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早稲田大学大学院法学研究科

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Academic year: 2021

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早稲田大学大学院法学研究科

2015年12月

博士学位申請論文審査報告書

論文題目 「医療契約論-その典型的なるもの-」

申請者氏名 村 山 淳 子

主査 早稲田大学教授

浦 川 道 太 郎

早稲田大学教授

岩 志 和 一 郎

早稲田大学教授

山 口 斉 昭

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村山淳子氏博士学位申請論文審査報告書

西南学院大学法学部教授村山淳子氏は、早稲田大学学位規則第8条に基づき、20 15年3月29日、その論文「医療契約論-その典型的なるもの-」を早稲田大学大 学院法学研究科長に提出し、博士(法学)(早稲田大学)の学位を申請した。後記の委員 は、上記研究科の委嘱を受け、この論文を審査してきたが、2015年12月20日、

審査を終了したので、ここにその結果を報告する。

Ⅰ.本論文の目的と内容 (1)本論文の目的

本論文は、医療訴訟において債務不履行構成が定着した今日、医療契約とは何かを 明らかにすることが裁判規範としてはもとより、医師の行為規範を考えるうえでも重 要であるとの認識から、独自の典型契約類型として「医療契約」を定立しようと試み るものである。

その際、本論文は、「現代の日本において、通常の能力を備えた私人が、緊急事態で はなくして医療を受けに行く」という場面を一般形として設定し、少なくともその場 面においては、医師と患者の間に特別な法的な関係、なかんずく契約関係が存在する と仮定したうえで、その内実を実体的に解明して─多彩な非典型的なる関係の存在を 留保しつつ─独自の典型契約類型として定立しようとする。

(2)本論文の構成と内容

筆者は、本論文において、典型契約としての医療契約の規範内容を明らかにする方 法として、医療契約に関連する諸規範を、法的性格ごとに選別(定)してゆく作業を 採用する。

すなわち、具体的には、医療契約に本質的な要素を核として想定し、そこから理論 的距離のあるものから順に選別(定)してゆく、筆者が「篩(ふるい)方式」と命名 する方法を採用している。その結果、本論文の構成は、医療契約として想定される諸 要素を本質的要素から遠い順に篩落として典型契約としての医療契約の本質的要素を 析出する過程に即しており、第1章「公法規範の選別」、第2章「医療契約固有規範の 選別」、第3章医療契約固有規範の中の「偶有的要素」(特約によって付加しうる要素)、 第4章医療契約固有規範の中の「本性的要素」(通常備えるべき要素)、そして第5章

「本質的要素」(類型を決定づける要素)の順序で展開し、最後の第6章「結論」に至 っている。なお、今後の研究の展開を見据えて、本論文には2つの補論が付されてい る。

これをさらに具体的に見ると、この篩方式は以下のように適用されて結論に至って いる。

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まず、第1章「公法規範」では、医療に関わる法規範から公法規範を選別する作業 から始まるが、その際、医療契約規範には公法規範が協働関係をもって取り込まれて いることに着目し、公法規範を医療契約規範と協働関係にあるものと無関係なものに 峻別する。その結果、協働関係ある公法規範として、刑法・個人情報保護法の守秘義 務規定、保険法令上の規律の一部が、また無関係の公法規範として応招義務、診療録 作成・保存義務等が選別される。

第2章「医療契約固有規範の選別」では、医療契約は委任契約の亜種類型であると の認識から、流動性債務内容決定への債権者の主体的関与の視点で医療契約固有規範 を選別する。その結果、受任者が善管注意をもって事務処理を行う義務(民法644 条)、及び報告義務(同645条)に相当する箇所が医療契約固有義務として選別され る。

第3章から第5章においては、医療契約固有規範群内部での選定が行われ、本質的 要素、本性的要素、偶有的要素に三分される。

第3章「偶有的要素」は、当事者が特約することにより付加しうる要素である。こ の要素は、医療契約が医師・患者の力(知識量・情報量)の格差と生命・身体という 法益に関わる点から、他の契約類型に比して内容規制を受けるものである。そして、

義務のレベル(治療内容)では比較的自由に、つまり、生命至上と自己決定との間の 価値衡量が問題となるが、責任のレベル(医師の免責条項)では厳しい内容規制を受 けると指摘している。

第4章「本性的要素」は、典型契約が通常備えるべき要素であり、その点について 合意を欠く場合には法により補充されるが、原則として当事者の合意で排除できる要 素でもある。医療契約では固有の任意規定を持っていないので、主に信義則を媒介に して医療契約の現実類型を基礎づける内在的・社会的規範を吸い上げることになる。

このような医療契約の本性的義務としては、人格的利益を保護法益とする医療契約 に特徴的な付随義務の固まりともいえるものが含まれ、医師の情報関連諸義務である 医師の説明(患者の自己決定のための説明と顛末報告[遺族への死因解明説明])義務 や医師の契約上の秘密保護義務が含まれる(なお医的侵襲に先立つ説明義務は当事者 により「排除不能な本性的要素」である)。

第5章「本質的要素」は、医療契約を固有の契約類型として決定づける要素である。

つまり、この点について合意が維持されていなければ医療契約とはいえない要素であ る。この点では、医療契約においては「病因解明と治療」という抽象的な大枠におい て合意する治療義務が本質的要素であり、医師の裁量と、患者の自己決定という2つ の内容決定因子が作用し、治療過程で患者の治療協力義務が協働する形で医師の具体 的行為義務が流動的に決定されていくことになると解される。

第6章「結論-典型医療契約類型」では、これまで検討してきた結果を纏めて、典

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型医療契約類型の全体モデルが提示されている。それによると、典型医療契約とは、

委任を下層に据え、本質的要素(治療義務)を中央頂点に置き、本性的要素(情報関 連諸義務)がそれを取り巻くピラミッド型であり、周辺から多くの契約外在規範(刑 法・個人情報保護法上の守秘義務規定、保険法令上の規律の一部等)が取り込まれて 協働するものであると解される。

なお、本論文には、以下の2つの補論が付されており、本論を補強するものとなっ ている。

補論1「医療契約の当事者論」は、本論文本論が医師・患者の1対1の当事者関係 をベースとした医療契約の典型化という作業を目的とした関係で残置された医療にお ける当事者論を整理している。具体的には、医療機関が医療を行う場合、患者が通常 の能力を持たない場合、社会保険医療の場合について網羅的に検討されているが、量 的にも、内容的にも、論点整理にとどまっている。

補論2「解釈類型から法的類型へ-ドイツ法からの示唆」は、本論文の本論で欠け ている比較法的考察を補うものである。

著者は、今後の研究段階では立法的な考察も視野に入れており、そのための一つの 作業として、近時の民法改正で医療契約の典型契約化が行われたドイツとの比較法研 究が行われている。

ドイツ民法典の改正条文の翻訳も付した上での検討であるが、方法論として、「組み 込む側の事情」として、民法典改正をふくむマンテルゲゼッツである患者の権利法の 意義の考察を、「組み込まれる側の事情」として、医療契約の取り込みと民法典の体系 的変革の関係を検討した上、「新・医療契約」として、民法典に現れた医療契約の姿形 を検討するという順序を踏んでいる。検討の結果として。著者はドイツにおける医師 患者関係規範の成文化の意図するところが、一般国民(患者)からみた法の見通しの よさ、すなわち透明性の確保というところにあり、この点でドイツの改革は、成文化 に期待される機能としてわが国と共通性を有し、先行改革として評価できるとしてい る。また弱者の権利保護装置としての患者の情報請求に関する規範が明文化されたこ となど、医療契約法に掲載すべき条項の選抜についての示唆、さらに民法典の条項が それだけで孤立的に提案されたものではなく、患者の権利保護の装置の一つとして機 能することが意図されていることの意義、とくに私法上の権利を社会法が確保すると いう発想に関する示唆を、将来の医療契約の法典化に向けた総合的研究の基本旋律に なるものとして評価している。

Ⅱ.本論文の評価

わが国においても、「医療契約論」はこれまでも意識的に論じられてきており、多く の成果が存在している。しかし、それらはいずれも医師・医療機関と患者との関係を

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契約として構成した場合のメリットや問題点を指摘したり、あるいは、医師や医療機 関に課される新たな注意義務を導き出す根拠としての契約の有効性を論じるものなど が多く、そもそも医療契約というものがあるとして、その全体像及び構造がどのよう になっているかを明らかにする研究は、ほとんど存在していなかった。

このような中で、本論文は、医療契約に特徴的であると見られる医師(医療機関)・

患者の権利・義務を寄せ集めて医療契約を形成する安易な方法を採用せず、契約の本 性論という、伝統的であるが近時改めて着目されている手法に依拠しながら、「医療契 約」の全体像、及びそれに含まれる要素を的確に抽出・分析している。一見、契約の 義務構造論・規範構造論的考え方の医療契約へのあてはめに過ぎないとも見えるが、

当事者の合意のみによって引き出されるわけではない諸規範(筆者のいう本性的要素 と偶有的要素)の割合が他の契約と比較してもきわめて多く、また、身体や生命を対 象とするため、当事者の自由意思を及ぼす範囲を確定することが難しく、一方で、専 門家としての医師の裁量の範囲も大きい医療契約において、このような分析を行うこ とは、実は、きわめて困難な作業であった。このため、このような作業を初めて体系 的に行った本研究の意味は非常に大きく、その独創性は誇って良いものであって、今 後の医療契約論においては必ず参照されるべき論文であるといってよい。

一方で、本論文に対する批判も考えられなくはない。まず、本論文が依拠している、

契約の本性論の考え方を、医療契約に当てはめる手法自体が批判の対象となる可能性 がある。その批判は、医師患者関係の中で生じうる当事者間の規範(権利義務)が、

そもそも当事者の合意(契約の本質的要素)から生じるものであるかという疑問とも つながるものである。つまり、公法上の規定や職業倫理から生じる規範がきわめて多 数に及ぶ医師患者関係においても、なぜ「契約の本性論」を用いた典型医療契約類型 の析出の方法が妥当するかについての根拠が十分には示されていないことである。も とよりこれは、根本的問いでもあって、容易に答えを示すことができないものではあ るのだが、多くの論者はこの点こそ知りたいと考えているものと思われる。

本論文は、当事者の合意から始まる典型的な医療契約に絞って、それを医療契約と 捉えた場合にどのような把握ができるかを示したに過ぎないというものでもあること から、上記のような本質的問いにはいまだ答えを出しておらず、この点が大きな問題 点として指摘される可能性がないわけではない。このため、筆者には、今後さらにこ の点に真正面から取り組まれることが期待される。

具体的には、1章で挙げられ、「一部が協同関係として契約規範に組み込まれる」と のみ指摘した各種の公法規範に基づく権利義務を契約の本性論によってどのように導 きうるかについてより突っ込んだ分析および検討作業を行うことにより、ヒントが得 られるのではないかと思われる。また、もう一つ、大きなヒントとなりうると思われ る素材はドイツ法である。患者の権利の確立を図ることは世界的な課題となっている

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が、たとえばフランスでは、契約という手段ではなく、医療システムにおける患者の 権利を法律によって直截に定めることによって、これを実現しようとした。しかし、

これと違って、筆者が補論で検討した医療契約の典型化・法定化によってこれを実現 しようとしたドイツの試みは、なぜそのような手段をとったか、その思想的背景や国 民の契約に対する意識などにまで踏み込んで分析を行えば、上記の問いに対する有益 かつ有効な答えが導かれる可能性がある(この点では、筆者のドイツ医事法に関する 造詣の深さを示すものではあるが、未だ近時の立法等に関する現象的動きを紹介する にとどまっている)。

今後、さらにこれらの点に取り組まれれば、本研究は、より確固とした意味を持つ ものとなるであろう。

以上の批判の余地はあるとしても、しかしながら、本論文に示された内容は、これ までの医事法になかった分野を開拓する独創的なものであり、契約の本性論により具 体的に典型医療契約類型を析出した筆者の力量は称賛に値するものであって、本論文 は、村山淳子氏に博士号を与えるに十分相応しいものと判断する。

Ⅲ.結論

以上の審査の結果、後記の審査員は、全員一致をもって、本論文の執筆者が博士(法 学)(早稲田大学)の学位を受けるに値するものと認める。

2015年12月20日

審査員

主査 早稲田大学教授 浦 川 道 太 郎(民 法)

副査 早稲田大学教授 岩 志 和 一 郎(民 法)

早稲田大学教授 山 口 斉 昭(民 法)

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