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(1)

介護職の専門性の構成要素に関する研究 : これま での研究動向の考察から

著者 任 セア

雑誌名 評論・社会科学

号 125

ページ 37‑53

発行年 2018‑05‑31

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2018.0000000128

(2)

要約:本稿では介護職の専門性を構成する要素を明らかにすることを目的とする。そのた め,介護職の専門性に関する課題を検討し,これまで行われてきた介護職の専門性に関す る研究を用いて分析および考察を行った。先行研究から抽出された22件の文献を検討し,

類似したものをまとめ専門性の構成要素を精緻に分類した。その結果,【利用者に関わる専 門性】【チームケアに関わる専門性】【介護職に関わる専門性】の3つの「カテゴリー」,12 の「サブカテゴリー」,38の「詳細な要素」に分類できた。介護を受ける側の「利用者」,

専門職による多職種連携の「チームケア」,主に介護を行う「介護職」本人,これらの三つ の視点が重要であり,一つでも除外して考えてはならないということが示唆された。

キーワード:利用者,チームケア,介護職,専門性

目次 1.はじめに

2.介護職の専門性に関する課題 3.研究方法

4.分析結果 5.考察

5-1.利用者に関わる専門性 5-2.チームケアに関わる専門性 5-3.介護職(自分自身)に関わる専門性 6.結論と今後の課題

1.はじめに

厚生労働省の「2025年に向けた介護人材の確保〜量と質の好循環の確立に向けて〜」

によると,2025年には後期高齢者が

2000

万人(団塊の世代が

75

歳以上となる)を超 えることに伴い,認知症や医療ニーズが必要な要介護高齢者が著しく増加するという予 想から,介護職の量的確保だけではなく,質的確保も喫緊の課題として取り上げられて

────────────

同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程

201831日受付,査読審査を経て2018322日掲載決定

論文

介護職の専門性の構成要素に関する研究

──これまでの研究動向の考察から──

任 セア

37

(3)

いると述べている。

このことは,介護人材の量的確保を進める一方で,今後,高度化・複雑化する介護ニ ーズに対応するには,介護人材の質的確保・向上を併せて進めなければならないことを 示唆している。すなわち,介護職の専門性を検討することが以前より重要となっている ことである。

介護職は,「社会福祉士及び介護福祉士法」で規定されているように介護福祉士を専 門的知識及び技術をもつ者として捉えられる一方で,他方では介護職はいまだに家事に 関わる日常生活の業務を行う者として捉えられ,専門性のある者としてはそれほど強調 されていない。このように介護職が専門性のある者としてはそれほど強調されていない 背景には,以下の三点が挙げられる。

一点目は,女性が行う家政婦に近い労働の職業,誰でもできる職業というイメージが ある。高橋(2015)は,1956年に長野県で最初に行われた家庭養護婦派遣事業(ホー ムヘルプ事業)で採用された「家庭養護婦は当時の社会背景が絶対的貧困から抜け出せ ていないこともあり,女性の生活支援の側面から

10

人中

6

人が未亡人であった」こと や,身体介助と生活援助が家庭内で行われていることから誰にもできる職業という意識 がなされやすいと指摘している。

また,『厚生白書(1963年)』(1)には,「老人福祉事業」における「老人家庭奉仕員」

サービスの内容として「被服の洗たく,補修,掃除,炊事,身の廻りの世話,話し相手 になることなどであり,(…中略)さらに奉仕員の業務内容が中年の婦人に適している ことから,中年婦人に就職の機会を与えるという副次的な効果もあげている」と記され ている。以上のことからみると,介護は女性が行う家政婦に近い労働であり,施策も女 性を対象にしたことが分かる。

二点目は,低賃金労働の職業というイメージがある。

内閣府(2013)の「介護保険制度に関する世論調査」(N=3,272人)によれば,ホー ムヘルパーや介護福祉士などの介護職に関するイメージに近いものについて聞いたとこ ろ,「夜勤などがあり,きつい仕事」と答えた割合が

65.1% と最も高く,次に「社会的

に意義のある仕事」(58.2%),「給与水準が低い仕事」(54.3%)などの順となっている。

世論調査のとおりに,厚生労働省(2013)の社会保障審議会介護保険部会(第

47

回)

の「介護人材について」の資料の職種別の賃金をみると,理学療法士,作業療法士は

276.8

千円,保育士は

214.2

千円,ケアマネージャーは

260.4

千円であり,ホームヘル

パーは

208.5

千円,福祉施設介護職員は

218.4

千円で保育士と並べて低かった。また,

常勤労働の離職率についても,介護職員(34.2%)は産業計(11.5%)より約

3

倍上回 っている。

三点目は,人材不足のため,専門性を問うことが困難になりつつある点である。厚生

介護職の専門性の構成要素に関する研究 38

(4)

労働省(2013)の第

47

回社会保障審議会介護保険部会「介護人材の確保について」に よると,2025年度には

237〜249

万人の介護人材が必要であり,現在の

149

万人から毎

6.8〜7.7

万人の人材を確保していく必要があるとされている。一方,生産年齢人口

(15歳から

64

歳)は減少しており,現状の施策を継続した場合,2025(平成

37)年に

は約

30

万人の介護人材が不足するとの見通しが示されている。

このように介護人材が不足している中,量的確保と質的確保を同時に達成することは 非常に難しい。

介護労働安定センターの「平成

28

年度介護労働実態調査」によると,介護人材の過 不足感について,不足感(「大いに不足」+「不足」+「やや不足」)は

62.6%,「適当」は

37.0%,「過剰」0.3% であり,介護人材の不足感を感じている事業所が 6

割以上を占め

ている。また,介護サービスを運営する上での問題点(複数回答)については,「良質 な人材の確保が難しい」という答えが

55.3% で最も高い割合を示した。

以上の実態調査から,介護人材の不足に加えて,質的確保も困難な状況であることが 分かる。

最近,経済連携協定(EPA)(2)に基づく外国人介護福祉士候補者の受入れが進んでい る。経済連携協定(EPA)の目的は,日本と相手国の経済上の連携を強化する観点か ら,公的な枠組みで特例的に行うものであり,労働力不足への対応が目的ではないと明 示されている。

どころが,介護人材不足に悩む施設では,経済連携協定(EPA)の目的とは反して,

労働力不足への対応として外国人介護福祉士候補者の受入れ(3)を実施している。

公益社団法人国際厚生事業団が実施した「平成

28

年度外国人介護福祉士候補者受入 れ施設巡回訪問実施」(4)の調査結果をみると,「EPA候補者を受入れた目的」について 質問したところ,「介護職員の人員不足の解消のため」(94.2%,274件),「職場の活性 化のため」(93.5%,272件),「国際貢献・国際交流のため」(91.4%,266件),「将来の 外国人介護福祉士の受入れのテストケースのため」(84.9%,247件)を挙げている。

すなわち,経済連携協定(EPA)の目的には,労働力不足への対応ではないと明示さ れているが,施設側は介護人材不足の解消の観点から外国人介護福祉士候補者受入れを 実施しており,このような状況で専門性を問うことは困難になりつつある。

以上の三点のように介護職は専門性のある者としてそれほど強調されていない反面,

資格制度(5)によって介護職を専門的知識及び技術をもつ者として捉えられている。具体 的にいうと,介護福祉士,実務者研修修了者,初任者研修修了者のような資格制度で は,様々なルート(6)で短期および長期に専門教育が行われている。さらに,社会福祉の 増進に寄与することを目的とし,1987年

5

26

日に制定された「社会福祉士及び介護 福祉士法」を根拠とする国家資格の介護福祉士は,専門性の確立はもちろん社会的評価

介護職の専門性の構成要素に関する研究 39

(5)

の向上にもつながると期待されている。

しかし,その一方で,介護職は資格を要する職業でありながら,専門教育を受けてい ない無資格者による働き口も存在する職業である。確かに,筆者の経験からみると,介 護現場,特に施設の場合は,人手不足(7)による人材確保のために,資格取得の有無より は一日でも早く勤務できる者を求めていた。

上記のように介護職は資格制度があるにもかかわらず,無資格者の働き口も存在して おり,専門性のある者としてそれほど強調されていないことから,資格制度というもの は「表面的」証明であると考える。

以上のことから,はたして資格制度というある種の「表面的」証明だけで,介護職を 専門性のある者としてみなすことができるのか,介護職が揃えるべき専門性は何かにつ いて疑問が生じる。「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定され,30年が経った今日に おいても介護職に対する専門性が明確化されたとはいえない。資格のようなかたちの証 明は,十分条件ではなく,必要条件であれば,介護職に対する専門性を明確にするため には,資格だけでなく,介護職の専門性に関する要素を明確にすることが不可欠なので はないか。これが筆者の介護職の現状に対する問題意識である。

すなわち,資格のようなかたちの「表面的」証明だけでなく,介護職が揃えるべき専 門性について明確にするため,専門性の構成要素の検討が求められる。

したがって,本稿では,介護職の専門性に関する課題を踏まえたうえで,これまで行 われてきた介護職の専門性の研究について検討し,介護職の専門性を構成する要素を明 らかにすることを目的とする。本稿は,30年が経った今日にも明確にされていない介 護職の専門性の今後の判断基準や枠組みの確立に向けた一つの材料を提供するものとし て意義があると考えられる。

なお,本稿での介護職とは,介護現場(施設および在宅)で介護業務を行う者(介護 福祉士,実務者研修修了者,初任者研修修了者,無資格者を含む)であるため,介護職 を代表的な職種としてとらえ,介護福祉士,実務者研修修了者,初任者研修修了者,無 資格者を特定して言及する場合を除いて,介護職の呼称を用いる。

2.介護職の専門性に関する課題

介護職の専門性に関する課題には,以下の三点が挙げられる。

一点目は,介護職の専門性に関する定義が明確ではないということである。日本介護 福祉士会では

2014

年度(平成

26

年度),研修委員会において都道府県介護福祉士会か らの意見をもとに「介護福祉士の専門性」について明文化できるように検討し,「利用 者の生活をより良い方向へ変化させるために,根拠に基づいた介護の実践とともに環境

介護職の専門性の構成要素に関する研究 40

(6)

を整備することができること」と定義した。その定義とともに詳細な項目として,1.

介護過程の展開による根拠に基づいた介護実践,2.指導・育成,3.環境の整備多職種 連携という三つを詳しく挙げている。

1

のように,これの定義には「介護福祉士であれば獲得している専門性」と,「介 護職であれば獲得している専門性」の二段階に分類されている。しかし,この分類から みると,介護福祉士を介護職より上位のものとして表現しているように誤解を招くおそ れがある。介護福祉士の専門性として挙げている専門性(1.介護過程の展開による根 拠に基づいた介護実践,2.指導・育成,3.環境の整備多職種連携は,現場での介護職 に重要な専門性)は,介護福祉士ではなくても,介護現場で働いている介護職にも重要 な専門性であると思われる。すなわち,この分類での介護職とは,介護福祉士以外のも のを指しているが,何を根拠に介護福祉士の専門性,介護職の専門性として正確に分類 しているのかは疑問である。

1 介護福祉士の専門性

出典:公益社団法人日本介護福祉士会「介護福祉士の専門性」

介護職の専門性の構成要素に関する研究 41

(7)

介護職に関わる資格は多様であり,無資格者に対する働き口も存在するため,介護職 という代表的な職種の専門性を明確にすることは非常に難しいが,質的人材の確保のた めには,専門性を明確することが必要不可欠である。

二点目は,有資格者と無資格者間の境界線の曖昧さである。「社会福祉士および介護 福祉士」の法定化後,2007年の改正により,介護福祉士の資質向上を図るためすべて の者は一定の教育プロセスを経た後に国家試験を受験するという形で,資格取得方法の 一元化が図られた。

日本学術会議の「福祉職・介護職の専門性の向上と社会的待遇の改善に向けて」

(2011)の提言では,「介護職は基礎的な職業教育が多様であるにもかかわらず,それが 職場内での介護業務や資格手当て等の賃金には必ずしも反映されていない」と指摘して いる。このように,資格取得が介護業務や資格手当て等に必ずしも反映されるとは保証 できないことから,有資格者に対するメリットは無資格者と比べてそれほど大きくない ともいえる。

京極(1998)は介護に関する資格制度は立ち遅れていると指摘しながら,「資格とい うものは専門性を十分高めてから資格法をつくるということもあるが,逆に資格法をつ くることによって専門性を高めるという面もあり(…省略)」と資格制度で専門性が向 上し,無資格者が有資格者によって実質的に占有されることになると主張した。しか し,資格制度が存在している現在にも無資格者は存在し,介護職に対する専門性は問わ れ続けている。

三点目は,業務独占ではなく名称独占であることや介護現場の勤務条件に資格取得の 義務がないため,誰でも介護業務を行うことができることである。

国家資格の介護福祉士をみると,喀痰吸引や経管栄養等(2012年

4

月から改正)の 医療行為を除き,名称独占の職業であり,これは専門的な知識及び技術が検証されてい ない無資格者でも介護業務を行うことができることを意味する。2016年

11

月に認定介 護福祉士認証認定機構で発表された「介護福祉士の職務の明確化と認定介護福祉士につ いて」では,喀痰の吸引等を除き業務独占とはなっていないため,介護福祉士の業務は 無資格者でも行うことができると指摘しながら,より質の高い介護福祉士である認定介 護福祉士の資格を出現させた。しかし,有資格者と無資格者の役割も明確されていない 中で,新しい上位資格の出現は焼け石に水のようなものであると思われる。

高橋(2015)は「介護職が名称独占の国家資格として整備され養成制度は近代化しつ つあるのに対して,その職務範囲については職業の専門性を高めるうえで明確にするこ とはできていなかった」と指摘している。介護に関わる資格制度は適正な資質や能力を もち,ある程度の専門性を保証することができるが,それは一部の判断基準にすぎな い。その専門性を判断する枠組みおよび専門性そのものの概念は不明確である。

介護職の専門性の構成要素に関する研究 42

(8)

資格にこだわらず,幅ひろく職業を一般的な枠組みの中で考察することが重要であ り,それぞれの専門職に対する専門性をカテゴリー化させ,総合的かつ包括的に判断す る基準が必要である(石村

1969)。すなわち,介護職の専門性を判断する基準や枠組み

の確立のために,多くの研究によって行われてきた専門性そのものを理論的根拠をもっ て説明することが必要不可欠である。

以上のことを踏まえながら,これまで行われてきた介護職の専門性に関する研究を分 析および考察する。

3.研究方法

多くの研究者らによって行われた介護職の専門性に関する研究は,介護職の専門性の 範囲が曖昧であるために,各自の分野から介護職の専門性について理論研究および実証 研究を行っており,これらを体系的に整理し考察した研究は不十分である。また,明確 に専門性の概念を明示するよりは,専門性の質の向上のための必要性について述べるこ とにとどまっている。

このような課題を克服し,30年が経った今日にも明確にされていない介護職の専門 性の今後の判断基準や枠組みの確立に向けた一つの材料を提供するために,介護職の専 門性に関する先行研究を明らかにすることは必要不可欠である。すなわち,これまで介 護職の領域において専門性はどのように捉えられてきたかについて,先行研究の文献を 探り,介護職の専門性を構成する要素を抽出し,その構成要素から専門性を明らかにす る必要がある。

本稿では,大木(2013 : 43)の系統的な文献検索を採用し,その手順を参考にしなが ら,網羅的に文献検索を行った。系統的な文献検索とは,論理的に一貫した手順や方法 論をある程度確立させて検索する方法である(大木

2013)。

「介護職が揃えるべき専門性は何か」について答えるため,「介護職の専門性を構成す る要素を明らかにする」ことを目的に,主に介護職の専門性に関して研究を行った論文

CiNii,国立国会図書館のデーターベースを使って検索した。文献の選択基準は,介

護職に関わる多様な資格種類にかんがみ,より的確な文献を抽出するため,「介護職」

「専門性」,「介護福祉士」「専門性」,「ホームヘルパー」「専門性」の三つのパターンに キーワードを分けて文献検索を行った。

検索の結果,244件の文献のうち介護職・介護福祉士・ホームヘルパー(以下,介護 職)の専門性と密接に関連がない文献

176

件,学術論文ではない文献(資料・特集)41 件,重複する文献

5

件を除いた

22

件の文献を抽出した(表

1)。

次に,これらの文献の介護職の専門性に関する妥当性を確保するため,それぞれの文

介護職の専門性の構成要素に関する研究 43

(9)

献の研究目的と研究結果の統一性を確認した。また,大木(2013 : 74-85)の文献総合 の手順を参考にしながら,「要約表の作成」を行い,「コード化」及び「カテゴリーの同 定」を行った。さらに,「カテゴリー間の関係」をみるため,抽出された

22

件の文献の 結果や考察を断片化して内容が類似したものをまとめ分類し,介護職に関する専門性を 抽出した。上位のカテゴリーは【 】,次のサブカテゴリーは〈 〉,詳細な要素は

[ ]で表記し,分析・統合を行った。

1 これまで行われてきた専門性の研究(分析対象の文献)

著者 研究目的 研究における専門性 結論と課題

筒井

(1996)

今後の介護サービスを担う専門職 が も つ べ き「ニ ー ズ 把 握 能 力」

「知識」について検討する。

介護サービスの担う専門職としての資質として「ニー ズ把握の力」「技術」「知識」の3つが重要な要素とな っている。「どういう状態の高齢者」に「どのような ケア」を「どれくらい」提供されているかの視点が重 要である。

高齢者のDisabilityhandicapレベルによって ケア内容とケア量が異なる。必要なケアの内容 と量を正確には把握して高齢者に適切に提供出 来るという資質が求められる。

住居ら

(1997)

介護度を,要介護者への直接処遇 の介護業務における関わり度・困 難度・必要度により数量化する。

その介護度により,保険福祉機関 職種の介護支援における介護専門 性を比較検討する。

各対象者の介護度に応じた,個別対応できることであ る。チームケアや職種間の調整連携のためにも,共通 な基盤に基づく,要介護者への介護度の評価基準の確 立が必須である。

介護度は,保険医療福祉分野の介護の質的向上 と効率化のためにも必要な指標である。チーム ケアや職種間の調整連携のためにも,共通な基 盤に基づく,要介護者への介護度の評価基準の 確立が必須である。

市江

(2000)

看護・介護職の職種における業務 継続と専門性に関する意識につい て検討する。

介護労働の専門性に関する姿勢・意識が必要である。

職種の自立性と共にチームでケアを展開する能力が必 要であり,多くの専門家の中で,広い視野やかかわり 方をもちながら確実に実践の成果を上げる領域を,責 任をもって担当することが重要である。

保健・医療・福祉分野のそれぞれが連携するた めに,果たすべき役割は何かを考えること,各 職種の専門性と業務内容の整理が必要である。

杣山

(2001)

「ゆとりある教育を推進するため の」4年制大学での介護福祉士養 成に求められる教育内容を考える とともに,介護福祉士の専門性に ついて論究したい。

・痴呆性高齢者のデイケアのプログラム―毎日を楽し く過ごせる,残存能力を発見し活かして充実感を持て るように援助することが重要である。

・治療技法への接近―社会福祉の領域から積極的に治 療技法に接近し有用なプログラムを作っていくことは 痴呆性高齢者の介護にかかわる専門性である。

専門性確立のためには痴呆性高齢者のケアと社 会福祉理論を踏まえた介護支援専門員としての 活躍に,その仕事を収斂させていく必要性があ る。「ゆとりある教育」に集団精神療法と人権 擁護の思想を具現化していくことが求められ る。

永嶋ら

(2001)

看護職・介護職の業務内容の実 態,役割について自分たち及び相 互の意識,専門性及び連帯・共働 していく上での今後の課題を明ら かにする。

対象者の生活史や生活歴を重視し,身体動作的に困難 をきたしている人の身の回りの援助を行うことが介護 の枠割として重要である。

対象者により適切なケアを提供していくために は,それぞれの専門性に対する認識をもっと明 確にし,その専門性に立脚したケアの特性や良 さを生かした上で,連携・共働していくことが 重要である。

北村

(2001)

介護老人保健施設の施設職員を対 象に職務内容や専門性,また同 僚・上司における信頼関係からく るケアへの影響や施設職員の職務 内容に対する理解度が障害高齢者 のケアにどのような影響を及ぼし ているのかについて考察する。

職務内容の専門性対システムの限界―職員の葛藤と管 理的システムの限界がある。職務内容対チームワーク

―職員間で連携を図らなければ職務内容の充実は図れ ない。

施設職員の職務内容における満足度は心理的ギ ャップとの相互作用による関係形成から,障害 高齢者のケアのあり方を現実にある客観的事実 としての環境的諸問題を明らかにし施設職員の 心理的ギャップを考慮しながら前向きに検討し ていくことが求められる。

國光ら

(2002)

石川県内の介護福祉士の勤務状況 や業務内容及び専門職としての意 識等に関する実態調査を行い,教 育機関は何をすべきか,その役割 について考察する。

介護福祉士が高めたい知識や技術は痴呆性高齢者,介 護保険やケアマネジメント,面接や相談,コミュニケ ーションである。また,権利擁護や地域活動への意識 を高めていくことが重要である。主な業務である身体 介護だけでなく,様々な事務的業務活動が多い。業務 バランスを考慮する必要がある。専門的知識や技術,

価値観についての生涯教育や研究開発について,職能 団体とも連携をはかりながら取り組んでいく必要があ る。

社会情勢の変化に対応する専門的な知識や技 術,価値観等についての生涯教育や研究開発に ついて,職能団体とも連携をはかりながら取り 組んでいく必要がある。

山田

(2003)

患者を取り巻くスタッフへの意識 調査を行うことでホームヘルパー の専門性について検討する。

日常生活の細かい変化,精神的・身体的苦痛などの情 報を他の医療スタッフに伝え連携をもち,介護の負担 を軽減していく具体化的な方策を考えていける場をつ くること,他部門と連携を持ちながら実践していくこ とである。

専門性は,患者に対等できる医学的知識(看護 技術)を盛り込んだ研修と専門的ランクづけに よって,さらに患者とその家族を含め日常生活 に即した情報提供を他部門と共有しより良い介 護の実践に結びつけることにより確立される。

中村ら

(2004)

介護老人保健施設における看護職 と介護職の連携について先行研究 をレビューし,検討することであ る。

専門性は,業務内容,役割,知識,技術にある。誰に でもできるのは,専門性とは言えない。利用者を個別 的に見て介助方法の選択,その日,その場の状況の判 断を行える統一された視点や考え方,価値観(創造 性)は誰もが持てるものではなく,そのための基礎的 な教育や訓練が必要となる。

業務を分担して行うより,一緒に行うことを基 本とし,異なった視点や考え方を交換すること により,幅広い援助を提供することが可能であ る。

寺嶋ら

(2004)

高齢者施設における介護福祉士の 専門性を整理することを目指す。

また,医療行為の捉え方や受け入 れ方を明らかにし,介護福祉に医 療がどのようにして入り込んでく るのかを分析する。

介護福祉の専門性は,利用者の気持ちを重要視し生活 の視点からの援助を目指していた。専門性に医療は含 まれておらず,中心は生活であると認識していた。

介護福祉の専門性は,利用者の生活を重視し生 活援助を中心にした内容でとらえていたが,実 際の業務内容方みると,施設勤務の開始と同時 に医療行為が入り込み,介護業務の一部として 無意識に認識している可能性が示された。

介護職の専門性の構成要素に関する研究 44

(10)

4.分析結果

以上のことから【利用者に関わる専門性】【チームケアに関わる専門性】【介護職に関

著者 研究目的 研究における専門性 結論と課題

安田ら

(2004)

施設に従事する看護師と介護福祉 士の捉えている両職種の役割やお 互いの専門性についての意識を明 らかにする。

介護職の専門性は生活中心である。「病態に左右され ず家で生活をそのまま受け入れる」,「その人が思って いること大切にする」など,利用者の思いや気持ちに 沿いながら日常生活を整えることが挙げられる。

今後,介護職の利用者への思いを大切にし,生 活の満足を重視する専門性と看護職の健康上の アセスメントという専門性を発揮しながらの協 働がさらに求められ,重要となっていく。

和田

(2005)

専門的な教育を受けた介護福祉士 が提供する介護の質を向上させる 目的で介護福祉士の専門性につい て探求する。

人に対する好感度が高いことは,介護者として専門的 知識・専門的技術を上回るような要素となっている。

利用者の「固有の生」を支援する専門性のあり方が介 護福祉士に求められている。

介護福祉士の「専門性」を論じる時に,一般的 な概念である「専門職性」とは切り離して考え る必要性を「日常における援助」と「非日常に おける援助」の違いから論考し,介護福祉士の 専門性を高めるためには,「身」・「安心」の概 念の検討が必要である。

中嶌

(2005)

介護福祉専門職の質的向上を図る ため,介護福祉職に求められる専 門性を明らかにする。

理論的専門性と実践的専門性が総合化された視点が必 要である。1.人と状況との全体関連性,2.専門分化 した専門性の超越,3.専門性と非専門性(日常性)

との総合,4.介護業務の内容と質が重要である。利 用者が直面している現実問題としてのニーズに対し,

適切にそれを把握し,利用者の観点から日常生活に密 着したかたちで援助しながら,モニタリングやフォロ ーアップといった機能を継続的に発揮することによっ て利用者の自立支援者になりうる。

利用者の発達・成長をエンパワーして新たなニ ーズの発見や利用者および援助者双方にとって の充実感・満足感を創出するような関わり方,

介護の本質にかかわる部分の研究が必要であ る。

村西

(2006)

介護福祉教育を中心とした介護サ ービス従事者の質的向上を早急に 図る対策が必要であるという立場 に立ち,介護福祉教育の現状分析 を考察する。

専門性とは,価値・倫理・哲学等を基盤に専門知識・

専門技術によって成り立つ。チームケアにおいての中 心的なかかわりが求められる。介護者の人間性によっ て,介護の質が左右される。適切な判断ができる力を 持ち,根拠と責任のある行動ができる専門的な知識や 技術が必要である。

受容や共感,あたたかい関係が利用者や家族の 主体的な行動を支え,そこに自立支援の本質が ある。利用者の必要や考えに沿って,個別性を 重視した対応がより一層望まれる。

洪ら

(2007)

在宅と施設の介護現場に求められ ている専門性は何なのかを再検討 する。

専門職として重要な要素は,専門的な介護技能,柔軟 な判断能力,心の優しさ思いやり,コミュニケーショ ン能力,総合的視点である。

介護現場の悪化の実態と離職の増加が養成政策 と深く関連している。介護養成に関わる問題や 質の向上を阻害する問題,理想と現実のギャッ プや離職と直接に関連がある問題などを早急に 解決しなければならない。

能田

(2008)

介護事故の判例と施設介護での

「ヒヤリ・ハット」を事例として 介護の課題を分析し,介護福祉士 に求められる「専門性」について 考察する。

介護者自身が「介護福祉」の実践者として自覚し,自 己研鑽していくことや,職場環境の研修システムの充 実な整備が必要である。

介護福祉士の専門性は,介護実践における対象 者との信頼関係の構築にあり,専門知識。技術 に基づく「介護福祉」にある。

勅使河 原ら

(2008)

在宅ケアサービスを行う介護福祉 士の専門性を明確にする。

在宅ケアで必要とされている専門性は,利用者との信 頼関係を構築,障害や疾病,多職種間の協働,状況の 変化に対応した介護,衛生管理,認知症,福祉制度と 法,栄養素と被服,介護予防,価値観の尊重,緊急時 等に関する知識・技術である。

高い水準の知識と技術と価値観を持つ介護専門 職をいかに養成・確保するか,その条件をいか に整備するかは今後の課題である。

本間ら

(2008)

介護福祉士の専門性とその関連要 素を検討することで介護福祉士の 資質向上に寄与する。

対象者と周りの介護者を含めた人間関係をアセスメン トした上での介護指導の展開が重要である。介護計画 立案,評価といった介護過程の展開が介護福祉士の専 門性には重要な要素である。

労働条件の整備が必要である。介護福祉士養成 校と職能団体での有効な情報を教育の場や地域 の場に発信していく必要がある。

井口

(2009)

介護労働者の「専門職化」の実態 を明らかにし,その再編の必要性 を提起する。介護労働の専門性の 客観的把握,その労働の強度,時 間,そして介護・福祉職や看護・

医療職の職種間の分業及び協働関 係の実際的に把握する。

要介護者の生活問題と主体的に向き合うこと,人の潜 在的能力を顕在化・開花させることである。

現在の介護労働を取り巻く諸条件から分業を再 編成し,その中で介護労働者の地位・待遇の向 上を実現していくことが課題である。

本間ら

(2008)

介護実践に関わる介護福祉自身の 専門性意識に着目し,介護福祉士 の専門性意識との関連要素とその 課題を明確にする。

利用者のADLを中心とした日常生活を捉えるアセス メント能力,意欲や能力を引き出す介護過程の実践,

介護計画立案・評価による自立支援や生活支援,理論 や根拠に基づくサービス提供である。

介護福祉士の専門性向上のためには,施設内に おける研修・教育のみに期待するのではなく,

介護福祉士自らがその専門性向上のために積極 的に自己研鑽する必要がある。また,そのため に外的環境の整備も必要である。

(2014)

介護福祉士の有識者であると考え られる介護福祉士養成施設の教員 を対象に自由記述式質問紙調査を 行い,介護福祉士の専門性の構成 要素を抽出することである。

日常生活の支援,介護過程の転嫁,生きがい支援,倫 理,知識と技術,利用者との関係形成,役割認識,連 携の要素がある。

日常生活の支援をはじめ生きがい支援を実践す るには,利用者との関係形成と介護過程の展開 が重要な要素である。その基盤として知識と技 術,倫理,役割認識,連携の4つが不可欠な要 素である。現場の介護職や他職種を対象として それぞれの考える介護福祉士の専門性について 明らかにして比較検討する必要がある。

奥野

(2014)

組織としてとりくんでいるグルー プ会議と,個人の経験をインタビ ュー調査することで,実践場面に おけるケアワーカーの専門性を明 らかにする。

人権や尊厳といった価値への思いをもち,そこに知識 や理論が加わり,総体としての介護過程を実践し,

「経験の質」「共有の質」があがることである。

行ったケアに対して「行為の中の省察」を日常 的に行うこと,そしてグループ会議のような会 議を活用し,チーム学習をして個人の成長とチ ーム成長につなげることで,より質の高い介護 の実践が可能になる。実際に業務にみあった,

かつ会議を業務としてできるような,新たな人 員基準を含む枠組みを再構築する必要がある。

介護職の専門性の構成要素に関する研究 45

(11)

わる専門性】の

3

つのカテゴリーが導出された(表

2)。

具体的には,【利用者に関わる専門性】として〈個別ニーズ〉〈環境に沿った介護〉

〈潜在的能力・機能〉〈信頼関係〉〈人間尊厳〉〈十分な知識・技術による介護〉〈医療的 接近〉という

7

つのサブカテゴリーが挙げられ,これらは,[個別対応][利用者の視 点][利用者の気持ちを重要視する][ニーズ把握の力][生活歴重視][生活の視点から 援助][状況の変化に対応した介護][身の回りの環境整備(衛生,栄養素,被服,人間 関係)][潜在的能力を顕在化・開花][利用者の

ADL

を重視][意欲や能力を引き出す 介護過程の実践][信頼関係を構築][人権や尊厳][権利擁護や地域活動への意識][緊 急時の対応][モニタリングやフォローアップ][理論や根拠に基づくサービス提供]

[介護計画立案][評価による自立支援や生活支援][認知症高齢者に対する治療技法接 近]という

20

の詳細な要素で構成された。

【チームケアに関わる専門性】は〈多職種との連携〉というサブカテゴリー,[職員と の連携][医療スタッフとの連携][情報提供能力][他部門との連携][介護に関する中 心的役割][統一された視点(介助)や考え方]という

6

つの詳細な要素で構成された。

2 介護職の専門性の構成要素

カテゴリー サブカテゴリー 詳細な要素

利用者に関わる 専門性

個別ニーズ ●個別対応 ●利用者の気持ちを重要視する

●利用者の視点 ●ニーズ把握の力

環境に沿った介護 ●生活歴重視 ●状況の変化に対応した介護

●生活の視点から援助 ●身の回りの環境整備

(衛生,栄養素,被服,人間関係)

潜在的能力・機能 ●潜在的能力を顕在化・開花 ●利用者のADLを重視

●意欲や能力を引き出す介護過程の実践 信頼関係 ●信頼関係を構築

人間尊厳 ●人権や尊厳 ●権利擁護や地域活動への意識 十分な知識・技術

による介護

●モニタリングやフォローアップ ●緊急時の対応

●理論や根拠に基づくサービス提供 ●介護計画立案

●評価による自立支援や生活支援 医療的接近 ●認知症高齢者に対する治療技法接近 チームケアに

関わる専門性

多職種との連携 ●職員との連携 ●他部門との連携

●医療スタッフとの連携 ●介護に関する中心的役割

●情報提供能力 ●統一された視点(介助)や考え方

介護職に関わる 専門性

自律性 ●適切な判断ができる力,柔軟な判断能力

●責任感,根拠と責任のある行動

人間尊厳のこころ ●価値観 ●人間性

●好感度 ●心の優しさ思いやり

●倫理観 自己開発 ●業務のバランス

●生涯教育や研究開発

●介護保険やケアマネジメントの知識 コミュニケーショ

●アセスメントに伴うコミュニケーション能力

●面接や相談に伴うコミュニケーション能力 出典:分析対象の文献をもとに筆者作成

介護職の専門性の構成要素に関する研究 46

(12)

【介護職に関わる専門性】は〈自律性〉〈人間尊厳のこころ〉〈自己開発〉〈コミュニケ ーション〉という

4

つのサブカテゴリー,[適切な判断ができる力,柔軟な判断能力]

[責任感,根拠と責任のある行動][価値観][好感度][人間性][心の優しさ思いやり]

[倫理観][業務のバランス][生涯教育や研究開発][介護保険やケアマネジメントの知 識の継続的向上][アセスメントに伴うコミュニケーション能力][面接や相談に伴うコ ミュニケーション能力]という

12

の詳細な要素で構成された。

5.考 察

本稿の目的は,これまでの研究動向でどのように介護職の専門性が論じられてきたか を検討し,介護職の専門性を構成する要素を明らかにすることである。あくまでも介護 職の専門性を判断する基準や枠組みの確立のための第一ステップとして理論的根拠をも って説明することに注目した。

介護職の専門性に関する研究の分析結果,「利用者」「チームケア」「介護職」の三つ の視点からの専門性が導き出された。

5-1.利用者に関わる専門性

介護サービスの提供における生活の支援は,利用者のニーズに対応するものである

(黒澤

2010)。すなわち,介護職が利用者の多様なニーズに対応するためには,生活の

中でその人(利用者)の個性を尊重しながら,利用者の視点から専門性を考えることが 重要である。

【利用者に関わる専門性】の〈個別ニーズ〉とは,利用者の心身の状態の急激な変化 や徐々に変化していく状態を把握することであり,〈環境に沿った介護〉は,利用者の 日常生活の中で,利用者が直面している課題を適切に把握し,介護を行うことである。

これらに沿って介護を行う際には,利用者の意欲や能力を引き出す介護過程を実施 し,〈潜在的能力・機能〉を維持および発揮させる必要がある。その時に,〈信頼関係〉

を構築しながら,利用者の尊厳ある自立した日常生活を支援するための介護を提供する という介護保険の理念である〈人間尊厳〉を意識しながら,利用者の人権を守ることが 重要である。

また,より専門的に介護を行うために根拠のある〈十分な知識・技術による介護〉

で,認知症高齢者や障害をもつ高齢者などに対する〈医療的接近〉も行うことが利用者 に関わる専門性である。

介護職の専門性の構成要素に関する研究 47

(13)

5-2.チームケアに関わる専門性

厚生労働省(医療介護総合確保促進会議)の「地域における医療及び介護を総合的に 確保するための基本的な方針」によると,「医療及び介護の連携の核となる人材の育成 を図りつつ,多職種が連携して取り組む環境づくりを進めていくことが重要である」と 質の高い医療・介護人材の確保と多職種連携の推進について述べている。その際には,

「医療及び介護の関係機関・団体が相互の連携を密にして,利用者にとってわかりやす く総合的な支援が行われる体制を確保することが重要である」と各専門分野との連携の 重要性について述べている。

このように各専門分野の専門家がお互いに情報や意見を交換しながら利用者をケアす る「多職種連携」が現代社会において欠かせない重要な業務として位置づけられてい る。利用者の生活は多様な構成要素で成り立っているため,より専門的な介護を行うた めには,チームケアの視点が重要である。

【チームケアに関わる専門性】の〈多職種との連携〉とは介護職だけでなく,医療ス タッフなどの他部門との連携が主に行われ重要である。チームケアを行う際に,介護に 関する中心的な役割として介護職の能力が求められる。その際に,統一された視点から の介護や介助を行うように努めるべきである。

各職種は,それぞれの知識や技術をもつ専門職であるため,お互いに共通認識をもち ながら,利用者の生活に即し,情報を共有することが重要である。その際に,お互いに 利用者のことを最優先としながら,各職種の専門性に合わせて業務を分担し,より良い 介護過程を展開することがチームケアに関わる重要な専門性である。

5-3.介護職(自分自身)に関わる専門性

筒井(1996)は,介護職がもつべき専門性について要介護状態の高齢者へのケア適応 に関する技術とケアを行うための知識が十分に体系化されていないことを指摘しなが ら,「介護サービスの担う専門職としての資質として,ニーズ把握の力,技術,知識の

3

つを重要な要素としている」と論じている。

確かにニーズ把握の力,技術,知識の

3

つは重要であるが,近年の認知症高齢者の増 加や世帯構成の変化など介護ニーズの多様化により,介護を行う時に必要な専門的知 識・技術の中には,【介護職に関わる専門性】の〈人間尊厳のこころ〉のように,好感 度や心の優しさや思いやりが基盤とした〈コミュニケーション〉等,介護職の内面的な 人間性までが求められている。介護職の内面的な人間性まで求められている理由は,介 護職の姿勢および意識に関する自律性や価値観は,介護職が介護を行う時の必要な知識 や技術にも影響を与えるためである。

〈自律性〉(8)とは,主に看護師の「専門職」,「専門性」に関する研究に用いられてお

介護職の専門性の構成要素に関する研究 48

(14)

り,看護における自律性の研究が多いが,介護職に対する〈自律性〉も重要な専門性と して求められている。橋本(2010)は,介護職の〈自律性〉について「利用者の生活習 慣や生活信条を尊重し,専門的知識に裏づけされた判断のもと,介護活動を決定し実践 する能力である」と定義した。このように〈自律性〉は,介護職の適切な判断能力,柔 軟な判断能力,すなわち,根拠と責任のある行動にもつながる。

自ら専門性の向上のためにバーンアウトされないように業務のバランスを取りなが ら,〈自己開発〉を通した介護保険制度や介護過程の展開に対する知識および技術の理 論的根拠を探る生涯教育や研究開発などの自己研鑽も介護職に関わる重要な専門性であ る。

6.結論と今後の課題

本稿では,介護職の専門性を明確にするために,これまで行われてきた介護職の専門 性に関する研究動向から専門性の構成要素を分析および考察した。その結果,「利用者」

「チームケア」「介護職」の視点から介護職の専門性が導き出された。

介護職の専門性は単なる食事介助,排泄介助,入浴介助,着替え介助,掃除,洗濯な どの介護行為の知識及び技術だけではなく,それ以外に利用者の多様なニーズに答える ことや根拠のある責任をもつこと,多職種連携によるチームケア,また介護職の人間性 まで求められるようになった。さらに,介護職に対する生涯教育や研究開発などの自己 研鑽が重要視され,介護を中心的に担う専門的人材としての役割が求められている。す なわち,介護を受ける側の「利用者」,専門職による多職種連携の「チームケア」,主に 介護を行う「介護職」本人,これらの三つの視点が重要であり,一つでも除外して考え てはならないことである。

以上のように介護の範囲が身体介護及び日常生活を世話する固定観念から幅広くな り,より多様な専門性を求められるようになったが,介護職の専門性はまだ形成途上段 階である。

本稿では,介護職の専門性を判断する基準や枠組みの確立のための第一ステップとし て,多くの研究者らによって行われた理論研究を用いて,介護職の専門性の構成要素を 導出し考察を行ったため,結果の実証研究が不十分であり,客観性の担保が難しいとい う限界がある。

したがって,より明確な根拠で専門性を構成する要素を明らかにし,介護職の専門性 を判断する基準や枠組みの確立のためには,理論研究および実証研究を総合的に行うこ とが必要である。そのためには,以下の三点について論じることが重要である。

一点目は,介護職の基盤となる介護,介護福祉,介護援助技術の歴史的変遷について

介護職の専門性の構成要素に関する研究 49

(15)

検討することである。

本稿で取り上げた介護職の専門性に関する研究から導き出された「利用者に関わる専 門性」「チームケアに関わる専門性」「介護職に関わる専門性」は,介護現場で介護に関 わるどの職種(生活相談員,ケアマネージャー,看護師など)にも当てはまる対人援助 技術に近いものではないかという疑問が生じた。そうすると,上記の三つの視点からの 専門性は,介護職の専門性として一般化することは難しい。

上の疑問を解決し,介護職の専門性をより明確にするためにも,介護職の専門性の基 盤となる介護とはそもそも何か,また介護福祉における対人援助技術である介護援助技 術とは何かについて明らかにする必要がある。

二点目は,資格制度や研修のカリキュラム,倫理綱領などの根拠や基準になるものを 考察することである。

具体的にいうと,資格制度や研修のカリキュラムはある程度の資質を判断する道具と して使われており,倫理綱領は介護職が専門的知識・技術及び倫理的自覚をもって責任 や根拠のある最善の介護を行う時にその根拠や基準になるため,資格制度や研修のカリ キュラム,倫理綱領などの考察が必要である。

三点目は,介護職が考える介護職の専門性に関する意識について調査することであ る。

介護現場では人材不足により資格取得の有無や研修経験の有無に関係なく,早期に仕 事ができる人材を求めている。資格がなくても,研修を受けなくても介護職として働く ことができるため,介護職自らの専門性を不明確にしている可能性もあると考えられ る。また,本稿で導き出された介護職の専門性の構成要素の客観性を担保するためにも 本稿の結果および上記の三点を踏まえて実証研究を行う必要がある。

⑴ 厚生白書(昭和38年度版)の「第10老人の福祉」の「2.老人福祉事業の現状」の「(4)老人家庭奉 仕員による世話」に記載されている。

⑵ 「経済連携協定」(EPA : Economic Partnership Agreement)は,WTO(世界貿易機関)と中心とした多 国間の貿易自由化を補完するため,国や地域を限定して,関税等の貿易障壁を撤廃することにより,

モノ・ヒト・カネ・サービスの移動を促進させようとするもの。一般的には,「自由貿易協定」(FTA : Free Trade Agreement)の呼称が使用されているが,日本においては,いわゆる自由貿易協定(物品や サービスの貿易障壁の削減・撤廃を目的とする)の要素に加え,投資,人の移動,知的財産保護,協 力等の広範な分野を対象としていることから,協定の名称は「経済連携協定」(EPA)を用いている。

⑶ 「介護福祉士候補者」又は「候補者」は,EPA又は交換公文に基づき,JICWELSが紹介した受入れ機 関と締結した雇用契約に明示された受入れ施設において,研修責任者の監督の下で日本の看護師・介 護福祉士資格を取得することを目的とした研修を受けながら就労するインドネシア人,フィリピン人 及びベトナム人である。看護師・介護福祉士候補者受入れ(以下,受け入れ)はインドネシア(平成 20年度),フィリピン(平成21年度),ベトナム(平成26年度)の国から実施されており,累計受入 れ人数は3国併せて4,700人を超えた(平成2991日時点)。

介護職の専門性の構成要素に関する研究 50

(16)

⑷ 公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)は,EPAによる外国人介護福祉士候補者・特例介護福祉士 候補者の受入れ状況の確認,就労・研修に関する助言を行うため,巡回訪問を実施した。平成28年度 においては,受入れ体制,研修体制,候補者の現状等を把握するため,面談及び質問票を用いて実施 した(介護福祉士候補者受入れ施設:291,施設介護福祉士候補者:1118名(内1名育休中),実施期 間:2016511日から201636日)。

⑸ 介護福祉士,実務者研修修了者,初任者研修修了者を指す。

⑹ 養成施設ルート,実務経験ルート,福祉系高校ルート,経済連携協定(EPA)ルートを指す。

⑺ 公益財団法人介護労働安定センターの「介護労働実態調査(2016年)」によると,62.6% の事業所が 人手不足を実感している。その理由については,「採用が困難である」が73.1% で最も多く,次いで

「事業を拡大したいものの人材確保できない」が19.8%,「離職率が高い」が15.3% であった。

⑻ 自律性の定義について,多くの研究者によって定義されている。菊地(1997)によると,「自律性と は,高度な専門技術に裏付けられた自主性,主体的な判断と適切な看護実践という看護活動における 専門的な能力である」と述べている。志自(1998)は,「自律性とは,他者(患者)の価値観および権 利を尊重・擁護し,権威に従属せず,自らの信念・価値観に基づいて意志決定を行い,その結果に責 任を持つという看護師としての役割行動である」と述べている。

参考文献

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公益社団法人国際厚生事業団(2017)「外国人介護士の現状−EPAによる受入れを中心として−」。

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介護職の専門性の構成要素に関する研究 51

参照

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