九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
紫外レーザー光照射による有機高分子表面の物理 的・化学的変化に関する研究
新納, 弘之
https://doi.org/10.11501/3075568
出版情報:Kyushu University, 1993, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
紫外レーザ一光照射による有機高分子表面の 物理的・化学的変化に関する研究
新納 弘之
日 次
第l章 序論 S
1 -1 緒言・・・・S
1-2 エキシマレーザーとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4S
1-3エキシマレーザーを用いたポリマーアプレーション・・・・・・・・ 5S
1-3-1 レーザーの強度とエッチング深さとの関係・・・・・・・・・・・・・ 6S
1-3-2 ポリマー表面に関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8S
1-3-3 フラグメントに関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9S
1-4 本論文の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1第2章ポリマーアプレーションにおける微細構造の形成
S
2 1 - 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 7S
2 -2 ポリエチレンナフタレート表面の微細構造・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2S
2-2-1 アプレーションによる表面微細構造の形成・・・・・・・・・・・・・ 2 2S
2-2-2 微細構造の断面観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 2S
2-2-3 ポリマー表面の化学組成変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 4S
2 -3 ポリエーテルスルホン表面の微細構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 7S
2-3-1 アプレーションによる表面微細構造の形成・・・・・・・・・・・・・ 3 7S
2-3-1-1 レーザー強度依存性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 0S
2-3-1・2レーザ一光入射角度依存性および偏光ビーム照射効果 4 4S
2-3-1-3 照射パルス数依存性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 6S
2-3-1-4 パルス繰り返し速度依存性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 9S
2・3-1-5 ポリマー表面の化学組成変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 0S
2-3-2時間分解光回折法による微細構造形成過程の観測・・・・・・・ 5 2S
2-3-3他のポリスルホン誘導体表面における微細構造の生成・・・ 5 8S
2-3-4 液品配向膜への応用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 2S
2 -4 結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 5第3章ポリマーアプレーションにおけるラジカル種の生成
9 3 -1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 7 9 3 -2 ラジカル種の生成-ESRによる検出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 8 93-2-1 PENフィルム上のラジカル種の検出・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 9 93-2-2 PETフィルム上のラジカル種の検出・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 6 9 3-2-3 フラグメントを堆積させた固体基板上のラジカル種の検出
7 8 9 3 -3重合性基質との反応、... 8 3
9 3-3-1 ポリマー表面と重合性基質との反応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 3 9 3-3-2 フラグメント堆積基板と重合性基質との反応、... 9 4 9 3 - 4 結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 6
第4章ポリマーアプレーションにおけるイオン種の生成
9 4 -1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 8 9 4 -2 ポリマーフィルムの表面電位の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 9 9 4 -3 ファラデーカップを用いたイオン種のネ食出...10 2 9 4 -4無電解めっきへの応用...10 9 9 4 -
5結語.
.. ... ... .. . ... ... ... . . . ... ... ... ... ... .. 1 1 6第5章
総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・121第1 章 序論
51
-1緒言
有機分子は、 紫外光などの高 エネルギ一光照 射により電子状 態が基底状態か ら電子励起状態の活性な状態に励起されるために、 紫外光照射 によ る化学反 応 制御が注目され、 有機光化学反応に 関する研究 が発展してきた[1
]
. 光反応、の特徴は、 反応機構が熱反応と本質的に異なっていることにあ る. 熱反応で は 基底状態の高振動準位において反応が 進行するのに対して、 光 反応では電子 励 起状態を基点に反応が開始する. したがって、 光反応特有の反 応例が数多く見 いだされており 、 同じ基質を反応原料に用いて も、 熱反応と光反応では異な る 生成物が得られることがある. また、 生成物の興味からだけで はなく、 熱反応 と比較した場合の時間的、 空間 的、 あるいは、 分子のエネルギーレベル当り の 高い励起効率からも光誘起化学への 関心が高まってきている.
一方、 196 0年6月にMaimanがフラッシュランプで励起されたルビーを 用 いることによって赤色光694 n mのレーザ一 光のパルス発振に成功して以来
[
2 ]、 各種の レーザーが開発され、 レーザ一光の指向性と高 エネルギー密度 に関心が集まり、 基礎・応用の各分野でレーザーが利用され始めている. 特に、有機光化学の研 究では、 これま で反応用光源として水銀ランプ が主に用いられ てきたが、 近年 、 高出力紫外パルスレーザーとして開発されて きたエキシマ レ ーザーの装置開 発が急速に進み、 水銀ランプに代わる光源とし て興味が持たれ ている. これは、 エキシマレー ザ一光のような高強度パルス光 照射では、 ラ ン プのような 低強 度光源の場合と異なり、 瞬間的 に多くの分子を 励起する高密度 励起や多光子吸収過程による高準位への励起が可能であるために、 新規な反応、
や現象が発現す ることが期待で きるからである. また、 レーザ一光は空間的 お よび時間的制御性に優れているために、 レーザ 一光照射によっ てマイクロメー ターレベルの微小な空間を短時間に励起することも可能である . したがって、
反応過程を制御するだけでなく、 高い位置制御性や高速度処理が可能にな る.
レーザ一光照射によって発現する特異的な現象として、 例えば、 アプレー シ ヨン(Ablation)が挙げられる[ 3
]
. これは、 有機高分子(ポリマー)材料にエ キシマレーザー光のような高強 度の短パノレス紫 外光を照射する と、 レーザー照 射表面部位が発光と衝撃音を伴って、 瞬間的に分解、 飛散する 現象である. こ れは、 レーザ一光照射によって電子励起状態の化学種が短時間の聞に高濃度に 生成するために、 相対的に基底 状態、の分子の割合が低下し、 励起種が周囲の 分 子へエネルギー緩和できないこ とが主な原因で起こると考えられており、 水銀 ランプなどの低強度光照射では観測されない高強度光照身拘寺特有の現象である.図1 - 1にエキシマレーザーを用いたポリマーアプレーションの概念図を示す.
このように、 アプレーションは励起種同士が相互作用するような発色団が凝縮 した固相系試料(ポリマーなど)に、 高強度光を照射することで起こる現象で、
高強度 凝縮系光化学に相当する.
エキシマレーザーを用いたポリマーアプレーションの特徴のーっとして、 位 置制御性に優れたマイクロメーターレベルの微小領域の反応が 、 照射部分の周 囲に熱的な損傷、 歪、 および、 残溢を残さずにクリーンに行えることが挙げら れる. Znotinsらによると[4 ]、 耐熱性に優れた高分子材料で あるポリイミド (P I )フィルムのアプレーションにおいて、 P Iの紫外吸収領域に発振する KrFエキシマレーザ一光(波長: 24Snm)を照射した場合では、 クリー ンなアプレーションが観測される(図1-2 (c)). しかし、 P Iの非吸収 領域である近赤外線のNdぺYAGレーザ一光(1 .0 6μm)の場合では、 ァ プレーションは観測されるもののエッジ面が荒れることがわか った(図1-2 ( a) ) . さらに、 赤外線であるC O2レーザー(1 0.6μm)では、 フラグメ ントが照射面から完全に飛び出すことができず、 穴の周囲にたまりクレーター を形成した(図1-2(b)). これらの違いは、 レーザーの光子エネルギー とレーザ一波長におけるポリマーの吸光係数が各々 異なっていることに起因し、
エッジ面のきれいな残盗の残らないアプレーションを行なうためには、 ポリマ ーの高吸収領域の波長の紫外レーザ一光を照射することが重要である.
図1-2は、 エキシマレーザーを用いたポリマー材料の精密加工技術として の興味を喚起し、 現在では多層プリント回路基板なと々の電子機器材料の精密加 工への展開が進んでいる. しかし、 「なぜアプレーションは起こるのかJ、 ま たは、 「なぜ紫外レーザーではクリーンな加工ができるのか」というような基 礎的な観点からのアプレーションの研究は十分に行なわれているとは言えない 状況にある. とくに、 アプレーション後のポリマーの表面状態を検討した研究 は少ない.
本研究ではアプレーション後のポリマー表面の物理的または化学的な性質を 明らかにすることを目的に検討 を行なった. 具体的には、 ポリマー表面におけ る表面微細構造 の形成機構の解明やラジカル種およびイオン種などの活性種の 生成に関して検討した. 試料ポリマーとしては、 実用化されているポリマー材 料の中でも代表的なポリマ一 種である芳香族ポリエステル、 芳香族ポリスルホ ン、 芳香族ポリイミドを用いた. これらのポリマーは、 各々化学構造が異なっ ており、 紫外領域に複数の大き な吸収帯を有しているために、 レーザ一波長依 存性などを検討 する場合に好都合であり、 また、 アプレーションにおける共通 の性質や特徴的な現象を見極める上で有効であると考えられる. さらに、 これ らの結果に基づいて、 応用例として、 アプレーションを行なった表面を利用し た液晶配向膜や金属めっき膜堆積なとやの表面機能化への可能性も検討した.
ポリマー
( 1 )ポリマーの光吸収
( 2 )高濃度の電子励起種の生成
( 3 )アプレーション
図1- 1エキシマレーザーを用いたポリマーアプレーションの概念図.
A B c
図1- 2 ポリイミドフィルムのレーザーアプレーション(直径300μm)
(A) Nd+: YAGレーザー照射(1 .0 6μm)、 (B)炭酸ガスレーザー照
射(波長: 1 0.6μm)、 (C) K r Fエキシマレーザー照射(2 4 8 n m) [4 ] .
3
5
1 -2エキシマレーザーとは
エキシマレーザーの開発は、 1 9 7 0年にBasovらが液体キセノン(Xe ) を電子ビームで励起することによって176nmのレーザ一光を得たことに始
まる[5
]
. X eを励起することによって、 励起状態のXe(Xe*)と基底 状態のXeとの励起こ量体(エキシマ)が生成し、 この励起二量体の反転分布 状態、が形成されるを発振原理としている. その後、 希ガスRとハロゲンガス X2 からの励起こ量体(R*X :エキサイプレックス)からも紫外レーザ 一光が発 振することが判明し、 すでに十数種類の組合せからレーザ一発振が確認されて いる. 現在、 市販のレーザー装置では放電励起によるエキサイプレックス型の レーザーが大半を占めているが、 慣例的にエキサイプレックス型のレーザーも エキシマレーザーと呼ん でいる. 市販品の一般的な仕様では、 パル ス幅(Fullwidth at ha1f-maximum (FWHM))はlO"-'35ns程度で 、 発 振エ ネルギーは、
数百mJ .パルス-1である. したがって、 ピーク出力は数十MW・パルスーlとなる.
また、 パルス繰り返しは、 1 H zから最高3 0�1000Hzである. 表 l -1に、 実験に用いられる王なエキシマレーザーの種類と発振波長を示す. エ キシマレーザー では装置に充填 するガスの種類 を代えることによって約50 n
mおきにレーザ一光が得られる ために、 基質の励起波長依存性を調べるのに都 合がよい.
表1 -1の中でも、 高出力であるKrFエキシマレーザー装置と充填ガスの 劣化が遅いXeClエキシマレーザー装置の完成度が高い. A r Fエキシマレ ーザーも光子エネルギーが大きいためによく使用される. F2レーザーは、 近年 特に装置改良が急速に進んでいるが、 酸素分子は真空紫外領域の光を吸収する ために、 大気中でレーザーピームを取り扱うことができず、 実 験を行なう上の 障害となっている.
表1 - 1主なエキシマレーザーの種類と発振波長.
レーザー名 発振波長nmmm レーザー名 発振波長
n n
内i qυ つ'U
RυQun/白
、Iよ 1ょ っん
Fl
、l2
rfuAr K
KrF 248nm XeCl 308nm XeF 351nm
4
エキシマレーザーの特徴を水銀ランプと比較すると、
a.高強度で、ある(ピーク出力が大きい) b.単色性が良い
c.ビーム指向性がある d.短パルス発振である
e.レンズで集光することでエネルギー密度を非常に大きくできる
などの利点がある. 特に、 有機化合物を照射対象とした場合に、 エキシマレー ザーを照射したとき、 レーザーパルス光の大きなピーク出力のために一光子吸 収過程だけでなく多光子吸収過程も観測されることがあり、 低強度の定常光で ある水銀ランプを光源に用いた場合とは異なる特徴を有している. エキシマレ ーザーを用いた新素材開発関連分野の 研究として[ 6 ]、 化学的蒸着法(
Chemical vapor deposition; C V D )などのデポジション、 活性ガス中でのエッチ ング、 スパッタリング、 リソグラフイ、 表面アニーリング、 表面クリーニング、
ドーピング[ 9,10J、 光重合[15,16J、 そして、 アブレーション[7,
12-14Jなどの様々な応用が検討されている. 半導体プロセスに関係する 無機化合物を用いた研究が進んでいるが、 基1'1や反応、の多様性などから有機化 合物を用いた研究も関心が集まっている.
51
-3エキシマレーザーを用いたポリマーアプレーション
エキシマレーザーのような高強度の短パルス紫外光をポリマー表面に照射 す ると、 照射部分が発光と衝撃音を伴って、 瞬間的に分解 、 飛散するアプレーシ ヨン(Ablation)過程が起こる(図1-1)[7J. エキシマレーザーのアプレー ションの特徴として、 S 1 - 3節で示した位置制御性に優れた微小領域の反応、
が可能で、あることの他に、 励起源、に光を用いているため照射エネルギーの制御 が容易であるこ とや、 照射雰囲気を大気、 真空、 活性ガス雰囲気など目的に応 じて自由に選べることが挙げられる. 特に、 レーザー照射を大 気中またはl気 圧雰囲気で行えることは、 反応容器の簡略化につながるた め、 照射雰囲気が真 空雰囲気に限定されるプラズマ処理と比べて、 実用面で有利である.
ポリマーアプレーションは、 発色団の光吸収に続く複雑な光化学過程の結果 起こるが、 この反応過程が、 はたして光化学分解過程だけで起こるのか、 それ とも、 ホットバンド からの熱分解過程も含めた 反応経路で起こ るのかについて は、 今なお議論されているところであり、 理論およ び実験の様々な観点から検 討されている[17-19J. 例えば、 ポリメチルメタクリレート(PMMA) をモデルに光化学分解過程および 熱分解過程をシミュレーションすると[20 J、
光化学分解過程では、 光を吸収した分子が数ピコ秒の聞に一斉に飛び出す. し
5
かし、 熱分解過程では、 周囲の分子にエネルギーが拡散するために、 少数の分 子がクラスター状に飛び出すことがわかった. フラグメントの飛び出す角度も 光化学分解過程の方が狭い. これらの結果と図1-2と比較す ると、 KrFエ キシマレーザー照射では光化学分解過程が主な反応経路で、 NdぺYAGレー ザーやC O2レーザー照射では熱分解過程が主であると推定できる. しかし、 機 構の詳細については現在も研究が続けられている.
エキシマレーザーを用いたポリマーアプレーションは、 KrFエキシマレー ザーをP MMA (benzoinを増感剤として微量添加)に照射することで、 ポリマ ーフィルムが直接エッチング(無現像フォトエッチング)され ることが19 8 0年に河村らにより見いだされたことに始まる[21
]
. その後、 基礎および 応用の観点から様々な検討が加えられている. 次節以降、 その概略について述 べる.51-3-1 レーザーの強度とエッチング深さとの関係
アブレーションは、 励起種濃度がある臨界量を越えない限り起こらず、 フル エンス(fluence:単位面積当りの強度、 以下" レーザー強度" とよぶ)のしきい 値が存在する. ポリマー材料にエキシマレーザーを照射した場合、 レーザー強 度のしきい値は数10m]・cm・2.パルス-1であり、 一般に、 ポリマーの吸光係 数が大きいほどレーザー強度のしきい値は小さくなる. 様々な方法で測定され たP Iフィルムとポリエチレンテレフタレート(P E T)フィルムのしきい値 を表1 - 2および 表1 - 3に示す.焦電電流測定では、 試料フィルムの裏面に 熱電対を取り付け、 レーザー照射による温度上昇を測定することでしきい値を 求めている[22
]
. レーザー強度が大きくなるにしたがい、 焦電電流も直線 的に増加するが、 アプレーションのしきい値に相当するレーザ一強度を越える と直線の傾きが小さくなる. したがって、 この屈曲点を精密に測定することで、アプレーションの強度しきい値を求めることができる.
表1 - 2 エッチング速度および焦電電流測定から求めたP Iフィルムのエキシ マレーザー照射によるアプレーションのレーザー強度しきい値E[2 2,2 3
] .
レーザー エッチング速度から焦電電流から求めた ポリマーの 発振波長求めた強度しきい値 強度しきい値 吸光係数
A/nm Ee/m]・cm-2 ET/m J・cm-2 α/μm・1
308 42 45 8
248 31 36 14
193 --30 45 13
157 36+7 11
6
表 1- 3 エッチング速度、 焦電電流、 重量変化から求めたPETフィルムの エキシマレーザー照射によるアプレーショ.ンにおけるレーザー強度しきい値E
[22,2 3,2 4J . レーザ一
発振波長 À/nm すす玄
248 19 3 15 7
エッチング速度 焦電電流からの重量変化からの ポリマー からの強度しきい値 強度しきい値 強度しきい値 吸光係数 Ee/m j・cm・1 Er/m J・cm-2 Ew/m J・cm-2 α/μm・1
170 190 2
30 37 22 10
28 25 17 12
29+6
アプレーションによってエッチングされる深さは、 レーザー強度とパルス数 を変えることで、 マイクロメーターレベルで任意に制御可能である . さらに、
1 0μmを越える深いエッチングを行なう時には、 レーザーパルスを繰り返し 照射すれば、 照射回数分だけ深くかっ高アスペクト比でエッチングすることが できる. 初期の研究では、 lパルス当りのエッチングの深さ(Pf)とレーザー強度 (フルエンス:F)との間に、 Lambe口-Beerの光吸収式に類似した実験式、
Pr=α・1・log (F / F T) (式 1- 1 )
α:レーザ一波長でのポリマーの吸光係数
F T:アプレーションの起こるレーザー強度Fのしきい値
が提案された[ 2 5 J . 式 1 - 1は、 しきい値から 1J . c m-2程度の低レーザ ー強度領域では、 実験値とよい一致を示していたが、 1J . c m-2以上の高レー ザー強度領域 の照射では、 エッチング深さは急峻な立ち上がりを示し、 式l - 1からのずれが大きくなった. そこで、 レーザ一光照射にともなうポリマー 表面の温度変化などを考慮した複雑なモデルが 考案されて、 様々な理論式が提 案されている.
51
- 3 - 2ポリマー表面に関する研究
アプレーションを「表面加工」という観点から考えると、 エッチング形状、
速度、 精度などに関心が集まるが、 一方、 「表面反応または表面改質」という 観点から考えると、 レーザー照射による表面状態の変化が重要になる. エキシ マレーザーを用いたポリマー アプレーションでは、 レーザー照射表面にマイク ロメーター程度の大きさの微細構造が形成され る場合がある. 第2章において その性質をキ食討している.
大気中でPMMAフィルムをArFエキシマレーザー(レーザー強度:3 0 0 mJ・cm勺でアプレーションを行なった場合、 X線光電子分光法(XP S) による表面化 学組成の観測では、 照射前後でC 1sピー夕、 o lsピークともにそ の形状や面積比に変化はなかったため、 レーザー照射によって表面の化学組成 が変化しないとされている[2 6 ] . しかし、 低レーザー強度のKrFエキン マレーザ一光を長時間照射すると、 炭素二重結合性の官能基が生成することが 赤外吸収スペクトル測定から明らかになっている[2 7 J . 本論文においても XPS測定を行ない、 ポリマー表面の化学組成を検討している. このほかにも 第3章および第4章において、 中間体であるラジカル種やイオン種の生成につ いてキ食言すを行なっている.
大気中でアプレーションを行なうと、 大きな衝撃音と発光を伴ってエッチン グが進行するが、 Dyerらは、 P 1フィルム試料の裏面にポリフッ素化ピニリデ ン(広域型トランスデューサー)を張り付け、 アプレーション時の光音響信号 をナノ秒程度の時間分解能で測定している[2 8 J . 発生する圧力 のピーク 値 はレーザー強度の対数と直線関係にあり、 ArFエキシマレーザー照射時の方 がXeClエキシマレーザー照射時より高圧力が発生している. この測定では、
焦電信号測定の時と異なり、 アプレーションしきい値における屈曲点は観測さ れなかった. X e C 1エキシマレーザーを500mJ・cm-2で照射した場合で は、 107Pa (約10 0 a t m)を越える圧力が瞬間的に発生していることが 判明している.
アプレーションを行なったポリマー表面に対して機能化を試みたこれまでの 結果としては、 無電解めっきを行なった報告[2 9 J、 電解めっきを行なった 報告[3 0 ]、 液晶配向膜への応用[3 1 ]、 PMMAフィルムに色素を位置 選択的に吸着させた報告[3 2 ]がある. また、 光電変換素子 を作製する工程 にも応用されている[12,13J.
8
51-3-3 フラグメントに関する研究
アプレーションでは、 レーザー照射部分からフラグメントが飛散するため 、 これを分析すること によって、 アプレーションの機構に関する知見が得られる.
フラグメントの分析方法として、 蛍光スペクトル法[33-35J、 レーザー 誘起蛍光法(Laser Induced Fluorescence ; L 1 F) [3 6 -3 8 J、 質量分析法 [37,39-41J、 時間分解透過率変化測定法[42-44J、 超音速ジ
ェット分光法[4 5 Jなどが検討され、 フラグメントの種類や並進・振動など の運動エネルギー状態、が測定されている.
PMMAのアプレーションで 発生したフラグメントのガスクロマ トグラフ質 量分析計における測定では[3 7 J、 ArFエキシマレーザーの照射によって、
アプレーションされた領域の18wt%がモノマ一分子 になっていることがわ かった. しかし、 KrFエキシマレーザーの場合、 モノマ一分子はほとんど含 まれず(1%以下)、 主として25�40量体のオリゴマーが 生成したことが わかった. この2つのエキシマレーザー照射におけるフラグメ ントの種類はほ ぼ同じであったが、 その生成比は顕著に異なっている.
フラグメント生成を物理学的な視点から検討すると、 エキシマレーザー照射 によって生成するプラズマの寿命は約20 0 n sであった[44 J . また、 プ ローブ光の側面照射によって、 大気中のアプレーションにおける高分子量フラ グメント成分の飛び出す過程や衝撃波伝搬の様子が、 ナノ秒の時間分解能で 観 測されている[46
J
. フラグメントの飛び出しは照射雰囲気に大きく依存し、真空から大気圧また加圧雰囲気に変えると、 フラグメントは徐々に飛び出し難 くなる [47
]
. 今後、 高エネルギー状態にある分子状ビーム としてフラグメ ントの利用も発展していくであろう.エキシマレーザーを用いたアプレーションは、 上述のよう にポリマーなど の 有機薄膜材料の精密な微細加工方法としての実用的な観点から関心を集めてい るが、 アプレーションによって発生したフラグメントを対向し た位置にある国 体基板上に堆積 させて、 薄膜化を行なうという研究も進ん でいる. このフラグ メントの薄膜化は、 ターゲット組成と堆積膜の組成のずれが少なく、 多元系の 原料にも有利なため、 酸化物高温超伝導体の薄膜作製にその特徴を発揮してい る. 有機高分子 材料分野においても、 耐熱性ポリマーは一般に難溶解性である ため に、 レーザー蒸発法による薄膜形成技術は有効な手法になると考えられる.
ポリイミドやポリエステルフィルムなどのポリマー試料に、 ArF、 KrFエ キシマレーザーやNd+:YAGレーザー(基本波)を照射した場合、 いずれのレ ーザー照射においても固体基板上へのフラグメントの堆積が見られたが、 ポリ マーの吸収帯のある波長を照射したとき、 つまり、 エキシマレーザーを照射し た時に表面が平滑な薄膜を得ることがで きた[ 1 4
]
. ほぼターゲットと同じ化学組成で堆積しているが、 分子量の低下が観測されている. レーザー蒸発法 によって一種類の薄膜だけではなく、 多種のポリマーの混合や高分子超薄膜の 多層化などへ展開されるであろう.
nu --EA
51-4 本論文の目的
本論文では、 エキシマレーザーを用いたポリマーアプレーシ ョンにおけるポ リマー表面の化学的または物理的管liftの変化に関する研究を系統的に行なった.
実験に用いたポリマー試料は、 フJZ香族含有ポリマーであるポリ エチレンナフタ レート、 ポリエーテルスルホン 、 ポリエチレンテレフタレート 、 ポリイミドな どである. 図1-3にポリマーの化学構造を示す. これらのポリマーは、 実用 化されているポリマー材料の中でも代表的なポリマーであるた め、 研究結果の 波及効果は大きいと考えられる. また、 発色団としてナフタレート基、 フェニ ルスルホン基、 テレフタレート基などを有しており、 紫外領域に複数の大きな 吸収帯があるため、 化学構造に対するレーザ一波長依存性等を 検討する上で好 都合である. 本研究は、 エキシマレーザーアプレーションにお けるポリマー表 面に関する次のょっな基本的な問題を明らかにすることを目的としている.
1 . 表面微細構造の形成機構の解明
2 . 表面におけるラジカル種およびイオン種の生成
3. アプレーションによるポリマー表面の機能化の可能性
本論文は、 5つの章からなり、 各章はそれぞれの節(Sで表 示している)に 細分化されている(図1-
4)
. 各章の第l節では祁-言としてその章の目的と 背景を論じる. また、 各章の最後の節では結語としてその章で得られた結果を まとめる. 各章で取り上げる主な内容は次の通りである.第l章では本研究の背景を明 らかにするために、 この分野における過去の研 究経緯についてまとめた.
第2章では、 アプレーションによってポリマー表面に形成さ れるマイクロメ ーターレベルの 大きさの微細構 造に関して、 ポリエチレンナフ タレートとポリ エーテルスルホン(P E S)を試料に選ぴ、 走査型電子顕微鏡を中心とした観 察を系統的に行ない、 ポリマー の化学構造や結晶状態、 また、 レーザー照射条 件に依存して微細構造の形状が様々に変化することを見いだした. これらの知 見から、 アプレーション時に生 成する微細構造の形成機構を検討した. また 、 透過型電子顕微鏡やX線光電子分光法を用いることによって、 微細構造の断面 構造や表面の化学組成を調べた. P E S表面の微細構造につい ては、 時間分解 光回折法によって微細構造の形成過程の動的観測も試みた. さらに応用例とし て、 アプレーシ ョンで形成された微細構造を用いた表面機能化の可能性を探る ために、 ネマチック液晶のレーザー照射表面における配向性を才食討した.
第3章では、 ポリマー表面に生成したラジカル種の挙動を調 べるために、 試 料としてポリエ チレンナフタレ ートとポリエチレンテレフタレ ートを用い、 電
子スピン共鳴スペクトル(E S R)を測定した. これらの測定 結果から、 アプ レーションによってラジカル種が表面に生成していることが明らかになった.
また、 ポリマー表面の化学反応性を調べるために、 スチレン誘導体などの基質 とアプレーションを行なった表面との反応を低温、 真空雰囲気で試みた. 実験 の結果、 これらの重合性基質がアプレーションを行なった表面に固定 化される ことが判明した. また、 フラグメントを固体基板上に堆積させた薄膜について も化学反応性を調べたところ、 基質は薄膜表面に固定化されることがわかった.
第4章では、 ポリマー表面に生成したイオン種の挙動を調べるために、一副斗 としてポリエチレンテレフタレート、 ポリエーテルスルホン、 および、 ポリイ ミドを用い、振動容量型表面電位計を用いたポリマーの表面電位測定を行った.
これらの結果から、 大気中でのアプレーションによって表面電位が正側に変化 することを明らかにした. さらに、 電位変化の 機構解明のためにファラデーカ ップを用いた測定を行ない、 表面電位の変化には正イオンのフラグメントがポ リマー表面に再堆積する機構が重要な役割を果たしていることを明らかにした.
これらの知見に基づいて、 負のゼータ電位を有する金属パラジウムコロイド水 溶液を表面活性化工程に用いることで、 ニッケルまたは銅の無電解めっき(化 学めっき)をアプレーションを行なった表面部位のみに位置選択的に行なうこ とが可能であることを示した.
第5章では、 本研究において得られた主要な成果をまとめて総括とした.
12
40373-o-c山一ot
ポリエチレンナフタレート(P E N) Tg=1130C、 Tm=2670C-oo};
ポリエーテルスルホン(P E S)
403-o一向山九
ポリエチレンテレフタレート(P E T) Tg=690C、 Tm=2560C
。0-0-0-士
ポリアリールスルホン(P A S)
-(o-s上
ポリフェニレンサルファイド(P P S)
Nくひ�N-O
図1 - 3 実験に用いたポリマーの化学構造;
Tg:ガラス転移温度、 Tm:融点.
本論文の構成
l 序 第1章 論 l
・目的と意義-景
エキシマレーザーを用いた
アプレーションにおけるポリマー表面の変化
物理的変化 化学的変化
-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・可・・・・・ー・・・・・・・・・ー・ー・- ----、---
第2章 1 �: I 第3章 日 第4章
表面微細構造の形成I�: Iラジカル種の生成日イオン種の生成
. SEMおよひ:'fEMでの観察 .時間分解光散乱の観測 -液晶配向膜への応用
'ESRによる検出 ・表面電位の観測 -重合性基質との反応 ・無電解めっきへの応用
---_____.1______---_________ _ _____________
-論文の総括
・今後の展望
図1-4
本論文の構成
14
参考文献
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第2章 ポリマー表面における微細構造の形成
52
- 1緒言
エキシマレーザーを用いたポリマーアプレーションでは、 レーザー照射表面 にマイクロメーター程度の大きさの微細構造が形成される場合がある. これ ま でに微細構造発現に関してレーザー照射 条件依存性などを系統的に検討され た 研究は少ない. しかし、これらの微細構造は、 レーザ一光をマスクパターン を 使用することなしにそのまま照射するだけで容易に形成できるため、 簡便に、
かつ、 大面積に作製可能である. したがって、 実用的な観点か らも興味がもた れており、種々 の条件を系統的 に変化させてその特徴を調べる ことで、 形成機 構の解明や 実用化の指針になる と予想、される. 本章では、微細構造の形成因子 を検討するために、 ポリマーの化学構造や結晶状態、 および、 レーザー照射 条 件を種々変化させて構造変化を観測し、その形成過程を明らかにした.
実験試料には、 ポリエチレンナフタレート(PE N)および ポリエーテルス ルホン(PE S)フィルム を主として用い、 比較参考のために ポリスルホン (P S F)、 ポリアリールスルホン(p A S)、 および、 ポリフェニレンサル ファイド(PP S)を使用した . これらのポリマーは、 実用化 されている代表 的なポリマーであるとともに、 発色団が紫外領域に複数の大きな吸収帯を有し ているため、 レーザ一光波長依存性などを検討するのに適している. 以下、 各 節において検討した内容について説明する.
92-2節では、 芳香族ポリエステル類であるPENフィルム(帝人(株)裂、
無延伸・ 一軸延伸・ 二軸延伸フィルム 、 厚さ: 1 0 0μm 、 Tg = 1 1 30C、
Tm=2670C)を用い、微細構造形成におけるポリマーの化学構造や結晶状 態の影響を調べるために、 延伸操作によって半結晶状態になっているフィルム にアブレーションを行ない、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した. レーザ 一波長や強度を変化させることで、微細構造の性質および特徴を明らかにした.
また、 透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、 微細構造の断面構造を検討した.
9 2 -3節では、 ポリマーの吸収端の波長のレーザ一光を照射することによ り形成される微細構造の特徴を明らかにするために、九:香族ポリスルホン類で あるPESフィルム(三井東圧社製 TALPA-IOOO、 厚さ: 7 5μm、
Tg=2300C)を用い、 XeClエキシマレーザー照射 によって形成される 高い周期性を有する微細構造について検討を行った. この微細構造は、これま でに報告されていない全く新しいタイプの微細構造であるため、 偏光照射など のレーザー照射条件依存性や光散乱法による動的な形成過程の観測、 および、
他のポリスルホン誘導体との比較を行ない、 微細構造の性質および 特徴を明ら かにした. また、 92-3-4節では、 微細構造の実用化の可能性を調べるた
めに、 PESフィルム上の微細構造を用い、 アプレーションによって生成した 微細構造が液晶配向膜にも応用可能で、あることを明らかにした.
なお、 本章でのレーザー照射は、 特に記述がないかぎり大気中で行なって い る. エキシマレーザー装置としては、 フッ素系レーザー(K r F、 ArF、 ま たは、 XeFレーザー)にはラムダ・ フィジックス社製(独) EMG-201 MS C (パルス半値幅[Fullwidth at half-Maximum : FWHMJ : 3 0 n s (K r F)) を用い、 塩素 系レーザ ー(Xe C 1レーザー)に はE MG-I02MSC ( FWHM: 2 0 n s)を用いた. レーザ一光の強度は焦電型エ ネルギーメーター (ジェンティック社製(加)ED-500)を用いて測定した . 試料表面のレ ーザー強度は、 レーザー装置と試料の聞に光学レンズを挿入し(シグマ光機(株 )製 合成石英製平凸レンズ(焦点距離1 0 c m)など)、 レンズと試料の距離 を変えることで調整した(図2-1) .
また、 レーザ一光のパルス波形を直接観測する場合には、 レーザーパルス波 形観測用パイプラナ一光電管(浜松ホトニクス(株)製 Rl193U)をオシ ロスコープ(岩崎通信(株)製 TS-8123)に接続して観測した. デイレ ージェネレーター(スタンホード・リサーチ・システムネ土製(米) DG535) によって機器のトリガー調整を行なった.
現在、 ポリマーアプレーションにおいて報告されているエキシマレーザー照 射表面の微細構造の形成については、 下記の6つの範囲毒に分類することができ る.
(a )延伸操作によって半結品状態になっている試料表面に形成される 微細構造
PENやPET などの芳香族ポリエステルフィルムに一軸延伸ないし二軸延 伸操作を行なう と、 非品相の中に微結晶が混在した半結晶状態になる. この延 伸フィルムに対してアプレーションを行なうと、 波状や突起状の微細構造が形 成される[1 -3 J . 本章で議論するポリエチレンナフタレート(PE N)フ ィルムの微細構造もこの範鳴に入るが、 微細構造の形状はフィルムの延伸条件 やレーザーの照射条件によって変化することが、 92-2節の検討から判明し た. 形成機構としては、 非晶領 域と結品領域という不均ーな場での分解過程に よって誘起され るというモデル[1 -4 Jと、 延伸操作時に発生した試料フィ ルム内部の残留応力が原因であるというモデル[5 Jの2つが提案されている.
18
( a )
、、E,,,電huJ'EE、、
図2 - 1 ポリマ一試料へのレーザー照射;
( a )レーザー装置、 ( b )大気中での照射.
(b)ポリマーの吸収端の波長のレーザ一光を照射することにより形成される 微細構造
ガラス転移温度の高いポリマーに吸収端波長のレーザ一光を照射すると、 マ イクロメーター程度の大きさの高い周期性を有する微細構造が形成される[6 J .
本章92-3節において検討するポリエーテルスルホン表面に形成される微細 構造がこれに相当する. レーザ一光の偏光度やレーザー強度によって微細構造 の配向性や周期の制御が可能である.
(c )入射レーザ一光のレーザー強度が小さいときに形成される微細構造 アプレーションのしきい値付近のレーザー強度を有するエキシマレーザ一光 をポリマーフィルムに照射すると、 円錐形状をした微細構造が形成される. こ れは、 入射レーザ一光の強度が弱いために、 アプレーションによって発生した 炭素質の微粒子の一部が照射面から飛び出すことができずに表面に残ってしま い、 後続のレーザ一光によるアプレーションでは、 この粒子のshielding effect (影効果)によって、 この微粒子を先端とする円錐形状の微細構造が形成され る. したがって、 高レーザー強度のエキシマレーザ一光を照射 したときには、
微粒子は十分な 飛び出し速度を得ているために粒子は表面に残らず、 平滑な 面 を保ちアプレーションは進行する. この円錐形状の微細構造は、 ポリイミドな どの芳香族含有 ポリマーに長波長のエキシマレーザ一光(Xe C 1エキシマレ ーザーなど)を低レーザー強度で照射し、 アプレーションを行 なった時に、 典 型的に発生する[7-9J.
(d)レーザ一光の試料フィルムへの侵入深さが大きい場合に形成される 微細構造
PMMAフィルムに高濃度でピレンをドープし、 XeCIエ キシマレーザー でアブレーションを行なったときには平滑な面 のままエッチングが進行する.
しかし、 低濃度のドーピングでは、 表面に綿を敷き広げたような微細構造が形 成される. この系では、 PMMA自身は308 n mに吸収を持たないために、
ビレンだけがエキシマレーザ一光を吸収することになる. したがって、 色素の 濃度が低いとき にはレーザ一光の試料フィルムへの侵入深さが 大きくなるため に、 ポリマー内での化学結合の切断が不均一に、 かつ、 広範囲に起こり、 この ような微細構造が形成されると考えられている[1 0 J .
(e )高応力場によって形成される微細構造
lOOMPa程度の高いヲ|っ張り応力を謝斗フィルム(P 1フィルム)に印 加しながらアブレーションを行なうと、 レーザー照射表面に波状の微細構造 が 形成される. これは、 応力印加 によって、 試料フィルム内にマイクロクラック 生成し、 これらの微細な損傷がレーザー照射によって結合(linkage)するた め に微細構造が形成されると説明されている[1 1 ] .
(f )レーザー誘起表面干渉による微細構造形成
アプレーションのレーザー強 度のしきい値をETとすると、 ETから3 ETの間 のレーザー強度の直線偏光のレーザ一光をP 1フィルムなどにシングルビーム で照射すると、 照射表面にグレーテイング状の微細構造が形成される[1 2 ] . 試料フィルムへのレーザ一光の入射角度を0。とした時(垂直照射)、 微細構造 の周期はレーザーの波長と同じになる. この微細構造は、 試料表面の微細な凹
凸とコヒーレンス性の高い入射光と の干渉作用によって、 照射表面における入 射光の強度分布がレーザ一波長 を周期と するグレーティング状 のパターンに変 化するために形成されると説明されている[1 2 ] . 微細構造の周期は入射角 度に依存し、 入射角度を大きくし、 傾斜照射を行なうと 微細構造の周期も大き くなる. しかし、 ( b )の微細構造とは異なり、 微細構造の形状はグレーテ イ ング状の格子構造に限定される.
ポリエチレンナフタレート表面の微細構造 アプレーションによる表面微細構造の形成
ポリエチレン2,6-ナフタレート(PE N ; T g = 1 1 30C、 Tm= 2 6 70C)は、
実用上要求される様々な特性に関して、 ポリエチレンテレフタレート(PE T ;
T g = 6 90C、 Tm= 2 5 6 oC)を総合的に上回る優れた'lflip:を有するポリマーで
あり、 長時間記録用の小型ビデオテープのベースポリマー材料-などに用いられ ている. また、 分子構造的には発色団 にナ フタレートを有しているために、
PETに比べ長波長側まで吸収があり、 波長依存性を調べるのに都合がよし . 図2-2に石英基板上にスピンコートしたPEN薄膜(厚さ: 2 8 n m)の 紫 外吸収スペクトルを示す. P E Nは、 190n m�370nm付近まで吸収が あるため、 波長 依存性を調べるのに好都合で、あ る. 355nm の吸収帯は、 発 色団の長軸方向に遷移モーメントを有する吸収帯で、 290n mの吸収帯は短 軸方向に遷移モーメントを有する吸収帯に帰属される.
一'日o
uo一\巴
�
2.0
口
qコ にコ
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ι←→
Gコ o
に.:J
ハHU
--A
口。一](一いO∞心〈
ハU
400
rhju n4.υ
250 300
Wavelength À/nm
n-ムU ハHu nuPENの化学構造およびスピンコ ート膜の紫外吸収スペクトル.
図2-2
22
PENフィルムにKrFエキシマレーザ一光を大気中で照射したところ、
約40m]・c m-2以上のレーザー強度でアプレーションが起こり、 レーザー強 度が大きくなるにつれて、 図2-3のようにエッチングされる深さが変化した.
図2-3 では、 X軸のレーザー強度を対数スケールで表示しているが、 レーザ ー強度の範囲が広いために式1 - 1のような、 レーザー強度の対数とエッチン グ速度との直線関係は得られなかった. 図2 - 3のエッチング深さは、 レーザ
一光を100パルス照射後、 触針計で深さを求め 、 平均化した測定値である.
また 、 レーザー強度の制御は、 レーザー装置から出てきたビーム光を平凸レン ズなどによって集光ビームまたは拡大ビームに変換し、 レンズと試料フィルム との距離を変えることによって行なった. したがって、 照射面積はレーザー強 度によって変化するので一定ではない.
l.0
0.5
-lω∞一コ仏・5ユ\戸{](円ω℃戸{ぷ凶
5 000
ハUnHHU nHHu q,白
1 000 mJ・cm-2
nu nu ph1U
nHU nHu n-,o
Fluence 5 0 100
KrFエキシマレ一ザ一を用いたアフブ守レ一シヨンにおける PENフイルムのエツチング速度のレ一ザ一強度イ依衣存q ( 1 0 0パルス平均) .
図2-3
23
延伸操作を行なった半結品性のPENフィル ムのアプレーションでは、 エ ッ チングとともに照射表面に特徴的なマイクロメ ーター程度の大 きさの微細構 造 が形成され、 目視観察では照射部分が白く失透することがわかった. 図2- 4 は、 KrFエキ シマレーザーを照射した時に形 成された微細構造の走査型電子 顕微鏡(S EM)写真である(5OOmJ・cm
て
1 0パルス). ポリマー 表 面は導電性がないため、 金を10nmの厚さでコートした後、 SEM観察を行 なっている.図2-4 (a) の二軸 延伸フィルム(結晶化度: 50% )ではlμm程度 の 大きさの微小な突起が形成され、 図2-4(b)の一軸延伸フ ィルムでは、 延 伸方向に垂直な 方向のマイクロメーターサイズの大きさの溝が形成されている.
これは、 延伸フィルムの半結晶状態が微細構造の発現に影響し ているためで あ ると考えられ、 このために、 アモルファスである無延伸フィル ム(結晶化度:
1%以下)では、 透明平滑なままエッチングが進行したものと推定される[図 2-4 (c)
]
. 図2-4に示した微細構造は、 エキシマレーザーの波長、 レ ーザー強度やパルス数によって 変化するため、 以下、 二軸延伸 フィルムについ て微細構造の照射条件依存性を検討した.図2-5は、 4種類のエキシマレーザ一波長におけるこ軸延伸フィルムの ア プレーション結果である. 図2-5のレーザー強度とパルス数は、 図2-4と 同様で、ある. レーザーの波長が長くなるにしたがい、 突起が大きくなってい る ことがわかる. この波長依存性は、 ポリマーの吸光係数が各レーザ一波長で異 なるためと考えられ、 吸光係数の小さな長波長側のレーザー照 射では、 レーザ ーピームがポリマー内部まで深く浸透できるの で微細構造が大 きくなったもの と考察した.
また、 微細構造の形状は、 照射パルス数によっても変化することがわかった (図2-6) . 照射パルス数の増加にともない、 突起は大きくなり、 また、 そ の表面密度は減少している. 突起の形状は、 突起自身の影効果によって大きく なると考えられ、 突起部分が他の部分よりエッチング速度が遅いために、 パル ス数が増加すると突起が大きくなると考察される. しかし、 突起はあくまでも エッチングされた照射部分の底面に、 数μm以下の高さで存在しているだけで、
図2-6ではパルス数の増加にともない突起が成長しているように見えるが、
実際は、 照射部分の底面がパルス毎にエッチングされているために、 相対的に 突起が大きくなっていると解釈すべきである.
(c) b訂= 10μm
図2-4 KrFエキシマレーザーアプレーションによってPENフィルム表 面に形成された微細構造のSEM像(レーザー照射: 500mJ・cm・2、 1 0 パルス) ; ( a )二軸延伸フィルム、 ( b )一軸延伸フィルム(延伸方向t)、
( c )無延伸フィルム(amo中hous).
25
( c) bar = 10μm (d) bar = 10μm
図2-5 PENフィルム表面に形成された微細構造のエキシ マレーザ一波長 依存性のSEM観察結果(レーザー照射: 5 0 0 m J・cm・2、 1 0パルス) ; ( a) A r Fエキシマレ ーザー(1 9 3 n m)、 ( b) K r Fエキシマレー ザー
(2 4 8 n m)、 (c) XeClエキシマレーザー(3 0 8 n m)、 (d) X e Fエ
キシマレーザー(351nm).
26
( a) b訂= 10μm
( c) bar = 10μm ( d) bar = 10μm
( e) bar = 10μm
図2-6 PENフィルム表面に形成された微細構造のパルス数依存性のS E M観察結果(K r Fレーザー照射: 5 0 0 m J・cm勺 ; (a) 0パルス、
(b) 1パルス、 ( c) 2パルス、 ( d) 1 0パルス、 (e ) 1 00パルス.
さらに、 微細構造はレーザー 強度によっても変化した. 特に、 無延伸フィル ムでは、 500mJ・cm-2の強度のKrFエキシマレーザ一光を照射 すると、
透明平滑なままエッチングが進行したが[図2-4(c)]、 し きい値付近の低 強度領域の照射では(40 m J・cm-2)、 表面に凹凸が形成された(図2-7) . これは、 フラグメントの飛び出しエネルギーが充分で、ないために、 表面に残っ た不純物(炭化物)の影効果によって微細構造が現われたものと考えられ、 2 0ページの(b )の微細構造に相当する. した がって、 PENフィルムの結晶 状態とは別の因子により形成されていると考察される.
以上のように、 突起の形状は照射条件によって種々変化することが明らかに なった. しかし 、 これらの微細構造の大きさは延伸操作を行な ったポリマーフ ィルム中の微結晶の大きさよりもl桁以上大きく、 また、 照射 条件依存性が観 測されることから、 単なる結晶領域と非品領域 のエッチング速度の違いだけで は説明できない. おそらく、 lパルス照射時の微細構造の形成は、 結晶領域と 非品領域のエッチング速度の違いが主な原因で起こっていると 考えられるが、
2パルス以降の照射では複雑な過程を経由し、 微細構造の凝集巨大化が起きて いると推定される. 今のところ詳細な機構は判明していないが、 延伸操作によ るポリマーの内部残留応力や半結晶状態という不均一な場における分解過程 (inhomogenious process)が考えられる.
また、 図2-4に示した微細構造は、 芳香族ポリエステル特有の表面構造で はなく、 他の結晶性ポリマーでも同じような微細構造が表 面に形成されること が判明した. たとえば、 ポリエ ーテルエーテルケトン(PE E K)、 ポリフェ ニレンサルファイド(p P S ; 東レ(株)製 トレリナ、 厚さ: 5 0μm、 Tg
= 8 50C、 Tm=2850C)やポリアセタールでも表面に突起状の微細構造 が形成された(図2-8) . したがって、 図2-8ような微細構造は化学構造 に特異的に発現するものではなく、 結晶状態に関わる因子が微細構造形成に重
要である考えられる.