【学位論文審査の要旨】
提出された学位論文「脳卒中後上肢麻痺患者に対する経頭蓋磁気刺激と作業療法の併用 療法前後の MRI を用いた介入効果と大脳構造の関係性評価」は、健側一次運動野への1Hz の低頻度反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS)に 集中的作業療法(Occupational Therapy:OT)を併用した介入による運動機能の改善と大 脳構造の関係性を明らかにすることを目的に、介入の前後にMRIを用いて大脳を撮像した 画像から、多面的に解析し検討した結果について詳細に報告したものである。学位論文の 審査会および最終試験での概要を以下に報告する。
rTMS・OTの併用療法は、慢性期脳卒中後上肢麻痺患者の運動機能を有意に改善し、臨 床的に有益であることが近年、報告されている。しかし、運動機能の回復機序は不明な点 が多い。さらに運動機能の改善は明らかになっているものの、運動機能の変化度には個人 差があり、変化度に何が関係しているのか明らかとなっていない。これらの解明は運動機 能の回復効果の予測や、重症度の違いに基づいた介入の開発など、より効果的な介入法の 開発に繋がることが期待される。そこで本研究論文では介入の前後に撮像した3次元T1強 調画像と拡散強調画像から、現在、脳科学分野で有効性が実証されている解析ツールを利 用して①皮質厚、②脳卒中損傷部位と損傷体積、③白質微細構造、④白質神経接続を基に した大脳神経ネットワークなどの定量値を計測し、運動機能評価スコアと統計解析した。
皮質厚を解析した結果、患側の中心後回と縁上回の皮質厚が運動機能変化度と相関して おり、皮質厚に関しては、特に、患側の中心後回や縁上回が運動機能の改善に重要な役割 を果たすことを意味していることを明らかにした。
脳卒中損傷部位を解析した結果、皮質脊髄路や一次運動野に投射する視床領域が損傷し ているか否かが、rTMS・OTによる運動機能変化度に関係しており、脳組織の損傷体積と 運動機能の間には相関せず、脳卒中による損傷の位置がrTMS・OTの介入効果に関係して いることを明らかにした。
介入前後の白質微細構造変化を解析した結果、介入前の白質神経線維構造の状態は rTMS・OTによる運動機能の改善に関与していることを明らかにした。
白質神経接続を基にした大脳神経ネットワークを解析した結果、介入によってネットワ ーク指標が有意に変化し、介入によって神経の可塑的変化がもたらされることを明らかに した。
本研究の画像解析により、rTMS・OTを用いた本介入法は、大脳白質の構造的な再構築 をもたらし、このような大脳微細構造の変化が上肢麻痺の運動機能改善に寄与しているこ とを示唆した。特に、運動や感覚に関係していると報告されている大脳の領域が rTMS・ OTによる運動機能の改善に重要な役割を担っている可能性が示唆され、患側の皮質厚、脳 卒中による損傷部位、運動機能に関係する白質神経線維路の損傷度がrTMS・OTによる運 動機能変化度に関係していることを明らかにしたと報告した。
2020年2月4日に施行した最終試験での口述試験および口頭試問では、研究成果に ついて明快なプレゼンテーションであった。また質疑に対する応答は的確であった。
以上から、試験担当者は一致して、上田亮君は首都大学東京大学院 人間健康科学研究 科放射線科学域 博士後期課程の論文審査および所定の最終試験に合格したと判定し、博 士(放射線学)の学位を授与することが適当であることを報告する。