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児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成 に与える影響に関する考察 : 職員のライフストー リーに着目して

著者 梅谷 聡子

雑誌名 評論・社会科学

号 130

ページ 1‑21

発行年 2019‑09‑30

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000398

(2)

要約:本研究の目的は,児童養護施設職員のライフストーリーについての語りから,職員 の子どもへの共感が援助観の形成にどのような影響を与えるかを明らかにすることである。

職員のライフストーリーからみる施設職員につながる動機,子どもへの共感がもたらす職 員の満足感,共感がもたらす援助観のゆらぎ,そのゆらぎを支えたものについて分析した 結果,職員が共感することの満足感を求めるエネルギーを活用すること,子どもへの共感 について職員が抱える葛藤に積極的な意味を与えることが援助観の形成に影響を与えるこ とが示唆された。

キーワード:児童養護施設,共感,職員

目次 1.研究背景

2.対人援助における共感とは何か

2-1.どのように援助職はクライエントに共感することができるか 2-2.児童福祉施設職員の共感に関する先行研究の検討

3.研究方法 4.分析結果

4-1.職員のライフストリーからみる施設職員につながる動機 4-2.子どもへの共感がもたらす職員の満足感

4-3.共感がもたらす援助観のゆらぎ 4-4.共感がもたらすゆらぎを支えたもの 5.考察

6.結論

1.研究背景

児童養護施設とは,「保護者のない児童,虐待されている児童など,環境上養護を要 する児童を入所させて,これを養護し,あわせて退所した者に対する相談その他の自立 のための援助を行うことを目的とする」児童福祉法第

41

条に定められた入所施設であ

────────────

同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程

201931日受付,査読審査を経て2019722日掲載決定

論文

児童養護施設職員の子どもへの共感が 援助観の形成に与える影響に関する考察

──職員のライフストーリーに着目して──

梅谷聡子

(3)

る。2017年に厚生労働省より発表された「新しい社会的養育ビジョン」では,児童養 護施設を含む「代替養育の目的の一つは,子どもが成人になった際に社会において自立 的生活を形成,維持しうる能力を形成し,また,そのための社会的基盤を整備すること にある」とされている。すなわち,児童養護施設における養育の目的は,子どもの自立 を支援することであるといえよう(伊藤嘉余子

2007,望月彰 2009)。

児童養護施設における自立支援について,入所中の職員と子どもの信頼関係の重要性 が指摘されている(櫻谷眞理子

2016,田中弘美 2015)。対人援助職がクライエントと関

係を深めるために必要な態度の一つとして,共感的な関わりがあげられる。しかしなが ら,児童養護施設の子どもの約

6

割が児童虐待を理由に入所している現状において,施 設で子どもたちが表出する複雑な課題に対応する職員が子どもたちに共感的に関わるこ とが難しい場面も多い。

資生堂福祉事業財団(2016)が,児童福祉施設(児童養護施設,乳児院,母子生活支 援施設,児童心理治療施設)での経験が

5

年以上の者を対象に行った調査では,「仕事 を辞めたいほどの困難な状況に関する実態」について,「困難状況を体験する職員は特 に児童養護施設で多く,職員の多くが自身の能力や技能の不足を感じていて,自信を喪 失し,無力感にさいなまれて」おり,「このことは,職員の経験年数に関係なく,すべ ての職員に共通するものである」ことが明らかになった。これらの因子に対して高い相 関が示されたのは「ケースの難しさ」であった。

藤岡孝志(2018)は,「施設職員・里親は,被虐待児やネグレクト児のトラウマや愛 着上の様々な課題に対処せざるを得ず,疲弊し,自己統合感の侵蝕を常時受けている」

とし,「専門職として求められることが,実は支援者としての傷つきの場に,自分を置 くことに意味している。それは傷つく場に身を置きながら,共感的に関わり,信頼関係 を構築していることを意味していて,ジレンマに曝されている」としている。施設職員 にとって,困難な状況にある子どもに共感することは,援助関係を深める要素であると 同時に,ストレスやバーンアウトの一因にもなりうる諸刃の剣のような側面がある。

しかしながら,このような困難な状況にあったとしても,児童養護施設職員は子ども との関係性を築く試みを放棄することは出来ない。では,職員は子どもへ共感しようと することを実践の中でどのように位置づければよいのか。本研究では,10年以上児童 養護施設で実践を続けてきた職員へのインタビュー調査から,児童養護施設職員の子ど もへの共感が援助観の形成にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とす る。

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察

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2.対人援助における共感とは何か

2-1.どのように援助職はクライエントに共感することができるのか

社会福祉学の分野において「共感」とは,「クライエントが見たり,考えたり,感じ たりしていることについて,ワーカーがクライエントの立場から理解を深めること(久

保美紀

2013)」とされている。

また最新心理学辞典において「共感」とは,「他人の気持ちや感じ方に自分を同調さ せる資質や力を意味する。すなわち,他人の感情や経験を,あたかも自分自身のことと して考え感じ理解し,それと同調したり共有したりするということである(亀島信也

2013)」と述べられている。最新心理学辞典の定義に基づけば,自分が他人の感情や経

験を考え感じ理解する仕組みは,「あたかも自分自身のこととして」とあるように,自 分が他人と全く同じ考えや感情を経験しているのではなく,あくまで自分自身の感情や 思考の動きが「他人の気持ちや感じ方」に同調することによるものであるといえる。

また,看護の現場に関して長谷川美貴子(2009 : 89-90)は,「共感とは,相手がどの ように考え,思い,感じているのかを客観的,知的な理解もあわせて感じ取り,『同!!!!!感情』を認知することである」とし,「共感を行うためには,想像力を働かせて 相手の感情に近い状態を作らなければならない」としている。「共感の基礎であるこの 想像力」は「援助者自身がこれまでに経験したことがらに関する感情や,病気や心理な どに関する多くの知識によって得られるものなのであ」り,「他者への共感は自分の感 情を反省するところに成り立つのである」としている。

一方で,松本史郎(1999 : 74-77)は,「共感」は相手をわかろうとするとき自然に発 生する「感情移入」と,クライエントとは異なる視点に立ち,同一化により多少虚飾さ れた自身とクライエントを壊しつつ実際の両者を見る「他者性」の二つの要素により成 立すると述べている。したがって,援助者が「相手と同じように感じたり,悩んだりす るだけでは『共感』として不完全」であり,「相手が感じていることや悩んでいること をこちらが規定することは『共感』ではな」い。「相手とは別の立場で相手のことを感 じ,悩む,そしてそのことで相手とやりとりできることが『共感』である」と述べる。

松本史郎(1999)の定義は,クライエントと援助者の間の共感によるつながりと同一化 を違いを明確にしている。援助者による感情移入のみのクライエントへの同一化は,共 依存関係やクライエントの個別性を失わせる可能性があると考えられる。

以上の先行研究に基づけば,援助者がクライエントに共感するということは,援助者 がクライエントの個別性を尊重しつつ,自らの経験をもとにした感情や知識に基礎付け られる想像力により,クライエントの気持ちや感じ方に自分を同調させることであると

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察

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いえよう。

2-2.児童福祉施設職員の共感に関する先行研究の検討

では,児童養護施設職員の共感については先行研究においてどのように議論されてき たのか。

まず,先行研究において「共感疲労」と「共感満足」のいずれか(篠崎智範

2007,

小野さやか,中野明徳

2017)もしくは双方の関係性(趙 正 祐 2014,藤 岡 孝 志 2007, Conrada, David & Kellar-Guenther, Yvonne 2006, Salloum, Alison et al, 2015)について定

量的調査による論究がなされている。「共感疲労」とは,「援助者が援助過程でクライエ ントと共感的に関わることで生じる短期的疲弊や二次的外傷性ストレスの反応の経験で あり,援助者におけるケアの代償」である(Figley, C. R 1995 : 1-20)。一方で「共感満 足」とは,「人を助ける喜びであり,同僚に対する好意と自分が人を助けられるという ことから生じる喜びの感情」である(Figley, C. R. and Stamm, B. H. 1996 : 127-130)。こ の「共感疲労」と「共感満足」の関係性について,「共感疲労」が高い場合であっても,

「共感満足」が高いことで,バーンアウトをリスクを低下させたり(Conrada, David &

Kellar-Guenther, Yvonne 2006,藤岡孝志 2007),職員のメンタルヘルスを保つことに有

効(趙正祐

2014)であること。また,「共感満足」を高め,バーンアウトを減らすため

には,職員が自らの感情的経験を自覚し,スーパーバイズを求める等の積極的な対処戦 略に基づく計画・従事を行うことが有効であること(Salloum, Alison et al, 2015)が示 された。

しかしながら,これらの先行研究は,定量的調査により「共感疲労」や「共感満足」

に該当する職員の状態は測定してきたが,職員が子どもへ共感することで満足感や疲弊 感を感じることが,どのように職員の援助観の形成に影響するのかという点について着 目した研究は少ない。また,これまで職員の共感はバーンアウトリスクと関連して論じ られ,その予防のためのスーパビジョンや施設のチームワークの必要性が指摘されてき たが,職員が子どもへ共感することが,実践の意味づけである援助観にどのように影響 するかを明らかにすることは,困難な状況にある職員への支援のあり方にも示唆を与え るものと考えられる。

林浩康(2004 : 42)は,職員の子どもへの関わり方が,職員の養育観,子ども観,家 族観等の価値観の影響を受けることを強調している(1)。また,援助者が他者へ共感する ための想像力に影響を与える要素として,先述の長谷川美貴子(2009)は職員自身の

「これまでの経験」を挙げている。こうした点から,本研究では,職員が語る児童養護 施設実践に携わる以前からのライフストーリーにも着目していく。

以上のことから,本研究では,児童養護施設職員が語るライフストーリーから,職員

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察

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の子どもへの共感が援助観の形成にどのように影響を与えるのかを明らかにするために 以下の研究課題を設定した。第一に,職員が施設就職に至る動機は何か。第二に,職員 の満足感に子どもへの共感はどのように影響を与えるか。第三に,職員のゆらぎに子ど もへの共感はどのように影響を与えるか。第四に,共感がもたらすゆらぎを支えたもの は何か。

先行研究において,「共感満足」の対比となる概念は「共感疲労」とされたが,職員 に「疲労」とは意識されない自らの子どもに共感することの限界への気づき等も含めて 考察するため,本研究では共感できないことがもたらす「ゆらぎ」という語を使用する こととする。

3.研究方法

本研究では,半構造化インタビュー調査を採用した。その理由は,第一に,児童養護 施設職員の実践に子どもへの共感がどのように影響を与えているかその意味を含めて明 らかにするためである。第二に,筆者は児童養護施設職員として勤務から協力者である 職員の語りにおける意味を比較的共有しやすい立場にあると考えたためである。

調査対象は勤続年数

10

年以上の職員とした。児童養護施設職員(児童指導員,保育 士)の平均勤続年数は

7.7

年であり,5年未満の離職率は

50.3% に上ることから(資生

堂福祉事業財団

2016),10

年以上の勤続年数の職員は平均以上の経験年数を経ているこ ととなる。

以上の条件を満たし,協力を得られた

9

名の調査対象者(表

1)に対し,事前に調査

に関する説明書,インタビューガイド,質問紙等の書面を郵送した。希望がある場合,

インタビュー調査当日に再度口頭で本研究の説明を行った。すべての対象者に同意書に より研究参加の同意を得た。また,本研究は「同志社大学『人を対象とする研究』に関 する倫理審査委員会規定」に従い,「同志社大学研究倫理審査会」の承認を得たうえで 実施した(承認番号:16088)。

インタビュー内容は,ICレコーダーで録音した音声データから逐語録を作成し,そ れをデータとして用いた。実際のインタビュー項目は,以下の通りである。

①子どもの自立と聞いてあなたが一番に思い浮かべる状態。②子どもが自立する為に 何を重視するか。③子どもの自立を阻むものは何か。④①〜③のように考えるようにな った,職員としての経験上のエピソード。⑤職員自身の自立のストーリー。⑤-1どの ような子ども時代を過ごしたか。⑤-2家族や友人との関係。⑤-3養育者の協力者に対 する子育て上の願い。⑤-4協力者の子ども時代に一人前になることについて意識して いたこと。⑤-5施設職員への動機。⑤-6施設職員としての原動力になるもの,あるい

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察

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は最大の魅力。⑥その他, 子どもの自立 に対する価値観に影響を与えていること。

質問項目の内容にあるように,本調査は当初,児童養護施設の子どもの自立支援に影 響を与える職員の自立観の形成過程を問うことを目的に設計した。しかしながら,調査 を進め複数の協力者の語りを聴くうちに,むしろ異なる自立のプロセスを経てきた職員 がどのように子どもに共感することができるのかということが,いずれ施設から自立し ていく子どもが,入所中に経験する職員との関係において重要なのではないかと考える ようになった。したがって,本研究では,上記の質問項目から得られた職員の語りか ら,職員の子どもへの共感について分析した(2)

分析方法は佐藤郁哉(2008)による「質的データ分析法」を採用した。質的データ分 析法の特徴は,演繹的アプローチと帰納的アプローチの併用にある。本研究では,帰納 的アプローチ的な分析手順をとる。帰納的アプローチが有効であるのは,「まだ,先行 研究が少ない問題領域で探索的に調査や研究を行う場合(佐藤郁哉

2008 : 104)」とさ

れており,職員の経験から児童養護施設職員の共感のあり方を導き出す本研究の目的に 適当な分析法であると考えられる。

分析の手順として,まず,逐語録をコードを割り当てるオープン・コーディングを行 った。さらにそれらのコードを抽象度の高い,しかも比較的少ない概念的カテゴリーに 割り振っていく「焦点的コーディング」を行った。それと同時に,「継続的比較法」を 用いてデータ,コードが表すカテゴリーとカテゴリー同士の関係について入念な分析を 行った。分析結果は,カテゴリーを【 】,コードを〈 〉,テキストを「 」の記号に より示す。

1 インタビュー協力者の概要

施設 ID 性別 年齢(代) 経験年数

A 1 50 32

2 50 25

B 3 30 14

4 30 10

C 5 50 16

6 30 11

D 7 30 13

8 30 15

E 9 40 17

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察

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4.分析結果

4-1.職員のライフストリーからみる施設職員につながる動機

先行研究による知見(林浩康

2004 : 42)や職員の語り

(3)から,職員の生い立ちを含む 経験が児童養護施設における援助観や子どもへのアプローチに与える影響についての指 摘がなされた。本研究では,とくに職員としてのモチベーションに繋がる施設就職の動 機に着目し分析を行った。

第一に,職員のライフストーリーについての語りから,施設職員につながる動機とし て【自己有用感(4)の充足への期待】というカテゴリーが生成された。それはすなわち,

施設就職に際して職員が他者との関係性により,「他者や集団との関係の中で,自分の 存在を価値あるものと受け止める感覚」である自己有用感が充足されることを期待して いたと分析された。

このカテゴリーは,〈人を喜ばせたい〉〈自己の存在意義の確認〉〈やりがいのある仕 事がしたい〉というコードにより構築された。自分を嬉しい気持ちにさせてくれた幼稚 園バスの先生への憧れ(C-6)や,幼少期から自営業の店を手伝っていた経験により人 を喜ばせることを好んでいた(D-7)というの語りから,〈人を喜ばせたい〉というコ ードが生成された。乳児院のボランティアで子どもが慣れてくれることの喜びを感じた こと(D-8),家族に褒められたかったり,または心配をかけまいと思いつつ認められ たい自らの承認欲求を自覚した(E-9)語りからは〈自己の存在意義の確認〉というコ ードが生成された。また,営業の仕事で顧客に謝罪し続けなければならない仕事に疑問 を感じた経験の語り(A-2)からは〈やりがいのある仕事がしたい〉というコードが生 成された。

第二に,【子どもと時間と空間を共有することへの期待】のカテゴリーは,〈子どもと 遊ぶことが楽しい〉〈子どもの成長が見たい〉〈就職した施設の空間が心地よい〉という コードにより構築された。児童養護施設での実習やボランティア経験から(B-3),〈子 どもと遊ぶことが楽しい〉と感じたこと。ボランティアで訪問した時,子どもとのんび り過ごすことができたことから(C-6),後に〈就職した施設の空間が心地よい〉と感じ ていたこと。また,ボランティアを継続するうちに,時間経過に伴う子どもの成長過程 を目の当たりにすることになり(D-8),〈子どもの成長が見たい〉と感じたことなどの 語りからコード化した。

第三に,【困難な状況にある子どもの存在に引きつけられた】のカテゴリーは,〈自ら の満たされた状況の自覚〉〈虐待された子どものことを理解したい〉〈入所している子ど もへの敬意〉のコードにより構築された。児童福祉施設で暮らす子どもたちとの出会い

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察

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から自らの恵まれた状況を自覚したことが動機となった語り(A-1, C-5)からは〈自ら の満たされた状況の自覚〉というコードが生成した。虐待を受けて児童養護施設に入所 している同級生との出会いにより施設に入所している子どもたちの背景を理解したいと 考えるようになったという語り(B-4)からは,〈虐待された子どものことを理解した い〉というコードが生成された。入所している子どもが小学校の運動会で一般家庭の子 どもに混じって精一杯パフォーマンスする姿を目にして,困難な状況にあるにも関わら ず生活する子どもの存在に感涙し,現在でも彼らの側にいることがすごいことであると 考えているという語り(D-7)からは〈入所している子どもへの敬意〉というコードが 生成した。

第四に,福祉系養成校への進学や就職前に当時,児童養護施設就職へのはっきりした

2 職員のライフストーリーからみる施設職員につながる動機

カテゴリー コード セグメント

〈人 を 喜 ば せ た い〉

(D-6, D-7)

D-6:昔から,人に喜んでもらうのはすごい好きやったなっていうのはある

D-7:出会って元気よく嬉しい気持ちになる,そう言う人になりたかったんやって気づきまし

〈自己の存在意義の 確認〉(D-8, E-9)

D-8:(乳児院のアルバイトの)きっかけは自己満足ですかね。行けば行くほど顔を覚えてく れてニコニコしてくれる。自分の存在意義というか。やっぱり行きたくなるっていうのがあっ たかな

E-9:最初のうちは自分は子ども達を癒すんだみたいな形だったけど,実は子どもに癒される 体験がすごい欲しかったんやなっていうことは思います(…)助けることに対して自分の優越 感じゃないけど(…)承認欲求みたいなの持ってるし

〈やりがいのある仕 事がしたい〉(A-2)

A-2:(営業職を離職した後に出会った友人の)お姉さんがこんな仕事(施設職員)していて

「天職や」と言ってたって。(…)私もそんなことが言えることがしてみたいっていう

〈子どもと遊ぶこと が楽しい〉(B-3)

B-3:(実習で)子どもと遊んで本当に楽しくて。これでお金がもらえる,そんな最高な仕事は ないという。

〈子どもの成長が見 たい〉(D-8)

D-8:(乳児院のアルバイトを続けていると)そうのうちに成長が見られる。わー,歩いてる やんとか,歩く瞬間を見たりとか。(…)その成長を間近でみる仕事っていう

〈就職した施設の空 間が心地よい〉(C- 6)

C-6:(施設ボランティアの時)本当に心地よさを感じてて。(…)四季を感じられて(…)そ ういう環境の中で,子どもらとのんびりするっていうのが自分の中で合ってたのかなとは。

〈自らの満たされた 状 況 の 自 覚〉(A-1, C-5)

A-1:(大学時代通りすがりに)〇〇学園(児童福祉施設)の子やと思うねやけど,みんな雪 の中を指導員さんと手を繋いで走ってるのよ。私はむちゃくちゃ健康やったから,五体満足な 人間がヘラヘラ遊んでたらあかんなと

C-5:(実習先の)養護施設で親の愛をしっかり受けれてない子どもたちと過ごして,愛しいな あって思いながら(…)なんて私は(親に)愛されたんだろうって,愛されてるんだろうって 思ったのがきっかけですね。

〈虐待された子ども のことを理解したい〉

(B-4)

B-4:(中学校時,施設入所していた後輩が)親から虐待をされて来て,すごい暴力も受けて来 たし色々辛かったけど,お父さんとお母さんのところに帰りたいって。それがね,私は意味が わからなかったんです。(…)そのヒストリーと解きたくなって,大学に進学するタイミング で児童養護施設就職を目指してた

〈入所している子ど もへの敬意〉(D-7)

D-7:(施設のアルバイトの時から虐待等の理由で施設入所し)そこに(子どもが)馴染んで るって言うのが,どれだけエネルギーのいるだろうといつも思う。その中で子どもが生活して ることに感動するし,すごい人って可能性があるなと思うし,その近くにいるって言うのは,

すごいことやなと思う

【職業選択の際の選択肢の 一つ】(A-1, C-6, D-7)

A-1:私としても将来は何かの形で(…)(女性でも)仕事をするっていうのはあって。(…)

福祉の仕事っていうのが,父もオッケー,私もオッケーな仕事だったんだね。たまたま。

C-6:(ボランティアでC施設に来ていた時)あまり自分では積極的に発信とか,「ここがいい

です」とかアピールできたわけでもなく。たまたま,(C施設の)採用(募集)が学校に届い てて「あ」ってなったのがきっかけで。

D-7:福祉系(大学に)行ったら,職はどうもありそうだっていうのがきっかけ。

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察

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動機はなく,福祉系の仕事の就職のしやすさ(D-7)や親との相談(A-1),短大に来た 求人票を見た(C-6)ことをきっかけとして「たまたま」進路を決めたというカテゴリ ーからは,【職業選択の際の選択肢の一つ】というカテゴリーが生成した。一方で,実 際に施設の子どもと関わり他の動機に気づくいたことも語られた(A-1, C-6, D-7)。

4-2.子どもへの共感がもたらす職員の満足感

では,様々な動機から児童養護施設に就職した協力者は,実践の中でどのような満足 感を感じているのか。

第一に,職員の語りから生成された【自己有用感の充足】というカテゴリーは,職員 が子どもに前向きな効果を与えていることや,気持ちを共有できていると実感すること を通して,共感的な関わりによる満足感を得ることを意味する。このカテゴリーは,

〈子どもの役に立っていると感じる〉〈退所者に必要とされていると感じる〉〈子どもと 喜びを共有できたと感じること〉により構築された。【自己有用感の充足】は,就職動 機における【自己充足感の充足への期待】が満たされる機会であり,強いやりがいを与 えると考えられる。

まず,自らの子どもへの援助実践に対して,子どもたちから肯定的な反応が返ってく ることの嬉しさなどの語りから(B-3, E-9),〈子どもの役に立っていると感じる〉とい うコードが生成された。また,施設の退所者が施設に遊びにきたり,電話や訪ねてきた ときに指名されたり,退所者から施設で働き続けて欲しいと声をかけられたりすること にやりがいを感じる語り(B-3, B-4, C-6, E-9)から〈退所者に必要とされていると感じ る〉というコードが生成された。さらに,子どもとソフトボールチームを組み一つの目 標に向かって共に努力した経験(D-8)や,作った料理を子どもが「おいしい」と言っ てくれて嬉しかった経験に関する語り(C-6)から,〈子どもと喜びを共有できたと感じ ること〉というコードが生成された。

第二に,【共感的関わりの好循環の実感】というカテゴリーは,幼少期から職員自身 が養育者や他の大人から与えられた共感的な関わりを,子どもに与えたいという語りに 基づく〈自分が家族や他の大人に与えてもらってきたことを子どもや他の職員に与えら れると感じる〉というコードにより生成した。インタビューの中で職員自身の養育者へ の感謝(A-1, B-3, B-4, C-5, C-6, D-7)が実践の原動力や養育観に影響を与えていると語 った。自分の施設職員としての仕事が,自らの親に喜ばれるのではないかと語られる

(A-1, B-3)ように,職員は,児童養護施設で子どもに共感的に関わりつつ,その関係 を通して自らが養育者から与えられた共感的関わりに答えることができると感じるので はないかと考えられる。自らの養育者との関係から続く共感的関わりの連鎖の中で,児 童養護施設の子どもとの関わりにおいて自らが好循環をもたらすことができると感じる

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察

(11)

ことが,児童養護施設の子どもと自らの養育者という二重の他者への共感による満足感 につながっている場合があると示唆されたことから,【共感的関わりの好循環の実感】

というカテゴリーを生成した。

第三に,【人生の中の新たな気づきの獲得】といカテゴリーは,〈日々の生活の中のち ょっとした面白さに気づける〉〈優しさと厳しさの両面で人との繋がれたと感じる〉〈子 どもとの生活を通してありのままの自分を追求できる〉というコードにより説明でき る。

職員の「幸せの敷居が低い(D-7)」ことが,何気ない日常生活支援の中に面白さを 見つけられることや,当たり前と思われる物事に対して気づきをもたらすことに役立つ との語りからは〈日々の生活の中のちょっとした面白さに気づける〉というコードが生 成した。また,優しいだけでも厳しいだけでもない子どもや職員との人間関係の中に身 をおけることに意味を見出す語りからは〈優しさと厳しさの両面で人との繋がれたと感 じる〉というコードが生成した。また,生活を共にすることで「ありのままの自分を追

3 子どもへの共感がもたらす職員の満足感

カテゴリー コード テキスト

〈子どもの役に立っ て い る と 感 じ る〉

(B-3, E-9)

B-3:(自宅に退所者を招いた際に)自分もそういう(B-3のような)家庭築きたいなみたいな

ことは言ってはないですけど,そんな感じに聞こえて来て,そうかこれもやっぱり意味のある ことやなと思いながら。

E-9:(退所者が)そのとき(入所中職員が)色々やってくれてっていう話を聞いたときに,

あ,やって来たことって,間違ってはなかったなと思った

〈退所者に必要とさ れていると感じる〉

(B-3, B-4, C-7, E-9)

D-8:「俺は施設に絶対に,ただいまって言って帰ってくる。そん時職員が変わってても,に いちゃんがおかえりって言ってくれ」って言ったんですよね。さらっと言ったけども,「よっ しゃ言おう」って。言い続けるよっていう風に思って

〈子どもと喜びを共 有できたと感じる〉

(C-6, D-8)

D-8:(施設内のソフトボールチームで監督をしていて)僕も本気やし子どもも本気で(…)

それが勝った時に胴上げをしてもらった瞬間が一番嬉しかったけど。勝った瞬間に全員が僕の 方に走ってくるっていうのがありましたね。

C-6:あんまり(子どもが)家で食べてなかったて聞いて。色んなもの食べさせてあげたいな とか。こんな食材もあるんだよって楽しんでやってるうちに,(…)「おいしいー」とか言って 食べてくれたら「ああもうほんま?」とか言ってまた作っちゃって

〈自分が家族や他の 大人に与えてもらっ てきたことを子ども や他の職員に与えら れると感じる〉(A- 1, B-3, B-4, C-5, C- 6, D-7)

C-5:(私は幼少期に)家庭でのいつもと変わらない父がいて母がいて兄弟がいてみたいな生活 があったから,元気をもらってまた普通に学校に行ったりできていたんだと思うんです。(…)

だから(施設の子どもにも)大事にしてるよって前面に出して与える,押し付ける愛じゃなく て,心の奥深くで感じられる愛情というか。そういうもの(の表現)が,私の原動力ですか ね。

B-3:(アフターケアのアイデアも自分が)親にやってもらってきたことをそのままやってるだ けなんです

〈日々の生活の中の ちょっとした面白さ に 気 づ け る〉(C-4, D-7, D-8)

D-7:普通やったら子どもが合格した時とか,なんか社会出て立派になった時にやりがいとか 言うけど,そこはあんまりなくって。(…)日々の中でそんな幸せ絶対感じれないし,子ども がちょっとおもろいこと言うたとか,ちょっとなんかした時とかに,すごいとか面白いとか言 う感覚

優しさと厳しさの両 面で人との繋がれた と感じる(A-2)

A-2:ここ(施設)に来て(就職して)ない人生があったとしたら,勿体無かったなと思いま すね。(…)そう思える理由,原動力ですか。原動力は人とのつながりです。決して面白いば っかりでもなく,甘えるだけでもなく,その中に厳しさもあり。私は甘えてばかりですけど 子どもとの生活を通

してありのままの自 分を追求できる(A -1)

A-1:ありのままの自分を追求できると言うのがやっぱり何ものにも代えられないね(…)こ こ(施設)で居て子どもが揉めた(ことに対応した時)とか,何かしら帰りは割と達成感で帰 れる(…)生活が一緒やっていうのが面白いんだろうね。勉強だけでは図られない人としての 何か。

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察 10

(12)

求できる(A-1)」という語りからは,〈子どもとの生活を通してありのままの自分を追 求できる〉というコードが生成した。

これらのコードから【人生の中の新たな気づきの獲得】というカテゴリーが生成され た理由は,生活という全人的支援を可能にする児童養護施設という場で子どもと総合的 な視点をもって関わることは,翻って,職員自身もまた一面的に理解される場ではな く,人間性が問われるものであり,そのような場に身を置き続けることが,職員自身の 生き方にも気づきを与えているものと考えられる点にある。

4-3.共感がもたらす援助観のゆらぎ

しかしながら,協力者の職員はやりがいを感じる一方で,「今でもしんどいと思うこ ともあるし,苦しいなと思いながらもやってることもあります(A-2)」と語られるよ うに,様々な困難を感じながら日々実践している。施設職員に至る動機や期待感,援助 観など,職員がそれまでの人生において築いてきたものに対するゆらぎが,それらの困 難の背景の一つとしてあると考えられる。

第一に,【子どもに共感できないことによる傷つき】というカテゴリーは,〈子どもの きつい態度による傷つき〉〈自分の恵まれた生い立ちがコンプレックスに感じる〉とい うコードにより構築された。特に職員が実習生や若手職員の頃に子どもにきつい態度を 取られた語り(B-4, B-6)からは〈子どものきつい態度による傷つき〉というコードが 生成した。また,施設で子どもたちと生活を共にする中で,自らのこれまでの生活経験 との違いに圧倒され,それを子ども本人に言葉として突きつけられた語り(A-1)から は,〈自分の恵まれた生い立ちがコンプレックスに感じる〉というコードが生成された。

こうした職員の経験は,子どもに共感できない自分自身のあり方を突きつけられたもの であるといえよう。

第二に,【共感にもとづく援助ができない無力感】というカテゴリーは,〈必要だと思 う子どもへの援助を実践できない(出来なかった)閉塞感〉〈自分の業務が子どもの役 に立っている実感が湧きにくい〉というコードにより構築された。

8

年目でバーンアウトによる離職を経験した後に復職した

E-9

は,その経緯を以下の ように語った。幼児のグループのリーダー職員を初めて任された際,それまでは学童を 担当していたことから,幼児の年齢の子どもの養育について勉強をし直していた。「何 年かそこでやっていくと,本当は,この子たちにこういうことが必要なのに,(…)な んで(実際は)できひんのやとか,こうやったらいいのに,この方法があかんってどう いうこと?とかなんかもう。誰かに聞いてもわからへんし,やれる方法がようわからへ んみたいなところとか。自分の考えと周り(の違い)とか,私がこうやって行ったこと にみんな頑張ってついて来てくれたけど,でも,もうそこに自分の力がなくなって。」

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察 11

(13)

離職したという。ここで語られたのは,向上心を持って実践に向かおうとするも,現実 とのギャップに耐えかねた経験であったといえよう。また,子どもに家庭的な食事を提 供する必要性を感じるが,大舎制施設のため食堂で一斉に食事を提供しなければならな いことに葛藤を感じるという語りも聞かれた(B-4)。すなわち,経験や知識が蓄積する ことは,職員が理想とする援助のあり方を精鋭化させる一方で,組織や物理的経済的な 問題などでそれらが実践できないことの葛藤を感じるようになる。そのような語りに基 づき〈必要だと思う子どもへの援助を実践できない(出来なかった)閉塞感〉というコ ードが生成された。さらに,事務作業の連続などから生じる疲弊に関する語り(B-4)

からは〈自分の業務が子どもの役に立っている実感が湧きにくい〉というコードが生成 された。事務作業等の子どもに関する間接的な業務は,これまでみてきた職員の就職動 機や満足感の感じ方とはズレが生じやすく無力感につながりやすいものと考えられる。

最後に,【子どもに共感できないことの気づき】というカテゴリーは,〈意外性のある 子どもの行動や言動への直面化〉というコードにより構築された。実践経験を経るなか で,これまで培ってきた子どもへの理解を上回る出来事に直面し,自明だと思っていた ことやそれまでの援助観,子ども観が崩れる経験についての語りから成る。ここでのゆ らぎは,必ずしも子どものきつい態度は伴わず,職員に困難な経験としては語られない

4 共感がもたらす援助観のゆらぎ

カテゴリー コード テキスト

〈子どものきつい態度に よる傷つき〉(B-4, C-6)

B-4:いざ実習に行くと,思い描いていた世界とはまた違い,毎日,死ね,ボケ,帰れ,

キショイって言う連続で,なんかこうイメージでは手を広げて子どもたちがこうお姉さん みたいなイメージで行ってたので。随分,実習中は涙を流しました。

C-6:(就職して)一年目の時は壮絶時期があったりで(…)「どうせすぐ辞めるやろ」っ てストレートに言ってくる子もいれば,半年間喋らなかった子もいてとか

〈自分の恵まれた生い立 ちがコンプレックスに感 じる〉(A-1)

A-1:初めてここに勤めた時に,「あんたみたいな幸せに育った人間に私のことなんか分 からへんわ」って言われたことがあんのよ,高校生に。やっぱりそれはショックを受けた よね(…)ここにいると幸せがコンプレックスみたいになるのよ。

〈必要だと思う子どもへ の援助を実践で き な い

(出来なかった)閉塞感〉

(B-3, B-4, C-5, D-8, E-9)

E-9:本当はこの子たちにこういうことが必要なのに(…)なんでできひんのやとか,こ うやったらいいのに,この方法があかんってどういうこと?とか。誰かに聞いてもわから ないし,やれる方法がわからないみたいなところとか

B-3:(担当していた子どもが不安定なまま退所して失業し)今まで何しとったんかな,自 分がって。こんな風になるためにずっとやって来たんじゃないってなんか,すごく考えさ せられて

〈自分の業務が子どもの 役に立っている実感が湧 きにくい〉(B-4)

B-4:(施設内で性問題があり)缶詰になって一生懸命(報告書作成を)やってたんです よ。フロアを放ったらかしで。(心身が)すごい疲れて。その時に子どもが「え,先生今 日勤務してたん?」て言ってきて。「勤務してるよ」って,「だってずっとここでパソコン とかいっぱいやってたやろ。へえ,それ仕事なんや」て言われた時にぐさっときて

〈意外性のある子どもの 発 言 や 行 動〉(A-1〜E-9 全て)

D-8:何にも生活力のない子(退所者)が結婚したんですよ。向こうの奥さんの親族にも めちゃくちゃ気に入られて,笑顔しかないんですよ。小規模でずっと二人を同学年で見て て。もう一人はしっかり者で学力も高くて,全部自分でできるんですけど,先にその子が 結婚して。僕も結婚式行ったんですけど,そのしっかり者に対して「お前もはよ結婚しろ よ」みたいなことを言ったわけですよ。(結婚した退所者が)生活も成り立ってて,奥さ んがしっかりしていて,就職もできたので,「あれ?」って思って。(入所中に)めちゃく ちゃ必死に教えてきたのに,無事に生活送れてるなって。逆に聞いたことがある話でいく と,施設(入所中)での優秀な子,一人暮らしも問題ないだろうっていう子のところに

(退所した後に職員が)家庭訪問したら,すごいゴミ屋敷状態。そこのギャップはなんな のかって。

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察 12

(14)

傾向にある。若手職員の頃に経験しやすい【子どもに共感できないことによる傷つき】

の語りに比べ,共感できないことの意味を吟味したり,新たな援助あり方を考え始める 契機になるなど,【子どもに共感できないことによる気づき】によるゆらぎは,実践に おける援助観の深まりに寄与する可能性があると考えられる。一方で,特に職員のバー ンアウト等に影響を与えやすいゆらぎは,【子どもに共感できないことによる傷つき】

と【共感にもとづく援助ができない無力感】によるゆらぎによるものであると考えられ る。

4-4.共感がもたらすゆらぎを支えたもの

では,職員の【子どもに共感できないことによる傷つき】や【共感にもとづく援助が できない無力感】によるゆらぎを支えるものは何であるのか。ここで示されるものの有 無が,職員のゆらぎが援助関係を深める過程のうちの一つとして捉えられるか,施設組 織の構造の問題が個人に集中して現れている結果として捉えられるかの評価を分けるも のであると考えられる。

第一に【ゆらぎを支える職員関係】というカテゴリーが以下の語りから生成された。

A-2

は,施設の中に個人が抱える困難な状況を相談できる人間関係があることの安心 感を語った。「大人もあかんと思ったら大人呼びますし。だから,まあ,そういう状況 があることは,この園のすごくいいところとして。(だから)子どもを見ることができ てるんちゃうかな」と語った。

C-6

は就職して

1

年目当時,年長であった

F

子を担当することになった。しかし

F

子は,C-6が担当をするようになってからそれまで日課としてできていたことが出来な くなり,さらには暴れ泣き叫んで退行したような姿を見せるようになった。それを見た 同じ生活グループの年上の子どもたち(小学生から高校生)からは,「C-6が甘やかし ている」ことが原因だと言われる状況にあった。そこで何度も他の職員と話し合い,乳 児院から施設入所し一般的な同年齢の幼児より出来すぎるほど何でも自分でしていた

F

子の,これまでの生い立ちから行動の背景を考え,F 子の現在の甘えを受容する援助の 方向性を定めて他の子どもたちとも話し合った。そのような経緯を経て「すごい時間を かけ」た後,年上の子どもたちが

C-6

に自ら「たぶん,(F子に)嫉妬しとったんやと 思う。自分はやってもらえてなかったから。自分は寝る時にトントンしてもらったこと がないから」と話したという。現在高校生の

F

子は,「なんで,あの時,暴れて泣き叫 んでたんやろう」「そういうことをしてくれる人,今までおらんかった」と当時を振り 返るという。C-6自身も「(F 子が)登校班で行けなかったので,学校に入ってもずっ と一緒に歩いて行って。それをしたから,きっと今に繋がってるんだろうなっていう実 感があったり」と振り返っている。

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察 13

(15)

以上のように,C-6は,F子との関わり方を軸にグループ内の小中高生との葛藤があ った「壮絶時期」と語った期間に,職員との話合いを重ねて

F

子にとって必要なこと を考え関わり続けたことで,F子や他の子どもの変化と,彼らと

C-6

の関係の変化を経 験した。このように,子どもとの葛藤やケースの難しさなどのゆらぎを感じる職員がゆ らぎと向き合う過程は,話し合いや相談し合うことを通した【ゆらぎを支える職員関 係】の存在により可能になるといえよう。

第二に,【モデルとなる先輩職員やスーパーバイザーの存在】というカテゴリーが生 成された。例えば

A-1

は,新人の頃に入所している子どもに「あんたみたいな幸せに 育った人間に私のことなんか分からへんわ」と言われてショックを受け自分の「幸せが コンプレックス」に感じたが,当時の施設長に「幸せは幸せを知ってる人にしか教えら れへんで」と教えられたことで,児童養護施設の実践を通して「私は幸せを教えよう」

と考えるようになった。A-1にとって,新人の頃,子どもに共感したいがそれができな い葛藤を抱えていた時の施設長の助言が,新たな実践の意味を見出す契機となった。

第三に,【子どもを理解するための知識】というカテゴリーが以下の語りより生成さ れた。「虐待の子どもを扱うとなると,(子どもの)怒りであるとか,(虐待を)受けて きた中で起こってきた問題とかって言うのを,職員自身が理解してコントロールできる 力を持ってないと長くは続けていけないし,対応もできない(…)子どもが好きだった らオッケーとかないですからね,今は。(…)今まではね,大人の力で抑えるみたいな 支援,集団生活を抑える支援,学校は行かせて当たり前とか,何かをさせることみたい な支援だったのかなと思いますけど。」「もうちょっとみんなが勉強できる環境もほしい ですね。(…)薬物も生活保護も精神疾患も全部保護者自体の生活環境の中の,一番ど ん底の子どもみたいな子たちが入ってくるので。そこらへんの理解も職員自体がしてい かなければならないのかなと思います」。このように,職員が虐待をはじめとする複雑 な背景を有する子どもと向き合う上で,彼らの背景を理解する専門的知識を得ること が,ケースの難しさに直面する職員のゆらぎを支えるものとして語られた。

また,先述の

C-6

F

子の事例に関しても,F子の「暴れ,泣き叫ぶ」行動の意味 を

C

施設の職員が理解するためには,子どもの発達に関する知識とこれまでの

F

子の 生い立ちのギャップを吟味する必要があり,【子どもを理解するための知識】が職員間 で共有されたことが,子どもを理解し

C-6

がゆらぎつつも関わりを継続できた要因で あったとも考えられる。

最後に,【適切な労働環境とストレスマネジメント】というカテゴリーが生成された。

B-4

は施設で起こった子どもの問題行動の対応で缶詰になって働いているときに「ポキ っと折れそうになった」と語った。D-8は「一番しんどいのは,上司のいじめですね。

労働環境と」と語った。職員が子どもに関心を持ち,共感できることの前提には,職員

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察 14

(16)

自身の心身の健康が守られることが基盤にあると考えられる。また,職員自身もまた,

自らのストレスマネジメントについて関心を払っていることが語られた(D-8)。

以上,各カテゴリーの分析結果をマトリックスにまとめたものが表

5

である。

5 共感がもたらすゆらぎを支えたもの

カテゴリー セグメント

【ゆらぎを受け止める同僚 関係】(A-2, B-3, C-5, C-6, D-7, E-9)

E-9:(バーンアウトして退職し再び復職した時)その職員に助けられたなとは思います。戻っ て来てもいいっていう。なんか辞めるってなるとね。(残された職員は)もっと頑張れよとか,

見捨てられた感とか。職員もね,自分だけが大変なところに取り残されたみたいに思っちゃう けど,そうは言わず受け止めてくれる職員もいるんだって思ったら心強かったですね A-2:園全体で何かあったら集まるとか,話し合いするとか,なんか,自分一人で抱え込まな いようなところがあって,で,すぐ相談できたりするような状態もあるし,大人自身が対応に 困っても,すぐ周りに相談できるようになってるし

【モデルとなる先輩職員や スーパーバイザーの存在】

(A-1, B-3, D-7)

A-1:前の園長が私に言ってくれたのは,「幸せは幸せを知ってる人にしか教えられへんで」

って。それはねえ,大きかった。(…)だから,私は幸せを教えようと。

D-7:自分の価値観と言うところでいくと。ほんまにちゃんとした人と,読むとか話をネット で聞くとかいうのも大事やけど,まずは本当に会う。その人がしゃべってる姿を見るっていう のは大事やなと思ってる。

【子どもを理解するための 専門的知識】(A-1, B-3, C- 6, D-7, D-8, E-9)

E-9:もうちょっとみんなが勉強できる環境もほしいですね。(…)薬物も生活保護も精神疾患 も全部保護者自体の生活環境の中の,一番どん底の子どもみたいな子たちが入ってくるので。

そこらへんの理解も職員自体がしていかなければならないのかなと思います

【適切な労働量とストレス マネジメント】(B-4, C-6, D-8, E-9)

D-8:昨日の(宿直の)寝不足があるから。2時間しか寝てなくって。この年齢で明けで(趣

味の)サッカーは無理かなって(誘いを断った)。でも,今喋ってて行こうかなって思ったり ね。(…)身体的には今悲鳴をあげてるけど,悪循環やなと。(仕事で)しんどい思いをして て,遊びが一つ減ると。これ引きずるなあと。

6 児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観に与える影響

概念カテゴリー A-1 A-2 B-3 B-4 C-5 C-6 D-7 D-8 E-9

【自己有用感の充足への期待】

【子どもと時間と空間を共有したい】

【困難な状況にある子どもに引きつけられた】

【職業選択の際の選択肢の一つ】

【自己有用感の充足】

【共感的関わりの好循環の実感】

【人生の中の新たな気づきと関係性の獲得】

【子どもに共感できないことによる傷つき】

【共感に基づく援助ができない無力感】

【子どもに共感できなかったことの気づき】

【ゆらぎを受け止める同僚関係】

【モデルとなる職員やスーパーバイザーの存在】 ○

【子どもを理解するための専門知識】

【適切な労働環境とストレスマネジメント】

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察 15

(17)

5.考 察

職員の施設就職につながる動機として,特に【自己有用感の充足への期待】,【子ども と時間と空間を共有したい】,【困難な状況にある子どもに引きつけられた】という児童 養護施設の仕事への積極的な意味づけがみられる動機には,職員が進路選択に至るまで のライフストーリーの中で語った人間関係が影響している場合があり,対人援助職への 憧れや自己有用感等の充足感を得たいという期待感が背景にあったものと分析された。

したがって,子どもとの関係の中で【自己有用感の充足】が得られたエピソードがやり がい等の満足感を感じられた経験として語られたと考えられる。

【困難な状況にある子どもに引きつけられた】動機は,入所児童等の存在を知ること が職員自身の内省の契機となり,さらに職員を続けるうえでは【人生の中の新たな気づ きや関係性の獲得】という満足感にも繋がっていくと考えられる。

また,職員に満足感与える【共感的関わりの好循環の実感】については,ライフスト ーリーの中の職員自身が他者から与えられた共感的な関わりを,今度は子どもに与えた いという職員の志向が見られた。共感によりつながる子どもと職員の信頼関係が,児童 養護施設の子どもの将来の自立にとって重要である視点からみると,職員が過去に経験 した他者との共感的関わりが時間軸を越えて子どもたちの将来に活かされていると考え られる。

一方で,【子どもに共感できないことによる傷つき】,【共感に基づく援助ができない 無力感】といった職員の援助感のゆらぎは,子どもへの共感による満足感が得られない 葛藤である。特に,【子どもに共感できないことによる傷つき】は,職員が実習生や若 手職員であった頃の経験として語られた。坪井裕子,三後美紀(2011 : 57)は,虐待を 受けた子どもたちは「力関係に敏感」であり,比較的若手の職員は集団力動の問題か ら,「攻撃性のはけ口」としてのターゲットになりやすいことを明らかにしている。若 手職員はこうした集団力動によるリスクを負う立場にあることに加え,子どもとの関係 性が構築できていない状況のなかで,職員を目指した動機である【自己有用感の充足へ の期待】や【子どもと時間と空間を共有することへの期待】とは程遠いような状況に直 面することにより,ゆらぎを感じていると考えられ,若手職員が陥りやすいそのような 状況を考慮した組織づくりの必要がある。

一方で,先行研究から得られた知見によれば,共感はクライエントが見たり,考えた り,感じたりしていることを援助者が完全に同じように知覚することに限界がある。そ の点に関していえば,職員の葛藤による援助観のゆらぎは,職員が「同一化により多少 虚飾された自身とクライエントを壊しつつ実際の両者を見る(松本

1999 : 75)」契機と

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察 16

(18)

なる場合があり,それまで「感情移入」により自己と子どもを同一化していたことを認 識することを通して援助観を深める過程の一つであるとも考えられる。さらにいえば,

援助観の深まりに寄与すると考察された【子どもに共感できなかったことへの気づき】

によるゆらぎは,すべての協力者によって語られた(表

5)。このことは,援助関係の

中でゆらぎ,そこから気づきを得ることが施設職員の実践における基本的な姿勢である 可能性が高い。

ただし,実際に協力者がバーンアウトし一旦離職した要因としても語られるような

【子どもに共感できないことによる傷つき】,【共感に基づく援助ができない無力感】と いった援助過程におけるゆらぎが,先述のような職員の気づきによる援助観の深まりの 機会となるか,もしくはバーンアウトの要因になるかは,【ゆらぎを受け止める職員関 係】,【モデルとなる先輩職員やスーパーバイザーの存在】,【子どもを理解するための知 識】,【適切な労働量とストレスマネジメント】の有無が影響すると考えられる。

本研究の調査協力者は

10

年以上の経験年数がある現役の職員であることから,彼ら は葛藤による援助観のゆらぎを子どもの理解や実践の理解を深める過程のストーリーと して語り,それらを支えた要因を認識していた。例えば,C-6と

F

子の事例をはじめ,

E-9

は,一度バーンアウトして離職したが,再び子どもや職員が「おかえり」と迎えて くれたことを支えに復職し,その後,退所者が施設を頼ってくれることに入所中の関わ りの意味を感じた。A-1や

B-4

は,若手職員や実習生の時に子どものきつい態度に傷つ きつつも,園長や教員からの助言により,施設職員を続けることで,それまで抱いてい た子ども観や職員観を転換した。

このように職員が援助観のゆらぎから子どもを理解したり実践の意味を深める過程 は,子どもとの関係性の中で身を以て経験せざるを得ない部分がある。そうであるなら ば,【ゆらぎを受け止める職員関係】,【モデルとなる先輩職員やスーパーバイザー】や

【子どもを理解するための知識】は,現在,職員が葛藤を抱える事象やそれに費やす時 間に意味を与える存在であると考えられる。葛藤による職員の援助観のゆらぎが,実践 の過程として意味のあることだと理解することは,職員に援助者としての見通しと力を 与えるものと考えられる。

そして,職員のこうした援助実践における試行錯誤の基盤となるのは職員の心身の健 康であり,【適切な労働量とストレスマネジメント】は最も基本的な要因である。実際,

Salloum, Alison et al(2015)は,援助関係におけるダメージが二次的外傷ストレスの段

階に進行すればスーパーバイズ等はほとんど効果を発揮せず特別な対応が必要となると 述べている。職員の傷つきや無力感がどのような段階にあるのかについて職員本人か周 囲の見極めが必要であり,援助関係の深まりを支える人間関係やストレスマネジメント で対応が可能な段階での職員へのケアが望まれる。

児童養護施設職員の子どもへの共感が援助観の形成に与える影響に関する考察 17

参照

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