• 検索結果がありません。

大学生に対する速読技術および読書方略指導がもたらす読書習慣の変化 [ PDF

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "大学生に対する速読技術および読書方略指導がもたらす読書習慣の変化 [ PDF"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

⼤学⽣に対する速読技術および読書⽅略指導がもたらす読書習慣の変化

キーワード:読書教育, 読書指導, 速読技術, 読書⽅略, 読書習慣, ⼤学教育 所 属 教育システム専攻 ⽒ 名 寺⽥ 正嗣 1.概略 本研究の⽬的は,書籍の読解に焦点化した読解⽅略(本 稿では「読書⽅略」と呼ぶ)および速読技術が、⼤学⽣ の読書習慣に与える効果を明らかにすることである。 この⽬的のために,まず予備調査として社会⼈ 8 名を 対象とした速読技術および読書⽅略の指導をおこない, 速読技術の読速度向上と,それによる読書への⾃⼰効⼒ 感とモチベーション向上の効果を確認した。さらに本調 査として⼤学⽣ 47 ⼈を対象として同様の指導をおこな った結果,次のようなことが明らかになった。 (1)速読技術を修得することで,理解については主観的な 評価ではあるが通読における読速度が⼤幅に向上する。 (2)読書⽅略と併⽤することで,短時間で 2〜3 回読み重 ねるという新たな読書スタイルの構築が可能になる。 (3)読書が短時間で効果的におこなえる体験を通じて読 書に対するポジティブ感と⾃⼰効⼒感が⾼まる。 (4)その結果、読書量が有意に増加する。 本研究は,私⽴⼤学において読書法の授業をおこなっ た経験を持つ筆者が,⼤学における読書指導,読書教育 の第⼀歩として,⼤学⽣らに読書をうながしうる⼀つの ⽅法としておこなったものである。理解が主観に基づい たものに過ぎない,参加者の⼈数が少ない,調査の期間 が短い(5 ヶ⽉程度)などの限界はあるものの,「⼤学⽣ らに読書をうながす」読書指導の可能性を⽰すことはで きたものと考えられる。 2.調査概要 Rayner et al.(2016)によれば,2016 年現在,理解の正 確さを損なうことなく読速度のみを向上させるという意 味で,「速読」を何らかのトレーニングによって修得させ ることは,科学的な研究の成果から否定されている。そ の⼀⽅で,⼀種の拾い読みであるスキミングはアメリカ の⼤学⽣らに⼀般的に受け⼊れられており,下読みとし て活⽤することで,その後の通読の読速度が向上するな どの効果が認められている(McClusky, 1934)。 そこで本研究では,速読を「理解が損なわれることを 許容した上で,読速度を向上させた読み⽅」として再定 義し,スキミングと通読における速読とを組み合わせて 活⽤する。この速読技術の活⽤により学⽣らが書籍を短 時間に読み切る体験ができ,読書の負担感が減ることで, 読書に対するポジティブ感や⾃⼰効⼒感が⾼まることを 期待する。この読書に対するポジティブ感と⾃⼰効⼒感 は Guthrie(2004)が⽰した読書に没頭することを促す条 件に沿ったものである。 速読を可能にする原理としては,従来研究されてきた ものと異なり,必要条件として想定する次の 5 つの要素 を組み合わせ,構成法的に構築している。その要素とは, ①スキミングをベースとした情報処理,②トップダウン 処理,③周辺視による情報処理,④内声化に頼らない理 解の感覚作り,⑤弛緩集中状態というものである。また 理解が下がれば⼤学⽣の学習としての価値が上がらず, 逆に⾃⼰効⼒感が下がる可能性もある。そこで理解の質 を 補 い う る よ う な 4 つ の 読 書 ⽅ 略 を , Koch, Spörer(2017) 等 に ⾒ ら れ る 読 書 ⽅ 略 ( reading strategies)を参考に考案した。それは(a)重ね読み⽅略, (b)TPO 設定⽅略,(c)構造把握⽅略,(d)意味明瞭化⽅略 という 4 つである。 この速読技術の指導および読書⽅略の指導は予備調査, 本調査とも⽐較のための対照群を設けず,アクションリ サーチとして介⼊的に調査をおこなっている。その効果 については,講座を受ける前と後に測定した読速度の結 果(プレテスト,ポストテストとして測定)および講座 を受ける前と後にアンケートで確認した読書量(冊数) の⽐較,さらに読書に対する意識の変化についてのアン ケート結果で判定することとした。 なお本研究における「読速度」は所定時間内に読み終 えたページ数もしくは⽂字数で表し,「理解度」は普段, 丁寧に読んだときの理解度を 85%と操作的に定義し,主 観的に判断させている。また「速読を修得した」状態は 次の 2 つの条件のいずれかを満たしているものとした。 (I)概要把握に焦点化したスキミングによって,1 冊 200 ページ程度の書籍を 30 分以内に処理できる。(II)下読み 後の通読(「理解読み」と呼ぶ)において,普段から⾃分 がよく読むジャンルの書籍を通読したプレテストの 3 倍 程度以上の読速度が実現できている。 まず予備調査として 8 名の社会⼈を対象として,3 ⽇ 間の速読技術および読書⽅略の指導と 3 週間のインター ネットを通じた読書実践のサポートという形で指導を実 施し,上記 5 つの速読の原理によって構築した速読トレ

(2)

ーニングおよび読書⽅略指導によって読速度が有意に向 上するか確認した。 その後,⼤学⽣ 47 名を対象として本調査をおこなっ た。⼤学⽣らへの指導も,社会⼈の予備調査と同様,3 ⽇間の速読技術および読書⽅略の指導と 3 週間の読書実 践のサポートという形態でおこなった。その後,指導は おこなっていないがサポート終了後,1 ヶ⽉が経過した 時点と,そこからさらに 3 ヶ⽉が経過した時点でアンケ ートを実施して読書の実態を調査した。 3.結果と考察 予備調査における(i)参加者⾃⾝がよく読むジャンル の書籍(ビジネス書や⾃⼰啓発書など)および(ii)筆者が ⽐較的平易で読みやすいと判断した新書という 2 種類の 書籍を⽤いた,講座実施前後の読速度測定(プレテスト・ ポストテスト)の結果を表 1 に,参加者⾃⾝が読みやす いと判断した未読の書籍を⽤いたスキミングおよび理解 読みの読速度を測定した結果を表 2 に⽰す。 表 1 講座前後の読速度の変化(プレテストーポストテスト) ⽒名 (i)よく読むジャンルの本 (ii)⽐較的平易な新書 プレ ポスト 伸び率 プレ ポスト 伸び率 C.A (85) 1,866 5,600 85) 3.00 1,595 85) 3,360 85) 2.11 T.O (85) 1,466 4,216 80) 2.88 2,450 85) 6,300 85) 2.57 H.K (70) 1,400 9,000 70) 6.43 1,430 70) 3,960 70) 2.77 K.K (85) 530 1,160 85) 2.19 600 85) 1,600 85) 2.67 N.S (85) 2,966 4,333 85) 1.46 3,400 85) 5,800 70) 1.71 M.S (85) 946 4,000 85) 4.23 980 85) 2,000 85) 2.04 M.N (70) 1,060 6,600 65) 6.23 1,350 85) 3,400 85) 2.52 M.H (70) 900 4,500 80) 5.00 1,430 70) 3,520 80) 2.46 平均 1,392 4,926 3.93 1,654 3,743 2.36 SD 707.28 2,119.30 881.85 1,531.39 注)枠内の上段:読速度(⽂字/分),下段:理解度(%) 表 2 訓練後のスキミングおよび理解読みの読速度測定 ⽒名 (10分) 下読み 理解読み(5分) C.A 161p 66p(75) T.O 290p 43p(85) H.K 400p 80p(70) K.K 80p 30p(70) N.S 156p 62p(90) M.S 236p 32p(85) M.N 224p 45p(70) M.H 197p 46p(80) 注) 読速度は所定の時間で読み終えたページ数。 理解読みの括弧は理解度(%)を⽰す。 これらの結果から,上述の①から⑤に挙げた速読技術 の修得につながりうると考えられる原理は,速読を可能 にする必要条件として確認できたと⾔っていいだろう。 また直接指導をおこなった 3 ⽇間の後、読書実践サポー トとしておこなった 3 週間の指導の最終⽇にスキミング による読速度を計測させたところ次の表 3 のような結果 となった。(読む対象となる書籍は,未読の書籍から⾃由 に選ばせた。)これにより,速読技術の指導による読速度 の向上が⼀過性のものではないことも⽰された。 表 3 3 週間の読書実践最終⽇におこなったスキミング記録 ⽒名 1冊を読むのに要した時間と主観的な理解度 下読み 理解読み 振り返り C.A (ページ数不明) 新書 不実施 (80%) 12分 不実施 H.K (約176p) 新書 (60%) 10 分 (80%) 20分 (60%) 5分 K.K (約184p) ⾃⼰啓発書 (50%) 20 分 (75%) 35分 (50%) 17分 N.S (約196p) ビジネス書 不実施 (87%) 9分 M.S (約263p) ビジネス書 (50%) 10 分 (85%) 28分 (60%) 5分 M.H (約208p) ビジネス書 (75%) 8.5 分 (85%) 12.4分 (80%) 6分 ※T.O と M.N は途中で離脱したため測定していない。 学⽣を対象とした本調査では,社会⼈と同様3⽇間集 中⽇程の3講座と期間を空けて実施した1講座,計4講座 に47名が参加した。期間を空けて実施した講座参加者の うち3名が初⽇を終えた段階で継続しての参加を辞退し たため合計44名となった。 1 ページあたりの⽂字数が少なく読みやすいと筆者が 判断した⾃⼰啓発書,および同じく筆者が読みやすいと 判断した新書を⽤いたプレテスト,ポストテストの結果 を図 1 に⽰した。この 2 種類の書籍それぞれのプレテス ト,ポストテスト,伸び率について,被験者間1要因・ 被験者内1要因の2要因分散分析を実施したところ,い ずれも講座間に有意な差は⾒られなかったため,指導後 の結果は4つの講座を区別せず⼀括して処理することと した(下表)。ただし,参加者のうち1名は,頭の中で⽂ 字を読み上げる内声化をおこなっておらず,速読の原理 ④のとおり読速度が他の参加者の平均の 3〜4 倍程度の 読速度を⽰す結果であった。そのため,この参加者の「通 読における読速度」のデータは除外して処理した。 ■分散分析表 変動因 平⽅和 ⾃由度 平均平⽅ F値 有意確率 被験者間残差 216.51 40 5.41 講座間 20.93 3 6.98 1.29 .291

(3)

■図 1 ⾃⼰啓発書の読速度の変化 ※数値の単位は「⽂字/分」 スキミングの読速度の測定結果は次の表 4(3 ⽇間講 座終了時点), 表 5(3週間の読書実践終了時点)のと おりである。 ■表 4 講座最終⽇のスキミングの読速度(10 分間あたり) n=44 下読み 理解読み 最⼤ 300 p 200 p 最⼩ 39 p 35 p 平均 149.9 p 105.8 p SD 50.4 34.8 ■表 5 3 週間後のスキミングの読速度(10 分間あたり) n=33 下読み 理解読み 最⼤ 329 p 173 p 最⼩ 55 p 29 p 平均 173.6 p 78.3 p SD 75.6 31.0 3週間のサポートの課程でレポートの提出が途切れ, 連絡が取れなくなった学⽣が 7 名,それ以外にスキミン グの測定をしなかった者が 5 名いた。 3週間の読書実践を終えて1ヶ⽉後,さらにその3ヶ ⽉後にアンケートをおこない速読技術および読書⽅略を 活⽤できたか調査したところ表 6 および図 2 のような結 果となった。 ■表 6 速読技術を活⽤できたか? 1ヶ⽉後 3ヶ⽉後 ⼈数 % ⼈数 % ⼤いに活⽤できた まぁ活⽤できた どちらとも⾔い難い あまり活⽤できなかった 全く活⽤できなかった 3 25 5 3 0 8.3 69.4 13.9 8.3 0 2 16 9 5 2 5.9 47.1 26.5 14.7 5.9 ■図 2 読書⽅略を活⽤できたか? ※グラフ上段が 1 ヶ⽉後(n=36),下段が 3 ヶ⽉後(n=34) これら速読技術および 4 つの読書⽅略によって読書に 対する意識がどう変わったのか調査した結果が表 7(3 ⽇間講座終了時点),表 8(3 週間の読書実践終了時点) である。 ■表7 3⽇間の講座を経ての読書に対する⼿応え・意識の変化 n=44 ⼈数 % いっそう楽しくなった(P) 19 43.2 楽に読めるようになった(E) 36 81.8 読書の質が上がった(S) 11 25.0 スピードが上がった(S) 44 100.0 以前より読書が好きになりそうだ(P) 22 50.0 難しい本でも取り組んでいけそうな⾃信がついた(E) 18 40.9 それほどの⼿応えは感じられなかった(S) 0 0.0 かえって読書が難しく感じられた(P) 0 0.0

(4)

■表8 3週間読書実践を経て読書に対する⼿応え・意識の変化 n=37 ⼈数 % いっそう楽に、楽しくなった(P) 19 51.4 読書に対して⾃信がついた(⾼まった)(E) 20 54.1 さらに読書の質が上がった、または安定し た(S) 12 32.4 さらにスピードが上がった、または安定し た(S) 22 59.5 以前より読書が好きになってきた(P) 17 45.9 今まで以上に、読書に意欲的に取り組めそ うだ(E) 23 62.2 難しい本でも積極的に取り組んでいける⾃ 信がついた(E) 13 35.1 それほどの⼿応えは感じられなかった(S) 0 0.0 かえって読書が難しく感じられた(P) 0 0.0 表中の S, P, E はそれぞれ「速読技術についての⼿応 え」,「読書に対するポジティブ感」,「読書に対する⾃⼰ 効⼒感」を表している。アンケート項⽬のこれらの分類 は,筆者の所属する研究室の教員および研究者の 2 ⼈と の協議により,その妥当性を検討し,⼀致した⾒解を得 ている。これら表 7, 8 の結果は速読技術および読書⽅略 指導により読書に対するポジティブ感と⾃⼰効⼒感は⾼ まったことを⽰唆するものと考えられる。 最後に,このような意識の変化が、実際に読書習慣に 影響したかどうかについて、講座終了後の読書量(冊数) の変化をまとめたのが表9である。 A)受講前,B)3週間の読書実践サポート,C)その後の1 ヶ⽉間,D)さらにその後3ヶ⽉間という4つの期間の読書 量(冊数)をすべて1ヶ⽉(30⽇)に換算して⽐較して いる。この結果からあくまで単なる読書量(冊数)の変 化に過ぎないが平均2.6冊/⽉から9.5冊/⽉へと3.7倍に 伸びている。 ■表9 読書習慣(冊数)の変化 A B C D 最⼤ 15 40 41 36 最⼩ 0 2.9 0 0 平均 2.7 21.2 13.5 9.5 SD 2.7 9.6 8.9 7.8 N 47 37 35 32 ※Aのデータは「⽉あたり」の冊数を「まったく読んでいない (0冊)」、「0〜1冊」、「2〜3冊」、「4〜5冊」、「それ以上」のう ち前四肢をそれぞれ「0.0」、「0.5」、「2.5」、「5.0」と⾒做して 概算した。「それ以上」は2⼈おり、それぞれにヒアリングを おこなって具体的な冊数を確認した。 4.まとめ 以上の結果から,本研究で意図したとおり,速読技術 および読書⽅略の指導により学⽣らは読書に対する意識 (ポジティブ感および⾃⼰効⼒感)を変容させ,その結 果として読書⾏動が促されたと結論づけていいだろう。 ⾼⽊ら(2012)や守・川島(1991)等に⾒られるように, ⼤学⽣らに読書を促す試みは総じて功を奏さず,読書量 の⼤幅な増加が⾒られた例は⾒当たらない。その意味で, 本研究の結果は,単純な読書量の増加に過ぎないとはい え,⼤学教育における読書指導,読書教育の⼀つの可能 性を⽰すことができたという点で有意義な成果であると 考えていいだろう。 5.主な引⽤⽂献

Abdelrahman, M. S. H. B., & Bsharah, M. S. (2014). The effect of speed reading strategies on developing reading comprehension among the 2nd secondary students in English language. English Language Teaching, 7(6), 168.

Guthrie, J. T., Wigfield, A., Barbosa, P., Perencevich, K. C., Taboada, A., Davis, M. H., ... & Tonks, S. (2004). Increasing reading comprehension and engagement through concept-oriented reading instruction. Journal of educational psychology, 96(3), 403.

Koch, H., & Spörer, N. (2017). Students Improve in Reading Comprehension by Learning How to Teach Reading Strategies. An Evidence-based Approach for Teacher Education. Psychology Learning & Teaching, 16(2), 197-211.

McClusky, H. Y. (1934). An experiment on the influence of preliminary skimming on reading.

Journal of Educational Psychology, 25(7), 521. 守⼀雄, & 川島⼀夫. (1991). ⼤学⽣への読書指導の効果

--副読本とディスカッションによる読書指導. 読書 科学, 35(3), 104-110.

Rayner, K., Schotter, E. R., Masson, M. E., Potter, M. C., & Treiman, R. (2016). So much to read, so little time: How do we read, and can speed reading help?. Psychological Science in the Public Interest, 17(1), 4-34.

⾼⽊悠哉, 松岡律, 熊⽥岐⼦, 住本克彦, & 筒井愛知. (2012). ⼤学教育への導⼊に読書を⽤いることの有 効性に関する試験的検討. 環太平洋⼤学研究紀要, 5, 69.

参照

関連したドキュメント

中比較的重きをなすものにはVerworn i)の窒息 読,H6ber&Lille・2)の提唱した透過性読があ

『サンスクリット文法』 (岩波書店〈岩波全書〉、 1974、のち新装版 ) 、および『サンス クリット読本』 (春秋社, 1975

Working memory capacity related to reading: Measurement with the Japanese version of reading span test Mariko Osaka Department of Psychology, Osaka University of Foreign

LLVM から Haskell への変換は、各 LLVM 命令をそれと 同等な処理を行う Haskell のプログラムに変換することに より、実現される。

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

The objective of this course is to encourage students to grasp the general meaning of English texts through rapid reading (skills for this type of reading will be developed