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(1)

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタ イム労働者の代替・補完関係の検討 : 自己回帰ベ クトルを用いた誤差修正モデル(VECM)による実証分

著者 福田 順

雑誌名 評論・社会科学

号 127

ページ 37‑56

発行年 2018‑12‑31

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2018.0000000364

(2)

要約:雇用調整速度の計測には伝統的に部分調整モデルが使われてきた。本稿では複数の タイプの労働者を念頭に置いた動学的労働需要関数の概念を利用しつつ,1999年第1四半 期から2009年第1四半期までのデータを用いて,一般労働者とパートタイム労働者の代 替・補完関係,及び雇用調整速度を計測した。分析に当たっては動学的労働需要関数の概 念と自己回帰ベクトルを用いた誤差修正モデル(VECM)の手法を組み合わせた。分析の 結果,以下のことが明らかになった。まず,実質GDPの増加は一般労働者の数を長期的に 押し上げる一方で,パートタイム労働者の数を長期的に押し下げていた。一方で,一般労 働者の賃金の増加はパートタイム労働者の数を長期的に押し上げていた。このことから 2000年代には一般労働者とパートタイム労働者の間には代替関係が存在したと推測でき る。

キーワード:動学的労働需要関数,雇用調整速度,自己回帰ベクトルを用いた誤差修正モ デル(VECM),累積インパルス応答関数

目次 1.はじめに

2.雇用調整速度の分析手法 2-1.部分調整モデル 2-2.動学的労働需要関数 2-3.誤差修正モデル(ECM)

3.自己回帰ベクトルを用いた誤差修正モデル(VECM)を用いた分析 3-1.正規労働者と非正規労働者

3-2.モデルの特定化と先行研究 4.分析

4-1.仮説設定 4-2.VECMの推計 5.まとめ

────────────

同志社大学社会学部助教

2018912日受付,2018101日掲載決定

論文

動学的労働需要関数を用いた一般労働者と パートタイム労働者の代替・補完関係の検討

──自己回帰ベクトルを用いた誤差修正モデル(VECM)による実証分析──

福田 順

37

(3)

1.はじめに

正社員と非正社員の間に補完・代替関係が存在しているか否かはこれまで相当の研究 の蓄積がある。特に日本は正社員と非正社員の格差が大きいとされており,両者の均衡 待遇も大きな政策課題となっている。本稿と既存の研究との大きな違いは自己回帰ベク トルを用いた誤差修正モデル(VECM),さらに

VECM

の推計結果を用いた累積インパ ルス応答関数を算出することで分析を行うところにある。具体的には厚生労働省『毎月 勤労統計調査』における「一般労働者」および「パートタイム労働者」について,雇用 調整速度を計測しつつ,補完・代替関係を計測する。両者の間に代替性(補完性)が存 在している場合,一般労働者の賃金が上昇した場合,パートタイム労働者の数が増える

(減る)。さらにパートタイム労働者の賃金が上昇した場合,一般労働者の数が増える

(減る)と考えられる。

以下に本稿の構成を述べる。続く

2

では,これまでの雇用調整の分析に使われてきた 部分調整モデルおよび動学的労働需要関数を紹介し,これらを用いた先行研究のレビュ ーを行う。その上で,本稿で用いる

VECM

の基礎である

ECM

の意義とその導出方法 について紹介する。3では

VECM

を用いて分析モデルの特定化を行う。

4

では厚生労働省『毎月勤労統計調査』のデータを用いて回帰分析を行い,さらに累 積インパルス応答関数を算出する。モデルの特定化に当たっては一般労働者とパートタ イム労働者の代替・補完関係に着目する。すなわち生産活動を行うに当たっては,一般 労働者とパートタイム労働者いずれも一定程度必要であると仮定する。そして,一般労 働者とパートタイム労働者の賃金はいずれも,一般労働者とパートタイム労働者の雇用 量双方に影響を与えると仮定する。最後に

5

でまとめを述べる。

本稿の結論を端的に述べる。VECMの推計結果を見ると,一般労働者とパートタイ ム労働者の間には代替関係が確認された。具体的には,一般労働者の賃金が上昇すると パートタイム労働者数が増加する傾向にあった。このことは一般労働者の賃金が上昇す ることで,パートタイム労働者への置き換えが生じていることを意味する。さらに一方 で

GDP

の成長はパートタイム労働者数を抑制しつつ,一般労働者を増加させていた。

このことから経済成長はパートタイム労働者から一般労働者への置き換えを促進すると 判断できる。

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 38

(4)

2.雇用調整速度の分析手法

2-1.部分調整モデル

雇用調整は,一般に時間のかかるものと考えられる。例えば,日本の労働基準法第

20

条によると,解雇を行う際には,原則として少なくとも

30

日前に予告をするか,30 日分以上の平均賃金を支払わなければならない。また必要に応じて労働者を新たに雇入 れる場合には,募集,採用,訓練にコストがかかる(1)。このような関係を式に現したの が数式(1)である。

( )'!

&

!( )'!

&!$

%"! ( )'!

&#

!( )'!

&!$

"

(1)

ここで

!

&#

&

期における最適な雇用者数である。数式(1)は前期の雇用

!

&!$に対

する今季の雇用

!

&の比と,前期の雇用

!

&!$に対する今期の最適な雇用

!

&#の比を比較 し,理想的な雇用調整と現実の雇用調整のギャップ を 示 し た も の で あ る。こ こ で

"! ##"#$"

は部分調整係数であり,"が

1

であれば,最適水準への調整が瞬時になさ れ,"が

0

に近くなるほど調整の時間は無限に近づいていく。実際の経済で従業員数が 最適な水準とならず,部分的にしか調整されない理由は,先述した雇用削減費用や採用 費用,訓練費用などの調整費用が存在するためである。なお,労働需要関数は数式(2)

で表される(2)。数式(2)を対数化したのが数式(2)′である。

!

#

%!

$

"

!%

"'

!& (2)

( )'!

#

%( )'!

$

$!

%

( )'"$!

&

$ %#'

(2)′

ここで

"は実質生産高,'は実質賃金を表している。すなわち,労働需要は生産高

と賃金の関数となっている。ミクロ経済学の理論に基づき,生産高とは正の相関が,賃 金とは負の相関が存在していると仮定している。

数式(2)を数式(1)に代入し,対数に変換して整理すると数式(3)が得られる(3)

( )'!

&

%"( )'!

$

$!

%

"( )'"

&

$!

&

"( )''

&

$! $!""( )'!

&!$ (3)

この部分調整モデルを用いた,比較的近年の研究を紹介する。樋口は

1970

年から

1991

年までの四半期データを用い,日本,アメリカ,イギリス,フランスの労働者数 ベースおよび,延べ労働時間ベースでの雇用調整速度を比較した。労働者数ベースの分

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 39

(5)

析では,アメリカが最も高く,次いでフランス,日本,イギリスと続く一方で,延べ労 働時間ベースの分析では,アメリカが最も高く,次いでイギリス,日本,フランスと続 いていた(樋口[1996])。

さらに樋口は第

1

次オイル・ショック以前の高度成長期,そして第

1

次オイル・ショ ックからプラザ合意が成立するまでの期間,そしてプラザ合意から

1990

年代末に至る までの

3

期間に分け,労働者数ベースでの雇用調整速度を比較した。分析の結果,アメ リカの方が雇用調整速度は高かったが,日本の雇用調整速度もまた,時代を経るに従っ て,上昇していったことが分かった(樋口[2001])。

2-2.動学的労働需要関数

ここでは阿部・野田[2009]の説明に従い,動学的労働需要関数の導出とそれを用い た先行研究について述べる。部分調整モデルとの違いは,2種類以上の労働者が存在 し,それぞれ雇用調整速度が異なるということを想定している,という点である。動学 的労働需要関数はニッケルの動学モデルから導かれる(Nickell[1986])。このモデルで は企業は将来の利潤流列を考慮して,その現在割引価値を最大化するために行動してい ると仮定している。さらに,企業が

2

次の雇用調整費用関数に直面していると仮定し,

確実性等価値の関係を用いると,数式(4)のような対数近似された労働需要関数が得 られる(4)

( )'!

%

%#( )'!

%!$

$! $!#" ! $!$" !

$%#

$#

! $#"

$

( )'!

%$$" (4)

ただし,!%

: %

期における雇用水準

!

%"

: %

期における短期均衡雇用水準

#

:オイラー方程式の安定根。$!#は雇用調整速度

$

:企業の割引要素。ただし

#%$%$

数式(2)′を数式(4)に代入すると,

( )'!

%

%!

$

( )'!

%!$

$!

%

( )'"

%

$!

&

( )'&

%

$"

%

$#

% (5)

ただし,"%は期に固有の効果,#%は労働需要に関する誤差項を示している。ここで異 なる調整費用構造を持つ複数の労働者グループが同一企業内に存在することを考慮する と,すべての労働者を集計する労働需要関数には少なくとも従属変数の

2

期のラグが必 要である。また,短期雇用水準を決定する変数

"

%

&

%が次のような確率過程に従うと

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 40

(6)

仮定する。

+ ,*"

+

%#

$

+ ,*"

+!$

$,

+ (6)

+ ,*.

+

%$

$

+ ,*.

+!$

$-

+ (7)

ただし

,

+

-

+

i. i. d.

の攪乱項である。

すると数式(4)は

+ ,*!

+

%+ ,*!

+!$

$! $!"" ! $!#"" ! + ,*!

+"

$#"( )&

+$$"

"$! $!"" ! $!#"" !

*%#

$#

! #""

*

+ ,*!

+$*"

(4)′

となる。この数式(4)′を利用し,また従属変数の

2

期ラグを導入すると数式(5)は以 下のように書き換えられる。

+ ,*!

+

%'

$

+ ,*!

+!$

$'

%

+ ,*!

+!%

$'

&

+ ,*"

+

$'

'

+ ,*"

+!$

$'

(

+ ,*.

+

$'

)

+ ,*.

+!$

$!

+

$%

+

(5)′

('#は定数項,%+は誤差項)

阿部と野田は動学的労働需要関数を導出することで,日本の雇用調整速度を計測し た。彼らは日本政策投資銀行「企業財務データバンク」の個票データを用い,1978年 から

2005

年までの製造業および非製造業の動学的労働需要関数を推計している。推計 期間は景気循環に合わせて

1978

年から

85

年,1986年から

92

年,1993年から

98

年,

1999

年から

2005

年の

4

つの時期に分割されている。分析の結果,製造業,非製造業と もに,2000年以降に雇用調整速度は上昇していた。また,同じ時期に実質産出高弾力 性や実質賃金弾力性も製造業,非製造業に関わりなく大きくなっていることが分かっ た。

2-3.誤差修正モデル(ECM)

本稿では

VAR

モデルを利用した共和分の検定と推定を用い,雇用調整速度を計測す る。こ の 手 法 は

VECM

と 呼 ば れ る。ま ず は

VECM

の 基 礎 で あ る 誤 差 修 正 モ デ ル

(ECM)の考え方について紹介する。なお以下の説明は,吉田[1989]および松浦・マ ッケンジー[2012]に依拠している。

まず,説明変数が

1

個,ラグが

1

階の単純な

AD(Auto- regressive Distributed- lag)

モデルを仮定する。

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 41

(7)

(

%

#!(

%!%

""'

%

"#'

%!%

#&

% (6)

ここで

!#%"#

&

, "##

%

, ##!#

%

!$#

&とおき,両辺から

(

%!%を引いて整理すると,

!(

%

##

%

!'

%

"#

&

! (!$'"

%!%

"&

% (7)

という最も簡単な形の

ECM

に変換することができる。この変換は

! , " , #

3

係数か

#

%

, #

&

, $

3

係数への線形変換に過ぎないため,この過程で

AD

モデルの一般性は

何ら失われていない。

吉田によると,ADモデルを

ECM

モデルに変換することには

2

つの大きなメリット がある。第

1

のメリットは数式(7)は数式(6)と異なり,経済理論とある程度整合的 なモデル解釈が可能である点である。吉田は通貨需要関数を例に挙げて解説を行ってい るので,本稿もそれに即して解説を行う。人々は教科書的な通貨需要関数が示すような 均衡状態における通貨保有量

(

と実質所得

'

との間の最適な関係として

(#$'

の関係 を想定した上で,現実にはこのような関係は不確実性や調整コストの存在などの理由か ら必ずしも実現しているものではないと予想される。この場合,%期における最適状態 からの乖離幅(通常「エラー」と呼ばれる)"!%

"!

%

#! (!$'"

% (8)

によって与えられ,最適状態では

"!

%

#! (!$'"

%

#$

となる。

通貨需要関数を例に述べると,人々は各期において通貨保有量の変化分

!(

%を調整し ており,この調整は当該期の実質所得の変化に比例して行われる部分

#

%

!'

%と,前期に おける「エラー」の一部を修正する部分

#

&

! (!$'"

%!%に分けられる。この場合,前期の エラーが最適状態に向かって修正されるには

#

&

$$

が必要である。

2

のメリットは多重共線性の問題は大幅に改善される点である。すなわち

3

つの説 明変数

(

%!%

, '

%

, '

%!%の相関(通貨需要関数の場合,(は通貨保有量,'は実質所得)

は極めて高いため,数式(6)式をそのまま推定して

! , " , #

の正確な値を得ることは 難しいが,数式(7)の場合は説明変数の数は

!'

%

, ! (!$'"

%!%

2

つに減少しており,

しかも両者の相関は低いと考えられる。その結果

#

%

, #

&の値をかなり正確に推定する ことができる。

他方,ECMのデメリットとしては,推定対象の

#

%

, #

&

, $

のうち

$

"!

%(Error

Correction Term)の中に入った形となっているため,$の値が既知でない限り,モデル

全体が推定できないという点が挙げられる。このため,従来の

ECM

による実証研究に

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 42

(8)

おいては

'$$

という制約を付けてモデルを計測するのが一般的であった。この場合,

ECM

AD

モデルは同値ではなくなる。

これに対し,エンゲルとグレンジャーは

'

の値をまず推定し,さらにその推定値を 用いて共和分本体を計測するという

2

段階推定法を開発することにより,この問題を解 決した(Engle and Granger[1987])。彼らは

0

,

, 1

,がともに

I(1)

(5)でありなおかつ,

0

,

, 1

,が共和分関係である場合には

1

,

$'0

,

#$#-

,

! $($*)+, "),"

(9)

'

の値を推測し,この結果を利用して共和分の

Error Correction Term

を算出し,最終 的に共和分を計測する,という方法を採用している。

本稿ではこの手法を雇用調整速度の計測に用いる。しかしながら,エンゲル=グレン ジャーの手法(EG)はいくつかの課題を抱えている。松浦・マッケンジーはその最大 の課題は共和分が

1

個のみ存在するという仮定にある,と指摘している。以下は松浦・

マッケンジーの解説に依拠し,ECMの課題と解決策を示す(松浦・マッ ケ ン ジ ー

[2012, 299-300])。

変数((とする)が

3

個以上ある時,共和分は最大

(!$

個まで存在しうる。まず,

複数の共和分関係が存在するケースを見る。($'で次のような関係を考える。ただ し,1,

, 0

,

, /

,

, 2

,

!! $"

であるとする。このとき

1

,

$"

*

##

$

0

,

##

%

/

,

##

&

2

,

#-

,

-

,

"!! #"

(10)

という共和分関係が成立しうる。しかしながら,この他にも

1

,

$$

*

#$

$

0

,

#.

$,

.

&,

"!! #"

(11)

/

,

$%

*

#%

$

2

,

#.

%,

.

&,

"!! #"

(12)

という共和分関係が成立しうる。この

4

変数間に

3

つの共和分関係が存在する。これら の係数の組み合わせ($

, !#

$

, !#

%

, !#

&),($

, !$

$

, # , #

),(#

, # , $ , !%

$)が共 和分ベクトルとなる。しかし,この共和分ベクトルの線形結合も共和分ベクトルとして 解釈できる。例えば

.

$,

.

%,との線形結合

.

,

$.

$,

#.

%,

$1

,

!$

#

!$

$

0

$

#/

,

!%

#

!%

$

2

, (13)

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 43

(9)

"! #"

である。この時数式(10)の共和分関係と数式(13)の共和分関係を区別・解 釈することが問題となる。共和分関係が複数存在するとき,EGの

2

段階法を用いるこ とは出来ない。というのも,それが数式(10)から得られた共和分ベクトルか,数式

(13)から得られた共和分ベクトルかは明らかではないからである。

このように複数の共和分ベクトルが存在するかどうか,また仮に存在するとすれば何 個存在するかの検定方法,さらに連立性を考慮した方法がヨハンセンらによる

VAR

モ デルを利用した共和分の検定と推定である(Johansen[1988];[1991];[1995];Johan-

sen and Juselius[1990],Juselius[2006])。次の節では松浦・マッケンジーを参考にし

つつ,モデルを特定化し分析を行う。

3.自己回帰ベクトルを用いた誤差修正モデル(VECM)を用いた分析

3-1.正規労働者と非正規労働者

阿部は正規労働者と非正規労働者の代替・補完関係について分析した

2000

年代前半 の 研 究 に つ い て レ ビ ュ ー を 行 っ て い る 阿 部[2010])。阿 部 の 整 理 に よ れ ば,原

[2003],石原[2003]の研究は正規労働者と非正規労働者の間に一定の補完関係がある ことを指摘する一方,武石[2001],脇坂・松原[2003],篠崎他[2003]の研究は正 規労働者と非正規労働者の間に代替関係が存在することを示唆している。

宇仁は総務省「事業所・企業統計」の全国,民営事業所の産業小分類別従業者規模別 データを用い,1996年から

2001

年までの正規労働者数変化量とパート等労働者数変化 量および派遣・請負労働者数変化量の相関係数を計測し,正規労働者と非正規労働者の 代替・補完関係を分析している(宇仁[2009])。なお,分析対象は製造業に限定されて いる。分析の結果,正規とパート等の間には全事業所を対象とした分析では正の相関が あり,両者の間には一定の補完関係が認められた。しかしながら,事業所規模を従業者 数

50

人以上,ないし

100

人以上に限定すると,両者の間には有意な関係は見られなく なった。その一方で,正規と派遣・請負の間には全事業所,50人以上,100人以上すべ ての組み合わせで負の有意な相関が確認され,両者の間には一定の代替関係が認められ た。

本稿では宇仁の指摘を踏まえ,正規労働者とパートタイム労働者の間には完全代替性 はないと仮定する。この場合,生産関数は数式(14)のように示される。

%!!! #!$

)'

!$

(&)*

"

(14)

ただし,#は資本ストック,$)'は正規労働者数,$(&)*はパートタイム労働者数であ

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 44

(10)

る。

正規労働者,パートタイム労働者について,それぞれの労働需要関数はそれぞれ数式

(15),(16)のように表せる。

!

&$!

"!

&$

! (

&$

!(

%#&'

!""

(15)

!

%#&'!

"!

%#&'

! (

&$

!(

%#&'

!""

(16)

ただし,(&$は正規労働者の実質賃金,(%#&'はパートタイム労働者の実質賃金であ る。

3-2.モデルの特定化と先行研究

次に使用するデータについての説明を行う。実質

GDP

は経済企画庁・内閣府の『国 民経済計算』四半期

GDP

実額(季節調整済み・実質値)を用いている。実質賃金は厚 生労働省『毎月勤労統計調査』の

30

人以上の事業所(調査産業計)に勤務している一 般労働者およびパートタイム労働者の

1

か月の所定内給与(指数表示)を

GDP

デフレ ータで実質化したものである。なお,所定内給与は定期給与のうち超過労働給与以外の ものを指す。労働者数は厚生労働省『毎月勤労統計調査』の

30

人以上の事業所(調査 産業計)に勤務している一般労働者およびパートタイム労働者の数(指数表示)を用い ている(6)。なお,分析ではすべての値は対数化されている。なお分析の期間は景気循環 を踏まえ,1999年第

1

四半期から

2009

年第

1

四半期である(7)

なお,本稿で用いるデータはすべて時系列データである。よってこれらのデータが単 位 根 を 持 つ か 否 か を 検 定 す る た め に,DF-GLSテ ス ト,ADF(Augmented Dickey-

Fuller)テスト,P-P(Phillips-Perron)テストを行った

(8)。検定の結果は表

1

に示した。

なお,帰無仮説はすべてのテストで単位根ありである。レベルの場合はいずれの変数で も帰無仮説を棄却できなかったので,これらの変数は定常過程とは言えないが,1階の 階差をとると実質

GDP

以外では帰無仮説は棄却できると判断できる。

次いで

Johansen

共和分検定を行い,適切な共和分の数と適切なモデルを特定する。

なお,本稿では使用する変数はすべて内生変数とし て 取 り 扱 う。本 稿 で 使 用 し た

Eviews 6.0

では共和分に定数項もトレンド項も含まず,本体の回帰式にも定数項や確定

的トレンド項を含まないモデル(モデル①),共和分に定数項を含むがトレンド項は含 まず,本体の回帰式には定数項や確定的トレンド項を含まないモデル(モデル②),共 和分に定数項を含むがトレンド項は含まず,本体の回帰式には定数項が含まれるモデル

(モデル③),共和分に定数項と確定的トレンド項を含み,本体の回帰式は定数項を含む が確定的トレンド項を含まないモデル(モデル④),共和分には定数項と確定的トレン

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 45

(11)

ド項を含み,なおかつ本体の回帰式には定数項と確定的トレンド項を含まれるモデル

(モデル⑤)の

5

つのモデルについて,検定が可能である。しかしながら松浦=マッケ ンジーによると,モデル①およびモデル⑤は当てはまることはまれである(松浦・マッ ケンジー[2012, 306])。このことから,共和分検定はモデル②〜④について行うこと とする。

まず一般労働者についてランク数(共和分の最大数)およびモデルの形状についての 検定を行った。ランク数ゼロ,モデル②から順に見ていくと,5% の有意水準ではラン ク数最大

2

でありなおかつモデル④の組み合わせが最初に棄却できなかった。次にパー トタイム労働者についても同じように検定を行ったところ,ランク数最大

1

でありなお かつモデル③の組み合わせが最初に棄却できなかった。また,説明変数のラグのインタ ーバルは赤池の情報量基準(AIC)により,一般,パートいずれも

5

が適切と判断され た。(詳細は省略)

以上の検定の結果を踏まえ,分析に用いる回帰モデルを特定化する。数式(15)(16)

に従い,①実質

GDP,一般労働者数,一般労働者の賃金,パートタイム労働者の賃金

からなる

4

変数の

VECM

および,②実質

GDP,パートタイム労働者数,一般労働者の

賃金,パートタイム労働者の賃金からなる

4

変数の

VECM

を別個に推計する形で分析 を行う。以下に回帰式を提示する。

!#

)'

#%

"!

"%

""

!""

"!!"

"%

"#

!"#

"!!"

" !

*#!&

!"

&

""!*

!#

)'!*

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"#!*

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" !

*#!&

!"

&

"$!*

!+

(%)*!*

" !

*#!&

!"

&

"%!*

!$

*

"'

"!* (17)

1 単位根検定:1999年第1四半期から2009年第1四半期まで

切片あり,トレンド項あり 切片あり,トレンド項なし

DF-GLS ADF P-P DF-GLS ADF P-P

レベル 一般 パート 一般実質賃金 パート実質賃金 実質GDP

−1.032(1)

−2.127(0)

−1.665(4)

−2.205(4)

−1.570(1)

0.351(0)

−2.189(0)

−1.210(4)

−2.954(4)

−0.040(1)

−0.005

−2.355

−4.439***

−9.247***

0.580

−1.093(1)

1.463(0)

−1.123(4)

0.030(4)

−1.627(1)*

−1.995(2)

0.151(0)

−0.626(4)

−1.096(4)

−1.636(1)

−1.543 0.067

−2.664*

−2.121

−1.608 階差

一般 パート 一般実質賃金 パート実質賃金 実質GDP

−3.845(0)***

−5.368(0)***

−1.235(3)

−2.697(3)

−2.222(0)

−3.911(0)**

−5.273(0)***

−5.542(2)***

−2.764(3)

−1.793(0)

−3.828**

−5.2530***

−35.158***

−14.844***

−1.737

−2.777(0)***

−5.076(0)***

−0.666(3)

−2.182(3)**

−1.580(0)

−2.805(0)*

−5.333(0)***

−1.650(3)

−2.717(3)*

−1.386(0)

−2.683*

−5.315***

−25.293***

−14.667***

−1.340 注:*p<0.1, **p<0.05, ***p<0.01。DF-GLSおよびADFテストのラグ次数(カッコ内の値)はSchwarz

の情報基準に基づいて決定した。

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 46

(12)

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なお,共和分(Error Correction Term)は数式(19)(20)(21)のように表記できる。

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(20)

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/ (21)

橘木・高畑は本稿と同じ手法を用いて

1990

年から

2009

年までの日本の労働市場の分 析を行っている(橘木・高畑[2012,第

5

章])。ただし,本稿とは異なり,Johansen共 和分検定の結果,共和分が存在しないという帰無仮説は棄却されなかったので,誤差修 正モデルではなく,1階の階差系列に関して

VAR

を用いた分析を行っている。使用し た変数の組み合わせは①産出量,パートタイム労働者数,完全失業率②産出量,パート タイム労働者数,一般労働者数である(9)。累積インパルス応答関数および相対的分散寄 与度を用いた分析から主として以下のことが明らかとなった。①正規・非正規の明確な

2 ランクの検定と共和分要素の検定

ランク数

モデル② モデル③ モデル④

トレース

検定統計量 臨界値 P トレース

検定統計量 臨界値 P トレース

検定統計量 臨界値 P 一般労働者

None 92.315 54.079 0.00 80.898 47.856 0.00 148.21 63.876 0.00

At most 1 44.497 35.193 0.00 33.130 29.797 0.02 68.665 42.915 0.00 At most 2 22.352 20.262 0.03 18.906 15.495 0.01 21.583 25.872 0.16

At most 3 8.340 9.165 0.07 8.119 3.842 0.00 8.1211 12.518 0.24

パートタイム労働者

None 84.168 54.079 0.00 67.807 47.856 0.00 122.98 63.876 0.00

At most 1 37.804 35.193 0.03 21.446 29.797 0.33 57.126 42.915 0.00 At most 2 17.912 20.262 0.10 4.916 15.495 0.82 16.917 25.872 0.42 At most 3 3.617 9.165 0.472 0.216 3.841 0.642 4.697 12.518 0.64 注:ランク数「None」とモデル②の組み合わせからランク数「None」とモデル④の組み合わせ,さら

にランク数「At most 1」よモデル②の組み合わせへと移動していき,最初に棄却されなかった組 み合わせが採用される。

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 47

(13)

代替・補完関係は確認できない。②産出量のショックに対する正規雇用の変動は正であ るが大きくはない(10)

橘木・高畑の研究については以下の課題が指摘できる。厚生労働省「毎月勤労統計調 査」によれば,2004年までは一般労働者の減少とパートタイム労働者の増加が進んで いたが,2004年以降は一般労働者とパートタイム労働者の双方が増加するようになっ

た(図

1)。つまり,1990

年から

2009

年の間に日本では労働市場の構造変化が起こった

と考えるのが妥当である。従って,1990年から

2009

年まで単一のモデルで分析する と,こうした構造変化を過小評価してしまう恐れがある。

また,先述したように橘木・高畑の分析では一般労働者数とパートタイム労働者数の 関係を分析した結果,補完・代替関係は明確ではなかったと結論付けている。しかしな がら,雇用量と雇用量ではなく,雇用量と賃金の関係で捉えた場合,代替・補完関係が 明らかとなる場合がある。厚生労働省「平成

19

年就業形態の多様化に関する総合実態 調査」の事業所調査によると,パートタイム労働者を雇う理由として挙げられるもので もっとも大きいのが「賃金の節約のため」(41.1%:複数回答

3

つまで可)であった。

なお,この値は他の非正規労働者すなわち,契約社員(28.3%),嘱託社員(20.5%),

出向社員(8.9%),派遣労働者(18.8%),臨時的雇用者(27.2%),その他(36.2%)よ りも高い値である。この他「賃金以外の労務コストの節約のため」も

21.3% であり,

この値も他の非正規労働者より高い。このことは,正規労働者の賃金が上昇すれば相対 的に賃金が割安となったパートタイム労働者を雇用するインセンティブが強くなること を示唆する。

最後に,これは先の点と関係するが,橘木・高畑の分析モデルは理論的な裏付けが不 十分であるように思われる。すなわち,なぜ産出量,パートタイム労働者数,一般労働

1 一般労働者数とパートタイム労働者数の推移(指数を対数化)

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 48

(14)

者数,失業率といった変数を分析対象としたのか,その理由は必ずしも明らかではな い。

本稿では以上の

3

つの点を踏まえ,①分析期間を

1999

年第

1

四半期から

2009

年第

4

四半期に限定する,②一般労働者,パートタイム労働者の賃金をモデルに入れる,③数 式(14),そして数式(15),(16)に依拠してモデルの特定化を行う,という形でモデ ルの改良を行い,分析を行う(11)

4.分 析

4-1.仮説設定

部分調整モデル,あるいは動学的労働需要関数が持つ新古典派経済学の枠組に従った 場合,①一般労働者とパートタイム労働者はいずれも自身の賃金が上昇すると労働需要 は低下すると考えられる。このような賃金と労働者数の関係の存在を前提とし,なおか つ②一般労働者とパートタイム労働者の間に代替性が存在する場合,パートタイム労働 者の賃金は一般労働者の数に正の影響を,同じく一般労働者の賃金がパートタイム労働 者の数に正の影響を与える。つまり,一方の人件費の上昇がもう一方への代替をもたら す。③一般労働者とパートタイム労働者の間に補完性が存在する場合,パータイム労働 者の賃金は一般労働者の数に負の影響を,同じく一般労働者の賃金はパートタイム労働 者の数に負の影響を与える。つまり,一方の人件費の上昇がもう一方に対する労働需要 も抑制も同じく抑制する。また,④実質

GDP

は一般労働者,パートタイム労働者いず れに対しても正の影響を与える。さらに⑤雇用調整速度はパートタイム労働者の方が速 いと考えられる。

4-2.VECM

の推計

以下に

VECM

の推計結果を示す。なお,推計後にそれぞれの回帰式について

Jarque- Bera

の検定量を用いた正規性の検定が必要である。松浦・マッケンジーによると,

VAR

VECM

は誤差項が正規分布に従うという前提があるが,仮に誤差項が正規分布 に従わなかった場合,変数の組み合わせを変える,ラグの次数を変えるなど,モデルの 設定に戻って修正するしかない(松浦・マッケンジー[2012])。そこで本稿では,共和 分モデル②〜④のうち,選択されなかったモデル

2

つについても推計を行い(紙面上,

選択されなかったモデルの推計結果は省略),Jarque- Beraの検定量がどのように変化す る か も 見 る。な お,共 和 分 関 係(CE)の 回 帰 分 析 の 結 果 は 表

3

に,一 般 労 働 者 の

VECM

の推計結果は表

4

に,パートタイム労働者の

VECM

の推計結果は表

5

に示し た。

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 49

(15)

4-2-a.一般労働者

Johansen

共和分検定により指定されたモデル④では

Jarque-Bera

検定量は

8.827

であ

り,p値は

0.357

であった。このことから,モデル④における誤差項は正規分布に従う

という帰無仮説を棄却できなかった。一般労働者における推計の考察はモデル④に基づ いて行う。ここで共和分の数式(22)の推計結果を以下のように書きなおす。

#

*&"+

#!&"!! !#"!%$! "(%,

)%*+"+

"&%! "#'$

+ (19)′(Trend項は省略)

これは共和分の値をゼロとしたうえで,数式(19)を移項したものである。このこと から短期的にはパートの賃金が上がると一般労働者が減少する一方,実質

GDP

が上昇 すると一般労働者が増加することになる。また,調整速度は−0.721と有意では無いも ののかなり早いことも分かった。

ここでは橘木・高畑が行ったのと同じく,累積インパルス応答関数を算出する。累積 インパルス応答関数はモデル内の変数に対する各ショックの影響が,時間を通じてどの ように作用するのかを検証するに当たって有効な手法である。

ここで注意すべきはこの関数の形状はモデル内の変数の順序によって異なる,という ことである。橘木・高畑は山本の提案に従う形で,同時点内において,より原因となり やすい順番に変数を並べ分析を行っている([山本[1988];橘木・高畑[2012]]。本稿 では変数の順序に依存しない

Generalized Impulses

の手法を用いている。

以下に,累積インパルス応答関数を示した(図

2)。これらの図は各変数が 1

単位変 化した時の一般労働者の変動を示している。この累積インパルス応答関数で示した。こ れによると

GDP

については回帰式と整合的な結果が得られる。すなわち,GDPの増加 は一般労働者の数を長期的に押し上げている。

3 共和分ベクトルの推計結果

Constant #*& ,*& ,)%*+ Y Trend

!""""+ 510.021 1.000 0.000 43.174

[5.614]

−54.126

[−4.323]

−0.080

[−3.040]

!"#""+ 450.076 0.000 1.000 38.258

[5.630]

−47.853

[−4.325]

−0.074

[−3.188]

!""#"+

−604.899 #'('*& ,*& ,)%*+ Y Trend

1.000 −5.879

[−2.938]

−33.092

[−6.001]

59.353

[5.744]

注:各変数について,上段は係数,下段はt値である。

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 50

(16)

4-2-b.パートタイム労働者

Johansen

共和分検定により指定されたモデル③では

Jarque-Bera

検定量は

6.752

であ

り,p値は

0.563

であった。このことから,モデル③における誤差項は正規分布に従う

という帰無仮説を棄却できなかった。パートタイム労働者における推計の考察はモデル

③に基づいて行う。ここで共和分の数式(21)の推計結果を以下のように書きなおす。

4 一般労働者の推計結果(VECM)

ラグ1 ラグ2 ラグ3 ラグ4 ラグ5

定数項 0.008

[1.376]

共和分1 −0.721

[−1.523]

共和分2 0.801

[1.498]

一般 労働者

0.274

[0.738]

0.555

[1.288]

0.502

[1.293]

0.418

[1.487]

0.031

[0.150]

一般賃金 −0.699

[−1.489]

−0.950

[−1.978]

−1.065

[−2.287]

−0.757

[−1.989]

−0.377

[−1.570]

パート 賃金

0.344

[2.287]

0.362

[2.392]

0.315

[2.233]

0.143

[1.339]

0.162

[1.946]

GDP −0.673

[−3.237]

−0.423

[−1.888]

−0.260

[−1.342]

−0.074

[−0.463]

0.014

[0.092]

N 35 修正済み

決定係数

0.801 対数尤度 177.5678 Jarque- Beraの検 定統計量

8.827 Jarque- Berap

0.357

注:各変数について,上段は係数,下段はt値である。

2 累積インパルス応答関数(一般労働者に対する効果)

注:変数の順序に依存しないGeneralized Impulsesの手法を用いている。各変数が1 位変化した時の一般労働者の変動を示している。

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 51

(17)

!

&#'("(

#&!$! ())"%! ('))

'$%"(

"##! !)")

&#'("(

!%)! #%#"

( (21)′(Trend項は省略)

これは共和分の値をゼロとしたうえで,数式(24)を移項したものである。この関係 より,一般労働者とパートタイム労働者の賃金が上昇するとパートタイム労働者数が増 加し,実質

GDP

が増加するとパートタイム労働者が減少することが分かる。

以下に,累積インパルス応答関数を示した(図

3)。これらの図は各変数が 1

単位変

5 パートタイム労働者の推計(VECM)

ラグ1 ラグ2 ラグ3 ラグ4 ラグ5

定数項 0.000

[−0.041]

共和分1 −0.068

[−3.024]

パート 労働者

0.172

[0.592]

−0.191

[−0.633]

−0.091

[−0.291]

−0.254

[−0.877]

−0.316

[−1.138]

一般賃金 0.642

[1.049]

2.547

[3.097]

2.397

[2.342]

1.821

[1.708]

1.151

[1.340]

パート 賃金

−1.956

[−2.070]

−2.648

[−2.801]

−2.127

[−2.372]

−1.481

[−2.289]

−1.264

[−2.691]

GDP 4.584

[2.975]

3.665

[2.339]

2.961

[2.123]

1.798

[1.752]

1.606

[1.973]

N 35 修正済み

決定係数

0.262 対数尤度 120.6880 Jarque- Beraの検 定統計量

6.752 Jarque- Berap

0.564

注:各変数について,上段は係数,下段はt値である。

3 累積インパルス応答関数(パートタイム労働者に対する効果)

注:変数の順序に依存しないGeneralized Impulsesの手法を用いている。各変数が1 位変化した時のパートタイム労働者の変動を示している。

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 52

(18)

化した時のパートタイム労働者数の変動を示している。これによると一般賃金と実質

GDP

については回帰式と整合的な結果になることが分かる。つまり一般賃金の増加は パートタイム労働者数を長期的に高める一方で,GDPの増加はパートタイム労働者数 の長期的に低下させる。まず,一般賃金の効果について考察する。一般労働者の賃金増 加は一般労働者の人件費を高めるとために,企業は一般労働者からパートタイム労働者 への代替を行うと考えられる。次に

GDP

の効果について考察する。GDPが増加するこ とによってパートタイム労働者が減少し,一般労働者への代替が進むことが背景にある と思われる。

5.まとめ

本稿のまとめを述べる。自己回帰ベクトル(VAR)を用いた誤差修正モデル(ECM)

を用いた分析(VECM)においては,一般労働者とパートタイム労働者の間には代替関 係が確認された。具体的には,GDPの増加は一般労働者数を増加させていた一方,一 般労働者の賃金はパートタイム労働者を増加させ,GDPの増加はパートタイム労働者 を抑制していた。このことから

GDP

の増加はパートタイム労働者から一般労働者への 代替を進めていた。これは業務量の増加に応じて,パートから一般労働者への置換が必 要になった,あるいはその余裕が生じたことを意味すると考えられる。また,一般労働 者の賃金の増加はパートタイム労働者の増加をもたらしていた。企業経営者が人件費の 増加を嫌って一般労働者からパートタイム労働者への代替を行うという事情が背景にあ ると考えられる。また,仮説とは異なり一般労働者の雇用調整速度は比較的早かったの に対し,パートタイム労働者の雇用調整速度は極めて遅かった。

本稿の政策上の含意を述べる。いわゆる「非正社員の正社員化」という課題について は

GDP

の成長が好ましいということになる。一方で正社員の賃上げは非正社員の増加 を招き,さらなる雇用の非正規化をもたらす可能性がある。したがって正社員・非正社 員間の均等待遇の実現が必要ということになるであろう。

本稿の課題について述べる。本稿では資本ストックが分析に取り入れられていない。

ある程度中長期的な雇用調整を分析するに当たっては,資本ストックの存在を取り入れ た方が望ましい。近年では情報通信技術(ICT)の進歩が正規から非正規の代替を容易 にしている可能性がある(12)。関連して,本稿では労働生産性は外生的に決定されてい るという前提がある。しかしながら,例えば賃金の上昇は,労働から資本への置換を通 じ,労働生産性を高めると考えられる。その結果,企業が必要とする労働力は減少す る。また,賃金の上昇は総需要を増加,あるいは減少させ,そのことが分業を通じて労 働生産性を変化させる可能性もある。このことも企業が必要とする労働力を変化させる

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 53

(19)

であろう[Storm and Naastepad 2012]。実際,累積インパルス応答関数を見る限り,一 般およびパート労働者の実質賃金はそれぞれの雇用量に対してそれほど大きな影響を与 えていないように思われる。さらに,本稿の分析はあくまで一般労働者とパートタイム 労働者の関係であり,厳密には正規労働者と非正規労働者の関係ではないことに注意が 必要である。

⑴ 村松によると,製品需要の低下に応じて,「残業規制」が始まり,「中途採用の停止」,「臨時・パート 労働者の再契約停止」と進む。さらに深刻になると「配置転換・出向」,「一時休業(一時帰休)」が行 われ,最後には「希望 退 職 者 の 募 集・(指 名)解 雇」の 正 規 従 業 員 の 人 員 整 理 が 行 わ れ る(村 松

[1995])。

⑵ 詳しくは篠塚[1989]の研究を参照のこと。

⑶ このモデルによる分析のサーベイとして村松[1995],Hamermesh[1993]がある。

⑷ 阿部・野田[2009]では("!)の指数は!となっているがNickell[1986]の文献を見る限り,"が正 しいと思われる。

⑸ もともとは非定常過程であるが1階差をとれば定常過程となる,という意味。

⑹ 厚生労働省「毎月勤労統計調査について」によると,パートタイム労働者は常用労働者のうち,①1 日の所定労働時間が一般の労働者より短い者,②1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の 所定労働日数が一般の労働者より短い者,のいずれかに該当する者である。常用労働者は①期間を定 めずに雇われている者,②1か月以上の期間を定めて雇われている者,のいずれかに該当する者であ る(https : //www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/dl/maikin-setumei.pdf 2018912日 ア ク セ ス)。

⑺ 具体的には内閣府経済社会総合研究所の見解(http : //www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/111019siryou4.pdf 2018912日アクセス)に従った。

⑻ この単位根検定の手法は橘木・高畑[2012]に依拠した。

⑼ 産出量は鉱工業生産指数もしくは全産業活動指数,一般労働者数とパート労働者数は厚生労働省「毎 月勤労統計調査」の指数が用いられている。

⑽ 橘木・高畑は考えられる原因として雇用機会が増えにくいことや労働保蔵の影響を挙げている(橘 木・高畑[2012])。

⑾ なお,労働経済学分野でVECMを用いた分析例としてPhilip et al[2015]がある。この研究はアメリ カの職種,性,人種間の1983年から2009年までの賃金格差を検討したもので,カテゴリ間の短期的 な賃金の格差は共和分の回帰式で検討し,長期的な格差は累積インパルス応答関数の形状を元に行っ ている。本稿はこの論文を参考に結果の解釈を行っている。

⑿ 雇用の非正規化と情報通信技術の関係を取り扱 っ た も の と し て 阿 部[2005],樋 口・砂 田・松 浦

[2005],中馬・川口[2007]の研究が挙げられる(阿部[2005];樋口・砂田・松浦[2005];川口;

[2007])。

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動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 55

(21)

Partial adjustment models have traditionally been used to measure the speed of employment adjustment. This study measures alternative/complementary relationships and employment adjust- ment speed using data from the first quarter of 1999 to the first quarter of 2009. We utilize the concept of a dynamic labor demand function with multiple worker types―general workers and part-time workers. The analysis combines the concept of dynamic labor demand function and an error correction model using an autoregressive vector (VECM). The analysis results reveals that

―in the long term―growth in the real GDP causes an increase in the number of regular workers while reducing the number of part-time workers. On the other hand, a wage increase for regular workers causes an increase in the number of part-time workers in the long term. These results suggest that in the early 2000s, there was an alternative relationship between regular workers and part-time workers.

Key words: Dynamic labor demand function, Employment adjustment speed, Error Correction Model Using Vector Auto-regression (VECM), Cumulative impulse response func- tion

Considering Alternative and Complementary Relationships between General Workers and Part-Time Workers Using

a Dynamic Labor Demand Function :

An Empirical Analysis Based on Error Correction Model Using Vector Auto-regression (VECM)

Jun Fukuda

動学的労働需要関数を用いた一般労働者とパートタイム労働者の代替・補完関係の検討 56

参照

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