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〔論文〕
フランス連結会計基準の国際的調和(5)
-税効果会計(2)-
大下舅
1.はじめに
2.国際的調和化に対するフランス会計制度の スタンス
(1)経済活動の国際化と財務・会計情報の
ニーズ
(2)国際的調和化への連結計算書類による 対応
3.フランス連結会計基準
(1)連結範囲の決定基準
(2)作成免除(連結免除)
(3)連結禁止・連結放棄
(以上第35巻第4号)
(4)連結範囲に関する事例
①支配力基準
②下位連結免除
③重要性の基準
④活動の性質が著しく異なる企業の除 外
(5)1998年12月のプラン・コンタプル連結 会計規定の改正
①重要性の基準
②活動の性質が著しく異なる企業の除 外
(6)連結会計の基本原則
①連結会計の一般原則
②連結決算日
(以上第36巻第2号)
(7)個別計算書類の再処理
①定義
②再処理の事例
③Carrefour社の再処理とその影響
④Carrefour社の再処理に見られる税 法の影響
(8)個別計算書類の義務的再処理
①同質性の再処理
②税法の適用だけのために行なわれた 会計処理の影響の除去を目的とする再 処理
(以上第36巻第3号)
③繰延税金の会計処理から生ずる再処 理
1)個別会計における税効果会計の導 入
2)連結会計における税効果会計の導 入
3)プラン・コンタプル・ジェネラル の1986年連結規定における税効果会 計の方法
4)専門会計士・認許会計士協会の 1987年2月勧告轡における税効果会 計の方法
5)商法会計規定と税効果会計の導入
(以上第36巻第2号)
6)国家会計審議会の1990年文瞥第91 号における税効果会計の方法 7)IASC公開草案E49号に対するフ
ランスの回答
8)1998年のPCG改訂連結規定
(以上本号)
③繰延税金の会計処理から生ずる再処理
6)国家会計審議会の1990年文書第91号におけ る税効果会計の方法
国家会計審議会の「連結計算書類委員会(Com‐
missiondescomptesconsolid6s)」は,プラン・コ ンタプルの1986年連結会計規定の改正作業の中で,
繰延税金に関する文書第91号「連結計算書類の方
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法論に関する検討報告書:繰延税金(Etatdes r6flexionsconcernantlam6thodologierelativeaux comptesconsolid6s:impositionsdiff6r6es)」を1990 年に公表した(以下「文書」と呼ぶ)([)。この「文 書」の提示する税効果会計の方法は,基本的には 前出プラン・コンタブルの1986年連結規定におけ る税効果会計の方法を基礎としている。以下,当 該「文書」を検討してみたい。
まず,繰延税金資産の純残高は将来の課税所得 に対する賦課によりその回収可能性が予想しうる 場合にのみ計上され,繰延税金負債純残高は関係 企業が税務上赤字でありかつその将来の課税所得 への賦課の蓋然性が低い多額の税務上の繰越欠損 金を有する場合には認識しないことができるとい う一般原則が示され,1986年連結会計規定と同様,
繰延税金資産・負債の計上を許容するスタンスが 明らかにされている。
率または現行もしくは既知の新税法規則により修 正されるが,この場合の「既知」とは,連結年度 末に採択または公表された法令規定(未だ施行し ていないがすでに議会において採択済み)を意味する ことが明確された。また,注記・附属明細書に正 当な理由を開示すれば,例外的に連結年度末以降 連結計算書類の実際の作成日までの期間において
「既知」の税率を用いることも認められる。
(c)繰延税金の原因と会計処理
繰延税金の原因と会計処理は1986年PCG連結 規定と同じ取り扱いを再び提示し(2),さらにあら たに「第一回連結差額の賦課の特殊ケース」の処 理を取り上げている(3)。第一回連結差額の賦課に 係る繰延税金の認識について,次の2つの方法間 で選択が認められる。すなわち,
(1)関係する資産・負悩に付与された価額が 税務上の価額と異なる限り,これらすべての 資産・負債項目の各々に対する賦課に税効果 を認識する方法。
(2)企業の財産から短期的に流出し課税所得 と異なる会計利益を生む可能性のある資産・
負債の項目に対する賦課だけに税効果を認識 する方法。
第一回連結差額のうち,評価差額に相当する部 分は関係する資産・負債に割り当てるのであるが,
(1)の方法はこれら割り当てられた資産・負債 に対して税効果を認識する方法であるのに対して,
(2)の方法はこれらのうち短期的に企業から流 出するものについてだけ税効果を認識する方法で ある。例えば,譲渡の意思決定が行なわれたまた は行なわれる可能性が強い棚卸資産または固定資 産項目への評価差額の賦課のみに税効果を認識す る場合がこれである。
「文書」は上記2つの方法のうちいずれかの方 法を適用する場合には,第一回連結差額の賦課を 次のように行うことを求めている。
.繰延税金(借方または岱方)は別個に認識さ れるので,賦課は総額で行なわれる。
・賦課はとりわけ関係項目に割り当てられる全 体額で記救する。これにより,賦課される第 一回連結差額に対して少数株主持分が認識さ れる。
(a)原則的方法としての全部計算法の採用 1986年プラン・コンタブルの連結規定は,期間 差異のすべてを考慮するのか(全部計算法)ある いは近い将来に税金の実質的支払・節約を生み出 す期間差異のみを考慮するのか(部分計算法)に ついて言及していなかった。1990年「文書」は,
「全部計算法」を原則的方法とすることを明確に した。これは,1987年のOECCA勧告書のとる 立場と同一である。しかし「文瞥」は,OECCA の勧告書と異なり次の条件を満たす場合に「部分 計算法」の適用を認めている。すなわち,
・注記・附属明細書でその理由を表示する。
.全部計算法と比較してその差異が連結計算書 類に及ぼす影響を明らかにする。
なお,部分計算法が採用されるときには,連結 対象企業に対してこれを統一的に適用しなければ ならない。
(b)望ましい方法としての変額繰延法の採用 1986年PCG連結規定は「定額繰延法」と「変 額繰延法」の2つの方法間での選択を認めたのに 対して,1987年OECCA勧告轡は「変額繰延法」
の適用を勧告していた。1990年CNC「文書」は
「変額繰延法」を好ましい方法と位置付けた。
変額繰延法において,繰延税金は年度末の新税
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さらに,第一回連結差額のうち評価差額として 賦課されなかった部分(連結のれんでありフランス では「取得差額」と呼ばれる)に対しては,いかな る繰延税金も認識しない。
(f)予想される分配
子会社未分配留保利益(加算一時的差異)に関 しては,PCGの1986年連結規定と同様,決定済 みの分配に係る回収不能な税金について繰延税金 負償を認識する。また将来の減算一時的差異(欠 損金)については繰延税金資産を認識する。「文 書」はさらに持分法適用企業に対しても同様の規 則を適用すべきであるとしている。注記・附属明 細書には,用いた方法と分配に係る当期負担の税 額を明瞭に表示しなければならない。
以上の原則のほか,文書は以下の特別ケースに おける取り扱いを明確にしている。
(d)連結計算書類における繰延税金の表示
「文瞥」は1986年PCG連結規定の取り扱いに 加えて,繰延税金に関して注記・附属明細響にお いて提供すべき情報を次のように明確にしている。
すなわち,
・連結において繰延税金の会計処理のために用 いた方法(定額繰延法または変額繰延法など)。
・次のものに関する情報:
.繰延税金引当金の変動額。
.「当期」税金費用および「繰延」税金費用。
.繰延税金額の計算上考慮されない繰越欠損金
(税務上繰延べられたと見なされる減価償却費を 含む)の残高と変動額,および繰越の可能性。
(9)特別ケースの検討
(1)税務上の繰越欠損金が事後的に発生し た場合の繰延税金の消去
ある年度に税務上の欠損金が発生した場合,当 該年度の税務上の繰延減価償却費を含め,貸借対 照表の資産に繰延税金が計上済みであるとき,前 出(e)の条件をクリヤーする場合を除きこれを 成果計算書に戻し入れなければならない。
(2)税務上黒字の親会社により税務上赤字 子会社に対して設定された債権の引当金 例外的な場合,前出(e)の原則から離脱する ことができる。特に,税務上黒字親会社により税 務上赤字子会社に対して設定された債権の引当金 を,連結上消去する場合がこれである。すなわち,
次の状況にある場合には当該消去に係る税金を再 処理する必、要はない。
・親会社において当該引当金の税務上の費用計 上可能性が確保され問題とならない。
・当該債権を事後的に放棄する場合があっても,
それが子会社を税務上黒字にすることを目的 としたものでないこと。
・子会社が税務上の繰越欠損金の全部または-
部につき繰延税金を認識できなかった。
(3)税務上の繰越欠損金の控除から生ずる 利益の認識
前出(e)の基準が満たされない場合の欠損金,
あるいは前出(9)の(1)の場合の当期に認識 されなかった税務上の繰越欠損金から生ずる税金 の節約は,以下の年度の計算書類においてのみ計 上することができる。すなわち,
(e)税務上の繰越欠損金
税務上の繰越欠損金および税務上繰延べられた と見なされる減価償却費は税効果会計の対象とな り,将来の課税所得からのそれらの控除の「蓋然 性が高い(probable)」ときに限って,あるいは 繰延税金負債からのそれらの賦課がその期間を考 慮して可能である時にのみ税効果を認識できる。
これは1986年PCG連結規定の取り扱いと同様で ある。
「蓋然性が高い」という性格は,「極めて慎重 に(extr6meprudence)」評価しなければならず,
1986年PCG連結規定の「慎重に(avecprudence)」
という表現をさらに強めている。この`慎重性は,
・欠損金が全く例外的であり非反復的な損失か ら生ずるとき,
・企業が「非常に短期的(tr6scourtterme)」
に利益の状況になるという「非常に強い確実 性(trEsforteprobabilit6)が存在するとき,
に確保され,1986年POGと同様期間差異から生 ずる繰延税金資産の認識と区別して欠損金の例外 的・非反復的性質を挙げさらに1986年PCGに比 べて回収の短期的性質をより一層強調したものと
なっている。
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・第1の方法;これら欠損金が課税所得に実際 に賦課される年度の計算書類において。この 場合,課税所得にその全部または-部を賦課 する年度の前の年度に生じた回収可能性を予 想させる事実だけでは,その実現の年度前に 税金の当該節約を見越して税効果を認識する
ことはできない。
.第2の方法;これら欠損金が課税所得に実際 に賦課される年度か,または将来の課税所 得に賦課できる「蓋然性が極めて高くなる
(fortementprobable)」年度の計算書類におい て。この場合,前出(e)に示されたものに 相当する条件で,「極めて慎重に(extr6me prudence)」その評価を行なわねばならない。
第2の方法は新たな事実(より好ましい予測)
が生じたことを理由とするものである。この問題 については従来から上記2つの方法が議論されて きたが(イ),CNCの連結計算書類委員会において も当該処理に関して意見が分かれ,結局2つの方 法を提示することになった経緯が述べられている。
(4)計算書類における繰延税金の再計上 連結の必要上再処理された貸借対照表に,税務 上の繰越欠損金により期間差異あるいは連結の再 処理から生ずる繰延税金を計上していない連結企 業あるいは計上停止していた連結企業は,その税 務上の欠損金を吸収した最初の年度において,次 の条件で新にこれら繰延税金を認識することがで きる。
.繰延税金資産
税務上の繰越欠損金が事後的に発生したことに より計上停止あるいは消去されていた繰延税金資 産は(前出(9)の(1)を参照),税務上の欠損金 がすべて課税所得に賦課される年度に連結貸借対 照表上回復される。
.繰延税金負債
繰延税金負債は,税務上の繰越欠損金の賦課に より減少または除去できる(前出(e)を参照)。
これら税務上の繰越欠損金を課税所得に賦課する 年度において,過年度に消去された繰延税金負債 をしかるべき限度まで回復すべきであるとされて いる。
(5)税務上赤字であるが連結の再処理によ り黒字となる企業の繰延税金の処理
繰延税金の認識が将来の支払いまたは受取り (支払いの減少となる場合も含む)の対象となる税金 費用またはタックス・クレジットの調整であると いう原則に従い,税務上赤字であるが再処理によ り会計上黒字となる連結企業に係る連結の再処理 は,原則として繰延税金の認識の対象となる。繰 延税金の影響の計算は関係する子会社の税務上の 状況を考慮する。
(6)繰越長期減価
繰越長期減価(moins-valuesalongtermerep・rt‐
ables)は,事前に潜在的な税金節約の税効果を 認識しない(5)。ただし,潜在的な税金節約が「ほ ぼ確実(quasicertaine)」である場合は別とされ る。例えば,その譲渡がすでに決定済みであるが 未だ実現していない固定資産の譲渡取引が例とし て挙げられている。
これについては従来から2つの考え方が議論さ れてきた(6)。すなわち,繰越欠損金と同じように その賦課が確実な形で予測される(例えばその譲 渡価格が既知であるすでに決定済みの固定資産の譲渡)
ときだけ繰延税金を認識できるとする考え方と,
税金の節約が長期増価を生み出す臨時的な譲渡に 結びついていることを考慮していかなる繰延税金 資産も認識できないとする考え方である。「文書」
が採用したのは,賦課が確実な形で予測される点 を重視した前者の考え方である。
(7)潜在的税金(impositionslatentes)
一定の資産が会社財産から流出することにより,
会計利益が課税所得と異なる場合が生ずる。特に,
合併の特別優遇税制度の適用を受ける出資取引の 枠内での資産に係る増価,あるいは過去に生じた 増価であるが一定の制度に従い一時的に課税免除 されている増価を再投資して取得した資産の譲渡 から生ずる増価の場合がこれである(71゜
これらケースは偶発的な性質を有し,「潜在的 な繰延税金」に関わっており繰延税金と区別され る。すなわちこれら増価の課税は将来の経営意思 決定に依存しており,それら増価は資産の譲渡時 にのみ計算書類に計上される。しかしそのような ケースでは,必要に応じて注記・附属明細書に情 報が提供されねばならない。
以上.1990年の国家会計審議会(CNC)文書
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「連結計算書類の方法論に関する検討報告書:繰 延税金」を検討した。基本的には損益計算書アプ ローチ(approchr6sultat,m6thodecompteder6‐
sultat)に基づき,1986年PCG連結規定を基礎 として1987年会計士協会(OECCA)勧告書との 整合性を有し,当時のIAS第12号(1979年)に調 和するものであると結論づけることができる。
「文書」の特徴を要約すれば以下のとおりである。
・1986年PCG連結規定と同様,繰延税金資産 の純残高は将来の課税所得に対する賦課によ
りその回収可能性が予想しうる場合にのみ計 上され,繰延税金負債純残高は関係企業が税 務上赤字でありかつその将来の課税所得への 賦課の蓋然性が低い多額の税務上の繰越欠損 金を有する場合には認識しないことができる。
・文書は原則的方法として「全部計算法」を採 用する一方,一定の条件で「部分計算法」も 容認している。これら方法は1986年PCG連 結規定では明確にされなかったものである。
他方,1987年会計士協会(OECCA)勧告書 では全部計算法のみを勧告していた。文脅の 取り扱いは,両方法の選択制をとっていた当 時のIAS第12号(1979年)に対応したもので ある。
.「変額繰延法」を望ましい方法とし,「定額 繰延法」との選択制をとっていた1986年PC G連結規定に比較してその立場を明確にし たものの,1987年会計士協会勧告書と異なり
「定額繰延法」も排除してない。文書の取り 扱いは,両方法の選択制をとっていた当時の IAS第12号(1979年)に対応したものとい える。
.第一回連結差額における評価差額に係る2つ の処理方法を提示し,取得差額に対する税効 果はこれを認識しないことを明示した。
・税務上の繰越欠損金については1986年PCG 連結規定と同様繰延税金資産の計上を許容し,
期間差異に係る繰延税金資産の認識条件とは 別に蓋然性評価の「慎重`性」の条件を課して いる。
・繰越欠損金に関連するいくつかのケースを特 殊ケースとして提示しその取扱いを明らかに した。ここから,繰延税金資産を生み出す繰
越欠損金に対して詳細な取扱いルールを示す ことで,繰越欠損金に基づく繰延税金資産の 計上に細心の注意を払おうとする姿勢が窺わ れる。
・潜在的な繰延税金は考慮しないとの立場を明 確にした。すなわち,繰越長期減価について は事前に潜在的な税金節約の税効果を認識し ない。また,優遇税制の適用を受けた合併・
分割・資産の一部出資取引に対しては税効果 を認識しない。
繰越長期減価は税務上10年間に生ずる純長期譲 渡増価から控除できるが,事前に長期譲渡増価の 発生を予想することは難しい。このため,これに 係る潜在的税金節約の税効果はこれを認識しない。
ただし,その譲渡は未実現であるがすでに譲渡す ることを決定している固定資産の譲渡取引などは 潜在的な税金節約が「ほぼ確実」であると見られ るので,潜在的な税金節約の税効果を認識できる ものとしている。
優遇税制の適用を受けた合併・分割・資産の一 部出資取引の場合,優遇税制の適用はこれら出資 取引における譲渡増価に対する課税の延期を可能 にするものである。これら取引において出資対象 となった非償却資産を将来に譲渡する場合,課税 延期され増価を含めた譲渡増価に対して課税が行 なわれる。しかし,将来,当該資産を譲渡するか 否かは経営の意思決定に依存したものであり,従っ て,将来の課税も経営の意思決定に左右されるこ とになる。このように偶発的な性質を有する潜在 的な税金は事前に考慮しないことが明確に表明さ れている。
潜在的な繰延税金の認識の問題は,IASC公開 草案E49号に対するフランスの回答の中でも議 論されている。次に,潜在的な繰延税金の認識に 関して当該回答を検討してみたい。
7)IASC公開草案E49号に対するフランス の回答
国家会計審議会(CNC)は,IASC公開草案第 49号に関して,1995年に会計士協会(OEC)およ び全国会計監査役協会(OECCA)と協議して共 同の形で「所得税に関するIASC公開草案E49に
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(2)EC会社法指令第4号・第7号およびフ ランス会計規定
既述のとおり会社法指令第4号および第7号は,
使用されている用語から損益計算書アプローチを 前提としていることが窺われるが,いずれも具体 的な繰延税金の処理方法を扱っていない。
フランスでは,「変額繰延法」と呼ばれる「損 益計算瞥負憤法」が望ましい方法として提示され ているが,「定額繰延法」と呼ばれる「繰延法」
も認められている。これら両方法はいずれも解消 の確実なまたは可能性の高い期間差異に対して繰 延税金を認識する損益計算書アプローチに基づく 方法である。しかも,当該アプローチに基づく方 法は,期間差異が発生した期の損益計算書におけ る税引前利益と税金費用との対応に重点を置き,
繰延べあるいは引当経理の方法により商法会計の 枠組みの中に大きな矛盾なく受け入れられると考 えられる。
問題は,フランス会計的な意味で解消が偶発的 と見られる差異をも含む一時的差異に対して繰延 税金を認識する貸借対照表負債法が商法会計の枠 組みの中に矛盾なく受け入れられるかどうかであ る。前述のとおり,当該方法は,将来の資産の回 収または負債の決済を前提として,その時に生ず る税額の増加(または減少)を表す金額を繰延税 金負憤(または資産)として貸借対照表に計上す ることを重視するものであるから,商法会計上そ の前提が問われるのである。解消が偶発的であり
しかも繰延税金処理後の経営意思決定(例えば資 産諌渡の決定など)に従属する差異に対して,フ ランスは繰延税金の認識可能性には否定的な立場 をとってきた。
「回答」では,借方および貸方の状況を区別し て,このような潜在的な繰延税金の認識について
「借方では潜在的な繰延税金の会計処理は可能の ように思われない」と結論付けている。その理由 は,企業が次期以降赤字の場合には回収できない 以上,「偶発的な性質の債権(cr6anceaucaractere eventuel)」をそこに計上することになるからであ
る。潜在的な繰延税金は偶発性を有し,法的妥当 性の観点から計上される債権は「確実性(carac‐
tCrecertain)」のあるものに限られるとしている。
貸方については何ら言及されていないが,フラ 対するフランスの回答(R6ponsefranCaisehl1ex‐
pos6-sondageE49del0IASCrelatifallmp6tsurles b6n6fices)」(以下『回答」と呼ぶ)を公表した181。
(1)公開草案E49号における「貸借対照表 アプローチ」の採用
公開草案E49号は,「損益計算書アプローチ」
から「貸借対照表アプローチ(approchbilantielle,
m6thodebilantielle)」(「貸借対照表負俄法(balance sheetliabilitymethod)」と呼ばれる)へ移行し,繰 延税金認識のアプローチにおける大きな進展を示
した。
損益計算書アプローチは「期間差異(diff6r- encestemporaires)」と呼ばれる財務会計利益と課 税所得との差異に基づき税効果を認識する。当該 アプローチは期間差異が発生した期の損益計算書 における税引前利益と税金費用との合理的対応に 重点を置いたものである。
これに対して,貸借対照表アプローチは「一時 的差異(diff6rencestemporelle)」と呼ばれる財務 会計上の資産・負債価額と税務会計上の資産.負 債価額の差異に対して繰延税金を認識する。税務 上の資産・負債価額と財務会計上の資産・負債価 額との差異は,資産の回収または負債の決済時に 会計利益と課税所得との間に差異を生み出す。当 該アプローチはその時に生ずる税額の増加(また は減少)を表す金額を繰延税金負債(または資産)
として貸借対照表に計上することを重視したもの である。
すべての期間差異は一時的差異である。しかし,
一時的差異は期間差異が生ずることにならないケー スにも発生する。例えば,資産の評価替えによる 評価差額が損益計算書を経ないで貸借対照表の株 主持分に直接計上される場合,子会社等の未分配 留保利益(ただし前出「文書」ではjUjlII1差異が発生す る取引と同じ方法で処理する),合併・分割等にお ける再評価額での資産・負債の受入れ(税務上は 何らの修正もない場合)のケースがこれであり,一 時的差異は期間差異を含むより広い概念である。
E49号では貸借対照表アプローチが採用されて いるが,当該アプローチの採用がEC会社法指令 第4号および第7号さらにフランスの会計規定に 鑑みて,いかなる問題を提起するかが重要な点で ある。
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ンス会計の伝統的な考えからして,引当経理で対 応可能であると考えているものと見られる。
すなわち,一般に蓋然性負債と見られている
「危険・費用引当金(provisionspourrisqueset charges)」がこれである。当該引当金は,その蓋 然性が高いが,発生が不確実な危険および費用に 対して設定され,慎重性の観点から認められるも のである。
この場合,繰延税金に関する当該負債項目は相 手項目として国家の企業に対する債権を示すもの ではない以上(国家はいかなる請求楠も有していな い),本来の意味での負債性を認めることには無 理があり,表示面では自己資本と負債との間に記 載される。
しかし,この「蓋然性が高いが,その発生が不 確実」という性質に照らして,解消が偶発的で経 営意思決定に依存する差異に対して危険・費用引 当金を認識することが保守的に過ぎないかとの疑 問が生ずる。
以上のほか,「回答」は,税務上の繰越欠損金 から生ずる繰延税金資産については,これを回収 できる企業の能力を立証する「証拠(preuvecon- vaincante)」が必要とされるよう修正を求めてい る。すなわち,少なくとも利益と将来の期間差異 の解消の詳細な計画に基づき,企業が課税利益を 生み出す蓋然性が高いということを立証する証拠 である。既述のとおり,フランスでは繰延税金資 産を計上するうえでより厳格な(plusstricts)ス
タンスがとられている。
また,繰延税金の現在価値計算に関しては,現 在価値化をしなくても問題とならないとの考えを 表明している。
(a)貸借対照表アプローチへの移行 PCG改訂連結規定は,
「一時的差異(diff6rencestemporaires)は資 産または負債の帳簿価額がその税務上の価額と 異なるときから現われる」
として,財務会計上の資産・負債の価額と税務会 計上のこれら価額との差異である一時的差異に対 して税効果を認識することを明確にしている1m;・
税効果会計における貸借対照表アプローチの考え 方である。この点から,PCG改訂連結規定にお ける税効果会計の方法は従来の損益計算書アプロー チから貸借対照表アプローチへの移行として特徴 づけられる。当該特徴は,同様の移行を示した国 際会計基準(IAS)改訂第12号「法人所得税(in‐
cometaxes)」(1996年)に対応したものである。
(b)一時的差異の発生原因
PCG改訂連結規定は,繰延税金負債の発生原 因である一時的差異として,特に次のものを挙げ ている。すなわち,
(1)発生済みであるが支払期限到来の時に初め て課税される金融収益のように,その課税が 繰延べられた収益,
(2)税務上即時に損金計上されるが,その会計 上の計上が分割または繰延られる固定費用,
(3)資産の譲渡または利用時に,その税務上の 損金計上額が会計上の計上費用額を下回るこ
とになるであろう資産,
である。PCG改訂連結規定に詳細は示されてい ないが,IAS改訂第12号によれば,(1)の例と して,受取利息が期間按分基準で会計上の利益に 計上され課税上は現金を受取った時に課税所得に 含まれる場合が挙げられる(IAS改訂第12号par、
17(a))。(2)の例としては,開発費が会計上の 利益の計算上資産計上ざれ将来の期間にわたって 償却され課税所得計算上はその発生した期の損金 に算入される場合が挙げられる(IAS改訂第12号 par、17(c))。
(3)の例としては,
・連結時に,取得された識別可能資産・負債の 公正価値を参照して,その識別資産・負債に 評価差額が配賦されるが,税務上は何らの修 正もされない場合,
8)1998年のPCG改訂連結規定
CNCは1998年のPCG連結規定の改訂の中で,
IAS第12号の改訂(1996年)に対・応して新たな 法人所得税の会計方法を公表した(9)。以下,当該 規定「31.所得税(Imp6tssurr6sultats)」の特 徴を検討してみたい。
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・合併・分割・資産の一部出資の取引において 出資資産・負債を再評価額で受け入れるが,
税務上は優遇税制度を利用して前の帳簿価額 を引き継ぐ場合,
・資産が再評価されるが税務上は何らの修正も 場合,
などが挙げられ,これらの場合,資産・負債の
「財務会計上の価額(valeurcomptable)」が「税 務会計上の価額(valeurfiscal)」を上回ることに なる(IAS改訂第12号par、18(a)(b))。これら差 異は,関係する資産の将来における譲渡時(非減 価償却資産の場合)にあるいは取引後の減価償却 計算(減価償却資産)を通じて,財務会計上の利 益と課税所得との差異となって現われる。
さらに,PCG改訂連結規定は繰延税金資産の 発生原因である一時的差異として,特に引当金繰 入額など会計上の費用で事後的にのみ税務上損金 計上可能となるものを挙げている。例えば,退職 給付引当金(provisionpourindemnit6sded6part enretraite)の場合,フランスでは,当該引当金 の繰入額は税務上繰入時に損金計上できず,実際 に退職給付を支払ったときに損金計上される。
(c)繰延税金資産を認識できる場合
繰延税金資産は,その回収の蓋然性が高い場合 にのみ貸借対照表の資産に計上される(一定の条 件の下で計上許容)。すなわち,繰延税金資産は次 の場合にのみ考慮される。
(1)その回収が将来の成果に依存していない場 合。この状態において,繰延税金資産は,こ れら資産が回収可能となるまたは回収可能な 状態にある期間に解消する認識済み繰延税金 負債まで考慮される。この場合,繰延税金資 産が回収可能となる期日を予測期日から切離 して期間を延ばすことを目的とする税務上の オプションを考慮することができる。
(2)または,企業が当該期間中に予期される課 税所得の存在により,それらを回収すること ができる蓋然性が高い場合。企業が直近2年 度中に最近の損失を被ったときはそのような 利益は存在しないものとみなされる。ただし,
例えばこれら損失が予想可能な将来において 非反復的な例外的環境から生じている場合ま たは例外的な利益が予期される場合,説得力
ある反証を提出するときはこの限りではない。
つまり,(1)の場合は,十分な加算一時的差 異があって減算一時的差異の解消が予測される期 と同じ期に解消すると予測される場合であり,こ の場合には,減算一時的差異の使用対象となる課 税所得が生ずる可能性がかなり大きいと言えるの である(IAS改訂第12号par、28(a)に対応)。その ため,当該加算一時差異を生み出す繰延税金負債 を限度に,減算一時的差異を生み出す繰延税金資 産を認識することを認めているのである。
(2)の場合は,このような十分な加算一時的 差異がない時であっても,減算一時的差異が解消 するのと同じ期に,当該企業が十分な課税所得を 稼得する可能性がかなり大きい場合には,繰延税 金資産の計上を認めるものである(IAS改訂第 12号par29(a)に対応)。
その際,説得力ある反証を提出するときを除き,
企業が直近2年度中に最近の損失を被ったときは そのような利益は存在しないものとみなされる (IAS改訂第12号par、31に対応。IASは,企業が最近 に欠損を計上している場合は,十分な課税所得が稼得 されるという他の信頼すべき根拠がある範囲内でのみ 繰越欠損金から生ずる繰延税金資産を認識できるとし ている)。
以上のとおり,PCG改訂連結規定は,一定の 条件の下で繰延税金資産の計上を許容するスタン スをとっている。しかもその認識は従前と異なり,
繰越欠損金に係る繰延税金を区別せず統一的に扱っ ている。
(。)繰延税金負債を認識できない場合 繰延税金負債は,一部の例外を除きすべて考慮 しなければならない(一定の例外を除き計上強制)。
ただし,次のものから生ずる繰延税金負債は考慮 してはならない。すなわち,
(1)取得差額の会計処理,
(2)取得された企業と別個に譲渡できない一般 に非償却の無形資産に係る評価差額の会計処 理,
(3)これら資産の購入は一時的差異の発生原因 であるとはいえ,税務上その原価を下回る金 額に基づき償却可能でその流出時の税務価額 は当該減価償却累計額の差額を考慮しない資
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産購入の当初会計処理,
(4)高インフレーション国に所在する被連結企 業にとって,非貨幣資産の税務価額とグルー プの採用した方法に従い高インフレーション の影響を修正したその価額との差異,
である。(1)の取得差額については,連結のれ んは一時的差異の発生原因であるが税効果は認識 しない。これはIAS改訂第12号と同じ立場であ る(par15,21)。
認識しない理由としては,のれんが配分残余で あり,繰延税金負債の認識はのれんの簿価を増加 させることになるからである(IAS改訂第12号par、
21)。
(2)は法律上の会社合併・分割・資産の一部 出資の取引で生ずるのれんの場合であり,これに 対して税効果を認識しないのは(1)の取得差額 の場合と同じ理由からである(IAS改訂第12号par、
15,21に対応)。
(3)の資産購入の当初会計処理とは,資産の 当初認識時の税務基準額が当初の帳簿価額と異な る場合である(IAS改訂第12号parl8(。)に対応)。
例えば,非課税の政府補助金を受けて資産を取得 する場合がこれである。
(4)の差異ついては,IAS改訂第12号では期 間差異ではない一時的差異と考えられており(序 説par、1),非貨幣性資産が貸借対照表日現在の 測定単位で修正再表示されることにより生ずる繰 延税金は損益に計上される(税務上は何らの修正も 行なわれない)。そしてもし修正再表示に加えて,
非貨幣性資産が再評価されるときは,再評価にか かわる繰延税金は資本勘定に借記され,修正再表 示に関わる繰延税金は損益計算書に計上される (IAS改訂第12号付録1-時的差異の例A、加算一時 的差異を発生させる状況の例示par、18)。PCG改訂 連結規定は当該差異に対して税効果を認識しない。
被連結企業における投資有価証券の税務価額と その連結上の価額との差異は次の(e)に定める 条件でのみ繰延税金を生み出す。
以上のとおり1998年PCG改訂連結規定は,一 定の例外を除きすべての繰延税金負債の計上を強 制するスタンスをとっており,繰延税金資産の取 扱いと異なっている。
(e)被連結企業の自己資本の課税
・親企業
株主への分配を理由に親企業により負担される 税金は自己資本から直接控除して会計処理される。
それら税金は繰延税金の認識を引き起こさない。
・その他の被連結企業
決定済みまたは蓋然性の高い分配に係る回収不 能な税金のみが繰延税金(繰延税金負債)として 認識される(IAS改訂第12号par15,39に対応)。子 会社,関連会社またはジョイント・ベンチャーに 対する持分の帳簿価額が当該投資または持分の税 務基準額(取得原価であることが多い)と異なった ものとなった時に,一時的差異が発生する。この ような差額は,例えば子会社,関連会社またはジョ イント・ベンチャーにおける未分配留保利益の存 在等に起因するが,その場合に分配が決定済みの 時または分配の蓋然性が高い時,当該分配に係る 回収不能な税金のみが繰延税金負債として認識さ れる。
このように,被連結企業の未分配利益について,
PCG改訂連結規定は「決定済みまたは蓋然性の 高い分配」と表現し,従来「決定済みの分配」に 限定していたのを「蓋然性の高い分配」にも拡大 している。これは,未分配利益をどの時点で分配 するかにつき親会社のコントロールが働くが,予 見しうる将来に未分配利益を分配しないことが決 定されていない限り,蓋然性の高い分配としてこ れに係る回収不能税金に繰延税金負債を認識する
ものである。
これに対して,改訂PCGは従来評容されてい た減算一時的差異(欠損金)に係る繰延税金資産 の認識を禁止しており,一定の条件の下でその認 識を義務付けているIAS改訂第12号(par,44)
と取扱いを異にしている。
(f)税金資産・負債の会計処理
(1)変額繰延法一貸借対照表負債法の採用 税金資産・負債は期末時点の現行税率および税 法を用いて評価されねばならない。貸借対照表ア プローチに基づく「変額繰延法」,いわゆる「貸 借対照表負債法」の採用である。これはIAS改 訂第12号に対応したものである。従来認められて いた定額繰延法(いわゆる「繰延法」)はもはや認
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フランスの取扱いおよびIAS改訂第12号と異な り割引計算を容認している。
(3)繰延税金資産の計上額の再検討 繰延税金資産の計上額は前出(c)の基準に基 づき毎年度再検討されねばならない(IAS改訂第 12号par、56に対応)。PCG改訂連結規定に詳細は 示されていないが,IAS改訂第12号によれば,
企業は,-部または全部の繰延税金資産の便益を 実現させるだけの十分な課税所得を稼得する可能 性が大きいとはいえなくなった範囲内で,繰延税 金資産の計上額を減額しなければならない。その ような評価減額は,十分な課税所得を稼得する可 能性がかなり大きくなった時には戻し入れなけれ ばならない(par、56)。
(4)税金の相手勘定
.繰延税金資産・負債の相手は実現した取引と して取り扱われねばならない。そこで,実現 取引が成果に影響を与える最も頻繁な場合,
繰延税金の相手は所得税費用に影響する
(IAS改訂第12号par、58に対応)。
すなわち,当期課税税金および繰延税金は,次 の場合を除き,利益または費用として認識し,当 期の純損益に含めなければならないのである。
・取引が自己資本に影響するとき,繰延税金の 相手は自己資本に直接影響する(IAS改訂第 12号par、58および61-65に対応L
PCG改訂連結規定に詳細は示されていないが,
IAS改訂第12号によれば,イ.その税金が同じ 期または異なった期に直接に資本勘定に認識され る取引または事象から生ずる場合,およびロ.そ の税金が取得による企業結合から生ずる場合,純 損益に含めず直接資本勘定に貸記または借記しな ければならないのである。PCG改訂連結規定は,
この例として遡及して適用される会計方針の変更 の場合を挙げている。
・既存の繰延税金資産・負債に対する税率およ び税法の変更は,これらの相手が以前に直接 自己資本に会計処理されていたとしても,成 果に影響する。
IAS改訂第12号によれば,関連する一時的差 異の額に変更がなくとも,税率または税法の変更,
繰延税金資産の回収可能性の再査定または資産の 予定回収方法の変更により,繰延税金資産・負債 められない。
また,用いるべき税率および税法は期末時点の 現行税法の規定するそれらであり,将来の差異が 実現する時,例えば期末時点に現行税法規定が将 来税金の増加または減少の創設または削除を予測 する時に適用可能なものである。現行税法規定が 適用可能な税率および税法の変更を予測しないと
き,それらの変更の可能性のいかんにかかわらず 期末時点の現行税率および税法を用いるべきで ある。
期末時点の現行税法の枠内で適用可能な税率は 将来の差異が実現するであろう形により異なる時,
用いるべき税率は最も蓋然性の高い(leplusprob‐
able)形で適用可能な税率である(IAS改訂第12号 par、52に対応)。PCG改訂連結規定に詳細は示さ れていないが,IAS改訂第12号によれば,企業 が資産(負債)の帳簿価額を回収(決済)しよう とする方法が,イ.その企業が資産(負憤)を回 収(決済)する時に適用される税率,ロ.資産 (負債)の税務基準額,のどちらか一方または両 方に影響を与えることがある場合には,企業は繰 延税金資産・負債を,回収または決済をしようと する方法に対応した税率と税務基準額を使用して 算定する(par、52)。
(2)割引計算の容認
繰延税金資産・負債は,その現在価値化の影響 が重大でありかつ解消の信頼できる予定表にch‐
6ancierfiabledereversement)を作成できる時に は現在価値化される。
割引計算に関しては,IAS改訂第12号はこれ を禁じている(par53-54Lすなわち,繰延税金 資産・負償について割引計算で信頼度の高い数値 を得ることは,各々の一時的差異の解消時につい て詳細な予定表が必要となる。多くの場合そのよ うな予定表の作成は実行困難または非常に複雑で ある。そのため割引計算は適当ではないと考えら れる。また,割引計算を強制しないまでも許容す るとしても,企業間で比較可能性のない繰延税金 資産・負債が計上される結果となる(IAS改訂第 12号par、54)。これらの理由から,IASは割引計 算を強制しないし許容もしないという立場をとっ ている。
このようにPCG改訂連結規定は,それまでの
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の計上額が変更されることがある。この結果生ず る繰延税金は,以前に資本勘定に借記または貸記 された項目に関係している時を除き,損益計算書 上で記載される(par、60)。従って,以前に資本 勘定に借記または貸記された項目に関係している 時の処理は,PCG改訂連結規定とIAS改訂12号
とでは異なっている。
・取引がグループによる企業の取得の枠内で評 価差額を決定することにあるとき,繰延税金 の相手は取得差額の価額を増加または減少さ せることになる(IAS改訂第12号par58(b)
およびpar、66に対応)。
IAS改訂第12号によれば,取得による企業結 合の際に一時的差異が発生する場合があり,企業 はそれによる繰延税金資産または繰延税金負債を 取得日の識別可能資産・負債として認識する。そ の結果,それらの繰延税金資産・負債はのれんま たは負ののれんに影響を与える(par、66)。上記 のPCG改訂連結規定はこのIAS規定と同じ趣旨 である。
(5)表示
繰延税金資産および負債は,それらの解消期間 のいかんにかかわらず,それらが同じ納税実体に 関わるときには相殺されねばならない(IAS改訂 第12号par、71-75に対応)。
繰延税金資産・負債および費用は,貸借対照表,
成果計算書あるいは注記・附属明細書において,
資産,負債および要支払税金費用に別個に表示さ れる(IAS改訂第12号par69に対応)。
れた成果につき税率の差異の影瀞(IAS改訂 第12号par85に対応),がある。
(3)その回収の蓋然`性が高いと判断されないこ とにより,会計処理されない繰延税金資産の 金額の情報(IAS改訂第12号par、81(e)に対応)。
これには最も遠い繰延期限満了1]の情報を伴 う。
(4)繰延税金の現在価値化の場合,現在価値化 の方法と割引率および繰延税金資産および負 債に対する現在価値化の影響。
(5)会計処理された繰延税金資産および負債を 一時的差異,タックス・クレジットまたは税 務上の繰越欠損金の各範畷別に振り分けた情 報(IAS改訂第12号par81(9)(i)に対応)。
(6)企業が最近税務上の損失を被っている時の 繰延税金資産の計上を正当化する理由(IAS 改訂第12号par82(b)に対応)。
これら情報の開示によって,繰延税金,当期要 支払税金費用,計上されない繰延税金資産の額,
現在価値計算を実施した場合の影響額,各種範藤 別の繰延税金資産・負債の金額,最近に損失を計 上した中での繰延税金資産の計上理由などを知る
ことができる。
とりわけ(2)については,会計情報の利用者 は会計上の利益と税金費用(利益)との関係が異 常であるかどうか,および将来の関係に影響を与 えることがあり得る重要な要素について理解する ことができる。また,最も有意義な税率は多くの 場合その企業が本拠を有する国での国内税率であ るが,いくつもの国(租税区域)で事業活動を行 なっている企業にとっては各々の租税区域での税 率を使用して作成した別々の調整を合算する方が 最も有意義な場合もあるのである。
さらに(4)の割引計算に関する情報は,PCG 改訂連結規定が繰延税金の現在価値計算を容認し ているためであり,これを禁じているIAS改訂 第12号と大きな違いを見せている。
(9)注記・附属明細書に記載すべき情報 PCG改訂連結規定は,注記・附属明細書に記 載すべき情報として次のものを挙げている。すな わち,
(1)繰延税金と要支払税金との振分
(2)成果に計上された税金費用合計額と現行税 法に基づき親企業に適用可能な税率を税引前 会計成果に適用して計算された理論的費用額 との比較(IAS改訂第12号par81(c)(i)に対 応)。比較要素の中には,一定の取引範鴫に つき軽減または割増された税率の影響
(IAS改訂第12号par,81(。)に対応)および親 企業の国以外の国における活動により稼得さ
以上,1998年PCG改訂連結規定における税効 果会計の方法を検討した。その重要な特徴は税効 果会計における損益計算書アプローチから貸借対 照表アプローチへの移行にある。当該移行はIAS 改訂第12号に対応したものであり,税効果会計の
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具体的内容もほぼIASに対応していた。
しかし,前出1995年のIASC公開草案E49号に 対するフランスの回答において指摘された問題が 残されている。「回答」は,その解消が偶発的な 差異に係る繰延税金資産の計上が困難であること
を強調していた。
1998年PCG改訂連結規定からは,繰延税金資 産と繰延税金負債の計上スタンスを変えることで,
当該問題に対処するフランスの姿勢が窺える。す なわち,すでに指摘したとおり,繰延税金資産の 計上に関しては,改訂連結規定は一定の条件の下 でこの計上を許容する(改訂前も計上許容)。しか も,その計上にあたっては繰延税金負憤の範囲内 あるいは将来の利益からの回収可能性の高いもの に限定することで,計上における慎重性を強く強 調したものとなっている。これに対して,繰延税 金負債の計上は,一部の例外を除きこれを強制し ている(改訂前の計上許容はなくなった)。
IAS改訂第12号は,1日第12号と異なり,繰延 税金資産の計上は一定の条件の下でこれを強制し,
繰延税金負債の計上も一部の例外を除きこれを強 制している。
1998年PCG改訂連結規定における税効果会計 の方法は,ほぼIAS改訂第12号に対応したもの であるが,従来からの繰延税金資産の計上許容の 慎重なスタンスを変えないことで,一方ではIA Sとの調和を図り,他方では偶発的な性質を有す る潜在的な繰延税金資産の計上に依然として慎重 な姿勢をとり続けていることが明らかである。
もっとも,繰延税金資産の計上条件に関しては,
フランスの税効果会計はIAS改訂第12号と同様,
その回収の「蓋然性が高い(probable)」という 条件を示しており,この点でIASとフランスは 同じアプローチをとってきた。米国SFAS第109 号がすべての繰延税金資産を認識した上で,実現 しない可能性が50%を超える部分につき評価性引 当金を設定するアプローチを採用しているのとは 対照的であるといえる(u)。
[未完]
[注記]
(1)ConseilNationaldelaComptabilitaEtat desr6flexionsconcemantlam6thodologierela‐
tiveauxcomptesconsolid6es:impositionsdi‐
ff6r6es,DocumentNo91,SUppl6me"tQu6ulJetm trfmestriel,No85-4otrimestrel990.
(2)拙稿「フランス連結会計基準の国際的調和(4)
-税効果会計(1)-」「経営志林」第36巻第2号 を参照されたい。
(3)フランスではいわゆる「連結調整勘定」のこ とを「第一回連結差額」と呼んでおり,これから 評価差額を除いた残りの部分を「取得差額」と いう。
(4)Raffegeau,』.,Dufils,P.,Corre,J,de M6nonville,,.,Cbmptesconsolid百sb1989.p、203 参照。
(5)前出拙稿を参照されたい。
(6)Raffegeau,』.,etaL,叩.Cit.,p、203参照。
(7)法律上の会社合併・分割・資産の一部出資
(会社分割に類似するが分割当事会社がその一部の 分割後存続する取引)については,再評価して資 産を移転した場合に,税務上当該取引時の課税を 免除する優遇制度がある(租税一般法第210条)。
ただし,これは課税の延期を図るものであり,償 却資産はその後の減価償却過程を通じて課税され,
非償却資産であれば将来の譲渡時に一時的に免除 されていた評価益部分も含めて課税されることに なる。評価益の再投資により取得した資産の譲渡 も同じ趣旨である。すなわち,将来,当該資産の 譲渡が行なわれるかどうかはその時点では不明で ある。
(8)ConseilNationaldelaComptabilit6,Bulに一 ttJDtrjmestrje4No103-2・trimestrel995,pp、14‐
16.
(9)ConseilNationaldelaComptabilit6,Avis
N・98-10dul7d6cembrel998relatifauxcom‐
ptesconsolid6s,Bu比tintrjmestrje1,N・117-4.
trimestrel998,pp26-28.
(10)このように,一時的差異とはある資産または 負債の貸借対照表計上額と税務基準額との差額で あり,これには「加算一時的差異」と「減算一時 的差異」がある。加算一時的差異とは,当該盗産
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または負11(の貸借対照表計上額が将来の期に回収 または決済された時に,その期の課税所得に加算 される一時的差異をいう。減算一時的鑛異とは,
当該資産または負債の貸借対照表計上額が将来の 期に回収または決済された時に,その期の課税所 得から減算きれる一時的差異をいう。
ところで,前出のIASC公開草案第49号への フランスの回答の中では,「期間差異を」“differ‐
encestempoR・aires,,,「一時的差異」を“diff6r- encestemporelleⅢと用語を使い分けていたが,こ の1998年のPCG改訂連結規定では「一時的蓋異」
を‘`differencestemporaires',と表現し,以前の
「期間差異」を表す用語と同一の用語を用いている。
しかし,その意味するものは明らかに「一時的差 異」である。
(11)に'1田信正稿「迎結財務諸表と税効果会計」野 村健太郎繍著『連結会計基準の腫|際的iiM1jlllI」白桃 書房1999年,246頁および弥永其生・足立浩箸
「税効果会調・」中央経済社1998年,72-81頁および 195-211頁参照。