- 335 -
<特 集>放射線生物学と放射線防護を繋ぐ組織反応研究
はじめに
放射線影響の根源は、組織反応(確定的影響)であれ確率的影響であれ、放射線エネルギーの 吸収に起因する DNA 損傷の誘発に帰着する。しかしながら、個々の細胞レベルでの DNA 損傷修復 や DNA 損傷応答の結果が、臓器や組織の反応として顕在化するまでのプロセスは未だ十分に記述 されていない。とりわけ、これまで放射線影響の基本単位として扱われてきた組織や臓器の反応 は、その組織や臓器を構成する、個々の、放射線感受性の異なる多様な細胞の反応の集大成であ るとの認識が必要で、これらの理解なしには、組織幹細胞の放射線応答や組織微小環境も含めた 放射線に対する組織反応を議論することは不可能である。
たとえば、低線量率・低線量放射線の影響を評価するときには、組織や臓器レベルでの放射線 影響(確定的影響)が検出されないとしても、しきい線量以下での組織や臓器を構成している個々 の細胞の応答をきちんと把握しておくことが、晩発影響も含めた放射線影響の科学的理解に極め て重要である。
そこで、放射線発がんの標的になる主要な臓器・組織において、放射線被ばく後の組織反応に ついて、特に、組織や臓器を構成している多様な細胞の反応に着目して、現時点で得られている 情報を総覧し、放射線生物研究の最先端の知見と放射線防護と繋ぐのが本特集の目的である。
平成 29 年 10 月 1 日
九州地区編集委員
鈴木啓司、大津山 彰、小嶋光明
本特集では、8 編の総説が企画されておりますが、ページ数の関係で前編(本号掲載)と後編(次 号掲載)に分けてお届けします。後編にもご期待ください。
編集委員長より 松本 義久