博 士 ( 工 学 ) 肴 倉 宏 史
学 位 論 文 題 名
都市ごみ焼却残渣中の重金属溶出抑制処理に関する研究 学 位 論 文内 容 の 要 旨
都市ごみ焼却残渣(焼却灰と集じん灰)中にはダイオキシン類や重金属類等の有害物質が残 留するため,無害化の要求が高まっている。2000年1月施行のダイオキシン類対策特別措置法 により,焼却残渣中の含有量基準を越えるものはダイオキシン類分解処理が義務化されたが、
その処 理法とし ては溶 融固化法や脱塩素処理等が有効である。また,重金属類については,
1991年に集じん灰中重金属溶出抑制のための中間処理が義務化され,キレート剤等を用いる薬 剤処理が主に実施されており,溶融固化法で新たに発生する集じん灰や脱塩素処理後の集じん 灰についてもキレート処理等を行ってから埋立処分する必要がある。さらに溶融固化法におい ては、ダイオキシン類分解効果に加えて,溶融後の主要生成物である廃棄物溶融スラグ(スラ グ)は残留重金属の溶出抑制効果にも優れている。そこで焼却灰・集じん灰ともにスラグ化し・
土木資材として有効利用することによって,埋立処分量の大幅な削減につながると期待されて いる。
以上より,都市ごみ焼却残渣の最終的な形態はキレート処理灰とスラグに集約されることが 予想される。しかしダイオキシン類は分解されるが,重金属類はキレート処理灰やスラグ中に 残留する。そのため重金属溶出抑制処理においては,残留する重金属等の有害物質が溶出して 人の健康や周辺生態系に影響を及ぼす可能性を把握することが重要である。それには,環境要 因 変 化 に 対 す る 重 金 属 等 の 有 害 物 質 溶 出 挙 動 を 詳 し く 検 討 す る こ と が 必要 で あ る 。 そこで本論文では,キレート処理灰とスラグを対象に,雨水や地下水との接触を想定して重 金属溶出挙動とそれに関与する因子の解明を試み,重金属溶出を防止するために必要な処理の 方法や条件を明らかにした。
本論文の内容を以下にまとめる。論文の主要部分は,キレート処理灰に関して研究を行った 第1部 (2〜5章 ) と , ス ラ グ に 関 し て 研 究 を 行 っ た 第2部 (6〜8章 ) か ら 成 る 。 第 1章 で は , 研 究 背 景 と 研 究 の 目 的 を 述 ベ , 本 論 文 の 構 成 を 示 し た 。 第1部(2〜5章 )では ,キレー ト剤必 要量の決 定方法,および,埋立処分後の重金属再可 溶化防止のための影響因子の解明を目的として研究を進めた。
第2章では,キレート剤の重金属溶出抑制効果は集じん灰性状に左右されると考えられるた め,3ケ所の焼却施設より経時的に採取した集じん灰試料の重金属含有量と溶出濃度測定値を 用いて,その時間変動特性等について検討を行った。溶出試験では,Pbは埋立判定基準を大き く 超 過 し た た め キ レ ー ト 処 理 で はPb溶 出 を 十 分 抑 制 す る こ と が 必 要 で あ る 。 そこで 第3章 では,10種類の市 販キレ ート剤を 用いて,Pb溶出濃度を基準以下とするのに
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要するキレー卜剤添 加量(必要量)の決定方法について検討を行い,キレート剤のみで処理す る 場合 (キ レー ト剤単独処理 )には,キレー卜剤必要量は集じん灰中のPbとCuの含有 量の和 と 比例 関係 を持 つこと等を明 らかにした。またpH調整剤とキレート剤を併用してPb溶 出を抑 制 する 場合 (pH調整 剤併 用処 理) には , 溶出液のpHを,Pb飽和溶解度が極小となる9前後と なるようにpH調整剤 を添加すればよいこと等を明らかにした。
第4章では,埋立処分後のキレー卜処理灰中重 金属の溶出挙動を検討するためにカラム実験 を70月 問行 った 。そ の結 果キ レー ト剤 単 独処 理灰 から はPbが再 可溶 化し,継続して 溶出す ることが確認された 。またキレー卜剤単独処理灰,pH調整剤併用処理灰ともに,酸性溶液を散 水 し て 流 出液 のpHを7以 下ま で低 下さ せた とこ ろ ,Pbは再 可溶 化す るこ とが 確認 され た。
第5章で は ,キ レー 卜剤 単独 処理 灰のPb再 可溶化要因を検討するために,含水率や 空気接 触条件を変えて養生後,バッチ溶出試験を行った。その結果,乾燥化,空気接触いずれにおしゝ て もPbは再 可溶 化することを 明らかにした。一方,水のみで混練した場合でも湿潤状 態を保 持 す る こ と に よ り ,Pb溶 出 濃 度 は 緩 や か だ が 次 第 に 低 下 す る こ と が わ か っ た 。 これらのことから ,キレート剤単独処理を行う場合は,適時,PbとCuの含有量を分析してキ レー卜剤添加量を定 めて処理することが必要である。あるいは,高アルカりでない灰の場合は pH調整剤とキレート 剤の併用も有効である。そして埋立処分後は,一定の水分を確保して速や かに土中埋設するこ と,および,埋立地内を酸性化させないことがPb溶出を抑制するために必 要である。
第2部(6〜8章 )で は, スラ グの 重金 属溶 出抑制機構の解明と溶出量評価を目的と して研 究を進めた。
第6章で は ,溶 融方 式や 被溶 融物 の異 なる スラグ試料28検体を収集し,金属含有量 分析,
SEM−EDX分析,溶出試験等を行い,溶融方式や被溶融物の違いによるスラグ性状(金属含有量,
溶出量)への影響に ついて検討を行い,高温還元雰囲気で溶融することにより低沸点重金属の 揮 散が 促進 され ること,Caは スラグの化学的強度を弱めるため,Ca含有量の多いスラ グでは Si溶出 量も 増加 すること等を 明らかにした。溶出試験では,Pbでスラグ利用目標基準 (環境 基準)を越える試料 が3検体確認された。
そこ で第7章で は, 溶出 試験 と同 じバ ッチ 条件において,重金属溶出挙動に対するpHや振 とう時間の影響について検討を行い,スラグ成分が水素イオンと反応して溶出する酸溶出域と,
加水分解によって溶出するアルカリ溶出域の二種類の溶出機構が存在することを明らかにした。
またバッチ条件下で は重金属濃度は次第に上昇するのではなく,飽和溶解度の影響や,水酸化 鉄沈殿生成に伴う共 沈により低下することを明らかにした。
第8章では,バッチ条件よりも実際状況に近い条件としてカラム実験を行い,散水間隔,散水 量および散水溶媒の種類の重金属溶出挙動への影響を検討した。その結果,散水の初期段階にお いて重金属はカラム残留水中で飽和溶解度に達する場合のあることが確認された。しかし散水を 繰り返すことにより重金属類は拡散溶出律速に移行して溶出速度は次第に低下し,溶出量は極め て小さく抑制されることを示した。このことからスラグの環境影響は十分低く,有効利用に際し ても問題となるレペ ルではないことを明らかにした。
第9章では本論文を総括した。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 田 中 信壽 副 査 教 授 古 市 徹 副 査 教 授 恒 川 昌美 副査 助教授 松藤敏彦
学 位 論 文 題 名
都市ごみ焼却残渣中の重金属溶出抑制処理に関する研究
都 市 ご み 焼 却 残 渣 中 の 重 金 属 類 に つ い て は ,1991年 に 集 じ ん 灰 中 重 金 属 溶 出 抑 制 の た め の 中 間 処 理 が 義 務 化 さ れ , そ の ー っ で あ る キ レ ー ト 剤 等 を 用 い る 薬 剤 処 理 が 主 に 実 施 さ れ て い る 。 ま た 、 ダ イ オ キ シ ン 類 の 分 解 を 兼 ね て 行 わ れ る 重 金 属 安 定 化 法 の ー っ で あ る 溶 融 固 化 法 も 、 最 近 行 わ れ つ っ あ り 、 こ の と き 新 ら た に 発 生 す る 集 じ ん 灰 や 脱 塩 素 処 理 後 の 集 じ ん 灰 に つ い て も キ レ ー 卜 処 理 等 を 行 う 必 要 が あ る 。
こ の よ う に , 都 市 ご み 焼 却 残 渣 の 最 終 的 な 処 理 後 埋 立 物 形 態 で あ る キ レ ー ト 処 理 灰 と 溶 融 に よ る 固 化 物 残 渣 で あ る ス ラ グ を 対 象 に , 雨 水 や 地 下 水 と の 接 触 を 想 定 し て 重 金 属 溶 出 挙 動 と そ れ に 関 与 す る 因 子 の 解 明 を 試 み , 重 金 属 溶 出 を 確 実 に 抑 制 し 環 境 汚 染 を 防 止 す る た め の 無 害 化 処 理 技 術 に つ い て 明 ら か に し て い る 。
本 論 文 の 成 果 を ま と め る と 以 下 に よ う に な る 。 論 文 は , キ レ ー 卜 処 理 灰 に 関 し て 研 究 を 行 っ た 第1部 (2〜5章 ) と , ス ラ グ に 関 し て 研 究 を 行 っ た 第2部 (6〜8章 ) か ら 成 る 。 第1章 で は , 研 究 背 景 と 研 究 の 目 的 を 述 べ て い る 。
第2章 で は , キ レ ー ト 剤 の 重 金 属 溶 出 抑 制 効 果 に 影 響 す る 集 じ ん 灰 性 状 に っ い て ,30 所 の 焼 却 施 設 よ り 経 時 的 に 試 料 を 採 取 し 、 重 金 属 含 有 量 と 溶 出 濃 度 を 測 定 し 、 そ の 時 間 変 動 特 性 等 に つ い て 明 ら か に し た 。
第3章 で は , キ レ ー 卜 剤 の み で 処 理 す る 場 合 ( キ レ ー ト 剤 単 独 処 理 ) に は , キ レ ー ト 剤 必 要 量 は 集 じ ん 灰 中 のPbとCuの 含 有 量 の 和 と 比 例 関 係 に あ る こ と 等 を 明 ら か に し た 。 ま た pH調 整 剤 と キ レ ー ト 剤 を 併 用 し てPb溶 出 を 抑 制 す る 場 合 に は , 溶 出 液 のpHを ,Pb飽 和 溶 解 度 が 最 小 と な る9前 後 と な る よ う にpH調 整 剤 を 添 加 す れ ば よ い こ と 等 を 明 ら か に し た 。 第4章 で は , 埋 立 処 分 後 の キ レ ー ト 処 理 灰 中 重 金 属 の 溶 出 挙 動 を 検 討 す る た め に カ ラ ム 実 験 を70月 間 行 い 、 キ レ ー ト 剤 単 独 処 理 灰 か ら はPbが 再 可 溶 化 し , 継 続 し て 溶 出 す る こ と を 確 認 し た 。
第5章 で は , キ レ ー ト 剤 単 独 処 理 灰 のPb再 可 溶 化 要 因 を 検 討 す る た め に , 含 水 率 や 空 気 接 触 条 件 を 変 え て 養 生 後 , バ ッ チ 溶 出 試 験 を 行 い 、 乾 燥 化 , 空 気 接 触 い ず れ に お い て もPb
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は再可溶化することを明らかにした。
これらのことから,キレート剤単独処理を行う場合は,適時,Pb とCu の含有量を分析し てキレート剤添加量を定めて処理することが必要であり、高アルカりでない灰の場合はpH 調整剤とキレート剤の併用も有効であること、埋立処分後は,一定の水分を確保して速や かに土中埋設すること,および,埋立地内を酸性化させないことがPb 溶出を抑制するため に重要であることを明らかにした。
第6 章では,溶融方式や被溶融物の異なるスラグ試料28 検体を収集し,金属含有量分析,
SEM
―EDX 分析,溶出試験等を行い,溶融方式や被溶融物の違いによるスラグ性状(金属含 有量,溶出量)への影響にっいて検討を行い,高温還元雰囲気で溶融することにより低沸 点重金属の揮散が促進されること,Ca はスラグの化学的強度を弱めるため,Ca 含有量の多 いスラグでは
Si溶出量も増加すること等を明らかにした。
第7 章では,溶出試験と同じバッチ条件において,重金属溶出挙動に対する
pHや振とう 時間の影響について検討を行い,スラグ成分が水素イオンと反応して溶出する酸溶出域と,
加水分解によって溶出するアルカリ溶出域の二種類の溶出機構が存在することを明らかに した。またバッチ条件下では重金属濃度は次第に上昇するのではなく,飽和溶解度の影響 や , 水 酸 化 鉄 沈 殿 生 成 に 伴 う 共 沈 に よ り 低 下 す る こ と を 明 ら か に し た 。
第8 章では,バッチ条件よりも実際状況に近い条件としてカラム実験を行い,散水間隔,
散水量および散水溶媒の種類の重金属溶出挙動への影響を検討し、散水の初期段階におい て重金属はカラム残留水中で飽和溶解度に達する場合のあることを確認した。しかし散水 を繰り返すことにより重金属類は拡散溶出律速に移行して溶出速度は次第に低下し,溶出 量は極めて小さく抑制されることを明らかにした。
このことから溶融スラグからの重金属溶出は十分低く,有効利用に際しても問題となる レベルではないことを明らかにした。
第9 章では本論文を総括している。
これを要するに、著者は、集塵灰や溶融スラグ中の重金属溶出に関する影響因子につい て基礎的な実験データを蓄積すると共に、残渣からの重金属溶出を抑制するためのキレー ト剤処理技術、溶融処理技術について具体的で有益な知見を示しており、廃棄物工学、環 境工学の進歩に寄与するところ大なるものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学〕の学位を授与される資格あるものと認める。
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