公正価値測定のフレームワーク化
今 田 正
Abstract
lnJune2004,FinancialAccountingStandardsBoardissuedProposedStatementofFinan‑
cialAccountingStandardsFairValueMeasurementsthatestablishesaframeworkoffairvalue measurement.Thatistosay,theaimofthisstatementistoestablishthefairvalueframeworkap‑
pliesbroadlytofinancialandnonfinancialassetsandliabilitiesthatwoulduseinallestimatesof fairvalue.Asabasisoftheframework,thestatementestablishesahierarchythatconsistofthree broadcategoriesoftheassumptionsanddatathatshouldbeusedtoestimatefairvalueandthree valuationtechniquesconsistentwiththemarketapproach,incomeapproach,andcostapproach.
Thepointisthatthestatementrequiresthatintheabsenceofquotedpricesforidenticalor similarassetsorliabilities,fairvaluebeestimatedusingmultiplevaluationtechniquesconsistent withthemarketapproach,incomeapproachandcostapproachwhenevertheinformationnecessa‑ rytoapplythosetechniquesisavailablewithoutunduecostandeffort.
ThepaperdiscussesthesefeaturesofthestatementandexaminestheaccountingImplica‑ tionsofestablishingtheframeworkoffairvaluemeasurements.
Keywords:fairvalue,fairvaluehierarchy,multiplevaluationtechniques
はじめに
FASBは2004年6月,公開草案 「公正価値 の測定」1)(以下,単にステイトメソ トという) を表わ したが, このステイ トメソ トは広 く金 融資産 ・負債 お よび非金融資産 ・負債 につい て適用 される公正価値測定法の指針を示 した
ものである。
従来 GAAPに示 された公正価値の適用指 針はペース ミール ・アプローチを採 り,その 指針は多 くのプロナウンスメソ トの間に分散 した ものであった。特 に,市場価格が得 られ ない条件下での信頼性ある公正価値の見積 り
1)FASB,ExposureDraft,ProposedStatementof FinancialAccountingStandards,FairValueMea‑
suylementS,June,2004.
法が非金融資産の測定問題 との関連で焦点を な して きた2)。 これ らの問題 に対 応 す べ く FASBはその公正価値測定の 目的 と適用法を 明確 にするフレームワークの開発 を決定 した りである3)0
すなわち,2003年6月に FASBは この公 正価値測定プロジ ェク トを検討課題 に加 えた が, これは公正価値測定の 目的 とその適用法 に関 して従来の金融商品に関す る個別プロジ ェク トに換 えてすべての資産 および負債 に広 げた包括的公正価値測定のフレームワー ク化 を 目指 した ものである。すなわち,すべての 金融商品についての公正価値測定の適用の課
2)zbid.,par.C3.
3)zbid.,p.V.
港(「包括的公正価値測定」)4)は一 時留保 し,当 面 の 短 期 的 目標 (フ ェーズ1) と して 現 行 GAAPにおけ る公正価値 測 定 目的 とその適 用 を明確 にす る枠組 みを示 す こ ととし,その 最終 的 な概 念 フ レーム ワー ク化 については本 プ ロジ ェク トの長期 目標 (概念ステイ トメソ ト 第5号の改訂) として位置づ けたのであ る5)0
この ように,本 ステ イ トメソ トは未 だ概 念 ス テ イ トメソ トを構成 す る ものではないが, 公正価値概 念 を体系化 し一般化 す るこ とに よ って公正価値 の多元的評価 の枠組 みを公式化 す る 目的 を担 ってプ ロナウソス された もので あ る。 以下 , このステ イ トメソ トに も られた 公正価値概 念の 内容 とその体系化 の意味 を検 討 す る こ とで,その担 ってい る会計 的機能 を 分析 す る。
Ⅰ 公正価値測定の体系化
(1)公正価値 の定義
まずステ イ トメソ トは,公正価値 を 「資産 または負債 が取 引の知識 を有 し,意 思があ る 非 関連 当事者 間の現在 の取 引 において交換 さ れ るであ ろ う価格 であ る」6)と定義 づ け る。
そ こで,「公正価値 測定 の 目的 は資産 また は負債 についての実際の取 引がない場合 に, 測定対象 とな ってい る資産 または負債 の交換 価格 を見積 るこ とであ る。 したが って,その 見積 りは意 思があ る当事者 間の現在 の仮想上 の取 引 を参 照 して決 定 され る」。 こ こで い う 意 思 あ る当事者 とは,(a)知 識 が あ り,当該 資産 または負債及 び取 引 に関連 す る要 因 につ いて通 常 の判 断 力 を有 し, (b)同一 市場 で法 4)FASB,StatementofFinancialAccountingStan‑
dardNo.133,AccountingforDerivativeInstruments andHedgingActivities,June1998,pars.331‑334.
5)FASB,FairValueMeaswements,op.cit.,pars.C 10‑C12.
6)Ibid.,par.4.
的及 び財務 的能 力 を有 して取 引 を行 う意 思 と 能 力があ って ,それ を行 う非 関連 当事者 であ る買 い手 と売 り手 を代表 す る市場参加者 が仮 定 されて い る7)。例 えば ,概 念 ス テ イ トメソ
ト7号 (パ ラグラフ26)は市 場 参 加者 (mar‑ ketplaceparticipants)の一般概 念 について 次 の ように述 べてい る8)0
「市場は多 くの機能を有するが, とりわけ情 報を価格の形に変換するシステムであるといえ る。市場参加者は,資産に価格を付けるが,そ うすることによって,ある資産の リスクおよび 報酬 と他の資産の リスクおよび報酬 とを識別し ている。換言すれば,市場の価格決定機構を通 じて,相違するものは同一のものにはみえない ということ,また同一のものは相違するものに はみえない ということが保証されている (会計 情報の質的特徴)。入手される価格情報には, 資産 または負債の効用,将来キ ャッシ ュ ・フ ロー,その将来キャッシュ ・フローに伴 う不確 実性,それにかかる不確実性を負担することに 対 して市場参加者が要求する金額に関して,す べての市場参加者が同意 した見解が反映されて いる。」
まず ,FASBは公 正価 値 測 定 の フ レー ム ワー ク化 の基礎 として公正価値 の定義 を明確 に したのであ るが, これまでの プロナ ウソス メソ トに お い て な され た定 義 に お い て 明示 的 ,黙示 的 に含 まれていた交換価格 の概 念が ここで も強調 されてい る。交換価格 とは通常 の事業上 の配慮 に動機 つけ られた市場参加者 の行 う "仮 想上rhypothetical)"の取 引 に基 づ く見積 りであ る。 つま り,定義 は測定 され るべ き資産 または負債 についての実際 の取引
7)zbid.,par.5.
8)FASB,StatementsofFinancialAccountingCon‑
ceptsNo.7,UsingCashFlowInformationand PresentValueinAccountingMeasuylementS,Febru‑
ary2000,par.26.
かない場合の当該資産 または負債U)交換価格 を複製 す る (replicating)基礎 として仮想上 の取 引が不可欠 であ るこ とを明確 に した9)の であ る。
(2)公正価値測定の ヒエラルキー化
1)公正価値測定の評価技法 (アプローチ法) つぎに,ステイ トメソ トはその公正価値 の 評価技法 (valuation techniques)としてマー ケ ッ ト ・アプローチ (marketapproach),イ ンカム ・アプローチ (incomeapproach)お よび コス ト ・アプ ローチ (costapproach) をあげ,次の ように規定する10)0
a.マーケット・アプローチは,同一か類似の, あるいはその他の比較可能な資産ないし負 債 (事業を含む)の実際の取引から得 られ る観察可能な価格および情報を用いる。公 正価値の見積 りはそれらの取引価額に基づ いてなされる。
b.インカム ・アプローチは,将来金額 (将来 キャッシュ ・フロー或いは稼得利益)を一 つの現在金額に転換する (割引 く)評価方 法を用いる。公正価値の見積もりはそれら 将来金額についての市場の期待額にも基づ いている。これらの評価技法 として現在価 値法また現在価値法を取 り込んでいるブラ ック ・シ ョールズ ・モル トソ ・モデルや格 子モデルのようなオプシ ョン ・プライシン グ ・モデルなどがある。
C. コス ト・アプローチは,資産について用い られ,その給付能力を取替えるのに現在必要 とされる金額 (現在取替原価)を考える。
公正価値の見積 りは陳腐化 (物理的減価, 機能的 ・経済的陳腐化を含み,財務報告 目 的,税 目的の減価償却より広い)を修正 し たうえで同等の能力を有する代替資産の取 得原価であると考える。
9)FASB,FairValueMeaswements,op.cit.,par.C24.
10)zbid.,par.7.
すなわち,公正価値の見積 もりは基本的 に は,マーケ ッ ト ・アプローチでは観察可能な 市場価格 によ り, インカム ・アプローチでは 割引現在価値 に よ り,また コス ト ・アプロー チでは現在取替原価 によって決定 され る とさ れ るのであ る。 これ ら自体は従来か らの公正 価値 の構成要素 を取替原価 ,正味実現可能価 額 お よび割引現在価値 とす る考 え方11)と異 な ることはないが,注 目され るのは, ここで資 産評価 の一般概 念 であ る 3つの アプ ロー チ 法12)を公正価値測定の技法 として導入 し定式 化 した ことであ る。
2)マーケ ッ ト指標
つぎに,ステイ トメソ トは これ ら評価技法 の測定 属性 に 「マー ケ ッ ト指標」 (market inputs)を強調す る。マーケ ッ ト指標 とは市 場参加者がその公正価値の見積 りにおいて用 い るであろ う諸仮定 お よびデー タ (assump‑
tionsand data)をいい,公正価値 の見積 り に用 い られ る評価技法は3つの うち どのアプ ローチ法 を採 ろうとも活発 な市場 か ら得 られ るそれを含めて,マーケ ッ ト指標 が強調 され る13)0
た とえば,ニ ュヨー ク証券取引所の ような 活発 な市場 におけ る市場 相場価 格 は実 際 の (観察可能な)取引を代表 し,容易 にかつ継 続的 に利用可能であ る。容易 に利用可能 とは 各情報 に直ちにア クセス可能であること,ま 11)ASB,Statementofprinciplesforfinancialreport‑
1ng,1999,par.6.5.
Barth,M.E.andW.RLandsman,Fundamental lssuesRelatedtoUsingFairValueAccountingfor FinancialReporting,AccountingHorizons,Decem‑
ber1995,p.99・
12)Reilly,R.FandR.P.Schweihs,ValuingIntangi‑ bleAssets,McGrawIHill,1999,p.96・
Smith,G.Ⅴ.andR.L.Parr,ValuationofZntellec‑ tualPy109ertyandIntangibleAssets,ThirdEdition, JohnWily&Sons,Inc.2000,pp.163‑164.
13)FASB,FairValueMeasurements,op.cit.,par.9.
た継続的に利用可能 とは価格情報が継続 して 提供 されるほ どの十分な頻度をもって取引が 行われていることを意味 しているとされる14)0
また,マーケ ット指標はタイム リーで,企 業か ら独立 した情報源か ら,そ して市場参加 者が価格決定 に用いた情報 に基づいて決定 さ れねばな らない とされ,その例に次のご とき ものをあげる15)0
a.市場相場価格 (完全取引価格 としての相場, 買い呼値 ・売 り呼値或いはレー ト), これに 適切な修正 を施 した もの。
b,情報 ;金利,利回 り曲線,ボラテ ィリテ ィ, プ リペ イメン ト ・スピー ド,デフ ォル ト率, 損失度合,信用 リスク,流動性 ,お よび為 替 レー ト。
3)評価の前提
また,ステイ トメソ トは公正価値の見積 り において,市場参加者が とるa.継続企業をな す事業体 であ るか,b.企業 に よる利用のた めに構成 される資産 を継続 して使用する とい う 「継続的使用の評価前提」 (going‑concern /in‑usevaluationpremise)と売却 を 目的 と する 「交換の評価前提」(in‑exchangevalua‑
tionpremise)とい う2つの概念 を提起 して いる16)0
どち らも市場参加者が公正価値の見積 りに 用いるであろう仮定 とデー タを意味するが, 前者は使用価値 を指 し,後者は交換価値 (売 却価格)であ り,公正価値の定義 においては 交換価格を強調 しなが らも,公正価値の見積 りに使用価値評価の側面が不可欠であること を概念的に用意 したのである17)0
4)公正価値 ヒエラルキー
つ ぎに,ステイ トメソ トは公正価値の3つ の評価技法 を提示する一方で,公正価値の見 積 りを,用い られる測定属性 (指標)によっ て次の ような3つのカテゴ リーに区分 してヒ エラルキー化 を図っている18)0
レベル1 活発な市場 における同一の資産ま たは負債の市場価格を用いて公正価値 を決定す る。市場価格は調整 しない。
レベル2 活発な市場での同一の資産 または 負債の市場価格が得 られない場合は,類似の資 産 または負債の市場価格 に差異 に関する調整を 行 って公正価値 を決定する。
レベル3 もし,同一あるいは類似の資産 ま たは負債の市場価格 が得 られない場合は,評価 技法 を適用す るための情報が過度のコス トと努 力な しに入手可能であるかぎ りマーケ ッ ト ・ア プ ロー チ, イン カム ・アプ ローチ お よび コス ト ・ア プ ロー チ と整 合 的 な 多 元 的 評 価 技 法 (multiplevaluationtechniques)を用いて公正 価値 を見積 る。
レベル3の見積 りでは評価技法の選択 と適合 的な指標の適用 において判断を要する。 もし多 元的評価技法が用い られる場合は,それ らの技 法の結果は用 いた指標の 目的適合性及び信頼性 に照 らして評価 される。
この ように,公正価値 の ヒエ ラル キーは マーケ ッ ト指標 を強調する観点か ら,活発な 市場 における市場相場価格 (建値)に最 も高 い順位を与 え,企業固有の内部的見積 りや仮 定 について低い順位を与 える という体系化を 図っている。その特徴は,各評価技法を通 じ て市場価格 を強調 しなが らも,「同一或いは 14)Zbid.,par.10.
15)1bid.,par.12.
16)Ibid.,par.13.
‑主観的公正価値」にこそ公正価値概念の本質があ るとされる (古賀智敏 「公正価値測定の概念的構図 と課題」『企業会計』γol.56,No.12,21頁,参照)0 17)この点に関し,古賀智敏教授は,これを使用価値 18)FASB,FairValueMeasuylementS,OP.cit.,pars.
としての主観的公正価値概念 と交換価値 としての客 14‑23.
観的公正価値概念の対立 として とらえ,「使用価値
類似の資産 または負債 についての市場価格が 得 られない場合は,公正価値 は評価技法の適 用に必要な情報が過度の コス トや努力な しに 利用 で きる場合 にはマーケ ッ ト ・アプ ロー チ, インカム ・アプローチお よびコス ト ・ア プローチ と整合 した多元的評価技法を用いて 評価する」 ことを導入 した ことである19)0
Ⅱ 公正価値 ヒエラルキーの適用
(1) レベル1の見積 り
以下,ステイ トメソ トのい う公正価値のヒ エラルキーの内容 とその論理 を検討 しよう。
ステイ トメソ トはい う,「現行の諸 プロナ ウンスメソ トも明示的,黙示的に市場参加者 があ らゆる公正価値の見積 りに用いる仮定や デー タを考慮 に入れる必要性 について触れて いるが,本ステイ トメソ トは この概念を広 く マーケ ット指標のコンテクス トにおいて導入
し,明確化 している。その適合的なデータを 選んで用いることには判断を伴 うが, この判 断の適用の基礎 として,見積 り結果の相対的 信頼性 を考慮 しつつ,すべての公正価値の見 積 りに用い られるデー タを広 く3つのカテゴ リーにグループ化 したヒエラルキー として設 定 した。一般 に,マーケ ット指標が多ければ 多いほ ど,見積 りの信頼性は高まる。 したが って,公正価値 ヒエラルキーは活発な市場 に おけ る市場価格を反映するマーケ ッ ト指標 に 高い優位性を与 え,企業 自体の内部的見積 り や仮定 を反映す る企業指標(entityinputs)
には低 い優位性 しか与 えない」 20)と,いわゆ るマーケ ット指標が強調 され るのである。
ま ず , レベ ル 1で は公 正 価 値 は 同一 の
(identical)資産 または負債 についての情報 が得 られるかぎ り活発な市場価格 を用いて見 19)zbid.,p.V.
20)zbid.,par.C43.
積 られる。 したがって,その レベル1の参照 市場 (referencemarket)は企業が即座のア クセスが可能な活発な市場である。 この "即 座q)アクセス''("immediateaccess'') とは企 業が資産 または負債 を当該市場の相場価格で 通常 また慣習上の取引期間内において現在の 取引条件で交換で きることを指す。 もし企業 が異なった価格を もつ複数の活発な市場への 即座のアクセスが可能な場合の参照市場は最 も有利 な市場 ,すなわち当該資産 (負債)の 現在の取引か ら受取 る金額 が最大 (最小) と なる市場である, とされる21)0
この ようにレベル1の見積 りは,同十の資 産 または負債の市場価格を用いることを求め る (マーケット・アプローチの適用例)。すなわ ち,活発な市場 における市場価格が公正価値 の最 も信頼性ある見積 りを提供 し,資産 また は負債 について適用可能であるかぎ りこれを 用いることを確認 したのである22)0
この ように,レベル1の見積 りでは活発な 市場 における市場価格が唯一のマーケ ッ ト指 標である。 また,企業が基本的に同じ資産 ま たは負債 について異なった価格の複数の市場 へのアクセスを有する場合の参照市場は最 も 有利な市場である23)。そ うして,ステイ トメ ソ トはその参照市場 としてデ ィーラー市場 に おけるビッド ・アン ド ・アースク ド価格(bid andaskedprice;呼び値)をあげている24)0
(2) レベル2の見積 り
つぎに, レベル2では活発な市場 における 類似 の (similar)資産 または負債 の市場価 21)Ibid.,par.15.
22)zbid.,par.C44.これ らは従来か ら金融商品の会計 基 準 に お いて規 定 され た ところで あ る(FASB, SFASNo.107,DゐclosuresaboutFairvalueofFinan‑
cialInstruments,1991,par.57.)0 23)zbid.,pars.C451C46.
24)Ibid.,par.C47.
格にキ ャッシ ュ ・フローその他の要因による 差異を適正 に調整 した価格を用いることを求 め る (マーケ ット ・アプローチの適用例)0
すなわち,レベル2の見積 りについて も活 発な市場 におけ る市場価格 (修正済み)が唯 一マーケ ット指標を表わ している. この こと か ら,ステイ トメソ トは調整の基礎 となる価 格差異は客観的に決定 されるべ きである とす る。いずれにして も,市場で類似の資産 また は負債 について観察がで きる場合は,プライ シング ・モデル といった他の評価技法に頼 る まえに企業は必要 な (差異の)評価 を行 うこ とを求めている25)0
Ⅲ 多元的評価技法の適用
(1) レベル3の見積 りの論理
レベル 3の見積 りは,プライシング ・モデ ルやその他の方法論の結果に依拠 した もので ある。ステイ トメソ トも 「公正価値見積 りの 信頼性についての実務上の関心がレベル 3の 見積 りに集まる。それは,それ らが より多 く の見積 りと仮定 を必要 とし,必然的に レベル
1や レベル2の見積 りよりも主観的な もの と なるか らである」26)という。
この ことか ら,ステイ トメソ トは 「過度の コス トと努力な しにそれ らの技法を適用す る に必要な情報 が得 られる限 り一般的にマーケ ット ・アプローチ,インカム ・アプローチお よび コス ト ・アプローチ と整合 した多元的評 価技法の結果 に基づ くことを求めた。それは 異なった評価技法はそれぞれ個別の公正価値 指標を示す ものであるか ら,単独の評価技法 より多元的評価技法の結果 に基づ く見積 りの 方が信頼性があるか らである。 したがって, 最終的な見積 りの根拠 としてそれ ら評価技法 25)zbid.,par.C55.
26)Ibid.,par.C56.
の結果 を評定 し, もし大 きな差異がある場合 については説 明がなされねばな らない」27)と した。
この ようにステイ トメソ トは公正価値のす べての見積 りについて多元的評価を考慮にい れる必要があることを強調するのであるが, それは一つあるいは複数の評価技法が選択 さ れ ようが,その 目的は所与の条件下での交換 価格の最大近似値 を示す技法を選択すること にある とい う28)0
また,ステイ トメソ トは,レベル3の見積 りの信頼性 もまたそれに用い られるデータの 信頼性 に依拠 しているのであるか ら交換価格 を複製 す る うえで企業 は利用で きるか ぎ り マーケ ット指標 を用いるべ きである。測定対 象の資産 または負債が市場で交換 されていな くて もマーケ ット指標がレベル3の見積 りに も適合的であることがあるという29)0
ただ,本ステイ トメソ トとしては,概念ス テイ トメソ ト7号 (ConceptStatement7)も認 めた ように,資産 または負債 についてのマー ケ ット指標が過度のコス トと努力な くしては 入手で きない ようなケースでは企業指標 を用 いることを認めるという30)。すなわち,概念 ステ イ トメソ ト7号 (パ ラグラフ38)は次の ように規定 したのである31)0
「会計測定 にキ ャッシ ュ ・フローを用いる企 業は,市場参加者 が資産 または負債の公正価値 を測定す る際の仮定の一部 または全部 に関 して ほ とん どまたは全 く情報 を有 しない こ とも多 い。 この ような場合,その企業はキ ャッシ ュ ・
27)Ibid.,par.C57.
28)Ibid.,par.C58.
29)Ibid.,par.C59.
30)Ibid.,par.C60.
31)FASB,SFACNo7,par.38.その具体的適用例は FASBのSFASNo.142「のれん及びその他の無形 資産」にみることができる(FASB,SPASNo.142, GoodwillandOtherIntangibleAssets,June2001,par.
24.)0
フローの見積 りを行 うにあた り過度o)コス トお よび努力を払わな くて も入手で きる情報 を利用 せざるをえない。将来キ ャッシ ュ ・フローに関 して企業独 自の仮定 を用 いることは,市場参加 者であれば異なる仮定 を用いるであろうとい う ことを示す反証がない限 り,公正価値の見積 り に適合する。その ような反証 があ る場合は,市 場の情報 を取 り込む ようにその仮定 を修正 しな ければな らない。」
この ように,ステイ トメソ トはレベル 3の 見積 りについて より主観的見積 り方法や推定 を必要 とする企業指標 に依拠 した評価技法を 用いる ことを認 め,「見積 りにマーケ ッ ト指 標あるいは企業指標が用い られ ようが,それ は共に公正価値の測定 目的であることに変わ
りはない」32)と論理化するのである。
(2) レベル3の見積 りの適用例
ステイ トメソ トは レベル3の見積 りは評価 技法 と指標の選択 と適用 にはさまざまな程度 の判断が必要 となるとい う。それではステイ トメソ トのいうレベル 3の見積 りとは具体的 にどの ような ものか,次の ようなの適用例を あげている。
〔事例1〕
例 えば,ある企業の収益事業 に使用 されてい る機 械 についての レベル3の見積 りを考 え よ う。評価者はマーケ ッ ト ・アプローチおよび コ ス ト ・アプローチ (継続的使用の評価前提を仮 定す る)を用いて公正価値 を見積 る とし,当該 機械 には個別的に識別可能な収益流入がない こ とか らイン カム ・ア プ ローチ を用 いない とす る。ただ し,収益流 入を予測で きる程度の類似 の中古機械の短 ・中期の リース料 に関する情報 は得 られ る。 しか し,収益流入は レッサーに対 するものであるか ら,評価者は財務費用,取替 保証費,また維持費 といった交換価格 を構成 し
32)Ibid.,par.C61.
ない レッサーに固有の項 目について収益流入を 修正す る必要 があ る。その ような修正 は必然的 に主観的であ り,また他の適合的なマーケ ッ ト 指標 が入手可能であるか ら,当該機械 について は インカム ・アプローチがマーケ ッ トまたはコ ス ト ・アプローチに比べ意味あ る情報 を提供す ることはない とした33)0
か くて,評価者は中古機械の市場価格 を用 い たマーケ ッ ト ・アプローチ と新規機械の市場価 格 を用いた コス ト ・アプローチを用いるこ とに な る。二 つのケース ともその価格は差異 に関す る適切な修正がなされる。その結果,マーケ ッ ト ・アプ ローチの見積 り額 は42,000ドル か ら 48,000ドルの範 囲を示 し,コス ト ・アプ ローチ は40,000ドルか ら50,000ドルの範囲を示 した と
しよう。
そ こで,評価者はマーケ ッ ト ・アプローチの 方 が公正価値 を表 わ してい る と決定 した とす る。それは用い られるマーケ ッ ト指標 (中古機 械 の時価)が主観的な修正 をほ とん ど必要 とし ない点で コス ト ・アプローチ (新機械の時価) よ りも適合的で信頼性があるか らであ る。 いず れに して も,一 つの見積 り金額 を求め る必要が あ るか ら中間点の45,000ドルを もって公正価値 を見積 ることになる34)0
〔事例2〕
次は,最近の企業結合 によって取得 されたあ る会社 に よって開発 された販売 目的の ソフ トウ エア資産 について レベル3の 見積 りを考 察 す る。評価者はソフ トウエア資産の公正価値 をイ ンカム ・アプローチお よび コス ト ・アプローチ を用 いて見積 る とす る。類似の ソフ トウエア資 産の市場情報は公表 されていないか らマーケ ッ
ト ・アプローチを用いることはで きない35)0
33)Zbid.,par.Bll. 34)Zbid.,par.B12.
35)zbid.,par.B13.
評価者は現在価値法を用いたインカム ・アプ ローチを適用することになる。 この技法に用い られるキャッシュ ・フローはソフ トウエア資産 の販売から得 られるその耐用年数期間の期待収 益流入を反映 した ものである。 インカム ・アプ ローチによる見積 りは15百万 ドルであ り,コス ト ・アプローチによる見積 りは 1百万 ドルであ るとしよう。購入の意思あるバ イヤーで,同一 のソフ トウエア資産を1百万 として複製で きる 者が15百万 ドルを支払 うことはない。 しかし, 評価者がコス ト ・アプローチの見積 りがソフ ト ウエア資産の取替えに必要なすべてのコス トを 考慮に入れていないこと,特にある種の開発の 間接費を考慮に入れていないことに気づいた と
しよう。
評価者はこれ らのコス トを考慮に入れてコス ト ・アプローチの修正を図ることもできるが, このコス ト見積 り自体が非常に主観的である。
この ようなソフ トウエア資産については,その ようなコス トを考慮 に入れ るこ とが (インカ ム ・アプローチ との比較において)コス ト ・ア プローチの信頼性 と目的適合性を必ずしも高め るもの とはな らない。 このことから公正価値の 見積 りは15百万 ドル とした36)0
〔事例3〕
この事例では,企業結合の結果最近に取得 さ れたある会社によって内部利用 目的で開発 され た非収益的ソフ トウエア資産についてのレベル 3の見積 りを考察する。評価者はソフ トウエア 資産の公正価値をインカム ・アプローチおよび コス ト ・アプローチを用いて見積 るとする。輝 似のソフ トウエア資産の市場情報は公表 されて いないことか らマーケ ット ・アプローチは用い ることはできない。
評価者は現在価値技法を用いたインカム ・ア プローチを用いるとする。その評価技法に用い られるキャッシュ ・フローはそのソフ トウエア 資産の耐用年数にわたる利用による効率性の効
36)Ibid.,par.B14.
巣か ら期待 される会社の増益を反映 している。
その結果,インカム ・アプローチによる見積 り 額は3百万 ドルである。 これに対 してコス ト・
アプローチによる見積 りは1.5百万 ドルである とする。
評価者 としては,コス ト ・アプローチによる 見積 りはソフ トウエア資産の取替えに必要なす べての費用を考慮に入れてお り,信頼性を別 と すれば,インカム ・アプローチよりも目的適合 的であると判断する。購入の意思があ り同一の ソフ トウエア資産を1.5百万 ドル として複製で きる者であれば交換取引において3百万 ドルを 支払 うことはないであろう。 したがって,公正 価値の見積 り額は1.5百万 ドル となる37)0
この よ うに, ス テ イ トメソ トは レベル3の 公正価値 見積 りについてのマー ケ ッ ト ・アプ ロー チ (売却時価), イン カ ム ・ア プ ロー チ (現在価値)お よび コス ト ・アプ ロー チ (取替 原価)に よった多元 的 な評 価 の可能 性 をモ デ ル として示 したの であ る。
Ⅳ 公正価値測定の体系化 とその論理
以上 , ス テ イ トメソ トをその 内容 にそ って 検討 した。 その論理 的特徴 について整 理 しよ
う。
まず ,本 ス テ イ トメソ トの特徴 は広 くすべ ての資産 ・負債 を包摂 す る公正価値 測定 の包 括 的枠組 み を提示 した こ とにあ る。
周知 の よ うに, この ス テ イ トメソ トに至 る 以前 の FASBに おい て は ,公 正価 値 の概 念 は金融 商 品 ,な かんず くその包括 的公正価値 測定 の プ ロジ ェク トとして展 開 され て きた。
FASBは , 金 融 商 品 プ ロ ジ ェ ク トの 開 始 (1986年 ) 以来 ,例 えば,1991年 には SFAS 第107号 「金融 商 品 の公正価値 の開示」 38)を, そ して1998年 には SFAS第133号 「デ リパ テ 37)Ibid.,pars.B15,B16.
38)FASB,SPASNo.107.