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現代企業と社会

−社会のなかの企業−

桜井克彦

(2)

目 次

(  1  )  経営環境としての社会 (  I I   ) 企業と社会の関連性の増大 ( I I I )   多元社会と現代の企業

(  a  )  社会の機能的分化 (  b  )  多元社会としての現代社会 (  c  )  社会的存在としての現代の企業

現代にあっては,企業と社会の結び、っきはますます密接になっている。企 業は社会に対しさまざまな形で大きな影響を及ぼすとともに,社会もまた企 業の存続・成長に対し種々の面で影響を与えている。企業と社会の相互関連 性,相互作用のかかる増大は,企業経営者に対し,企業が社会の中に位置す

るという事実を改めて認識することの必要性を提示している。

本稿では,現代の企業が社会とのかかわり合いの中に存在することに焦点 を当てつつ,かかる角度から現代の社会と企業の関係について眺めることに したい。まず,経営環境としての社会についてその概念を簡単に示すことに する。ついで,企業と社会の関連性の増大を,その原因を論じつつ明らかに する。最後に,現代の社会の特質を多様な利害関係集団よりなる多元社会と してとらえつつ,現代の企業が種々の利害関係集団と相互依存的関係にある ことを明らかにする。

(  1  )  経営環境としての社会

企業ないし経営の環境とは,抽象的には企業の存続・成長に影響を及ぼす

ところの諸要因のすべてとして定義しうる。そのような諸要因は分矧法ザミに

なにをとるかによってさまざまに分類が可能で、あり,かくして経営環境は種

々に区分されうる。人為的環境ないし社会的環境と物理的・自然的環境とい

った区分,経済的環境,政治的・法的環境,社会的・文化的環境, 1 ' 1然的環

境といった区分,市場的環境と非市場的環境という区分,外部環境と内部環

涜という区分,等,各胞の区分ないし分知を考えることができる1)

(3)

368 

ところで,企業は社会の中に存在するということが事業界や学界でしばし ば主張されていることについては改めて論ずるまでもないが,この場合,企 業にとっての社会がなにを意味するかは,論者によってさまざまである。し かしながら,論者の多くは社会を経営環境全体として,すなわち,企業の存 続・成長に対し関連性を有する諸要素の総計として,広く解しているとみて よい。もっとも,このように社会が広義に解される場合,その内容がどのよ うに分類されているかは,経営環境の内容の分類が多様たりうることが示唆 するように,論者によってある程度異なっている。と同時に,社会をトータ ルな経営環境と同義のものとして広義に理解するひとびとの多くは,社会の 主要な構成要素として,企業をめぐる利害関係集団を挙げているように,思わ れる。

されば,ここでは,社会を広く解して,経営環境と同義にとらえるととも に,社会の中核的な構成要素として企業の利害関係集団を考えることにした い。すなわち,経営環境としての社会は所有者,従業員,消費者,等といっ た企業の内外をめぐる多様な利害関係集団を中心に構成されるとともに,そ れはまた,そのような利害関係柴田の背後にあり企業に対して直接あるいは 間接に影響を及ほすところの経済的,政治的,社会・文化的,あるいは自然 的諸要素を含んでいる。)社会を構成するところの後者の諸要素にはさまざま なものが存在しており,そのうちの幾つかとしては例えば,各種市場の規模 や構造,景気動向,国民所得の大きさ・成長率・分配ノ f ターン,国際収支状 況,政治情勢,労働運動や消費者運動の状況,戦争や災害,人口とその年令 構成,都市化の状況,教育体制,技術,社会の価値観,気象,天然資源の埋 蔵量,国土の広さといったものを挙げることができる。

このように,利害関係集団を中心にさまざまな要素が企業にとっての社会

を形づくっている。社会を構成するそのような要素は,今日,産業社会の高

度化,企業の大規模化,企業活動の国際化,等に伴い,ますます多様化,複

雑化する傾向にあるとともに,企業の存続・成長に対するその影響も増大の

方向にあるのであって,現代の企業と社会との関連はその範囲と程度におい

て一段と深まりを示す傾向にある。

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(  I I  ) 企業と社会の関連性の増大

企業と社会の関連性の増大という場合,それが具体的にどのような現象を 指しているかについては,さまざまに述べることができる。ここでは,社会 の主要な構成要素たる種々の利害関係集団が企業の行動に関心を抱いており,

企業もかれらの要求と期待に注意を払わざるを得なくなっているという現象 を中心に,企業と社会の関連性の増大について眺めることにする。

さて,現代の社会においてはさまざまな利害関係集団が存在しており,か れらは企業の行動に重大な関心を抱くに至っている。かれらが関心を抱くに 至った理由としては,幾つかのものを挙げることができる。

その第 1 は,企業が社会の諸領域で権力ないし支配力を有するようになっ たことである。すなわち,現代の企業は,ひとびとの行為を左右しうる力,

つまりいわゆる権力を経済の分野をはじめ政治や社会・文化の分野てやかなり に保有するに至っている 3 ) 経済における企業権力についていえば,例えば製 品市場の場合,企業はしばしば寡占の状態にあるとともに消費者も必ずしも 十分な情報を有しないのであって,かかる状況の下では,市場による伝統的 な企業コントロールは十分には作用せず,企業が消費者に企業の提示する取 引条件の受け入れを強制することがかなりに可能となる。あるいは政治や社 会・文化の領域における企業権力に関していうならば,例えば,企業はその 資金を政治献金や研究機関への寄付の形で支出することを通じて政治や文化 のあり方に影響を及ほ、すことが可能で ある。

かかる企業権力は基本的には企業の大規脱化と寡占化によって生じたもの

とみてよいが,企業のそのような大規模化と寡占化を可能ならしめてきた要

因を歴史的に眺めるならば,かかる要因として企業問の競争,工業技術の進

歩,資本の証券化を通じての企業による大量の資本調達,等を挙げうる。企

業問の競争の激化は市場シェアの拡大と生産コストの引下げを企業に要請す

るとともに,企業の淘汰へと向わせる。技術の進歩は,生産コストのヲ│き下

げを可能ならしめる製造設備を生み出すが,そのような設備は一般に大規模

であり企業によるその導入には巨額の資本を必要とする。他方,株式会社 i i ! ] l

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3 7 0  

度の特質たる資本の証券化は,企業に株式と社債の発行を通じて巨額の設備 資金の調達を可能ならしめてきたのである。

企業への社会的関心の増大の理由の第 2 は,企業の大規模化,寡占化に伴 い多くのひとびとがその経済的生活を特定の企業の存続と成長に依存するょ っなったことである。かかる状況はいわゆる企業城下町における企業と地域 社会の関係に関してしばしば指摘されるところであるが,一般的にいって現 代の企業は所有者,債権者,従業員,消費者,取引先,地方自治体,地域社 会,等,数多くのグループとかかわり合うとともに, グループに含まれるひ とびとの数はしばしば膨大なものとなっているのであって,これらのひとび とは少なからずその経済的生活の維持と向上を特定企業の存続と成長に依存 する。

第 3 は,社会のひとびとの価値観の変化である。この点についていえば, 1  つには経済的・物質的価値と並んで非経済的な価値が重視されるようになっ てきたことを指摘しつる。例えば,産業社会の発展はひとびとの経済的生活 の向上に大きく貢献してきた一方,それは自然環境の汚染や破壊,労働にお ける人間疎外,等の社会問題の発生にも与って力があったのであり,環境保 全や働き甲斐のような問題への社会的関心を増大せしめている。あるいは,

ひとびとの経済的生活の向土もまた, 自然環境の美や自己実現欲求の充足と いったいわゆる#経済的価値にも目を向ける余裕をひとびとに与えているの である。他の価値変化としては,社会の民主化やひとびとの教育水準の高度 化,等に伴って参加や平等の問題への社会的関心が高まっており,多くのひ とびとが企業における所得分配,雇用慣行,意思決定機構,等にも関心を寄 せつつあるということである。更に,別の価値変化の lっとしては,環境汚染 のような問題の解決は市場メカニズムにのみまかせえないこと,ならびに,

政府の肥大化が存在し社会問題の解決には政府のみならず企業もかかわらせ ることが望ましいことを社会のひとびとが認識するようになりつつあるとい

うことを挙げうるであろう。

以上のような理由が示すように,社会のひとびとは企業権力の適切な行使,

企業の存続と成長,あるいは変化する社会価値への応答を企業に期待して,

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企業の行動に関心を寄せているのである。

ところで,企業への社会的関心の増大がみられる一方で、企業もまた,社会 の要求と期待に適切に対応することを不可避とされつつあるのであって,こ こから企業の行動は社会指向の程度を増しつつある。すなわち,利害関係集 団の組織化と企業へのかれらの対抗的権力の増大,企業活動の長期化,生産 と販売の大量化,所有と支配の分離と専門的経営者の登場,等が企業の社会 指向性を増さしめてきているのである。

この点についてより具体的に説明するならば,まず,企業権力の存在はそ れに対抗する権力を社会のっちに生ぜせしめる。すなわち,企業権力の増大 に伴って社会のひとびとは種々の形で組織化を図ってきており,大企業に対 抗して労働組合,消費者団体,自然保護主義者団体,等が形成されてきてい

る。この点についてカ

性を相殺する他の諸権力セン夕一を登場せしめているという f 概既念を「平衡力 ( c ∞ oun

mterva 訂 i l i n gpowe 町 r ) Jの理論において展開しているぷ 4 )が,現代の社会にあ っては政府を筆頭にさまざまな強力な組織集団が形成されており,かれらは 企業に対して要求と期待を提示し企業にその受け入れを強く迫っているので あって,企業はその自律性を保つためにはかれらの要求と期待に応答せざる をえなくなっている。

加えて,今日の企業は立地から操業開始までの期間の長期化,設備の巨額 化と長期寿命化,等により,投下資本を長期にわたり固定することを必要と する。また,企業に依存するひとびとが増大しており,かれらは企業とのそ の関係を長期にわたり継続せんとしている。とりわけ従業員は労働組合を通 じて雇用契約の長期化を企業に強く働きかけている。かくして企業活動は長 期にわたらざるを得ず,ここから企業は,社会の要請を無視して短期的見地 から自己の目的のみを追求することを困難たらしめられている。加えて,企 業における生産と販売の大量化もまた,社会の要求に配慮し良好な企業イメ ージを社会において維持することの必要性を企業に課してきたのである。

このように企業は社会の要求と期待に関心を示さざるを得なくなっている

が,所有と支配の分離の展開,および、経営者の専門化は企業の社会指向性を

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助長せしめてきている。所有者の支配からかなりに解放された専門経営者は,

かつての所有経営者と異なる教育的背景を有するとともに,変化する社会の 価値を社会のひとびとと共有しており,かれは自らを社会の多様なグループ の受託者とみる傾向にあるのである

O

企業行動への社会の関心の増大,ならびに社会の要求と期待への企業によ る応答の不可避性と企業による応答傾向の増大について述べるならば,以上 の如くて、あって 5 ) 現代の企業はますます社会との関連性を深めるに至ってい るのである。

(  I I I  )  多元社会と現代の企業

企業と社会の関連性はかくの如く増大しているが,企業と社会の関連の内 容についてより理解をするためには,企業を含めた現代の社会を多元社会 ( p l  u r a l i s t i c   s o c i e t y ) として認識することが適切である。以下,そのような 多元社会の特質を眺めるとともに,現代の企業が多様な利害関係集団と相互 依存の関係にあることを明らかにしよう。

( a )   社会の機能的分化

企業にとっての社会は広義には自然のような物理的要素も含むが,ここで は企業を含めてさまざま組織と個人によって構成されるいわゆる社会につい て眺めることにする。

一般的にいって社会は,それが成りたっていくためには,その中において 幾つかの機能が遂行されねばならない。かかる機能は,通常,政治,経済,

社会,文化という言葉で表現されるとともに,社会はそれぞれの機能を専門 的に担当する制度ないし組織を有している。

この点をペティット 6 ) に従って眺めるならば,つぎのようである。すなわ

ち,かれによると社会がその最も基本的な目的である存続を実現するために

は,それは目標達成 ( g o a la t t a i n m e n t ) ,適応 ( a d a p t i o n ) , 統 合 ( i n t e g r a ‑

t i o n ) ,およびパターン維持と緊張管理 ( p a t t e r nmaintenance and t e n s i o n  

management) といっ 4 極の機能を適切に遂行せねばならない。ここに目標

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達成の機能は,社会が分業の原理に従って組織されており,専門化したその メンバーの聞の協同を必要としているところから生ずるのであって,かかる 機能は,メンバーの協同を実現せしめて社会がその目標に向うようにメンバ ーの活動を整合することを含んでいる。適応の機能は,目標達成のために社 会がその人的ならびに物質的な資源を変形することと関連する。統合とは,

社会に調和をもたらきしめるというプロセスをいう。パターン維持と緊張管 理の機能もまた,社会の均衡の維持に関連するのであるが,統合の機能が社 会のメンバーの聞の関係を取扱つのに対し,これは個々のメンバー自体に焦 点を置しこの場合,パターン維持の機能とは,社会の価値と文化的ノ f ター ンの維持ならぴに促進を指し,緊張管理は,メンバーの情緒的不安定を取扱 つ 。

社会はこれら 4 種の機能のそれぞれを担当するところのサブシステムを有 することになるが,この場合,目標達成のサブシステムにおいて中心的な役 割を演ずる社会制度が,政府である。社会は,いずれの目標を追求すべきか,

またいずれの手段を用いるべきかを統治的プロセスを通じて決定する。つぎ に,企業は適応的なサブシステムに対し第 1次的な責任を有しており,人間 の欲求を充足せしめるように人間ならびに物的な資源を変形するという適応 的課題は企業によって解決される。パターン維持と緊張管理に関して第 1 次 的役割 l を演じているものは家族であるが,学校や宗教団体等もパターン維持 に対する責任を, またレクリェーション団体や宗教団体,病院,等も緊張管 理の役割を担っている。統合的なサブシステムについていえば,社会のメン バーの間に連帯性をもたしめるように機能しているところの社会制度ないし 機関は,統合的サブシステムの部分であり,そのよつなものとして法律,空?

察,ソーシャル・ワーカー,ジャーナリズム,宗教,等を挙げうるのであ る 。

以上のようにペティットは,パーソンズらの所説 8 ) をもとに,社会が 4 f ! T [ のサブシステムに分化しており,これらサブシステムは前述の 4 磁の機能の

1 つずつをそれぞれ担当するとともに,それぞれのサブシステムにはそれを

代表する 1 つもしくは波数の社会制度が存在するとみる。なお,パーソンズ

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らやペティットにあっては目標達成のサブシステムは政治を,適応のそれは 経済を,パターン維持と緊張管理のそれは文化を,統合のそれは社会を指す

とみてよい。

同様のことは,ジョンソンによっても指摘される。かれによると,社会シ ステムにはその存続のために解決すべき 4 つの基礎的な問題が存在する。す なわち,第 l にそれぞれのシステムは 1 つの価{直+革造をもち,なおもその+蒜 造を維持せねばならない。第 2 に,システムは設定されたそれらの価値を達 成せねばならない。第 3 に,システムは, 目標を達成せんとするならは¥適 応しえねばならない。つまり,目標達成を補助するためその諸資源を使用す る能力をもたねばならない。第 4に,システムはその下位部分すべてが相互 に支えあい補¥,.あっょっに,それらを統合せねばならないのである。この場 合,経済は,社会が目標を達成しうるよう財と用役を生産していくという適 応の機能を果すのであって,財貨の流れを利用しうる状態にすることにより 経済は社会に対し,国防からレクリェーションに至る諸事象に対応しつつそ の諸目標を達成する能力を提供する。経済なる下位システムの中で企業は主 要な活動単位であって,その主要な社会機能は財と用役の生産である。個人 や集団,社会全体はかかる財と用役によって各自の目標を達成しうるのであ

る。)

ペティットやジョンソンの説明から知らされるように,企業がその中に位 置するところの社会は,幾つかの機能的なサブシステムによって構成される

ところのシステムである。全体社会が存続するためには,上述のように目標 達成をはじめとするさまざまな機能が遂行されねばならず,ここからいわゆ る政治,文化,社会といったサブシステムが全体社会の中に存在することに なる。この場合,企業は経済なるサブシステムの代表的な社会制度であり,

それは財と用役の生産という適応的機能を遂行することになる。

もっとも,現代の社会にあっては企業は,政治,社会,文化といった領域

でも機能している。例えば,政治プロセスにおける企業の影響力の存在につ

いては多くの論者が指摘するところである。あるいは,企業はその従業員の

教育・訓練において社会の価値と文化的ノ f ターンの継続あるいは変革にかか

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わり合うかもしれない。このように現代の企業は,依然として富の生産とい う経済的機能をその第 1 次的な社会機能として有している一方,政治,社会,

文化といった領域でのその社会機能も増大の傾向にある。

( B )   多元社会としての現代社会

社会はこのように,幾っかに機能的に分化したサブシステルからなってお り,それぞれのサブシステムにはその機能を専門的に担当する幾つかの機関 が存在する。これらの機関がそれぞれ自律性を有しつつ機能する社会が多元 社会であり,それは機関のあるもの,例えば,国家が他を支配するところの 単元社会と対照的である。自由企業経済社会はかかる多元社会に属している。

ところで多元社会といった場合,それは古典的多元社会と現代的多元社会 に分けることが可能で、ある。ここに古典的多元社会とは,数は多いが比軽的 限られた種類の機関によって構成されるところの,そしてこれら諸機関が必 ずしも他の機関と相互に密接な関係を有しないところの社会を意味する。他 方,現代的多元社会とは,数は比較的少ないが大規模にして組織化された,

多様な種類の機関によって構成されるところの,そしてこれらの機関が他の 機関と密接なかかわり合いを有しているところの社会である。企業が今日,

主として位置するところの社会は,現代的多元社会であって,つぎに,かか る現代的多元社会についてその特質の幾つかをより詳しく眺めることにした

¥ . ‑ ' " 。

現代的多元社会の特質については既にイールズらが詳しい説明を行ってい るが,ここではディヴィスらの見解を参考にしつつかかる特質の幾つかを理 解することにする。

さて,ディヴイスらは現代の社会は多元社会システムとして把握されうる

という。かれらはいう。かかる社会では多様な組織化されたグループが特定

の市民グループの利益を代表して権力と影響力を行使する。企業はこれらの

グループによって影響されるとともに,対抗的な影響をかれらに及ぽしてい

る。多元社会が現代のビジネス文化の基本的現実であり,企業にとってのこ

の現実の意義は,多元社会がその中で企業が生存し成長せねばならぬところ

の基礎的枠組を定めているということである, と 1 3 )

(11)

3 7 6  

そしてディヴィスらは,かかる多元社会システムの要素として利害関係者 の多様性,機関ないし制度の専門化,複数の機関に忠誠を抱く個人,権力の 分散と平衡的権力 ( c o u n t e r v e i l i n gpower) ,共同事業 ( j o i n tv e n t u r e )   と いったものを挙げており,以下のように説明する。

利害関係者の多様性。多元社会では,ひとびとがその厚生の促進を求めて 展開するところの多数の経済,政治,教育,社会,審美,等のグループが存 在する。多元社会は単元社会とアナーキィ社会の中間に位置する。単元社会 は,人間のニーズのすべてを満足させる唯一の社会機関によってすべての人 間問題が処理されることを要請するのであり,それは一枚岩的な中央集権的 権力構造をもっ社会システムである。他方,アナーキィ社会は各人が他者へ の配慮、なく個人的利益を追求するところの非組織化社会を意味する。多元社 会は両者の中間にあり,異なった社会機能を遂行する多様な機関に社会的権 力を分散することて社会的権力を分権化する 1 4 )

機関 ( i n s t i t u t i o n ) の専門化。多元社会は,機関と関連する概念である。

それはひとびとがその利益を求めて個々に行動するが,かれらはまた,その

利益を代表する代理人として行動するところの機関を形成するということを

認識する。ひとびとが多様な利害をもっ以上,かれらは多くの異なる専門化

された機関を形成する傾向にある。このことの 1つの理由は,労働の専門化

が経済的により生産的であるのと同様に,制度の専門化が社会的により効率

的であるということであり,多元社会では「各機関は比較的優位をもっ課業

の遂行へと専門化する傾向にある 1 ) 現代の社会ては大規模機関がほとんどす

べての活動分配を支配しているのであって,それぞれ 1 つの重要な社会的課

業が大機関に託されているような組織社会の出現が 20 世紀という時代の特質

であるかもしれない: 陪関係者の多様性と機関の専門化は,社会がますま

す相互依存的となりつつあることを意味する。各部分を総合して全体的プロ

グラムを形成するためには,より多くの調整と協同が必要で、あって,意思決

定者間で広い社会経済的展望が展開されることが甚だ必要とされる。 I 環 境

がより相互依存的になるほど,個人もしくは組織の観点からみて最善である

ということに基づく決定が社会全体の観点からは最善ではないという危険が

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増大する了)ので、ある 1 8 )

複数の機関に忠誠を有する個人。多元社会では各人は,その個人的欲求の充 足のために多くの機関に関係する。換言すると,各人は欲求を分割し異なる 欲求の充足を;専門機関に割当てる。その結果は,企業も労働組合も他の多元 的組織も個人の全忠誠は要請しえないといつことである。ひとはその欲求の 大部分を充たすた灼に,自己の社会階級を代表する唯一の機関に依存するこ とをしないのであって,存在する社会的コンフリクトは階級的なそれではな くて,むしろ多様な機関が代表する多様な個人的期待の聞のそれて、ある 1 9 )

権力の分散ならぴに平衡的権力。多元社会の基本的な特質は,社会システ ム内の諸グループ間での権力の分散である。各グループは自己の私的利益を 追求する幾らかの自律性を有しており,権力の分散によって社会は 1グル ープによる独裁的支配からある程度保護される。特定グループは多くの他の グループが監視し規制するが故に,独裁的支配に必要な権力を集めえないの であって,結果は,その中で幾つかのグループが他グループによる統制への対 抗的勢力として活動するところの平衡的権力なる状態である。かかる平衡的 権力は,より広い眺望を伴う意思決定を奨励する。かかる平衡的権力は典型 的には 1 つの組織が他のそれに直接的圧力をもたらすことを意味するが,

他のアプローチも用いられるのみであって,あるグループが政府に働きかけ て他者の規制のための法的規制をもたらそっとすることや,世論により他者 を規制するために社会の文化的価値と規範を変化させようと働きかけること も行われる。)

共同事業。権力の分散が存在する以上,企業の如き主要な社会機関は多数 のグループの問で共同事業を展開することによってのみ,その機能の遂行の ための十分な資源を確保しつる。すなわち,諸グループはその目的の達成の ためにその能力と資源をプールする。例えば,企業は,投資家,経営者,労 働者,地域社会,等の共同卒業である。これらのグループは多様なインプッ

トを企業に提供し企業からの多様なアウ・トプットを期待するが,かれらは組 織化された集団的努力からの付加的報酬を得るために協同している。例えば,

投資家は投資へのより多くの報酬,投資へのより大きな安全,および、所有へ

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378 

の誇りを求め,経営者は地位,寄与感,および職務遂行による自負心を求め,

労働者はその熟練の使用のための機会,社会的満足感,およびより高い賃金 を求めるのであるが,例えば労働者の場合,同僚,経営者,資本といったも のなしに個人として働くことではその希望する便益を十分に引き出しえない であろう。共同事業が効果的に作動するとき,その参加者への経済的ならび に社会的なベネフィットの産出が可能となる。これらの便益はコストを越え,

従って資源は費消されるよりもむしろ拡大される。かかる作動の仕方は,そ の中で付加的価値が創出されるところのポジティブ・サム・ゲームのそれで ある 2 1 )

デイヴィスらは,多元社会について以上のように説明している。かれらは 現代の社会が多元社会であること,そして,かかる多元社会ではひとびとは そのさまざまな個人的欲求の充足を求めて幾つかの組織に同時的に参加する のであるが,これらの組織は特定の機能にそれぞれ特化するとともに相互依 存と権力均衡の状態にあることを指摘する。かれらの説明は,相互に依存す る各種の自律的な大組織によって構成される現代的多元社会の基本的特質を よく示しているといえよう。

( ο   社会的存在としての現代の企業

かくの如き現代的多元社会にあっては,社会の諸機関はそれぞれ他の諸機 関との相互依存的かかわり合いのうちに存在するのであって,各機関がその ような相互依存性を認識して行動するとき,社会は適切に機能するとともに 各機関もその目的を達成することができる。しかしながら, 多元社会のその

ような機能化は必ずしも容易にはもたらされない。

すなわち,前記のデイヴィスらは多元社会の弱点として中央の指令の欠如,

公共への奉仕に代つての機関の権力への奉仕,分派への腐食,過度の多元化,

エリート主義,等を挙げているが,そのうちの分派への腐食についてつぎの

ように述べる。多元社会の最も大きな弱点の 1 つは,ク、、ルーフ。聞の分派へと

向ってシステムが腐食する傾向である。そのことのマイナスの結果は,共同

体感の減少,まとまりと共通の目的とを社会が失うこと,コンフリクトと緊

張の増大である。統合的多元社会(そこでは政府は社会のための共通目標の

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設 定 を 助 け , 他 の 機 関 と 協 同 す る 。 多 元 的 グ ル ー プ は 公 益 に も 奉 仕 す る 仕 方 で 自 己 の 利 益 を 追 求 す る よ う 奨 励 さ れ る ) と 異 な り , 分 派 的 多 元 社 会 で は 各 グ ル ー プ は 他 者 の 利 益 を 考 え る こ と な く 自 己 の 利 益 を 追 求 す る 。 分 派 主 義 の 困 難 は , 同 ー の 観 点 を も っ 機 関 が 連 合 し て 自 己 の 利 益 の た め の 権 力 を 築 き あ げるとき,倍加する。ク、、ルーフ。の価値が公益への関心なしにすぐれて分派的 で あ る と き , よ り 大 き な シ ス テ ム は 適 切 な 奉 仕 を 受 け な い の で あ り , 分 派 的 ク、、ルーフ。は他者の犠牲でのみ利益を得るに過ぎない。極端な場合,システム の極度の悪化がすべてのグルーフ。に対し損失をもたらすのである,と 2 3 )

か く の 如 き デ イ ヴ イ ス ら の 指 摘 に 明 ら か な よ う に , 多 元 社 会 は , そ れ を 構 成 す る 諸 機 関 が 自 身 と 社 会 と の 相 互 依 存 性 を 認 識 す る こ と を 必 要 と す る と と も に , か か る 認 識 が 適 切 に は 存 在 し な い 危 険 性 を も 有 し て い る 。 そ れ に も 拘 わらず, も し 社 会 の 構 成 要 素 た る 諸 機 関 が そ の 存 続 ・ 発 展 を 願 わ ん と す る な ら ば , か れ ら が 自 身 と 社 会 の 相 互 依 存 性 に つ い て 考 え る こ と が 不 可 欠 で ある。

現 代 の 企 業 は 多 元 社 会 の 主 要 な 構 成 要 素 で あ る と と も に , そ れ は 他 の 構 成 要 素 と の 相 互 依 存 的 な か か わ り 合 い の う ち に 社 会 と 密 接 に 関 連 し て い る 。 そ れ は 社 会 の 中 に 存 在 し て お り , そ の 存 続 ・ 成 長 は 社 会 と の 相 互 依 存 性 に つ い て の 認 識 能 力 に 大 き く 依 存 す る の で あ る 2 4 )

注 1)  経営環境の概念については拙若「現代企業の社会的責任 J .昭和 5 1 年 , 第 4 章 。 2  )  社会ないし経営環境についてのこうした理解に関しては,詳しくは拙著「現代企業

の経営政策一一社会的責任と企業経営一一一 J . 昭和 5 4 年,第 2 章 。

3  )  企業椛力については詳しくは前掲拙者「現代企業の社会的責任 J . 第 2 章 。 4  )  J o h n  K e n n e t h  G a l b r a i t h ,  American C a p i t a l i s m ,  r e v i s e d  e d i t i o n ,  1 9 5 6 .   5  )  詳しくは,前掲拙著「現代企業の経営政策 J . 第 1 章 お よ び 第 2 章 , な ら び に 前

.jlo,¥拙者現代企業の社会的責任 J . 第 1 章を参照のこと。

6  )  Thomas A .   P e t i t ,  The Moral C r i s i s  i n   Management ,  1 9 6 7 .   7  )  I b i d . ,  p p .   1 3 9   ‑l4 2 .  

8  )  T a r c o t t  P a r s o n s  a n d  N e i l  J .   S m e l s e r ,  Economy and S o c i e t y ,  1 9 5 6   (富永健

一 訳 「 続 出 と 社 会 ( 1 および I I ).昭和 3 3 年).

(15)

3 8 0  

9  )  H a r o l d  L .   J o h n s o n ,  D i s c l o s u r e  o f   C o r p o r a t e   S o c i a l  P e r f o r m a n c e :   S u r v e y ,  E v a l u a t i o n ,  and P r o s p e c t s ,  1 9 7 9   (名束孝二監訳,青柳清訳「ソーシャル・ディス

クロージャーの新展開 j ,昭和5 5 年 ) , 1 0 )   ジョンソン,前拘訳書, 19‑20 頁 。

1 1 )   R i c h a r d  E e l l s  and C l a r e n c e  C .   Walton ,  C o n c e p t u a l  F o u n d a t i o n s  o f   B u s i n e s s ,  r e v i s e d  e d i t i o n ,  1 9 6 9 .  

1 2 )   K e i t h  D a v i s ,  W i l l i a n  C .   F r e d e r i c k ,  R o b e r t  L .   Blomstrom ,  B u s i n e e s  and  S o c i e t y :  c o n c e p t s  a n d  p o l i c y  i s s u e s ,  1 9 8 0 .  

1 3 )   I b i d . ,  p .   6 6 .   1 4 )   I b i d . ,  p .   6 6 .  

1 5 )   N e i l  H. J a c o b y ,  C o r p o r a t e  Power and ' S o c i a l   R e s p o n s i b i l i t y :  A  B l u e p r i n t s   f o r  t h e  F u t u r e ,  1 9 7 3 ,  p .   1 6 .  

1 6 )   P e t e r  F .   D r u c k e r ,  The Age o f   D i s c o n t i n u i t y :   G u i d e l i n e s  t o   Our  C h a n g i n g   S o c i e t y ,  1 9 6 8 ,  p .   1 7 1 .  

1 7 )   I c hak A d i z e s  and ] .   F .   Weston , C o m p a r a t i v e  Models o f   S o c i a l   R e s p o n s i ‑ b i l i t y ぺ Academyo f   Management J o u r n a l ,  March  1 9 7 3 ,  p .   1 2 1 .  

1 8 )   K .  D a v i s  e t   a   , . l o p .   c i   , . t p p .   6 7  ‑8 .   I b i d . ,  p p .   68‑9. 

2 0 )   I b i d . ,  p p .   6 9  ‑70. 

I b i d . ,  p p .   70‑ 1 .   I b i d . ,  p .   7 4   f f . .   I b i d . ,  p p .   7 5  ‑6 .  

2 4 )   なお,本稿の展開に際しては拙稿「経営者機能とその動向 j ,束南アジア研究年 報,第2 3 集,および拙稿「社会の多元化と現代企業 j ,経営と経済,第 6 2 巻第 3 号

を部分的に加筆・引用した。

参照

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