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中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する 研究

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Academic year: 2022

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中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する 研究

著者 川口 厚

URL http://hdl.handle.net/10236/00029120

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論 文 内 容 の 要 旨

 本論文は、運動部活動が学校教育において生徒指導の機能として作用してきたことに注目し、運動部活動 を通して育成される資質・能力、運動部活動の歴史的経緯及び運動部活動における生徒指導の機能について 検討すること、中学校教師と大学生を対象とした実証的研究を通して中学校の運動部活動における教育的意 義を検証するものである。

 本論文は、序とⅢ部からなり、以下が各部の要旨である。

 「序」では、問題の所在と目的、用語の定義、研究の方法、本論文の構成を述べている。このうち研究の目的は、

次の通りである。運動部活動が、学校教育において生徒指導の機能として作用してきたことに着目し、中学 校の運動部活動における教育的意義について、まず3つの視点から理論的研究を行う。1点目は、先行研究 から得られた知見を基にした考察。2点目は、運動部活動の歴史的な変遷を踏まえての検討。3点目は、生 徒指導の機能に関する検討。次に、実証的研究として4つの研究を行う。1点目は、中学校教師を対象とし た生徒指導の機能に関する定性的調査研究。2点目は中学校教師を対象とした生徒指導の機能に関する定量 的調査研究。3点目は、大学生を対象とした中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する定性的調査 研究。4点目は、大学生を対象とした中学校部活動における生徒指導の機能に関する定量的調査研究。この ことを通して、中学校運動部活動に係る現状を整理し、中学校運動部活動を通して育成される資質・能力を 明らかにしている。

 第Ⅰ部では、中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する理論的な検討を行っている。第Ⅰ部第1 章では、運動部活動を通して育成される資質・能力に関する先行研究において、中学校運動部活動と生徒 指導の機能を関連付けた学術的な研究が少ないことを示している。そして、部活動改革が進む現状において、

運動部活動の教育的意義についての研究が見られないことを示し、中学校運動部活動が生徒指導の機能とし て作用し、社会の形成者として必要な資質・能力を育成していることを検証する必要性を指摘している。第 1部第2章では、明治時代に始まった我が国の運動部活動の歴史的経緯を概観し、運動部活動が、1964(昭 和39)年東京オリンピック開催を機に過熱化したこと、1980年代に増加した生徒の非行や校内暴力の鎮静化 の手段として評価されていたこと、その反面体罰や行き過ぎた指導が問題視されるようになったこと等を述 べている。その上で、2010年代の顧問教師による体罰と教師の長時間労働が社会問題化して以降、文部科学 省主導により進められている運動部活動改革の現状と課題を指摘し、運動部活動の教育的意義を検討する必 要性を論じている。第1部第3章では、これからの社会に求められる資質や能力と中学校運動部活動の関係

学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目

論 文 審 査 委 員 (主査)

(副査)

川 口   厚

中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する研究 博 士(教育学)

甲教第4号(文部科学省への報告番号甲第722号)

学位規則第4条第1項該当 2020年2月27日

佐 藤   真 今津屋 直 子

教 授 教 授

教 授 渡 邉 伸 樹

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性について検討し、学校教育では、従来から生徒指導の機能として非認知的能力(社会情動的能力)の育成 が図られてきたこと、生徒指導の機能として作用する運動部活動において非認知的能力を育成することの意 義を論じている。さらに、現代の核家族化・少子化が進行する日本社会において、運動部活動は生徒の心の 居場所や異年齢の人間関係構築の場を提供する生徒指導の重要な機能であることを論じている。そして、生 徒指導の最終目的が社会的リテラシーの育成にあることを示し、運動部活動が社会的リテラシーの中でも、

特に対人関係のリテラシー育成に資する重要な教育活動であることを述べている。

 第Ⅱ部では、中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する実証的研究を行っている。第Ⅱ部第1章 では、中学校教師(5名)を対象としたインタビュー調査を実施し、中学校運動部活動の教育的意義、現状 と課題等をどのように捉えているのかについて検討している。その結果、中学校運動部活動が異年齢の生徒 との人間関係形成に係る資質・能力を育成する重要な機能と捉えていることを示している。また、部活動指 導と校務の両立及び家庭との調和を図ること、外部指導者の活用において生徒指導の連携や関係構築を図る ことに問題と課題を抱えていることを示している。第Ⅱ部第2章では、中学校教師(X市立中学校15校、281名)

を対象とした質問紙調査を実施している。部活動指導の問題と課題尺度を作成し、運動部顧問教師が抱える 部活動指導における問題と課題について検討している。その結果、中堅教師は、若手教師やベテラン教師に 比べて、予防的・課題解決的な生徒指導への対応とワーク・ライフ・バランスの実現に問題や課題を抱えて いること、実技経験のない若手教師と中堅教師は、保護者や生徒との関係構築に課題を感じていることを述 べている。次に、部活動指導尺度を作成し、運動部活動を通して育成される資質・能力について検討してい る。その結果、運動部顧問教師は、<先輩-後輩>からなる縦の人間関係の機能を運動部活動の有効な機能 として捉えていること、生徒指導上の課題の多い地域の運動部顧問教師は、<先輩-後輩>からなる縦の人 間関係の機能を作用させ、生徒主体の部活動指導を行っていることが示されている。第Ⅱ部第3章では、大 学生(96名)を対象とした自由記述アンケート調査を実施し、部活動を通して育成される資質・能力及び教 師による部活動指導を大学生がどのように捉えているのかについて検討している。その結果、中学校の部活 動では、<先輩-後輩>関係を通してコミュニケーションに関する資質・能力が育成されること、教師によ る部活動指導を自明視していることを示している。第Ⅱ部第4章では、大学生(23大学・3短期大学、2318名)

を対象とした質問紙調査を実施している。まず、部活動尺度を作成し、中学校運動部活動を通して育成され る社会的な資質・能力について大学生がどのように捉えているのかを検討している。その結果、運動部経験 者は、文化部経験者や部活動未加入者に比べて、自己指導能力の向上が図られると捉えていることを示して いる。また、顧問教師の指導力に課題があったとしても、<先輩-後輩>からなる縦の人間関係の機能を作 用させ、部活動に取り組んでいたことを示している。次に、大学生がこれからの運動部活動の在り方及び外 部指導者の活用についてどのように考えているのかについて検討している。その結果、部活動が充実してい たと捉えている大学生ほど、教師による部活動指導に教育的意義を感じていること、部活動が充実していな かったと捉えている大学生ほど、運動部活動機能の地域や社会教育への移行に肯定的であることを示してい る。

 第Ⅲ部では、それぞれの調査研究で得られた知見を整理し、総合的な考察を行うとともに、本研究で得ら れた成果ならびに今後の展望と課題として次の点をあげている。

・中学校運動部活動が、生徒指導の機能として作用し、生徒の非認知的能力の育成に資する教育活動である ことを示している。

・運動部活動に求められる生徒指導の機能が時代とともに変容していることを示し、運動部活動は、現代の 核家族化・少子化が進む日本社会において、生徒の心の居場所や異年齢における人間関係構築の場を提供 する生徒指導の重要な機能であることを示している。

・運動部活動が、生徒指導の最終目的である社会的リテラシーのなかでも、特に対人関係のリテラシー育成

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に資する重要な教育活動であることを示している。

・中学校運動部活動と生徒指導の機能を関連付けた学術的な研究の少ない現状において、中学校運動部活動 の教育的意義を実証的に示している。

・これまで荒れた学校を立て直した実践事例や、落ち着きのある学習環境づくりのために役立つと教師の経 験則から自明視されてきた運動部活動の教育的意義について、生徒指導の理論と実証的研究の両面から明 らかにしている。

・日本社会の特質として<先輩-後輩>、<上司-部下>といった縦の人間関係をあげ、生徒が社会的自立 を図っていくためには、これを踏まえた異年齢における対人関係に関する資質・能力の育成が必要である ことを示している。

・<先輩-後輩>による縦の人間関係の機能が作用する中学校運動部活動は、学級や学年といった同年齢の 生徒により構成された集団で学校生活を送る生徒にとって、異年齢における対人関係のリテラシーを育成 することができる開発促進的な生徒指導の重要な機能であることを実証的に示している。

・中学校運動部活動が、いじめや不登校の未然防止に資する予防的・課題解決的な生徒指導の重要な機能で あることを実証的に示している。

・中学校教師が抱える問題や課題、部活動指導に対する意識が教職経験年数によって異なることを実証的に 示している。

  また、今後の課題と展望して次のことをあげている。

・中学校教師や大学生を対象とした調査研究に今後も継続して取り組み、運動部活動における生徒指導の機 能に係る実証的研究の信頼性を高めていくこと。

・持続可能な運動部活動の在り方を提言していくため、へき地や過疎地といった生徒数が少ない地域におけ る部活動の在り方について検討すること。

・今後の部活動研究では、教師の働き方改革やチームとしての学校の理念に沿った部活動運営を進めるため の提言が求められること。

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

 本論文は、川口厚氏が現職の中学校教員時代より蓄積してきた、運動部活動における生徒指導の機能に関 する研究の成果である。そして、中学校運動部活動の教育的意義を明らかにするため、中学校運動部活動に おける生徒指導の機能に着目し、中学校教師と大学生を対象とした実証的研究に基づく分析と考察が中心に なっている。また、本論文における実証的研究の方法は、川口厚氏が博士課程に在籍し地道な研究活動を通 して習得したものであり、質問紙の作成や調査協力者を得るための手続きをはじめとした準備段階から含め ると、調査の実施及び結果の分析には膨大な時間と労力が費やされている。

 論文構成としては、序、第Ⅰ部:中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する理論的研究、第Ⅱ部:

中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する実証的研究、第Ⅲ部:研究の成果ならびに今後の課題と 展望である。この論文について、その特徴と評価すべき点及び問題点について述べていく。

 本論文の評価すべき点は、次の通りである。

1.序では、研究目的の設定を行っている。生徒指導が、生徒の成長を促進させる機能として作用 してきたため、各教科や道徳等の教育活動とは違って、生徒の社会的な資質・能力の向上にどの ように影響しているのかについて検討することが困難であったこと。保護者や地域にとって教師 による部活動顧問が自明視され、部活動の教育的意義について生徒指導の機能を視点とした研 究が見られないこと。運動部活動改革が進み部活動批判が強まる中で、運動部活動の教育的意

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義を検討する機会がなおざりにされていることを示し、運動部活動の教育的意義を明らかにするために、

実証的研究を通して中学校運動部活動に係る現状を整理し、中学校運動部活動を通して育成される資質・

能力を明らかにするとしているように、明確で適切な目的の設定ができている。

2.第Ⅰ部第1章では、中学校運動部活動における生徒指導の機能に関する理論的研究として、中学校運 動部活動と生徒指導の機能を関連付けた学術的な研究が少ないこと、部活動改革が進む現状において、

運動部活動の教育的意義についての研究が見られないことを示し、中学校運動部活動が生徒指導の機 能として作用し、社会の形成者として必要な資質・能力を育成していることを検証する必要性を指摘 している。これらは、先行研究の考察による十分な知見のもと、新たな視点からの特徴を示している と言える。

3.第Ⅰ部第2章では、明治時代に始まった運動部活動の在り方が時代とともに変遷していること、特に 2010年代以降は、顧問教師による体罰と教師の長時間労働問題が社会問題化したことを示している。そ して、文部科学省主導により進められている運動部活動改革の現状と課題を指摘し、運動部活動の教育 的意義を検討する必要性を述べている。このように先行研究と資史料を整理し、運動部活動の歴史的な 変遷を踏まえた上で、今日的な課題を示していることから、立論に必要なデータや資史料の収集が適切 に行われていると言える。

4.第Ⅰ部第3章では、先輩・後輩関係のように縦社会の人間関係の是非については、経験則から論じる ことはできても主観による議論が多く、実際のところ指導論としての確立は難しく、部活動不要論まで 生じてしまう今日において、実証研究によりその是非を議論し、必要性を問うていることは、独創性が あり評価できる。

5.第Ⅱ部第1章と第2章では、中学校教師を対象とした定性的調査と定量的調査を実施し、運動部活動 の教育的意義及び運動部活動の現状と課題について検討している。また、定量的調査では、独自に部 活動指導の問題と課題尺度及び部活動指導尺度を作成し検討を加えている。こうした新たな研究方法 の試みは、先行研究に対峙し得る発想や着眼点があり、それらが一定の説得力を有していると言える。

また、定量的調査を実施した X 市は、中核都市であり日本の縮図的な要素を兼ね備えた都市である。

X市の公立中学校全17校のうち15校の教師を対象に、学校が抱える生徒指導上の課題が異なる地域を 比較し、運動部活動の教育的意義について生徒指導の機能の視点から分析と考察を試みている点は評 価できる。

6.第Ⅱ部第3章と第4章では、大学生を対象とした定性的調査と定量的調査を実施し、運動部活動の教 育的意義及び運動部活動のこれからの在り方について検討している。中学校運動部活動と生徒指導の 機能を関連付けたエビデンスベースの研究が少ない現状において、定性的調査と定量的調査の両面か ら研究目的の達成に取り組む点、2318名の大学生を対象に全国調査を実施し、研究目的の達成を目指 している点は、本論文の独創性として評価できる。

7.第Ⅲ部では、理論的研究及び実証的研究から、中学校運動部活動は<先輩-後輩>からなる縦の人間 関係の機能が作用し、異年齢における対人関係のリテラシーの育成に資する開発促進的な生徒指導の 重要な機能であること、いじめや不登校の未然防止に資する予防的・課題解決的な生徒指導の重要な 機能であることを明らかにしている。このことにより、当初設定した課題に対応した明確かつ独創的 な結論が提示できている。

 以上のように、本論文は部活動研究における従前からの重要な課題に対して、明確で適切な研究目的の設 定がなされ、先行研究の十分な知見をもとに、新たな知見を引き出すことができ、先行研究に対峙し得る 発想や着眼点を示している。さらには、実証的研究が少ない部活動研究において、定性的調査と定量的調 査の両面から研究目的の達成に取り組んでいるように、その方法は適切かつ主体的に行われ、明確かつ独

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創的な結論を得ることができている。また、本論文は、全体の構成も含めて論理展開に整合性、一貫性があ り、確かな表現力に支えられている。要旨・目次・章立て・引用・注・図表等に関して学術論文としての体 裁が整っており、研究計画の立案及び遂行、データの保管等に関して適切な倫理的配慮がなされている。な お、今後の実証的研究における調査対象と調査内容、用語の精査についてはいくつかの課題もあげられるが、

教育学の研究として大いに評価でき、この分野における研究を発展させるに足る学術的価値として評価でき る研究といえる。

 以上のことから、本審査委員会は、本論文の成果を高く評価し、川口厚氏は博士(教育学)の学位を授与 するにふさわしいと判断する。

参照

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