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胎児心における心房間血流の研究 一

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日本小児循環器学会雑誌 10巻4号 516〜521頁(1994年)

胎児心における心房間血流の研究

一 パルスドプラー心エコー図およびカラードプラー 心エコー図法を用いて一

(平成6年2月16日受付)

(平成6年9月16日受理)

西 岡 松 岡

高松赤十字病院小児科

敦 子  岡 本

徳島大学医学部小児科

  優  黒 田 泰

key words:胎児心エコー,卵円孔開存,心房中隔欠損,心房間血流 喬 弘

      要  旨

 パルスドプラー心エコー図およびカラードプラー心エコー図を用いて,正常胎児31例,心房中隔欠損

症(ASD)胎児3例および左心低形成症候群(HLHS)胎児2例を対象に,心房間血流の血流パターン,

最大流速および持続時間について検討した.

 正常胎児の卵円孔(FO)血流は,2峰性の右 左短絡パターンを示し,最大流速および持続時間は,

それぞれ0.41±0.03m/secおよび一心周期の50±3%であった.一方, ASD胎児の3例およびHLHS 胎児の2例中1例では,心房間血流の持続時間が長かった(53〜83%).またHLHSの2例における心

房間血流パターンは,両方向性で不規則なパターンを示した.

 パルスドプラー心エコー図およびカラードプラー心エコー図を用いて心房間血流を検討することは,

卵円孔開存とASDの鑑別および胎児循環を知る上で有用と思われた.

      緒  言

 心エコー装置の発展により,胎児循環についての研 究が進められている1)〜3).なかでも胎児循環における 卵円孔血流(FO−flow)は,肺循環および体循環の両方 にとって重要である.また,FO−flowは,両心房間圧差 のみならず,静脈還流や心室コンプライアンスの影響 を受けている.Rudolph4)は,羊胎仔を用いて,下大静 脈からの血液の多くは卵円孔を通って体循環へ流れ,

その残りと上大静脈からの血液が,右室から肺動脈へ 流れると報告している.

 人の胎児における心房間血流にっいては,van Eyck ら5)が正常胎児における卵円孔血流の最大流速につい て報告をしているのみである.そこで,今回我々はパ

別刷請求先:(〒761)高松市寺井町1385−10      西岡医院小児科      西岡 敦子

ルスドプラー心エコー図およびカラードプラー心エ コー図を用いて,正常胎児における卵円孔血流の最大 流速,持続時間および血流パターンの検討を行い,さ らに,心房中隔欠損をもつ胎児の心房間血流(ASD−

flow)を検討したので報告する.

        対象および方法

 対象は,1989年6月から1991年5月までの2年間に 胎児心エコー検査を行った胎児36例である.その内訳 は,在胎週数が28週から39週までの正常胎児31例,単 独の心房中隔欠損症をもつ25週から38週までの胎児3 例および左心低形成症候群(HLHS)にASDを合併し た27週と32週の胎児2例である.

 卵円孔(FO)と診断したのは,一次中隔上縁のflap を認めた場合で,心房中隔が左房側に突出する所見の ある症例である.ASDと診断したのは,大きな心房中 隔の欠損を認め,心房中隔が左房側に突出する所見が

(2)

日小循誌 10(4),1994 517 (25)

ない症例であり,出生後および3カ月の超音波断層心 エコー図で,AsDを確認した. IILIISの2例のうち,

1例は在胎31週時,死産し,剖検で確定診断した.他 の1例は生後に超音波断層心エコー図および]Ill管造影 検査で確定診断し,1歳時,NorWoし)d手術を施行した が,手術時死亡した.

 装置は,東芝SSII−65AおよびSSH−6(IAを使用し,

プローべは3.75MIIzを用いた.胎児心エコー検査は,

妊婦を静かに臥床させ,胎児が胎動を休めている状態 で行った.まず胎児心の四腔断面像を描出し,ドプラー

ビームが心房中隔に垂直になるようにし,短絡血流に 対するドプラービーム入射角度を30度以内にした.サ ンプルボリュームは卵円孔ないし心房中隔欠損部位に 設定し,短絡血流パターンを記録した.FO−flowおよび ASD−nowの最大流速,持続時間は,血流波形の描出が 全周期で明瞭で安定した5心拍を記録紙上で計測し,

平均した.記録機器は,東芝ソノプリンターを用い,

紙送り速度は25mm/secとした.なおFO−flowおよび ASD−Howの持続時間は,心拍数の影響や心房中隔壁 に由来するドプラー信号の混入を除くために,最大流 速の1/2を越える流速の持続時間を心周期で補正し,

持続時間が心周期の何パーセントを占めるかで評価し た(図1).

一一1/2PV    PV

  図1 心房間1血流持続時間(%)の計測法 PV:最大流速(ln/sec), Xl, X,,:最大流速の1/2を 越える流速の持続時間(sec)

RR:RR時間(sec),持続時間(%):((X−X2)/RR)>10(}

 数値は,平均+標準偏差で表し,各群問の統計学的 検討は,WilcOxo11検定を用い,危険率5%以下を有意

とした.

      結  果

 1)正常胎児群では,パルスドプラー所見では,卵円 孔部に2峰性の幅広い右 左短絡血流波形を認めた

(図2).

 2)単独のASDにおける心房間短絡血流のパルス ドプラー所見では,1峰性の幅広いスペクトラムの右

 左短絡血流波形を認めた(図3).またHLHSに

ASDを合併した症例では,両方向性の不規則な幅広い スペクトラムの短絡血流波形を認めた(図4).

 3)パルスドプラー心エコー図で計測した正常胎児

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    図2 正常胎児における心房問血流:(在胎31週,四腔断面像)

LA;左房, RA;右房.図中の心電図はN体の心電図である.幅広いスペクトラムの 二峰性の右 左短絡血流波形を認める.

(3)

518  (26) 日本小児循環器学会雑誌 第川呑 g4号

0.75

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    図3 ASD胎児(こおける心房間[『[流: (在胎25握1,四腔断面像)

LA:左房, RA:右房、 LV;ノ|{巨, RV;右室.図中の心電図は1こ月本の心電図である.

1幅広いスヘクトラムの ・1峰性の右 ノ1:短絡血流波形を認める.

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 ASD−flow

(HLHS l 32w)

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     図4 11LIISにASI)を合併した胎児における心房間血流

ASD:心房中隔欠損, HI.HS:ノi・1心低形成症候群.図中の心電図は母体の心・亘図であ る.両方向性の不規則な幅広いスペクトラムの短絡jr]L流波形を認める.

におけるFO−f10Wの最大流速および持続時間は,それ ぞれ0.−1 1±0.013m/sec(範囲O.35〜0,45),およびRR 間隔の50・3%(範囲44〜57)であった.ASD−{lowに 関しては,ASI)単独の3例およびIILIIS 2例中1例 において持続時間がFO−flo 一よりイ1意に延長してい た(p<(1.01)(図5).

 4)ASD−nowとFO−1]c)wの最大流速および在胎週

数との関係を検討した.ASD−now, FO−flowの最大流 速は,在胎週数に関係なく〔}.5m/sec以内を示した(図

6).

 5)ASI)一日owとFO−fiowの持続時llVおよび在胎週 数との関係を検討した.正常胎児におけるFO−Howの 持続時間は,在胎週数と関係なく50%前後であった.

方,ASD一日owは, ASD単独の3例およびHLHS 2

(4)

平成6年12月1日 100

0

5

欲︶⊂O一PO﹂コ︵﹈

   (n=3)

▲HLHS(n=2)

OFO  (n=31)

  O       O.5       1.O         Peak velocity(m!sec)

図5 FO−flowおよびASD−flowの最大流速と持続時

 間.

 FO;卵円孔, ASD;心房中隔欠損, HLHS;左心低  形成症候群,トoヨ:平均値±標準偏差.ASD 3例お  よびHLHS 1例の持続時間が延長している.

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●ASD (n=3)

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 O      O   O    O

   25  27  29  31  33  35  37  39         Gestational age(weeks)

図6 FO・flowおよびASD・flowの最大流速と在胎週  数との関係

 FO;卵円孔, ASD;心房中隔欠損, HLHS;左心低  形成症候群.在胎週数にかかわらず最大流速がほぼ  一定である.

例中1例において持続時間が延長していた(図7).

      考  案

 胎児特有の血行動態の一つとしての卵円孔は,胎児 の体・肺循環にとって極めて重要である6).

 我々は,胎児心にカラードプラー法とパルスドプ ラー法を応用し,この卵円孔血流を検討した.卵円孔 における短絡血流の向きは右一左一方向性であった.

これは,Rudolphの羊胎仔を用いた実験で,左房圧よ り右房圧が高いという報告より説明される4).

519−(27)

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  25  27  29  31  33  35  37  39         Gestational age(weeks)

図7 FO−flowおよびASD flowの持続時間と在胎週  数との関係

 FO;卵円孔, ASD;心房中隔欠損, HLHS;左心低  形成症候群.在胎週数にかかわらず持続時間がほぼ  一定である.ASD 3例およびHLHS l例の持続時  間が延長している.

 卵円孔の血流波形については,ZhouやHiraishiが,

新生児について報告している7)8).Zhouによれば,動脈 管開存を伴う末熟児の卵円孔での血流波形は,心房収 縮期,心室収縮期および心室拡張期の3峰から成るが,

しばしば癒合し,1〜2峰性になると報告している.

我々胎児における研究では,正常胎児の多くが2峰性 の右一左短絡であった.心房間短絡血流の時相につい ては,胎児心電図の同時記録が困難であり,今後の開 発が待たれる.しかし,カラードプラー法による左室 および右室流入血流および僧帽弁,三尖弁の開閉運動 より推察すると,大きな心房間血流波形は心室収縮期 から拡張期にかけて右一左短絡していると思われる.

 卵円孔血流の最大流速にっいて,van Eyckは,

active sleepとquiet sleepで検討し,それぞれ0.43,

0.47m/secと報告している5).本論文では, sleepにつ いてactiveかquietか不明だが,ほぼ同様な0.41±

0.03m/secであった.

 次に,胎児のASDの診断は偽陽性,偽陰性の可能性 があり,慎重にしなければならない9ト12).胎児期に ASDを疑う診断基準として,大きな心房中隔欠損の存 在と一次中隔上縁のflapの欠如を認め,心房中隔が左 側に突出していない所見を有する場合とした.本研究

におけるASDは出生後ASDを断層心エコー図で確

認した例であり,3例の出生後に断層心エコー法で計 測した心房中隔欠損孔の径は,それぞれ6,7,8mm

であった.

 血行動態的に見ると,ASD−flowの持続時間がFO一

(5)

520−(28)

flowに比べ延長していたが,これには一次中隔上縁の flapの欠如が関係していると思われる.一次中隔上縁 のflapがなければ,両心房間の圧較差はより短時間に 解消されると予想されるが,持続時間は圧較差だけで は,説明できない.また体静脈還流の右房から左房へ

と流れやすい状況を作るものと推測される.

 心房中隔は,胎生第4〜5週に形成され,一次中隔 と二次中隔の間に卵円孔が斜めに開孔する.一方,

HLHSでは,この卵円孔の早期閉鎖により生じる群,

卵円孔群,ASD群の3群がある.また,血行動態的に はその病態から考えると,心房間血流は左一右短絡に なる.胎児心エコー検査でみた本症は,それぞれエコー 上欠損孔の径が7,10mmのASD群であり,心房間血 流は両方向性であった.

 FO−flowの最大流速および持続時間は,在胎週数が 変っても,ほぼ一定であった.Allanら13)は,心拍出量 に関して,妊娠経過に伴う変化を検討し,在胎週数が 増加すると心拍出量も増えると報告している.FO・

fiowの最大流速および持続時間に関しては,本症例が 25週以降であることを考慮にいれなければならない.

本研究結果は,右房・左房圧差や右室・左室のコンプ ライアンスの差が,妊娠経過を通じて大きな変化がな いことを示唆している.

      結  語

 心房間血流の最大流速,持続時間および血流パター ンを検討することは,胎児循環の把握に有用と思われ

る.

 本論文の要旨は,第27回日本小児循環器学会(1991年6 月,山形)で発表した.

      文  献

 1)Reed KL, Appleton CP, Anderson CF, Shenker    L,Sahn DJ: Doppler studies of vena cava    flows in human fetuses. Circulation 1990;81:

   498−505

 2)Sharland GK, Chita SK, Allan LD: The use of    colour Doppler in fetal echocardiography. Int J    Cardiol 1990;28:229−236

 3)DeVore GR, Horenstein J, Siassi B, Platt LD:

   Fetal echocardiography VII. Doppler color flow    mapping:Anew technique for the diagnosis of

日本小児循環器学会雑誌 第10巻 第4号

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4)Rudolph AM:The changes in the circulation  after birth. Their importance in congenital  heart disease. Circulation 1970;XLI:343−359 5)van Eyck J, Stewart PA, Wladimiroff JW:

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6)峯 真人,新津直樹二胎児・新生児の循環生理.周  産期医学 1983;13:25−29

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  Interatrial shurlt flow profiles ir〕newborn   infants:Acolour flow and pulsed Doppler  echocardiographic study. Br Heart J 1991;65:

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9)Hara K, Koyanagi T, Hori E, Satoh S, Nakano   H:Diagnosis and prognoses of fetal car−

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10)小林秀樹:当科の過去5年間における心疾患.胎   児・新生児の周産期管理.産婦人科の実際 1988;

  37:399−402

11)松浦 亨,出嶋秀明,渡辺信仁,小林秀樹,村上雅   義,神崎 徹,佐々木記久子,宇津正二,榊原繁樹,

  千葉喜英:胎児心疾患に対する超音波二次元血流   イメージング法の応用.産婦の進歩 1987;39:

  217−218

12)Ben−Ami M, Shalev E, Romano S, Zuckerman   H:Midtrimester diagnosis of endocardial   fibroelastosis and atrial septal defect:Acase   report. Am J Obstet Gyneco11986;155:662   −663

13)AIIan LD, Chita SK, AL−Ghaza]i W, Crawford

  DC, Tynan M:Doppler echocardiographic

  evaluation of the normal human fetal heart. Br   Heart J 1987;57:528−533

(6)

平成6年12月1日 521−(29)

Interatrial Blood Flow in Fetal Hearts−A Study by Pulsed Doppler       Echocardiography and Doppler Color Flow Imaging一

Atsuko Nishioka1), Takashi Okamoto1), Suguru Matsuoka2)and Yasuhiro Kuroda2)

      1}Department of Pediatrics, Takamatsu Red Cross Hospital       2)Department of Pediatrics, School of Medicine, University of Tokushima

   Interatrial shunt flow was evaluated in 31 normal fetuses,3fetuses with atrial septal defect

(ASD)and 2 fetuses with hypoplastic left heart syndrome(HLHS)using pulsed Doppler echocar−

diography and Doppler color flow imaging.

   In normal fetus, interatrial shunt flow was observed through foramen ovale(FO);right−to−left shunting pattern with two peaks, the flow velocity of O.41±0.30 m/sec, and the shunting duration of 50 ± 3%in a cardiac cycle.

   Whereas 20ut of 3 ASD fetuses demonstrated a longer shunting duration than normal fetuses, and all of 2 fetuses with HLHS had a bi・directional interatrial shunt flow;irregular pattern.

   These findings indicated that the interatrial shunt flow was useful not only to distinguish ASD from foramen ovale in normal fetuses but also to evaluate fetal hemodynamic changes involving both atria and ventricles.

参照

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