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映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジ ズム : ステレオタイプ化されたイメージと歴史的 変化の分析

著者 朴 ?彬

雑誌名 評論・社会科学

号 125

ページ 77‑104

発行年 2018‑05‑31

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2018.0000000130

(2)

要約:本稿の目的は,社会文化にみられる高齢者のステレオタイプを分析することである。

まず,高齢夫婦が主人公である映画『東京物語』(1953)とそのリメイク作品である『東京 家族』(2013)を対象に,登場人物間の人間関係や援助行動,セリフの分析を通して,両映 画にみられる違いを明らかにする。次に,映画分析の結果を既存のエイジズム研究で明ら かになっている高齢者イメージと比較する。その結果,高齢者は悠々自適,親孝行,援助 の対象,孫が好き,女性高齢者の自己犠牲というステレオタイプが明らかになった。しか し一方で,高齢者自身が他の世代を援助する行動は受動的なものから能動的なものへと変 化し,その数も増加した。さらに,家族以外の人物による高齢者に対する表現(エイジズ ム)も多様になってきていることがわかった。

キーワード:エイジズム,高齢者像,ステレオタイプ,東京物語,東京家族

目次

1.問題の所在

1-1.何を問題とするか 1-2.なぜ映画なのか

1-3.『東京物語』と『東京家族』を素材に 2.研究の目的と方法

2-1.研究目的 2-2.研究方法 3.分析結果

3-1.登場人物の分析

3-2.高齢者と他の世代間の援助行動 3-3.エイジズムがみられるセリフ

4.映画分析を通して明らかになった高齢者イメージとその変化 4-1.ステレオタイプ化された高齢者イメージ

4-2.両映画にみられる歴史的変化 5.考察

────────────

同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程

2018228日受付,査読審査を経て2018318日掲載決定

論文

映画『東京物語』と『東京家族』にみられる エイジズム

──ステレオタイプ化されたイメージと歴史的変化の分析──

朴 蕙彬

77

(3)

1.問題の所在

1-1.何を問題とするか

エイジズム(ageism)とは,高齢者や老いに対する態度であり,ステレオタイプ,偏 見,差別という三つの要素によって構成された概念である(バトラー

1975 : 1991,パ

ルモア

1990 : 2002, Aronson 2013,池上 2014)。中でも,ステレオタイプは定型化され

たイメージであり,最も根底に存在しているエイジズムの出発点として重要な要素であ る。しかしながら,これまでのエイジズム研究においてはステレオタイプに関する本格 的な分析は行われておらず,このことは従来のエイジズム研究における限界である(朴

2018)。ステレオタイプは,ミクロ(個人)レベルからメゾ(社会文化)レベル,マク

ロ(制度,システム)レベルまであらゆる場面に存在するため,気づかれにくいという 特徴を持っている。しかし,ステレオタイプは自信喪失,低い自尊感情をもたらすなど その影響力は決して看過できないものである(Steele 2010)。本稿は,このような背景 から,高齢者に対するステレオタイプを分析することによって,エイジズムの特徴を明 らかにする。

上記の課題に取り組む際,何を対象にステレオタイプを分析するべきか。この点につ いてはエイジズム研究の課題からヒントを得ることができる。筆者は別稿において,先 行研究からみられる課題として,社会文化におけるエイジズム(1)の分析が必要であるこ とを指摘した(朴

2018)。社会文化におけるエイジズムの本格的な分析を行うことで,

ミクロレベルにとどまりやすいエイジズム研究の限界を克服することができるからだ。

しかし,ある社会や文化にみられるエイジズムとはいっても,やみくもにアプローチし ていてはその具体的な中身を明らかにすることはできない。そのため,社会や文化が反 映されている特定の素材を選択する必要がある。

これまで多くの差別や偏見,ステレオタイプに関する研究においては,社会や文化が よく反映されているだけでなく我々に影響を与える素材としてメディアが取り上げられ ている(パルモア

2002,キムら 2015)。メディアは,製作された時代を反映するだけで

なく日常に近いため,その影響を認知することができないほど我々の生活に密接な関係 があることはすでに指摘されている(キム

2016)。特に,核家族化などによって高齢者

との関わりや同居経験がない世代も増えてきており,メディアでみられるステレオタイ プは高齢者との直接的な関わりの経験がない,あるいは少ない人にとってはさらに強く 影響することが考えられる。

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 78

(4)

1-2.なぜ映画なのか

前節で述べたように,本稿は,メディアにみられる高齢者のステレオタイプを問題の 所在とするが,研究の素材としてメディアの中でも「映画」を取り上げる。その理由 は,以下の

3

点にまとめることができる。

第一に,映画は社会と文化から影響を受け,他方でその社会や文化に影響を及ぼすも のである。「文化的貯水池(cultural reservoir)」としての映画は,社会文化のなかで特定 の対象がもつステレオタイプにどのようなものがあるのかを明らかにすることができる 有効な素材として考えられる(Cape 2003)。

第二に,映画は国籍,年齢,性別などを越えた影響力をもつからである。近年,映画 の普及の仕方が多様になってきており,映画館で上映されるだけでなく,VHS, DVD,

インターネット配信などを通してより接近性が向上したといえる(Wedding 2012)。こ のように,接近性が向上したことは,誰でも自分が見たい時に映画の映像を手に入れや すくなったことを意味する。

第三に,ステレオタイプ研究において映画は研究素材として取り扱いやすい。日常生 活におけるステレオタイプを分析することは容易なことではない。しかし,映画の場合 は,限られた時間の中でストーリーが展開されることにより,日常生活や出来事が集約 して濃密に描かれる。さらに,分析を行う際に繰り返し再生し確認をすることができる 点,音声および映像が同時にデータとして得られるという利点がある。

すなわち,映画は実社会を反映し,特定対象へのイメージ形成および大衆の認識に大 きく影響を及ぼしやすいことが考えられ,特定対象のステレオタイプの分析において有 効な素材であるといえよう。

実際に,これまで高齢者の性や愛,障害者,ジェンダー,アルコールや薬物中毒者,

黒人,大学教授などが映画のなかでどのように描かれているかを分析することで,分析 対象に対する社会のステレオタイプを明らかにした研究が行われてきている(Cape

2003,今 泉 2010 ; 2012,イ 2011,カ ン ら 2011,パ ク 2012, Wedding

2012,赤 尾

2015,塙 2015,上瀬ら 2016)。これらの研究では,複数の映画を素材に研究対象のイ

メージ分析を通して社会にあるステレオタイプについて指摘している。

上記のことを踏まえて,本稿では,社会にある高齢者のステレオタイプを明らかにす るために,映画に描かれている高齢者のイメージ分析を行う。その際には,定型化され たイメージ分析だけでなく,時代とともに変化するイメージの分析も同時に行う必要が あるだろう。なぜなら,上瀬ら(2016)の研究でみられるように,ステレオタイプには 変化せず存在するものもあれば,時代の変化とともに新たなものが生まれることもある からである。

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 79

(5)

1-3.『東京物語』と『東京家族』を素材に

本稿は,上述の内容をふまえ映画にみられる高齢者のステレオタイプを分析するため に,『東 京 物 語』(1953,小 津 安 二 郎 監 督)と そ の リ メ イ ク 作 品 で あ る『東 京 家 族』

(2013,山田洋次監督)を素材にする。なぜこの

2

つの作品を選ぶのかについては,以 下の

4

点の理由が挙げられる。

第一に,両映画は高齢夫婦が主人公であり,彼らを中心とした物語の展開がみられる からである。これらの映画では高齢者を主人公として,周りの身近な人物とのやりと り,高齢者に対する態度や関係が詳細に描かれている。また,男女の高齢者が登場して いることでジェンダーによる差も確かめることができる。特に,女性高齢者はエイジズ ムだけでなくセクシズムも含む二重の差別や偏見の問題を抱えているとされるが(フリ

ーダン

1993 : 1995),それが日本でも当てはまるかを確かめることもエイジズム研究に

おいて重要な課題である。

第二に,両映画はストーリーの大きな展開(高齢夫婦が東京に住む子どもたちの家を 泊まり歩いて,失望を抱いて寂しく帰る)は同じであるが,他方で時代の変化がみられ るからである。『東京家族』について山田監督は「(東京物語を)とにかく真似しようと 思ったんだよ 。」と語っている(キネマ旬報

2013 : 31)。しかし,真似するだけでなく

登場人物の構成,撮影場所などを「今の日本でありうる」ように変えていることは彼の インタビュー内容から確認することができる(キネマ旬報

2013 : 32)。

第三に,両映画には映画製作における監督の高齢者を中心とし家族・社会のあり方な どに関するメッセージが含まれているからである。前述のように映画は社会や文化を反 映するものであると同時に,監督の観客に対するメッセージが必ず反映されている。

小津監督は『東京物語』の製作意図について,「親と子の生長を通じて,日本の家制 度がどう崩壊するかを描いてみたんだ。」(貴田

2013 : 9)とし,「この作品の製作意図

は観客が…親孝行をしようと思うような映画をつくることだ 」と説明したという(前

2016 : 209)。また,山田監督は「ぼくの作る映画が観客にとって「身につまされる

ような」物語であり「他人事ではないような」ドラマでありたい。いつもそんな思いで 製作してきた。」(2)と語っており,『東京物語』のリメイク作品ではあるが『東京家族』

でも監督のこのような思いは反映されている。

第四に,両映画は多くの観客が観ているだけでなく,映画関係者によって評価される など多くの人の関心が向けられた作品であるからだ。いいかえると,両映画は多くの人 に共感され示唆に富む作品として解釈することが可能である。実際に,『東京物語』は 観客動員数

2

5

千人,『東京家族』は観客動員数

19

万人を超えており,映画館以外に

DVD

や映像配信などといった方法での視聴数も入れるとより多くの観客が観ているこ とが想定できる(3)

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 80

(6)

さらに,『東京物語』は映画雑誌「キネマ旬報」の日本映画史上ベストテン(1989)(4)

2

位に選ばれており,発表されて半世紀以上の時間が経過しているにもかかわらず日 本だけでなく世界の中でも名作として多くの観客や映画評論家によって語られつつある 作品である(ボードウェル

1988 : 2003,貴田 2013)。また,『東京家族』は「キネマ旬

報」の読者選出日本映画ベスト・テン(2013)の

9

位に選ばれており,多くの映画関係 者や観客が観たとともに高く評価されていることがわかる(kinenoteホームページ

2017

1

20

日観覧)。

以上のことから,家制度の崩壊を描いた『東京物語』と

60

年が経過した後に時代の 変化を反映させたリメイク作品である『東京家族』は,高齢者イメージ分析の素材とし て適していると判断した。

2.研究の目的と方法

2-1.研究目的

前述のように,映画『東京物語』と『東京家族』の分析から社会文化にみられる高齢 者のステレオタイプを明らかにすることを本稿の目的とする。それを通して,日本社会 の高齢者に向けられるステレオタイプの特徴を明らかにすることが可能である。さら に,そのステレオタイプが高齢者にいかなる影響を与えうるのかを考察することを通し て,エイジズムの根底にあるステレオタイプが重要な克服すべき問題であることを主張 したい。

上述の研究目的を達成するために,映画『東京物語』(1953)と『東京家族』(2013)

における登場人物の分析とともに非言語的な側面(登場人物間の関係や行動)と言語的 な側面(セリフ)における分析を行う。これらの分析を通して,社会文化にある高齢者 はいかなる存在として認識されているかを確かめることが可能である。その際,60年 という時間の流れを経た両映画でみられる変化と,時間が経過しても変わらないものを 明らかにすることができる。また,本稿で対象にする映画には高齢夫婦が登場するため ジェンダーによる差も分析することが可能である。

2-2.研究方法

本稿では,以上で述べたように,高齢夫婦を主人公とした社会のあり方に関するメッ セージが含まれており,時代の違いが反映されているとともに多くの人に共感を得てい る映画として,『東京物語』(1953)と『東京家族』(2013)を分析の対象とする。分析 は当該作品の

DVD

を視聴するとともに,シナリオをもとにセリフや設定などの説明を 参考にしながら行った。

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 81

(7)

研究目的で述べたように,分析においては,まず,高齢者の特徴を明らかにするため に高齢者がいかに描かれているかに注目する。その際に,高齢者の基本属性,家族構 成,主人公(高齢者)と他の世代の登場人物との関係,高齢者が経験する出来事などの 分析から高齢者がどのような存在なのかを考察する。

次に,高齢者と他の登場人物間の行動に関する分析では,支える,助けるなどといっ た援助行動の数と内容に注目する。この援助行動に関しては,力関係を示す量的な指標 として援助行動を捉えた上瀬ら(2016)の研究方法を援用した。援助行動に注目するも う一つの理由は,従来のエイジズム研究で頻繁に指摘されている「高齢者は弱い,高齢 者は支える必要がある存在」などといったイメージがいかに認識されているかを確かめ ることができると考えるからである。

最後に,言語であるセリフにみられる高齢者や老いに関する表現を分析する。さら に,セリフの分析結果を既存のエイジズム研究で明らかにされた高齢者のイメージに照 らし合わせることで,既存の高齢者イメージと映画の中でみられるイメージ分析の結果 を比較する。

これらの分析を行う際には,両映画における違いとともにジェンダーによる差を念頭 に置きながら分析を進める。

3.分析結果

3-1.登場人物の分析

まず,登場人物の分析では,第一に,両映画の高齢夫婦の家族構成,第二に,他の登 場人物と高齢夫婦との関係,第三に,ジェンダーによる差を分析する。

第一に,高齢夫婦の家族構成を分析する。『東京物語』は,図

1

の左のような家族構 成であり,両親は広島の尾道で未婚の次女と暮らしている。次男が戦争で亡くなり,長 男家族,長女夫婦,次男の妻は東京に住んでおり,未婚の三男は大阪で一人暮らしをし ている。『東京家族』では,高齢夫婦だけが広島のある小さい島で暮らしている(図

1

1 家族構成

出所:筆者作成(左:『東京物語』,右:『東京家族』)

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 82

(8)

の右)。長男家族,長女夫婦,次男まで子ども全員が東京で暮らしている。

ここでみられる相違点は,子どもの数,高齢夫婦の世帯構成である。まず,子どもの 数が

5

人から

3

人に減っている(図

1)。『東京物語』では高齢夫婦と未婚の次女が同居

しており,親の生活上の面倒を次女がみている。さらに,未婚の三男が東京よりも近い 大阪に勤めていることで未婚の子どもが高齢者とより近い存在(距離)であることが描 かれている。一方,『東京家族』は結婚とは関係なく子ども全員が東京に住んでいる。

第二に,高齢者と他の登場人物との関係について,家族構成員,家族以外には父の旧 友や高齢夫婦の隣人,これらの関係を分析する(表

1)。

1 他の登場人物との関係

関係 東京物語 東京家族

長男 ・距離が感じられる関係

・父は,長男が医学博士であり社会的成功 を期待したが,その期待通りに育たなかっ たことについての不満を持っている

・父が愚痴をこぼせる仲(「宿なし」と発言)

・父は,長男が医学博士であり社会的成功と島に残って欲しいとい う期待をしたが,上京したことや期待したより成功していないこと に対する不満を持っている

・親を自分が引き取ろうとしていた思いがある

・親孝行について触れる人物 長男の妻 ・親との特別な関係性が見当たらない

・母の葬儀に参列しない

・親と関係は深くないが,気を遣う

・親も気を遣うが,気軽にいろんなことを聞くことができる関係

・夫の親との同居計画を拒否はしないものの困惑した口調や表情を あらわす

・母の葬儀に参列,家族の食事などの世話をする

次男 ・戦死 ・父と縁を切れているのと同じような関係

・母とは仲がよく恋話もする仲

・父と口はきかないが母の死を契機に父思いの行動をとる(ことを 余儀なくされる)

・母の死後すぐに上京し,形見の話を持ち出す(自分のことしか考 えない)兄弟への不満を表現する

三男 ・親孝行について触れる人物

・母の死に目に会えない人物

・母の死で最も戸惑う人物

・登場しない

長女 ・母に対して失礼なことを平然と言う

・子どもの頃はもっと優しい子だったのに と女の子は嫁に出したらおしまいと父が母 に愚痴をこぼす

・母の死に際しても自分の店や形見の話を 切り出す

・親より自分(お店の仕事,形見)を大切にする

・子どもの頃はもっと優しい子だったのにと女の子は嫁に出したら おしまいと父が母に愚痴をこぼす

・父に対して直接注意しけんかをする

次女 ・親と同居する

・母の死後すぐに上京し,形見の話を持ち 出す兄弟への不満をもっている

・登場しない

長女の夫 ・親に何かと気を遣おうとするが娘に止め られる

・両親を銭湯に誘う

・葬儀に参列しない

・親孝行について触れる人物

・退屈そうな父を銭湯に誘う

・葬儀に参列できない(娘のお店の世話)

次男の妻

(結婚相手)

・最も親思いである人物

・親が心の中を打ち明かすことのできる人

・他人ではあるが,家族より母と心が通じ合う人物

・母亡き後も,次男の頼みで島に一緒に帰って父の世話をする

・父が本音を明かす人物 他人 *細君

・旅の前後に登場して親(父)の気持ちを 代弁するかのようなセリフをいう(幸せで しょう→寂しいでしょう)

・母の葬儀に参列

*父の教え子家族(ユキ,信子など)

・東京に着いてから電話,会話で登場し葬儀にも参列する,葬儀後 も登場

・長い付き合いで老夫婦の世話,すぐ助けてくれる人物

・他人ではあるが,父の余生の世話をすることが想像される人物 出所:筆者作成

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 83

(9)

家族構成員に関しては,両映画において差がみられる①長男夫婦と②次男の妻(結婚 相手),③子どもの結婚と高齢の親の関係に関する分析をする。①長男夫婦に関しては,

『東京物語』では長男は距離が感じられるような関係であったが,『東京家族』では父の 健康管理や父の老後の生活まで責任をとろうとする関係に変化する。この長男と親との 関係と同様に,長男の妻においても特別な関係性が見当たらないような設定からより近 い関係になっている。特に,母の葬儀に関しても『東京物語』では参列しないが,『東 京家族』では葬儀に参列する。

しかし,関係性に多少の変化は見られるものの,母の死後一人となった父の生活を直 接的に支援するのは長男ではない。これに関して,家制度(長男が家業を継ぎ親の老後 に責任をとるという面において)崩壊直後の『東京物語』における長男は家制度から逃 れた解放感をあらわすかのように家制度的な行動や言動は一切しない。一方,『東京家 族』では,もはや家制度とは無関係な世代でもあり,親との距離感は縮まったものの,

今度は社会システムや制度が提供する介護や高齢者に対するサービスの充実が長男や家 族の役割を担うようになった社会状況が反映されたものであると考えられる(5)

次に,②血縁関係ではない次男との結婚(結婚の約束)によって親と関係性のある次 男の妻(結婚相手)に注目したい。彼女たちは実の子どもより心の込もったもてなしを することで親と心が通じ合う,本音を話す関係性をもっている。このような関係性によ って,彼女たちは父から母が長年使っていた腕時計を形見としてもらい涙を流す。長女 と長男が自分たちの都合で親を旅行に行かせたこと,長女が親を宿無しにさせたことや 母の葬式直後に形見として着物が欲しいと言い出すことなどとは対照的である。これに ついて,前田(2016 : 206-201)は親に対して冷たい態度をとる子どもたちは「肉親ゆ えの嫌悪感」をもっているからであるとし,次男の妻をその嫌悪感を乗り越えた「親孝 行の手本」としている(6)

③子どものなかでも結婚をしていない子どもは,他の兄弟姉妹より親との関係におい て密接であるといえる出来事がいくつかみられる。『東京物語』においては,三男は親 孝行に関することわざを繰り返し語り,母の死について戸惑いを隠さない。そして,次 女は母の死について悲しむことより自分の仕事や形見の話をする他の兄弟に対する不満 を表現する。『東京家族』では,次男が最初は父と仲が悪く親との関係が上手くいかな かったが,母と最も気が合う子どもであり母の死をきっかけに父思いの行動(母の遺骨 をもっていく父とともに他の兄弟より先に実家に向かう)をする。また,長女によって 強制されるが親の東京観光に同行し,母の死を目の前にしても自分のことしか考えない 兄弟に対する非難をする。

このことから,子どもの結婚は親からの独立であり自分の生活を優先するようになる きっかけであることがわかる。また,高齢者にとって子どもの結婚は,生活や世帯の分

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 84

(10)

離という物理的なものだけでなく,お互いの関係においても変化をもたらす大きな出来 事として考えられる。

家族以外の他人に関しては,『東京物語』では尾道の家の隣に住んでいる女性が登場 し特別な関係性がみられるようなシーンはないが,父の気持ちを代弁するかのようなセ リフを語る(表

1

の「他人」)。一方,『東京家族』は高齢夫婦が東京に到着してから最 後まで父の教え子の家族(中学生のユキちゃんとその両親)が親密な関係のある人物と して登場している。このことから,高齢者にとって最も身近な存在が家族(東京物語で 次女が同居)から地域や社会的関係(島に住んでいる親戚,父の教え子の家族など)に 変化したといえる。

第三に,高齢の登場人物にみられるジェンダーによる差については,母の急死という 出来事について考察する。『東京物語』では,尾道に戻る途中で母の具合が悪くなり大 阪の三男の家に泊まることになる。その後,尾道に戻ってから母が危篤である電報によ って子どもたちは実家に駆けつける。三男以外は母が息をひきとる前に母に会うことが できる。『東京家族』では,母が長男の家で急に倒れて救急車で運ばれた都内の病院で 息をひきとるが,子ども全員がその場に居合わせる。母の急死は,監督の意図による象 徴的な出来事ではあるが,両映画ともにその対象が女性高齢者であることからジェンダ ーによる違いとして判断した。

この母の死をきっかけに家族が実家に帰ることから女性高齢者の存在・役割について の社会の考え方を垣間見ることができる。一般的に平均寿命は女性が男性より長いにも かかわらず,両映画で女性高齢者が急に亡くなる点が特徴的である。このことから,女 性高齢者は犠牲をはらい,離れ離れの家族を集める役割を果たすあるいはその役割が求 められている存在として描かれているといえる。母の急死は実家を離れて住んでいる子 どもたちを実家に呼び寄せるきっかけとなったからである。

一方,男性高齢者は,一人では家事ができず子どもが世話をしなければならない存在 として描かれている。『東京物語』では,次女が結婚をしていないため父と同居するこ とになるが,次女が結婚した後の父の生活について子どもは心配し,女性高齢者とは違 って「厄介」なこととして表現される。『東京家族』でも一人暮らしになる父の生活は いつまで続くかを心配され,東京の自宅を改築して親を引き取ろうとする長男や子ども たちは父に今後の生活について話し出す。しかし,どちらの映画においても子どもたち は父の心配はするものの,解決のための行動はしないまま自分たちの家に帰ることにな る。

ここまでの内容を振り返り,以下では,登場人物の分析からわかった高齢者のイメー ジ分析結果をまとめる。まず,両映画において変わらないものとして,家制度との関連 性が薄まるがそれでも長男と高齢の親の関係は扶養関係であることがあげられる。『東

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 85

(11)

京物語』では家制度的な長男の言動は見られないが親の老後は子どもが世話をすること になる。『東京家族』はもはや家制度が薄らいできているにもかかわらず長男が親との 同居を考えての家の建て替えについて語る。

一方,二つの映画の間で時代の変化がみられるものとして,一人となった高齢者は,

同居する未婚の子どもに生活上の面倒をみてもらうことから社会システムや地域に支援 されるようになったことがあげられる。『東京物語』では父は未婚の次女と生活をする ことになるが,『東京家族』では父は子どもたちの世話にはならないとしながら島にい る親戚や役所もあるので一人で暮らしていくことを宣言するシーンがある。

ジェンダー別の特徴としては,急死によって子どもを実家に集めさせるきっかけを提 供することから,女性高齢者は家族のために犠牲をはらうような存在として描かれてい ることがあげられる。母の急死については,前述したように監督の意図による象徴的な 出来事であるが,女性高齢者だけがその対象であることはジェンダーによる違いとして 指摘することができる。一方,男性高齢者は子どもにとって厄介で面倒をみなければな らないという存在としてみられていることがわかった。

3-2.高齢者と他の世代間の援助行動

次に,高齢者と他の世代間に行われる援助行動の分析を行う。「2-2.研究方法」で述 べたように,上瀬ら(2016)は,ディズニー映画のプリンセスとプリンスの力関係を示 す指標として援助行動に注目している。具体的には,プリンスからプリンセスへの援助 行動,プリンセスからプリンスへの援助行動のシーンの数を数えることで,両者(プリ ンセスとプリンス)の関係のあり方の変化を分析している。

一方,既存のエイジズム研究のなかで高齢者に対するイメージ調査では「弱い」「弱 者」「他人の助け(援助)を必要とする」というイメージが明らかにされている(保坂

1988,島村 2002,吉田ら 2004,三澤ら 2006)。このことから,典型的なエイジズム

といえる「高齢者は弱い」「援助の対象」というイメージを分析する際に援助行動は有 効な分析の視点であると判断した。すなわち,高齢者は他の世代との援助行動(助け る・助けられる)においてどのような行動をする人物として描かれているかということ であり,高齢者は援助される存在なのか,援助する存在なのかを明らかにすることであ る。

上述のことを踏まえて,本稿は,援助行動の数量的特徴,援助行動にみられる時代の 変化,援助行動の内容を分析し,以下の

3

点にまとめる。第一に,高齢者の援助行動の 数と内容の変化,第二に,両映画の援助行動にみられる特徴的な出来事,第三に,ジェ ンダーによる違いを明らかにする。

第一に,高齢者の援助行動の数と内容の変化を分析した結果,高齢者が援助をする行

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 86

(12)

2 援助行動

映画 高齢者 ⇔ 他の世代 援助シーンの内容

A 1 高齢夫婦(親)←次女 ・旅に出る高齢夫婦(親)に弁当を作る

A 2 高齢夫婦(親)←長男の妻 ・高齢夫婦(親)がいる間に泊まるための場所を用意する A 3 高齢夫婦(親)←長男,長女 ・東京駅に高齢夫婦(親)を迎えに行って,一緒に長男の家に行く A 4 高齢夫婦(親)←長男夫婦 ・高齢夫婦(親)のカバンをもつ

A 5 高齢夫婦(親)←長男夫婦 ・お風呂,浴衣を用意する A 6 高齢夫婦(親)←長女,長男と次男の妻 ・食事を用意する

A 7 高齢夫婦(親)←長男の妻 ・出かけることができなくなって男性高齢者(父)にお茶を出す A 8 高齢夫婦(親)←長女の夫 ・高齢夫婦(親)のためにおやつを買ってあげる

A 9 高齢夫婦(親)←長女の夫 ・銭湯に一緒につれて行く A 10 女性高齢者(母)←長女 ・自分の(汚い)下駄を貸す A 11 高齢夫婦(親)←次男の妻 ・親に東京の観光案内をする A 12 高齢夫婦(親)←次男の妻 ・家で食事とお酒をもてなす

A 13 高齢夫婦(親)←次男の妻 ・食事中の高齢夫婦(親)のためにうちわで扇ぐ A 14 高齢夫婦(親)←長男,長女夫婦 ・高齢夫婦(親)の熱海温泉旅行にお金を出す

A 15 女性高齢者(母)←次男の妻 ・泊まるところがなくなった女性高齢者(母)を自分の家に泊めてあげて,肩を揉む A 16 男性高齢者(父)←長女 ・酔っ払って帰ってきた男性高齢者(父)とその友人の寝る場所を用意する A 17 女性高齢者(母)←次男の妻 ・お小遣いをあげる

A 18 高齢夫婦(親)←長男,長女,次男の妻 ・尾道への帰りを見送る A 19 男性高齢者(父)←長男,長女 ・お酒を飲まないように注意する

A 20 高齢夫婦(親)←三男 ・体調を崩した女性高齢者(母)を自分の家に泊めて,世話をする A 21 女性高齢者(母)←次女 ・病気の女性高齢者(母)の世話をする

A 22 男性高齢者(父)←長女 ・お酒を飲みすぎないように注意する A 23 男性高齢者(父)←次男の妻 ・葬式後に世話

B 1 高齢夫婦(親)→長男夫婦,長女,次男の妻 ・三男に頼まれたお土産を渡す B 2 女性高齢者(母)→孫 ・膝で寝かせる

B 3 高齢夫婦(親)→長男の妻 ・出かけることができなくなり謝る長男の妻に大丈夫と言う

B 4 女性高齢者(母)→孫 ・出かけられなくなって怒った孫を連れて外に行く(女性高齢者(母)の独り言)

B 5 女性高齢者(母)→長女 ・縫い物を頼まれて着物を縫う

B 6 男性高齢者(父)→次男の妻 ・女性高齢者(母)の形見として長年使っていた腕時計をあげる B 7 男性高齢者(父)→次男の妻 ・再婚をすすめる

C 1 高齢夫婦(親)←長男の妻 ・高齢夫婦(親)がいる間に泊まるための場所を用意する C 2 高齢夫婦(親)←次男 ・東京駅に高齢夫婦(親)を迎えにいく

C 3 男性高齢者(父)←長男 ・(普段から)男性高齢者(父)の健康管理について気を配る C 4 高齢夫婦(親)←長男の妻,長女 ・食事を用意する

C 5 女性高齢者(母)←長男の妻 ・宅急便で送っておいた女性高齢者(母)の着物を届ける C 6 高齢夫婦(親)←ユキちゃん ・犬の散歩をさせる

C 7 高齢夫婦(親)←長女の夫 ・高齢夫婦(親)のためにおやつを買ってくる C 8 男性高齢者(父)←長女の夫 ・温泉(スーパー銭湯)に一緒に行く

C 9 男性高齢者(父)←長女の夫 ・男性高齢者(父)が階段から降りるときに自分の肩を捕まえるように支える C 10 高齢夫婦(親)←次男 ・親の東京観光に付き合う

C 11 高齢夫婦(親)←長男,長女 ・高齢夫婦(親)を横浜の高級ホテルに宿泊させるためにお金を出す C 12 男性高齢者(父)←長男夫婦 ・二日酔いで疲れている男性高齢者(父)の世話をする

C 13 男性高齢者(父)←長女の夫 ・男性高齢者(父)が酔って散らかした長女の店の後片付けをする C 14 女性高齢者(母)←孫 2階に行くときに背中をサポートする

C 15 女性高齢者(母)←長男夫婦 ・倒れた女性高齢者(母)の応急措置,病院での世話をする

C 16 男性高齢者(父)←次男カップル ・女性高齢者(母)の亡き後,男性高齢者(父)と一緒に島に帰り,世話をする C 17 男性高齢者(父)←隣のユキちゃん家族 ・食事,洗濯物などの家事をする

D 1 高齢夫婦(親)→長男の妻 ・出かけることができなくなり謝る長男の妻に大丈夫と言う D 2 女性高齢者(母)→孫 ・出かけなくなって怒った孫を連れて外に行く(会話)

D 3 女性高齢者(母)→孫 ・(勉強できないから医師になるのは無理だという孫に)勉強すれば大丈夫と慰める D 4 女性高齢者(母)→長女 ・縫い物を頼まれて着物を縫う

D 5 男性高齢者(父)→次男 ・自分のうな重の半分をあげる

D 6 女性高齢者(母)→次男 ・息子のために家事(料理,掃除)をしてあげる D 7 女性高齢者(母)→次男カップル ・何かあるとき使うお金をあげる

D 8 男性高齢者(父)→次男の婚約相手 ・女性高齢者(母)の形見として長年使っていた腕時計をあげる D 9 男性高齢者(父)→次男の結婚相手 ・次男を頼む

出所:筆者作成

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 87

(13)

動や言動の数が増えているだけでなく,その内容も多様になってきていることがわかっ た。『東京物語』においては,高齢者に対する他の世代からの援助行動が

23

回(援助行

動全体の

76.7%,表 2

A 1〜A 23),高齢者が他の世代を援助する行動は 7

回(援助

行動全体の

22.3%,表 2

B 1〜B 7)行われている。一方,『東京家族』では,高齢者

に対する援助行動は

17

回(援助行動全体の

65.4%,表 2

C 1〜C 17)行われており,

高齢者からの援助行動は

9

回(援助行動全体の

34.6%,表 2

D 1〜D 9)である。

高齢者が援助されるシーンは,高齢者が援助をするシーンよりどちらの映画も多い。

しかし,援助されるシーンは『東京物語』より『東京家族』が減っており,援助するシ ーンは増えている。つまり,高齢者は援助されるイメージが援助するイメージより強い ことは変わらないが,援助されるシーンの減少,援助するシーンの増加から高齢者が援 助をするイメージが強く認識されるようになったといえよう。

さらに,高齢者による援助行動の具体的な内容を確かめると,頼まれたことをする行 動は

2

回から

1

回に減っている(表

2

B 1・5→D 4)が,自らの善意や計画による行

動が

6

回から

8

回に増えている(表

2

B 1〜4・6・7→D 1〜3・5〜9)ことがわかる。

援助行動の内容に関しては,両映画にみられる共通の行動は,優しい言葉をかける,

長女から頼まれた縫い物をする,孫を慰める,母の形見として時計をあげるといったも のがある。その一方で,『東京物語』は三男からのお土産の渡し,『東京家族』は子ども に自分の料理を分けてあげる,家事をしてあげる,お金を用意してあげるという行動が それぞれの映画に独自にみられるものである。

両映画にみられる高齢者による援助行動から,受動的な行動(頼まれたことをする)

より能動的な行動(自らの計画や善意による行動)が多く行われていることがわかっ た。さらに,『東京物語』より『東京家族』の方が能動的な援助行動の数や内容が増加 し多様化したことから,高齢者はより能動的に援助行動を行う存在として認識されるよ うになったといえよう。

これらのことから,先行研究による調査結果では明らかにされていない能動的な援助 行動を行うという新しい高齢者のイメージが明らかになり,日本の社会文化における高 齢者は必ずしも弱く支援を必要とする存在ではないことがいえる。さらに,高齢者がよ り能動的に他の世代を援助する存在であると認識されるようになったといえる。

第二に,援助行動にみられる特徴的な出来事として,注目すべき点は

2

点ある。①親 が東京駅(品川駅)から長男の家にたどり着くまでの出来事(表

2

A 3, C 2),②お

金(お小遣い)に関する行動(表

2

A 17, D 7)である。

まず,①親が東京駅(品川駅)から長男の家にたどり着くまでの出来事(表

2

A 3, C 2)については,『東京物語』では長男と長女が駅まで迎えに行き一緒に長男の家ま

で来る展開になっている。その間に特別な出来事は起こらない。『東京家族』では仕事

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 88

(14)

で迎えに行くことができない長男,次男に親を迎えに行くように押し付ける長女,迎え に行く駅を間違える次男がいる。その結果,親は二人だけでタクシーに乗って長男の家 に向かうことになる。

時代が変わり,広島から東京まで

1

日以上かけて行くことになる

1953

年と比べて上 京にかかる時間が短縮している

2013

年は,地方からの上京がそれほど珍しいことでは なくなっている。そのため,家族全員が迎えにいくようなことではなくなったという点 で長男と長女が迎えにいかなかったことも考えられる。しかし,親の上京に対する子ど もたちの態度という面からすれば,『東京物語』より『東京家族』の方が子どもたちの 親の上京に対する態度は冷たいものに変わっているのである。

次に,②お金に関する行動である(表

2

A 17, D 7)。『東京物語』では,一人暮ら

しをしている決して裕福ではない次男の妻が母にお小遣いをあげる。『東京家族』では,

正規職に就けずに親と縁を切ったような生活をしている次男のために母がお金を用意し て,彼の結婚相手にそのお金を預ける。このシーンは高齢者の経済状況や年金と密接な 関係のあるシーンであると思われる。『東京物語』では父が元教師(地方公務員)であ り年金をもらっていることが想定され,東京にまで旅行できる余裕があると考えられ る。しかし,この映画が制作された当時は,まだ公的年金制度が確立されておらず年金 といっても恩給の性格が強かったため,高齢者の経済状況は安定したとはいえない状況 である。つまり,この映画に登場する高齢者は公務員という特別なケース(年金を受給 している)であるが,一般的な高齢者は年金によって生計をたてているわけではなかっ たのである。一方,『東京家族』は父が元教師であり,年金制度が定着しているととも に若者の非正規雇用が進んだ時代的背景から高齢者が子どもにお金をあげるといったこ とに変わったと考えられる。

この「お金(お小遣い)」をめぐっては,「3-1.登場人物の分析」で述べたように,

『東京物語』の次男の妻が親孝行を象徴する人物として登場していることから,親孝行 の行動としての意味も考えられる。しかし,両映画のこれほど大きな違いは,当時の時 代的背景として公的年金制度の不完全さゆえに生じる高齢者の生活の貧しさによる結果 であり,この点は看過できないものである。さらに,お小遣いに親孝行の行動としての 意味があるとしても,『東京物語』は血縁関係ではない他人(戦死した息子の妻)によ るお小遣いが登場するが,『東京家族』は親孝行の行動としてのお小遣いは存在しない。

このことから,『東京物語』(1953年)は親孝行の行動がまだ残っているようにみられ るが,『東京家族』(2013年)はそれさえもなくなっているといえる。

第三に,援助行動におけるジェンダーによる違いについて分析する(表

3)。親(高

齢夫婦)ではなく父(男性高齢者)あるいは母(女性高齢者)の個別援助行動をみる と,両映画ともに男性高齢者の方が女性高齢者よりも援助されるシーンが多く,援助す

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 89

(15)

るシーンは少ない。援助される内容では,男性の場合はお酒に関する注意や世話,身の 回りの家事などが行われ(表

3

A 16・19・22・23, C 3・8・9・12・13・16)女性に

対しては病気の看病が主に行われている(表

3

A 15・17・21, C 5・14・15)。男性高

齢者は健康な場合でも援助されるが,女性の場合は健康なうちにはそれほど援助される ことがないようにみられる。次に,高齢者が援助する内容では,女性高齢者は家事や生 活に直接関連のある援助を行っているが,男性はそのような援助は行っていない。

これらのことから,『東京物語』で長女がいうように,子どもにとって健康な男性高 齢者は一人となった時に最も心配されるのは家事をはじめとする生活全般に関わること で世話しなければならない「厄介」な存在であり,健康な女性高齢者は「なんとかな る」というそれほど世話を必要としない存在であるといえる。『東京家族』においても,

妻に先立たれた父の旧友の話を聞いた長女が「気の毒ね。奥さんに先立たれるなんて 」 と語ること,母の葬儀後に長男と長女が父の一人暮らしについて(家事,洗濯など)心 配することから男性高齢者は生活上の世話を必要とする存在であることが明確にあらわ れている。

ここまでの内容を振り返り,以下では,援助行動の分析結果をまとめる。まず,高齢

3 男女別高齢者の援助行動 援助される

男性高齢者 女性高齢者

東京物語

・酔っ払って帰ってきた男性高齢者(父)とその友人 の寝る場所を用意する(A 16)

・お酒を飲まないように注意する(A 19)

・お酒を飲みすぎないように注意する(A 22)

・葬式後に世話(A 23)

・(泊まるところがなくなった)女性高齢者(母)を自分 の家に泊めてあげて,肩を揉む(A 15)

・お小遣いをあげる(A 17)

・病気の女性高齢者(母)の世話をする(A 21)

東京家族

・(普段から)男性高齢者(父)の健康管理について 気を配る(C 3)

・温泉(スーパー銭湯)に一緒に行く(C 8)

・男性高齢者(父)が階段から降りるときに自分の肩 を捕まえるように支える(C 9)

・二日酔いで疲れている男性高齢者(父)の世話をす る(C 12)

・男性高齢者(父)が酔って散らかした長女の店の後 片付けをする(C 13)

・食事,洗濯物などの家事をする(C 16)

・宅急便で送っておいた女性高齢者(母)の着物を届ける

(C 5)

・2階に行くときに背中をサポートする(C 14)

・倒れた女性高齢者(母)の応急措置,病院での世話をす る(C 15)

援助する

男性高齢者 女性高齢者

東京物語

・妻の形見として長年使っていた腕時計をあげる(B 6)

・再婚をすすめる(B 7)

・三男に頼まれたお土産を渡す(B 1)

・膝で寝かせる(B 2)

・出かけられなくなって怒った孫を連れて外に行く(B 4)

・縫い物を頼まれて着物を縫う(B 5)

東京家族

・自分のうな重の半分をあげる(D 5)

・女性高齢者(母)の形見として長年使っていた腕時 計をあげる(D 8)

・次男を頼む(D 9)

・出かけられなくなって怒った孫を連れて外に行く(D 2)

・(勉強でいないから医師になるのは無理だという孫に)

勉強すれば大丈夫と慰める(D 3)

・縫い物を頼まれて着物を縫う(D 4)

・息子のために家事(料理,掃除)をしてあげる(D 6)

・何かあるとき使うお金をあげる(D 7)

出所:筆者作成(括弧のなかは表2に明記した援助行動の番号)

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 90

(16)

者は援助するより援助される行動の回数が多く,援助されるというイメージが強いこと がいえる。一方で,高齢者による援助行動に関しては,受動的な援助行動(頼まれたこ とをする)よりも能動的に援助行動(自らの計画と善意で行う)の回数が多いことから 高齢者は能動的な援助行動をするという新しいイメージが明らかになった。

さらに,援助行動の内容やその詳細を分析すると,時代の変化がみられる。高齢者に よる援助行動は回数が増え,内容も多様になったことから,より能動的に変わったこと がわかる。つまり,高齢者はより能動的に援助行動を行う存在という認識が高くなった といえよう。

ジェンダーによる違いに関しては,男性高齢者は健康であっても厄介で大変な存在で あるが,女性の場合は家事を中心とした援助行動をしていることからそれほど生活面に おいて世話する必要のない自立した存在として描かれていることがわかる。また,女性 高齢者は育児との関連で子どもや孫を慰め,励ます役割,もしものことを考えるような 家族の今後のことまでも考える役割を果たしている。

3-3.エイジズムがみられるセリフ

最後に,エイジズムがみられるセリフを分析する。その際に,高齢者の特徴や親孝行 に関するセリフ(表現),高齢者による自分の状況説明などのセリフを対象とした。分 析は,第一に,他の世代による高齢者に対するセリフ,第二に,高齢者本人によるセリ フ,第三に,時代の変化とセリフの関連性の

3

点に注目して行う。

さらに,これらの分析の結果を既存の高齢者イメージ研究の結果と比較する。これま で高齢者のイメージあるいは高齢者像に関する研究は,学生を対象に高齢者のイメージ を記述してもらった調査結果(保坂ら

1988,馬場ら 1993,島村 2002,吉田ら 2004,

三澤ら

2006),俗説として存在する老人像を明らかにしたもの(柴田ら 1985)が挙げら

れる。例えば,保坂ら(1988)は,大学生の高齢者イメージを明らかにするために,大 学生に高齢者のイメージを記述してもらうという調査を行っている。その結果,弱い,

非生産的,遅い,強情な,静的,保守的,暇そう,温かい,優しい,賢いなどといった イメージが明らかになった。このような研究は,実際に個人の主観的な高齢者イメージ を明らかにしたことから,社会の構成員として個々人がもつ高齢者イメージにはどのよ うなものがあるのかを確かめることができるものとして評価できる。

具体的な分析の方法は,第一に関しては,上述した既存のエイジズム研究において明 らかにされたイメージと照らし合わし,既存のエイジズム研究では取り上げられていな いイメージを明らかにする。第二に関しては,高齢者本人によるセリフ分析を行うこと で,既存のエイジズム研究では明らかにすることができなかった「本人が語る高齢者・

老い」について考察を行う。第三に関しては,両映画において共通するセリフ(時代の

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 91

(17)

4 エイジズムに関連するセリフ 他の世代による表現

東京物語(セリフ) 東京家族(セリフ) 映画の分析結果 既存研究結果

「この暑いのに,東京みて歩くよりは,

温泉へでも入ってゆっくり昼寝でもし てもらう方がお年寄りにはよっぽどい いですよ。」(長女の夫)

「ホテルはいいや。ごたごたした東京の街をみて 歩くより,ホテルの部屋でもっとゆっくりテレビ でも見て過ごした方がよっぽどいいよ。天国です よ。」(長女の夫)

・賑やかな街の中 より静かなところ でゆっくり過ごす のがいい

・静的

・のんびりした

・ゆっくり 具合悪い母の年齢などについてきいて

「年やな。大事にせなあかんで。孝行 した時分に親はなしや。」(三男の上 司)

「それくらいの金で親孝行できるなんて。」(長女 の夫)

・親孝行の対象 ・該当なし 職場の上司との会話,母の葬式で次男

の妻との会話で2回「さればとて。墓 にふとんもきせられずや。」(三男)

「孝行したい時分に親はなしですよ」「さればとて 墓に布団もきせられずか」(長男)

「よう昔から子どもより孫の方が可愛 いゆうけど,お前どうじゃった?…や っぱり子どもの方がええの。」(父)

祖父母が家ではなくホテルに泊まればいいとする 自分の息子に「そんな言い方するもんじゃない の。おじいちゃんやおばあちゃんは孫のあんたた ちと二日でも三日でも過ごしたいのよ。」(長男 の妻)

・孫が好き ・孫が好き

「そう言っちゃ悪いけど,どっちかと いえばお父さん先の方が良かったわ ね。これで京子でもお嫁に行ったらお 父さん一人じゃやっかいよ。お母さん だったら東京にきてもらったってどう にだってなるけど。」(長女)

・(独り身となっ た男性高齢者は)

厄介な存在

・女性高齢者は独 り身でもなんとか なる

・一人暮らしが できなくなる

・他人の助けが 必要

・自立できなく 長女の両親が上京したことを聞いて「大変ね」 なる

(長女の店の客) ・大変な存在

きれいに片付いている部屋を掃除しながら「きれ いにしてある。お年寄りの夫婦だね。若い人は汚 し方がひどいんだから。親は何考えているんだろ う。」(客室清掃員)

・ホテルの客室を

きれいに使う ・きちんとした

「お年寄り」(長女の夫) 「年寄り」(次男,長女の夫)

・お年寄り

・田舎からでてき た者

・じいじい

・おばあちゃん

・ボケる

・いやなもの

・よぼよぼになっ

・おばあちゃん

・お年寄り

・誰もがボケる

・よぼよぼ

「知り合いの者」「田舎からでてきまし て」(長女)

店の客に親について説明する「年寄りが田舎から でてきたんですよ。」(長女の夫)

「なんだ。あのじいじいたちは」「あ,いやなもん 見ちゃった」(居酒屋の客,サラリーマン)

長男の家までの道のりを説明する母に面倒くさそ うに「ナビに入れたから大丈夫よ。おばあちゃ ん」(タクシー運転手)

父が自分には口を利かないと愚痴をいう婚約相手 に「(母が急に亡くなって)ショックでぼけたの かな」(次男)

母の葬式で昔の知り合いに気づかずそれが失礼な ことだと指摘されて「だって,よぼよぼになって しまってるんだもの,わかりゃせんよ。」(長女)

高齢者本人による表現

東京物語(セリフ) 東京家族(セリフ) 映画の分析結果 既存研究結果

「しかし,子どもゆうもんもおらねえ はおらんで寂しいし,おりゃおるでだ んだん親をじゃまにしよる。」(父の

旧友,沼田) 「あいつはだめ!女房の機嫌ばかりとって。俺を

じゃまにしよる。」(父の旧友,沼田) ・じゃまもの ・該当なし

「このわしをじゃまにしよる。しょう もない奴や」(父の旧友,沼田)

「よう昔から子どもより孫の方が可愛 いゆうけど,お前どうじゃった?…や っぱり子どもの方がええの。」(父)

・高齢者は孫が好 きと言われるが,

子どもの方がいい

・孫が好き

出所:映画のセリフは山田ほか(2012),井上編(1984)を参考に筆者作成。既存研究結果は,保坂ら(1988),馬場ら

(1993),島村(2002),吉田ら(2004),三澤ら(2006)を参考に筆者作成(下線は時代が変わっても変わらないもの)。

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 92

(18)

変化とは関係なく継続して表現されるもの)と片方にしか表現されないセリフ(時代の 変化が反映されたもの)を分析する(7)

第一に,他の世代によって高齢者がどのような存在として表現されているかを分析す る(表

4

の上段「他の世代による表現」)。その際,①既存研究結果と一致あるいは関連 のあるイメージを確かめた上で,②既存の研究では明らかになっていない本稿で対象に した映画独自のイメージを分析する。

まず,①既存研究結果と一致あるいは関連のあるイメージには【賑やかな街の中より 静かなところでゆっくり過ごすのがいい】【孫が好き】【厄介な存在】【大変な存在】【ホ テルの客室をきれいに使う】【お年寄り】【おばあちゃん】【ボケる】【よぼよぼになっ た】があげられる。それぞれのイメージ分析結果と従来のエイジズム研究結果は以下の 通りである。

【賑やかな街の中より静かなところでゆっくり過ごすのがいい】という分析結果と高 齢者は「静的」「のんびりした」「ゆっくり」というイメージは関連するものであり,高 齢者は静かにのんびりあるいはゆっくり過ごす存在として認識されていることが明らか になった。

【厄介な存在】に関しては,「一人暮らしができなくなる」「他人の助けが必要」「自立 ができなくなる」というイメージと関連があるものとして,高齢者はなんらかの支援を 必要としておりそれを支援する子どもにとっては厄介な存在とまで認識されていたこと がわかる。しかし,この厄介な存在に関しては,『東京物語』だけで語られており,介 護保険や社会福祉関連サービス・制度が整えられている

2013

年の『東京家族』では語 られておらず,独り身となった父も役所のサービスを頼りに一人で生きて行くことを語 る。つまり,介護の社会化や福祉サービスの充実によって社会が高齢者の支援を担うこ とによって家族もそれに頼っていることが反映されたものなのである。

これに関連して,【大変な存在】については,『東京物語』ではみられない表現である が,『東京家族』では田舎から両親が上京して来ただけでも「大変ね 」といわれる。つ まり,高齢者は健康であっても世帯を共にしない子どもの家に来るだけで「大変」な存 在と言われる。介護や生活の負担とは異なる短期間の両親の訪問さえも大変なこととし て認識されていることがわかる。

【ホテルの客室をきれいに使う】に関しては,『東京家族』においてホテルの客室清掃 員が高齢夫婦の泊まったホテル客室を掃除しながら「きれいにしてある。お年寄りの夫 婦だね。若い人は汚し方がひどいんだから。親は何考えているんだろう。」と語ってい る。この客室清掃員は当人の顔をみたこともないのに彼らのホテルを泊まった痕跡だけ で若者か高齢者かを判断している。このセリフは既存のエイジズム研究結果の「きちん とした」というイメージと一致するものであり,高齢者に対する肯定的なイメージとし

映画『東京物語』と『東京家族』にみられるエイジズム 93

表 2 援助行動 映画 高齢者 ⇔ 他の世代 援助シーンの内容 東 京 物 語 A 1 高齢夫婦(親)←次女 ・旅に出る高齢夫婦(親)に弁当を作るA 2高齢夫婦(親)←長男の妻 ・高齢夫婦(親)がいる間に泊まるための場所を用意するA 3高齢夫婦(親)←長男,長女 ・東京駅に高齢夫婦(親)を迎えに行って,一緒に長男の家に行くA 4高齢夫婦(親)←長男夫婦・高齢夫婦(親)のカバンをもつA 5高齢夫婦(親)←長男夫婦・お風呂,浴衣を用意するA 6高齢夫婦(親)←長女,長男と次男の妻 ・食事を用意するA 7高齢夫婦
表 4 エイジズムに関連するセリフ 他の世代による表現 東京物語(セリフ) 東京家族(セリフ) 映画の分析結果 既存研究結果 「この暑いのに,東京みて歩くよりは, 温泉へでも入ってゆっくり昼寝でもし てもらう方がお年寄りにはよっぽどい いですよ。」(長女の夫) 「ホテルはいいや。ごたごたした東京の街をみて歩くより,ホテルの部屋でもっとゆっくりテレビでも見て過ごした方がよっぽどいいよ。天国ですよ。」(長女の夫) ・賑やかな街の中より静かなところでゆっくり過ごすのがいい ・静的 ・のんびりした・ゆっくり 具合悪

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