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特集に寄せて システム放射線生物学への期待

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Academic year: 2021

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長崎大学大学院医歯薬学総合研究科放射線医療科学専攻 鈴木 啓司

システム放射線生物学は、古典的放射線生物学の疑問を解く鍵として、最近、特に注目を集め ている新興の研究分野である。放射線による生体影響の評価、とりわけ低線量域の放射線による 健康リスクの推定には、放射線によるエネルギーの付与から 損傷までの放射線物理・化学、

損傷に始まる分子生物学、個々の細胞の応答に関わる細胞生物学、臓器・組織レベルの応 答を制御する生理学、さらには全身性のより高次の生体反応の理解が不可欠である。しかしなが ら、より低線量になればなるほど、個々の応答反応の量的閾値が低減し、個別の応答の量的解析 が不可能になってくる。ここに、システム生物学の概念や、その解析手法を導入する意義が出て くるわけである。

さらに、低線量放射線に特異的な現象を理解するためにも、ネットワーク全体の関わりを考慮 できる手法が必要になる。たとえば、細胞レベルの 損傷応答を見ていると、 程度よ り大きな線量とそれ以下の線量では、起こる現象の線量依存性の基本原理が明らかに異なってく る。最近では 二重鎖切断の数を、 損傷応答因子のフォーカスの数で評価することが多 いが、 あたりの 二重鎖切断数は、細胞核あたり平均 個であるとすると、 程度 以下の線量では、核あたりの平均のフォーカス数が1を下回ることになる。つまり、細胞間の フォーカス数の分布は考慮すべきであるとしても、細胞核あたりのフォーカス数の線量依存性と、

細胞集団の中のフォーカス陽性細胞の頻度の線量依存性は、全く異なった論理でしか議論できな いが、生物影響としては、これを統一した理論でもって説明しなければならないわけである。

この他にも、低線量域での 損傷応答そのものにも、線量に依存しない応答が存在する。

たとえば、核あたりたった1個の 二重鎖切断であっても、 損傷因子を 損傷周辺に 多量に集積させることによってその情報を増幅するメカニズムが細胞には存在するからである。

つまり、線量が増加して核あたりのフォーカス数が増加しても、核あたりの 損傷情報とし ては、必ずしも線量依存的に増加しない結果が生まれる。さらに、バイスタンダー効果等の非標 的影響の寄与も、これらの理解を持って議論されなければならないが、未だその段階ではない。

このように、まだシステム放射線生物学で考慮すべき、個々のパーツの理解は、必ずしも十分 に進んでいないのが現状で、システム生物学的な手法を導入する以前にまだまだ生物学の理解が 進む必要がある。とはいえ、網羅的解析によって得られる情報は膨大で、生命システムの基本原 理を語るキーがその中に必ず潜んでいると考えると、システム放射線生物学が、検証可能な放射 線影響モデルを提唱できるのではないかという期待は、否が応でも膨らんでくる。こうした背景

特集に寄せて システム放射線生物学への期待

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