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118 一 はじめに本稿では 二〇一七年八月一八日から二〇日にかけて東京で開催された国際財政学会の第七三回年次大会について報告を行う 国際財政学会(International Institute of Public Finance :IIPF )は一九三七年にパリにおいて設立された財政学 公共経済学

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Academic year: 2021

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一、はじめに

  本稿では、二〇一七年八月一八日から二〇日に かけて東京で開催された国際財政学会の第七三回 年次大会について報告を行う。国際財政学会 ( In -ternational Institute of Public Finance : IIPF ) は一九三七年にパリにおいて設立された財政学・ 公共経済学に関する国際学会である。国際財政学 会 の ホ ー ム ペ ー ジ に よ る と、 現 在 五 〇 を 超 え る 国々に約八〇〇名の会員を有している。年次大会 ( Annual Congress ) は 毎 年 八 月 に 開 催 さ れ、 講 演(プレナリー)や個別研究報告が行われるほか に、ディナーなどのソーシャル・プログラムも用 意されている。今大会の会場は、八月一八日と一 九日が東京大学本郷キャンパスで、二〇日が墨田 区にある国際ファッションセンター(KFC)で あった。年次大会のホームページ ⅱ によると、今大 会 に は 三 八 の 国 と 地 域 か ら 四 七 四 名 の 参 加 者 が あった。   本稿の構成は以下のとおりである。続く二節で は、年次大会の概要を説明する。そして、三節で

国際財政学会第七三回年次大会に参加して

 

 

 

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は筆者が興味深く感じた個別研究報告の内容を紹 介する。後述するように個別研究報告の内容は多 岐にわたっているが、筆者の関心は企業課税を含 む広い意味での証券税制にあるので、紹介する内 容がそうした税制に関する研究に偏ってしまうこ とを予めお断りしておきたい。最後の四節では、 来年の八月二一日から二三日にかけてフィンラン ドのタンペレで開催される第七四回年次大会につ いて簡単に触れたい。

二、第七三回年次大会の概要

  年次大会のプログラムの概要は図表1のとおり である。前述のように今大会は八月一八日から二 〇日の三日間に渡って開催された。以下ではプレ ナ リ ー( 講 演 )、 個 別 研 究 報 告、 ソ ー シ ャ ル・ プ ログラムに分けて説明していく。 写真1 会場に設置された看板 筆者撮影

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図表1 プログラムの概要

Venue Tokyo, Hongo CampusThe University of Tokyo, Hongo CampusThe University of Kokusai Fashion Center(KFC) Venue

Time August 18(Fri.) August 19(Sat.) August 20(Sun.) Time

Registation opening

Hour 8:00am-6:00pm 8:00am-3:00pm 8:00am-3:30pm

Registation opening

Hour

09:00 Opening Ceremony

Plenary Ⅲ Working Group

Session E 09:00 09:30 Plenary Ⅰ 09:30 10:00 Coffee Break 10:00 10:30 Coffee Break Working Group Session C Coffee Break 10:30 11:00 Working Group Session A Working Group Session F 11:00 11:30 11:30 12:00 12:00 12:30 Lunch Lunch 12:30 01:00 Lunch 01:00 01:30 Working Group

Session D Working Group Session G

01:30 02:00 Working Group Session B 02:00 02:30 02:30 03:00 03:00 03:30 Excursion Coffee Break 03:30 04:00 Coffee Break Plenary Ⅳ 04:00 04:30 Plenary Ⅱ 04:30 05:00 Closing Ceremony 05:00 05:30 General Assembly of Members 05:30 06:00 06:00 06:30 06:30 07:00 Welcome Reception Venue: Dai-ichi Hotel Ryogoku 5F “Kiyosumi”

Conference Dinner with Award Ceremony Venue: Tobu Hotel Levant Tokyo 4F “Nishiki” 07:00 07:30 07:30 08:00 08:00 08:30 08:30 09:00 09:00 〔出所〕 国際財政学会資料より作成

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図表2 プレナリーの講演者と論題

講演者 論題

Plenary Ⅰ Prof. Takatoshi Ito

(Professor of International and Public Affairs, Columbia University, USA)

Government Bonds as Inter-generational Transfer of Wealth and Liabilities: Case of Ja-pan

Plenary Ⅱ

Prof. David Bradbury

(Head of the Tax Policy and Statistics Division, OECD, France)

Inclusive Fiscal Reform: Ensuring Fairness and Transparency in the International Tax System

Plenary Ⅲ

Prof. Hans-Werner Sinn

(Professor of Economics and Public Finance, University of Munich, Germany)

The ECBʼs Fiscal Policy

Plenary Ⅳ Prof. Alan Auerbach

(Professor of Economics and Law, University of California, Berkeley, USA)

Tax Reform in Theory and Practice

〔出所〕 国際財政学会資料より作成 ⑴   プレナリー( Plenary )   図表1からもわかるとおり、今大会では一八日 に二つ、一九日に一つ、二〇日に一つ、合計四つ のプレナリーが設けられた。図表2はプレナリー の講演者とその論題を示したものである。伊藤隆 敏コロンビア大学国際公共政策大学院教授ら、著 名な経済学者が講演を行った。プレナリーでは共 通 の テ ー マ が 設 け ら れ る が、 今 大 会 の テ ー マ は 「 財 政 改 革 」( Fiscal Reform ) で あ る。 各 プ レ ナ リ ー と も 最 後 に 質 疑 応 答 の 時 間 が 設 け ら れ て お り、講演者と出席者の間で活発な議論が交わされ た(写真2) 。 ⑵   個別研究報告(

Working Group Session

)   図 表 1 に Working Group Session と い う 記 載 があるが、これは個別研究報告が行われることを 示している。ここからわかるとおり、個別研究報

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告は大会期間中すべての日に行われた。写真3は その様子である。図表3では一例として、一八日 の午後二時から午後四時にかけて行われた Work -ing Group Session B に お け る 各 セ ッ シ ョ ン の タ イトルを列挙し、あわせて個別研究報告の本数も 掲載している。各セッションにはタイトルが付け られており、そのタイトルに関連する数本の個別 研究報告が行われるのである。よって図表3は、 Working Group Session B では一四会場で合計五 四 本 の 個 別 研 究 報 告 が 行 わ れ た こ と を 示 し て い る。   図 表 4 は、 図 表 3 に あ る Multinational firms and profit shifting と い う タ イ ト ル の セ ッ シ ョ ン で個別研究報告を行った研究者とその論題を示し ている。すべてのセッションのタイトルおよび個 別研究報告の論題、さらに報告論文は年次大会の ホームページ ⅲ から見ることができる。ホームペー 写真2 プレナリーの様子 筆者撮影

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図表3 セッションの一例(Working Group Session B)

セッションのタイトル 個別研究報告の本数

B01 Banking regulation 4

B02 Trust and Charity 4

B03 Environmental taxation 4

B04 Competition regulation and privatization 4

B05 Investment in children 4

B06 Place-based policies 3

B07 Tax havens 4

B08 Multinational firms and profit shifting 4

B09 Corporate taxation and location of assets 3

B10 Fiscal equalization 4

B11 Labor Market Interventions 4

B12 Wealth taxation 4

B13 Growth and fiscal policy 4

B14 Household behavior around the world 4

〔出所〕 国際財政学会資料より作成

写真3 個別研究報告の様子

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ジをもとに筆者が調べた限りでは、セッションの 総数は九四、個別研究報告の本数は三四四であっ た。前回はセッションの総数が七五、個別研究報 告の本数が二八〇であったので、昨年より増加し ている。筆者の個人的な印象としては、参加者も 昨年より大分多かった。税制、公債、社会保障、 地方財政、財政政策など、財政学・公共経済学の 中心的な分野について数多くの報告がなされ、活 発 か つ 建 設 的 な 議 論 が 行 わ れ た。 ま た、 Working Group Session B と Working Group Session D に Banking regulation と い う 同 じ タ イ ト ル の セ ッ ションが設けられるなど、銀行を分析対象とした 研 究 が 多 い と い う 印 象 を 受 け た。 筆 者 は、 Corpo -rate Taxation and R&D 、 Multinational firms and profit shifting 、 Corporate tax rate cuts and credits 、 Real Estate and Property Taxation と いった企業行動や企業に対する税制に関するセッ 図表4 個別研究報告の一例

セッションのタイトル:Multinational firms and profit shifting

報告者 論題

Samina Sultan

Ludwig-Maximilians-University, Munich, Germany

The Role of Developing and Transition Economies in Multinational Companiesʼ Profit Shifting Activities

Tobias Bauckloh3

Inga Hardeck1

Patrick Wittenstein2

Bernhard Zwergel3

1European University Viadrina, Germany

2University of Hamburg, Germany

3University of Kassel, Germany

Do Some Multinational Firms Benefit from Competitive Tax Advantages in the EU? – Evidence from Capital Market Reactions to EU State Aid Investigations

Asa Hansson Lund University, Sweden

Do multinationals pay less in taxes than domestic firms? Evidence from the Swedish manufacturing sector

Caroline Schimanski

UNU-WIDER, Finland; Hanken School of Economics; University of California Berkeley

Do Multinational Companies Shift Profits out of Developing Countries? New Evidence

(注) 下線は当日の報告者を示している。 〔出所〕 国際財政学会資料より作成

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三、個別研究報告の紹介

  ここでは、 Corporate tax rate cuts and credits というタイトルのセッションで行われた法人税率 と法人税収の関係について分析した実証研究につ いて紹介する ⅳ 。この研究はミュンヘン大学 ( Lud -wig Maximilian University of Munich )の Clem -ens Fuest 氏 、 Felix Sebastian Hugger 氏 、 Su -sanne Simone Wildgruber 氏による共同研究で、 報 告 の タ イ ト ル は、 The International Develop -ment of Corporate Tax Rates and Revenues Re -visited である。 ⑴   概要と意義   ここ一〇年ほど、多くの国々で法人税率の引き 下げが行われているが、法人税収は減少すること ションや資産に対する課税に関するセッションの 個別研究報告を聞いた。次の三節では筆者が聞い た個別研究報告の中から、法人税率と法人税収の 関 係 に つ い て 分 析 し た 実 証 研 究 に つ い て 紹 介 す る。 ⑶   ソーシャル ・ プログラム ( So cia l P rog ra m )   年次大会の中心はもちろんプレナリーや個別研 究 報 告 で あ る が、 大 会 期 間 中 は 様 々 な ソ ー シ ャ ル・プログラムが用意されており、参加者が親交 を深める貴重な機会となっている。一八日の夜に は ウ ェ ル カ ム・ レ セ プ シ ョ ン、 二 〇 日 の 夜 に は ディナーが開催された。また、一九日の夕方から はエクスカーションになっており、参加者はスカ イツリーや浅草寺周辺の散策を楽しんだ。

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なく安定的に推移している。そうしたことから、 法人税率と法人税収の関係に関する分析が盛んに 行われるようになった。研究の中心的課題は、縦 軸に法人税収、横軸に法人税率をとった場合に逆 U字型の関係が見られるかどうかというものであ る。つまり、法人税率を上昇させると法人税収が 増加するが、ある一定の税率を超えると逆に法人 税収が減少するという関係があるかどうかを検証 することである。しかし、これまでの研究では定 まった結論は得られていない。この研究はタイト ル に revisit と あ る よ う に、 既 に 取 り 組 ま れ て い るこの課題に改めてチャレンジしようとするもの である。この研究の特徴としてまず挙げられるの は、分析対象国が多く、分析対象期間も長いこと である。分析は多岐にわたっているが、分析対象 国は最大で一九〇か国、分析対象になっている期 間は一九六五年から二〇一七年までの五三年であ る。 そ の 他 に、 ミ ク ロ デ ー タ( 個 別 企 業 の デ ー タ)を用いた分析も行っていることも特徴だとい えるだろう。   主 な 分 析 の 結 果 は 以 下 の 四 点 で あ る。 一 点 目 は、長期的な観点からは、法人税率と法人税収に 逆U字型の関係が見られるということである。二 点目は、法人税収の多い国はGDPに対する天然 資源からの収益の比や一人当たりGDPが大きい ことである。三点目は、ミクロデータを用いた分 析によると企業の利益と法人税収には正の相関が 見られることである。四点目は、この研究の中で 定義された実効税率を比較すると、産業によって 差異があること、また企業規模によっても差異が 見られることである。   トランプ大統領は八月三〇日の演説でアメリカ の法人税の税率を理想的には一五%に引き下げた い(現行の基本税率は三五%)と主張した。代替

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財源の確保の観点から一五%への引き下げは現実 的ではないかもしれないが、アメリカでは税率引 き下げについての議論が活発化している。また、 『 日 本 経 済 新 聞 』 二 〇 一 七 年 九 月 三 日、 日 曜 版 一 面「税収   世界で奪い合い」では、過去一〇年で グローバル企業の税負担率(連結決算の税引き前 利益に対する会計上の税金の比率)が大きく低下 していることなどが紹介されている。このように 法人税の重要性が高まっている中で、法人税率と 法人税収の関係を分析しようとするこの学術研究 は大変意義のあるものと言えるだろう。   また、 筆者はACE( Allow ance for C or pora te E qu ity ) と 呼 ば れ る 税 制 に つ い て 研 究 を し て い る。ACEは法人税の課税ベースから負債利子だ け で な く、 株 式 の 機 会 費 用 も 控 除 す る 制 度 で あ り、従来の課税ベースを縮小させる税制である。 一度ACEを導入したが廃止してしまった国がい くつかあるが、廃止の一因として課税ベースの縮 小による税収不足が挙げられることがある。よっ て個人的にも法人税率と法人税収の関係を分析す るこの研究は大変興味深かった。 ⑵   データ   分析には法人税率、法人税収、課税ベース、実 効税率に関連するデータが必要である。データの 出典と概要は以下のとおりである。 ①法人税率   まず法人税率に関連するデータであるが、ここ では、各国の法人所得に対する法定税率が採用さ れている。これは中央政府と地方政府を合わせた もので、複数の税率が設定されている場合は最も 高いものを採用している。主なデータの出典はK PMGの Corporate Tax Surveys 、およびEYの

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Annual Worldwide Corporate Tax Guides で あ る。ここでは一九九三年から二〇一七年のデータ を集めている。サンプルの数は年によって異なる が、最も多いのは二〇一七年の一九〇か国で、二 〇〇四年から二〇一七年にかけては最も少ない年 でも一五四か国である。また、総サンプルは二八 八〇である。この研究では World Bank の基準に 従って各国を、 High-income countries (以下、H I C )、 Upper-middle-income countries ( 以 下、 U M I C )、 Lower-middle-income countries と Low-income countries を 合 わ せ た グ ル ー プ( 以 下、LMIC&LIC)の三つに分類している。 全体として法人税率は低下傾向にある。例えばH ICについて見てみると、一九九三年の平均は三 七・ 五 % で あ る の に 対 し て 二 〇 一 〇 年 は 二 二・ 八%となっている。 ②法人税収   次に法人税収に関連するデータであるが、この 研究ではマクロとミクロの二つのデータが用いら れている。マクロのデータは各国のGDPに対す る法人税収の比である。データの具体的な出典は I M F の World Revenue Longitudinal Dataset ( WoRLD )、 International Centre for Tax and Development ( ICTD ) の Government Revenue Dataset ( GRD )、 O E C D の Revenue Statistics である。これらのデータベースを組み合わせて一 九六五年から二〇一五年までのデータを集めてい る。このうち、一九九〇年から二〇一三年のHI CとUMICについて見てみると、二〇〇六年あ たりに一時的な上昇が見られるものの、三%ぐら いで安定的に推移している。一方、ミクロのデー タは、ヨーロッパの各企業の付加価値に対する法 人 税 負 担 の 比 で あ る。 デ ー タ は ビ ュ ー ロ・ ヴ ァ

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ン・ ダ イ ク 社 の Amadeus と い う デ ー タ ベ ー ス を 用いて算出されている。期間は二〇〇一年から二 〇一〇年である。税負担が正である企業について は、 二 〇 〇 一 年 か ら 二 〇 一 〇 年 ま で の 平 均 は 約 六%である。 ③課税ベース   課税ベースに関連するデータもマクロとミクロ の二つのデータが算出されている。どちらも付加 価 値 に 対 す る E B I T( Earnings Before Inter -est and Taxes ) の 比 で あ る。 マ ク ロ の 方 は O E CDの National Accounts on financial and non-fi -nancial corporations から、ミクロの方は Amade -us に あ る ヨ ー ロ ッ パ の 各 企 業 の デ ー タ か ら 算 出 されている。二〇〇一年から二〇一〇年のデータ を見ると、両者とも似た動きをしている。具体的 には二〇〇一年から二〇〇七年まで上昇傾向、二 〇〇七年から二〇〇九年は低下傾向、その後すぐ に 上 昇 傾 向 と い う 動 き で あ る。 さ ら に、 E Y の Annual Worldwide Corporate Tax Guides を 基 に 算 出 し た depreciation allowances の N P V な ども分析に用いられている。 ④実効税率   こ こ で の 実 効 税 率( Effective CIT rates ) と は、 E B I T に 対 す る 法 人 税 負 担 の 比 で ⅴ 、 Ama -deus に あ る ヨ ー ロ ッ パ の 一 六 か 国 の デ ー タ か ら 算 出 さ れ て い る。 二 〇 〇 一 年 か ら 二 〇 一 〇 年 の データについて法定税率の平均と比較すると、全 ての年において実効税率の方が低くなっている。 ただし、その差は近年縮小している。二〇〇一年 の 実 効 税 率 が 二 一・ 九 %、 法 定 税 率 の 平 均 は 三 三・〇%でその差は一一%ポイント以上であった の に 対 し て、 二 〇 一 〇 年 の 実 効 税 率 は 一 九・

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三 %、 法 定 税 率 の 平 均 は 二 五・ 九 % で そ の 差 は 六・六%ポイントである。また、産業別に見てみ ると、実効税率が最も高いのが鉱業、最も低いの が不動産であった。さらに企業の規模別に見てみ る と、 大 規 模、 中 規 模、 小 規 模 共 に 減 少 傾 向 に あった。二〇〇一年から二〇一〇年のすべての年 において、実効税率が最も低かったのは大規模の 企業である。なお、ここでの小規模とは従業員数 が一〇~四九名、中規模とは五〇~二四九名、大 規模とは二五〇名以上の企業である。従業員数が 一〇名未満の企業は分析対象から外している。 ⑶   実証分析   分析については、具体的にはマクロデータを使 用した回帰分析、ミクロデータを使用した回帰分 析、 Synthetic control group approach に よ る 分 析が行われている。   マクロデータを用いた回帰分析では、GDPに 対する法人税収の比を被説明変数、法人税率とそ れを二乗したものを説明変数として分析を行って いる。分析対象期間は一九九三年から二〇一三年 である。すべてのサンプルを対象に分析を行った 場合、HICを対象に分析を行った場合、LMI C&LICを対象に分析を行った場合、これら三 つの場合については法人税率はプラスで有意、法 人 税 率 を 二 乗 し た も の は マ イ ナ ス で 有 意 で あ っ た。これは、法人税収と法人税率に逆U字型の関 係があることを示している。分析によって得られ た係数から法人税収を最大化する税率を計算する と、全てのサンプルの場合は三四・八%、HIC の場合は三三・七%、LMIC&LICの場合は 二三・六%であった。また説明変数を増やして分 析を行った結果、ここでも法人税率はプラスで有 意、法人税率を二乗したものはマイナスで有意で

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あった。さらに石油などの資源からのレント(正 確にはGDPに対するレントの比)や一人当たり GDPの対数値などがプラスで有意という結果で あ っ た。 一 方、 depreciation allowances の N P V は統計的に有意ではなかった。   ミクロデータを用いた回帰分析では、付加価値 に 対 す る 法 人 税 負 担 の 比 を 被 説 明 変 数 と し て い る。主な結果は、ここでも法人税率はプラスで有 意、法人税率を二乗したものはマイナスで有意で あった。また付加価値に対するEBITの比がプ ラスで有意であり、企業の利益が法人税収に影響 を与えていることが示唆された。   Synthetic control group approach で は、 税 制 改革が行われた国で仮に改革が行われなかった場 合の時系列データを推定して、そこから改革の効 果を予測することができる。この研究では、ベル ギ ー が 二 〇 〇 三 年 に 行 っ た 四 〇・ 一 七 % か ら 三 三・九九%への法人税率の引き下げとポルトガル が二〇〇四年に行った三三・〇%から二七・五% への法人税率の引き下げを取り上げている。そし て両改革共に短期的には法人税収を低下させる効 果があったことを明らかにしている。

四、第七四回年次大会について

  次回の第七四回年次大会は、二〇一八年八月二 一日から二三日にかけてフィンランドのタンペレ で 開 催 さ れ る。 会 場 は タ ン ペ レ 大 学( University of Tampere ) で あ る。 テ ー マ は The Impact of Public Policies on Labor Markets and Income Distribution で あ る が、 詳 細 に つ い て は ま だ 明 ら かにされていない。ただ、わが国では「働き方改 革」が進められていることもあり、公共政策が労 働市場や所得分配に与える影響について関心が高

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まっているので、わが国にとって時宜にかなった テーマといえるだろう。また、国際財政学会では 財政学・公共経済学に関する非常に幅広い分野に ついて個別研究報告が行われているので、資本市 場に関わりのある個別研究報告も少なくない。次 回も資本市場に関連する分野についての最新の研 究成果が報告されるものと思われる。 (注) ⅰ   http://www.iipf.net/index.htm ⅱ   http://www.iipf2017.jp/ ⅲ   https://www.conftool.pro/iipf2017/sessions.php ⅳ   当日の報告だけでなく、 報告論文にも基づいて紹介する。 ⅴ   報 告 論 文 の 本 文 と 付 録 で 実 効 税 率 の 定 義 が 若 干 異 な る よ うに思われる。ここでは特に本文中の図表6を参考にした。 (やまだ   ただお・当研究所主任研究員)

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