数学史を活用 した教材の開発 に関する研究 † 一選択数学用の教材の作成を中心 と して ‑
佐 々木 哲 * 横手市立横手南 中学校
杜 威 **
秋 田大学教育文化学部
高等学校 での新科 目 「 数学基礎」 の導入,及 び, 中学校数学 での選択数学 や課題学習 の 題材 と して,数学史 を活用 した教材 開発 が積極 的 に行 われて い る.数学 の起源 は,遥 か紀 元前 の文明発祥 といわれ る四大文明 (ェ ジブ ト,バ ビロニア, イ ン ド,中国) にまで潮 る.
各地域 で発生 した数学 は, その社会 的 ・文化 的特徴 によ り独 白の発展 を遂 げた.
本研究 は, 中学校 にお ける数学史 を活用 した教材 開発 の枠組 みを提案 し, 中学校選択数 学 での発展 的 な学習 の展 開 と して, 四大文 明か ら数学 の起源 を探 り, 当時の数学 を再現 す
る ことによ って数学観 を ヒュ‑マナイズ して い く数学史 の活用例 を提示 す る.
キー ワー ド :数学史,選択数学,課題学習, ヒューマナイズ, 四大文明
1.
は じめ に
高校数学 で新 しく設置 され た 「 数学基礎」 におい て数学史 的 な話題 を取 り上 げ ることにな り,数学史 教育 が にわか に注 目されて い る.一方, 中学校数学 で は,数学史 を直接 的 に取 り扱 って いない ものの課 題学習 や選択数学等 にお いて数学史 を活用 した教材 を導入 して い る.本研究 は,数学史 を活用 した教材 開発 の枠組 みを明確 に し, その枠組 み に基 づ いて, 中学校選択数学 での発展 的 な学習 のための教材活用 例 を提示 す る ことを 目的 と して い る. また,先行研 究及 び これ までの実践経験 を通 して,次 のよ うに研 究 を進 めて きた.
・学校教育 に数学史 を活用 す る方法 を考 え る.
・数学史活用 の有用性及 び教材化 の視点 につ いて ま とめ る.
・教材化 の視点 に基 づ いて, 中学校数学 において教
2004年
1月
23日受理
IDevelopmentofMaterials for Teaching Elective MathematicsIncorporatingtheHistoryofMathe‑ matics
*AkiraSASAKI,YokoteMinamiJuniorHighSchoo
l ,
Akita* *
DuWE
I,FacultyofEducationandHumanStudies, AkitaUniversity,Akita材化可能 な数学史 の題材 を選定 し,系統 的 に数学 史 を組 み込 んだ事例 を作成 す る.
2.
数学史活用の方法及 び教材化
2‑‑1数学史活用 の方法
数学史 の活用方法,学校教育 の場 に導入 す るため の実践 的方法及 び教材 開発 に関す る塚原久美子氏 の
「 単元全体 を通 しての数学史 の導入 とその検証」,片 野善一郎氏 の 「 数学教育 のための数学史 の具体 的教 材 開発」, そ して磯 田正 美氏 の 「原典 解釈 を通 じて の文化 的視野 の覚醒」 な どの考 え に基 づ いて数学史 を活用 し教材化 す る方法 は, カ リキ ュラム との関連 か ら大 き く,( 1 ) 数学 の歴史 を軸 と して, カ リキ ュ ラ ムを再構成 す る方法 , ( 2) カ リキ ュラムを軸 と して, カ リキ ュラムの中 に歴史 的知識 を取 り入 れ る方 法 の
2つ に要約 で きる.
この
2つ の方法 に共通 して い る理念 は,数学史 を
単 に歴史 的事実 と して捉 え るだ けで な く,数学 の歴
史 をその時代 の社会 的 。文化 的背景 か ら捉 え,数学
を人類 の努力 によ って築 き挙 げた一 つの文化 とい う
ことをよ り強調 して学習 内容 を見直 し,深化 す るこ
とで あ る. そ して,学習者 が数学 とい うと数字 を用
いて数 を表現 した り,数 の関係 を式 で表現 した りす
るが, その当時の数学者 のアイデ ィアや発見 までの 苦労 などを理解す ることによ り,数学 を "ヒュ‑マ ナイズ
(humanize‑人間化す る)"す る必要がある とい うことである. ここでいうヒューマナイズとは, 人間の知的精神活動 のあ りさまを組み込む ことであ
り,人間味のあるものにす るとい う意味である.
方法( 1 ) の特徴 は,学習者が発生的原理 による数学 の発展 の歴史 を知 ることによ り,歴史 を通 して数学 の価値 を認識す るとともに,発展 の様子 を理解す る ことで現在 に至 る数学 を再発見で きることである.
この ときに指導者が注意すべ きことは,数学が これ まで発展 して きた大 きな流れに沿 って実際 に指導す る内容 を配置 し直 し, さ らに,複雑 な数学史 の流れ を圧縮 した形で再構成す ることである. そのため, 教材作成者 には指導 内容だけでな く,数学史 に関す
る深 い理解が求 め られ ることになる.
一方,方法
(2)の特徴 は,指導内容 の単元全体 に, 過去 の数学者達が どのよ うに考 え,諸課題 をどのよ うに概念化 して現在 に至 っているかを学習 に組み込 んでい くことである. この方法のよさは,学習者が 新 しい数学知識 を習得す るときに,新 しい概念やそ の性質が どのよ うなアイデ ィア間の結 びつ きによ っ
て形成 されたかが分か ることである. この ときに注 意すべ きことは,数学史 を学習内容 の単元全体 と結 びっ けるため,数学史 を取 り入れ る際の教材化 の視 点が明確でないと歴史的素材 を取 り入れ る価値が希 薄 にな り,授業 にあえて数学史 を取 り入れ ることの 必然性が問われ ることである.
さ らに,方法 ( 1 ) と方法 ( 2) に共通 して,単元 にはい る前 の導入や, それぞれの指導内容 の適切 な箇所 に トピックス的要素 として,数学史 を学習 に組み込ん でい くことがよ くある. トピックス的要素の使用 は, 例えば方法
(2)の場合,学習者が新 しい学習内容 を把 握す る際に関連 のある歴史的素材 を取 り入れ ること によって,学習者 の興味 ・関心 ・意欲 を高 めること がで きることである. また,方法( 1 ) の場合,数学史 を学ぶ上で も歴史上 の人物 を トピックスと して紹介 することができる. しか し,数学史上の個々の トピッ
クスの位置付 け考えず に扱 う場合があ りがちで,数 学 の発展 の大 きな流れを把握す ることがで きないと い うデメ リッ トがあるので, トピックス的要素使用 の実際の取 り扱 いには十分注意 を払 うべ きである.
以上 をまとめて図
1とな り,実際の学習指導 は左 右 のどっちかの形式で行われ るもの となる.
数学的知識の獲得
図
1数学史活用の方法の構造図
2‑2 数学史活用の有用性
数学史活用の有用性 などにつ いて,塚原久美子氏
(2002)
は,数学 の授業場面 を想定 して,( 1 ) 学習者 が数学的理論 ・原理 ・法則 を関係的 ・構造的に理解
す ることに役立っ
,(2)学習者が数学的な見方 ・考 え
方 のよさを深 く認識す ることに役立っ , ( 3) 学習者 の
興味・ 関心 ・ 意欲 を高 めることに役立っの
3つを上 げ
ている
.(1)また,磯 田正美氏
(2001 ) は,「 数学 が統一 され た世界 のよ うに思え るのは, その内的整合性 のみを 話題 にす るか らである.そのよ うな数学観 も,人間 の生 きる営みにおける数学 の多様 さを体験す ること で相対化で きる.例えば,実際の歴史上 の原典 を開 き, その原典 を記 した人の立場や考え方 を想定 し, その人 に心情 を重ねて解釈す ると,今, 自分 たちの 学ぶ数学が,異 なる時代 ・文化背景 に生 きた人 々に よ って, まるで異 なる思考様式で研究 され,表現 さ れていた ことが体験で きる.それによって, 自分 た ちが学ぶ数学 も生 き生 き した人間の営み として改 め て認 め直せ るのである
.」と述べ,数学 を人 の文化 的営 み として理解 し,数学観 の変容を促す上で 自文 化 に対 す る異文化体験が貢献 し, その体験 を文化的 視野 の覚醒 として特定 している
.(2)さ らに,片野善一郎氏
(1995)は, 「日本 の中高 生 は高学年 になるほど数学が嫌 いにな ってい く. そ の理 由の一つ は何 のために学ぶのかが はっきり理解 で きない点 にある.数学 は人間が数千年 にわた って つ くりあげて きた偉大 な文化であ り,数学 を学ぶ意 義 はどうして も数学 の歴史か ら考 えてみないとわか
らないのである
.」と述べている
.(3)一方,算数 ・数学 と社会 ・文化 をっなげることの 意味合 いと して,長崎栄三氏
(2001)は,今 までの
「計算力」, 「数学 的 な考 え方」, 「数学 の美 しさ」,
「創造性」 な どの意味合 いに,( 1 ) 算数 ・数学 の価値 や意義 を社会や文化 と結 びっ けて理解す るよ うにな る , ( 2) 算数 ・数学 を社会で使 うための力を身 に付 け るよ うになる , ( 3) 算数 ・数学 を通 して社会や文化 を よ り深 く理解す るよ うになる , ( 4) 算数 ・数学 を文化 と して楽 しむ ことがで きるよ うになるの
4つを加え るべ きだ と主張 している
.(4)以上 あげた
4者 の考 えを もとに して,数学史 を教 材化 してい くことを考 えた場合,それを用 いて学習 す る者の心の変化 について,次の仮説が立て られる.
学習者の数学する心 は,その個人が持 つてい る 「 数学観」 に左右 される.その数学観をよ り 幅広 く変容 させるために数学史 は役立ち,学習
ここでの "ヒュ‑マナイズ' 'について,塚原氏 は 次 のよ うに述べている.
「 数学史が数学学習 において数学 を "ヒュ‑マナイ ズ"す るとは,数学学習 に人間の知的精神活動 のあ
りさまを組み込む ことであると定義す る. このとき, 知的精神活動 のあ りさまとは,文化社会 との関わ り の中で展開す る,人間の思考活動 における数学的な 考え方及 び数学的定式化 のための発見のプロセスで ある.すなわち,数学学習 において数学 を "ヒュー マナイズ' 'す るとは,数学的な考え方の真髄 を探 る ことである. この意味 において,数学史 は,数学的 な考え方 の現実的世界 を提供す るもの として位置付 け られ る.数学教育の目標が,数学的知識 の獲得 そ の ものでな く,数学的知識 を獲得す る際のプロセス にあるとす るな らば,数学史 は,そのプ ロセスにお いて,数学的な考 え方 の現実的世界を提供 し, もの の見方 に対す る深 い洞察 と問題解決 に向 けての示唆 を与えるとい う役割 を担 っている.
」(5)したが って,上記 の仮説 を次 のよ うに書 き直す こ とがで きる.
数学する心‑ ( 既存の数学観)
‑ 変容 させるために数学史を活用 ( 数学を ヒユーマナイズ)
‑ ( 新 しい数学観)
‑数学する心の変容
2‑‑3教材化の基本的な枠組み
数学史 を活用 し教材化 してい くためには, その根 底 に,生徒 の数学観 を ̀ ̀ ヒューマナイズ' 'してい く 必要があることは述べたが,では実際にどのように して "ヒュ‑マナイズ" してい くかを具体的にす る と次 の
2つの視点が重要 にな って くる.
【 視点 1 ‑歴史を軸 と した教材化j l
既習事項 を振 り返 りなが ら,数学 の歴史を考 察 し, どのような歴史的社会的背景か ら今 のよ うな概念がで きあが ったか とい う数学 の大 きな 歴史の流れを学習す る方法である. この場合, 選択数学や総合的な学習等 に活用で きると考え
られ る.
【 視点
2‑カ リキ ュラムを軸 と した教材化】
新 しい内容 を学習す る際に,歴史的知識 を取 り入れなが ら既習事項 と未習事項 を結 びっ け, 発見や創造 のプ ロセスをたどりなが ら学習す る 方法である. この場合,普段 の学習や課題学習 等 に活用で きると考え られ る.
図
2で示 され るよ うに視点
1の場合, は じめに数
学が好 き ・嫌 い,得意 o不得意 にかかわ らず,学習
者が既 に形成 している数学観 があ る. これを既存 の 数学観 と呼ぶ ことにす ると, その中には学習者 が今 まで数学学習 を通 して身 に付 けて きたいろいろな数 学 的知識が含 まれて いる. この既存 の数学 的知識 を A とす る. ここで, 今 まで学 習 して きた知識 を, 数学 の歴史 に沿 って カ リキ ュラムを再構成 した歴史 的知識 で あ る
Bを学 習 の中 に取 り入 れ, 既習事項 を数学 の歴史 か ら振 り返 ってみ る.例 えば,記号が なか った時代の当時の解法を実際に体験 し,昔 の人々 の様 々なアイデ ィアや計算 の苦労, また当時の数学 の社会的背景 な どを学習 (ヒューマナイズ) す るこ とによ って, 学 習者 に は
AUBとい う新 しい数学 的知識が形成 され,今 まで と違 った幅広 い,新 しい 数学観 がで きあが ることにな る. ここで,
AnBは 互 いを比較検討 す ることによ って身 に付 け られ る, 数学的 な見方 ・考 え方 のよさとな る. さ らにその中 心 には,数学史 を活用す ることによ って ヒューマナ イズされた数学 的 な見方 ・考 え方 の真髄 があ ると考 え られ る.
図 2 教材化の基本的枠組み 視点 1
図 3 で示 され るよ うに視点 2 の場合,基本的な部 分 は視点
1と同 じであるが, ここでは新 しく学習 し, 身 に付 けなければな らない事項 を新 しい数学 的知識 B とす る. ふっ うの教材 で は, 既習事項 A と新 し
く学習 す る事項
Bのつ なが りしかないが, そ こに, カ リキ ュラムに沿 って歴史 を単元化 した歴史 的知識 で あ る
Cを学 習 に取 り入 れ, 既習事項 や新 しく学 習す る事項 を数学 の歴史か ら振 り返 ってみ る.現在 の解法が どのよ うなプ ロセスをた どって いるのか, 原典 を実際 に解釈 しなが ら当時の解法 と現在 の解法 と互 いに比較 し, また当時 の数学 の社会的背景 な ど を学習 (ヒュ‑マナイズ)す ることによ って,学習 者 には
AUBUC とい う新 しい数学 的知識 が形成 さ れ,今 まで と違 った幅広 い,新 しい数学観がで きあ が ることにな る. ここで
,AnB,BnC,CnAは互 いを比較検討 す ることによ って身 に付 け られ る,数 学 的 な見方 ・考 え方 の よさとな る. そ して
,3つの 共通 の部分 は,新 しい概念 や理論 が どのよ うなアイ デ ィア間の結 びっ きによ って形成 されたのか, また
図
3教材化の基本的な枠組み 視点
2は歴史 的 にどの よ うなプ ロセスを経 て現在 に至 るか とい った数学 的 な見方 ・考 え方 の真髄 とな る.
3.
教材化 の実例
3‑1
視点
1に基 づ いた教材化 の例
(
「方程 術」 によ る連立方程式 の発展例) 中国 の
『九葺算術』 を例 に してみ る.
『九章算術 一方程章』 の問題 第九 問
いま雀
5羽 と燕
6羽 が, はか りの横 ざおの両 端 に集 ま って い る.雀 の方 が燕 よ り重 く,雀
1羽 と燕 1羽が入 れかわ ると構 ざおは水平 になる.
また,燕
6羽 と雀
5羽 の合計 の重 さは 1斤 であ る.雀 と燕
1羽 の重 さはそれぞれ何両 にな るか 求 め な さい. ( 症 :斤 と両 は中国 の重 さの単位 で
,1斤
‑16両 とな る.当時 の
1両 はおよそ
14g)『九章算術』 は,今 か ら約二千年 ほど前 の時代 に つ くられ た中国 の古算書 で一章 か ら九章 まで
246問 が収録 されている. その第八章 は 「 方程」章 であ‑ り, その解 き方 を方程術 と呼 び, これが 「 方程式」 の語 源 とな って い る. また中国の数学 は, 日本 の数学 に も非常 に大 きな影響 を与 えてお り, のちの和算 と し て さ らに発展 して い く歴史 的背景 が あ る.
A 既習事項 で あ る,連立方程式 を用 いて関係 を表 す と,次 のよ うにな る.
雀 と燕 の重 さを x,yと して関係 を方 程 式 で表 す と,雀 と燕 を入 れかえ ると横 ざおが水平 にな る, 燕
6羽 と雀
5羽 の合計 が
1斤
‑16両 か ら
( 4 x + y
‑5y+x6)/+5∬‑16
とい う
2つ の式 が得 られ るので, これ を連立方程式 で解 くと答 えが出て くる. ‑‑‑( 1 )
B 算木 によ る解法 ( 当時 の解法 の再現)
算木 によ る解法 につ いて は, まず当時の歴史 的 ・ 社会 的背景 を考 えな ければな らな い. この時代 の中 国で は計算 す る道具 と して,算木 を用 いて いた.算 木 での数 の表 し方 は縦式 と横式 が あ り, 当時 は算木 を用 いて様 々な計算 を行 って いた. 四則計算 は もち ろん,連立方程式 の考 え ( 方程術) や行列 の考 えな ど現代 の解 法 と比較 す ると非常 に興 味深 い ものが あ る. なお計算 の仕方 は,現在 の方法 とは異 な り, 四 則計算 な ど高 い位 の方 か ら川 副こ計算 して い くことに な って い る.
【 実 際 の算木 の操作】
a) 関係 を縦 ( 行) に並 べ る.
I H日
雀
IlHJl 燕
¶ ¶ 重
i) 左行
×4( 右行 の雀
4)をす る.
llll Hl
雀 l 燕
… ll
W 重
③左 行 一石行 をす る.
1‑ Eid 法 実 rutt qL U
雀 燕 重
1 日 工 E仙Ⅶ
ニ
K 連立方程式 との比較】
(
芸x'
.5
;≡≡
:: 二 芸
①
×4‑②
4x+20y‑32 I)4x+ y‑8
19y‑24 24
\
‑ 1..̲l④方程術 で は,演 ( 除数),実 ( 被 除数) なので
燕
昔両 を得 る・ ‑・ ・ ‑
・・(2,○数学 的 な見方 ・考 え方 の よさ
この課題 の数学 的 な見方 。考 え方 のよ さは,課題 を じっ くりと読 み取 る ことによ って ,2 種類 の連立 方程式 が立式 で きる ことで あ る.ふっ うは,原文 を 忠実 に読 み取 る方法( 1 ) の式 を用 いて解 く. しか しこ の方法 で は方程式 が複雑 にな り, また,答 えが両方 と も分数 で あ るため, もう一方 の解 を求 め るための 計算 が面倒 で あ る. そ こで,方程術 で はどの よ うに して解 いて い るかを見 てみ ると,原文 の註釈 には,
『雀 と燕 を入 れか え る と横 ざおが水平 にな る ことか ら,四雀‑燕 と‑雀五燕 で は, はか りは水平 にな り, 合計 の重 さは‑斤 であ ることか ら, ゆえ に重 さをそ れぞれ
8両 とす
̀ ヽ 、 . ノ へ ̲ m ること.
(2) 』 が アイデ ィア (よ さ) とな って い る. このよ うに考 え ると,連立方程式 の 計算 はよ り簡単 にな ることが分 か る.
●数学 的 な見方 。考 え方 の真髄
この課題 を活用 す る際 に,重要 な ことは実 際 に算 木 を使 って計算 してみ る ことであ る.
′ \ ̲ (. m 当時 の人 が ど のよ うに して課題 を解決 して いたのか を学習者 が体 験 す ることによ って,数学観 が "ヒューマナイズ"
されて い くと考 え られ るか らで あ る. そ して, この
算木 を活用 した解法 ( 方程術) は,現在 の連立方程
式 の加減法 の考 えを用 いてお り,文字 の係数 と定数
項 を縦 に並 べて い ること, さ らには この考 えが高校
へ いって学習す る行列 の考えに もっなが っていると い うことを確認す ることによって方程式 に対す る学 習者 の考 えがよ り深 まってい くことになる. また, 九章算術 の方程章 には
3元以上 の連立方程式 の問題 も記載 されているので, この問題 を活用す ることに よ り, さ らに発展的な課題へ と展開 してい くことが で きると考え られ る.
3‑2
視点
2に基づいた教材化の例
(「 鶴亀算」 による連立方程式の導入)
連立方程式の導入 と して,鶴亀算 を活用す る. こ の鶴亀算 の解法 は,仮定法 によるもので文字式 を使 わないで解 く方法である.歴史的には,中国の算術 書 『 孫子算経』 に出て くる問題 で原文 は,経 と兎 と な ってお り,鶴 と亀ではないが, 日本 に伝 わ り江戸 時代 には,和算 の問題 として有名 にな り,鶴亀算 と 呼ばれ るよ うにな った. この鶴亀算 は,昭和1
0年か ら使用 された緑表紙教科書で取 り上 げ られている.
「 導入問題」
鶴 と亀 が何 匹か い る.頭 の数 は1
00で,足 の 数 は
272である.鶴 と亀 はそれぞれ何匹か ? A l次方程式 による解法
亀 の数 を
xとおいて方程式 をつ くると, 4x+2(1001X)‑2724x+200‑2x‑272 4x‑2x‑272‑100
2x‑72 .で‑36 100‑36‑64
よって,鶴6
4羽 亀3
6匹 となる.
01
次方程式 と連立方程式 の関連
(AnBの数学的な見方 ・考 え方 のよさ)
・亀 の数 を x ,鶴 の数 を y とお くと,頭の数 と足 の 数か らそれぞれの式が得 られ る.
(x+y‑loo 4x+2y‑272
この連立方程式 の解法 は未習であるが,上 の式 を変 形 して,下 の式 に代入すれば
y‑1001X
4x‑2(100‑x)‑272
とな り,既習事項 であ る, 1次方程式 と同 じ式が得
られ る.つ ま り,連立方程式 の解法の一つである, 代入法の考えが導 き出され ることになる.
C
鶴亀算 による解法
・原文 には,下 のよ うな術が載 っている.
100×4‑272 4‑2 272‑100×2
芋 64
‑ 普
‑36で求 まる・
これを分か りやす く説明す ると下 のよ うになる.
①亀 が前足 を引 っ込 めた とす ると,亀 の足 は
2本 になるので,1
00×2‑200本
② しか し,実際 には足 は2
72本 あるので,
272‑200‑72本多 い
③足 の数 の差 は,4‑2‑ 2 本 ( 引 っ込 めた分)
○鶴亀算 と連立方程式 との関連
(Bn
Cの数学的な見方 ・考え方 のよさ)
鶴亀算 を図形的イメー ジで考 え ると,連立方程式 の加減法 の考 えが兄 いだ され る. ( 図
4)図
4鶴亀算 と加減法 の図形的表現
○鶴亀算 と
1次方程式 との関連
(An
Cの数学的な見方 ・考え方 のよさ)
鶴亀算 と
1次方程式 との関連 につ いては, まず鶴
亀算 と方程式 との違 いを考 え る必要がある.鶴亀算
の解法 は算術的であるため,すべての式変形 の途中
で現れ る量 の意味を考えなが ら計算す るか,一般的
な解法 を暗記す る必要があるのに対 して,方程式 は
未知 の ものを
xとい う文字 を用 いて等式 を作 る こ とにそのよさがある.つ まり,量 の意味を考え る段 階 ( 立式す る) と, その意味を満足す る量 を求 める 段階 ( 方程式を解 く) とをそれぞれ別個 に行 うこと が可能 となるのである.
両者 の解法 を比較す ると,鶴亀算 の解法 は方程式 の右辺の部分を算数的に表 しているとい うことに気 付 くことであろう. また,鶴亀算 の解法である,
272‑100×2
X = 4‑2 ‑ ?
‑3 6
は
,1次方程式の一般解を表 していることにもな り, この方程式 の意味の理解 に も生 きていると考え られ る.
●数学的な見方 ・考え方 の真髄
(AnBnC
の部分)
歴史の流れを意識 しな くて も, この三者の方法 は, 算術 的な解法,代数 的 な解法 ( 1次方程式), さ ら に文字 を
2つ用 いることによって方程式 をわか りや す くす る解法 ( 連立方程式) とい う小学校‑中学校
1年生‑ 中学校
2年生 とい う流れ,つ ま り学校数学 のカ リキュラムに沿 っての流れにな っていることが わか る. しか し,実際には学習者 にどの解法がわか りやすいか と問いかけると,算術的解法
<1次方程
式<連立方程式 と答え る人が圧倒的に多 い.算術 的解法が難 しいのは文字 を使 わないか らであ り, こ
こで昔 の人 は仮定法を少 しで も分か りやす くしよ う と し,亀 の前足 を引 っ込 めるとい うアイデ ィアを思 いつ くことになる. この学習を通 して,学習者 は昔 の難問が代数的 に文字 を使 うことによって簡単 に方 程式 に表す ことがで きるとい う文字式 のよさを再認 識 し, さらに連立方程式 とい う上位概念 をスムーズ に理解で きることになると考え られ る.
4.
選択数学 における数学史の活用例
文部科学省が平成
14年 に発刊 した 『 個 に応 じた指 導 に関す る資料 ( 中学校数学編)』 には,新学習指 導要領 の最低基準性 を述 べ, 「 発展 的な学習 とは, 学習指導要領 に示す内容 を身 に付 けている生徒 に対 して,学習指導要領 に示す内容 の理解 をよ り深 める 学習を行 った り, さ らに進んだ内容 についての学習 を行 ったりするなどの,学習指導であるといえ る.
」(6)と記 してある. これを受 けて,選択数学 の発展的な 学習 に数学史を取 り入れて教材化 した.
四大文明か ら数学の起源を探 る選択数学の例 数学史 を教材化す るにあた って,中学校数学 の内 容 として古代数学 に着 目 した.一般 に数学史 の活用 として,題材が豊富であるギ リシャ数学か ら歴史的 素材を選定する場合が多いが,数学の起源はギ リシャ 数学だけでな く,文明発祥 といわれる四大文明で も, それぞれ独 自の数学が発展 していた.そ こで,四大 文明の数学 の特徴 を本研究で規定 した枠組みに基づ き教材化 し中学校選択数学 に活用 してみ ることとし た. .その際,教材化す るにあた って次の
3点 を配慮
した.
( 1 ) 四大文明を数学の起源 と して,そ こか ら数学 の 歴史 を圧縮 して,数学史 を再構成す ること. これ
を図
5にまとめている.
(2)
歴史的素材か ら, ヒュ‑マナイズさせ るための 視点 と中学校数学 の内容 をさ らに発展 させ るよ う な教材 の工夫.表
1は, これの例 を示 している.
( 3) 実際の授業で評価 をす るための評価基準表 の作 成.表
2は, これの例 を示 している.
5.
まとめ
本研究 の成果 と して挙 げ られ ることは,数学史活 用 の方法,数学史活用 の有用性,数学史を活用す る 際の教材化 の視点 などを含 めた,教材開発 の枠組み を明確 に した ことであ り, この枠組みに沿 った実例 と活用例を提案 した ことである. この枠組みに基づ いて数学史 を教材化 した ことによ り,単 に数学史 を トピックス的要素 として扱 うだけでな く,学習活動 全体 を通 して数学史 を活用す る教材化が可能 とな っ たと言え る. しか し,本研究 によって提案 された こ とを現場での実践を通 して検証 してい くこと,現場 の実態 に合わせて評価等 を工夫 し, この提案 した例 を調整及 び修正 してい くことは,今後 の課題 と して 残 されている.
IEA
の国際数学 ・理科教育調査 によ ると, わが 国の数学 の学力 は国際的に見て も高 い水準 にあるが, 数学 を好 きな生徒 は諸外国 と比較す ると少 な く, ま
た,計算 はで きて も多角的な ものの見方や考え方が 十分ではないとい う傾向が見 られ る.
数学が好 きだという生徒を一人で も多 くし,また, 生徒が 自ら学 び自ら考える力を身 に付 けさせ るため
に も,数学史 を学校教育 に活用 し,算数 。数学 と社
会 ・ ・文化をっなげることが,今後より一層重要 になっ
て くるのではないか と考え られ る.
図
5数学史教材化の視点と授業の流れ
蓑 1
単元の構成例
(¶2時間扱い)
時 題材名 歴史的素材 学習 内容 .評価 ヒユーマナイズの視点 発展課題
1
数 の起源 Ⅰ ヒエ ログ リフ,横形 いろいろな記数
10進位取 り記数法 の
2進 法 や n進 法 四大文 明の特色 文字, ローマ数字 法 ア①, エ( ∋ 成 り立 ちにつ いて の考 え
2
数 の起源
Ⅱ『リン ド. パ ピルス』 単位分数 の表 し 分数 と小数 の成 り立 循環小数 と分数 分数 と小数 の歴史 パ ンの分配 の問題
方イ庄) , ウ① ちにつ いて 数 と無理数 につ の表 し方,有理
3古代 エ ジプ トの数学 『リン ド.パ ピルス』 古代 の方程式 古代 の方程式 の解法
エ ジプ ト数学 の特徴 ア‑の問題 仮定法 イ( 3,ウ② 仮定法 につ いて いて
4
古代 中国の数学 『九章算術』 算木 によ る解法 方程式 の語源であ る
3元連立方程式 中国の数学 の特徴 方程章 の問題 方程術 イ( 2 ) ,ウ③ 方程術 につ いて や行列 の考 え
5日本 の数学 和算 Ⅰ 『 塵劫記』 ,遺題継承, 杉成算,薬師算, 日本独特 の数学 「 和 算木 による計算
和算 の歴史 算額奉納 旅人算,盗人算, 算」 の歴史 を知 る 法や算額奉納 な ど和算 につ いて
6
日本 の数学 和算
Ⅱいろいろな算術 鶴亀算, などの 算術 と方程式 の解法
いろいろな算術 算術 ア②,ウ② の比較 詳 しく調 べ る
7
イ ン ドの数学 Ⅰ 『‑ ノイの塔
』の問 大きな数の表 し方
0の発見 と
10進位取 大 きな数 と小 さ イ ン ドの数学 の特徴 是萱
1 0 nアe) , エ( 診 り記数法,大 きな数 指数法則 につ い な数 の表 し方 と
8イ ン ドの数学
Ⅱ 『 リーラ ー
ゲア
テ ィ ー 』仮定法 と逆算法 韻文形式 による数学
バ スカ ラ Ⅱ世 の問題 イ受) , ウ② 書,仮定法 と逆算法 て
9
バ ビロニアの数学 Ⅰ 『裸形 粘土 板』 の問
60進法 ( 二 時間な
60進位取 り記数法 と
2次方程式 の解 バ ビロニア数学の特徴 題 ど) ア②, エ② バ ビロニアの代数 数 の関係 につ い の公式や解 と係
1 0
バ ビロニアの数学
Ⅱ『アル ジ ャブル ○ワ
2次方程式 の解 代数 の語源 とアル ゴ アル フワ リズ ミ‑ ル .ムカバ ラ』 法 イ喧) , ウ③ リズムにつ いて て
ll
ギ リシャの数学 Ⅰ 三角数 と四角数 数列 につ いて ギ リシャ数学の特徴, 図形数 n角数 へ の発展 や黄金比 につ いて
ピタゴラス アe) , イ③ 現在 の数学 の基礎
12
ギ リシャの数学
Ⅱ『ユーク リッ ド原論』 幾何学的代数につ 論証幾何学,学 問 と
表
2評価基準の例
ア 数学への関心 .意欲 .態度 イ 数学的な見方 .考え方 ウ 数学的な表現 .処理 エ 数量 .図形の知識 .理解
①
10進位取 り記数法が普及 ① いろいろな記数法 の ①古代 エ ジプ ト.バ ビ ① いろいろな記数法 の す るまでの記数法 の変遷 に 特徴 を知 り
,10進位取 ロニアの記数法 を
10進 特徴や分数,小数 の歴 学 関心 を もち,積極的 に数学 り記数法 までの変遷 を 法 に表 した り,循環小 史 を知 り
,10進位取 り 翠 の歴史 につ いて調べ よ うと 発展的 に考察す ること 数 を分数 に表 した りす 記数法 の有用性 を理解
墓 に お け る ②数学 の発展 の歴史 とその す る
○( がで きる 算術的方法 と方程式 を 比較 し,文字式 のよ さ 算術的な方法 と方程式 塾仮定法や逆算 な どの
○②仮定法や逆算 な どの を用 いた方法で歴史的 ることがで きる
○②各地域 にお ける数学 して いる
○目
深 狗 式 や文字式 の歴史 につ いて 関連 につ いて考察 し,方程 を考察す ることがで き 問題 を解 くことがで き る
○る
○の特徴 と数学 の社会的 な役割 などを知 り,数
≡ 積極 的 に調 べ よ うとす る
○③乗法公式や
2次方程 ③方程式 や文字 を使 つ 学 の発展 の歴史 を理解
引用文献
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pp.9‑10(3)
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,p.22(4)
長 崎栄三編著
,2001,算数 と社会 ・文化 のつ な が り, 明治 図書
,p.12(5)
同( 1
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CD‑ROM
版 中学 校数学 科教 育実 践講座 理論編
3, ニチ ブ ン出版
9.
薮 内清他編訳
,1980, 中国天文学 ・数学集,朝 日出版
10.
矢野道雄他編訳
,1980, イ ン ド天文学 ・数学集, 朝 日出版
Summary
Variousattemptshaverecentlybeenmadeto incorporate the history of mathematics in coursesatboth juniorhigh schooland senior highschoolleveleducation.Theoriginofmathe一 maticscan betraced back to thefourmajor civilizations developed in Egypt
,
Babylonia,
India,andChina.However,thenotionofmathe一 maticshadsincetakendifferentroutesineach area.Thepresentpaperattemptstodescribethe processofdevelopingasetofmaterialsthatwere specificallypreparedfortheoptionalcoursesin mathematicsforjuniorhighschoolstudents.By usingthehistoryofmathematicsinmathematics class,arguably,itisexpectedtobecomepossible toprovidestudentswithanopportunitytolearn how variouspeoplewereinvolvedindeveloping thebasicsofmathematicalideas.
KeyWords:History of Mathematics,Elective Mathematics,LearningMathematics through Problem
,
Humanized,The FourMajorCivilizations(ReceivedJanuary23,2004)