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学習者が楽しく多読ができる読み物の レベルとは

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Academic year: 2022

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全文

(1)

1.はじめに

多読は、読み物の内容を楽しみながら語学力を高めることができる第二言語学習法であ る(

Krashen,

1997

; Nation,

2009)。特に、未知語との遭遇回数が多くなるように書かれて いる多読教材を用いた多読は、付随的語彙学習に効果がある(

Nation,

2001

; Waring,

2006

; Pigada & Schmitt,

2006

;

三上・原田

,

2011)。しかし、

Coady

(1996)が

beginner

のパラドッ クスと言っているように、語彙が不足していれば、読み進めることができず、語彙は思う ように増えない。

学習者が楽しく多読ができる読み物の レベルとは

─多読のための語彙レベルテストの判定結果と 読書記録の分析から─

中野 てい子・原田 照子・三上 京子

要 旨

 本研究は、筆者らが作成している多読教材「

JGR

さくら」を用いた多読授業の実 践において、学習者の語彙レベルを測るためのテストを実施、判定されたレベルの 読み物を読んだ学習者の読書記録をもとに、以下の2点を検証しようとしたもの である。1)上記のテストにおけるレベル判定基準95%は妥当であるか、すなわ ち、テストの判定レベルと楽しんで読めている多読教材のレベルが一致している か、2)「

JGR

さくら」における既知語カバー率95%と語彙レベルテストの判定基 準95%が一致し、妥当であると言えるかどうかという点である。読書記録の分析か ら得られたデータをもとに考察した結果、語彙レベルテストの判定基準95%は概ね 妥当であることがわかった。また、学習者の読み物に対する「面白さ」の評価も高 かったことから、「

JGR

さくら」の既知語カバー率と語彙レベルテストの判定基準 が、多読を行う学習者にとって有効であるとの示唆を得た。

キーワード

多読 「読み」の良い循環 語彙レベルテスト 読書記録 既知語率

(2)

1.1 多読に適した「読み」の循環

第二言語学習者の読書行動に良い循環(

virtuous circle

)が生まれると、良い読者(

good

reader

)に成長すると言われている(

Nuttall,

2005)。良い循環とは、読み物の内容がわか

ると読むのが面白くなるので、読むスピードが速くなる。その結果、読む量が増えるの で、学習言語により多く触れられ、内容がさらにわかるようになるという循環である。こ の逆の状況を「読み」の悪循環(

vicious circle

)と言う(

Nuttall,

2005)。すなわち読む速 度が遅くなり、読むことに楽しさが感じられず、あまり読まなくなるという循環である。

Nuttall

(2005)は、

speed, enjoyment, comprehension

のどれもが、「読み」の悪循環から抜け 出して良い循環に入るための鍵になると言っている。

Nakano & Harada

(2019)は、デジタル教材配信・閲覧システムを用いて教室外の学習

者の多読における読書行動を調査した。その結果、学習者にとって適切なレベルのものを 読むことが、

Nuttall

(2005)が提唱する「読み」の良い循環に移行するための条件の一つ となり得ることが示唆された。学習者が自身にとって適切なレベルのものを読むというと き、その読み物の語彙レベルが、学習者のもつ語彙レベルに合っていることが必要であ る。つまり、良い循環で読むためには、相応の語彙知識が学習者に求められることにな る。見方を変えれば、学習者の語彙知識の範囲を大きく超えないレベルの語彙で書かれた 読み物は、多読を行う学習者にとって適切なレベルと言えるのではないだろうか。教室等 で教師の指導を受けながら多読を始める場合には、各学習者にとって適切なレベルを教師 が助言することが可能である。一方、教室外で、独学等で学び、教師の指導を受けられな い学習者が多読を始める場合、

Nuttall

(2005)が言う悪循環ではなく、良い循環で読み進 めるためにも、各自にとって適切なレベルの読み物を知る必要があると言える。

1.2 文章理解と語彙知識

多読における付随的語彙学習とは、読書中に遭遇した未知語が、文脈からの推測を経て 学習者の既知語になることである(

Nation,

1990

; Coady,

1996)。読書を通して、ある語が 未知語から既知語になる過程には、「意味は、はっきりは分からないが見たことがある」

という段階がある(

Coady,

1996

; Grabe & Stoller,

1996

; Paribakht & Wesche,

1996)。また、

読み進む中で繰り返し遭遇したその未知語が付随的に習得されるためには文章理解が必要 である。

第二言語習得における語彙習得研究の分野では、語の量的知識は文章理解を促進する重 要な要因の一つとして位置付けられている(

Coady,

1996)。第二言語としての英語の語彙 習得研究の分野では、既知語率95~98%が文章の内容理解を促進する閾値であると言われ ている(

Liu & Nation,

1985

; Laufer

1989

,

1992

; Hirsh & Nation,

1992

; Nation,

2001)。特に、

学習者が特別な支援を受けずに文章を楽しんで読むには、既知語率は98%程度必要である と言われている(

Hirsh & Nation,

1992)。日本語においても既知語率と文章理解の相関関 係が認められており、文章理解に必要な既知語率は96%であると報告されている(小森他

,

2004)。

(3)

1.3 研究課題

多読は、教師主導型の授業で行われる精読とは対照的に、時間と場所を選ばず、自由 に読み物を選んで始めることができる。筆者らは、独学の学習者に自律的に日本語を学 ぶ機会を提供する多読支援システム「さくら多読ラボ」を公開している(中野他

,

2017

;

Nakano,

2017)。さらに、これを使って多読を始める学習者が、楽しみながら読み進めら

れるレベルを知る手段として、「多読のための語彙レベルテスト」(以下、

VLT

とする。)

を開発した(中野他

,

2019)。「さくら多読ラボ」で提供している「

JGR

さくら」は、英語

Graded readers

の理論(

Nation,

1990)に基づき、既知語カバー率95%以上で制作されて いる。これに基づき、

VLT

の判定基準も95%以上としている。しかし、この値は理論上 のものであるため、既知語カバー率と

VLT

の判定基準の間に開きがないかどうか、つま り

VLT

の判定がふさわしい読み物のレベル選択を支援するかは、実践を通して明らかに する必要がある。そこで、「

JGR

さくら」を使用している授業において、学習者の

VLT

結果が示すレベルと、学習者が

VLT

の結果と同じレベルの読み物を読んだときの「読み」

のデータから、

VLT

の判定と楽しんで読めている多読教材のレベルが一致しているかを 明らかにする。

2.調査対象と方法

早稲田大学日本語教育研究センターで開講しているテーマ科目「物語を読む1」と「文 学小説を読む4」では、学習者は「

JGR

さくら」を読み、読書記録(読むのにかかった時 間、難しさ、面白さ、未知語、辞書で調べた語)を書いている。この授業の履修者から被 験者を募り、調査への同意が得られた者に、

VLT

と日本語能力(文法・語彙)に関する テスト「

Simple Performance Oriented Test

」(以下、

SPOT

とする。)と日本語能力試験

N

(2018年)の言語知識問題(以下、

JLPT

とする。))を実施し、アンケート調査も行う。被 験者が

VLT

で判定されたレベルと、その前後のレベルの読み物を読んだ時の読書記録の データから

VLT

の判定基準の妥当性を検討する。

2.1 多読教材

多読教材として使用した読み物とそのレベル、字数、延べ語数を表1と表2に示す。

JGR

さくら」は、物語のコーパスから頻度に基づいて抽出した約4500語から成る「

JGR

語彙リスト」を元に作成された読み物である(レイノルズ他

,

2003)。付随的語彙学習が 可能になるよう、各レベルにおいて使用語彙の95

%

が既知語になるよう語彙調整が行われ ている。レベルは、

A

が初級前期の前半、

B

が初級前期の後半、

C

が初級後期の前半、

D

が初級後期の後半、

E

が中級前期の前半である。

「物語を読む1」は

J-CAT

1レベルの学習者を対象とし、「

JGR

さくら」の

B

レベルが 読めるようになることを到達目標としている。初めて日本語を学ぶ学生が含まれるため、

3回目の授業から読み始める。『蜘蛛の糸』『横浜ミステリー』『桜ミステリー』『怪人二十 面相』はグループで読むため、学習者によって読む字数が異なる。

「文学小説を読む4」は

J-CAT

4レベルの学習者を対象とし、多読教材を辞書なしで読

(4)

む授業であるため、中級、または、それより易しいレベルの作品を選んでいる。授業で 扱った読み物は、著作権が切れた文学作品を原作とするリライトであるため、1900年代前 半より以前に書かれた物語である。読み物の語彙の95%はそのレベルの語彙が使われてい るが、残りの5%には一般的な中級までの日本語の教科書には出てこない語が含まれるこ とがある。学習者は以下の作品を1回の授業に1作品読む。ただし、長編作品である『大 きな帽子の女』『坊っちゃん』『林の奥で』は、それぞれ、2回、4回、2回に分けて読ん だ。なお、表1・表2において、今回分析対象としていない読み物の延べ語数は省略する。

表1 「物語を読む1」で使用した読み物

回 タイトル レベル 字数 延べ語数

3 大きいかばんと小さいかばん A 2,084 1,072

4 蜘蛛の糸 A 2,474 N/A

5 圭太とネコ石1 A 3,016 1,741

6 圭太とネコ石2 A 3,229 1,810

7 圭太とネコ石3 A 3,182 1,905

8 横浜ミステリー B 6,363 N/A

9 N/A

10 太郎の夏休み B 4,391 2,574

11 4,563 2,546

12 桜ミステリー B 8,770 N/A

13 大男の話 B 3,054 1,526

14 怪人二十面相 C 9,641 N/A

表2 「文学小説を読む4」で使用した読み物

回 タイトル 原作の著者 レベル 字数 延べ語数

1 蛙

芥川龍之介

D 1,760 980

2 蜘蛛の糸 A 2,474 N/A

3 仙人 D 2,827 1,558

4 大晦日の小さな事件 井原西鶴 D 4,174 2,410

5 大きな帽子の女 『今昔物語集』より C 8,795 N/A

6 8,796 N/A

7 夢十夜第一夜 夏目漱石 E 1,682 972

8 守られた約束 小泉八雲 E 2,883 1,626

9

坊っちゃん 夏目漱石 E

9,652 5,064

10 9,398 5,578

11 7,366 4,602

12 5,080 2,713

13 林の奥で

原作『藪の中』 芥川龍之介 E N/A N/A

14 N/A N/A

(5)

2.2 多読のための語彙レベルテスト(VLT)

VLT

は、

Nation

(1990)の語彙レベルテストにならい、媒介語を使用せず、正解となる

3語の意味を日本語で説明し、その説明にあてはまる語を6語の選択肢から選ぶ形式であ る。テスト問題は、前述の「語彙リスト」から、品詞と語種の比率に応じた層化抽出法に よって無作為に抽出した語で構成されている。正解となる語120語、錯乱肢としての120語 からなり、問題の総数は40問である。これを

A

B

の2バージョン作成し、ルビーン検定 によってバージョン間の等価性を確認した。本研究では、

A

バージョンの結果を用いる。

2.3 被験者

被験者は、自主的に調査に参加した、日本語教育研究センターに在籍する学生36人であ る。内訳は、漢字圏学習者26人と非漢字圏学習者10人である。調査実施時の日本語能力を 知るため、

SPOT

JLPT

を実施した。いずれも満点を100点とした得点で示した(表3)。

この結果に基づき、次章で分析対象とした読書記録を、次のように決めた。「物語を読む 1」では、全員が

A

B

レベルを読んだため、

VLT

A

B

に判定された7人の被験者の 読書記録を分析対象とした。「文学小説を読む4」では、

A

E

レベルを読んだが、被験 者の

VLT

の判定が

E

以上であったため、

E

F

に判定された10人の被験者の

D

E

レベル の読み物の読書記録を分析対象とした。

表3 被験者の母語と調査時の日本語能力

クラス 母 語 VLTで判定されたレベルの人数 SPOT

平均 JLPT

A B C D E F G H 平均

物語を読む1 漢 字 圏(8人) 2 0 0 3 2 1 0 0 46 52

非漢字圏(7人) 4 1 0 1 0 1 0 0 46 29

文学小説を読む4 漢 字 圏(18人) 0 0 0 0 3 4 7 4 75 83

非漢字圏(3人) 0 0 0 0 2 1 0 0 76 65

2.4 読書記録

履修者は、半期の授業の内の14週間で授業中に多読教材としての読み物を読み、読了後 に読書記録を書く。記入する内容は以下の通りである。

(1)読むのにかかった時間(読み終わらなかった場合は、読んだページとその時間を書く)

(2)難易度の5段階評価(難しい・少し難しい・普通・少し易しい・易しい)

(3)面白さの5段階評価(面白い・少し面白い・普通・少しつまらない・つまらない)

(4)知らなかった言葉(辞書で意味を調べた場合はその言葉を丸で囲む)

3.結果と考察

3章1節では、判定レベルごとに、読む速さ・難しさ・面白さについて考察する。3章 2節では、該当するレベルの読み物を読んだ時の被験者の既知語率を求め、文章理解の点 から

VLT

による判定の妥当性を考察する。

(6)

3.1 速さ・難しさ・面白さ

被験者が

VLT

で判定されたレベルにおいて、該当するレベルとその前後のレベルの読 み物を読んだ時の読書記録から得られた結果を表4に示す。「速さ」は「読むのにかかっ た時間(分)」と各回に読んだ作品の字数から求めた、1

,

000字あたりを読むのにかかった 時間の平均値である。「物語を読む1」では、ペアやグループで読むため、速さは分析の 対象外とした。「難しさ」は「難しい」を5、「易しい」を1として5段階に得点化したポ イントの平均値を示す。同様に、「面白さ」は「面白い」を5、「つまらない」を1とした 場合の平均値を示す。

表4 判定レベルごとの読書記録の結果

クラス 判定 読み物のレベル 速さ(分/1,000字) 難しさ 面白さ

物語を読む1 A

(6人)

A N/A 3.2 3.6

B N/A 3.4 3.6

B

(1人)

A N/A 2.6 4.3

B N/A 3.0 3.8

文学小説を読む4 E

(5人)

D 5.9 1.8 4.0

E 5.0 3.0 3.8

F

(5人)

D 6.9 2.0 4.2

E 5.6 2.3 3.9

「速さ」は、

VLT

における判定レベル

E

F

の被験者を比べると、いずれも読み物の語 彙レベルが易しい

D

の方が

E

よりも値が大きい、つまり時間がかかっているという、予想 と反する結果となった。この理由として、

E

では『坊っちゃん』を4回に分けて読んだた め、読み進めるに従ってストーリーに慣れていったことが考えられる。また、翻訳で読ん だことがあるという学生もおり、背景知識があったためであるとも考えられる。「難しさ」

に関しては、いずれのクラスにおいても、判定レベルが上位の被験者の方が下位の被験者 より数値が小さく、易しいと感じていることがわかる。

E

レベルと判定された被験者が

E

レベルを読んだ時の値と、

B

レベルと判定された被験者が

B

レベルを読んだ時の値が、い ずれも「3=普通」であることから、判定レベルが合っていたと考えられる。

「物語を読む1」では、

A

レベルに判定された被験者が

A

レベルを読んだ時の難しさが 3

.

2であり、どちらかというと「少し難しい」と感じたことがわかったが、同じレベルの 被験者が、

B

レベルを読んだ時の難しさが3

.

4であることから、

VLT

による判定は妥当で あったと言えるだろう。実際、

A

判定の6人の

SPOT

JLPT

の結果の平均は、それぞれ、

33点と32点という低い値であったことも、判定の妥当性を裏付けていると考えられる。一 方、「面白さ」では、全ての被験者が3以上という結果であった。「難しさ」と「面白さ」

は、あくまで被験者の主観的な評価であるため、そこから客観的な分析結果を出すことは 難しいかもしれないが、数値化された評価の平均値を見ることによって、評価の全体的な 傾向を捉えることができると考えた。このことから、今回の調査結果は、

VLT

の判定が、

(7)

被験者が面白さを感じて読める、つまり楽しんで読めている多読教材のレベルと一致して いることを示唆したと言えるのではないだろうか。

3.2 文章理解から見たVLTによる判定の妥当性

VLT

の判定基準を文章理解の点から考察するため、判定レベル

A

の被験者が

A

レベル の読み物を読んだ時と、判定レベル

E

の被験者が

E

レベルの読み物を読んだ時の既知語率 を分析する。表5と表6に、被験者が読書記録に書いた未知語と、

JGR

語彙チェッカー

(中野他

,

2007)で求めた読み物の延べ総語数(表1・表2)から、読み物における被験 者の既知語率を示す。被験者を

ID

番号で、その横に読み物のタイトルとレベルを示す。

表5における

ID

1

-

1~1

-

6が

A

B

レベルの読み物を読んだ時の既知語率の平均は、98

.

4 と99

.

5、表6における

ID

4

-

1~

ID

4

-

5が

D

E

レベルの読み物を読んだ時の既知語率の平均 は、99

.

0と99

.

7であった。「物語を読む1」でも「文学小説を読む4」でもレベルが上がる と既知語率が低くなると予想されたが、反対に難しいレベルの既知語率の方が高いという 結果であった。理由として考えられることは、

ID

1

-

5が『大きいかばんと小さいかばん』

で、作品中に43回出現する「小さい」を未知語として書いたため、既知語率が低くなった ことが挙げられる。被験者は、新しく覚えた言葉を読書記録に書いており、授業では、知 らない言葉をペアで確認しながら読み進めるため、「読み」を楽しむ妨げにはなっていな いと考えられる。実際、表4の「面白さ」の評価では、

A

レベルと

B

レベルの値は同じで あった。

「文学小説を読む4」では、『仙人』の既知語率が低い。この作品は江戸時代の話である ため、現在、日常的に使われていないものが多い。「仙人(25回出現)」や「権助(32回出 現)」などの出現回数の多い語が挙げられたためであると考えられる。こちらは、表4の

「面白さ」の評価においては、

D

レベルの読み物の方が

E

レベルの読み物よりも値が大き い。いずれのクラスにおいても、なるべく辞書を使わずに読むことを推奨しているため、

内容理解の上で問題にならなければ、未知語として書かないということも考えられる。こ の点から考えれば、表5と表6で示した既知語率が実際より高くでている可能性はある が、被験者は読み物の内容を概ね理解していたと言えると考える。

表5 「物語を読む1」の被験者が読んだ各読み物における既知語率(単位

%

ID かばんA 圭太1A 圭太2A 圭太3A 太郎1B 太郎2B 大男の話B

1-1 96.3 98.8 99.7 99.5 100.0 100.0 99.9 1-2 100.0 99.3 99.9 99.4 100.0 99.6 99.8 1-3 97.2 97.0 98.6 97.9 100.0 99.6 98.0 1-4 97.8 98.1 99.3 99.2 98.5 100.0 99.1 1-5 93.2 99.0 99.1 99.7 100.0 100.0 100.0 1-6 96.4 98.7 98.6 100.0 97.2 100.0 99.2 各平均 96.8 98.5 99.2 99.3 99.3 99.9 99.3

平均 98.4 99.5

(8)

表6 「文学小説を読む4」の被験者が読んだ各読み物における既知語率(単位

%

ID 蛙D 仙人D 大晦日D 夢十夜E 約束E 坊1E 坊2E 坊3E 坊4E

4-1 99.8 98.7 99.8 100.0 100.0 99.0 99.6 99.6 99.9 4-2 99.5 99.2 99.9 99.7 99.9 99.9 99.9 99.8 99.9 4-3 97.9 96.6 98.0 98.6 100.0 99.5 99.8 99.9 100.0 4-4 99.4 99.6 99.3 99.3 99.7 99.8 99.8 99.9 99.6 4-5 99.7 97.2 100.0 99.4 99.8 100.0 100.0 100.0 100.0 各平均 99.2 98.3 99.4 99.4 99.9 99.6 99.8 99.8 99.9

平均 99.0 99.7

4.まとめと今後の課題

今回の調査では、

A

レベル判定、

E

レベル判定となった被験者のみを対象としたが、

VLT

の判定基準が概ね妥当であることが明らかになった。また、学習者の読み物に対す る「難しさ」と「面白さ」の5段階評価において、「難しさ」が「普通」より低かったの に対して、「面白さ」が「普通」より高かったことは、多読に適した「読み」の良い循環 に移行することができるレベルを

VLT

が提示していたことを支持する要素となると考え られる。しかしながら、「

JGR

さくら」の読み物における既知語のカバー率95%と

VLT

判定基準95%が多読を行う学習者にとって有効であるかどうかは、全てのレベルで検証す る必要がある。多読の授業実践において、

VLT

による学習者の語彙レベルの判定が有効 かどうかを調査したのは、今回が初めてのことであったが、引き続き、より多くの学習者 を対象に

VLT

によるレベル判定と読書記録を基にした調査を行い、今後の多読授業の実 践に活かして行きたい。

謝辞

本研究は

JSPS

科研費18

K

00694の助成を受けたものです。

参考文献

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中野てい子・原田照子・山形美保子・宮崎妙子・酒井眞智子・三上京子(2007)「日本語版グレイ ディド・リーダー開発への取り組み─JGR語彙チェッカーの試作と評価」『電子情報通信学会技 術研究報告.TL,思考と言語』107(323)、pp.31-36

中野てい子・原田照子・山形美保子・酒井眞智子・宮崎妙子・草野宗子・今井美登里・三上京子

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中野てい子・原田照子・三上京子・山形美保子(2019)「多読を始める学習者のための語彙レベル判

(9)

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[retrieved: June, 2020]

Waring, Rob. (2006). Why extensive reading should be an indispensable part of all language program. The Language Teacher, 30(7), pp.44-47

(なかの ていこ 早稲田大学日本語教育研究センター)

(はらだ てるこ 

EF International Language Schools

(みかみ きょうこ 早稲田大学大学院日本語教育研究科・博士後期課程修了)

参照

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