第
4
章 逆行列4.1
逆行列と行列式逆行列の定義
Iをn次単位行列とする.n次正方行列Aに対して,
AX=I, YA=I (4.1)
を満たすn次正方行列行列X,Yが存在するとき,行列Aは可逆もしくは正則であるという.(4.1) より,
X=IX= (YA)X=Y(AX) =YI=Y
となるので,XとYは等しい行列である.(4.1)を満たすX,Y をAの逆行列といい,A−1と表す.
A,Bが可逆なら,その積ABとBAも可逆である.なぜなら,
(AB)(B−1A−1) =A(BB−1)A−1=AA−1=I (BA)(A−1B−1) =B(AA−1)B−1=BB−1=I だからである.すなわち,(AB)−1=B−1A−1,(BA)−1=A−1B−1である.
練習問題4.1
次のように行列AとBをおく.
A=
1 2 0 0 1 0 1 0 2
B=
1 −2 0
0 1 0
−0.5 1 0.5
AとBが互いに逆行列の関係にあることを,実際にABとBAを計算して確かめよ.
練習問題4.2
Aをn次正方行列とし,次のように行列Bを定義する(右辺は収束すると仮定).
B=I+A+A2+A3+· · · BがI−Aの逆行列であることを確認せよ.
行列式の性質
2次正方行列Aを
A= (a b
c d )
と定義する.
ad−bc6=0のとき,Aの逆行列A−1を A−1= 1
ad−bc
(d −b
−c a )
と表すことができる.一般の次元の行列では,このような簡便に逆行列を求めることはできない.
n次正方行列Aは,必ず行列式と呼ばれる値を持つ.行列式は,行列の性質に深く関わっている.
n次正方行列Aは,必ず行列式と呼ばれる値を持つ.行列式について,特に次の定理が重要である.
¶ ³
定理4.1
n次正方行列Aが可逆であることの必要十分条件は,その行列式が零でないことである.¥
µ ´
Aの行列式を,
detA, |A| 等と表す.
2次正方行列の場合,
A= (a b
c d )
とすると,detA=ad−bcである.
【参考】 参考として,一般の行列の行列式を示しておく.
まず,置換σを定義する.{1, 2, 3, . . . , n}が与えられたとき,それを並べ替えた 数字の列をつくることができる.例えば,{1, 2, 3, 4}を並べ替えて{2, 3, 4, 1}とした り,あるいは{3, 1, 2, 4}などとすることができる.このような並べ替えを置換とい い,後者の例であれば,
σ=
(1 2 3 4 3 1 2 4 )
とかく.上の行がもとの数字の並び,下の行が並べ替えた後の数字の並びを表し,
その対応関係をσ(2) =1,σ(3) =2と書く.一般のn文字の場合も同様である.
次に,signという関数を定義する.σを置換としたときに,
sign(σ) =Y
i6=j
σ(i) −σ(j) i−j
とおく.任意の置換σに対して,sign(σ)は1または−1をとる.実際,上の例で計 算すると,
sign(σ) = σ(1) −σ(2)
1−2 ·σ(1) −σ(3)
1−3 ·σ(1) −σ(4)
1−4 ·σ(2) −σ(3)
2−3 ·σ(2) −σ(4)
2−4 · σ(3) −σ(4) 3−4
= 3−1 1−2 ·3−2
1−3 ·3−4 1−4·1−2
2−3· 1−4 2−4 ·2−4
3−4·=1
である.二つの置換σ,τを合成した(まずσで置換し,それをさらにτで置換し た)置換をστと表すと,sign(στ) =sign(σ)sign(τ)が成り立つ.
行列A= (aij)が与えられたときに,その行列式は,
detA= X
σ∈Sn
sign(σ)aσ(1),1· · ·aσ(n),1
と定義される.ここで,Snは,n文字のすべて置換の集合である.
以下の性質は,行列式の定義から導くことができる.
性質1) 対角行列の行列式は,対角要素の積である.
Aを以下のようにおく.
A=
λ1 0 0 · · · 0
0 λ2 0 0
0 0 λ3 ...
... ... 0
0 0 · · · 0 λn
detA=λ1λ2· · ·λnである.
このことから,単位行列Iの行列式が1であることもわかる.
性質2) A, Bをn次正方行列とすると,その積C=ABもn次正方行列である.このとき,detC= detAdetBである.
このことと,detI=1であることから,Aが可逆の場合,det(A−1) = det1Aである.
練習問題4.3
2次正方行列において上記の性質が成り立つことを示せ.
性質3) n次正方行列Aのある行の要素がすべて0であるとき,detA=0である.Aのある列の 要素がすべて0であるとき,detA=0である.
練習問題4.4
次の行列が可逆かどうか調べ,可逆であれば逆行列を求めよ.
1 0 0 0 1 0 0 0 1
2 0 0 0 3 0 0 0 0
4.2
行列の基本変形行列Aが与えられたとき,Aのある行(列)を別の行(列)と入れ替える,Aのある行(列)を 定数倍する,Aのある行(列)を定数倍して他の行(列)に加える,などの操作を行列の基本変形 という.行への操作は左から,列への操作は右から特殊な行列をかけることで実現される.
以下では,Aとして,
A=
(1 2 3 4 5 6 )
という(2, 3)-型行列を用いて基本変形について例示する.
例 4.1 行の入れ替え:
Aの1行目と2行目をいれかえるには,以下のようにする.
(0 1 1 0
) (1 2 3 4 5 6 )
=
(4 5 6 1 2 3 )
列の入れ替え:
Aの2列目と3列目をいれかえるには,以下のようにする.
(1 2 3 4 5 6
) 1 0 0 0 0 1 0 1 0
=
(1 3 2 4 6 5 )
例 4.2 行の定数倍:
Aの2行目をt倍するには,以下のようにする.
(1 0 0 t
) (1 2 3 4 5 6 )
=
(1 2 3 4t 5t 6t
)
列の定数倍:
Aの2列目をt倍するには,以下のようにする.
(1 2 3 4 5 6
) 1 0 0 0 t 0 0 0 1
=
(1 2t 3 4 5t 6 )
例 4.3
行の定数倍を別の行に加える:
Aの2行目をt倍して1行目に加えるには,以下のようにする.
(1 t 0 1
) (1 2 3 4 5 6 )
=
(1+4t 2+5t 3+6t
4 5 6
)
列の定数倍を別の列に加える:
Aの3列目をt倍して1列目に加えるには,以下のようにする.
(1 2 3 4 5 6
) 1 0 0 0 1 0 t 0 1
=
(1+3t 2 3 4+6t 5 6 )
これらの基本変形を行う行列の行列式は,以下の値を持つ.
行(列)の入れ替えをする行列をE1とするとdetE1= −1 行(列)をt倍する行列をE2とするとdetE2=t
行(列)をt倍して別の行(列)に加える行列をE3とするとdetE3=1
練習問題4.5
行の入れ換えをする行列E1,行をt倍する行列E2,行をt倍して別の行に加える行列 E3が2次正方行列だった場合,
detE1= −1 detE2=t detE3=1 となることを示せ.
練習問題4.6
Aを4次正方行列とする.Aの2行目を3倍して4行目に加える行列E1を求めよ.ま た,Aの1列目と4列目を入れ替える行列E2を求めよ.
練習問題4.7
練習問題4.6で求めたE1とE2の逆行列を求めよ.
行列の基本変形に関する性質から,行列式について次の性質を導くことができる.
性質4) 行列Aのある行だけをα倍した行列をBとしたとき,detB=αdetAである.
行列Aのある列だけをα倍した行列をCとしたとき,detC=αdetAである.
例 4.4
2次正方行列Aを以下のようにおく.
A=
( 2 1
−1 4 )
Aの1行目を3倍した行列をBとすると,
B=
( 6 3
−1 4 )
となる.detA = 2∗4−1∗(−1) = 9であり,detB = 6∗4−3∗(−1) = 27なので,
detB=3detAを満たしている. ¥ 性質5) 行列Aのある行の定数倍を,別の行に加えた行列をBとする.detB=detAである.
例 4.5
例4.4の行列Aを用いる.Aの2行目をt倍して,1 行目に足すと,
B=
(2−t 1+4t
−1 4 )
となる.detB= (2−t)∗4− (1+4t)∗(−1) =9となり,detAと等しい.
性質6) 性質3,5から,次のことが言える.
行列Aを構成する行ベクトルが線形従属なら,detA=0である.行列Aを構成する列 ベクトルが線形従属なら,detA=0である.
これは,次のように示すことができる.行列Aがn個の列ベクトルa1, . . . , anで構成さ れているとする.このとき,Aは
A=(
a1 a2 · · · an
)
と書ける.a1, . . . , anが線形従属であるならば,
c1a1+· · ·+cn−1an−1+cnan =0
を満たすc1, c2, . . . , cn−1が存在する.cn 6=0の場合,λi=ci/cn (i=1, . . . , n−1)と おく.第n列に第i列をλi倍して加える行列をEiとおき,E1, E2, . . . , En−1を左からA にかけると,
AE1E2· · ·En−1= (
a1 a2 · · · an+Pn−1 i=1 λnai
)
=(
a1 a2 · · · 0)
≡B
となる.性質3よりdetB=0であり,性質5よりdetA=detBとなる.
行が線形独立の場合も同様にして示せる.
例 4.6 Aが
A=
(2 −6 1 −3 )
である場合,Aを構成する列ベクトルが線形従属である(行ベクトルも線形従属である).
detA=2∗(−3) − (−6)∗1=0である.Aの1列目を−3倍して2列目に足すと,
B=
(2 −6+ (−3)∗2 1 −3+ (−3)∗1 )
= (2 0
1 0 )
となる.detB=2∗0−0∗1=0である.
次の性質は,実際に行列式を求める際に重要である.
性質7) Aをn次正方行列とする.以下のようにAに行と列を足して,n+1次正方行列Bをつ くる.
A=
a11 a12 · · · a1n
a21 a22 a2n
... ... ...
an1 an2 · · · ann
B=
1 0 0 · · · 0
0 a11 a12 · · · a1n
0 a21 a22 a2n
... ... ...
0 an1 an2 · · · ann
このとき,detB=detAである.
例 4.7
2次正方行列の行列式はすでに与えてあるが,3次正方行列の行列式を求めてみよう.
以下のようにAをおく.
A=
2 4 8 0 3 −1 4 0 −2
Aの1行目を1/2倍する.
1/2 0 0 0 1 0 0 0 1
2 4 8 0 3 −1 4 0 −2
=
1 2 4 0 3 −1 4 0 −2
≡B
次に,Bの1行目を−4倍して3行目に加える.
1 0 0 0 1 0
−4 0 1
1 2 4 0 3 −1 4 0 −2
=
1 2 4
0 3 −1
0 −8 −18
≡C
Cの1列目を−2倍して2列目に加える.
1 2 4
0 3 −1
0 −8 −18
1 −2 0
0 1 0
0 0 1
=
1 0 4
0 3 −1
0 −8 −18
≡D
Dの1列目を−4倍して3列目に加える.
1 0 4
0 3 −1
0 −8 −18
1 0 −4 0 1 0 0 0 1
=
1 0 0
0 3 −1
0 −8 −18
≡E
性質7より,
detE=¯¯
¯¯ 3 −1
−8 −18
¯¯¯¯=3∗(−18) − (−1)∗(−8) = −62
である.一方,
E=
1 0 0 0 1 0
−4 0 1
1/2 0 0 0 1 0 0 0 1
A
1 −2 0
0 1 0
0 0 1
1 0 −4 0 1 0 0 0 1
なので,detE=1∗ 12∗detA∗1∗1となる.detA= −124である. ¥ 例 4.8
行列式を求めるのに,例4.7では基本変形を行う行列を明示的に用いた.基本変形を行 う行列の行列式はすぐにわかるので,以下のようにして求めてもよい.
detA=
¯¯¯¯
¯¯
2 4 8 0 3 −1 4 0 −2
¯¯¯¯
¯¯=2
¯¯¯¯
¯¯
1 2 4 0 3 −1 4 0 −2
¯¯¯¯
¯¯ ←1行目を1/2倍した
=2
¯¯¯¯
¯¯
1 2 4
0 3 −1
0 −8 −18
¯¯¯¯
¯¯ ←1行目を−4倍して3行目に足した
=2
¯¯¯¯
¯¯
1 0 4
0 3 −1
0 −8 −18
¯¯¯¯
¯¯ ←1列目を−2倍して2列目に足した
=2
¯¯¯¯
¯¯
1 0 0
0 3 −1
0 −8 −18
¯¯¯¯
¯¯ ←1列目を−4倍して3列目に足した
=2¯¯
¯¯ 3 −1
−8 −18
¯¯¯¯=2∗(−62) = −124
なお,上の例において,3行目と4行目の操作は最後の行列の形を変えていないので 不要である.
例4.8でおこなったように,i行j列の要素aijを軸に,aij以外のi 行の要素とj列の要素をすべ て0にするような変形を,aijを軸とする掃き出しという.
練習問題4.8
次の行列の行列式を求めよ.
2 1 3
−2 1 −1
3 0 3
−1 3 2 2 −4 −1
0 2 5
1 0 1 1
1 −1 0 1 0 0 1 −1 1 1 0 −1
練習問題4.9
対角要素の左下にある要素がすべて0である行列を上三角行列という(対角要素より 右上の要素は何でもよい).上三角行列の行列式は,対角行列の場合と同じく対角要素 の積となる.3次の上三角行列を自分でつくり,この事実を確認せよ.
4.3
逆行列の計算基本変形による方法
逆行列を計算する方法はいくつも存在する.ここでは,行列の基本変形を用いる方法を説明する.
3次正方行列Aを次のようにおく.
A=
2 2 −4
3 1 −2
−1 −1 0
以下では,Aに対して行方向の基本変形のみをほどこして,単位行列Iにすることを目指す.
Aの1行目を12倍して,A2を得る.
E1=
1 2 0 0 0 1 0 0 0 1
として,E1A=
1 1 −2
3 1 −2
−1 −1 0
=A2
A2の1行目を−3倍して2行目に加え,1倍して3行目に加えたものをA3とする.
E2=
1 0 0
−3 1 0 0 0 1
, E3=
1 0 0 0 1 0 1 0 1
としてE3E2A2=
1 1 −2 0 −2 4 0 0 −2
=A3
A3の2行目を−12倍する.さらにその行列の2行目を−1倍して1行目に加えたものをA4とする.
E4=
1 0 0 0 −12 0
0 0 1
, E5=
1 −1 0
0 1 0
0 0 1
としてE5E4A3=
1 0 0 0 1 −2 0 0 −2
=A4
A4の3行目を−12倍する.さらにその行列の3行目を2倍して2行目に加える.
E6=
1 0 0 0 1 0 0 0 −12
, E7=
1 0 0 0 1 2 0 0 1
としてE7E6A4=
1 0 0 0 1 0 0 0 1
以上の操作をまとめると,
E7E6E5E4E3E2E1A=I である.AA−1=Iの両辺にE7E6E5E4E3E2E1をかけると,
左辺=E7E6E5E4E3E2E1AA−1=A−1
右辺=E7E6E5E4E3E2E1I=E7E6E5E4E3E2E1 となり,逆行列A−1は
A−1=E7E6E5E4E3E2E1=
−14 12 0
1
4 −12 −1
−14 0 −12
となる.
上記の方法では,基本変形を行う行列E1, E2, . . . , E7を明示的に用いた.以下のように,これらの 行列を省略して計算することもできる.まず,次のような表を書く.左半分には逆行列を求めたい 行列,右半分には単位行列を記入する.
2 2 −4 1 0 0
3 1 −2 0 1 0
−1 −1 0 0 0 1
以下,左半分を単位行列にすることを目標に基本変形を行う.
2 2 −4 1 0 0
3 1 −2 0 1 0
−1 −1 0 0 0 1
(ア)−−→
1 1 −2 12 0 0
3 1 −2 0 1 0
−1 −1 0 0 0 1
(イ)−−→
1 1 −2 12 0 0 0 −2 4 −32 1 0 0 0 −2 12 0 1
(ウ)−−→
1 1 −2 12 0 0 0 1 −2 34 −12 0 0 0 −2 12 0 1
(エ)−−→
1 0 0 −14 12 0 0 1 −2 34 −12 0 0 0 −2 12 0 1
(オ)−−→
1 0 0 −14 12 0 0 1 −2 34 −12 0 0 0 1 −14 0 −12
(カ)−−→
1 0 0 −14 12 0 0 1 0 14 −12 −1 0 0 1 −14 0 −12
(ア)1行目を1
2 倍する,
(イ)1行目を−3倍,1倍して,それぞれ2行目3行目に加える,
(ウ)2行目を−1
2 倍する,
(エ)2行目を−1倍して1行目に加える,
(オ)3行目を−1
2 倍する,
(カ)3行目を2倍して,2行目に加える こうしてえられた表の右半分が,求める逆行列である.
正方行列の階数
可逆な行列は基本変形を行うことで,必ず単位行列に変形することができる.では,可逆でない行 列の場合に同じような操作を行ったとき,どのような行列に帰着するだろうか?
以下の行列Bにたいして,単位行列を目標に基本変形を施していく.
B=
2 2 −4 3 1 −2
−1 0 0
上の操作で用いた行列E1, E2, E3, E4, E5によって,Bは次のように変形される.
E5E4E3E2E1B=
1 0 0 0 1 −2 0 1 −2
=B2
B2の2行目を−1倍して3行目に加えると,
1 0 0 0 1 −2 0 0 0
=B3
を得る.これ以上B3に基本変形を施しても単位行列にすることはできない.すなわち,Bは可逆 ではない.このことは,detB3=0であることからも確認できる.
一般的に,n次正方行列Aは,行方向のみの基本変形を施すことによって以下の形の行列に帰着 させることができる.
A~ =
1 0 · · · 0 ∗ · · · ∗
0 1 ... ∗ · · · ∗
... ... 0 ... ...
0 · · · 0 1 ∗ · · · ∗
0 0 · · · 0 0 · · · 0
... ... ... ... ... ...
0 0 · · · 0 0 · · · 0
r行
n−r行
(4.2)
行列中の∗の部分は適当な数値である.(4.2)にたいして,列方向の基本変形を行うことで(4.3)に 変形することができる.
A~~ =
1 0 · · · 0 0 · · · 0
0 1 ... 0 · · · 0
... ... 0 ... ...
0 · · · 0 1 0 · · · 0
0 0 · · · 0 0 · · · 0
... ... ... ... ... ...
0 0 · · · 0 0 · · · 0
r行
n−r行
= (Ir 0
0 0 )
(4.3)
上記のB3は(4.2)の形式になっており,列に関する基本変形を一度だけ行えば,(4.3)の形式に変
形することができる.
B3
1 0 0 0 1 2 0 0 1
=
1 0 0 0 1 0 0 0 0
行列Aを(4.3)の形式に変形したとき,そこにあらわれる対角成分の1の個数rを行列Aの階数
といい,rankAとあらわす.行列Aが可逆であれば,rankA=nである.
例 4.9
63ページの行列Aと64ページの行列Bの階数は,それぞれ,
rankA=3 rankB=2
である. ¥
行列Aの階数と,行列Aの行ベクトル,および列ベクトルの間には次の関係が成り立つ.
rankA=行列Aの行ベクトルの中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数
=行列Aの列ベクトルの中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数 例 4.10
行列Bで確認しよう.
B=
2 2 −4 3 1 −2
−1 0 0
すでに見たとおり,rankB=2である.
列ベクトルでみると,
0
2 3
−1
+2
2 1 0
−
−4
−2 0
=0
が成り立っており,行ベクトルでみると,
(2 2 −4)
−2(
3 1 −2) +4(
−1 0 0)
=0
が成り立っていることから,3つの列ベクトルおよび3つの行ベクトルが線形従属と なっていることがわかる. 行ベクトルであれ,列ベクトルであれ,二つの組では線形 独立となっており,これはBの階数に等しい. ¥ 練習問題4.10
練習問題4.8の3つの行列の階数を調べ,可逆かどうか判定せよ.もし可逆な行列があ れば,その逆行列を求めよ.
可逆であるための条件
n次正方行列Aが可逆であるための条件を定理としてまとめておく.
¶ ³
定理4.2
以下のi)〜iv)はすべて同値である.
i) Aが可逆 ii) detA6=0
iii) 行列Aの行(列)ベクトルが線形独立 iv) rankA=n
µ ´
一般の行列の階数
一般の(m, n)型行列Aに対しても,行方向の基本変形を施すことによって,
A~ =
1 0 · · · 0 ∗ · · · ∗
0 1 ... ∗ · · · ∗
... ... 0 ... ...
0 · · · 0 1 ∗ · · · ∗
0 0 · · · 0 0 · · · 0
... ... ... ... ... ...
0 0 · · · 0 0 · · · 0
r行
m−r行
(4.4)
| {z } | {z }
r列 n−r列
と変形させることができる.行列中の∗の部分は適当な数値である.さらに列方向の基本変形を行 うことで
A~~ =
1 0 · · · 0 0 · · · 0
0 1 ... 0 · · · 0
... ... 0 ... ...
0 · · · 0 1 0 · · · 0
0 0 · · · 0 0 · · · 0
... ... ... ... ... ...
0 0 · · · 0 0 · · · 0
r行
m−r行
(4.5)
| {z } | {z }
r列 n−r列
とすることができる.一般の行列Aに対しても階数が定義され,正方行列の場合と同様に,
rankA=r とする.また,
rankA=行列Aの行ベクトルの中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数
=行列Aの列ベクトルの中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数 も同様である.
練習問題4.11
次の行列A,Bの階数を求めよ.
A=
5 4 3 2 1 0 4 3 2 1 0 0 3 2 1 0 0 0 0 0
B=
1 0 1 −1 −1
1 2 1 3 1
3 0 3 −3 −3
−2 1 −2 4 3
4.4
連立一次方程式成分の調整
¶ ³
例題4.1
ある製品の品質は,色,透明度,密度の3種類の指標で評価される.製品に3種類の添加物を 加えたり,減らしたりすることで品質を調整する.添加物1,2,3を1単位加えたときの指標 の変化量は以下の表で与えられる.負の数値は,添加物を加えることで指標の数値が減少す ることを示す.
添加物1 添加物2 添加物3
色 2 2 -4
透明度 3 1 -2
密度 -1 -1 0
指標値の増加・減少量は,添加物の量に比例するものとする.
製品の指標値を,色については+12単位,透明度については−4単位,密度については+8単 位,現状より変化させたい.3つの添加物をそれぞれいくら増減すればよいか.
µ ´
添加物1の増加量をx,添加物2をy,添加物3をzとする.負の場合は,減少量を表す.指標の 目標値を達成するには,以下の関係が成り立たなくてはいけない.
2x+2y−4z=12 3x+y−2z= −4
−x−y=8 これは,行列とベクトルを用いて
2 2 −4
3 1 −2
−1 −1 0
x y z
=
12
−4 8
と表現できる.係数からなる行列をAとおく.
A=
2 2 −4
3 1 −2
−1 −1 0
Aは係数行列と呼ばれる.Ax=bの両辺にA−1を左からかけると,x=A−1bとなる.前節(63 ページ)ですでに,A−1を求めているので,
x y z
=
−14 12 0
1
4 −12 −1
−14 0 −12
12
−4 8
=
−5
−3
−7
が解である.したがって,添加物1を5単位,添加物2を3単位,添加物3を7単位減らせばよい.
¥ n変数,n本の等式からなる連立方程式は,n次正方行列Aを用いて,
Ax=b
と書くことができる.Aが可逆であれば,どんなbに対しても x∗=A−1b
として,解x∗を表すことができる.また逆行列の一意性より,解が一意に定まることもわかる.
練習問題4.12
練習問題4.10の結果を利用して,次の連立方程式を解け.
x1+x3+x4=4 x1−x2+x4=4 x3−x4=4 x1+x2−x4=4
可逆な行列でない場合
係数行列Aが可逆な場合は,Ax=bを満たす解が一意に定まる.では,可逆ではない場合はどう だろうか.
例 4.11
例題4.1の連立方程式の係数行列を以下のように変えた.
2x+2y−4z=12 3x+y−2z= −4
−x=8 xを消去すると,
2y−4z=28 (4.6)
y−2z=20 (4.7)
となる.(4.7)を2倍すると2y−4z=40となるので,(4.6)(4.7)を同時に満たすx, y は存在しない.すなわち,連立方程式には解がない. ¥ 例 4.12
例4.11の右辺の係数を変えた,次の連立方程式はどうだろうか.
2x+2y−4z= −4 3x+y−2z=4
−x= −3
xを消去して,
2y−4z= −10 (4.8)
y−2z= −5 (4.9)
を得る.(4.9)の両辺を2倍すると(4.8)になるので,y−2z= −5を満たすy, zはす べて解となる.すなわち任意のtに対して,(x∗, y∗, z∗) = (3,−5+2t, t)が解になって
いる. ¥
以上の例から,係数行列が可逆でない場合,右辺の値によって解が存在しなかったり,無数に存在 したりすることがわかる.このことをいままで学んだ行列の知識を使って整理しておこう.
行列Bを
B=
2 2 −4 3 1 −2
−1 0 0
とおくと,以下のような基本変形によって,B~に変形できる.
1 0 0
0 1 0
0 −1 1
1 −1 0
0 1 0
0 0 1
1 0 0 0 1 0 1 0 1
1 0 0 0 −12 0
0 0 1
1 0 0
−3 1 0 0 0 1
1 2 0 0 0 1 0 0 0 1
B
=
1 0 0 0 1 −2 0 0 0
≡B~
基本変形を行う6つの行列をまとめてEとする.
E=
1 0 0
0 1 0
0 −1 1
1 −1 0
0 1 0
0 0 1
1 0 0 0 1 0 1 0 1
1 0 0 0 −12 0
0 0 1
1 0 0
−3 1 0 0 0 1
1 2 0 0 0 1 0 0 0 1
=
−14 12 0
3
4 −12 0
−14 12 1
v = (x, y, z)>とおき,Bv=bの両辺に左からEををかけることで,Bv~ =Ebと等価な連立方程 式に変形できる.右辺をb~とおいて,具体的に成分で表すと,
左辺:Bx~ =
1 0 0 0 1 −2 0 0 0
x y z
=
x y−2z
0
右辺:b~≡Eb=
−14 12 0
3
4 −12 0
−14 12 1
b1
b2 b3
=
−14b1+ 12b2 3
4b1−12b2
−14b1+ 12b2+b3
となる.可逆でない行列は基本変形によって,ある行をすべて0にすることができる.B~は3行目 がすべて0である.このことにより,左辺の第3成分が0となる.したがって,もしb~の第3成 分−14b1+12b2+b3が0でない場合,方程式は矛盾してしまう.このとき,連立方程式を満たす 解は存在しない.実際,例4.11では,b1=12,b2= −4,b3=8だったので,b~3=36=0となっ ている.
一方,第3成分が0である場合(例4.12),必要な方程式は2本だけである.
x=b~1
y−2z=b~2
ここで,b~iはb~の第i成分である.ベクトルを使って書き直すと,
x y z
=
~b1
~b2
0
+
0
−2 1
z
と書くことができる.この表現は次のことを意味する.連立方程式Bv=bの解は,(0,−2, 1)>で 張られる線形部分空間に属するベクトルに,(~b1,~b2, 0)>をくわえたベクトルとして表すことがで きる.
例 4.13
4変数,4つの等式からなる連立方程式Ax=bを考えよう.係数行列,変数,右辺は 次のとおりである.
A=
1 0 2 1
0 1 −1 1
−1 1 −3 0
3 1 5 4
, x=
x1
x2
x3
x4
, b=
2 3 1 9
基本変形を行うことで,この連立方程式は,
1 0 2 1
0 1 −1 1
0 0 0 0
0 0 0 0
x1 x2
x3 x4
=
2 3 0 0
と書き換えることができる.必要な部分だけを取り出すと,
(x1
x2
)
= (2
3 )
+
(−2 −1 1 −1
) (x3
x4
)
となる.したがって,この連立方程式の解は,s, tを任意の実数として,
x∗1 x∗2 x∗3 x∗4
=
2 3 0 0
+s
−2 1 1 0
+t
−1
−1 0 1
と表現することができる. ¥
可逆でない係数行列を持つ連立方程式が解を持つならば,その解は線形部分空間に属するベクトル に定数ベクトルを加えるという形で一般的に表現できる.同じ線形部分空間を異なるベクトルで張 ることができるので,解の表現も一意ではない.たとえば,例4.13の解を,
x∗1 x∗2 x∗3 x∗4
=
0 0
−13
8 3
+s
1 0
−13
−13
+t
0 1
1 3
−23
と表現することもできる.詳しくは,基底の変換という概念が必要になるので,ここでは表現が一 意ではないという事実のみを知っていればよい.
練習問題4.13
練習問題4.11で定義した行列Bによって,連立方程式を次のように定める.
B
x1
x2
x3
x4
x5
=
4 8 12
−6
この連立方程式を満たす解を全て求めよ.
係数行列が一般の行列の場合
連立方程式の係数行列がn次正方行列である場合をみてきた.最後に,連立方程式が,n変数,m 本の等式からなる場合について説明する.
まず,n > mの場合を考えよう.
例 4.14
例題4.1の連立方程式に変数を一つ加えて,以下のようにする.
2x1+2x2−4x3+x4=12 3x1+x2−2z3−3x4= −4
−x1−x2−2x4=8 係数行列,変数ベクトル,右辺ベクトルは
C=
2 2 −4 10
3 1 −2 3
−1 −1 0 −1
, x=
x1 x2
x3
x4
, b=
12
−4 8
となる.例題4.1の係数行列をAとおくと,
A=
2 2 −4
3 1 −2
−1 −1 0
であり,A−1が存在する.Cx=bの両辺に左からA−1をかけると,以下のようになる.
1 0 0 −1 0 1 0 2 0 0 1 −2
x1
x2 x3
x4
=
−5
−3
−7
可逆でない行列の例と同様に,この連立方程式の解は,任意の実数tを用いて,
x∗1 x∗2 x∗3 x∗4
=
−5
−3
−7 0
+t
1
−2 2 1
と表現することができる. ¥
n < mの場合は,以下の3つの可能性がある.
矛盾する等式が存在して,解が存在しない.
必要のない等式(他の等式から導かれる等式)が存在し,それを省くと係数行列がn次正方 行列になる.
必要のない等式が存在し,それを省くと等式の数が変数の数よりnよりすくなくなる.
練習問題4.14
例4.13の連立方程式から等式を1本取り除いた問題を考える.係数行列,変数,右辺を
D=
1 0 2 1 0 1 −1 1
−1 1 −3 0
, x=
x1
x2 x3
x4
, b=
2 3 1
とおいたとき,連立方程式Dx=bを解け.