別添1
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業
運動失調症の医療水準,患者QOLの向上に資する研究班
令和2年度 総括・分担研究報告書
研究代表者 小野寺 理
令和3(2021)年 5月
別添2
目 次
I.総括研究報告
運動失調症の医療水準,患者QOLの向上に資する研究班 --- 1 研究代表者 小野寺 理
II.分担研究報告
DRPLAとMJD、SCA6の発症年齢とCAGリピート数の分布の比較 --- 11 多系統萎縮症の発症年齢の検討 --- 13 小野寺 理
脊髄小脳失調症1型の自然歴に関する研究 --- 15 多系統萎縮症の地域レジストリに関する研究(HoRC-MSA) --- 16 矢部 一郎
家族性脊髄小脳変性症の遺伝子解析(宮城県) --- 17 青木 正志
VR空間で計測可能な上肢運動失調評価システムの開発 --- 23 池田 佳生
脊髄小脳失調症6型(SCA6)・同31型(SCA31)の自然歴解析 --- 25 石川 欽也
中小脳脚sT1w/T2w ratioはMSA-Cにおける早期変化を検出しうる --- 27 桑原 聡
運動失調症患者登録・自然歴調査J-CAT --- 28 髙橋 祐二
日本人CANVAS症例の分子遺伝学的・臨床的特徴についての検討 --- 31 戸田 達史
脊髄小脳変性症における構音動態の検討 --- 33 田中 章景
多系統萎縮症の早期診断と突然死の予測システム開発 --- 35 渡辺 宏久
脊髄小脳変性症における上肢運動失調の定量評価に関する研究 --- 37 勝野 雅央
特発性小脳失調症の病態解明と治療へのアプローチ --- 41 下畑 享良
特発性小脳失調症の診断基準における発症年齢の妥当性に関する検討 --- 42 吉田 邦広
脊髄小脳失調症における振戦治療の分子生理学的解析 --- 44 丸山 博文
気管切開施行後及び人工呼吸器装着後の多系統萎縮症患者の長期予後に関する研究 --- 45
二村 直伸
鳥取県の脊髄小脳変性症の病型分布の特徴と症状進行の把握 --- 46 花島 律子
徳島県における脊髄小脳変性症の病型分布 --- 47 和泉 唯信
脊髄小脳変性症の診断支援・未診断疾患の原因同定に関する研究 --- 48 髙嶋 博
運動失調症の医療基盤に関する調査研究 --- 52 瀧山 嘉久
特定疾患治療研究事業により登録された運動失調症の症例解析について ---- 53 金谷 泰宏
小児期発症小脳性運動失調症の臨床的・遺伝的解析および脳画像学的研究 -- 55 佐々木 征行
皮質基底核症候群を呈したヘモジデリン沈着症剖検例の臨床病理学的検討 -- 56 高尾 昌樹
脊髄小脳変性症に対する短期集中リハビリテーションプログラムの調査 --- 59 宮井 一郎
III.研究成果の刊行に関する一覧表 --- 63
厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)
運動失調の医療水準、患者QOLの向上に資する研究班 総括研究報告書
小野寺 理
1),
新潟大学脳研究所神経内科
研究の目的:
変性機序による運動失調症とくに脊髄小脳 変性症・多系統萎縮症・脳表ヘモジデリン 沈着症について、オールジャパン体制で、
①小児例を含めた実態調査、②発症前診断、
早期診断システムの確立、③失調全般およ び疾患毎の症状評価方法の確立、④欧米研 究組織との連携強化と、国際治験推進の基 盤作り、⑤既存の薬物療法、リハビリテー ション療法、進行期治療方法の標準化、⑥ 早期診断もしくは重症度の判定に資するバ イオマーカー研究の推進、⑦生体試料研究 の基盤整備、⑧既存レジストリの拡充整備、
を実施する。①、②の成果は、遺伝性疾患の 核酸、遺伝子治療に於ける、発症前診断等 の倫理的問題や、経済や社会的諸問題に対 処する上でのプロトタイプとなり、厚生労 働行政に、治療体制整備、疾患のスクリー ニング体制、治療前後でのカウンセリング 体制などにおいて提言を与える。①、③、④、
⑥、⑦、⑧の成果は、企業治験を推進する波 及効果が望まれる。また⑤の成果は、希少 疾患に対するリハビリテーションのエビデ ンス作成に資する。既存レジストリの拡充 により、平等な医療機会を与える体制が整 備され、難病施策を平等に広めるプロトタ イプとなりうる。小児から成人までを対象 とするため、難病の移行期医療提供体制に ついても成果の活用が期待される。これら の研究を通じて、医療基盤の構築と医療水 準ならびに患者 QOL を向上することを目 的とする。
研究結果の概要:
① 小児例を含めた実態調査
小児期に発症する脊髄小脳変性症の中で 日本に比較的多い歯状核赤核淡蒼球ルイ体 萎縮症(DRPLA)について、長期予後を検 討した。対象は14例あり、乳児期発症例2 例、幼児期以降発症例は12例であった。け
いれん発症年齢、常時臥床状態になった年 齢は、CAGリピート数と相関を認めた。小
児期発症 DRPLAは臨床的に重篤で、予後
が悪いことを確認した。
脊髄小脳失調症1型(SCA1)に対する遺伝 子治療の医師主導治験は、稀少疾患である ことから対象者組み入れが困難であると想 定される。臨床試験を成功させるために、
予め基礎資料となるSCA1自然歴を明らか にすべく自然歴研究を開始した。7名(平均 年齢51.6歳)が登録し、2名は36ヶ月目ま で評価を完遂し、3名は30ヶ月目まで評価 を行った。登録時から 30 ヶ月目までに、
SARAは11.6±1.1から12.8±1.4、6分間 歩行距離は 344.6±57.5 m から 256.2±
133.2 m、6分間歩行直進時の左右平均振幅
は 0.0414±0.0091 m から 0.0576±0.027 m、9-hole peg testは37.18±9.21秒から 46.59±17.58秒にそれぞれ悪化した。
宮城県内の家族性脊髄小脳変性症家系を 集積し、その遺伝学的背景を明らかにした。
2012年4月から2020年9月に遺伝子解析 した160家系を対象とした。臨床表現型と 本邦における頻度を考慮した上で疑われる 標的遺伝子を絞り、常法通り末梢血白血球 由来DNA試料を用いてPCR法および必要 時サンガー法を加えて疾患関連変異の有無 を検索した。
高齢化社会における SCD の病型分布や 臨床的特徴を明らかにすることを目的とし た。鳥取大学で1998年4月~2018年の20 年で診断されたSCDの分布は20年前の調 査と同様にSCA6の頻度が最も高くSCA3 の頻度が低い。鳥取県主要な施設でのSCD の 有 病 率 お よ び 病 型 別 頻 度 の 解 析 で も
ADSCAの遺伝型別頻度はSCA6 が最も多
く、SCA31がそれに続き、この傾向は1998 年と不変であり、高齢化を反映してやや増 加していると考えられた。最も頻度の高い 純粋小脳型SCD (SCA6・SCA31・CCA)
の、非運動症状も含めた臨床症状の特徴を 把握するために、純粋小脳型SCD患者が通 院している県内の主要な病院へアンケート 調査を行った。新型コロナの影響で患者来 院が控えられており、集計が遅れているが、
8割の施設から回答を得た。
徳島県における脊髄小脳変性症の実態を 明らかにするため、徳島県の小脳失調症の 患者275名において、SCA1、SCA2、SCA3、
SCA6、SCA7、SCA8、SCA12、SCA14、
SCA15、SCA16、SCA17、SCA31、SCA36、
DRPLAのスクリーニングを行った。
南九州地域における遺伝性運動失調症疑 い症例の原因未同定例を対象に FXTAS・
SCA17の変異スクリーニングを行い、臨床
的・遺伝学的検討を行った。遺伝性運動失 調症疑い症例1395例について、SCA1, 2, 3, 6, 7, 8, 12, 31, DRPLAおよびGSS(PRNP,
P102L変異)の変異解析を行い、陽性例340
例を除外した。陰性例を対象に、FXTAS
(FMR1 遺伝子の CGG リピート: 55-200 回 premutation expansion ) お よ び SCA17(TBP遺伝子のCAG/CAAリピート 伸長、41回以上)の変異解析をPCR-電気泳 動法にて行った。リピート伸張例について リピート数、発症年齢、表現型、画像所見な ど、臨床遺伝学的検討を行った。
成人発症の小脳性運動失調症を主徴とす る日本人の未診断患者群に対して、RFC1 遺伝子の病的リピート伸長変異を検索し、
Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome (CANVAS) の頻度、臨床的特徴を明らかにした。成人 発症の小脳性運動失調症を主徴とする日本 人の未診断患者群(SCA1, 2, 6, 7, 8, 12, 17, 31, 36, MJD (SCA3), DRPLA , FXTASは 除外済)298例(家族歴あり70例,家族歴 なし228例)を対象にして、RFC1遺伝子 のリピート配列のrepeat-primed PCR、並 びにflanking PCRを行って、RFC1遺伝子 の病的リピート伸長変異を検索した。
臨床的に皮質基底核症候群(CBS)と診 断されたヘモジデリン沈着症症例の神経病 理学的変化について検討した。70歳に発症、
CBSの診断基準に合致、臨床的にCBS と 診断、78歳で死亡した女性症例において病 理解剖を行い、形態的な変化について検討 した。CBSを説明しうる解剖学的部位にヘ
モジデリン沈着およびそれに伴う変性が強 く、ヘモジデリン沈着症によるCBSと判断 した。既報告では同様の症例を 1 例のみ
(Judit Bihari et al. J Neuropsychiatry Clin Neurosci; 2016)認めるが、CBSの背 景病理としてヘモジデリン沈着症も念頭に 置く必要がある。
② 発症前診断、早期診断システムの確立 特発性小脳失調症(idiopathic cerebellar
ataxia;IDCA)診断基準の主要項目に含ま
れる発症年齢(30歳以上)について、その 妥当性を検証した。2018年6月より調査依 頼を開始し、2020年11月時点で、55名(男 性32名、女性23名)のprobable IDCA患 者が登録された。55名の登録時年齢は67.2
± 13.2歳(mean ± SD)、発症年齢は53.4
± 12.4歳、罹病期間は13.8 ± 7.0年であ った。一方、J-CATに登録された孤発性失 調症の中から30歳未満で発症し、かつ遺伝 学的検査で遺伝性失調症が除外された患者 は43名であった。このうち主要項目である
「画像上、両側性の小脳萎縮が見られる」
に該当しない患者を除くと 29 名(67.4%)
となった。29 名の発症年齢は 15.9 ± 9.6 歳であった(20歳未満:17名、20歳以上 12名)。29名の臨床像を見ると、probable
IDCA 55名と比較して、認知症(おそらく
精神発達遅滞を含む)(41.3 % vs 14.5 %、
p = 0.014)、下肢痙性(31.0 % vs 1.8 %、p
= 0.000)、てんかん(13.8 % vs 0 %、 p = 0.012)の頻度が有意に高かった。また、低 身長が3名(10.3 %)、顔貌異常5名(17.2 %)、 視力障害3名(10.3 %)に見られた。29名 を20歳未満、20 歳以上に分けた場合、上 記した神経症候の中で有意な群間差が見ら れるものはなかった。また、30歳未満で発 症し、かつ遺伝学的検査で遺伝性失調症が 除外された患者43名のうち14名(32.6%)
は主治医の判断にて画像上の小脳萎縮が見 られなかった。
臨床的にIDCAと診断した症例を対象と して、自己抗体(抗小脳抗体)の検索を行い、
そ の 臨 床 像 を 検 討 し た 。IDCA 47 例
(probable 5例、possible 42例)を対象と した。IDCAは、抗VGCC抗体、傍腫瘍性 神経症候群関連抗体を測定し陽性例を事前 に除外した。多系統萎縮症(MSA-C) 20例
(Gilman分類でprobable 17例、possible 3例)、遺伝性失調症 12 例(SCA2 2例、
MJD/SCA3 4例、SCA6 2例、SCA31 3例、
DRPRA 2例)、健常者 17例を対照とした。
これらの血清を用いて、ラット小脳未固定 凍結切片を用いた免疫組織染色により、抗 小脳抗体を検出した。また、既知の抗小脳 抗体として、mGluR1、Neurochondrin、
GluD2、Caspr2、IgLON5 を、cell-based assayにより検出した。
③ 失調全般および疾患毎の症状評価方法 の確立
我が国に多い脊髄小脳変性症について,
その自然歴と重症度を治療候補薬の治験を 行った際の判断指標にする観点で解析を行 うことを目的とした。脊髄小脳変性症の自 然歴と重症度の解析には、rating scaleとし てScale for the Assessment and Rating of Ataxia (SARA)を用い、機能評価スケール と し て 3 メ ー ト ル Timed up and go (3mTUG),Barthel Index で評価、9 hole peg test(9HPT)を用いることが国際的な基 準からも妥当と判断された。この結果を用 いて試験的に6名の患者で評価を実施し、
通常の診療の範囲内で自然歴や年間悪化率、
重症度評価を行うことができる見通しが立 った。
VR(Virtual Reality)を用いた計測手法 により、運動失調を定量的に評価する方法 を確立することを目的とした。群馬大学医 学部附属病院脳神経内科に入院した神経変 性疾患のうち、小脳性運動失調症(遺伝性・
孤発性脊髄小脳変性症と多系統萎縮症)お よびパーキンソニズムを主症状とする疾患
(パーキンソン病など)を対象とした。ま た明らかな上肢の運動障害を認めない患者 も対照群として3群間で比較検討を行った。
目標症例数は各群とも30例である。上肢の 運動失調を評価するため、ヘッドマウント ディスプレイであるOculus Rift®とハンド ト ラ ッ キ ン グ デ バ イ ス で あ る Leap Motion®を組み合わせた装置を用いて、
SARA における評価項目である「指追い試 験」と「鼻-指試験」を評価した。両デバイ スを組み合わせることで、VR空間における 被検者と仮想検者の指先の動きを高精度か つ定量的に計測することを可能にした。ま
た手袋型デバイスであるHi5 VR Gloveを 用いて「手の回内・回外試験」を評価した。
デバイスに内蔵されたセンサーにより空間 上の手掌面の角度を測定することで、手の 回内・回外運動のリズムや運動の規則性を 定量的に計測した。上記のデバイスを用い た評価はいずれも、歩行障害が高度で移動 困難な患者であってもベッドサイドで評価 が可能であるため臨床上有用と考えた。
SCD 患者の構音動態を定量評価するこ とで、その病態生理や神経基盤についての 検討を行った。健常群は発話時に規則的で 円滑な口唇開閉運動を呈したのに対し、
SCD群は口唇開閉運動が時間的・空間的に 不規則であり、SCD群でみられた頻回な発 話運動の一時停止が,発話の円滑性を損な う一因である可能性が示唆された。運動失 調性構音障害でみられる発話時間の延長は、
単純な運動速度低下によるものではなく、
構音器官の運動が空間的・時間的に不規則 になることが原因の一つであると考えられ た。このような運動パタンの異常が,日本 語の特徴である“モーラ等時性”の破綻に つながっていると考えられた。
④ 欧米研究組織との連携を強化し、国際 治験推進の基盤作り
DRAPLA, 劣性遺伝性脊髄小脳変性症,に ついては、各々国際研究推進について検討 した。またメイヨークリニックとの国際共 同研究で、SCA3 のバイオマーカーに関す る共同研究を推進した。
⑤ 既存の薬物療法、リハビリテーション 療法、進行期治療方法の標準化
SCA42 の振戦に対するゾニサミドの薬
理効果を検討するため、変異型 CaV3.1 の 電位依存性の異常に対するゾニサミドの影 響を電気生理学的に解析した。ゾニサミド により,変異型 CaV3.1 の活性化曲線は濃 度依存性に過分極方向にシフトし、50%活 性化電位は有意に減少し、野生型CaV3.1の 50%活性化電位と比較して有意差はなくな った。また、電流密度は野生型および変異
型 CaV3.1 ともに有意な減少はなく、変異
やゾニサミド投与の有無によって CaV3.1 の活性化曲線の傾きも変化しなかった。以 上のことから、患者の内服用量に相当する
ゾニサミドは T型 VDCC の阻害作用を介 さず変異型 CaV3.1 の活性化曲線を過分極 方向に平行にシフトさせ、野生型CaV3.1の 活性化曲線に近づけてチャネルの電位依存 性を改善させることが示唆された。
SCD・MSAに対する短期集中リハビリテ ーションを普及させるために、治療プログ ラム(アプローチ内容、頻度、強度、期間)
に関するタイムスタディーをおこなって、
その具体的な治療内容を明らかにした。集 中リハでは、運動失調や廃用症候群の機能 障害に対するアプローチを中心に、ADLに 対する目標指向型練習、自立支援を促すた めの環境整備によって構成される多面的リ ハビリテーションが実施されていた。約 5~6週間、毎日3時間の介入量であった。
MSA 患者について TPPV 装着後の予後 および死因について検討した。MSAの自然 歴と比較すると気管切開施行および TPPV 装着により予後延長の可能性が考えられる。
気管切開後およびTPPV装着後は感染症で 死亡する割合が高い。ただ肺炎による死亡 の割合は高くない。TPPV を装着しても突 然死のリスクはある。本研究によって気管 切開下陽圧人工呼吸器装着後の多系統萎縮 症患者の経過や死因について患者や家族に 十分な情報提供が可能となった。
⑥ 早期診断、もしくは重症度の判定に資 するバイオマーカー研究の推進
脊髄小脳変性症患者の運動機能を新規デ バイスにより定量的に評価し、その重症度 を適切に反映する臨床的バイオマーカーを 開発した。脊髄小脳変性症患者・健康被験 者の患者登録を行い、臨床情報・新規デバ イスによるデータを収集し解析を行った。
上肢の失調をより鋭敏に反映する測定方法 の検討を行い、過去のデータも検討し、経 時的な変化が認められるか解析を行った。
臨床調査個人票を用いた全国規模での SCD、MSAの病態疫学を明らかにするとと もに、予後因子ならびに予後と相関する新 たな評価指標を探索した。MSAとSCDの 病態疫学については、2021年3月に厚生労 働省よりデータの提供を受けたことから、
現在、データクリーニングを実施中である。
MSAについては、早期診断における診断項 目としてどの項目との関連性が高いか、人
工知能を用いたポイントワイズリニア法に よる解析を試みた。
MSAにおいて、髄液5-HIAAとドパミン トランスポーターイメージングを応用した セロトニンイメージングの予後との関連を 検討した。また、個別解析可能な脳容積画 像を用い、多系統萎縮症の早期診断におけ る有用性を併せて検討した。セロトニント ランスポーターの可視化については、全例 において肉眼的に中脳から橋にかけて集積 を確認できる条件設定が可能となった。ま た、高度にセロトニントランスポーターの 集積が低下している症例を確認した。個別 脳容積画像解析システム (iVAC) による検 討では、MSA 53例中52例 (98.1%) で橋/
中小脳脚もしくは被殻において有意な萎縮 を確認でき、T2強調画像におけるMSAに 特徴的な異常所見の出現頻度 69.8%に比し
て28.3%の感度の向上が得られた。MSA-P
とPDの鑑別では感度95.0%、特異度96.2%
であった。
MSA-C の早期診断に中小脳脚 sT1w/T2w
ratio 値が有用であるかどうかを検討した。
健常者と比し、中小脳脚sT1w/T2w ratioは
MSA-Cで有意に低値であり、発症2年以内
のMSA-C(MSA-CE)に限っても有意に低値
であった。中小脳脚 sT1w/T2w ratio の
MSA-CEと健常者の識別におけるAUCは
0.990と高値であり、適切なカットオフ値を
用いることで感度 94.1%、特異度 100%と いう高い識別能を示した。また、MSA-CE において中小脳脚 sT1w/T2w ratio 値と
ICARS スコアに有意な負の相関がみられ、
中小脳脚 sT1w/T2w ratio 値はオリーブ橋 小脳路の障害を反映する画像バイオマーカ ーの候補となりうることが示された。
⑦ 生体試料研究の基盤整備
運動失調症を対象とした患者登録システ ムJ-CAT(Japan Consortium of ATaxias)を 構築し、臨床情報の収集、遺伝子検査によ る病型確定、病型別の前向き自然歴調査、
新規原因遺伝子探索を行った。2021年3月 時点で1868例の登録が得られ、DNA 1544 検体・Cell line 333検体・血漿125検体の 収集を達成し、1096例で遺伝子検査(一次 スクリーニング)が完了し、513例(46.8%) で病型を確定した。遺伝子解析の結果は、
SCA31: 157 例(14.3%)、SCA6: 155 例 (14.1%)、MJD/SCA3: 108 例(9.9%)、 DRPLA:39例(3.6%)、 SCA2: 17例(1.6%)、
SCA1: 17例(1.6%)、SCA8: 12例(1.1%)、
HD4 例(0.4%)、SCA36: 4 例(0.4%)であっ た。病原性変異未同定の症例のうち、家族 歴陽性例・若年発症例200例においては全 エクソーム解析を施行した。孤発例233例 から登録情報を活用してIDCAの候補症例 16例を抽出し、前向き自然歴研究に活用し た。血漿の収集体制を確立し、自己免疫性 小脳失調症の診断支援の体制を構築した。
⑧ 既存レジストリーの拡充整備
北海道内の医療機関、患者、家族の協力の も と 、 MSA の 地 域 レ ジ ス ト リ (HokkaidoRare-disease Consortium for MSA: HoRC-MSA)を構築した。2020年10 月末までに総計で215名の同意を取得し、
201 名で MSA 診断基準の確認など概要調 査を行った。全体の54%がMSA-CでMSA-
Pは28%であった。約半数は歩行困難であ
った。経時的にProbable MSAは増加し、
登録から 5 年経過した症例では 100%とな った。平均UMSARS part 4の5年の変化 はMSA-P で3.7から4.7、MSA-Cで2.9 から 4.2 へと悪化した。レボドパ製剤使用
頻度は5年で40%から73%に増加し、昇圧
剤の使用頻度も 25%から 47%へ増加した。
これまでの観察期間中に11例のMSA-Cが
MSA-P へ病型変化したが、MSA-P から
MSA-Cへの変化はみられなかった。
Japan Spastic Paraplegia Research Consortium(JASPAC)を活用して、本邦の 遺伝性痙性対麻痺 HSP 患者の診断支援、
ゲノム DNA 収集、治療支援を継続した。
021 年度までに JASPAC登録施設数 321、
index patients 872 まで登録例数を増やし ている。登録症例について順次解析を行い、
221 例については遺伝子診断を終了して、
結果を各施設に報告した。また一部の病型 や、症状を呈した疾患については論文発表 を行った。
研究の実施経過:
① 小児例を含めた実態調査
小児期発症 DRPLAについてカルテの後 方視的研究を行った。
SCA1自然歴研究は、自立して 6分間歩 行 が 可 能 な 遺 伝 学 的 に 確 定 診 断 さ れ た SCA1患者を登録し、12ヶ月毎の脳MRI・
脳血流SPECT、6ヶ月毎のSARA、三次元 加速度計を用いた歩行解析、9-hole peg test を行った。
約 9割が宮城県内の医療機関からの検体 で、家族性117件(全体の74%)、孤発例 42件(26%)であった。全160家系のうち、
SCA6が最多(19%)、ついでSCA31(13%)、 SCA3(12%)、SCA1(8%)、そしてDRPLA
(4%)の順であった。
昨年度までの鳥取県内のアンケート調査 で鳥取県での SCD の有病率および病型別 頻度明らかにしてきているが、今年度は、
最も頻度の高い純粋小脳型 SCD を対象と して、臨床的な特徴を明らかにするための 各種臨床スケールに関する調査をおこなっ た。対象は昨年度調査での回答をもとに純 粋小脳型 SCD 患者を診療している 8 施設 とし、31 人について回答が得られている。
アンケート結果を集計継続中である。
徳島県の小脳失調症の患者275名中、70 名 に お い て 異 常 を 認 め 、 そ の 内 訳 は 、 SCA1(3 名)、SCA2(1 名)、SCA3(17 名)、
SCA6(33名)、SCA14(1名)、SCA15(3名)、
SCA31(1名)、SCA36(3名)、DRPLA(8名) であった。
南九州地域における遺伝性運動失調症疑 い 症 例 の う ち 、 FXTAS(FMR1 premutation)を3例(男2、女1)同定し、鹿 児島県の有病率は 0.2 人/10 万人と推定さ れた。3例とも小脳失調およ手指振戦、認知 機能低下を認めた。男性FXTASの2例は、
頭部 MRI にて特徴的な中小脳脚サイン (MCP sign)および著明な白質脳症を認めた。
女性FXTASは、MCP signや白質脳症は認 めず、MSA-C類似の表現型を呈していた。
TBP 遺伝子のリピート伸張は 19 例(2.4%) で認めた。リピート数49回以上の異常伸張 は3例、境界域伸張(41-48)は16例(その内、
1例はbiallelic repeat expansion)であった。
発症年齢は17~79歳(平均54.7歳)、神経 症状は小脳失調が19例、認知症6例、パー キンソニズム5例、痙性3例、自律神経障 害7例、舞踏運動1例で認めた。頭部MRI では小脳萎縮だけでなく、大脳萎縮 5例、
脳幹萎縮6例(hot cross bun sign: 4例、
中脳被蓋萎縮: 2例)で認めた。リピート数 と発症年齢に明らかな相関はなかった。境 界伸張における病的意義については、慎重 に判断する必要がある。
成人発症の小脳性運動失調症を主徴とす る日本人の未診断患者群(SCA1, 2, 6, 7, 8, 12, 17, 31, 36, MJD (SCA3), DRPLA , FXTASは除外済)298例に対するRFC1遺 伝子の病的リピート伸長変異の検索を完了 し、RFC1 遺伝子の病的リピート伸長変異 を2アレルに有する7例を認め、臨床的特 徴を明らかにした。
死亡時78歳、全経過8年のヘモジデリン 沈着症の病理解剖を行い、病理学的な変化 について検討した。病理学的に、両側小脳 白質に帯状の陳旧性出血、尾状核尾部に陳 旧性出血を認めた。小脳では、皮質や一部 髄膜にもヘモジデリンを多数認め、三層変
性を認め torpedoを伴った。大脳では、前
頭葉、側頭葉、頭頂葉の皮質や、淡蒼球、側 坐核にヘモジデリン沈着を認め、グリオー シスを伴っていた。側頭極皮質に小血管の 集簇を認めた。髄膜血管にアミロイド血管 症を散見したが、それに伴う血管の変性は 軽度で、皮質内のアミロイド血管症はわず かで、halipohyalinosisとその周囲のヘモジ デリン貪食増を数カ所認めた。側頭極の小 血管の集簇は限局的であり、アミロイド血 管症もそれほど強い変化でなく、側頭極や 皮質の小さな低信号以外の広範囲のヘモジ デリン沈着の主たる原因とは考えにくく、
小脳出血が要因と判断した。
② 発症前診断、早期診断システムの確立 IDCA診断基準 にてprobable IDCA の 基準を満たす患者の臨床像を調査した。さ らに、Japan Consortium of Ataxias(J-
CAT)事務局に協力を依頼して、J-CATに
登録された孤発性失調症の中から 30 歳未 満で発症したことが理由でprobable IDCA から除外された患者を抽出した。その両患 者群の臨床像を比較することで 30 歳とい う線引きの妥当性を検討した。
免疫組織染色では 4つの知見が得られた。
1つ目に、IDCA、MSA-C、遺伝性失調症、
健常者における免疫組織染色での陽性率は、
16/47(34%)、2/20(10%)、0/13(0%)、
1/18(6%)であり、IDCA群で有意に高率
であった(vs. MSA-C, p = 0.037; vs. 遺伝 性失調症, p = 0.010; vs. 健常者, p = 0.016)。
2つ目に、抗小脳抗体陽性が示されたIDCA 16例は、いずれも既知の抗小脳抗体は陰性 であり、新規の自己抗体である可能性が示 唆された。3つ目に、IDCA患者において、
脳血流シンチフラフィーで非対称性の血流 低 下 を き た す 患 者 は 、 抗 小 脳 抗 体 陽 性 IDCAで10例中5例(50%)、陰性例で24 例中3例(13%)であった(p = 0.031)。4 つ目に、抗小脳抗体陽性IDCA患者は、免 疫組織学的に主に分子層のneuropilが染ま るneuropil patternと、プルキンエ細胞の 細胞質が染まるintracellular patternに分 類された。
③ 失調全般および疾患毎の症状評価方法 の確立
2021 年 3 月までに症例数を増やし、
9HPT も実施した。さらに臨床試験として の倫理審査の申請準備に入った。2021年1 月の班会議で報告し、多施設共同での研究 とする方針も発表した。
VR(Virtual Reality)を用いた計測手法 は、「指追い試験」と「鼻-指試験」におけ る被検者と仮想検者間の指尖間のずれ(距 離)を測定障害の程度として評価可能であ る。また「手の回内・回外試験」については 手の回内・回外の回数測定や手の角度の経 時的変化をグラフ化することが可能である。
今後は、臨床研究審査委員会(IRB)への申 請や対象者のリクルートを進めていく予定 である。
SCD18 例 を 対 象 に motion capture
systemを用いた発話解析を施行した。SCD
群は健常群に比して、口唇運動の変位幅・
運動周期のばらつき,運動一時停止回数が 有意に大きいことが示された。SCD では、
構音器官の運動パタンが時間的・空間的に 不規則になり円滑性を欠いた結果、発話リ ズムの異常や音の歪みが生じると考えられ た。今後さらに多角的解析を加えることで、
その病態生理や神経基盤を明らかにしてい く。
④ 欧米研究組織との連携を強化し、国際 治験推進の基盤作り
DRAPLA, 劣性遺伝性脊髄小脳変性症,に
ついては、各々国際研究推進について検討 した。コロナ禍で、リアルの会議は困難で あったが、研究代表者の小野寺が、ZOOM による国際会議で日本の現状を発表し、ま た国際治験に向けての、今秋の国際学会で のシンポジウムへの取り組みを討議し、決 定した。アジア情勢が不透明な中、どのよ うに国際研究体制を構築していくかが、課 題としてあげられた。またメイヨークリニ ックとの国際共同研究で、SCA3を髄液、血 清で測定することを可能とし、その、治験 に向けて大きな成果となった。
⑤ 既存の薬物療法、リハビリテーション 療法、進行期治療方法の標準化
チ ャ ネ ル 阻 害 作 用 を 介 さ ず 変 異 型
CaV3.1 の電位依存性の異常を改善させる
というゾニサミドの新しい作用を明らかに した。
2020 年1月~11月の期間に集中リハ治 療目的にて入院した脊髄小脳変性症6例を 対象とした。WHO-ICF の各構成要素(心 身機能、活動と参加、環境因子、個人因子)
に対するアプローチ内容の一覧表を事前に 作成した。各療法士(PT:理学療法、OT:
作業療法、ST:言語聴覚療法)は1回60分 で提供した治療プログラムの詳細(アプロ ーチ内容、実施時間、詳細内容、目的)を一 覧表に基づいて日々の記録として記載した。
記録から、各アプローチ内容の頻度、強度、
期間実施時間の配分を集計した。
運動失調症の終末期医療の実態把握と今 後のこの分野の医療の発展に寄与するため に研究を始めた。倫理審査ののち、当院の 診療録からの情報抽出を行った。また既報 告との比較・考察・論文作成に取りかかっ た。初年度は気管切開を実施した多系統萎 縮症患者の長期予後を検討した。次年度は さらに多系統萎縮症患者さん全体に対象患 者を増やすことを考えている。
⑥ 早期診断、もしくは重症度の判定に資 するバイオマーカー研究の推進
脊髄小脳変性症患者の患者登録・健康被 験者の患者登録を行い、臨床情報の収集と 新規デバイスによる評価を経時的に行った。
臨床情報と新規デバイスによるデータを縦 断的に解析した。
臨床調査個人票を用いた調査では、2004 年度から 2008 年度までに国に報告のあっ
た SCD 6,156 例ならびに多系統萎縮症
MSA 4,949例について病態疫学を明らかに
した。また、SCDおよびMSAについては 登録時から3年間での予後の推移について 明らかにした。新たに、2009年度から2014 年度に新たに登録された症例に関する情報 を厚生労働省より提供を受けることができ たことから、SCDについては7,500例の解 析に着手したところである。
セロトニンの可視化については、一般診 療で行われているドパミントランスポータ ー画像において、注射後3時間で撮像する こと、TEW散乱線補正などを用いて分解能 を高めること、画像フュージョンROIソフ ト (MIRADA DBx ver.1.1.1) を 用 い て 3DROI(VOI)設定を行うことで定量化の試 みも順調に進んでいる。
発症 2 年以内の MSA-CE 17 例を含む MSA-C 28 例と健常者 28 例を対象に、撮 像した頭部MRIのT1強調画像とT2強調 画像からsT1w/T2w ratioマップを作成し、
中小脳脚 sT1w/T2w ratio 値を算出した。
ROC 解析により診断能を評価するととも に、中小脳脚sT1w/T2w ratio値と臨床デー タの相関を検討した。
⑦ 生体試料研究の基盤整備
運動失調症の患者登録・自然歴調査のた めのコンソーシアムJ-CATを構築し、必要 な臨床情報を伴う患者登録、遺伝子検査に よる診断精度の向上、重要な病型の前向き 自然歴研究、遺伝子診断未確定における分 子遺伝学的研究を行った。
⑧ 既存レジストリーの拡充整備
MSAレジストリ研究では、北海道内在住 の MSA 患者に各医療機関の担当医を通じ て登録書類を配布し、返信のあった患者に は書面にて同意を取得し、郵送調査票を用 いて年1回臨床情報を収集した。
今年度は 60 例ほどの症例が JASPAC に登録された。またこれまでに登録されて いる症例も含めて順次網羅的遺伝子解析を 行い、診断結果を報告している。一部の病 型や、症状を呈した家系においては臨床症 状を収集し、分子遺伝学的検討を加え論文
発表を行っている。
研究により得られた成果の今後の活用・提 供:
① 小児例を含めた実態調査
小児期発症 DRPLA 症例の自然歴調査を行 うことによって、今後新たに小児期に発症 した DRPLA 症例の予後をできるだけ正確に 予測できるだけでなく、今後治療研究が進 展してきた際に治療効果の判定に用いるこ とも可能となる。
SCA1 自然歴研究は、自立して 6 分間歩行 が可能な遺伝学的に確定診断された SCA1 患者を登録し、12 ヶ月毎の脳 MRI・脳血流 SPECT、6 ヶ月毎の SARA、三次元加速度計を 用いた歩行解析、9-hole peg test を行っ た。
今後も新たな試料と正確な臨床情報の収 集を継続することで、本邦における家族性 SCD の遺伝学的背景と遺伝子型-表現型関 連、地域集積性の解明に寄与することが期 待される。
鳥取県の SCD の頻度や分布、合併症や非 運動症状を加えた臨床症状の特徴を明らか とすることにより、国内での地域差の把握 および高齢化社会における SCD の特徴を明 らかにしていく。これは今後、高齢化する 日本における、SCD 診療の新しい注意点を明 らかにするとともに、高齢純粋小脳型 SCD を対象とした介入試験を行う際に注意すべ き点を提示することにもつながると考える。
徳島県では SCA6 が最多で SCA3 がそれに 続いた。今後遺伝子治療の臨床試験などが 実施される場合は該当者の抽出に活用する 予定である。
FXTAS・SCA17 の変異スクリーニング結果 を、脊髄小脳変性症患者の遺伝学的未診断 例の診断確定に活用する。また、脊髄小脳 変性の病態の解明および治療法開発に応用 する。
② 発症前診断、早期診断システムの確立 IDCA の診断基準をより強固なものにする ため引き続き診断基準に該当する患者の集 積と解析、および除外項目の疾患には該当 しないものの主要項目を満たさない(たと えば、今回の「発症年齢 30 歳未満」という 理由で IDCA から除外される)患者群がどう いう特徴を有するのかを検証して行く。診 断基準により患者を限定的に集積・解析す ることは将来の新たな原因やバイオマーカ ーの同定につながる可能性がある。
抗小脳抗体を伴う IDCA 患者を対象とし た多施設共同医師主導治験,「特発性小脳失
調症に対する免疫療法の有効性および安全 性を検証するランダム化並行群間試験免疫 療法」を開始した(jRCT s031200250)。
③ 失調全般および疾患毎の症状評価方法 の確立
R3 年度に当分担施設で運用を開始し、他 の施設にも拡充するとともに、年間悪化率、
自然歴、重症度評価を研究期間終了時点ま でに得る方向で進める。得られた結果は、
根本治療候補薬の臨床試験にも活用される。
VR(Virtual Reality)を用いた計測手法 を、これまで定量的評価が困難であった上 肢の運動失調の新しい評価指標として活用 することを目標とする。
SARA などの各種臨床指標との相関解析、
各 病 型 ご と の 特 徴 抽 出 、 Voxel-based morphometry などの画像解析を用いた病態 解析、発語失行など,その他の発話障害と の違いなどを検討することにより、SCD の運 動失調性構音の特徴を明らかにし、疾患の 早期診断につなげていく。
④ 欧米研究組織との連携を強化し、国際 治験推進の基盤作り
⑤ 既存の薬物療法、リハビリテーション 療法、進行期治療方法の標準化 Cacna1g ノックインマウスを作成し、小脳 失調症状やチャネル異常の状況について解 析を可能とする。
作成された治療プログラムをホームペー ジなどでの公開やシンポジウムの開催など を通じて、広く療法士が利用できるように する。
⑥ 早期診断、もしくは重症度の判定に資 するバイオマーカー研究の推進 脊髄小脳変性症患者における運動失調定 量化の試みは、失調の重症度を客観的かつ 鋭敏に測定できる臨床的バイオマーカーと して活用する。
既存の臨床調査個人票から得られた結果 を踏まえて、診断基準および予後評価指標 の妥当性を検証することで、今後の臨床試 験の評価軸への導入を目指す。
iVAC は多施設共同基盤構築を進める予定 である。
中小脳脚sT1w/T2w ratio値が、多系統萎 縮症と症状が類似する他の脊髄小脳変性症 との鑑別にも役立つかを検証する。さらに、
実際の臨床現場で簡便に活用できるような ソフトウェア開発も検討している。
⑦ 生体試料研究の基盤整備
運動失調症患者登録・自然歴調査 J-CAT は、運動失調症の診断精度向上・遺伝学的 未診断例の診断確定・自己免疫性小脳失調 症の診断支援・重要な病型の自然歴の解明・
新規原因遺伝子同定に活用する。
⑧ 既存レジストリーの拡充整備
HoRC-MSA は、これまでにない症例数と観 察期間での MSA 前向きコホートデータを提 示しており、今後もさらにデータを集積し 治療法開発に資する基盤的資料を構築する。
HSP の臨床・分子遺伝学的研究結果から臨床 症状からの診断の確度を上げること、また 遺伝子診断による患者の未来予測を立てや すくすることに貢献している。また脊髄小 脳変性症ガイドラインの記載にも役立てて いる。
研究成果の刊行に関する一覧表:
1. Matsushima M, et al. Multiple system atrophy in Hokkaido, Japan: a prospective registry study of natural history and symptom assessment scales followed for 5 years. BMJ Open 2021;11(2):e045100
2. Nomura T, Iwata I, Harada T, Yabe I.
Cerebellar rotation abnormalities observed in Machado-Joseph Disease.
Intern Med 2020;59(24):3253-3254 3. Hirayanagi K, Ozaki H, Tsukagoshi S,
Furuta N, Ikeda Y. Porphyrins ameliorate spinocerebellar ataxia type 36 GGCCTG repeat expansion- mediated cytotoxicity. Neuroscience Research 2021 (in press)
4. 東山雄一, 田中章景. 本年の動向 小脳 と 認 知 機 能. 鈴 木 則 宏 編. Annual Review 神 経. 中 外 医 学 社 東 京 2020:91-98
5. Nakamura H et al. Long-read sequencing identifies the pathogenic nucleotide repeat expansion in RFC1 in a Japanese case of CANVAS. J Hum Genet 2020;65(5):475-480
6. Satoh S, Kondo Y, Ohara S, Yamaguchi T, Nakamura K, Yoshida K.
Intrafamilial phenotypic variation in spinocerebellar ataxia type 23.
Cerebellum & Ataxias 2020;7:7 7. Sawada J, Katayama T, Tokashiki T,
Kikuchi S, Kano K, Takahashi K, Saito T, Adachi Y, Okamoto Y, Yoshimura A, Takashima H, Hasebe N.
The First Case of Spinocerebellar Ataxia Type 8 in Monozygotic Twins.
Intern Med 2020;59(2):277-283
8. Yoshihisa Takiyama. Defining the clinical, molecular and imaging spectrum of adaptor protein complex 4-associated hereditary spastic paraplegia: a cross-sectional analysis of 156 patients. Brain 2020;143:2929- 2944
9. Yoshihisa Takiyama. A novel mutation in the GBA2 gene in a Japanese patient with SPG46: a case report. eNeurologicalSci 2020;19:100238
10. Yoshihisa Takiyama. A Japanese SPG4 patient with a confirmed de novo mutation in the SPAST gene.
Intern Med 2020;59:2311-2315
11. Yoshihisa Takiyama. RFC1 repeat expansion in Japanese patients with late-onset cerebellar ataxia. J Hum Genet 2020;65:1143-1147
12. Yoshihisa Takiyama. A case of late onset Chediak-Higashi syndrome with progressive gait disturbance and cognitive dysfunction caused by novel variant in LYST gene. Neurology and Clinical Neuroscience 2020;8:415-418 13. Yoshihisa Takiyama. Identification of
a novel mutation in ATP13A2 associated with a complicated form of hereditary spastic paraplegia. Neurol Genet 2020;6:e514
14. Yoshihisa Takiyama. Spastic paraplegia with Paget’s disease of bone due to a VCP gene mutation.
Intern Med 2020;60:141-144
15. Yoshihisa Takiyama. A Nepalese family with an REEP2 mutaion:
clinical and genetic study. J Hum Genet 2020 (in press)
16. Yoshihisa Takiyama. SPG9A with the new occurrence of an ALDH18A1 mutation in a CMT1A family with PMP22 duplication: case report. BMC Neurol 2020;21:64
17. Yoshihisa Takiyama. Sympathetic nerve outflow to skin in a case with dentatorubral-pallidoluysian atrophy.
J Clin Neurosci 2020;87:80-83
18. 宮井一郎. 脊髄小脳変性症・多系統萎縮
症 診 療 ガ イ ド ラ イ ン . Clinical Rehabilitation 2020;29(6):584-589
19. 宮井一郎. ヒトにおける歩行と姿勢制
御の脳内機構とリハビリテーション治 療への適用. リハビリテーション医学
(J Rehabil Med) 2020;10(57):965-973 20. 平松佑一,藤本宏明, 乙宗宏範, 畠中め
ぐみ, 矢倉一, 宮井一郎. SCD・MSAに 対するリハビリテーションの実際. 難 病と在宅ケア 2020;26(3):10-13
21. 平松佑一, 宮井一郎. 運動失調の病態
と 臨 床 症 状. 作 業 療 法 ジ ャ ー ナ ル 2020;54(10):1072-1077
研究成果による知的財産権の出願・取得状 況:
1. 遺伝子改変非ヒト動物及び脊髄小脳変 性症の治療薬又は予防薬のスクリーニ ング法、特許出願、特願2018-031706、
出願日:平成30年8月29日、国立大 学法人広島大学
2. 遺 伝 性 疾 患 の 検 出 方 法 ( 特 許 第 6378529号, 出願日: 平成26年4月28 日、取得年月日: 平成30年8月3日、
利権者: 髙嶋 博、樋口雄二郎)
厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)
運動失調の医療水準、患者QOLの向上に資する研究班 (分担)研究報告書
DRPLA と MJD、SCA6 の発症年齢と CAG リピート数の分布の比較
小野寺 理
1),
畠野雄也 1), 石原智彦 1), 廣川祥子 2)
1) 新潟大学脳研究所神経内科, 2) 同 分子神経疾患資源解析学分野
A. 研究目的
本邦の遺伝性脊髄小脳変性症うち 60%以上が
MJD、SCA6、DRPLAの3疾患である。これらの
疾患は、原因遺伝子内の CAG リピート配列の異 常伸長を原因とし、いずれの疾患でも CAG リピ ート数と発症年齢は逆相関する(Ikeuchi, et al. Ann neurol. 1995, Tezenas et al. Brain 2014)。DRPLA、
MJDはともに発症年齢やCAGリピート数が幅広 く分布している一方で、SCA6 については、比較 的高齢発症で、CAGリピート数も均一である。本 研究は、これらの疾患の発症年齢とリピート数分 布について多数例で解析をし、3 疾患の相違点に ついて改めて検討することを目的とした。
B. 研究方法
新 潟 大 学 脳 研 究 所 で 遺伝 子 検 査 が 行 わ れ た DRPLA 208 例、MJD 284 例、SCA6 321例を対象 とした。3疾患の原因遺伝子の発症年齢とCAGリ
ピート数の分布を解析した。
(倫理面への配慮)
本研究は新潟大学医学部倫理委員会の承認を得 て行った.
C. 研究結果 MJDの発症年齢 は40歳前後をピー クとする単峰性の分 布をとるが、
DRPLAは35 50 歳と10 歳台前半の 二つのピークを認め た(図1)。
3疾患ともにCAGリピート数と発症年齢は逆相 関した。リピート数に対する発症年齢の関係 研究要旨
本邦の遺伝性脊髄小脳変性症うち 60%以上が MJD、SCA6、DRPLA の 3 疾患である。これらは原因遺 伝子内の CAG リピート配列の異常伸長を原因とし、いずれの疾患でも CAG リピート数と発症年齢は逆 相関する。DRPLA、MJD はともに発症年齢や CAG リピート数が幅広く分布する一方で、SCA6 は、比較的 高齢発症で、CAG リピート数も均一である。本研究の目的は、これらの疾患の発症年齢とリピート数 分布について多数例で解析をし、3 疾患の相違点について改めて検討することである。当施設で遺伝 子検査が行われた DRPLA 208 例、MJD 284 例、SCA6 322 例を対象とした。SCA6 に関しては、比較的 高齢発症で CAG リピートも均一であった。MJD と比べ、DRPLA では発症年齢の分布に広がりあり、2 峰 性の分布である点が特徴的であった。 リピート数の分散は両者に差はない。DRPLA では 20 歳未満発 症例とそれ以上の発症での比較で、リピート数と発症年齢の影響が異なることが示唆された。
を、局所加重多項式の近似曲線で表すと、MJD では直線状ないしやや上に凸の近似曲線であっ たが、DRPLAでは下に凸の近似曲線であった
(図2)。
さらに発症年齢20歳未満と20歳以上にわけ
てDRPLAで近似直線を求めると、その傾きは
それぞれ-0.90と-3.13、MJDでの近似直線の傾 きは2.49であった(図3)。
D. 考察
本研究は MJD、SCA6、DRPLA 3 疾患の発症年齢 と CAG リピート数の分布解析では渉猟した限り で最も多数例での検討である。
SCA6 に関しては、既報と同様に比較的高齢発 症で CAG リピートも均一であった。一方で DRPLA では発症年齢の分布に広がりある点と 2 峰性の は MJD と比較して分布である点が特徴的であっ た。リピート数の分散は DRPLA と MJD で差がな い。一方で、発症年齢が 20 歳以上の DRPLA で は、リピート数の変化が発症年齢により影響し ている結果が得られ、これが同症の発症年齢の 分布の広がりに影響している可能性がある。ま た発症年齢が 20 歳未満の DRPLA では、リピート 数は比較的広く分布しており、10 歳台前半に発 症年齢のピークを認める要因と考えられる。
E. 結論
SCA6 に関しては、比較的高齢発症で CAG リピ ートが比較的均一であった。MJD と比べ、DRPLA では発症年齢の分布に広がりある点と 2 峰性の 分布である点が特徴的であった。
F. 健康危険情報 特になし.
G. 研究発表 1. 論文発表 なし 2.学会発表 なし
H. 知的所有権の取得状況(予定を含む)
1.特許取得 2.実用新案登録 3.その他
特になし.
厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)
運動失調の医療水準、患者QOLの向上に資する研究班 (分担)研究報告書
多系統萎縮症の発症年齢の検討
小野寺 理
1)、
荻根沢真也
1)、今野卓哉
1)、清水宏
2)、他田真理
2)、柿田明美
2)1) 新潟大学脳研究所脳神経内科、 2) 同 病理学分野
A. 研究目的
多 系 統 萎 縮 症 (multiple system atrophy;
MSA)の平均発症年齢は50歳代とされてきた
が、しばしば高齢発症例を経験する。本研究で は、MSA の発症年齢が高齢化しているという 仮説を立て、自験例をもとに検証することを目 的とした。
B. 研究方法
1970年1月から2018年12月までに当科に 入院したMSA臨床診断例と、1976年1月から 2014 年 12 月まで当施設で病理解剖を行った MSA病理診断例について、診療録から性別、発 症年齢、臨床病型を抽出した。発症年代別の平 均発症年齢を、一元配置分散分析で解析し、
TukeyのHSD検定を用いて多重比較を行った。
また、1968年から2020年に報告されたMSA に関する論文のうち、10例以上の症例数があり、
診断基準を満たし、発症年齢に言及のある論文
について、報告年代と発症年齢の相関を分析し た。
(倫理面への配慮)
本研究は新潟大学医学部倫理委員会の承認を得 て行った。
C. 研究結果
MSA臨床診断例は297例(男性180例、女 性117例)であった。発症年代毎の発症年齢
(平均±標準誤 差)は、
54.0±1.3歳
(1970年代発 症、40例)、 55.6±1.0歳
(1980年代発 症、77例)、 57.8±1.2歳
(1990年代発 症、50例)、 研究要旨
多系統萎縮症(multiple system atrophy; MSA)の発症年齢が高齢化しているという仮説を立 て、自験例をもとに検証することを目的とした。MSA臨床診断例は297例(男性180例、女性 117例)であった。発症年代毎の発症年齢(平均±標準誤差)は、54.0±1.3歳(1970年代発症、
40 例)、55.6±1.0歳(1980年代発症、77例)、57.8±1.2歳(1990年代発症、50例)、60.6±
1.0歳(2000年代発症、74例)、61.5±1.1歳(2010年代発症、56例)で、有意な群間差を認め た(p<0.0001)。多重比較では、1970年代発症群に比して2010年代発症群は有意に高齢発症化 していた(p=0.0003)。MSA病理診断例は81例(男性47例、女性34例)であった。発症年代 別発症年齢(平均±標準誤差)は、55.0±2.4歳(1970年代発症、9例)、60.5±1.4歳(1980年 代発症、28例)、61.8±1.5歳(1990年代発症、24例)、62.2±1.6歳(2000年代発症、20例)
で、高齢発症化の傾向はあるが有意な群間差を認めなかった(p=0.0738)。
60.6±1.0歳(2000年代発症、74例)、
61.5±1.1歳(2010年代発症、56例)で、有 意な群間差を認めた(p<0.0001)(図1)。多 重比較では、1970年代発症群に比して2010 年代発症群は有意に高齢発症化していた
(p=0.0003)。臨床病型では、MSA-Cの発症 年齢が有意に高齢化していた(60.1±1.4歳
[2010年代発症]vs 54.2±1.6歳[1970年代 発症]、p=0.0447)。
MSA病理診断例は81例(男性47例、女性 34例)であった。発症年代別発症年齢(平均±
標準誤差)は、55.0±2.4歳(1970年代発症、
9例)、 60.5±1.4歳
(1980年代 発症、28 例)、
61.8±1.5歳
(1990年代 発症、24 例)、
62.2±1.6歳
(2000年代 発症、20例)
で、高齢発症化の傾向はあるが有意な群間差 を認めなかった(p=0.0738)(図2)。
文献的検討では、183報が条件を満たした。
報告年代と発症年齢に相関があり(r=0.3146, p<0.0001)、年代を経るに従い発症年齢が高齢 化しており、自験例の検討と矛盾しない結果 であった
(図3)。
臨床病型 では、
MSA-C、
MSA-P ともに年 代を経る
に従い高齢化していた。
D. 考察
本邦のMSAの発症年齢は過去50年のうち に高齢化しており、現在の平均発症年齢は60 歳代である。高齢発症化の一因として、人口 の高齢化が寄与している可能性がある。一方 で、発症年齢にピークがあることからは、そ の他の環境因子、遺伝因子など、高齢化以外 の要素が関与する可能性もある。神経変性疾 患の発症年齢が高齢化している事実は、その 成因を考えるうえで興味深い。
E. 結論
MSAの発症年齢は高齢化している。
F. 健康危険情報 特になし。
G. 研究発表 1. 論文発表 なし 2.学会発表
第61回日本神経学会学術大会(2020年8月)
第7回国際多系統萎縮症コングレス(2021年2 月)
第17回アジア・オセアニア神経学会議(2021 年4月)
H. 知的所有権の取得状況(予定を含む)
1.特許取得 2.実用新案登録 3.その他
特になし。
別添4
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)
運動失調症の医療水準,患者QOLの向上に資する研究班 分担研究報告書 脊髄小脳失調症1型の自然歴に関する研究
研究分担者 矢部 一郎 北海道大学神経内科
A. 研究目的
我々は脊髄小脳失調症1型(SCA1)に対する遺伝 子治療の医師主導治験を計画しているが、稀少疾 患であり対象者組み入れ困難も想定される。臨床 試験を成功させるために、予め基礎資料となるSC A1自然歴を明らかにすべく自然歴研究を開始した。
B. 研究方法
自立して6分間歩行が可能な遺伝学的に確定診断 されたSCA1患者を登録し、36ヶ月間の自然歴追跡 を行った。12ヶ月ごとの脳MRI・脳血流SPECT、6 ヶ月ごとのSARA、三次元加速度計を用いた歩行解 析、9-hole peg testを行った。
(倫理面への配慮)
本研究は北海道大学病院自主臨床研究審査委員 会の承認を得て実施している。
C. 研究結果
7名(平均年齢51.6歳)が登録し、2名は36ヶ月目ま で評価を完遂し、3名は30ヶ月目まで評価を行った。
登録時から30ヶ月目までに、SARAは11.6±1.1か ら12.8±1.4、6分間歩行距離は344.6±57.5 mから 256.2±133.2 m、6分間歩行直進時の左右平均振 幅は0.0414±0.0091 mから0.0576±0.027 M、9- hole peg testは37.18±9.21秒から46.59±17.58 秒にそれぞれ悪化した。脳血流も30ヶ月で減少傾 向を認めた。
D. 考察
SCA1の評価指標はいずれも経時的に悪化がみ
られ、SCA1の自然歴としての対照データになりう
ると考えられた。
E. 結論
独歩可能なSCA1患者の脳MRIや脳血流SPECT、
神経診察、三次元加速度計を用いた歩行解析など のデータを経時的に収集し、SCA1自然歴データベ ースを構築中である。得られたデータは臨床試験 の基礎データ、対照データとなる他、優れた評価 法を見出すためにも重要な資料となる。
G. 研究発表 1.論文発表 なし 2.学会発表 なし
H. 知的財産権の出願・登録状況(予定を含む)
1.特許取得 なし
2.実用新案登録 なし
3.その他 なし
研究要旨
脊髄小脳失調症 1 型の治験を念頭に自然歴データの収集を開始し、SARA、歩行解析、
9-hole peg test、脳血流SPECTなどのデータにて経時的な悪化を確認した。これらは臨床
試験の対照データとして重要な資料となる。
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)
運動失調症の医療水準,患者QOLの向上に資する研究班 分担研究報告書 多系統萎縮症の地域レジストリに関する研究(HoRC-MSA)
研究分担者 矢部 一郎 北海道大学神経内科
A. 研究目的
北海道内の医療機関、患者、家族の協力のもと、
MSAの地域レジストリ(HokkaidoRare-disease C onsortium for MSA: HoRC-MSA)を構築し、大規 模かつ長期間にわたるMSAの自然歴を確認する。
B. 研究方法
北海道大学病院自主臨床研究審査の承認を得て2 014年11月から患者登録を開始した。対象は北海道 内在住のMSA患者で、各医療機関の担当医を通じ て登録書類を配布し、返信のあった患者には書面に て同意を取得し、郵送調査票を用いて年1回臨床情 報を収集した。
C. 研究結果
2020年10月末までに総計で215名の同意を取得 し、201名でMSA診断基準の確認など概要調査を 行った。全体の54%がMSA-CでMSA-Pは28%であ った。約半数は歩行困難であった。経時的にProba ble MSAは増加し、登録から5年経過した症例では 100%となった。平均UMSARS part 4の5年の変 化はMSA-Pで3.7から4.7、MSA-Cで2.9から4.2へ と悪化した。レボドパ製剤使用頻度は5年で40%か ら73%に増加し、昇圧剤の使用頻度も25%から47%
へ増加した。これまでの観察期間中に11例のMSA- CがMSA-Pへ病型変化したが、MSA-PからMSA- Cへの変化はみられな
かった。
D. 考察
MSA-PはMSA-Cよりも重症であり、薬剤使用も
多い。経過中の病型変化は黒質線条体系の神経変 性が遅れて生じる可能性を示唆すると考えられた。
E. 結論
HoRC-MSAは、これまでにない症例数と観察期 間でのMSA前向きコホートデータを提示しており、
疫学的な価値がある。今後もさらにデータを集積 し治療法開発に資する基盤的資料を構築したい。
G. 研究発表 1.論文発表
Matsushima, et al. BMJ Open 11, e045100, 2 021
2.学会発表
Matsushima, et al. 第61回日本神経学会学術大 会(ポスター誌上発表)2020年8月
H. 知的財産権の出願・登録状況(予定を含む)
1.特許取得 なし
2.実用新案登録 なし
3.その他 なし
研究要旨
北海道における多系統萎縮症の地域レジストリを構築し、これまで5年間にわたって疫学 的データを蓄積している。評価指標の経時的な悪化や薬剤使用頻度の増加などが示された傾 向は、今後の治験に際しての基礎データとなり得る。
厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
運動失調症の医療水準,患者 QOL の向上に資する研究 分担研究報告書
家族性脊髄小脳変性症の遺伝子解析(宮城県)
研究分担者:青木 正志 研究協力者:割田 仁
東北大学大学院医学系研究科 神経内科学分野
研究要旨
脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration, SCD)は中年期以降に多く発症し、進行性の小脳 失調をきたす神経変性疾患であり、難治性疾患の代表である。根本的治療法は未確立なことか ら、その調査研究は厚生労働行政においてきわめて重要である。SCD全体の約30%を占める家 族性SCDは病型ごとの人種差や地域集積が知られ、本邦における頻度、臨床像、遺伝学的背景 を明らかにする必要がある。宮城県における家族性SCDの臨床情報と生体試料を継続的に収集 し、自験160家系を対象に標的を絞った遺伝子解析をおこなった結果、その56%において遺伝 学的背景を明らかにした。
A. 研究目的
脊髄小脳変性症(SCD)は小脳および関連 する神経経路が選択的に変性する,主として 成人発症の神経変性疾患であり、その 30%
は家族性に発症する(家族性SCD)。現在ま で 70 を超える家族性 SCD 原因遺伝子が国 内外で同定されているが、本邦における頻度、
臨床像、遺伝学的背景は十分解明されていな い。本研究では宮城県における日本人家族性 SCDの遺伝学的背景を解明し、今後その臨床 像を明らかにし治療法開発研究の礎とする。
B. 研究方法
2012年4月 か ら2020年9月 ま で8.5年 間 に 研 究 分 担 者 ら の 施 設 に 遺 伝 子 解 析 依 頼 の あ っ た日本人家族性 SCD 160 家系を対象と した。本邦における家族性SCD 病型の頻度 お よ び 臨 床 像 の 特 徴 か ら spinocerebellar ataxia(SCA)1~3,6~8,12,17,31,およ び歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
の疾患関連変異の有無を末梢血白血球由来 DNA試料を対象とし常法に則ったPCR法に
て検索した。確認のために必要な場合サン ガーシークエンスを加えた。
(倫理面への配慮)
本研究はヘルシンキ宣言、人を対象とする 医学系研究に関する倫理指針、およびヒトゲ ノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に 従って実施された。また、東北大学医学部・
医学系研究科倫理委員会にて承認されてい る。
C. 研究結果
対象160家系の91%が宮城県、6%が山形
県の医療機関からの依頼検体で、ほとんどが 宮城県内在住の患者由来であった。明らかな 家族歴を有した家系は優性遺伝性が疑われ
全体の73%を占めた。
全 160家系の 56%で既知遺伝子変異を同
定した。SCA6 が最多(19%)、ついでSCA31
(13%)、SCA3(12%)、SCA1(8%)、そし
てDRPLA(4%)の順であった。さらに、孤
発42例の中でも 3例がSCA6、1例はSCA3
と判明した。以上の中で2例がロバチレリン KPS-0373第III相臨床試験2に参加した。
D. 考察
優性遺伝性 SCD の病型内訳は、本邦既報 の傾向と類似していた1, 2)。本研究の問題点 として単施設の後ろ向き解析であること、網 羅的解析ではないこと、選択バイアスの存在、
劣性遺伝性 SCD の検索(依頼)に欠けるこ と、そして結果的に未診断家系が約半数と多 いことが挙げられた。
今後おこなわれると想定される臨床試験
(治験)を考慮し、臨床像も含めた宮城県内 の家族性 SCDの実態調査研究が必要と考え られた。今後も新たな試料と正確な臨床情報 の収集を継続することで、本邦における家族 性SCD の遺伝学的背景と遺伝子型-表現型 関連、地域集積性の解明に寄与することが期 待される。
E. 結論
本調査研究により、日本人家族性SCD の 遺伝学的背景の一旦が明らかとなった。この ような成果の蓄積により、本邦における運動 失調症の診断・治療・療養およびQOLの向 上につなげる。
【参考文献】
1) 日本神経学会(監)下記ガイドライン作成 委員会(編) 脊髄小脳変性症・多系統萎縮 症診療ガイドライン2018.
2) 他田正義,横関明男,小野寺 理.本邦に おける遺伝性脊髄小脳変性症の全体像. Brain Nerve 2017.
F. 健康危険情報 該当なし
G. 研究発表 (2020/4/1 2021/3/31発表) 1. 論文発表
Ono H, Suzuki N, Kanno SI, Kawahara G, Izumi R, Takahashi T, Kitajima Y, Osana S, Nakamura N, Akiyama T, Ikeda K, Shijo T, Mitsuzawa S, Nagatomi R, Araki N, Yasui A, Warita H, Hayashi YK, Miyake K, Aoki M.
AMPK Complex Activation Promotes
Sarcolemmal Repair in Dysferlinopathy. Mol Ther 2020; 28(4): 1133-1153.
Suzuki N, Akiyama T, Warita H, Aoki M.
Omics Approach to Axonal Dysfunction of Motor Neurons in Amyotrophic Lateral Sclerosis (ALS). Front Neurosci 2020; 14:
194.
Li Y, Ikeda A, Yoshino H, Oyama G, Kitani M, Daida K, Hayashida A, Ogaki K, Yoshida K, Kimura T, Nakayama Y, Ito H, Sugeno N, Aoki M, Miyajima H, Kimura K, Ueda N, Watanabe M, Urabe T, Takanashi M,
Funayama M, Nishioka K, Hattori N. Clinical characterization of patients with leucine-rich repeat kinase 2 genetic variants in Japan. J Hum Genet 2020; 65(9): 771-781.
Izumi R, Takahashi T, Suzuki N, Niihori T, Ono H, Nakamura N, Katada S, Kato M, Warita H, Tateyama M, Aoki Y, Aoki M. The genetic profile of dysferlinopathy in a cohort of 209 cases: Genotype-phenotype
relationship and a hotspot on the inner DysF domain. Hum Mutat 2020; 41(9): 1540- 1554.
Kakinuma K, Baba T, Ezura M, Endo K, Saito Y, Narita W, Iizuka O, Nishio Y, Kikuchi A, Hasegawa T, Aoki M, Suzuki K.
Logopenic aphasia due to Lewy body disease dramatically improved with donepezil.
eNeurologicalSci 2020; 19: 100241.
Leventoux N, Morimoto S, Hara K, Nakamura S, Ozawa F, Mitsuzawa S, Akiyama T, Nishiyama A, Suzuki N, Warita