日本小児循環器学会雑誌 10巻2号 248〜256頁(1994年)
進行性筋ジストロフィー症における肺静脈血流分析
(平成5年12月20日受付)
(平成6年3月7日受理)
徳島大学小児科
森 一博 松岡 優 早淵 康信 新居 正基
多田羅勝義 黒田 泰弘
key words:肺静脈血流,左室流入血流,進行性筋ジストロフィー,ドプラエコー法
要 旨
Duchenne型進行性筋ジストロフィー症(DMD)17例の肺静脈血流パターンを分析し,正常小児14例
と対比した.
DMD群では肺静脈血流の収縮期波(S波)の最高流速が低値で(40±12vs 49±8cm/sec, p〈0.05),
拡張期波(D波)の最高流速との比(D/S)およびtime velocity integralの比(area D/S)は有意に 高値であった(1.58±0.51vs 1.26±0.28, p<0.05および1.40±0.55vs O.90±0.16, p〈0.01).一方,
左室流入血流の拡張早期波(E波)と心房収縮期波(A波)の最高流速比(A/E)およびtime velocity integralの比(area A/E)はDMD群と正常群で有意差を認めなかった.
また,左房の能動的収縮の指標である平均左房内周短縮速度(c−mVcf−a)はDMD群で有意に低値で あった(1,34±O,42vs 1.78±0.33, p<0.05). DMD群をc−mVcf−aが正常と低値(≦1.12)の2群に 分類して肺静脈血流のarea D/Sを対比したところ,後者でarea D/Sが有意に高値であった(1.14±
0.48vs1.84±0.48, p〈0.05).以上の結果から, DMD群では左房収縮が低下しており,それに続く左房 の弛緩障害または左房コンプライアンスの低下により肺静脈血流のS波が減弱すると推定される.
DMD群16例中9例(56%)では左室流入血流のarea A/Eが正常にもかかわらず肺静脈血流のarea
D/Sは高値を示した.これらの症例ではc−mVcf−aは著しく低値であり,左室流入血流の 偽正常化 例 であると考えられた.更に,17例中4例(24%)では左室内径短縮率が正常にもかかわらず,肺静脈血 流のarea D/Sが高値であった.従来の心エコー図検査に肺静脈血流分析を併用することにより,DMDでの左室拡張能や左房収縮能
のより正確な評価が可能であると考えられた.はじめに
Duchenne型進行性筋ジストロフィー症(以下DMD と略)では,骨格筋症状の進行に伴い心筋線維にも 丘brosisを生じ,心不全を呈する. DMDの心機能評価
に心エコー図は広く利用されており,Mモード所見と してla ,左室内径短縮率の低下1),最大拡張期左室後壁 後退速(maximal diastolic endocardial velocity)の 低下2),左室後壁厚のひ薄化3)などが指摘されている。
別刷請求先:(〒770)徳島市蔵本町2−50−1 徳島大学医学部小児科学教室
森 一博
一方,パルスドプラ法による左室流入血流の検討では,
異常値を示すとする報告4)5)と正常であるとの報告6)が あり見解が一致していない.
最近,種々の疾患でドプラー心エコー図による肺静
脈血流が分析され,心機能評価に利用されてい
る7)〜1°).本研究では,DMD患者における肺静脈血流の 特徴を検討し,左室流入血流との関係についても分析
した.更に,DMDにおける肺静脈血流分析の臨床上の 有用性についても言及した.
対 象
対象は国立療養所徳島病院に入院中のDMD患者17
日小循誌 10(2),1994
名である.年齢は8歳から20歳(平均年齢14.1±3、1歳)
である,側弩症や著しい胸郭変形を有する患者は対象 から除外した.厚生省研究班による運動機能障害度分 類では,stage II 2名, V 1名, VI 3名, VII 7名,
VIII 4名であった.
対照としては,年齢・体表面積をマッチさせた健康 小児14名を用いた.
方 法 1)ドプラ心エコー図
超音波診断装置は日立EUB165(発振周波数2.5 MHz,繰返し周波数6または8KHz)を用いた.パル スドプラ法では,心尖部四腔断面より右上肺静脈およ び僧帽弁輪部中央の左室流入路に,幅2mmのsample volumeを設定し,得られた血流波形を心電図II誘導 と共に紙送り速度5cm/secで記録した.全例呼気時の 5心拍を平均して以下の測定を行った(図1).
肺静脈血流は,収縮期第1陽性波Sl,第2陽性波 S2,拡張期波D,心房収縮期逆方向波Aの4成分より 構成される8)9).本研究では,17例中8例(47%)では S1とS2が融合し1峰性の収縮期波を呈した.このた め,収縮期波はS1・S2に分けずに, S波として分析し
249−(19)
た.また,逆方向流A波は殆どの症例で明瞭な波形が 得られなかったため,検討を行わなかった.肺静脈血
流では既報の如く,S波とD波の最高流速Sおよび
D,その比D/S,血流波形と基線とで囲まれる面積(time velocity integral)の比area D/Sを測定した11).
明瞭な左室流入血流の記録し得た16例では,拡張早期
波E波と心房収縮期波A波の最高流速EおよびA,
その最高流速の比A/E,time velocity integralの比 area A/Eを算出した.
2)心拍数補正を行った場合の解析
DMD患者では健常児に比して心拍数の多いことが 知られており,本研究においても同様である(86±12 vs 72±13/分, p<0.Ol).本研究の対照群はDMD群 と年齢・体表面積をマッチさせたが,肺静脈血流や左 室流入血流の解析に際しては心拍数の影響も考慮する 必要がある1D.そこで,心室流入血流A/E,肺静脈血 流D/S,area D/Sの3指標について,症例ごとに心拍 数に対する正常予測値を求め,それに対する%of nor・
mal値を算出した.なお,正常予測値の算出に用いた 式は以下の通りである(Xが心拍数,Yが各予測値).
A/E15):Y=0.0079X−0.10
S D
A
EB
sec.
川1li[ C
ペー ,房へ、 一
一 ≡,㌢.恒〜
・一一・ へ・一一≡
焦
15 0 G=area
〜
翼
= =
芹 ……
一 ⌒
Earea Aarea
1 ■ l n
PC6−i−一一一一一f−一一一一一一一一 PC6−一一一一一一一一一fr−一一十
EC一 ECG__⊥ノ・_
図1 測定項目.Aは肺静脈血流,
本文に記した.
Sillil!E!?;1≡≡≡ 一 フ3 DE= 6 0」 t2.O G= フ6 DR=30 EE=1 PSF一
一1−、日 一
Bは左室流入血流,Cは左房径計測を示す.測定項目の詳細は
250−(20) 日本小児循環器学会雑誌 第10巻 第2号 D/Sli):Y= O.007X+1.79
area D/Sl1}:Y=−0.014X十2.12 3)Mモード心エコー図
Mモード心エコー図では,能動的な左房収縮の指標 として,心拍数で補正した平均左房内周短縮速度(cor−
rected mean velocity of circumferentia1丘ber shortening of the left atrium:c・mVcf−a)および心房 収縮期の心房径短縮率(fractional shortening of the left atrium:%FSa)を算出した13)〜15).
ここで,左房の能動的収縮開始時(心電図でP波の 開始点)の左房径をDDa,左房収縮による最小左房径 をDSa, DDaからDSaまでの時間差(左房駆出時間)
をETaとすると,
c−mVcf−a=(DDa−DSa)×JRR/DDa×ETa %FSa=(DDa−DSa)×100/DDa
で表される.
各測定値は平均値±標準偏差(SD)で示し,推計学 的検討はStudent t−testにより危険率5%以下を有意
とした.
結 果
1.DMD群の肺静脈血流
本研究では良好な記録の得られなかった1例は対象 から除いたため,DMD群の18例中17例(94%)で肺静 脈血流を記録し得たことになる.諸指標の結果はまと めて表に示した.
DMD群では正常群に比してSが有意に低値(40±
12vs 49±8cm/sec,・p〈0.05)であり, D/S(1.58±0.51 vs 1.26±0.28, p<0.05)およびarea D/S(1.40±0.55 vsO.90±0.16, p〈0.01)は共に有意に高値であった
(図2上段).
2.左室流入血流および左房収縮指標との対比 DMD群における左室流入血流は正常群に比してE が有意に低値であったが(p〈O.Ol), Aも低い傾向に あり,A/Eおよびarea A/Eは正常群と有意差を認め なかった(図2下段).
一方,肺静脈血流一左室流入血流関係においては,
既に報告した正常児における検討と同様に1D, DMD 群においてもA/E−D/Sおよびarea A/E−area D/S関
D/S
2.0
1.0
0
一
p〈0.05DMD Contro1
area D/S
2.0
1.0
L一
P〈0.01O
DMD Contro1
表 DMD群と正常群の諸指標に対する測定値の対比
DMD群
正常群(n=17) (n=14)
年齢 (歳) 14.1±3.1 13.4±2.8
NS
対表面積 (m2) 1.32±0.56 1.36±0.47
NS
心拍数 (/分) 86±12 72±13 p<0、01
左室内径短縮率 (%) 26.7±8.5 35.1±4.8 p<0.01 左房収縮機能
%FSa (%) 10.3±3.5 12.9±2.1 p<0.05 c−mVcf−a 1.34±0.42 1.78±0.33 p〈0.05 左室流入血流
E (cm/sec) 74±14 91±16 p〈0.01
A (cm/sec) 43±12 48±10
NS
A/E 0.57±0.11 0.53±0.08
NS
area A/E 0.43±0.13 0.40±0.10
NS
肺静脈血流
S (cm/sec) 40±12 49±8 p〈0.05
D (cm/sec) 59±9 60±10
NS
D/S 1.58±0.51 1.26±028 p<0.05
area D/S 1.40±0.55 0.90±0.16 p<0.01
A/E
1.0
0.5
0
DMD Contro1
areaA/E
1.0
0.5
0
NS 一
1
・
●・8・・凸・8 ・⑪・◎●・ T9ー⊥
DMD Contro1
図2 DMDと正常群の肺静脈血流および左室流入血 流の対比.上段が肺静脈血流,下段が左室流入血流 の対比を示す.
平成6年8月1日 area
2.0
1.0
0
▲
︹ O ︒ ︒° ︒ °o o
S/Da
.
0.5 area A/E
1.0
図3 DMD群における肺静脈血流と左室流入血流の 関係.正常群の平均値±2SDを正常範囲として表示 した(図中,黒四角枠).16例中6例(黒丸:31%)
ではarea D/Sおよびarea A/Eとも正常範囲内で あったが,9例(白丸:56%)でarea D/Sのみ異常 高値を示した.なお,黒三角はarea A/Eのみ高値 であった症例である.
c−mVcf−a
2.0
1.0
言ば⊥ :ll
:「 .
°
上
●
:
−
pく0.01O
DMD Contro1
図4 DMD群と正常群におけるc mVcf・aの対比
係はいずれも粗な負の相関を認めた.すなわち,
●A/EをX軸,D/SをY軸とした時,
Y=−3.37X十3.51(r=−0.69)
●area A/EをX軸, area D/SをY軸とした時,
Y=−3.32X十2.82(r=−0.72)
であった.
図3は,DMD群16例の左室流入血流area A/Eと 肺静脈血流area D/Sの関係を示す,正常群の平均 値±2SDを正常範囲として黒四角枠で表示した.6例
(38%:黒丸)では両指標とも正常範囲であったが,9 例(56%:白丸)ではarea D/Sのみ異常高値であっ
た.
左房の能動的収縮の指標であるc mVcf−aはDMD
251−(21)
area D/S 3.0
2.0
1.0
p〈0.05
「一一一一一1
●$■
●
●
Io⊥
■
● ■1 ● ●
一一
≦1.12 >|.12
c−mVcf−a
areaA/E
1.0
0.5
0
NS 「一一1
IO⊥
●
●1
TI
●88・ ■〈1.12 >1.|2
c−mVcf−a 図5 DMD群におけるc−mVcf−aと肺静脈血流area D/Sおよび左室流入血流area A/Eとの対比. c−
mVcf・aが低値(≦1.12)の群で,肺静脈血流area D/Sは有意に高値であった(左図).一方,左室流入 血流area A/Eでは, c・mVcf・aにより差を認めな かった(右図).
群で正常群に比して有意に低値であった(1.34±0.42 vs1.78±0.33, p〈0.05)(図4).同様に,%FSaも DMD群で有意に低値であった(10.3±3.5vs 12.9+
2.1%, p<0.05),
次に,DMD群をc−mVcf・aが低値(正常平均値一2 SD以下)を示した症例と正常範囲内であった症例の 2群に大別し,肺静脈血流area D/Sと左室流入血流 area A/Eを対比した.その結果, c−mVcf−aが低値の 群では正常の群に比してarea D/Sは有意に高値で
あった(1.84±0.48vs 1.14±0.48, p〈0.05)(図5).
一 方,area A/Eは両群間で有意差を認めなかった.
3.心拍数補正した場合のDMD群の肺静脈血流(図
6)
心拍数補正後も,DMD群では正常群と対比してA/
Eは有意差を認めなかった(84±19vs 100±24%).し かし,肺静脈血流のD/S(133±43vs 99±26%, p<
0.05)およびarea D/S(177±80vs 101±17%), p〈
0.01)は有意に高値であった.
これらの結果は,心拍数補正を行わなかった場合(図 2上段)に類似していた.
4.左室内径短縮率と肺静脈血流の対比(図7)
肺静脈血流のarea D/SとMモードの左室内径短 縮率を対比した.正常平均値±2SDを正常域とする
252 (22) 日本小児循環器学会雑誌 第10巻 第2号
X of 150
100
50 normal
●
A/E
●
﹁ol一
8●⁝缶一・●●●●
ーoー
・8&・●−
NS
Of X
0 0 3
200
100 norma1
●
TO⊥
●8警 ●■●
D/S
●
ーー一
8・●、
・■8●●
●
−
p〈0.05
X of 400
300
200
100
area D/S
normal
lI
王ξ/y
●
P〈0.01
0 0 0
Control DMD Control DMD Control DMD
図6 心拍数補正した場合の,DMD群と正常群の左室流入血流および肺静脈血流の 対比.3指標とも各症例の心拍数に対する予測正常値を求め,それに対する%of normal値で表した.
areaD/S
2
1
●
●
●
●
● ●
●
●
●
●
●
・φ
0 10 shortenlng
20 30 40 覧 fraction
図7 DMD群における肺静脈血流area D/Sと左室 内径短縮率との対比.正常群における平均値±2SD を正常領域として四角枠で示した.17例中6例 (35%)では両指標とも正常範囲内であったが,4例 (24%)ではarea D/Sのみ異常高値であった.
と,17例中6例(35%)では両指標とも正常範囲内で あったが,4例(24%)では肺静脈血流D/Sのみ高値 を示した.逆に1例では左室内径短縮率のみが低値で
あった.
5.骨格筋病変と肺静脈血流との対比
機能障害度分類により,stage II〜VI(階段昇降可能 一ずり這い可能)とstage VII〜VIII(坐位保持可能 坐位保持も不可)の2群に大別して,肺静脈血流
area D/Sを対比した. area D/Sは前者で1.23±0.56,
後者で1.49±O.54であり,両群間に有意差を認めな
かった.
6.症例呈示(13歳,図8)
本症例の肺静脈血流(図7A)は,収縮早期にスパイ ク状のS波を認めるが収縮中期から末期は低流速で,
area D/Sは2.51と高値を示した,左室流入血流(図7 B)のA/Eは0.4と低値で,左房の能動的収縮を示す c−mVcf・a(図7C)も0.56と著しく障害されていた.
考 察
一般に,心不全で左室拡張末期圧が著しく高い場合 には,ドプラ法による左室流入血流のA/Eは低値とな る(pseudo−normalization,偽正常化)16). DMDの左 室流入血流の検討では,A/Eが高値であるとする報 告4)5)や正常と差を認めないとする報告6)があり見解の 一致を認めていないが,その原因としてA/Eの偽正常 化例が含まれる可能性が考えられる.本研究では DMDの肺静脈血流を解析し,左室流入血流とも対比
し,本症における肺静脈血流分析の有用性を検討した.
肺静脈血流は左房圧曲線の鏡面像であり,S波は左 房圧x谷の時相に形成され,左房圧v波が上昇する病
平成6年8月1日 253−(23)
A・ ・ ll 1/一 ,,1 1 ,L]…1』1 11,°1 ,1 トv°v 1 1 1』1 1 | ト 1 1 ↓ 1 vl 1 r | 1 ° ト1
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− 100 cm/sec
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… i)t−1・1 ,lll, 1−1−1…↓ 1 1・,,一・ 1_ 11 1、,
図8 症例1.肺静脈血流(A)では,S波は収縮早期はスパイク状であるが,収縮中 期から末期にかけては低流速である.左室流入血流(B)のA/Eは低値で,心房収 縮期の左房収縮(C)はきわめて不良である(図1の正常例と対比).
慧i蒙達i誓箋嚢警 懇夢驚壽㍗1饗馨
・ L≡\,。 DD・ ●・〆一 ニー
一申 ETa
態で肺静脈血流S波は低下する17)18).すなわち,僧帽 弁閉鎖不全,左室収縮力低下,左室拡張末期圧のli昇
などの病態下では左房圧v波がa波に比して上昇し,
このような病態下では左房のコンプライアソスが低下 して左房リザーバー機能の減少(肺静脈血流のS波の 低下)をきたすことになる.Kuechererらぱ,左房圧
(肺動脈模入圧)・左室収縮力・僧帽弁輸部の収縮期心 尖部移動度・左房伸展性(atrial expansion)などS波
を規定する種々の因子を検討し,左房圧およびそれに 伴う左房コンプライアンスの変化がS波の形成に最
も重要な因子であると報告した17).そして,左房圧が著 明に上昇し左房のコソプライアンスが低下した症例で は,肺静脈1血流はD波主体となり,左室流入血流でぱ
E波が増高する(A/Eの低下)と指摘した.
一方,Mモードによる左房の能動的収縮の指標とし てはc−mVcf−aが用いられている13) 15). Murakamiら はこの指標が左室拡張末期圧(LVEDP)と相関すると 報告した14).また本藤らは左房後負荷としての LVEDPとc−mVcf・aとの関係を検討し,高血圧心や 陳旧性心筋梗塞などで左室流入血流A/Eが偽正常化 を示す例でも,LVEDPとc−lnVcf−aとの関係は保た れており,A/Eの低下は左房筋自体の収縮力低下より もLVEDP上昇に伴うafterload mismatchによるこ とを指摘した13).本研究でもDMDでc−mVcf−aは低 値であったが,現時点ではDMDにおけるc−mVcf−a 低値が左房筋自体の収縮力低下によるのか左房後負荷
254−(24) 日本小児循環器学会雑誌 第10巻 第2号
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念(ご㌫ご編幽繍編
図9 症例2.本症例では肺静脈血流(A)のS波は保たれている.しかしながら,心 房収縮期に約40cm/secの速い流速の逆方向流を認めた/矢印).左室流入血流(B)
ではA/Eの低ドはなく,心房収縮期の左房収縮(C)も正常である(図8と対比).
増大によるものかは不明である.また,一部の症例で は胸郭変形の左房への影響も無視し得ないであろう.
なお,c−mVcf・aの小児での検討は報告されておらず,
その臨床的意義に関しては今後,種々の疾患で検討す る必要がある.
DMDでは上記のいずれかの原因で左房収縮が障害 されると考えられる.そして,それに続く左房の弛緩 障害または左房圧上昇を伴う左房コンプライアンス低 下18)によりS波が減少すると考えられる.
D/Sの心拍数補正値(%of normal値)は,『対象 のD/Sの実測値/対象と同じ心拍数での正常予測D/
S値』で表される.DMDでは同年齢の正常児に比して
心拍数が多いため,DMD群の心拍数補正に際しては,
上記の式の分母には,対象としたDMD患者より低年 齢の正常児の値を用いることになる,正常児では低年 齢ほど心拍数が多くD/Sは低値であることを考慮す ると11),心拍数補正により,正常群とDMD群は更に差 を生じることになる.この補正は煩雑であり,DMD群 で心拍補正しても年齢の影響を完全には除外できな い.年齢・体表面積をマッチさせて検討した図2と心 拍数を考慮した図6が類似の傾向を示したことによ り,DMDの肺静脈血流分析を臨床応用する際には,年 齢・体表面積をマッチさせた対照を用いれば,血流パ
ターンの変化の概要は把握できると考えられた.
平成6年8月1日
最近,竹内らは経食道心エコーを用いた心不全時の 左房駆出動態の検討で,左房後負荷増大時に左房の代 償的機能元進が見られても,左房前方駆出(左室流入 血流のA波増大)としては表わされず,より低圧系の 肺静脈への駆出(心房収縮期逆方向流)が増大すると 報告した 9).本研究でも,肺静脈の心房収縮期逆方向流 の良好な記録の得られた2症例において,肺静脈血流 のS波は保持されているが,著明な心房収縮期逆方向 流を認めた(図9).このような症例は現時点では左房 の収縮力は保たれているが,心不全の増悪により左房 収縮力の低下や肺静脈血流S波の低下を生じる可能
性がある.
また,図3に示した如く,本研究のDMD患者の56%
では,左室流入血流のarea A/Eは正常にもかかわら ず肺静脈血流のarea D/Sが異常高値であった.これ らの症例では左房の能動的収縮を示すc−mVcf−aが著 しく低下しており(1.04±0.41),左室流入血流は 偽 正常化 13}2°)を示していると推察される.
左室収縮能との対比では,DMD患者の24%で,左房 内径短縮率は正常であったが肺静脈血流のarea D/S は高値であった.このことは,DMD患者には,左室収 縮力の障害よりも,左室拡張能や左房機能の異常が先 行する症例が存在する可能性を示している.
骨格筋病変との対比では,運動機能障害の程度と肺 静脈血流の異常は,必ずしも相関を認めなかった.従 来の報告でも,Mモード心エコー図の左室収縮力の指 標と骨格筋病変との対比で,両者が相関するとの説21)
と相関を認めないとする説22)があり,見解が一致して いない.この点に関しては,今後,症例数を増やすと 共に,個々の症例の経時的変化についても検討してゆ
きたい.
従来の心エコー検査に肺静脈血流の分析を併用する ことにより,DMDにおける左室拡張能や左房収縮能 のより詳細な評価が可能となると考えられる.
文 献
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Analysis of Pulmonary Venous Flow Velocity Patterns in Duchenne Muscular Dystrophy
Kazuhiro Mori, Suguru Matsuoka, Katsuyoshi Tatara, Yasunobu Hayabuchi,
Masaki Nii and Yasuhiro Kuroda
Department of Pediatrics, School of Medicine, University of Tokushima
Pulmonary venous flow velocity patterns were assessed by pulsed Doppler echocardiography in 17 patients with Duchenne muscular dystrophy(DMD). Fourteen normal children served as controls.
The peak velocity of systolic wave(S)of the pulmonary venous flow was significantly lower in patients with DMD(40±12 cm/sec=mean±SD)compared with normal controls(49±8cm/sec, p<0.05). The ratio of the peak velocity of diastolic wave(D)to S wave(D/S)and the ratio of the time−velocity integral of D wave to S wave(area D/S)were both significantly higher in patients with DMD than those of normal controls(1.58±0.51 vs 1.26±0.28, p<0.05;and 1.40±0.55 vs O.90±0.16, p<0.01). On the other hand, the ratio of the peak velocity of the atrial filling wave(A)to early diastolic filling wave(E)
of the mitral flow was not significantly different between both groups.
The rate corrected mean velocity of circumferential fiber shortening of the left atrium(c−mVcf−a),
an index of active contractile function of the left atrium, was significantly lower in DMD than in normal controls(1.3±0.42 vs 1.78±O.33, p<0.05). When the patients with DMD were divided into normal and decreased c・mVcf・a groups according to the left atrial contractile function, area D/S was significantly higher in the latter group compared with the former group(1.14±0.58 vs 1.84±0.48,
p<O.05).Thus the diastolic predominance of the pulmonary venous flow was characteristic in patients with DMD, which might be due to decrease of the atrial contraction followed by poor atrial expansion or decrease of the left atrial compliance,
Nine(56%)out of 16 patients with DMD showed high area D/S, though area A/E of the mitral flow was within normal limits. Moreover, four patients(24%)showed increased area D/S in spite of normal shortening fraction of the left ventricle.
Pulsed Deppler echocardiography of the pulmonary venous flow provides useful clinical information of cardiac function in patients with DMD, including the case with normalized mitral flow velocity pattern.