率比較 [5]

次に、国内の人口変動について説明する。国立社会保障・人口問題研究所は地域別に将来 推計人口を算出しており、人口減少のマクロな予測のみならず、市町村別の予測が分析され ている [6]。図 2 に 2020 年から 2040 年までの全国の人口推計結果、図 3 に都道府県別の 高齢化率を示す。これらの図から、我が国の人口は 2015 年で 127,094,745 人であるが、

2040 年には 110,918,555 人まで減少し(減少率:12.7%)、高齢化率は 35.4%ほどに達す る。また年齢構成の変化による影響として⾧期的な懸念が存在する。まず、団塊世代が 75 歳以上の後期高齢者となり、医療・介護などの社会保障ニーズがピークを迎えることが予想 されており、2025 年問題として医療提供体制の再編が進められている [7]。さらに、2025 年以降は高齢者においても減少が進むことが予測されており、2040 年には 85 歳以上の高 齢者の割合が人口の 3 割を超えるなど「高齢世代の高齢化」が進むことから、必要な医療ニ ーズの多様化・高度化による医療資源確保に対する社会的要求と、その結果として医療費等 の社会保障費の増大が見込まれている [7]。こうした将来を見据えて、日本では中⾧期的計 画に基づいた将来的に不足し得る医療資源の確保により、国民が医療にかかる機会を担保 することが課題のひとつである。さらに、地域の将来的な人口減少という観点から、余剰可 能性のある医療資源については、利用実態に基づいた資源配置の再検討の議論が必要であ

(11)

図 2:日本の将来人口推計 [6]

(12)

1.2 医療資源の配分に関する施策と、その形成過程における課題

前述の通り、我が国の医療法では、地域の実情に応じた医療提供体制の確保を図る目的で、

都道府県が医療計画を立案することを規定している。また、医療提供の量と質の持続的な管 理という観点からは、5 年に 1 回の見直しによって実効性を担保していると言える [1]。医 療計画では、入院や救急医療に関する医療サービスの地域単位としての二次医療圏の設定 と、基準病床数 5 疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)と、5 事業(救 急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療)に係る目標や、医療 資源に関する現状把握した上での課題抽出および施策の進捗評価を盛り込む必要がある。

また、各地域が自地域の実情に合わせて立案することが求められているため、立案の過程で 使用されるデータは公的統計などによって悉皆性が確保されており、かつ地域に依存しな い一般化可能性の担保された手法であることが要求される。しかし、こうした要件を満たす データや分析手法は少なく、利用されている多くのデータは単純集計や記述統計として公 開されたものであることが多く、各地域が自らの施策を評価するに至ってはいない。

医療提供体制に関する制度設計はすなわち医療資源配分についてのルールであると考え られている。つまり、「いつ、何処に、何を、誰を、どのくらい、どのようなものを」、それ ぞれ配分するかを規定するという点で、提供する医療の量と質に加えて地域住民のアクセ シビリティ調整の役割を果たしていると考えられる [8]。そして、配分した資源が患者の受 療行動を通してどのように利用されているかを観察することによって患者の需要を測定し、

それに基づいた医療政策の立案が必要である。これらに関連した日本の医療提供体制で顕 在化してきた課題と施策評価手法の検討課題について、以下に述べる。

第一に、我が国における医療資源配分の主要課題として医師不足が挙げられる [9]。一般 に、医師不足は、地域的な要因、診療科による要因、患者や地域住民による医療ニーズの変 化等、様々な要因の関連によって引き起こされ、単純な数の不足ではないことが指摘されて いる [10]。我が国では、医学部定員増員や指定地域枠入学などに見られるように医師養成 課程での対策が主に実行されてきたが、こうした政策の変化がどのように効果を発揮する かについて示した研究はない。また、絶対数の過不足のみでなく、診療科偏在・地域偏在に ついて言及することを許容する手法について提案されていないのが現状である。

第二に、地域別の医療需要予測の際に疾患別の指標が不足している点が挙げられる。省庁 や政府、都道府県においても将来の医療需要を推計する際に、性・年齢別の人口推移を代替 指標として使用している [11]。多くの先行研究では年齢構造と疾病構造は異なることが示 されており、医学的・疫学的知見からも疾患ごとに好発年齢や性別が異なることは明らかで ある。医療計画における 5 疾病のための管理指標としての人口推計値は、地域における疾

(13)

病構造を十分に表現できていない可能性は否定できない。これまで人口あたり医師数や病 床数などの指標で資源の充実度を計測してきたが、先行研究では、患者数に対する資源の充 実度を以て評価すべきであると指摘している [12]。こうした先行研究では疾患別の患者受 療動向に基づいた分析している一方で、国内ではそうした分析やモデルの構築を提案する 研究は行われていない。

最後に、配置した医療資源が地域住民にどのように利用され得るかの評価手法が不足し ていることを指摘する。これまでの評価指標は、人口や患者などの需要に対して資源配置量 の適切性を確認するものであった。ドナベディアンは医療の質を「Strucuture」「Process」

「Outcome」の 3 要素に分類したが、従来の指標は Structure 指標であるとみることが出来 る [13]。一方で、より適切な資源配置を提案するためには、地域ごとに「Process」「Outcome」

の評価が重要である。ここで、「Outcome」については QI(Quality Indicator)などで多く の先行研究が蓄積されており、すでに有効な提案がなされている [14]。Process 指標として は、院内の管理指標としては QI がその役割を果たすが、地域の医療体制の Process 指標は ない。また、行政が整備を進めるビッグデータにおいても、その利活用の在り方について研 究が進行中であるが、地域における EBPM の観点から具体的な検証を行った報告はない。

研究や政策提言を目的とした保健医療の行政データベース利用については、ユースケース の作成が期待されており、有効な利活用のあり方について事例の蓄積が求められている [15]。しかし、医療計画における資源配置の観点から、各データベースを用いた分析は行わ れていない。したがって、公的なオープンデータを活用しながら、医療計画等の立案を支援 する新たな分析手法の提案を行うことは学術面だけでなく行政における意思決定支援の観 点からも有用である。

(14)

1.3 本論文の目的

これまでの議論をまとめると、日本は国際的にも類を見ない少子高齢化という課題を抱 えている最中に、人口減少によって医療需要の増減傾向は地域によって異なると考えられ る。また、労働人口の減少も課題であり、需要と供給の見通しがついていないのが減少であ る。また、地域においても疾患別の需要推計の評価指標が提案されていないこと、配置した 資源がどのように利用され地域住民に提供されているか明らかになっていない。限りある 医療資源の適正配置を検討するためには、疾患別や地域別などターゲットを限定した細か な需要推計と、医療機関や患者の利用実態の可視化に基づいた資源配置の提案が効果的で あると考えられる。こうした推計や可視化のためには、使用するデータセットや分析手法、

および管理指標などを一体とし、政策における意思決定者が実行可能なプロセスとして提 案すべきであると考える。以上のことから、本研究では、持続可能な医療資源の適正配置を 検討する際の分析手法論や使用するデータセットなどの提案を目的として、人的資源、疾患 別需要、アクセシビリティと利用実態の可視化といった視点から各分析を行い報告するも のである。

1.4 本論文の構成

本論文は全 6 章から構成される。

第1章では医療需給や医療提供体制上の背景について、国際的な課題と我が国の課題に 分けた上で、医療政策・経済の観点から俯瞰し、本稿における課題を提示する。

第2章では、経営学やオペレーションズリサーチの分野で活用されている System Dynamics の概念を日本の医師不足問題に応用することによって、医師養成キャリアパス に基づく医師数予測モデルを構築する。さらに、この予測モデルを用いて、医師養成施策 を考慮した全国医師数と診療科別医師数の予測を行い、医師数政策における課題を考察す る。

第 3 章では、厚生労働省の基幹統計である患者調査を用いて、疾患別の将来需要予測モ デルを構築し、疾患別の将来需要推計を実施する。本章では、脳卒中・急性心筋梗塞、お よび全患者数を対象とし、将来受療数および受療数対医師数を算出した後に市場の集中度 を表すハーフィンダール・ハーシュマン指数(Herfindahl Harshman Index :HHI)およ び Gini 係数を算出することによって、偏在と充足の関連を考察する。

第 4 章では、地理情報システム(Geography Information System:GIS)を用いて、既 存の医療資源配置状況とアクセシビリティとの関連についての分析を行う。対象とする患 者を脳卒中・急性心筋梗塞の受療患者、対象とする医療資源を「治療可能施設」「CT 装

(15)

置」「アンギオグラフィ装置」「専門医師」とし、各資源に対する地域住民のアクセシビリ ティを評価する。治療可能施設へのアクセシビリティに影響する資源について考察する。

第5章では、厚生労働省の基幹統計である医療施設調査および、全レセプトデータが格 納されているレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Data Base:NDB)

を活用し、CT および MRI の配置と利用状況の関係を明らかにすることで、配置適正化に 関する議論の課題を考察する。

第6章では、本研究を総括し、本論文における結論を述べる。

(16)

参考文献

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(17)

第 2 章 System Dynamics Modeling と地理情報システムを組み合わせた医師不足と偏在 の将来予測に関する分析

2.1 背景

2.1.1 日本における医師不足と課題

医療における人的資源の需給不均衡は、国際的にも大きな課題のひとつとして指摘され てきた [1]。その中でも、医師数の不足は医療サービスの量と質の低下を招く要因のひと つであり、日本においても医師不足問題が顕在化し、不足に関する実態の評価とその解決 手法の提案が急がれている。一般に医師不足は、地域的な要因、診療科による要因、患者 や地域住民による医療ニーズの変化等、様々な要因の関連によって引き起こされ、単純な 数の不足ではないことが指摘されている [2]。 厚生労働省が 2 年毎に実施している「医 師・歯科医師・薬剤師調査」によると、日本における臨床医師数はほぼ毎年継続的に増加 しており、人口 10 万人当たり医師数においても同様に増加傾向である [3](図 4)。

図 4:日本全国医師数の推移

(18)

り、厚生労働省は絶対数の不足に加えて、地理的偏在・診療科間偏在といった相対的不足 が同時に発生することで、現在の医師不足が引き起こされていると考えられている。ま た、近年では同省の医師需給分科会では、医師偏在指標を公表し、医師が少数の県、多数 の県、多数・少数でない県の3つのグループに分けて議論を行うなど、地域間格差につい ての分析を試みている[4]。

地域間での偏在に関しては対策として、地域枠入試の実施といった医師養成面から医師 の地域配置を是正する対策が主に行われている。しかし、臨床研修を終えた医師の診療科 選択は、個人の自由意志によって決定され、医師の診療科配置に関しては特にコントロー ルされていないのが現状である。さらに診療科間の偏在に関しては、内科や外科をはじめ として、産科産婦人科・小児科・麻酔科・救急科が特に不足である診療科として指摘され ている [5]。また、近年における診療科別の医師数の推移をに示す。1994 年を基準とした 場合、減少している診療科としては外科、産科・産婦人科がある(図 5)。よって、不足 が指摘されていて、かつさらに減少傾向にある診療科として産科産婦人科が挙げられる [3]。

図 5:1994 年を基準とした各科診療科医師数の推移(厚生労働省資料を基に作成 [5])

(19)

2.1.2 北海道における医師不足と課題

北海道における医師数の需給バランスにおいても、日本全国と同じように絶対数の不足 と、偏在による不足が指摘されている。北海道庁による医師実数と人口 10 万人あたり医 師数の推移をに示す [6]。北海道の医師数は、全国の医師数と同様に持続的な増加傾向を 示している。しかし、人口 10 万人当たり医師数によって比較を行うと、北海道の方が日 本全国に比べて低い値となっている。これまで述べてきたように、日本全国において医師 絶対数が不足である現状を考えると、北海道においても医師絶対数の不足が否定できない めない [7]。

図 6:医療施設従事者医師数および人口 10 万人医師数の推移(全国と北海道の比較)

一方、都道府県内格差として北海道内の地域間偏在についても指摘されている。北海道 医療計画によると、二次医療圏別の医師数配置を比較した場合、北海道全域で臨床に従事 する医師の約 51%が札幌圏域に集中している。さらに 21 医療圏域中、19 圏域において医 師数が全道平均を下回っているなど北海道内の偏在が指摘されており、道内においても配 置を見直す必要がある [ 北海道医療計画]。

0 50 100 150 200 250 300

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000

1998年 2000年 2002年 2004年 2006年 2008年 2010年 2012年 2014年 2016年 2018年

人口10万人あたり医師数

北海道医療施設従事者医師数[人]

北海道 医療施設従事者医師数 北海道 人口10万人当たり医療施設従事者医師数 全国 人口10万人当たり医療施設従事者医師数

(20)

2.1.3 本章の目的

本章では、医師数政策立案において一助となる資料を提示する前段階として、将来にお ける医師絶対数および偏在による不足の評価を行うことを目的とする。本研究では、後述 する System Dynamics を用いて医師数予測モデルを構築し、将来における全国医師数と北 海道医師数の充足および偏在評価を行った。

2.2 理論

2.2.1 医師数の予測モデル

我が国の医師需給についての議論は、1980 年頃から継続しており、その推計方法は常に 議論の対象となっている[8]。医師不足の経緯として医学部定員の削減や、新臨床研修制度 といった政策が、医師不足の要因として指摘されてきた一方で、近年では医学部定員の増 員や地域枠入学の採用など、文部科学省と厚生労働省の協働により養成面における施策が 試みられている[5,9]。こうした現行の政策の枠組みを検討する際には、既存の政策が医師 需給バランスに与える効果とリスクを事前に把握し、改善をしていきながら推進していく 必要がある。

医師需給分析に関しては、適切な医師供給数を維持するための政策を立案するために、

様々な手法を用いた研究が行われてきた [10-15]。日本においても厚生労働省を中心に検 討が行われてきた。平成 5 年 8 月に発表された「医師需給の見通しに関する検討委員会」

では近い将来医師が過剰となるとされ医学部定員削減政策の根拠となる推計を示した [16]。更には、平成 10 年には「医師の需給に関する検討会」報告書が公表され、地域・

診療科間の偏在を認めつつも絶対数の過剰を招かないように医学部定員の削減が続けられ た [17]。しかしながら、平成 18 年にとりまとめられた「医師の需給に関する検討会」報 告書では、医師の需給に対する見直しを図るとともに、地域や診療科の実情に即した見通 しについて検討する必要性について言及するなど短期間の中で変容が見られる [18]。この ように短期間で医師需給の見通しが変化する原因として医師数予測の方法論の確立がされ ていない点が指摘されている [19]。

臨床医師の移動が少ないとされる日本においては、医師の供給は養成段階における政策 といった社会的に制御可能な要因によって概ね決定される。それに対して、医師に対する 需要は、地域の人口構造や年齢構造、あるいは疾病構造などの時間とともにダイナミック に変化する外部要因による影響を受けて変化する。つまり、需給のバランスを予測すると いうことは、需要と供給に影響を与え得る異なる要因を総合的に考慮した需給ギャップに 関するモデル構築という課題を解くことでもある。需給ギャップの分析を可能にするため

(21)

には、需要に関する予測モデルと供給に関する予測モデルを各々構築するプロセスを経る 必要がある(図 7)。

図 7:医師需給分析のフレームワーク

需給ギャップを予測、評価するためのモデリング手法には様々な提案がされている。そ の手法としてこれまで、Trend model、Trend planning model、Demand-based-model、

Needs-based model、Stock and Flow model などが提案されてきた [20-23]。これらの分析 の課題点として以下の 3 点が挙げられる。まず、第一に過去データによるモデル当てはめ の手法であるため政策変化といった人口統計学や疫学の指標に表れてこない変化に対応で きない。第二に、静的なモデルであるため時間に対して動的な人的資源の変化を説明しづ らく、あくまでも過去の医師数の増減を別の変数で説明することに重点が置かれた手法で ある。第三に、決定論的な予測手法を採用しているため、要因の不確実性について検討で きない。最後に、予測した医師の充足を評価する指標がいずれにおいても不足している点 が挙げられる。

日本においては、医学部定員の増員や、地域枠の設置などをはじめとする医師養成面 での新たな政策が行われており、これらについての十分なデータは得られていないため、

決定論的な推計手法とは目的が合致しない。また医師数の評価に関しては、評価指標とし て人口 10 万人対医師数や医師密度などを用いて日本全体あるいは各都道府県平均との比 較が用いられることが多いが、日本全体で医師が不足している現状を鑑みると人口 10 万

(22)

響を与える要因である政策や社会的な要因に対して、モデルの作成者それぞれ仮定をおく ことでより社会に近いモデルデザインを可能であるだけではなく、感度分析を行うことで 医師数に関連する要因の不確実性を考慮した予測を行うことが可能である。この手法はア メリカの医療における人的資源管理組織である GMENAC (Graduate Medical Education National Advisory Committee), BHPr(Bureau of Health Professions)による将来医師の 予測 [24],などが報告されている。また、近年では Stock and Flow model の一種である、

後述する System Dyanmics の手法に基づいた先行研究が盛んである。例として、Patricia らによる診療科別医師数予測、Ansah による眼科医師の予測などの先行研究が蓄積され、

SystemDynamics モデリングが用いられるようになっている[25,26]。

(23)

表 2:医師需給予測のモデリング手法比較

モデル名 先行研究 概念 ⾧所 課題

Trend model 人口動態の変化によって 医師数を予測

・他の手法に比べて簡便

・あらゆる医療需要の変化を統合 して評価可能

・医療供給は人口動態の変化に合わせて変化するとい う強い仮定が必要

・医師個人のパフォーマンスが同質であると仮定する

Trend planning

model cooper [27]

社会がどれだけ医療に支 払いをできるのか、とい う経済成⾧によって医師 数を予測

・GDP などの経済指標と関連付け による予測が可能

・医学的な背景のみでなく、社会 的な要因も考慮した推計が可能

・医療サービスへの支払いは経済的要因によって制御 されるという強い仮定が必要

・需要の変化に医師の供給は完全に呼応できるという 強い仮定が必要

Demand model WHO[11] 需要と供給の両側面から 人的資源を推計

・各分野の専門家の意見を反映さ

せたモデル構築が可能 ・マクロな予測にのみ対応可能である

Needs-based model

the Graduate Medical Education National Advisory Committee (GMENAC) [24]

疫学的な需要予測に基づ いて必要な医師数を算出 する

・罹患率や受療率など疫学指標を 考慮したモデル構築が可能

・社会的に必要な医療に対して過不足なく(essential and appropriate)サービスを提供することができると いう仮定

・疫学的指標は、医療の潜在的ニーズを的確に包含し ている必要がある

Stock and flow Patricia, Ansah

医師数に影響を与え得る

要因をモデルに組み込 ・作成者モデルに必要な変数を自 ・モデルの構造の客観的な妥当性を検証する必要があ

(24)

2.2.2 System Dynamics を用いたモデリング

図 8:医師数予測における Stock and flow の概念

医師数予測における Stock and Flow の概念を図 8 に示す。この Stock and Flowの概念に 基づきながら、さらに動的なシミュレーションについて考慮した手法が System Dynamics である。System Dynamics は 1956 年に米国マサチューセッツ工科大学の J.W.Forrester に より考案されたコンピュータシミュレーションによる将来予測モデリングの手法である。

System Dynamics では複雑なシステムの時間経過とともに変わる振る舞いを追跡する動学 的な分析が可能で、システムの動きを決定する要因とその影響の分析を行うことができる。

そのため社会変動や変化が想定される⾧期の社会システムの分析に適した方法である []。

また、図 8 に示した概念を数式化したもの以下に示す。今、

t

年の最終時点における𝑆𝑡𝑜𝑐𝑘 を求める時、𝑆𝑡𝑜𝑐𝑘 を初期値として流入

Inflow

と流出

Outflow

の差を

t

年における増加 分とし、初期値との和によって𝑆𝑡𝑜𝑐𝑘 を求めることが可能になる。

・・・式(1)

このように System Dynamics では社会における量の変化を一次の微分方程式によって求 める。また、Stock をひとつの変数とみなし、他の変数と連結させることによって、微分方 程式の連結として量の変化を記述することが可能である。

𝑆𝑡𝑜𝑐𝑘

定義:t-1 年における蓄積量

𝑌

𝑑(𝑠𝑡𝑜𝑐𝑘)

𝑑𝑡 = 𝑰𝒏𝒇𝒍𝒐𝒘(𝒕) − 𝑶𝒖𝒕𝒇𝒍𝒐𝒘(𝒕)

(25)

図 9:System Dyanamics ソフトを使用した定式化

2.2.3 保健医療における不平等性評価

地域間格差のないよう医療資源の配置計画を作成するためには、医療資源の平等性(ある いは不平等性)について評価を行う必要がある。不平等性の評価を行うための指標として Gini 係数(Gini coefficient)がある[28]。Gini 係数は、制度や政策的介入による所得や貯 蓄の再分配機能について評価する単一指標として、日本においては全国消費実態調査(全国 家計構造調査)で年間収入および消費支出の不平等性評価、高齢社会白書で年齢階級別の所 得再分配後の所得格差の評価に用いられている [29]。また、所得を例に挙げると、Gini 係 数は以下のような式で定義される。

・・・式(2)

𝑦 , 𝑦 : 個人の所得 n:人口 μ:平均所得

Gini 係数の、数理的な解釈としては、「対象とする個人間すべての組み合わせにおける 所得格差の絶対値の算術平均である相対平均格差を 2 で除した値」として解釈可能な指標 であり、以下のような仮定と性質がある。

充足度=

2𝑛 1 2 𝜇 𝑦 𝑖 − 𝑦 𝑗

𝑛

𝑗 =1 𝑛

𝑖=1

𝐺𝑖𝑛𝑖 𝑐𝑜𝑒𝑓𝑓𝑖𝑐𝑖𝑒𝑛𝑡

(26)

・不公平を表現する尺度に求められる「相対的に貧しい者から相対的に富める者への所得 移転が、ある尺度で測った不平等度を増加させる」というピグー=ダルトン条件を満足 ・所得移転により Gini 係数がどのように変化するかは,移転が行われる個人の所得水準 ではなく順位に依存

分散や変動係数といった統計量による不平等性評価と比較した場合、以上のような性質 を満たす点で Gini 係数は社会の実態をより反映した指標であると考えられている [30]。ま た、Gini 係数は個人の所得水準や集団の平均所得に依存しないため、平均所得の異なる国 や地域間でも Gini 係数による格差の比較評価が可能である[30]。

医療の分野においても資源の分配・資源配置の不平等性評価のための単一指標として応 用されてきた。先行研究では、日本における医師の偏在を評価するために、小林らによって 初めて Gini 係数が用いられた [31]。近年では、小林らによる研究を、鳥谷部らによって追 跡調査された研究が行われており、標準的な指標となっている[32]。このように過去に遡っ て医師の偏在について記述することで問題点を指摘した研究はあるが、医師の偏在を是正 するための政策決定支援という視点から、将来について分析した研究は乏しいのが現状で ある。本研究では、Gini 係数を予測した医師数についての偏在評価指標として活用する。

2.3 方法

2.3.1 対象・使用データ

本研究の分析対象として全国医師数と北海道医師数とに分けて分析を行った。全国につ いては、全臨床医師数と不足が指摘されている診療科として産科産婦人科を対象に取り上 げ、診療科偏在についてマクロの視点から分析を行った。

また、北海道医師数については、北海道全域および北海道の各二次医療圏とし、臨床に従 事する全臨床医師数について予測を行い、地域間偏在についての視点から分析を行った。

双方とも、分析の時間範囲は 2010 年を初期年度とした 2030 年までの 5 年間隔を分析時 点とした。モデルの構築に用いたデータを表 3 に示す。また、北海道についての地理的分 析結果の可視化については、国土交通省による国土数値情報の政策区域情報を使用した[33]。

(27)

表 3:モデル構築に用いたデータソース

変数 データソース

1

医学部定員 文部科学省 医学部入学定員について

臨床研修マッチング率 医師臨床研修マッチング

協議会 医師臨床研修マッチング推移

大学院進学率 文部科学省 学校基本調査

非臨床選択率 文部科学省 学校基本調査

診療科選択率 文部科学省 臨床研修に関するアンケート調

女性休暇取得率 日本医師会 女性医師の勤務環境の現況に関

する報告書

退職率 厚生労働省 医師・歯科医師・薬剤師調査より

推計

地域枠定員 札幌医科大学

旭川医科大学 各大学募集要項

就業地選択率 厚生労働省 臨床研修に関するアンケート調

道内流入率 北海道庁 地域医療に対する勤務医アンケ

ート調査

道外流出率 北海道庁 地域医療に対する勤務医アンケ

ート調査

必要医師数 厚生労働省 必要医師数実態調査

北海道 二次医療圏別必

要医師数 北海道庁 北海道保健統計年報

(28)

2.3.2 System Dynamics によるモデルの構築

本研究が対象とする医師のキャリアパスを図 10 に示す。このキャリアパスを因果関係図 とし、System Dynamics の概念に基づいて、フローダイアグラムを作成した。また、医師の キャリアパスに関する統計データによってモデル中のパラメータに値を入力し、変数間の 関連を定式化した。フローダイアグラムの作成、およびモデルの定式化には System Dynamics のモデリングソフトである STELLA(isee systems 社)を使用した [34]。

2.3.3 構築したモデルの妥当性の評価

構築したモデルを用いた予測の前段階として、モデルの妥当性を評価する必要がある。一 般に System Dynamics モデルの妥当性検証には実データとモデル理論値との相対的な平均 二乗誤差(Root Mean Square Error:RMSE)によって評価を行う。System Dynamics モデ ルにおける相対誤差 e は(2)式で、RMSE は(3)式で表される。

𝑒 = |( )|

・・・式(3)

𝑅𝑀𝑆𝐸 = ∑

・・・式(4)

𝑦

はある時点

t

におけるモデル理論値, 𝑦 は時点

t

における実際の調査データ、また n は 観測時点数である。RMSE の値が小さければ小さいほどモデルの妥当性は高い、と評価さ れ、一般的に、この RMSE が 0.1 以下である場合、妥当なモデルであると判断される[35]。

ただし、MSE の大きさについて解釈できない場合は最終的な予測結果の評価指標に与える 図 10:日本の医師におけるキャリアパス

(29)

影響によって評価を行う事が必要である。そのため、本章においても RMSE が 0.1 以下で ある場合、妥当なモデルであると評価を行った。妥当性の評価には過去 20 年間の医師数に ついての調査データを用い、20 年間の予測におけるモデルの構造についての妥当性を評価 した。さらに、後述する最終評価指標の医師充足度に与える影響についても評価し、妥当性 を検討した。

2.3.4 予測変数の充足評価

予測した変数の内、将来医師数の充足について評価を行った。全国医師数については、厚 生労働省が実施した必要医師数実態調査を基に、北海道の二次医療圏別医師数については 北海道庁が実施した同調査を基にして充足指標である医師充足度を以下のように定義した [2,7]。

医師充足度

=

予測医師数

必要医師数

×

補正係数 ・・・ 式(5)

この指標の評価基準として、充足度が1より大きい地域は「充足」と評価し、1 未満であ る場合「不足」と評価した。また、補正係数は調査の回答率、病院医師・診療所医師の割合 について補正する係数とした。北海道の二次医療圏別医師数充足度については、地理情報シ ステム(Geographocal Infromation Systems:GIS)を用いて、二次医療圏別の可視化を行っ た[36]。

2.3.5 感度分析による医学部定員の診療科偏在に与える効果予測

変数の不確実性について取り扱いながら、予測に幅を持たせる手法として感度分析を採 用する。医師数に大きな影響を与える政策的な変数であり、現在も協議の上で変動している

「医学部定員数」について過去の変動範囲内である±10%の範囲(レンジ:20%、basecase:

±0%)として感度分析を行った。その結果、全国において診療科偏在にどのような影響を 与える得るかを検証するために、全臨床医師数および産科・産婦人科医師数について感度分 析を行い、双方の結果を比較した。

(30)

2.3.6 Gini 係数による地理的偏在の予測評価

指定地域枠入学等といった政策の効果を予測するために、予測した地域別医師数をもと に Gini 係数を以下の式のように定義し算出した。

𝐺𝑖𝑛𝑖 𝐶𝑜𝑒𝑓𝑓𝑖𝑐𝑖𝑒𝑛𝑡 = ∑ ∑ 𝑦 − 𝑦

・・・式(6)

𝑦 , 𝑦 :各医療圏における医師数 n:二次医療圏数 μ:平均医師数

Gini 係数は 0 から1の間をとり、値が小さいほど格差がないことを意味し、値が大きい ほど格差が大きいことを意味する指標である。したがって本研究では、Gini 係数の値が小 さいほど偏在を小さく、値が大きいほど偏在は大きいと評価した。

(31)

2.4 結果

2.4.1 構築したモデルと妥当性の評価

本章で構築したモデルは、全国医師数予測モデル、北海道医師数予測モデルの2つである。

前者を図 11 に、後者を図 12 にフローダイアグラムを示した。過去 10 年間の医師・歯科 医師・薬剤調査を基に算出した RMSE は全国医師数予測モデルで 0.003、北海道医師数予 測モデルで 0.002 であった。RMSE は妥当性のモデル出力におけるアルゴリズムの妥当性 評価指標であり、当該指標が 0.1 より小さい値であるため、本章で構築したモデルは妥当な モデルであると評価した。さらに、この RMSE の値によって、後述する充足度を用いての 医師数評価結果に影響を与えなかった。

表 4:過去データとの比較および RMSE

年度

モデル 1998 2000 2002 2004 2006 2008 RMSE 全国 実測値[千人] 248.61 255.79 262.68 270.37 277.93 286.7 0.007

予測値[千人] 250.39 257.88 264.74 271.16 277.09 283.71 Relative error 0.007 0.008 0.008 0.003 0.003 0.010

北海道 実測値[人] 10,519 10,921 11,228 11,490 11,579 11,830 0.025 予測値[人] 10,586 10,701 11,094 11,523 11,947 12,362

Relative error <0.000 <0.000 <0.000 <0.000 0.001 0.002

2.4.2 全国医師数における予測結果

図 16 に日本全国における臨床医師数の予測結果を示す。2010 年度で 281,282 人であっ た。2030 年度まで全臨床医師数を増加していき、2030 年度では 370,346 人になり、その増 加率は 24.0[%]であった。図 17 に日本全国における人口 10 万人日本全国における人口 10 万人対全臨床医師数の予測結果を示す。2010 年度で 219.6 人であった人口 10 万人対全臨 床医師数であるが、2030 年では 317.8 人まで増加した。

表  1:医療法改正の内容と趣旨  改正年  改正の趣旨  主な改正内容  昭和 23 年  制定  ・終戦後の医療機関の量的整備  ・医療水準の確保を図るための施設基準整備  ・施設基準創設  昭和 60 年  第一次改正  ・医療資源の地域偏在是正 ・医療施設の連携推進  ・医療計画の導入    二次医療圏ごとの必要病床数設定  平成 4 年  第二次改正  ・高齢化に対応した症状に応じた医療施設機能の体系化  ・患者サービス向上のために必要な情報提供  ・特定機能病院、療養型病床群の制度化  平成 9
図  1:OECD 加盟国における 2020 年から 2040 にかけての人口増減率比較  [5]  次に、国内の人口変動について説明する。国立社会保障・人口問題研究所は地域別に将来 推計人口を算出しており、人口減少のマクロな予測のみならず、市町村別の予測が分析され ている  [6]。図  2 に 2020 年から 2040 年までの全国の人口推計結果、図  3 に都道府県別の 高齢化率を示す。これらの図から、我が国の人口は 2015 年で 127,094,745 人であるが、 2040 年には 110,9
図  2:日本の将来人口推計  [6]
図  7:医師需給分析のフレームワーク
+7

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