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バイオコントロール原稿

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Academic year: 2021

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バイオコントロール 第15巻1号 目 次 IPMにおける寄生菌と寄生蜂 -最近の研究から- ···1 静岡大学 農学部 応用昆虫学教室 西東 力 神奈川県におけるIPM(総合的病害虫管理)の現状について ···6 神奈川県農業技術センター 藤代 岳雄 スモモヒメシンクイの生態と防除···11 山梨県果樹試験場 環境部 村上 芳照 ホウレンソウケナガコナダニの 簡易モニタリング装置(コナダニ見張番)の開発と被害予測による防除体系 ··· 17 山口県農林総合技術センター 農業技術部 本田 善之 スワルスキーカブリダニに対する農薬の影響··· 23 宮城県農業・園芸研究所 園芸環境部 宮田 將秀 ナシ黒星病の減農薬防除の取り組み··· 29 千葉県農林総合研究センター 病理昆虫研究室 金子 洋平 茶栽培におけるニーム散布剤の利用 ~ベトナムでの実践~ ··· 34 東京農工大学 濱周吾 仲井まどか 熊本県におけるトマト黄化葉巻病の防除対策··· 40 熊本県農業研究センター 生産環境研究所 樋口 聡志 ブラジルの生物的害虫防除について··· 47 サンパウロ州立大学 植物保護学部 昆虫学科教授 オダイル・フェルナンデス 在来種天敵の農薬としての登録は不必要··· 52 ジャパンIPMシステム代表 和田 哲夫

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潮流は生物農薬の利用の方向に向かっているのか? ··· 54 ヴィレム・ラーフェンスベルグ Ph.D.

Koppert Biological Systems

高知県の施設果菜類における天敵を利用したアザミウマ類防除の現状 ··· 59 高知県農業振興部 環境農業推進課 古味 一洋 天敵誘引物質と天敵の関係について··· 63 京都大学生態学研究センター 上船 雅義 バラのカブリダニを用いた省力防除法の普及··· 69 神奈川県立フラワーセンター大船植物園 植栽課 関塚 知己

第13 回国際生物防除機構(IOBC:International Organisation for Biological and Integrated Control of Noxious Animals and Plants)の

「昆虫病原体および昆虫寄生性線虫」ヨーロッパ会議に参加して ··· 71 帯広畜産大学 相内 大悟/小池 正徳 ― 随 想 ― 「鳴かない虫と音楽」(後編) ··· 76 柏田 雄三 協 議 会 規約 ··· 84 お 知 ら せ ··· 85 資料 天敵に関する農薬の影響表(第20版) ··· 綴じ込み 最新版 生物農薬登録状況··· 綴じ込み   表 紙:黄釣舟と虎丸花蜂 (キツリフネとトラマルハナバチ 和田 原図) 2000年頃増殖に成功したトラマルハナバチ。本来はツリフネソウやアザミ、ブルベリー の花などを好むが、トマトのハウスで働かせられるのは不本意であろう。 裏 表 紙:表4写真(古味 原図)

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静岡大学 農学部 西東 力 はじめに 今日、重要害虫のほとんどが侵入害虫と言っても過言ではない。この20 年間に限 ってみても、タバココナジラミ、マメハモグリバエ、ミカンキイロアザミウマ、トマ トハモグリバエなどがつぎつぎと侵入し、我が国の農業に甚大な被害を与えてきた。 いずれもコスモポリタンの害虫であり、彼らの世界も急速にグローバル化しつつある。 コスモポリタン害虫の共通点は、①殺虫剤抵抗性、②非休眠、③広食性という性質を 併せ持つことである。殺虫剤抵抗性については、大きな被害を及ぼす直接、そして最 大の要因となっている。非休眠については、年間を通して問題化する背景となってい る。広食性については、急速な分布拡大の要因となっており、コスモポリタンの所以 でもある。 生物的防除法を基幹技術とする IPM では、こうしたコスモポリタン害虫が主体と なっている。しかし、いざ IPM を実践しようとすると、農薬使用の制限という大き な壁に直面することになる。天敵に影響のある農薬は使用できないばかりか、使用法 を間違えればリサージェンスを招きかねない。薬剤抵抗性の天敵があれば、IPM を 足踏みさせているこの壁をブレイクスルーできるかもしれない。 ここでは、侵入害虫のその後の動向に触れたうえで、殺虫剤抵抗性の寄生バチと殺 菌剤耐性の昆虫病原菌について紹介したい。 1.侵入害虫の運命 1989 年と 1990 年は侵入害虫の当たり年であった。前述のタバココナジラミ、マメ ハモグリバエおよびミカンキイロアザミウマはこの 2 年間に相前後して確認された 侵入種である。侵入当初、高度の殺虫剤抵抗性と爆発的な増殖によって壊滅的な被害 が生じたが、今日、いずれも一般害虫とみなさるまでに密度が低下しており、かつて の異常発生の記憶も薄れつつある。これら3種のみならず、侵入害虫は、皆、同じ運 命をたどっている。同様の現象は海外でも知られている。こうした密度低下はどうし て起こるのか。関係者の努力と防除の徹底だけでは、到底、説明できない。侵入害虫 の増減には、人為的な要因を越えた何か大きな力が働いているように思えるが、この 謎を解く糸口は想像の域を出ない。 侵入害虫が一般害虫化すると、かつてのような異常発生は起こらなくなる。しかし、 殺虫剤抵抗性をはじめとする性質はそのまま保持していることから、気を抜けば大き な被害につながる。IPM の中心的な対象害虫であることに変わりない。

IPMにおける寄生菌と寄生蜂 ー最近の研究からー

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2.寄生バチ (1) 殺虫剤抵抗性の寄生バチ ハモグリバエとその寄生バチに及ぼす殺虫剤の影響を調べるなかで、殺虫剤を散布 すると密度が増加する寄生バチ(Halticoptera circulus)がみつかった(図1)。殺 虫剤に対する感受性検定においても、この寄生バチは他の寄生バチと比べて殺虫剤抵 抗性の高いことが確認された(表1)。本種の発育日数は、生物農薬として市販され ているハモグリコマユバチやイサエアヒメコバチと比べるとかなり長い(表2)。 H.circulus は、ナモグリバエ、トマトハモグリバエおよびマメハモグリバエに寄生 するが、通常ではマイナーの寄生バチである。マメハモグリバエに対する選好性はと くに低い。一方、ネギハモグリバエでは優占種のひとつに挙げられている(大井田ら、 2009; 井村、私信)。この理由は、ネギハモグリバエに対して選好性が高いためか、 ネギ畑で使用される殺虫剤に対して抵抗性を示すためであろう。H.circulus は海外で も知られているが、その生態はほとんど調べられていない。 Saito et al., 0 2009 10 20 30 40

1-Oct 1-Nov 1-Dec 1-Jan 1-Feb 1-Mar 1-Apr

% C o m po si ti o n

Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr. 2004 2005 0 C.pentheus 0 20 40 60 80

1-Oct 1-Nov 1-Dec 1-Jan 1-Feb2004 20051-Mar 1-Apr

% C o m po si ti o n

Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr. 2004 2005 0 D.minoeus 0 20 40 60 80 100

1-Oct 1-Nov 1-Dec 1-Jan 1-Feb2004 20051-Mar 1-Apr

% C o m po si ti o n

Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr. 2004 2005 0 D. isaea 0 20 40 60 80 100

1-Oct 2004 20051-Nov 1-Dec 1-Jan 1-Feb 1-Mar 1-Apr

% C o mo si ti o n

Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr. 2004 2005

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H. circulus

図1. 殺虫剤散布下におけるナモグリバエの4種寄生バチの消長(エンドウ畑)(Saito et al., 2009)

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表 2. H. circulus と生物農薬(ハモグリコマユバチ、イサエアヒメコバチ)の比較(剣持ら、2011) 寄生バチ 発育日数(卵-羽化) 発育零点(℃) 有効積算温度(日度) 寄生様式 H. circulus 27.9 (20℃) 8.4 330 飼い殺し ハモグリコマユバチ (Malais,1992) 15.7 (22℃) 7.2 256 飼い殺し イサエアヒメコバチ (Malais,1992) 16.6 (20℃) 8.6 175 殺傷 (2)ハモグリバエの人工飼料 市販の寄生バチの生産は、植物に寄生させたハモグリバエを用いて行われている。 ハモグリバエの人工飼料を開発できれば、寄生バチの大量生産に役立つかもしれない。 本研究は、①採卵装置の開発、②幼虫用飼料の開発、の2段階に分けて行っている。 ①については、アザミウマ用の採卵装置(Murai and Loomans, 2001)を改良した(図 2)。②については、市販の人工飼料を改良し、ふ化幼虫を蛹化まで発育させること ができた。しかし、蛹化個体は稀であり、羽化個体も得られていない。餌の改良を進 めているところである。 マラチオン ペルメトリン イミダクロプリド エマメクチン 安息香酸塩 LD50 R比 LD50 R比 LD50 R比 LD50 R比 ハモグリバエ マメハモグリバエ 657 9,660 0.936 8.9 171 8.,550 33.8 338 トマトハモグリバエ 229 3,370 1.89 18 69.6 3,480 0.266 2.7 ナモグリバエ 34.0 500 0.962 9.2 18.4 920 5.86 58.6 寄生バチ イサエアヒメコバチ 0.224 3.3 1.35 12.9 0.172 8.6 1.12 11.2 ハモグリヒメコバチ 0.104 1.5 0.197 1.9 0.020 1 0.124 1.2 カンムリヒメコバチ 0.076 1.1 0.105 1 0.059 3.0 0.304 3.0 ハモグリミドリヒメコバチ 0.068 1 0.184 1.8 0.056 2.8 0.100 1 H. circulus 8.58 126 1) LD50値の単位はmg/g 2) R比はLD50値が最も低い虫を1とした場合の指数 マラチオン ペルメトリン イミダクロプリド エマメクチン 安息香酸塩 LD50 R比 LD50 R比 LD50 R比 LD50 R比 ハモグリバエ マメハモグリバエ 657 9,660 0.936 8.9 171 8.,550 33.8 338 トマトハモグリバエ 229 3,370 1.89 18 69.6 3,480 0.266 2.7 ナモグリバエ 34.0 500 0.962 9.2 18.4 920 5.86 58.6 寄生バチ イサエアヒメコバチ 0.224 3.3 1.35 12.9 0.172 8.6 1.12 11.2 ハモグリヒメコバチ 0.104 1.5 0.197 1.9 0.020 1 0.124 1.2 カンムリヒメコバチ 0.076 1.1 0.105 1 0.059 3.0 0.304 3.0 ハモグリミドリヒメコバチ 0.068 1 0.184 1.8 0.056 2.8 0.100 1 H. circulus 8.58 126 1) LD50値の単位はmg/g 2) R比はLD50値が最も低い虫を1とした場合の指数 表1. ハモグリバエと寄生バチの殺虫剤感受性(LD50:ng/mg)(松田ら、2010) 図2. ハモグリバエの採卵装置(左)と装置内に産卵された卵(右)(溝口ら、2011)

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3.昆虫病原菌

(1)殺菌剤耐性菌の育種

昆虫病原菌を利用に当たって殺菌剤の影響が問題となる。殺菌剤耐性の昆虫病原菌 を育種できれば、使用できる殺菌剤が増える。

代表的な昆虫病原菌(Beauveria bassiana、Isaria fumosorosea)に量子ビーム(イ オンビーム、ガンマ線)を照射した結果、ベノミル剤とトリフルミゾール剤に対する 耐性レベルが4~5 倍高い変異体が得られた(表3、表4)。これらの変異体は他の殺 菌剤に対しても耐性レベルが上昇しており、交差耐性を示すことがわかった。殺菌剤 耐性変異体の病原力は低下傾向を示したが、元菌と同等の病原力を保持している変異 体も得られている。 (2)輸入菌と国内菌の病原力の比較 天敵昆虫については国内の生物農薬が増えつつある。一方、天敵微生物については 依然として外国産が主流である。はたして外国の天敵微生物は国内のそれより優れて いるのであろうか。表5はI. fomosorosea の輸入製剤と保存菌株の病原力を比較した もので、病原力はほぼ同等であることがわかる。このことは、外国の天敵微生物に引 けを取らない天敵微生物が国内にも存在することを示している。 微生物農薬の開発には、素材そのものの力価はもとより、大量生産の難易などコス ト面の要因が大きくかかわってくる。また、マーケットが小さければ、オリジナル商 品の開発意欲は削がれ、すでに実績のある輸入品に頼ることになる。こうしたことを 考えると、天敵微生物の病原力が同等だからといって、直ちに国内の天敵微生物を生 物農薬として開発しようとするのは早計である。しかし、国内にも有望な天敵微生物 がいることを忘れてはならないと思う。 表3. I. fumosorosea変異体におけるベノミルとトリ フルミゾールのMIC (ppm)(篠原ら、2011) 変異体 ベノミル トリフルミゾール 4-Ben34P1 * > 5,000 2-PB1 * 5,000 > 1,200 R1-1B8 ** > 5,000 R1-2T20 ** > 1,200 R1-2T22 ** > 1,200 元 菌 (PF3110) 1,000 300 * 単独照射 ** 2 段階照射 表4. B. bassiana変異体におけるベノ ミルのMIC (ppm)(篠原ら、2011) 変異体 ベノミル 2-BB22 * > 5,000 2-BB24 * 5-Ben47B * > 5,000 > 5,000 R1-2B33-1 ** > 5,000 元菌(BB1026) 1,000 * 単独照射 ** 2 段階照射

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おわりに IPM は、その理念はともかく、現実的には生物農薬あるいは土着天敵を中心にすえ、 必要に応じて化学合成農薬を組み込んでいくのが一般的であろう。このため、IPM を 実践するうえでは天敵と化学合成農薬の関係の理解が欠かせない。こうした面から、 本稿では殺虫剤抵抗性の寄生バチと殺菌剤耐性の昆虫病原菌をとりあげたが、この分 野の研究はあまり進んでいない。使い勝手のよい天敵を探し出し、その力を十分に発 揮させることができるようになるまでには、まだまだ多くの課題が残されている。 表5. 保存菌および微生物農薬のタバココナジラミに対する病原力

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神奈川県農業技術センター 藤代岳雄 1 はじめに 神奈川県におけるIPM技術の導入は、大正5年にミカンのイセリアカイガラムシ対策と して、ペダリアテントウムシを導入・放飼したものが最初の大きな取組である。その後、 果樹では、黄色防蛾灯の利用、ウメ、ナシ等での性フェロモンによる交信攪乱剤の利用 (コンフューザーN、スカシバコンなど)、最近ではハウスミカンでスワルスキーカブリダ ニの導入などが試みられている。 野菜では、古くはマリーゴールドによるキタネグサレセンチュウ防除に始まり、オンシ ツツヤコバチによるオンシツコナジラミの防除、ハスモンヨトウの性フェロモンによる大 量誘殺、ナス畑周囲のバンカープランツ(ソルゴー)の栽植、イチゴの害虫に対する各種 天敵を利用したIPM防除(ハダニ類に対するチリカブリダニとミヤコカブリダニ、アブ ラムシ類に対するコレマンアブラムシ等)が導入され、現在、キュウリのスワルスキーカ ブリダニの導入等が試みられている。 このように、数々のIPM技術が県内の生産現場で導入されたが、広く普及したもの、 利用が限定的だったもの、発売直後はほとんど普及しなかったが、他の防除技術の発達や 技術の再評価がされて、再び日の目を見ることになった技術、ほとんど利用されなくなっ た技術など状況は様々である。今回、筆者が生産現場での普及指導に当たったイチゴ・キ ュウリの天敵利用防除の導入・普及の経過を中心に、普及指導という観点から神奈川県に おけるIPM技術の現状と導入に当たっての注意点等について紹介したい。 2 野菜 (1)施設イチゴ 施設イチゴの減収要因として、ハダニの被害は大きく、有効な薬剤が少ないこと、収 穫期に入ってからの防除が労力面で大変なこと、ミツバチによる交配が早くから普及し 薬剤散布が制限されることなどから、化学農薬に依らないIPM防除技術の導入が望ま れていた。1991年にチリカブリダニ剤が市販されると、各地のイチゴ産地で展示ほ等で 普及が図られたが、チリカブリダニ剤単独では効果の持続性に問題があり、また化学農 薬との組み合わせが不十分であったこともあり、海老名市の生産部会で利用されるに留 まった。その後、ミヤコカブリダニ剤が2003年に上市されると、農業技術センター農業 環境研究部での研究結果や天敵に影響の少ない化学農薬やチリカブリダニ剤との組み合 わせなどの知見を総合して、天敵導入マニュアルが作成され、スケジュール散布で防除

神奈川県におけるIPM(総合的病害虫管理)の現状について

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してもほぼ失敗なくできるようになった。現在では県内のほとんどの産地で、ハダニ天 敵の導入が進んでいる。また、先進地の海老名市では、カブリダニ類のほか、アザミウ マ防除のククメリスカブリダニ(ククメリス)、アブラムシ防除のコレマンアブラバチ 剤(アフィパール)と天敵の餌となるムギクビレアブラムシ(アフィバンク)、センチ ュウ対策としてギニアグラスの緑肥栽培などが導入されている。県内の他産地では、ハ ダニの天敵導入がほとんどで、アブラムシの天敵防除が一部で導入されているが、クク メリスは春先からのアザミウマの飛び込みに対応できず化学農薬を用いることが多い。 イチゴにおけるスワルスキーカブリダニの利用は、イチゴの栽培管理温度が比較的低い ことから、本圃での導入は困難と見られるが、ホコリダニ類の防除には極めて効果があ ることから、施設内育苗のナイアガラ方式で、導入を試みる生産者も一部ある。 2009年から、藤沢市や海老名市でオオタバコガ、ハスモンヨトウ防除のためフェロモ ン剤(コンフューザーV)を導入し始めている。施設内での増殖を抑えるための技術であ るが、導入者の評価は高く、今後普及の拡大が予想される。 (2)施設キュウリ 施設キュウリは、慢性的なネコブセンチュウの被害があり、D-D剤など化学農薬を用い た土壌消毒が行われてきた。2001年にパスツーリアペネトランス水和剤(パストリア水 和剤)の展示ほが海老名市内で組まれたが、単年度の試験では防除効果は不十分で、当 時は活用方法が十分に分かっていなかったこともあり、その後も導入戸数はごく少数で あった。一方、2004年頃から土壌還元消毒がネコブセンチュウを含む多くの土壌病害虫 に効果を示したことから、環境保全型農業に取り組む生産者を中心に普及が進んだ。そ の後、2008年頃に大磯町の生産者が、混住化の中で、臭気を気にせずにネコブセンチュ ウを防除できる方法として、パスツーリアペネトランス水和剤を導入し、工夫を加えて ネコブセンチュウ防除に成功した。現在、パスツーリアペネトランス水和剤の利用方法 についてJA湘南管内の農業青年グループでプロジェクト研究を行っている。 また、県内最大産地のJA湘南管内のキュウリ産地では、黄化えそ病を媒介するミナ ミキイロアザミウマ防除も重要問題である。化学農薬防除では薬剤抵抗性の獲得が早く、 またウイルスを獲得した蛹が土中に落ちるために、薬剤散布だけでは完全な防除が困難 である。普及では2005年から4年間、ミナミキイロアザミウマの総合防除対策に取り組み、 筆者も2007年の1年間担当した。 ミナミキイロアザミウマは県内の露地では越冬しないことから、①抑制栽培終了後に 加温して、早く蛹を孵化させ餓死させること、②施設内の雑草防除を徹底すること、③ 県央地域の施設メロン栽培で取り入れられていた、側窓や出入り口のほか、天窓下に防 虫ネットを展張する方法などを紹介した。防虫ネット被覆を試みた生産者のほ場では黄 化えそ病の他、CMVや他の害虫も激減し、化学殺虫剤散布回数は約1/3に低下し、優良事

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0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 農 薬 年 度 kg 第1図 オンシツツヤコバチの神奈川県への出荷 例と考えられたが、その後に同技術を導入した施設は立地条件によって、通気が不十分 となり、普及は限定的であった。現在、アザミウマ類の薬剤抵抗性を考慮して、バーテ ィシリウム レカニ剤(マイコタール)など微生物殺虫剤を展示ほで実施し、通常防除や スワルスキーカブリダニと組み合わせた方法を今後検討していく予定である。 アザミウマ類やコナジラミ類などの防除を目的としたスワルスキーカブリダニの導入 は2008年から行われており、徐々に導入農家が増えてきている。キュウリはうどんこ病、 べと病、褐斑病対策のための薬剤散布回数が多く、スワルスキーカブリダニの増殖に問 題のある農薬も使われることが多いことや、導入時期が難しいことから、急速な普及に は至っていない。今後は、化学農薬とのマッチングを含め、防除暦のようにスケジュー ル散布モデルを組み立てることなどが必要である。 (3)施設トマト 神奈川県では、1991年にオンシツツヤコバチを利用したオンシツコナジラミの防除試 験に取り組み、1995年にオンシツツヤコバチ剤(エンストリップ)の農薬登録が取れ、 普及センターによる展示ほの設置などを行った結果、1999年農薬年度には出荷量の増加 が見られた。その背景には、篤農家の観察により、導入時期の判定等ができるようにな ったことが大きい。その後、オンシツコナジラミ防除にピリプロキシフェノン剤(ラノ ーテープ)が発売され、発売当初は導入が緩やかであったが、オンシツツヤコバチ剤と 比べて、導入時期の観察等が不要であることや、省力効果が大きいことから、生産現場 の利用は急速に拡大 した。一方で、オン シツツヤコバチ剤の 利 用は 2000 農 薬年 度 から激減した。 その後、2005年11 月にトマト黄化葉巻 病が、神奈川県で初 発生が確認され、そ の後急速に被害が拡 大したことから、ト マト黄化葉巻病ウイ ルス(TYLCV)を媒介 するタバココナジラミの要防除水準が大幅に低くなり、育苗期からの粒剤施用等の薬剤 防除が必須になるとともに、温室開口部への防虫ネットの被覆、TYLCV耐病性品種の利用 等の技術が普及した。現在は天敵農薬を利用したIPM防除は海老名市内の5戸で確認され るのみで、当初導入されていたオンシツツヤコバチ剤より、タバココナジラミとオンシ

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ツコナジラミの両方に効果があるサバクツヤコバチ剤の導入が増えているが、サバクツ ヤコバチ剤の方がやや高温性であるため、オンシツツヤコバチ剤と使い分けされている。 なお、ピリプロキシフェノン剤(ラノーテープ)はタバココナジラミへの効果が劣るこ とから、近年では、漸減傾向である。 土壌害虫防除技術としては2004~2005年にかけて土壌還元消毒、神奈川県が開発した 熱水土壌消毒が導入され、両者とも主にネコブセンチュウや褐色根腐病等の対策として 普及した。土壌還元消毒は大量の用水を要し、臭気の問題があり、熱水土壌消毒は燃油 コストが比較的高く、熱水が土壌深部に到達する必要があることから、現在の普及状況 は横ばいないし、やや漸減傾向である。 第1表 イチゴ天敵等の普及状況(導入農家戸数) 天敵種類 平成 16 年 平成 17 年 平成 18 年 平成 19 年 ハダニ類天敵 24(34) 49(72) 55(81) 57(88) アブラムシ類天敵 11(16) 7(10) 27(40) 33(51) バンカープランツ 0( 0) 3( 4) 26(38) 30(46) ピリプロキシフェノンテープ剤 5(22) 18(70) 19(83) 20(87) 注1)天敵、バンカープランツは秦野市、伊勢原市、海老名市の合計。 注2)ピリプロキシフェノンテープ剤は秦野市のみの集計。 注3)数字は導入農家戸数(戸)。( )内は生産者の導入割合(%) (4)露地野菜 露地ナスでは、横浜市、川崎市、平塚市、伊勢原市、藤沢市などで、土着天敵(ヒメ ハナカメムシ)によるアザミウマ類、アブラムシ類の防除や農薬飛散防止、風除けを兼 ねて、ナスほ場の周囲にソルゴー栽植が行われている。品種は、背が高く、太くて硬い 「風立」や「つちたろう」が用いられている。最も普及した平塚市では平成19年度から 現在まで23名の部会員全員で、ソルゴー栽植が行われている。 三浦半島では、1970年代からダイコンのネグサレセンチュウ防除と目的としたマリー ゴールドの栽植が行われてきたが、定植や雑草の防除の手間がかかること、マリーゴー ルドにオオタバコガなどが多く食入して、その後の栽培に問題が生じることから、環境 保全型農業に取り組む一部の農家が続ける程度となった。現在では、風による土壌の流 亡防止、有機物の補給、センチュウ密度の低減等を目的にエンバク、ギニアグラスなど が導入されている。また、近年は匍匐性マリーゴールドの品種が育成され、研究段階で はあるが、土壌の被覆面積が大きく、オオタバコガ寄生数も少ないことから、今後の導 入が期待されている。 その他、綾瀬市内の有機生産者の要望で、コレマンアブラバチを活用したハクサイI

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PMの展示ほを平成22年から行っている。 3 果樹類 果樹におけるフェロモン剤を利用したIPM防除技術としては、約20年前に小田原市に 栽植されているウメのコスカシバ防除にチェルトリア剤(スカシバコン)が導入され、そ の後カキのコスカシバ、厚木市のナシのナシヒメシンクイ防除にオリフルア・トートリル ア、ピーチフルア剤等(コンフューザーN)が導入された。現在でも、フェロモン剤は一 部利用されているが、最盛期に比べると利用は限定的である。その理由として、コスカシ バ防除については、コスカシバ以外の樹幹害虫(マダラメイガ)の出現があり、ナシヒメ シンクイ防除については、比較的産地にまとまりがあり、広い地域でないと効かないこと、 近年はカメムシの吸汁被害が拡大しており、農薬散布回数の削減につながりにくいといっ たことが挙げられる。 その他の技術として、ブルーベリーのコガネムシ防除にスタイナーネマ・グラセライ剤 (バイオトピア)が各地で検討されているが、効果はやや不安定である。また、神奈川県 北部(相模原市)で合成ピレスロイド剤を削減し、土着天敵を温存してIPMを実践する 試みも行われているが、果樹の場合は、花きと同様にわずかな害虫被害があっても、経営 的な影響が大きいため、土着天敵利用は今後の課題である。ハウスミカンのIPMについ ては、ミカンハダニ防除にスワルスキーカブリダニ、アザミウマ防除に光を利用した物理 的防除が、農業技術センター足柄地区事務所で精力的に研究が行われ、スワルスキーカブ リダニの導入が数戸で行われているが、生産現場での普及はまだ端序に付いたばかりであ る。 4 最後に 神奈川県におけるIPMの普及について述べてきたが、広く普及し、しかも現在まで 持続する要因として、生産者の誰でも導入が容易で、失敗が少なく、しかも省力効果が 高いことなどが挙げられる。一度導入に失敗すると、再度産地に導入することは困難に なることから、観察眼の優れる篤農的農家との連携により、導入技術の評価や修正が必 要である。海老名市のトマトやイチゴにおいて、天敵農薬が進んだ要因として、天敵農 薬のパイオニア的生産者の存在が大きい。また、IPMといえども、非化学農薬だけで なく、積極的に化学農薬等との組み合わせや最新の研究成果や知見の技術化を検討し、 粘り強く技術の修正を図っていくことも重要と考えられる。 引用文献 小林正伸 (2009) バイオロジカルコントロール 13(1):25-30 小林正伸 (2010)第25回報農会シンポジウム 57-62

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山梨県果樹試験場・環境部・病害虫科 村上芳照

はじめに

スモモヒメシンクイ Grapholita dimorpha Komai の山梨県における発生は、1994 年 にスモモで初確認した。年次により発生の多少はあったものの、近年の被害は大きく 拡大している。本種の被害は、果実被害であるためスモモに発生する病害虫の中では 最も重要な問題となっている。また、収穫時には被害果と健全果の区別が付きにくい 場合も多く、市場や消費者からのクレームも問題となる。 スモモは、スモモヒメシンクイの被害を除けばモモやブドウに比べて病害虫が少な い。しかし、本種の被害が拡大するにつれ、防除回数は増え、生産者の労力も増加し 安定生産の大きな障害となっている。本種は岩手県の山間高冷地において古くから発 生していたようで、その他青森県一帯、および福島・長野県の高冷地で被害が認めら れていた。現在は、山梨県、長野県、福島県、青森県、北海道など東日本で発生が確 認されている。一般に早生種での被害は少なく、中晩生種、特に晩生種での被害が大 きく、‘太陽’などの晩生種では成熟期の被害が出やすい。毎年発生している園では、 密度が高まり、時として多発し甚大な被害が発生することも多い。近年、リンゴでの 被害も増加し大きな問題となっている産地も見られる。ここでは、山梨県のスモモに おける生態と防除について紹介したい。 生 態

成虫は、落葉果樹の重要害虫であるナシヒメシンクイ Grapholita molesta (Busck) に類似している。4月下旬から 10 月上旬まで年3回~4回発生する。各世代の山梨 県での発生時期は図1のとおりである。標高 300~450m前後の地域では、1回目が 4月下旬~5月下旬、2回目が6月上旬~7月上旬、3回目が7月中旬~8月下旬、 4回目が8月下旬~9月下旬となる。3~4回目の発生は連続して明確なピークが見 られない場合が多い。 成虫は羽化数日後から産卵を始める。産卵は果実表面に1~2卵ずつ行われ、大き さは、直径 0.6~0.7mm、円形または楕円形で、はじめ乳白色であるが後に黄色~赤 黄色を帯びる(図2)。ふ化した幼虫は産卵された場所の近くから短時間で果実内に 食入する。果実内に食入した後は、種子の近くまで食害する場合と、果皮の直下を食 害する場合があり、皮下を食害した場合果面に黒いスジ状の特有の症状が見られる (図3)。ふ化・食入率も高いため、密度が高まると重大な被害となる。

スモモヒメシンクイの生態と防除

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若齢幼虫は、頭部が黒色で、胴部は乳白色で、老熟してくると赤みを帯びる。十分 に発育すると、体長 12mm 程度となり、果皮に紡錘形の切れ込みを入れ、その内面に マユを作り蛹化する(図4)。成熟果では果実の外に脱出し、土粒等でマユを作る。 卵から成虫までの発育期間は、25℃で 27 日である。卵期間は4日と比較的短い。 1雌の産卵数は平均で 55 卵である。 4.4 5 6 5.1 2 3 4 5 6 6.1 2 3 4 5 6 7.1 2 3 4 5 6 8.1 2 3 4 5 6 9.1 2 3 4 5 6 10.1 2 3 4 5 6 標高300 m (南 ア ル プス 市 ) 標 高400 ~450 m (山 梨 市江 曽 原・ 笛 吹 市境 川 ) 月 ・ 半旬 標 高700 m (甲 州 市神 金 ・ 山梨 市 牧 丘) 越冬 世 代 第 1 世代 第 2 世 代 第3 世 代 図1 スモモヒメシンクイ成虫の標高別発生消長(模式図) *フェロモントラップへの誘殺数(H14~17 年)をもとに作成 図3 被害果の症状 (果皮直下の食害) 図2 スモモヒメシンクイの卵

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化学的、耕種的防除 本種の防除は殺虫剤による防除が主体となるが、それだけでは十分な効果が得られ ない事例も多い。このように難防除化している中で、より効果を上げるためには総合 的な対策が必要となっている。 ○殺虫剤による防除 幼虫が果実に食入した後では、殺虫剤の効果は期待できないため、幼虫の食入防止 が中心となる。成虫は、羽化後数日で交尾・産卵をすることや、卵期間短いことなど を考慮すると成虫発生盛期に薬剤を散布することが効果的である。 薬剤の効果については、スカウトフロアブル、ダイアジノン水和剤、ダーズバン水 和剤、モスピラン水溶剤について、室内試験した結果、いずれの薬剤もふ化直後の幼 虫および成虫に対して高い殺虫効果が認められた。しかしながら、圃場では十分な防 除効果を得られない事例が多い。理由として、スモモは果面に果粉が多く、薬剤の付 着を妨げる現象が挙げられる。特に収穫期近くの果実では、果実全体が果粉で厚く覆 われ、薬液の多くがはじかれてしまう。果粉を洗い流すように散布すれば、果実の汚 染・果粉の溶脱などの品質の問題が生じる。高品質な果実を生産を目的とする現在の 栽培体系では今後も避けられない重要な問題となる。 1回目の防除は、越冬世代成虫の発生期となる5月上中旬となる。6月中下旬は、 2回目の成虫発生期となる。防除薬剤は、合成ピレスロイド剤が主体となるが、その ほかにスピノサド剤、クロラントラニリプロール剤などが防除薬剤となっている。 図4 老齢幼虫と果面上の蛹室

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○耕種的防除 幼果、肥大期の果実ともに幼虫の加害を受けた果実は落下しやすくなる。落下した 被害果を放置すると発生源となるため、土中に埋める、肥料袋等に集める等適切に処 理する。樹上の被害果についても見つけたら直ちに取り除き処分することが重要であ る。 交信かく乱剤による防除 モモ圃場においてナシヒメシンクイに対する交信かく乱剤(コンフューザーMMな ど)は高い防除効果が認められた。そこで、本種に対しても効果が期待できると考え 試験を行った。交信かく乱剤の利用においては、できるだけ処理面積が広いことが望 ましい。また、処理地域の生産者全員の参加が前提となる。しかしながら、すべての 生産者の合意を得ることは容易ではない。本種に対する交信かく乱剤の利用において は、小面積での利用が可能か検討した。 ○スモモヒメシンクイに対する交信かく乱剤の効果 コンフューザーMMは、ナシヒメシンクイ、モモハモグリガ他4種を対象とした製 剤である。スモモではモモハモグリガは発生しないため、本試験ではコンフューザー Nを使用した。はじめにコンフューザーNのかく乱効果を調査するため、モニタリン グトラップへの誘引阻害を調査した。現地圃場の広域処理(1ha)および果試場内 の小面積処理(10a)における誘引阻害はともに高いことが確認された(表1)。 ○コンフューザーNの小面積処理による防除効果 果試場内のスモモ圃場において、小面積処理によるコンフューザーNの効果につい て検討した。処理圃場の面積は 10a、無処理圃場は6aで、両圃場とも毎年本種が 多発している。コンフューザーNは4月下旬に設置した。6月 29 日、7月8日、7 月 19 日に薬剤散布を行い、被害果の調査は7月 26、27 日に行った。処理圃場は毎年 大きな被害が発生していたが、交信かく乱剤と薬剤散布を併用することにより高い防 除効果が得られた。 ○コンフューザーNの小面積処理現地実証試験 県内のスモモ産地の5~20aの 16 圃場においてコンフューザーNを処理した。防 除は園主慣行とし、第2世代幼虫の被害が見られる7月上旬、第3世代幼虫の被害が 見られる8月上旬に被害果の調査を行った。また、試験を依頼した 16 圃場の園主に コンフューザーNの被害抑制効果、今後の利用についてアンケート調査を行った。 現地の慣行防除に併用し、コンフューザーNを処理することにより8月上旬収穫の

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中晩生種では被害抑制効果が認められた(データ略)。8月下旬収穫の晩生種では被 害がやや多かったが慣行防除に比較し被害抑制効果があるという回答が得られた。現 地実証を行った園主へのアンケート調査のまとめでは、効果があり、今後も利用した いとう評価が得られた(図5)。 表1 コンフューザーN処理下におけるフェロモントラップへの スモモヒメシンクイガの誘引阻害 試験場所 処理 総誘殺数/トラップ 誘引阻 面積 コン N 処理区 無処理区 害率(%)1) 南アルプス市 1ha 4 491 99.2 果樹試 10a 5 292 98.3 1)誘引阻害率は次式より算出 誘引阻害率={1-(処理区誘殺/無処理誘殺)}*100 表2 スモモヒメシンクイに対するコンフューザーNの防除効果 調査圃場 調査樹 調査果数 被害果率 (%) コンフューザーN処理区 a 682 5.1 (10a) b 855 2.4 品種:太陽 c 645 2.9 無 処 理 区 a 363 29.8 (6a) b 189 55.6 品種:ソルダム c 381 29.1 無散布樹 415 75.4 *薬剤散布日:6月 29 日、7月8日、7月 19 日 *薬剤散布:aモスピラン水溶剤、bバリアード顆粒水和剤、cスカウトフロアブル *調査日:7月 26、27 日。

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かなりある ある ない不明 効果について 今後の利用について 利用したい 利用しない 図5 コンフューザーN小面積処理現地実証試験アンケート結果(16 戸) おわりに 本稿のタイトルは、スモモヒメシンクイに対する交信かく乱剤を活用した減農薬防 除としたいところであるが、まだ減農薬という段階には至っていない。現実は、とに かく利用できる防除法を活用し、本種の被害を出来るだけ少なくしたいというのが生 産者の要望である。慣行防除と併用という形ではあるが、交信かく乱剤を使用するこ とにより被害の軽減が実感され、処理面積は拡大している。交信かく乱剤の効果は、 害虫の密度が低い場合により高くなる。毎年の防除を確実に行い、発生密度を低下さ せることにより交信かく乱剤の効果および総合的な防除対策もよい方向に向かって いくことを願う。交信かく乱剤の試験は、現地の圃場を使用し試験規模も大きい。試 験に当たってご協力を賜った生産者、JA職員およびメーカーの方々に厚くお礼申し 上げる。 試験圃場:圃場数 16 甲州市8 南アルプス市5 笛吹市3 品種:ソルダム、貴陽、太陽 面積:5~20a 栽培:棚栽培7、立木栽培9 環境:平地9、山付き7

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山口県農林総合技術センター 本田善之 1.はじめに 山口県の中山間地域の主要野菜であるホウレンソウでは、近年ホウレンソウケナ ガコナダニ(以下コナダニと略す)の被害が拡大し、生産振興上の重要課題となっ ている。しかし、コナダニは土壌中に生息し、発生確認が困難で防除判断ができな かった。よって簡易なモニタリング方法の開発により的確な防除判断技術と効率的 防除を可能にする必要がある。 2.コナダニの被害の特徴 コナダニの被害は、ホウレンソウの新芽に成虫が移動・加害し、葉に小さな穴や コブ状の少突起が発生し、正常に展開しなくなる。発生密度が高い場合は新芽が褐 変し、生育が止まってしまうこともある。被害発生時期は周年栽培のホウレンソウ において、2月~6月、9月~11月で、夏期には発生しない。播種時~2葉期ま ではほとんど被害がないが、4葉期頃に成虫が侵入し、侵入後の展開葉は加害を受 けるが、葉の被害を確認してからの防除は手遅れとなることが多い。コナダニやそ の被害の特徴としては、以下のようなものが上げられる ・コナダニの被害は雨除け栽培で多く、露地では少ない。 ・有機質資材として、未熟堆肥やなたね油粕を投入すると被害が増大する。 ・コナダニはホウレンソウ以外のコナツナやレタスで飼育可能だが、被害が顕著 なのはホウレンソウのみである。 ・油粕などを放置しておくと、通常はケナガコナダニが発生するが、雨除けホウ レンソウ圃場ではホウレンソウケナガコナダニが優占的に発生する。 ・コナダニは高湿度を好み、低温に強く高温に弱い。 ・効果的な薬剤が少ない。 3.既存の調査方法とコナダニ見張番の開発・構造 こうしたコナダニの発生をモニタリングするため、千葉大学がコナダニを簡易に モニタリングするコナダニトラップ(乾燥酵母を利用)を開発している。山口県は それを改良し、灌水に影響されず安定した捕獲が可能なトラップ(コナダニ見張番) を開発し特許を取得した。「コナダニ見張番」は、上部シート(断熱性、防水性を

ホウレンソウケナガコナダニの簡易モニタリング装置

(コナダニ見張番)の開発と被害予測による防除体系

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備えた素材)、下部シート(防水性を備えた素材)、誘引シート(黒画用紙等に両面 テープで乾燥酵母等のコナダニの餌を付着)で構成される。この構造により、上部 シ ー ト や 下 部 シ ー ト の 土 壌 接 地 面 に は水滴が付くが、誘引シートは紙が水 分を吸収し餌周辺は高湿度となる。土 壌表面と「コナダニ見張番」の温湿度 を比較すると、コナダニの好む75% 以上の湿度割合が高く、コナダニの嫌 う 高 温 に も な り に く い こ と が わ か っ ている。コナダニ類の好む高湿度の空 間と、餌の両方で誘引する新しい発想 のトラップである(図1)。 4.既存トラップとの精度確認 従来の「コナダニトラップ」(千葉大・春日氏開発)と「コナダニ見張番」によ るコナダニの発生確認率は、共に 25.6%で両方のトラップでコナダニ発生確認の 結果が一致する割合は約95%であった。また、「コナダニ見張番」は「コナダニト ラップ」に比べ土壌が多湿条件の時にも捕獲数が多く、「コナダニトラップ」と同 等以上にコナダニの発生状況を確認できた(表)。 項目 コナダニ見張番 コナダニトラップ (春日式) コナダニ見張番 コナダニトラップ (春日式) コナダニ見張番 コナダニトラップ (春日式) 両トラップの一致 率(%) 調査点数 平均コナダニ捕獲数

(頭/トラップ) 21.5a* 4.4b* 0.6a 0.3a 2.8a 0.7a -

発生確認率(%) 18.4 18.4 80.0 80.0 25.6(11/43) 25.6(11/43) 95.3 注1: 2005年6月29日~11月9日に周南市の4農家の6ほ場(雨除けハウス)において43回(月の上旬と下旬)調査を実施した。1回の調査で各トラッ プは3個設置し、その平均を求めて比較した。 注2:発生確認率=(コナダニの発生を確認した調査地点)/(全調査地点)×100 注3:両トラップの一致率=(両トラップでコナダ二の発生の有無が一致した調査点数)/(全調査点数)×100 *異なるアルファベット小文字はt検定及びフリードマン検定(ノンパラメトリック検定)で2者間に有意差あり(*p<0.05)。 合計 43 灌水や灌水や雨の降り込みで土壌 が多湿条件の場合 多湿条件の場合 土壌表面が乾燥条件の場合 5 38 5.コナダニ見張番の予測精度(播種後) 開発された「コナダニ見張番」のホウレンソウ被害との関係を調べた。試験場所 は山口県周南市のホウレンソウ農家のハウス、品種はトラッド、播種は、平成18 年2月28日、栽植距離:畝幅15 ㎝×株間 10 ㎝ 、栽培管理は一般慣行によった。 図1 「コナダニ見張番」の構造 表 コナダニ見張番とコナダニトラップ(春日式)のコナダニ捕獲状況

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試験区は1区 7.5 ㎡ (5×1.5m)500株2連制で行った。各区は無処理と粒剤2 種類を播種時に散布、散布剤3種類を2葉期、4葉期に散布してコナダニの密度が ばらつくような区を12区設置し、各区のハウス左右2地点で、「コナダニ見張番」、 コナダニトラップ、ツルグレン抽出によりコナダニ密度を計測した。 その結果、トラップ調査 1 週間後の被害度との相関は、「コナダニ見張番」>コ ナダニトラップ>ツルグレン抽出の順であった。調査時期別に1 週間後の被害度と の相関を調べた結果、回帰式の傾きは本葉2葉時<本葉4葉時<本葉6葉時と大き くなり、生育後半になり密度が増加すると被害が加速する傾向が見られた(図2)。 6.コナダニ見張番の予測精度(播種前) 播種後の被害と「コナダニ見張番」の相関が高いことは確認できたが、コナダニ の発生が多いと播種後の薬剤散布だけではコナダニ被害を抑えきれない。従来から コナダニに対して効果が高いとされている、播種前の土壌消毒+2 回の散布防除を 実施するには播種前の被害予測が不可欠となる。 そこで、「コナダニ見張番」を前作収穫時に設置して、土壌消毒の必要性が判断 できるか、現地試験を実施した。試験は山口県周南市及び阿武町のホウレンソウ農 家の、合計25 ホウレンソウハウスで行った。平成 21 年 9 月~10 月に実施した。 収穫時に「コナダニ見張番」を1 ハウス 10 器設置し、1日設置後に捕獲された合 計コナダニ数を算出した。次作の被害程度(多発生:ハウス全体的に被害発生、中 発生:ハウス半分程度に被害発生、小発生:ハウスの一部で被害発生、なし:被害 図2 各種トラップのコナダニ捕獲数と 1 週間後の被害度との相関

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発生が見られなかった。)、防除歴を聞き取り調査した。 その結果、「コナダニ見張番」で捕獲された頭数を5頭以上とそれ以下に分けた 場合、5頭に満たない場合は無防除でも被害の発生割合が少なかった。また、5頭 以上でも3回の防除を実施していれば、小発生以下となる場合が多かった(図3)。 7.コナダニ見張番の使い方と被害予測による防除体系 「コナダニ見張番」は播種前、播種後も防除判断可能であることを明らかにした が、ホウレンソウ農家は複数のホウレンソウハウスを周年で栽培しており、それら の作型すべてに「コナダニ見張番」を用いて防除判断するのは大変な作業となる。 そこで、コナダニの被害発生の特徴などから利用方法を整理した。 <年間・作型での使い方> コナダニが発生し始める2~3月又は9~10 月の収穫期に、「コナダニ見張 番」を1 ハウス当たり 10 個、1日間以上設置して、1ハウスで5頭/10個 以上のコナダニが確認された場合は、次作播種前の土壌消毒を実施する。防除 実施後も2葉期と4葉期を目安に「コナダニ見張番」を設置し、コナダニの発 生が確認されれば、直ちに追加防除を行う。その後の作型で、前作で被害が発 生したハウスでは土壌消毒+2 回防除を徹底し、発生がなかったハウスでは播 種前に「コナダニ見張番」を設置して、同様の防除判断を行う(図4)。 図3 前作収穫時のコナダニ見張番の捕獲頭数と次作の被害程度(防除回数別)

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<発生状況に応じた使い方> ○被害はほとんど無いが、突発的に被害が発生することがある。あるいは、発 生は頻繁にあるが、どのハウスに発生するか不明な場合 2~3月又は9~10 月の収穫期に「コナダニ見張番」で被害予測を実施 する。上記の年間・作型での使い方に準ずる。 ○毎年、すべてのハウスにもある程度発生する場合 2~3月又は9~10 月の作型では必ず播種前の土壌消毒を実施する。播種 後は2葉期と4葉期を目安に「コナダニ見張番」を設置し、コナダニの発生が 確認されれば、直ちに追加防除を行う。 ○毎年、時期になると多発生するハウス 2~3月又は9~10 月の作型では必ず播種前の土壌消毒++2 回防除を徹 底する。 8.残された問題点 「コナダニ見張番」は、コナダニの防除判断に有効なツールとして、商品化を目 指しているが、コストの問題、同様品の精度の問題、設置場所、設置時期などのば らつきの問題、設置場所の土壌湿度による変動の問題等、汎用的に高い精度を求め るが故に超えなければならない問題点も残っている。 モニタリングの問題以外にも、困難と言われるコナダニ問題の解決のため、京都 大学を総括として平成22年度から「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発 事業」で「環境保全型農業と両立する生物的相互関係を活用した難防除コナダニ類 図4 「コナダニ見張番」による防除判断の方法(まとめ)

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新管理体系の確立」が取り組まれ、今までの土づくり技術及び有機質資材の管理を、 コナダニ等害虫面から見直す研究が進んでいる。複雑な土壌環境に発生するコナダ ニの増殖と有機質資材の関連性を軸に、物質面(京大)、微生物面(岐阜、広島)、 水分や物理面(奈良、山口)、天敵(京大、北海道)、モニタリング(サンケイ化学 ㈱、山口)、化学防除の影響(北海道、岐阜、奈良)などの各機関で多面的な試験 が行われている。今後の研究成果に期待したい。

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宮城県農業・園芸総合研究所 園芸環境部 宮田將秀 はじめに コ ナ ジ ラ ミ 類 や ア ザ ミ ウ マ 類 な ど に 対 す る 天 敵 で あ る ス ワ ル ス キ ー カ ブ リ ダ ニ (Amblyseius swirskii)は、2008 年 11 月に農薬登録されて以来、主にキュウリや ピーマン、ナスなどで高い防除効果が確認されている(宮田ら、2009;森田ら、2009; 岡崎ら、2010;柴尾ら、2009)。スワルスキーカブリダニを使った防除体系では、病 害のほか、アブラムシ類やハダニ類、チョウ目害虫など、本天敵の対象外となる病害 虫が発生した場合、薬剤散布などの防除を行う必要がある。その場合、スワルスキー カブリダニに悪影響のない薬剤を選ぶことが望ましいが、本天敵に対する薬剤の影響 についての知見はまだ少ない(柏尾、2009;桃下・山中、2008)。そこで、数種の薬 剤について本天敵への影響をナス圃場などで確認した。 薬剤(散布剤)の影響について 2008 年から 2010 年にかけて、スワルスキーカブリダニをあらかじめ放飼した施設 栽培のナス圃場で各薬剤を散布し、散布前と散布後の密度を調査した。供試薬剤のう ちスワルスキーカブリダニの密度に顕著な悪影響が認められた剤は、ピレスロイド系 殺虫剤のアクリナトリン、ビフェントリン、有機りん系殺虫剤のアセフェート、殺ダ ニ剤のミルベメクチン、ビフェナゼート、その他の系統であるスピノサドで、殺菌剤 ではマンゼブ、キノキサリン、プロピネブ、キャプタン+ホセチル(図1)であった。 やや悪影響が認められた剤は、ネオニコチノイド系殺虫剤のアセタミプリド、殺菌剤 のポリオキシン複合体、TPN で、昆虫成長制御剤のノバルロンは散布 10 日後から密 度の低下が認められた(図 1)。散布直後に密度が一時的に低下した剤はイミダクロ プリド、チアメトキサム、エマメクチン安息香酸塩であった(図 1)。その他、ネオ ニコチノイド系殺虫剤のジノテフラン、殺ダニ剤のシフルメトフェン、シエノピラフ ェン、アセキノシル、昆虫成長制御剤のルフェヌロン、その他の系統のフロニカミド、 殺菌剤のクレソキシムメチル、ボスカリド、キャプタン、ジエトフェンカルブ+チオ ファネートメチル、トリフルミゾールについては、ほとんど影響はないと考えられた。 例えばイミダクロプリドやチアメトキサムなどでは、スワルスキーカブリダニ密度の 急減は認められなかったものの、増加することもなかった。さらに、ノバルロンでは、 その影響が散布 10 日後に観察されたが、これらの剤は卵の生存や産卵数に影響を及 ぼした可能性もある。今後、スワルスキーカブリダニの各ステージ毎に影響を精査す る必要があるだろう。

スワルスキーカブリダニに対する農薬の影響

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図1 スワルスキーカブリダニに対する薬剤の影響 (上図:2008 年、中図:2009 年、下図:2010 年)

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散布剤の影響期間について 天敵利用の失敗の原因の一つとして、天敵に影響のある薬剤を散布し、その影響が 残っているうちに天敵を放飼してしまう事例がある。天敵放飼前の薬剤散布は盲点と なっている。そこで、散布剤(殺虫剤1 剤と殺菌剤 3 剤)についてスワルスキーカブ リダニに対する影響期間を把握するための試験を実施した。 試験は施設栽培ナス圃場で実施した。9 月 16 日に各薬剤を散布し、その後、約 1 週間間隔でスワルスキーカブリダニを放飼した。調査は各放飼の6 日後に、全葉に存 在するスワルスキーカブリダニを計数した。その結果、ポリカーバメートおよびポリ オキシンが悪影響を与える期間は3 週間程度、マンゼブでは 4 週間程度、トルフェン ピラドでは5 週間程度であった(図 2)。 粒剤の影響期間について さらに、粒剤についての試験をポット植えのパプリカで実施した。1/5000a ワグネ ルポットに各粒剤を処理し、直ちにパプリカを定植、その後、約1 週間間隔でスワル スキーカブリダニを放飼した。調査は散布剤の試験と同様である。その結果、イミダ クロプリド、アセタミプリド、ニテンピラム、チアメトキサム、クロチアニジンの各 図2 スワルスキーカブリダニに対する薬剤(散布剤)の影響期間 (*は調査なし。グラフは各放飼からそれぞれ 6 日後の値を示す。)

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粒剤の影響期間はおおむね1 週間程度、ホスチアゼート、イミシアホス、カルボスル ファン、ジノテフランは2 週間程度、ベンフラカルブは 4 週間程度、アセフェートで 6 週間程度であった(図 3)。 天敵と各薬剤の併用の考え方について 天敵を組み入れた防除体系では、その天敵の捕食(または寄生)対象外の病害虫に 対して薬剤で防除する場合、天敵に悪影響がない剤を選ぶということは言うまでもな い。しかし、天敵への影響の有無は一概に割り切れるものではなく、今回の試験結果 のように、悪影響が顕著な剤とほとんどない剤のほか、影響はあるものの、その程度 が低い剤もある。さらに悪影響が顕著であっても、その影響期間が長い剤と短い剤が ある。一方、薬剤はその対象病害虫に防除効果が高いものと、抵抗性害虫や耐性菌の 出現により効果が低下しているもの、さらにその中間的なものとに分けられる。その 中で天敵に影響がなく、対象害虫に効果が高い薬剤がもっとも使いやすいが、現状で はそのような薬剤は限られている。そのため、その他に分類される薬剤も状況に応じ て組み合わせざるを得ない。図4 に薬剤を大まかに分類し、それぞれに分類された薬 剤がどのような場面で使用できるかを示した。A に分類される薬剤は栽培期間をとお していつでも使える剤である。しかし、このような剤はなるべく温存するということ を前提に考えると、害虫密度が急増した場合に限るべきであろう。天敵への影響が強 いものの、害虫に対する防除効果が高い C、C´に分類される薬剤は、場合によって は使わざるを得ない場面がある。つまり、C の薬剤は天敵への影響期間が短いため、 天敵放飼前に害虫密度を下げる場面、C´は栽培終期に、最後の散布と見込まれるタ 図3 スワルスキーカブリダニに対する薬剤(粒剤)の影響期間 (凡例は粒剤処理からの放飼の時期を示し、グラフは各放飼からそれぞれ 6 日後の値を示す。)

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イミングでの使用場面が想定される。次に D の薬剤であるが、天敵の放飼後、害虫 密度が増加し始める場合での使用場面が想定される。さらにB と E の薬剤であるが、 天敵が十分に圃場に定着し、かつその天敵が対象とする害虫密度がよく抑えられてい る場合で、その天敵の対象外の病害虫が急増した場面では B の使用を、その病害虫 の増加初期にはEの使用が想定される。 登録農薬をA~Fに当てはめてみる 対象病害虫に対して 効果が高い 効果が低い 天敵に 対して 影響がない A D やや影響がある B E 顕著な影響 がある 残効が短い C F 残効が長い C´ C 天敵放飼 D A E B C´ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 天敵放飼前に 害虫密度を下 げる。 害虫密度の増加 初期なら、Aを温 存して。 害虫密度が急増 してしまったらAを。 栽培終期ならば 天敵に影響が長 い剤で逃げ切り もあり。 天敵が十分に定着し、かつ天敵の対象害虫 の密度が低いことが前提で・・・ 天敵の対象外害虫の増加初期ならEを、 急増してしまったらBを。 天敵の対象外 害虫の発生 おわりに 今回、スワルスキーカブリダニに対して数種の薬剤の影響について検討した。その 影響は「影響有り」と「影響無し」の二分割に割り切れるものではなく、剤によって 影響の程度や現れ方に違いが認められた。これは生育ステージによって影響の強弱が 違う可能性もあり、引き続き精査する必要がある。また、影響期間についてはさらに 他の薬剤についても把握する必要がある。天敵と薬剤の併用にあたって多くの知見が 蓄積され、より効果的、効率的なスワルスキーカブリダニと薬剤の併用体系が構築さ れることを望む。 引用文献 1) 柏尾具俊(2009):九州病虫研報 55:194(講要) 図4 天敵と薬剤の併用についての考え方

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2) 宮田將秀ら(2009):第 53 回日本応用動物昆虫学会大会講要:65 3) 桃下光敏・山中聡(2008):第 52 回日本応用動物昆虫学会大会講要:12 4) 森田茂樹ら(2009):第 53 回日本応用動物昆虫学会講要:129 5) 岡崎真一郎ら(2010):第 54 回日本応用動物昆虫学会大会講要:81 6) 柴尾学ら(2009):関西病虫研報 51:1~3

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千葉県農林総合研究センター 病理昆虫研究室 金子洋平 1.はじめに 千葉県におけるニホンナシの収穫量は約 40,200t(平成 21 年)で全国第一位となって いる。主要品種は「幸水」、「豊水」であり、最も重要な地上部病害はナシ黒星病である。 一般にナシ栽培では減農薬防除は困難とされている。この理由としては、減農薬防除は 後述するような知識・技術が必要であり、労力もかかる。また、宿主となるナシが長期間 同じ場所に存在するため、病原菌も園内に定着しており、当年の防除の失敗が翌年にも影 響を与える等のリスクも大きい。このことから、通常は、ナシ防除指針(防除暦)に基づ いてスケジュール的な薬剤防除が行われている。 一方、近年は環境にやさしい農業の推進、安全・安心な農産物の提供の観点から、減農 薬が求められている。また、本県では、環境にやさしい農業を進めながら、慣行と比べて 農薬や化学肥料の使用を半分以下に減らした「ちばエコ農業」と呼ばれる千葉県独自の認 証制度による減農薬防除の取り組みが行われている。 ここでは、ナシ黒星病の発生生態、その減農薬防除を述べ、次にパソコン上で黒星病の 防除要否を判断できる「梨病害防除ナビゲーション」を解説し、これを用いて地域ぐるみ で「ちばエコ農業」に取り組んでいる事例を主に病害防除の面から紹介する。 2.ナシ黒星病の発生生態および防除 (1)伝染源(胞子の飛散開始時期) ナシ黒星病の第一次伝染源は、前年の被害落葉上に形成される子のう胞子と、罹病芽基 部上に形成される分生子である。子のう胞子の飛散は、3月下旬から4月上旬に始まり、 5月上旬から下旬に終息する。子のう胞子の飛散はナシの開花し始める時期と関係があり、 開花が早いほど、飛散も早い時期から始まる。一方、罹病芽基部上に形成される分生子も 開花始め頃から飛散が始まる。これ以降は、両胞子によって罹病した葉、幼果上に形成さ れる分生子が再び周囲に飛散し、二次伝染するため、生育期間中は常に黒星病の胞子が飛 散している可能性がある。 (2)ナシの黒星病に対する感受性 感受性とは、植物の持つ、病気に罹りやすい性質のことである。ナシは生育期間中は常

ナ シ 黒 星 病 の 減 農 薬 防 除 の 取 り 組 み

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に感受性があり、防除が必要である。その中でも、「幸水」、「豊水」の幼果は開花直後から 5月上旬頃までは感受性が高く、さらに、「幸水」では6月中旬から7月中旬にも果実の感 受性が高まる期間がある。両期間は黒星病防除において重要な防除期間である。 (3)感染に好適な環境条件 ナシ黒星病菌の胞子が葉に付着した後、葉の組織に感染するためには、一定の温度条件 下において、濡れた状態が継続する必要がある。黒星病の感染好適温度は 15~25℃であり、 この条件下では9時間以上濡れた状態が継続すると感染に至る(図1)。また、5~30℃で も 12 時間以上濡れた状態が継続すると、感染する。以上のように、黒星病の感染・発病に 関する環境要因は温度と濡れ時間であり、これらの関係を基に、気象観測装置等を用いて 温度と濡れ時間を計測し、感染危険の度合いを計算により求めることもできる。また、こ の計算により算出された値を感染危険度とする。 0 20 40 60 80 0 10 20 30 40 5℃ 10℃ 15℃ 20℃ 25℃ 30℃ 濡れ継続時間(時間) 発 病 度 0 20 40 60 80 0 10 20 30 40 5℃ 10℃ 15℃ 20℃ 25℃ 30℃ 濡れ継続時間(時間) 発 病 度 図1 温度、濡れ継続時間と黒星病発病度の関係 (4)ナシ黒星病の感染・発病の条件 一般に病気の三要因(主因、素因、誘因)が揃った時に病気は感染・発病する。ナシと 黒星病との関係の場合で述べると、感受性があるナシ(素因)において、胞子(主因)の 飛散が開始した状態で、感染危険度(誘因)がある時に、黒星病は感染・発病に至る。逆 に、これらの要因が一つでも欠ける時、あるいは各要因が揃った場合でも、その時に薬剤 による保護効果がある場合には、感染・発病は抑制される。 (5)ナシ黒星病防除の減農薬方法 慣行防除体系では防除暦にしたがって、農薬による効果がほぼ途切れることのないよう

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にスケジュール的に殺菌剤が散布される。減農薬栽培をする場合、まず、①被害落葉の処 理や罹病芽基部、罹病葉の切除等、耕種的防除を徹底する。次に、②ナシの感受性が高い 重要な防除期間には防除暦に従って確実に防除を行う。③その他の時期において、前述の 各要因が揃う時には薬剤の保護効果がある状態にすることが必要である。すなわち、図2 のように散布を行った後、その残効期間中は降雨があっても次の散布はしない。また、雨 が降らなければ残効期間が切れていても、次の散布はせず、その次の降雨直前に散布を行 う(図2)。これらにより、スケジュール散布に比べて減農薬できる。 図2 減農薬防除における散布間隔の延長 3.「梨病害防除ナビゲーション」 これまで述べてきたとおり、黒星病の減農薬防除を行うためには、黒星病の発生生態を理解し、 気象条件やナシの感受性、薬剤の効果・残効期間等を総合的に評価し防除要否を判断する必要 がある。しかし、これは専門的な知識だ けでなく、長年の経験・勘といった曖昧 なものに頼るところも多く、黒星病の減 農薬防除を継続的に行うことのできる生 産者はごく一部に限られていた。このた め、千葉県では、パソコン上で防除の要 否や薬剤散布のタイミングを把握できる ナシ病害防除支援情報システム「梨病 害防除ナビゲーション」を開発した(図 3)。 ①散布を行った後、 その残効期間中は 降雨があっても散布 はしない ②雨が降らなけれ ば、残効期間が切 れていても、次の 散布はしない ③その次に、 雨の降る直 前に散布を 行う

残効期間

散布A

散布B

残効期間

防除要

微気象データ 農薬散布歴 迅速に情報を収集 総合的に評価 胞子飛散状況 各ナシ園 パソコン上

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図3 「梨病害防除ナビゲーション」 「梨病害防除ナビゲーション」は、「マイクロソフトエクセル」上で稼働し、ナシ開花日、気象観測 データに基づく黒星病の感染危険度、薬剤散布日を入力すると、胞子の飛散状況、黒星病感染 危険度及び予測発病度、黒星病に対する果実の高感受性期、散布農薬の効果期間の目安等が チャート化(「病害防除支援チャート」)される(図4)。 このシステムは減農薬防除を実際に現場で普及、実践する普及指導員や生産者が農薬散布 の要否や散布時期を判断するために用いられている。この他にも、ナシ園における病害発生の危 険性や、防除状況が視覚的に把握でき、また、それらをシミュレーションできることから、病害発生 や防除の成否の要因解析等にも活用できる。 図4 「病害防除支援チャート」表示画面 本システムを稼働させるに当たっては、小型温湿度記録計(サーモレコーダー)で気象 データ(温度と相対湿度)を随時収集し、エクセル上で黒星病の感染危険度を算出し、「梨 病害防除ナビゲーション」にコピーペーストして入力する。千葉県市原市のナシ生産者の グループでは、「梨病害防除ナビゲーション」を集団で利用して地域で「ちばエコ農業」に 取り組み成果を上げている。 4.市原市の「予察隊」による減農薬防除 市原市のナシ生産者のグループでは、「ちばエコ農業」認証基準を目指した地域の生産者 黒星病感染危険度 農薬散布日と 残効期間 胞子飛散有り 子のう胞子 累積飛散曲線 潜伏期間後の 予測発病度 「幸水」幼果 高感受性期間 「豊水」幼果 高感受性期間

図 1.  殺虫剤散布下におけるナモグリバエの4種寄生バチの消長(エンドウ畑)(Saito et al., 2009)
表 2. H. circulus と生物農薬(ハモグリコマユバチ、イサエアヒメコバチ)の比較(剣持ら、2011)  寄生バチ  発育日数(卵-羽化)  発育零点(℃)  有効積算温度(日度)  寄生様式  H
図 1  スワルスキーカブリダニに対する薬剤の影響  (上図:2008 年、中図:2009 年、下図:2010 年)

参照

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