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乳児期における色彩選好と気質の関連

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(1)

乳児期における色彩選好と気質の関連

著者 内山 伊知郎

雑誌名 人文學

号 176

ページ 184(1)‑175(10)

発行年 2004‑12‑20

権利 同志社大学人文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007632

(2)

乳児期における色彩選好と気質の関連

内 山 伊 知 郎

乳児の知覚能力については,近年,刺激選好法や馴化法による研究が進 展し,新たな知見が積み重ねられている。明度は出生直後の早い時期から すでに認識でき,無彩色の弁別が明るさにより可能である。また,3ヶ月 を過ぎると色彩にも弁別的に反応するようになり,赤や青が緑よりも長く 注視されることが報告されている(Bornstein, 1978)。Bornstein(1975)は

4, 5

ヶ月の乳児を対象に輝度の等しい

4

種類の原色と,それらの混色(赤 と青,黄と緑,黄と赤,青と緑)に対する選好を調べ,混色よりも原色を 選好されること,また原色間では赤,青,黄,緑の順で選好されることを 見出している。

また,Russell(1986)は,新生 児,1ヶ 月,3ヶ 月 の 乳 児

60

人 を 対 象 に,4種類の色彩立方体(赤,黄,青,緑)と

1

つの無彩色立方体(灰)

2

通りの輝度でランダムにスクリーン上に提示し,注視時間を検討し た。その結果,新生児は低輝度を選好すること,すべての月齢で無彩色よ りも色彩刺激を好むこと,3ヶ月児は青や緑のような短波長の色彩よりも 赤や黄などの長波長の色彩を選好することを見出した。しかし生後

1

ヶ月 以前には色彩間に注視時間の差は認められなかった。したがって,現在で は,生後

4

ヶ月ごろには限定的ではあるが色彩選好が現われていると考え られている(Bornstein, 1978)。

色彩の好みは,産業分野の製品開発における必要性をはじめ,日常生活 においても関心をもたれることが多い。色の好みが生じるメカニズムの解 明は多くの研究者が志向しているが,現在は児童期以降の好みに違いを生

(184) 1

(3)

み出す要因として,性差,パーソナリティ,文化などを変数とした現象記 述的な研究の段階にとどまっている。なかでも行動傾向を生み出すパーソ ナリティには個人差が大きく,色の好みとの関連は数多くの検討されてい る。しかし,パーソナリティは,児童期以降に環境の影響を受けて発達す ると考えられ,乳児期には形成されていないと考えられてきた。乳児期に おける個人差は,気質といわれる生得的,生物的な機序に基づく行動傾向 により検討が進められている。

気質研究は

Thomas, Chess, & Birch(1970)の継断調査により始められ

たといえる。これは,乳児期における気質と児童期における逸脱行動の関 連を見出そうとしたものである。乳児の気質的特徴の中でも,活動水準,

反応強度,順応性,周期性などが乳児期を通じてとりわけ一貫していると いわれる。これらの気質特徴に基づいて,児童期に規則正しく,機嫌がよ いことが多く,そして環境の変化に慣れやすい「扱いやすい」子どもと,

その反対の「扱いにくい」子ども,さらに「慣れるのに時間を要する」子 どもを区別し,乳児にも気質上の個人差があることを示した。この時期の 個人差は,生物的影響が強く反映していると考えられ,発達とともに環境 の要因の影響を受けると考えられている。

Goldsmith, Buss, Plomin, & Rothbart(1987)は,気質を反応性と自己制

御における比較的安定した,生物的機序に基づいた個人差と定義してい る。ここで反応性とは,行動的,内分泌的,および中枢神経的反応の興奮 性を指している。また,自己制御とは接近,回避,および抑制のようなプ ロ セ ス で あ り,反 応 性 を 強 め た り 抑 制 す る 調 整 機 能 で あ る。Rothbart

(1997)は,乳児の感情表出傾向に視点をおいて,気質を測定するための 乳児行動質問紙(Infant Behavior Questionnaire : IBQ)を作成している。

ここでは,感情に関連する

6

つの尺度が抽出されている。すなわち,(1)

活動水準:はいはい,転がり,つかまり立ちのような全体的な運動,(2)

2 (183) 乳児期における色彩選好と気質の関連

(4)

笑顔・笑い:すべての状況における子どもの笑いや笑顔,(3)怖れ:強烈 または初めての刺激を受け入れることに対する遅延や苦痛,(4)制限に対 する苦痛:食事や着替えなどの拘束されるような状況,(5)なだまりやす さ:養育者によるなだめによって自分を落ち着かせること,(6)目標定 位:刺激に特に目立った変化がないとき,ひとつのものに対する注意の持 続時間,の

6

尺度である。

色彩選好と乳児の気質の関連が明らかになれば,成人期における色彩選 好の生物的な要因の解明につながることになる。色彩選好は環境要因の影 響をうけて発達するが,その根底に生物的な機序が存在することを明らか にするために,選好が始まる乳児期における検討が必要となる。本研究で は,乳児の色彩選好に気質が関連するかどうかを検討し,色彩選好の発生 機序の解明につなげていきたい。

目 的

生後

8

ヶ月から

10

ヶ月の乳児に対し,色彩の対提示よる刺激選好法に より色彩選好を調べ,乳児行動質問紙を用いて気質との関係を検討した。

方 法

被験児

京都市内の保健所で行なわれた

8

ヶ月健診を受診するために来所した母 子から募集し,男児

14

名,女児

15

名,計

29

名(M=40.03週)の乳児を 被験児とした。

色彩刺激

色刺激は輝度の等しい(20 cd/m2:誤差は

1.0 cd/m

2以内)3つの有彩色 乳児期における色彩選好と気質の関連 (182) 3

(5)

(赤,青,緑)および無彩色(灰)をパーソナルコンピュータに内蔵され ている,ペイントソフトで作成した。XYZ表色系による色度座標は赤

0.58, 0.35,青 0.16, 0.08,緑 0.32, 0.54,グレー 0.30, 0.34

であった。色彩 刺激は

2

つの

17

インチディスプレイの全画面に出力されるよう設定し た。輝度は色彩輝度計(BM-7,トプコン)により測定した。

刺激提示装置

刺激選好はパーソナルコンピュータで,2台の

17

インチカラーディス プレイ(RDF 17 S,三菱)に同時に刺激提示できる装置が使用された。

行動観察記録装置

被験児の様子を測定するための観察用ビデオカメラを設置した。NTSC

4

分割画面を使用し,ビデオレコーダーに録画した。画面には被験児の上 半身,部屋全体の映像,ディスプレイに提示される刺激映像が合成され記 録された。

実験は,乳幼児用の実験室内で実施した。実験者はモニターで観察しな がら,被験児から見えない位置で色彩刺激を提示した。2つのディスプレ イは

1 m

の距離で乳児の前に設置された。

気質測定質問紙

乳児の気質測定には

Rothbart(1981)が作成した乳児行動質問紙を用い

た。これは,乳児がさまざまな日常状況で行う行動を列挙したもので,こ の

1

週間におけるそれらの行動出現頻度について「まったくなかった」

「たまにしかなかった」「半々よりないときのほうが多かった」「ある時と ない時と半々だった」「半々よりある時の方が多かった」「たいていはあっ た」「いつでもあった」の

7

段階で回答してもらうものであった。これは

6

つの気質尺度を表す

94

項目からなる。6つの尺度とは,前述の「活動水 準」「笑顔と笑い」「怖れ」「制限時間に対する苦痛」「目標定位」「なだま りやすさ」である。

4 (181) 乳児期における色彩選好と気質の関連

(6)

手続き

母親に両画面に色彩が提示されること,乳児がどちらの色彩を選好する かを調べる旨説明した。乳児の顔の向きを

2

つの画面の中央にすること,

母親は中央を見ているよう教示した。

はじめに両ディスプレイに無彩色刺激の灰色を提示し,次いで,赤,

青,緑の色彩刺激を

2

つずつ左右ランダムに提示されるよう

6

通り提示し た。これを

2

度繰り返した。最後に再び無彩色刺激を提示した。色刺激の 提示時間は

6

秒間で,被験児の目線が両ディスプレイの中央に向いたとこ ろで次の試行に移った。色刺激をすべて提示したところで実験は終了し た。終了後,母親に乳児の気質を測定するため,乳児行動質問紙を記入し てもらった。

結 果

色彩の注視時間

まず,赤,青,緑,灰色それぞれの平均注視時間を算出した(図

1

参 照)。その結果,赤,青,緑,灰色の順で注視時間が長かった。それらの 注視時間を対数変換し,色彩と性別との

2

要因分散分析を行った。その結

図1 色彩刺激に対する注視時間

乳児期における色彩選好と気質の関連 (180) 5

(7)

果,性別には主効果がみられなかったが,色別の注視時間には主効果がみ られたため(F(3,81)=39.10,

p<.05)

,多重比較を行った。その結果,灰 と赤,青,緑の間にそれぞれ

5% 水準で有意な差がみられ,緑と赤,緑と

青の平均注視時間の間にも

5% 水準で有意差が認められた。赤と青に有意

な差はみられなかった。

行動評定質問紙の各気質尺度と色彩刺激に対する注視時間の関連

1

は乳児行動質問紙によって算出された

6

つの気質尺度平均値及び標 準偏差を示したものである。

これらの気質尺度平均値と色彩刺激に対する平均注視時間とに関連があ るかどうか調べるため,ピアソンの相関係数を算出した。その結果,「な だまりやすさ」の気質尺度と赤の平均注視時間に負の相関(r=.−432,

p

<.05),そして「笑顔」の気質尺度と青の平均注視時間に正の有意傾向を もつ相関(r=.352,

p<.10)がみられた。

考 察

本研究では,8−10ヶ月の乳児において,無彩色より色彩が選好され,

また,ここで使用した色彩の組み合わせの中では,赤と青が緑より選好さ れる結果となった。Russell(1986)は

3

ヶ月までの乳児,Staples(1932)

表1 各気質尺度の平均値及び標準偏差

平均値 SD

活 動 水 準 制 限 苦 痛 目 標 定 位

笑 顔

怖 れ

なだまりやすさ

4.606 3.554 3.497 4.535 3.060 4.874

0.90 0.74 0.81 0.63 0.71 0.73 制限苦痛:制限に対する苦痛

6 (179) 乳児期における色彩選好と気質の関連

(8)

2−5

ヶ月の乳児を対象にした研究で,無彩色よりも色彩が好まれる ことが見出されており,本研究でもそれが確認されたといえる。また,

Bornstein(1975)や Staples(1932)に お い て,赤,青,緑 の 順 に 好 ま れ

ているが,本研究でも同様の結果が得られている。

幼児期に色彩の好みに性差が出現するが(佐伯,1981),その後の研究 では,幼稚園の年少時には現れない色彩の好みが年長時には見られること も確認されており,この時期の性役割獲得と関連していると考えられる。

本研究でも,色彩選好の性差はみられず,この発達プロセスを支持する結 果であるといえる。さらに,成人になると,色彩の好みは分化し,個人差 が大きくなることがわかっている。決して赤が最も好まれるわけではない のだが,乳児期に赤がもっとも選好される原因として赤がもつ物理的特徴 が挙げられる。赤は橙や黄などとともに長波長であり進出色と呼ばれる。

短波長の緑などに比べ,近くに感じられる(大山,1994)。乳児が赤を選 好するのは,このような赤のもつ刺激価の強度が影響していると考えられ る。

ただ,緑と赤,緑と青の注視時間に有意差がみられ,緑よりも赤と青を 好むが,赤と青の平均注視時間の間には有意な差が認められないことが明 らかとなったため,9ヶ月前後では成人と同様に色彩の選好が出現してい る可能性が考えられる。乳児期の色の選好に影響する要因として,成人の パーソナリティに相当する乳児の気質が関係しているのではないかと推測 し,Rothbart(1981)の乳児行動質問紙を用いて気質尺度と色彩の選好を 分析した。その結果「なだまりやすさ」の気質が低いほど赤の平均注視時 間は長く,「笑顔」の気質が高いほど青の平均注視時間が長い傾向がみら れた。成人では,外部の刺激に対して活発に反応したり,感情的に豊かで ある人が赤を好むとされている(稲村,1981)。赤を選好する乳児は,「な だまりにくい」気質をもつとすれば,感情的で激しい行動傾向を持つ可能 乳児期における色彩選好と気質の関連 (178) 7

(9)

性が示唆される。それに対して,青を選好する乳児が「笑顔」を示しやす いのは,気分が安定し,落ち着いた感情傾向をもっている可能性が考えら れる。これは成人になると好まれることが多い色である。赤と青の波長の 差違に比べて,選好の程度が近いのは,個人要因が影響しているのであろ う。

Allport(1961)は気質を個人の生得的な情動的性質と定義しており,感

情に関する現象との関連は強いと想定される。ただ,母親による乳児の気 質評定は,日常生活における広範囲な状況での様子について把握すること ができるという長所のある反面,母親による子どもの知覚には主観的要素 が少なからず含まれているため,乳児の気質を正確にとらえられない可能 性がある(陳・草薙,1992)。したがって,現在,質問紙によらない手法 が開発されており(Goldsmith & Rothbart, 1991),それらの併用も今後検 討される余地がある。また,今回の研究で対象となった乳児の数は

30

名 弱であった。6種類の気質について十分な分布があったとは考えにくく,

今回の相関による結果は限定的であった可能性がある。今後,対象の数を 増やすことにより,さらなる知見を見出すことができると考えられる。

要 約

本研究では

29

名の

8

ヶ月から

10

ヶ月児の色彩選好を調べるとともに,

気質との関連性を検討した。3つの色彩(赤,青,緑)と無彩色(灰)を

2

つのディスプレイに提示して各色の注視時間を測定したところ,無彩色 よりも色彩が選好されること,緑に比べ赤と青が有意に選好されることが 確認された。

Rothbart(1981)の乳児行動質問紙を用いて気質尺度と色彩の選好の関

連を検討したところ,「なだまりやすさ」の気質が低いほど赤の平均注視 8 (177) 乳児期における色彩選好と気質の関連

(10)

時間は長く,「笑顔」の気質が高いほど青の平均注視時間が長い傾向が見 出された。したがって,この時期に,すでに気質と色彩の選好に関連があ ると考えられる。

引用文献

Allport, G. W. 1961Pattern and growth in personality. New York : Rinehart & Win- ston.

Bornstein, M. H. 1975 Qualities of color vision in infancy. Journal of Experimental Child Psychology,19, 401−419.

Bornstein, M. H. 1978 Visual behavior of the young human infant : Relationships be- tween chromatic and spatial perception and the activity of underlying brain mecha- nisms.Journal of Experimental Child Psychology,26, 174−192.

陳 省二・草薙恵美子 1992 情緒と気質 高橋道子(編) 新・児童心理学講 座−胎児・乳児期の発達 金子書房 Pp. 92−136.

Goldsmith, H. H., Buss, A. H., Plomin, R. & Rothbart, M. K. 1987 What is tempera- ment? Four approaches.Child Development,58, 505−529.

Goldsmith, H. H. & Rothbart, M. K. 1991 Contemporary instruments for assessing early temperament by questionnaire and in the laboratory. In J. Strelau & A. An- gleitner(Eds.)Explorations in temperament : International perspectives on theory and measurement.New York : Plenum Press. Pp. 249−272.

稲村耕雄 1981 色彩論 岩波書店

大山 正 1994 色彩心理学入門 ニュートンとゲーテの流れを追って 中央公 論社

Rothbart, M. K. 1981 Measurement of temperament in infancy.Child Development,52, 569−578.

Rothbart, M. K. 1997 Temperament. In N, Eisenberg(Ed.),Handbook of child psychol- ogy. New York : John Wiley & Sons. Pp. 105−176.

Russell, J. A. 1986 An evaluation of color preference in early infancy.Infant Behavior and Development,10, 143−150.

佐伯栄三 1981 4〜5歳児における色の好みに関する研究(1)宮崎大学教育学

部紀要 人文科学,50, 13−20.

Staples, R. 1932 The responsiveness of infants to color.Journal of Experimental Psy- chology,15, 119−141.

Thomas, A., Chess, S., & Birch, H. G. 1970 The origin of personality. Scientific American,223, 102−109.

乳児期における色彩選好と気質の関連 (176) 9

(11)

謝 辞

本研究の実施にあたり,上京保健所の伊藤英子所長をはじめとする保健所の職 員の皆様,また,研究にご参加いただきました乳児ならびにご家族の方々の御協 力を得ました。記して深く感謝いたします。また,研究の協力を得た矢野晶子さ んに感謝いたします。

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参照

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