腰痛疾患の脊椎静脈細造影所見
金沢大学医学部整形外科学講座(主任 高瀬武平教授)
檜 木 稔
(昭和44年2月26日受付)
本論文の要旨は1967年6月第28回中部日本弓形外科災害外科学会にて発表した.
Batson 1)が腫瘍の転移に関する研究より脊椎静脈 系の研究方法を開発して以来,種々の研究がなされて 来た.すなわち,脊椎の悪性腫瘍の早;啓発見えの応用 また脊椎カリエスの診断的応用等と研究が行なわれて
来た.一方,従来より行なわれているmyelography
に対する種々の副作用の批判より脊椎管内の病態を知 るために本法を応用しようとする試みがなされ,脊椎 管内に原因を有する種々の腰痛性疾患に応用されて来 た.従来の諸報告はこれら諸疾患に対応する脊椎静脈 系のレ線形態学,および臨床症状との関連を追求したものである.
著者は141例の腰痛性疾患に本造影法を行ない,脊 椎静脈系造影が各種腰痛性疾患における所見,本法造 影所見と臨床症状との関連の検:討より,本法所見より 疹痛の程度および予後の判定の可能性とともに,さら に後脳椎骨静脈叢と腰痛との関連を検討し,また脊椎 静脈系が如何なる因子により影響を受けるか等を明ら かにしょうとし以下の研究を行なった.
研 究 対 象
金沢大学医学部附属病院および関聯病院整形外科を 訪れた腰背痛を主訴とした症例を対象とした.
各種腰背痛悔疾患の種類例数,性別は表1の如く
である.
椎間板脱出例のうち手術を施行し,椎間板脱出を証 明したもの30例(男23例,女7例),保存的治療施行 例53例(男45例,女8例)である.椎間板脱出の部位
は表2に示す如く第4第5腰椎間(以後L4−L5椎
間と略する)22例で最も多く,左側に高率に認めた。変形性腰椎症は4例(男3例,女1例)で4例とも
根性坐骨神経痛の症状を呈した.いわゆる腰痛症18例は腰部ならびに轡部の一部に絶 痛を訴えるが,臨床上坐骨神経の根症状を呈しないも
のを計上した.
Phlebography in Low Back Pain.
腰椎分離・たり症例の中,分離椎弓はL4,1例,
L5,7例であり,腰椎たり症はL3,1例, L 4,
1例およびL5,5例であった.この中腰椎分離症4 例,腰椎たり症5例は根性坐骨神経痛の症状を呈し
表1 疾患別症例数
椎間板脱出例
手 術 例
保存的治療例 変形性腰椎細
腰 痛 症 腰椎分離・たり症
脊椎圧迫骨折
{叢潮
腰椎横突起骨折 腰 部打撲症
合 計
83例(男:68,女:15)
30例(男:23,女:7)
53例(男:45,女:8)
4例(男:3,女:1)
18例(男:14,女:4)
15例(男:10,女:5)
15例(男:13,女:2)
6例(男:4,女:2)
9例(男:9, ) 3例(男:3, ) 3例(男:3, ) 141例(男:114,女:27)
表2 椎間板脱出部位
左右両三 ロ ぱ ロ
し ロ但但偵 ︒
L4−L5
椎 間15 5 2
計
1間
合一
SL椎 5
22
4 2
6
19 7 2
28(椎間板脱出単発例のみ)
(椎間板脱出の多発は2例)
:Mimru Hinoki, Department of Orthopedic
Surgery(Director:Prof. B. Takase), School of Medicine, Kanazawa University.
た.
脊椎圧迫骨折15例中,骨折椎体はTh11よりL3
にわたり,単独椎体圧迫骨折はTh11,1例, Th12,4例,L1,5例, L 2,1例, L 3,1例であり,
2椎体骨折は3例で,Th11, Th12の2例,:L 1,
L2は1例であった.
受傷後3カ月以内の症例を新鮮圧迫骨折例とし,3
カ月以後を陳旧圧迫折例とした.陳旧圧迫骨折例のうち2例は治癒した症例であり,
2例は脊髄不全麻痺の症例であった.
5例は軽度の神経症状と腰背麻を訴え来院したもの
である.
腰椎横突起骨折例は3例で,1例は:L5左横突起の
単独骨折で,1例はL2, L 3右横突起骨折,1例は L2, L 3, L 4左横突起骨折であった.
腰部打撲症は3例で神経症状を示さず,レ線上骨に
異常を認めなかった.
各疾患における年令別分布は表3に示す如く,初発 症状発現より本造影法までの期間は表4の如く,本造 影法施行後治癒まで観察し得た症例は表5の如くであ
る.
すなわち脊椎圧迫骨折新鮮例は全例治癒まで観察し 得たが,陳旧例のうち脊髄不全麻痺例はその疾患の特 性上治癒にいたらず,軽度の神経症状と腰背痛のみを
訴える5例を治癒まで観察し得た症例として計上し
た,
表3 年令三分類
例症症症例例折症 出椎 り 脱腰 紅 板性 間形 ・分離.横 椎迫骨折椎 骨撲 た鮮冊起 突打 離 部
椎 変 腰−腰 脊椎圧 腰 腰
合 計
〜1 P(歳)[20〜29 8
1
1
10
246 4 1
1 1
37
30〜39 26
1
8
5 1 1 1 1
し44
40〜49
19・
1 4
2 8 1
35
50〜59
5 1
3
2
11
60〜1 1
2
4
平均年令
33.0(歳)
49、3 33.2 38.0 42.2 43.7 36.0 22.3
35.9
表4 初発症状発見より静脈造影施行に至るまでの罹病期間
例症症症例晶
出・椎 り 脱腰た鮮旧 痛・ 板性
離
分厩 間形 ︑椎迫骨折 椎 変 腰 腰脊椎圧
腰椎横突起骨折
腰、部 打 撲 症
・合
計1カ月 35
1 10 6 5
2
3
623ヵ月
17
1 2
41
1
26 6ヵ月
10 2 3 2
17
9カ月6
1
7 12カ月
8
1
9
〜2年
43 2
2
12
〜3年
21
3
〜6年
3
3 6年〜
1
2
3
表5 静脈造影施行より治癒までの期間
椎 間 板 脱 出
変形性 腰椎
腰 痛
腰椎分離・た り
繍叢措
急症症症例例
腰椎横突起骨折
腰 部 打 撲 蹴
合 噂言
卜
経過観察し 得た症例
79(例)
4 16 14 6 5 3 3 130
〜1ヵ月
17 1 5 7
3
33〜3カ月
31
1 6 3 1 1 2
45
〜6カ月
18 2 3 1 2 3
29
〜12ヵ月
9
1
2
2 1 1
16
〜2年
4
1 1 1
7
1.研究結果
患者の自他覚症状をできる限り詳細精確に検査し,
他の臨床諸検査成績治療および臨床経過等を表記し
た.以下各症状につき詳細に検討した.1.疹痛(表6,7)
自覚症として腰痛および下肢放散痛および下肢のし びれ感の有無を検索した(表6).
腰痛および下肢放散痛を訴えるものは,椎間板脱出 症例51.8%,変形性腰椎症25%,腰椎分離・£り症の 26.7%であり,腰轡部の疹痛を訴えるものは椎間板脱 出例の37.3%,変形性腰椎症の75%,腰痛症の100%,
腰椎分離・£り症の66.7%,脊椎圧迫骨折の53,3%,
腰椎横突起骨折の66.7%,腰部打撲症の100%であっ
た.
2.ラセグー氏症候(表7)
本症候陽性率は椎間板脱出例の86.7%,変形性腰椎 症の75%,腰痛症の38.9%,腰椎分離・たり症の60
%,脊椎圧迫骨折の13.3%,腰椎横突起骨折の66.7%
に認めた.すなわち,椎間板脱出例に圧倒的に出現率
は高い,
また椎間板脱出の偏在を手術により確認した26例の うち10例が両側性に本症候を示したが,9例が椎間板 脱出側に強い本症候を示した.
3.圧痛(表7)
上轡神経に沿う圧痛は椎間板脱出例の77.1%,変形 性腰椎症の75%,腰痛症の22.2%,腰椎分離・たり症 の46.7%,脊椎圧迫骨折の26.7%,腰椎横突起骨折で は100%に認めた.また椎間板脱出例の手術施行例で
は,椎間板脱出側と一致して本症状を示したもの60
%,両側性に示したもの26.7%であった.
坐骨神経に沿う圧痛は椎間板脱出症例の60.2%,変 形性腰椎症の75%,腰椎分離・£り症の26.7%,脊椎 圧迫骨折の20%,腰椎横突起骨折の33.3%であった.
また椎間板脱出症例の手術施行例では,椎間板脱出側 と一致して本症状を示すもの63.3%,両側に圧痛を示
すもの13.3%であった.
4.腱反射(表7)
膝蓋腱反射の減弱または消失を示したものは椎間板 脱出例の19.3%,腰椎分離たり症の26.7%,脊椎圧迫 骨折例の20%であった.
アキレス腱反射の減弱または消失を示したものは椎
間板脱出例の38.6%,変形性腰椎症の50%,腰椎分
離たり症の33.3%,脊椎圧迫骨折例の13.3%,腰椎横突起骨折例の66.7%であった.
椎間板脱出手術施行例では椎間板脱出側に一致して 53.3%,両側に13.3%のアキレス腱反射の消失または 減弱を示した.椎間板脱出の高位とアキレス腱反射異 常の出現率との間には,諸家の報告に見られる如き特 別の相関々係を見ることはできなかった.
5.知覚障害(表7)
知覚鈍麻を示すものは椎間板脱出症例の62.7%,変 形性腰椎症の50%,腰椎分離・iヒり症の46.7%,脊椎 圧迫骨折例の60%であった.
Keegan 2)のdermatomeより,知覚鈍麻帯から
推定じた障害神経根の高位と,手術により確認した椎間板脱出との関係を見ると,L4−L5椎間椎間板脱
出例も,L5−S1椎間椎間板脱出例も,ともに単一
脊髄節に知覚鈍麻を示すものより第5腰髄節および第
1仙髄節の2ケの脊髄節に知覚鈍麻を示す症例が多
く,本症例でも46。7%が第5腰髄および第1仙髄節の 知覚鈍麻を示した.単一脊髄節に知覚鈍麻を示した11 例中7例は推定した障害神経根の高位と手術所見は一 致したが,4例は一致しなかった.
また脊椎圧迫骨折例では大多数が損傷された脊髄節 から推定する知覚鈍麻帯と実際の知覚鈍麻帯は一致し
なかった.
6,筋力低下(表7)
脊髄不全麻痺の2例を除き,筋力低下による歩行障
害,膀胱直腸障害等を訴える症例はなく,筋力低下が 高頻度に出現する母趾背屈力の減弱に注目した.母趾背屈力の減弱は椎間板脱出症例の20.5%,腰椎
分離・£り症の20%,脊椎圧迫骨折の33,3%であっ
た.
7.下肢ないし轡筋の筋萎縮(表7)
下肢周径1cm以上の左右差を示すものを下肢の筋
萎縮とし,轡筋の萎縮は轡部膨隆の平低,患側轡部が 広く見え柔かく触れるものとした.本症状は椎間板脱出症例の7.2%,脊椎圧迫骨折例
の26.7%が示した.
8.腰椎前轡消失または側攣および可動制限.(表 7)椎間板脱出症例の18例が側轡を示し,そのうち5 例が可動制限を示した.腰椎側轡を示す18例申15例が 患側凸であり,3例は健側凸の側轡を示した,
表6 主訴および自覚症状
例症症症例例折症 出椎り 骨撲 高腰た鮮旧起 ・ 突打 三
椎変腰腰脊椎圧高腰
合 計
腰部および
二部 痛
31 3 18 10 4 4 2 3
75下肢放散痛 4
1
1
6
腰痛および 下肢放散痛
42
1
3
46
腰痛および 下肢しびれ
盛
5
2
21
10
腰痛,下肢し びれ感および 下肢放散痛
1
1
2
表7 自覚ならびに他覚所見
椎間板脱出例 変形性腰椎症
腰 痛 症
腰椎分離づ二り症欝灘鯛
腰椎横突起骨折 腰 部打撲症
合 計
圧 痛
腰部 44
3
97 6
43 3
81蝟髄
神嗣神経 643
47 1 3 3
85 50
3
4
1 2 1
61
皮射異常
PSR
16
4 1 2
23
ASR
32
2
5
2 2
43
ラセグー氏症候
0。〜
60。
58
1 1 5 2
2
69
70。〜
90。
14 2 6 4
26
(一)
11 1 11 6
49 1
3 46
腰椎前上消 二又は側轡 腰椎可動制
限
18
2
3
23
5
2 6 1 1
15
知 覚 低下52
2
7 3 6
70 過敏
4
1
5
讐筋の萎縮下肢なし
の低下
母趾背屈力17
3 1
4
25
6
4
10
檜
腰椎分離・1ヒり症の1例は腰椎側轡, 1例は前轡消 失を示し,2例とも可動制限を示した.
脊椎圧迫骨折例では,新鮮例の全例が可動制限およ び骨折部の後光を示し,陳旧例の3例が円背および側
轡を示した.
皿.レ線学的検索
1。単純レ線的所見(表8)
骨棘形成を軽度および高度に分類した,軽度とは骨
棘が三体から水平方向に突出する程度までのものと
し,高度とは骨棘が騰状突起様像を呈し,その先端が 椎間板の方向に向い,時として隣接上下椎体の骨棘と 接する,また骨棘により橋を形成した状態のものとした.
軽度の骨棘形成を示すものは椎間板脱出手術例に多 く症例の50%,高度のものは変形性腰椎症の100%を 除き,脊椎圧迫骨折陳旧例に最多で77.8%であった.
椎間板狭小の程度を軽度および高度に分類すれば,
軽度は狭小化が椎間板の1/2までのもの,高度は狭小 化が椎間板の1/2以上に達したものとした.
なお:L5−S1椎間板は0 Conne113)が述べた如
く,その高さは正常であっても種々の変異があるた め,狭小化の著明なもの,椎間板の狭小とともに隣接 する椎体上下縁の硬化像または骨棘形成のあるもの等を狭小像とし計上した.
椎間板狭小化の頻度は,軽度は椎間板脱出手術例に 26.7%と多く,高度は脊椎圧迫骨折陳旧例の55.6%が
最多であった.椎間板脱出手術例では椎間板の狭小像
を示す15例とも狭小化した椎間に,椎間板脱出を見
た.
腰椎側糸は椎間板脱出手術例の9例に認めたが,す
べて椎間板脱出側凸の側轡を示した.脊椎圧迫骨折における骨折椎体の圧縮度を児島4)に したがい椎体前後縁:の比率(1umbar index)により
測定した.第12胸椎および第1腰椎の椎体前後一汁の
正常値は,児島によれば80〜95%である.圧縮度をか りに59%以下と,60%以上とに分け,59%以上を高度 圧縮60%以上を軽度圧縮とした.脊椎圧迫骨折新鮮例では受傷時の圧縮度とその症状 との間に相関々係を見ることはできず,陳旧例では脊
髄不全麻痺の2例とも高度の圧縮度を示した.治癒し た2例は正常値に迄修復されていた.また脊髄不全麻
痺以外の症例でも圧縮度の高度のものが強い神経症状を呈した.
B6hlerの亀背角は9。以下および100以上に分類
し,亀背角9。以下を軽度,10。以上を高度とした.亀背角の程度と臨床症状との相関は,圧縮度における
とほぼ同様であった.
2.Myelography所見(表9)
Myelograohyを行なった症例は椎間板脱出症例 40例,変形性腰椎症2例,腰椎たり症1例であ
る。
Myelography所見を坂巻5)にしたが1型(半月
型),三型(根瘤型),皿型(狭穿型;皿a,断裂型;表8 レ線学的所見
椎間板脱出例 変形性腰椎症 腰 痛 症
腰椎分離・たり症欝懸鯛
腰椎横突起骨折 腰 部打撲症
正
常
3010
21
3
骨棘形成
軽
度
34
6 7 2
高
度
4
7
椎間板 狭 小軽
度 19
1 2 3 4
高 度 9
1 3
5
脊椎骨粗髪症
不安定椎
3
6 5 3 1
4
2
4移
行
椎
3
1
腰椎側轡又は
前轡消失
潜在性二分階 椎17
1 1
1 6 1
2
圧 縮 度 受傷時 59%
以下
2 60%
以上
4 症状固 定時 59%
以下
3
60%以上
6 6
亀背角(B6hler)
受傷時
9。
以下
3
10。
以上
3
症状固 定時9。
以下
5
410。
以上
1 5
圧纈一 蜷浴E1・・
皿b)に分類した.
Myelographyを施行後,手術を行なった椎間板脱
出例28例のうち1例は正常像を示し,25例は単一椎間に,2例は2,3椎間に陰影欠損を示した,
椎間板脱出保存治療例12例のうち3例が正常豫を示
し,7例が単一椎間に陰影欠損を示し,2例が2,3
椎間に陰影欠損を示した.変形性腰椎症の2例はともに多椎間に陰影欠損を示
した.
腰椎とり症の1例はL4−L5椎間左側に皿型の陰
影欠損嫁を示した.
表9 椎間板脱出例のMyelography 陰影欠損部位
皿.脊椎静脈系造影法
椎 間
山
型型
皿 型
a 型
b 型
合 計
L4−L5 左側右側
11
7 1
4
2
1
26
L5−S1 左側右側
3
1 1
1
6
(Myelograph陰影欠損の単発症例のみ)
1。実施方法
局所麻酔後経皮的に脊椎棘突起に佐藤式骨髄穿刺針
を刺入した.刺入部位は推定された病変部の1〜2椎
体末梢の棘突起刺入を原則とした.レ線撮影は前後,側面および症例により斜位方向の撮影を行なった.前
後像は60%Urographinを用い,側面像および斜位 像は76%Urographinを使用した.使用量は15〜20
cc.である.
注入速度は15〜20cc.のUrographinを3〜5
秒以内に注射し,その完了と同時にレ線撮影を行なった,
造影可能範囲は下部腰椎棘突起に注射した場合に
は,末梢側は仙骨静脈叢まで,中枢側は上行腰静脈が 奇静脈および半奇静脈に移行する部位まで造影可能であった.
2.脊椎静脈系の解剖(図1,a, b, c, d)
脊椎静脈系は一般に上下方向に縦走する網状構造を なし,内外椎骨静脈叢とこれに吻合する諸血管から成 っている.このうち内椎骨静脈叢がこの静脈系の基幹
であって,脊椎管内硬膜周囲に輪状かつ網状に存在
し,椎体の直後にある左右前内椎骨静脈叢は太く,椎 弓の直前にある左右後内椎骨静脈叢は細い.腸内椎骨 静脈叢には椎体静脈が合流し,椎間静脈を介して腰静 脈,上行腰静脈,奇静脈,前仙骨静脈叢,総腸骨静脈または下大静脈と交通している,内椎骨静脈叢は腰 部ではかなり規則的な梯子状を呈する。外椎骨静脈
表10 脊椎静脈系造影所見
繍篠存二
二 形 性腰椎症
腰 痛 症
腰椎分離・たり症
欝懲糊
腰椎横突起骨折
腰 部 打 撲 症
正
常
5
7 1
2
3
内椎骨静脈叢
狭
小 21
271 6
7閉
塞
18
29 45
95 6
2後方突出
側方偏位
2 7
4 42 3
1
椎間静脈
狭
小 1
閉
塞 2
2
上行腰 静脈
閉
塞
1
5 5 2
怒
張
1
腰静脈
閉
塞
2 3
怒 張 3
1
1
3 1
逆流傾向
前方椎間板脱出
3 1 1
1 1 1
1
後外椎骨
静脈叢
狭
小
1
閉塞
7
叢は椎体前部の前外椎骨静脈叢と棘突起および椎弓周 囲の後外椎骨静脈叢から成り,内椎骨静脈叢と主とし て推間静脈によって密接に連絡している.
腰椎部の本静脈叢正常像を,図1a, b, c, dに
示す.
後背椎骨静脈叢については正常像をレ線学的に追求 した報告はない.著者は外傷例および腰椎分離・たり 症を除いた,後外椎骨静脈叢が正常と思われる116例 の,関節突起間部および椎間関節部の後下椎骨静脈叢 を詳細に観察し次の結果を得た(図1,c, d).
棘突起周囲の静脈叢は種々に分岐,合流しながら後 上方より前下方に走り,横突起の下部を通り関節突起
間部のほぼ中央より椎間静脈または腰静脈と吻合す る.その数は1〜数条にわたるが欠損するものはな
い.また椎間関節部えの静脈は,棘突起周囲の静脈が 後下方より前上方に向い,関節部を通り椎間静脈または腰静脈と連絡する.この部の静脈は1〜3条より関
節突起間部を通る静脈よりも細く,また欠損するものもあり観察した症例の62.8%に認めることができた。
3.造影所見(表10)
各種疾患別に静脈造影所見を検討した,なお内椎骨 静脈叢は細く,レ線上造影されないことが多いため前 内椎骨静脈叢を重視し,本論文中内椎骨静脈叢の所見 として肝内椎骨静脈叢をとりあげた.
1)椎間板脱出症例(83例)
内椎骨静脈叢に病変像を示したもの9L6%を認め,
うちその狭小像は57.8%,閉塞像は56.6%に認めた.
椎間板脱出の輪廓を示すと思われる内椎骨静脈叢の後 方突出像は13.3%に認め,その部位に一致して手術例 の全例に椎間板脱出の存在を手術にて確認した.
椎間静脈の狭小像を一例,閉塞像を4例に認めた.
また本造影法にて同時に造影される下大静脈の陰影欠
損として前方椎間板脱出を推定せしめる豫を4例に認
めた.
Myelography所見との比較(表11)
40例にmyelographyと静脈造影の両者を行なっ
た.
Myelography陰影欠損が単一椎間に限局する32例 では,30例が同一椎間に内椎骨静脈叢の病変像を示
し,2例は多項間に及ぶ病変像を示した.
myelography所見と静脈造:影所見を同一椎間に認
める30例では,うち内椎骨静脈叢の病変像を偏側に示すもの19例で,そのうち2例はmyelography陰影
表11静脈造影所見とMyelography 所見の一致率
臥αd靹bρ〇一①眺薯
正常像
単一椎間
隔
酪
多椎間 (+)
静脈造影所見
単 一 椎 問 同 側 両 側
(+) (+)
3
(7.5%)
15 (37.5%)
2
( 5%)
1
(25%)
10 (2.5%)
1
(2.5%)
反対側
(+・)
2 (5%)
多椎間+
︵
2 (5%)
4 (10%)
(椎間板脱出例 40例について)
表12静脈造影所見とMyelography所見との比較
正
常 像母
型﹈ 1
型
皿 型
a 型
b
型
症例 数
4
内 椎 骨 静脈 叢
狭小
3 (75%)
14 堰i7811%)
13 P(46.1%)
1
21
(50%)
1 1 (100%)
閉 塞
側方偏位
( 125%)1
3
(21.4%)
12 (92.3%)
2 (100%)
2
後方突出
3
(21.4回目
4
(30.8%)
椎間静脈
狭 小
1
閉
塞
3
椎間板脱出前 方
2
1
椎間板脱出例のMyelography陰影欠損複合例及び静脈造影所見の多発例を除いた34例
欠損の反対側にのみ内椎骨静脈叢の病変像を認め,内 椎骨静脈叢の病変像側に椎間板脱出を証明し,11例は 両側に内椎骨静脈叢の閉塞像を示した.
Myelography陰影欠損が多才間に及ぶ4例で内椎
骨静脈叢も多椎間に病変像を示した.Myelography所見が正常である4例は,椎間板脱
出部および臨床症状に一致して内椎骨静脈叢の病変像を示した.
Myelography陰影欠損の1型を示も症例は内椎骨
静脈叢の狭小像を78.6%に示し,皿型,皿型を示す症例は閉塞像を87.5%が示した(表12).
手術所見との比較(表13,A)
単一椎間に椎間板脱出を見た28例では,内椎骨静脈 叢の病変像を示す椎間と椎間板脱出高位とが一致した
もの26例(92.9%)であった.
2例(7.1%)は多層間に内椎骨静脈叢の病変像を
示した.
上記の26例では,椎聞板脱出の反対側にのみ内椎骨 静脈叢の病変像を示した症例はなかったが,椎間板脱 出が偏側であった24南中7例が両側に本静脈叢の病変
像を示した.
椎間板脱出の程度との関連では(表14),椎間板脱 出の軽度突出例は内椎骨静脈叢の狭小像を77.8%,閉 塞像を50%,後方突出像を11.1%に示し,高度突出お よび髄核脱出例は本静脈叢の狭小像を60%,閉塞像を 80%,後方突出像を50%に認めた.すなわち,椎間板 脱出が高度になると本静脈叢の閉塞像(椎間板脱出軽 度突出例50%→高度突出および髄核脱出例80%)およ び後方突出豫(軽度突出例11.1%→高度突出および髄 核脱出例50%)を示す率は高くなる.
次に岡岬の症例をあげ静脈造影所見の病変像を示せ
ば:
症例1:28歳,女(図2a, b)
両側L4−L5椎間板脱出
主訴:右下肢放散痛現病歴:2カ月前感冒に罹患後右下肢放散痛を覚
え,1週間前より増悪して来た.現症:腰部を左傾屈,右捻転時に右下肢に放散痛あ
り.ラセグー氏症候は右300陽性,左60。陽性であ
り,知覚鈍麻を右下腿外側より右母趾足背にかけて認 む.アキレス腱反射は右低下,左正常であり,母趾背 屈力は右低下,左正常であった.表13A 手術所見と静脈造影所見との関係
部位椎間板脱出
同側(+)
両側(+)
静脈造影所見
片 側
(+)
17 (60.7%)
両 側
(+)
7 (25%)
2 (7.1%)
多椎間
(+)
2 (7.1%)
正常
(椎間板脱出1椎間の28例にて)
表13B 手術所見とMyelography
所見との関係椎間板脱出部位
同 側 (+)
両 側 (+)
反対側 (+)
Myelography所見
片 側
(+)
19 (73.1%)
2 (7.7%)
2
(7.7%)
両 側
(+)
2 (7,7%)
正常像
1 (3,8%)
(椎間板脱出1椎間の26例にて)
表14椎間板脱出の程度と静脈造影所見
突
出
軽 度
高 度
髄 核 脱 出
症例
数 18
6
内 椎骨 静 脈 叢
狭小
閉
塞
側方偏位 後方突出
椎間静脈
14 (77.8%)
4
(66.7%)
4( 2 T0%)
9 (50%)
5
(83.3%)
3 (75%)
2 (11.1%)
狭
小
2 1(11・1%)1
3 (50%)
2 (50%)
1
閉
塞
1
1
椎間板脱出前 方
2
1
(椎間板脱出の複合例を除いた28例について)
造影所見:前後像ではし4−L5椎間右側の内椎骨
静脈叢は閉塞し,左側の本静脈叢は狭小像を示す.側面像ではし4−L5椎間で本静脈叢は狭小像を呈しな
がら閉塞しかつ後方突出像を示す.Myelography所見:L4−L5椎間右側に二型の
陰影欠損を示す.
手術所見:L4−L5旧聞板の右側にて髄核は逸脱
し,高息5腰神経根を著明に圧迫し,左側では椎間板 は軽度に突出し,左第5腰神経根を外側に圧迫していた.
手術後経過は,手術後直ちに右下肢放散痛は消失
し,1カ月後アキレス腱反射の右低下を除き,すべて軽快した.
症例2:48歳,男(図3a, b)
右側L4−L5椎間板脱出
主訴:初診時は腰痛,5週後には腰痛および右下肢 放散痛
現病歴:3日前より誘因なく腰痛を覚え来院す(初
診時). その後経過観察するに症状は除々に増悪し,
5週後に腰痛および右下肢放散痛を訴う.その後保存 的治療を行なうに,症状は高々に軽快し約1カ月にて
治癒した.
Myelographyは行なわなかった.
二二:初診時には認むべき所見なく,5週後ではう セグー氏症候は右300陽性,左陰性,上轡神経および 坐骨神経に沿う圧痛は右陽性,左陰性であった.アキ レス腱反射は右側で減弱,左側は正常,知覚鈍麻は右
足二心趾側に認ぬた.
造影所見(図3a, b):初診時の造影所見(図3 a)は,正常像を示し,約5週後の造影所見(図3 b)は,内椎骨静脈叢のL4−L5椎間右側に閉塞像
を認めた.
症例3:18歳,女(図4a, b)
右側L5−S1椎間板脱出
主訴:腰痛および右下肢放散痛現病歴:約1カ月前より誘因なく主訴を覚え,約20 日前より症状は一々に増悪して来た.
現症:右凸の腰椎側轡あり.ラセグー次症候は右
30。,陽性,左陰性,上訴神経および坐骨神経に沿う圧 痛は右陽性,左陰性であった.アキレス腱反射は正常,知覚障害は右足背外側に知
覚鈍麻を認めた.
造影所見:手術前の造影所見(図4,a)はし5−S 1椎間で内椎骨静脈叢の閉塞像を認め,手術後1ヵ月 の造影所見(図4,b)は本静脈叢は正常像を示した.
Myelography所見=L5−S1二二右側に1型の
陰影欠損を認めた.
手術所見:L5−S1椎間板右側に椎間板は高度に
突出し,その尖端で後縦靱帯の断裂があった.術後経過は良好で1カ月後退院し,約2カ月にて治
癒した.
2)変形性腰椎症(4例)(表10)
全例が内椎骨静脈叢の病変像を示し,そのうち狭小
像を示したもの1例,閉塞像を4例,後方突出像を4
例が示した.また一部静脈に蛇行様走行を呈するものがあった.
Myelgraphy所見との比較:myelographyを2 例に行なった.2例とも1型の陰影欠損を回心間に示
し,その部に2例とも内椎骨静脈叢の後方突出像を認
めた.
特徴ある一症例を下記に示せば:
症例4:64歳,男(図5a, b)
変形性腰椎症 主訴:腰痛
現病歴:約6カ月前に重量品を担いで腰痛を発し,
以来腰痛あり.約5カ月にて治癒す.
現症:ラセグー氏症候は両側70。陽性で,上轡神経 および坐骨神経に沿う圧痛は両側に陽性であるが,と
くに左側で著明である.アキレス腱反射は正常,知覚
障害はない.
造影所見:前後像でL4−L5椎間左側で内椎骨静
脈叢が閉塞像を示す.また内椎骨静脈叢,詰問静脈の 一部,上行腰静脈に蛇行様走行を認めた(図5a).側面像では,内椎骨静脈叢の後方突出像はL2−L 3,L3−L4, L 4−L5椎間に認めるが,内椎骨 静脈叢の狭小像はL4−L5椎間のみである(図5
b).
単純レ線像(図5c)は,腰椎全般に骨棘形成高度
で,腰椎全般に椎体変形を示す.Myelography所見(図5d)はし2−L3, L 3
−L4, L 4−L5, L 5−S1椎間に工型の陰影欠
損を認める.この陰影欠損は多発性であり,いずれが 真の疹痛発生部位であるか判定できないことが多いが,図5a, bに見る如く内椎骨静脈叢が前後像で閉塞 像を,側面像で狭小像と後方突出像を示すL4−L5
椎間が最とも活量発現と関連が深いと考えられる.3)腰痛症(18例)(表10)
正常像を38.9%に認め,内椎骨静脈叢の狭小像を
33.3%に,閉塞像を27.8%に,後方突出像を11.1%に認めた.
4)腰椎分離たり症(15例)(表10)
正常像を6.7%に認め,内椎骨静脈叢の狭小像を
46.7%に,閉塞縁を60%に,後方突出像を20%に認め た.特徴ある2例を掲げれば:
症例5:22歳,男(図6a, b)
第5腰椎£り症
主訴:腰痛現病歴:約2週間前に腰部を捻り腰痛を発す.初診
当日に静脈造影を施行し,第5腰椎£り症の診断のも とに保存的療法を約7ヵ月間続け治癒す.造影所見:初診時の腰痛時の造影所見(図6a)で
は,内椎骨静脈叢は正常像を示すが後外椎骨静脈叢は 関節突起間部で閉塞像を示した.約7カ月後の治癒時の造影所見(図6b)では内椎骨静脈叢および門外椎
骨静脈叢はともに正常像を示す.本疾患で特徴的な造影所見は党外椎骨静脈叢の病変 像の出現である.すなわち,関節突起間部の回外椎骨 静脈叢の狭小像を1例,閉塞像を7例に認めた.・臨床 症状と等外椎骨静脈叢との関連については,後外椎骨
静脈叢の病変像を示す8例中7例が内椎骨静脈叢の病
変像をも合併しているため,その関連を見ることはで きなかったが,旧例は関節突起間部の静脈叢の閉塞像 のみを示し,腰痛の消失した約7カ月後の当部静脈叢 は正常像を示すことより,後外椎骨静脈叢の病変が本 疾患の疹痛発生因子として何んらかの影響を与えるものと考えられる.
症例6:53歳,男(図7a, b, c)
第4腰椎たり症,左側L4−L5椎間板脱出
主訴=腰痛および左下肢放散痛現病歴:約2週間前より主訴を覚える.
現下:ラセグー氏症候は左600陽性,右70。性,ア
キレス腱反射は両側とも減弱し,知覚鈍麻は左下腿より足背の外側に認めた.
造影所見:側面豫中間位では(図7a), L 4−L5 椎間に一致して内椎骨静脈叢の狭小像および二方突出
像を示す.機能撮影では,前屈時(図7c),内椎骨
静脈叢の後方突出像は縮小し,下大静脈の陰門欠損が著明となる.一方背屈時(図7b)には本静脈叢は閉
塞するとともに後方突出像は著明となり,下大静脈の 陰影欠損は縮小し,また前仙骨静脈叢えの逆流傾向を示す. .
Myelography所見:L4−L5椎間左側に皿型の
陰:影欠損を認めた.
手術所見:L4−L5椎間板左側で,椎間板は軽度 に突出していた.
手術後経過は良好で約4ヵ月間で治癒した.
5)脊椎圧迫骨折(15例)(表10)
新鮮例(6例):5例が内椎骨静脈叢の閉塞像を示
し,うち4例は上行腰静脈の閉塞豫をも示した.他の 1例は上行腰静脈の閉塞像のみを示し,内椎骨静脈叢
は正常像を示した.
すなわち,全例が上行腰静脈または内椎骨静脈叢の
いずれかに閉塞像を示した.
特徴ある1例を示せば;
症例7:29歳,女(図8a, b, c, d)
第2腰椎圧迫骨折
主訴:腰痛現病歴:神経科入院中の患者で,2階より転落し腰 部を強打す.受傷直後に来院し静脈造影を施行す.第 2腰椎圧迫骨折を整複固定し,経過観察するに,受傷
後8カ,月で治癒した。
現症:受像当日では,第2腰椎棘突起に圧痛著明,
腰椎可動制限あり.膝蓋腱反射,アキレス腱反射等は 両側とも正常であったが,知覚障害,下肢筋力等は明
らかでなかった.
造影所見:受傷当日の造影所見(図8a, b)は前
後像でL2−L3椎間にて全静脈が閉塞像を示し,側 面像では内椎骨静脈叢はL2−L3岬町で閉塞像を示
すが,上行腰静脈は正常に造影されている.治癒時の造影所見(図8c, d)は,前後像は正常 像を示し,側面像では第2腰椎の椎体静脈の閉塞像が
認められた.
陳旧例(9例):治癒している2例は正常像を示し,
なお症状を残す7例では内椎骨静脈叢の閉塞像を6例 が,1例が本静脈腰の後方突出豫を示し,7例のうち
5例が上行腰静脈の閉塞像を示した.症状を示す7例 がすべて内椎骨脈静叢あるいは上行腰静脈の閉塞像ま たは後方突出像を示した.また6例が椎体静脈の閉塞像を示した.
6)腰椎横突起骨折(3例)(表10)
受傷後1カ月以内の2症例は骨折側の内椎骨静脈叢
および上行腰静脈の閉塞像を示し,受像後3カ月の1 症例は内椎骨静脈叢は正常像を示し 上行肝静脈の怒 張像を認めた・特徴ある一症例を示せば;症例8:47歳,男(図9a, b)
第2,3,4腰椎左横突起骨折
主訴:腰痛現病歴:仕事中に約15kgrの鉄管が落ちて腰部を
強打し受傷した.受傷後28日に静脈造影を行なった.経過観察するに,受傷時の坐骨神経痛様疹痛は軽快
し,9カ月後には軽度の腰痛を残すのみになった.現症:静脈造影を初回に行なった時期では,腰椎可 動制限は著明で,ラセグー氏症候は左30。陽性,右45。
陽性であった.アキレス腱反射は左減弱,右正常で,
知覚鈍麻はなかった.
受傷後9カ月では,左仙棘筋に軽度の圧痛以外は認
めなかった.
造影所見:受傷後28日の造影所見(図9a)は,左
側の内椎骨静脈叢および上行腰静脈はともに閉塞像を呈する.
受傷後9カ月の造影所見(図9b)では,内椎骨静
脈叢は正常像を示し,上行腰静脈は骨癒合が完成した 第2腰椎左横突起より中枢側は造影されているが,仮関節を形成した第3,4腰椎左横突起部の上行腰静脈 の造影は不充分である.
7)腰部打撲症(3例)(表10)
全例が正常像を示した.
4.臨床症状との関連
Schlegel 6)は根性坐骨神経痛の根症状を詳細に神 経学的に根刺激症状と根圧迫症状とに区別した.根刺 激症状として下肢放散痛およびラセグー氏症候を,根 圧迫状として知覚低下およびアキレス腱反射の減弱ま たは消失等をとり挙げ,これ等と椎間板脱出例83例の 静脈造影所見との関連を検討した.
1)下肢放散痛との比較(表15A, B)
下肢放散痛陽性群(46例):内椎骨静脈叢の狭小像
を56.5%に,閉塞豫を71.7%に,後方突出像を15.2%
に認めた.
下肢放散痛陰性群(37例):内椎骨静脈叢の狭小像
を59.5%に,閉塞像を37.8%に,後方突出豫を10.8%
に認めた.
すなわち,下肢放散痛陽性群が内椎骨静脈叢の閉塞
像を示す率(71.7%)は高い.
myelography所見との比較では(表15B),下肢 放散痛の有無によってmyelography所見に有意の
差を見ることはできなかった.2)ラセグー氏症候との比較(表16A, B)
ラセグー氏症候60。以上不可能の高度陽性群と,ラ セグー氏症候70。以上可能の軽度陽性群およびラセグ ー氏症候陰性群に分類し比較検討した.
ラセグー氏症候高度陽性群(58例):内椎骨静脈叢 の狭小像を55.2%に,閉塞像を67.2%に,後方突出像
を15.5%に認めた.
ラセグー氏症候軽度陽性群(14例):内椎骨静脈叢 の狭小像を71.4%に,閉塞像を28.6%に,後方突出像
を14.3%に認めた.
ラセグー氏症候陰性群(11例):内椎骨静脈叢の狭
小像を54.5%に,閉塞像を36.4%に認めた.
したがって,ラセグー氏症候高度陽性群に内椎骨静 脈叢の閉塞像の出現率(67.3%)は高い.
Myelography所見との比較では(表16B),その
関連を実証することはできなかった.3)知覚低下との比較(表17A, B)
知覚低下群(52例):内椎骨静脈叢の狭小像を63.5
%に,閉塞像を53.8%に,後方突出像を17.3%に認め
た.正常像は7.7%であった.
表15A 椎内間板脱出例の下肢放散痛と静脈造影所見との比較
下肢放散痛
撃 性 陰 性
症例数
46 37
正
常
2
3
内 椎 骨 静脈 叢
狭
小
26 (56.5%)
22 (59.5%)
閉
塞
33 (71.7%)
14 (37.8%)
側方偏位
2
後方突出
7
(15.2%)
4
(10.8%)
椎間静脈
狭
小
1
閉
塞 4
椎間板脱出前 方
4
B 下肢放散痛とMyelography所見
下肢放散痛
陽 性
陰 性
症例数
27
9
正常
4
(14.8%)
Myelography陰影欠損
工 四型型睡・型睡b型
11 (40.7%)
5 (55.6%)
11 (40.7%)
2
(22.2%)
1
(3.7%)
1
(11.1%) 1
(11.1%)
(Myelography陰影欠損複合例を除く36例にて)
表16A 椎間板脱出例83例のラセグー氏症候と静脈造影所見
ラセグー氏症候 高度陽性
軽度陽性 陰 性
症例数 正常像
58
堰i3.1%)
14 2
(14.3%)
1
11 1C9・1%)
内 椎骨静脈 叢
狭
小 32
(55.2%)
10 (71.4%)
6 (54.5%)
閉塞
39 (67,2%)
4
(28.6%)
4
(36.4%)
側方偏位
2
後方突出
9
(15.5%)
一2 (14,3%)
椎間静脈 狭小
1
閉塞
4
椎間板脱出前 方
3
1
表16B 椎間板脱出例36例のラセグー氏症候とMyelography所見
ラセグー氏症候
高度陽性 軽度陽性
症例数
29
5
陰
性2
正常像
2
(6.9%)
1
(20%)
1
(50%)
Myelog臓phy陰影欠損
1
到∬型1皿・剥皿b型
12 (41.4%)
3
(60%)
1 (50%)
12 (41.4%)
1
(20%)
2 (6.9%) 1 (3.5%)
(Myelography陰影欠損複合例を除く36例)
表17A 椎間板脱出例79例の知覚低下と静脈造影所見
知
覚
低 下 正 常
症例数
52 27
主常像
4 (7、7%)
1 (3.7%)
内 椎骨 静 脈 叢
狭小
33 (63.5%)
14 (51.9%)
閉塞
28 (53,8%)
17 (63.0%)
側方偏位
2
後方突出
9
(17.3%)
2
(7.4%)
椎間静脈
狭
小 1
閉塞3
1
離間版脱塾
3
B 椎間板脱出例35例の知覚低下とMyelography所見
知
覚
低 下
正
常症例数
26
9
正常像
4 (15.4%)
Myelography陰影欠損
工 型口到皿・測恥型
13 (50%)
3
(33.3%)
8
(30.8%)
4
(44.4%〉
1
(3.8%)
1 (11.1%) 1
(11.1%)
(Myelography陰影欠損複合例を除く)
知覚正常群(27例):内椎骨静脈叢の狭小像を51.9
%に,閉塞像を63%に,後方突出像を7.4%に認め た.正常像を3.7%に認めた.
すなわち,知覚低下群と知覚正群との間に有意の差
を見ることはできなかった.
またmyelography所見との比較でも (表17A,
B),知覚低下群と正常群とに有意の差を見ることは
できなかった.一
4)アキレス腱反射との比較(表18A, B)
アキレス腱反射減弱または消失群(32例):正常像 を6.3%に認め,内椎骨静脈叢の閉塞像を59.4%に,
狭小像を59.4%に,後方突出像を15.6%に認めた.
アキレス腱反射正常群(51年置:正常像を5,9%に認 め,内椎骨静脈叢の閉塞像を54.9%に,狭小像を56.9
%に,後方突出像を11.8%に認めた.
アキレス腱反射減弱および消失と,静脈造影所見と の連聯を実証することはできなかった.
またアキレス腱反射減弱および消失と,myelogra・
phy所見との関連も実証できなかった(表18B).
5.経過との関連
1)経時的変化:臨床症状の変化を静脈造影にて追 跡し得た症例は,椎間板脱出例18例,変形性腰椎症1
例,腰痛症1例,腰椎分離・たり症2例,脊椎圧迫骨 折2例,腰椎横突起骨折1例,合計24例である.一症
例につき最:多施行数は4回,最:少2回であった,椎間 板脱出例の18例中5例は手術前,後に静脈造影を行なった.
静脈像の変化は,ある程度可逆的であり呈する症状 によって変化することは時期をかえて造影した24例か
らも推測される.例えば,症例2(図3a, b)は腰
痛にて発症しその時期での静脈造影所見は正常像を示し,5週のちに下肢神経症状を伴なう腰痛がおこった 際の造影では内椎骨静脈叢は閉塞像を示した.さらに
症例3(図4a, b)では,手術前の内椎骨静脈叢の 閉塞像が手術後1ヵ月には臨床症状の軽快とともに改 善され正常像を示した.
腰椎分離・たり症では症例5(図6a, b)の如く,
後外椎骨静脈叢と臨床症状の関連が推測された.
脊椎圧迫骨折では受傷時全例が内椎骨静脈叢または
上行腰静脈のいずれかに閉塞像を示すが,症例7(図
8a, b, c, d)の如く,受傷時閉塞像を示した内椎骨静脈叢が臨床症状の改善した8カ月後には正常像
を示し,脊椎圧迫骨折例でも臨床症状が軽快すれば内 椎骨静脈叢も改善されることを認めた.しかし脊椎圧 迫骨折陳旧例の如く,神経症状を残す7例のうち85.7%が内椎骨静脈叢の閉塞像を示すことは,神経症状が 改善されないものは本静脈叢の修復も見られないこと
を示すと考える.
腰椎横突起骨折では受傷時,骨折側の内椎骨静脈叢
および上行腰静脈が閉塞像を示す.症例8(図9a,
b)の如く,腰痛と坐骨神経痛を訴える受傷後28日に は骨折側の内椎骨静脈叢および上行腰静脈はともに閉
表18A 椎間板脱出例83例のアキレス腱反射と静脈造影所見
反 射
アキレス腱低下又は 消 失 正 常
症例数
32
51
正常像
2 (6.3%)
3 (5.9%)
内 椎 骨 静 脈 叢
狭
小
19 (59.4%)
29 (56.9%)
閉
塞
19 (59.4%)
28 (54.9%)
側方偏位
2 (6.3%)
後方突出
5
(15.6%)
6
(11.8%)
椎間静脈
狭
小
閉
塞
2
1 2
椎間板脱出前 方
3 1
B 椎間板脱出36例のアキレス腱反射とMyelography所見
反 射
アキレス腱低下または消失
正
常症例数
20
16
正常豫
1
(5.0%)
3
(18.8%)
Myelography陰影欠損
・劉皿到皿・到皿b型
8 (40%)
8 (50%)
8
(40%)
5
(31.2%)
2 (10%) 1
(5%)
(Myelography陰影欠損複合例を除く)
塞像を示し,臨床症状が軽快し軽度の腰痛を訴える受 傷後9カ月では内椎骨静脈叢は正常像を示した.
しかし仮関節を示す横突起骨折部では上行腰静脈の 造影は不充分であった.
2)初発症状発現より静脈造:影施行時にいたる罹病 期間との関係(表19A, B)
初発症状発現よりの罹病期間との関係を見るために
,それの1カ月以内の症例と,1カ月以上経過した症 例とに分類し検討した.
1カ月以内の症例群:椎間板脱出例35例では内椎骨
静脈叢iの狭小像を62.9%に,閉塞像を45.7%に,後方突出像を14.3%に認め,正常像を5.7%に認めた.
腰痛症(10例)では正常像を50%に,内椎骨静脈叢 の狭小像を30%に,閉塞像を20%に,後方突出像を10
%に認めた.
腰椎分離・是り症(6例)では内椎骨静脈叢の狭小 像を83.3%に,閉塞像を50%に,後方突出像を33.3%
に認めた.
1カ月以上経過した症例群:椎間板脱出例48例では 内椎骨静脈叢の狭小像を54.2%に,閉塞像を64.6%
に,後方突出像を12.5%に認め,正常像を4.2%に認
めた.
腰痛症(8例)では正常像を25%に認め,内椎骨静 脈叢の狭小像を37.5%に,閉塞像を37.5%に,後方突
出豫を12.5%に認めた.
腰椎分離・たり症(9例)では正常豫を11.1%に,
内椎骨静脈叢の狭小像を22.2%に,閉塞像を66.7%に
後方突出像を11.1%が示した.
なお,変形性腰椎症は症例が少なく比較検討しなか
った.
表19A 初発症状発現より静脈造影施行時に至る罹病期間との関係
脱出例 椎間板 腰椎症 変形性 腰痛症
た り 症腰椎分離・
1カ月以内
1カ月以上
1カ月以内
1カ月以上
1カ月以内
1カ月以上
1カ月以内
1カ月以上
症例数
35
正常像
内 椎 骨 静 脈 叢 狭小 2 22
(5・7%)1(62・9%)
2
481(4.2%)
1
3
10
8
6
9
5
(50%)
2 (25%)
1
(11.1%)
26 (54.2%)
1
3
(30%)
3
(37.5%)
5
(83.3%)
2
(22.2%)
閉
塞
16 (45.7%)
31 (64.6%)
1
3 2 (20%)
3
(37.5%)
3
(50%)
6 (66.7%)
側方偏位
1
1
後方突出
5 (14.3%)
6 (12.5%)
1
3
1 (10%)
1
(12.5%)
2
(33.3%)
1 (11.1%)
椎間静脈
狭
小
1
閉
塞
1
3
椎間板脱出前 方
1
3
表19B 初発症状発現よりMyelography施行時に至る罹病;期間との関係
脱出例 椎間板
1カ月以内 1カ月以上
症例数
12
24
正常像
1
(8.3%)
Myelography陰影欠損
・型1皿型1皿・型1皿b型
4
(33.3%)
3 12
(12.5%) ( 50%)
5 (41.7%)
8
(33.3%)
1
(8.3%)
1 (4.2%)
1 (8.3%)
(Myelograp皐y陰影欠損複合例を除く36例にて)
したがって初発症状発現より1カ月以上経過した症 例は内椎骨静脈叢の閉塞豫を示す率は高いといえる.
myelography所見との比較では(表19 B),その
関連を実証することはできなかった.3)静脈造影施行より治癒にいたるまでの罹病期間
との関係(表20),
保存的療法にて治癒した症例を対象とし,1カ月以 内に治癒したもの,および1カ月以上を要して治癒し
た症例とに分類し検:即した.
治癒まで経過観察し得た症例は椎間板脱出例の保存 的治療例49例,変形性腰椎症4例,腰痛症16例,腰椎
分離・たり症14例である.
1カ月以内に治癒した症例:椎間板脱出例(17例)
では内椎骨静脈叢の狭小縁を64.7%に,閉塞像を29.4
%に,後方突出像を5.9%に認め,正常像は11.8%で
あった.
腰痛症(5例)では正常像を80%に認あ,内椎骨静 脳叢の狭小像を20%に認め,閉塞像を示した症例はな
かった.
腰椎分離・£り症(7例)では内椎骨静脈叢の狭小
像を71.4%に,閉塞像を42.9%,後方突出像を28.6%
に認めた.
1ヵ月以上要して治癒した症例群:椎間板脱出例
(32例)では正常像を6.3%に認め,内椎骨静脈叢の狭 小像を46.9%に,閉塞像を65.6%に,後方突出像を
9.4%に認めた,
腰痛症(11例)では正常像を9.1%に認め,内椎骨 静脈叢の狭小像を45.5%に,閉塞像を45.5%に,後方
突出像を18.2%に認めた.
腰椎分離£り症(7例)では正常像を14.3%に認
め,内椎骨静脈叢の狭小像を28.6%に,閉塞像を85.7%に,後方突出像を14.1%に認めた.
変形性腰椎症は症例が少なく検討しなかった.
すなわち,治癒1カ月以上を要した症は例内椎骨静
脈叢の閉塞像を示す率が高いといえる.総括ならびに考察
Batson 1)が脊椎静脈系の研究方法を開発して以来 多くの報告がある.造影手技にも種々の変遷があり,
下大静脈よりの逆行性カテーテル挿入法(耳elander
7)),バルーンカテーテルによる下大静脈造影と同時 に造影する方法(Nordenstr6m 8)),背部より脊椎々 体の直接穿刺による静脈造影法(松林8)9)および脊椎 棘突起穿刺による造影法(来間10),Fischgoldら11))等がある.
研究対象に関しては,腫瘍の転移に関する研究
(Batson 1), Norgorら12), Anderson 13), Lessman ら14),Helander 7), Pereyら1右), Nathanら16>),
脊椎カリエスに関しての研究(来閻10),猪狩ら17))等が
あり,一方myelographyの副作用に対する批判よ 表20静脈造影施行より治癒までに要した期間との関係
治療例例の保存的椎間板脱出
腰椎症 変形性 腰痛症 ︑こ り 症 腰椎分離・
1カ月以内
1カ月以上
1カ月以内
1カ月以上
1カ月以内
1カ月以上
1カ月以内
1カ月以上
症例数 正常並
・7 P(1・.§%)
32 2
(6.3%)
1
内 椎骨 静脈 叢
狭
小
11 (64.7%)
閉
塞 5
(29.4%)
側方偏位 後方突出 ︶
% −Qσ 5
︵椎間静脈
15 (46.9%)
3
5
11
7
1
4 1
(80%)i(20%)
1 5
(9・1%)1(45・5%)
7(、4.§%)
5 (71.4%)
2
(28.6%)
21 (65.6%)
1
3
5 (45.5%)
狭 小
3 1
(9・4%)}
1
3
2
(18.2%)
閉
塞
1
椎間板脱出前 方
3
(42.9%)l I 6 (85.7%)
1 1
2